回転直動変換機構
【課題】ローラとロッドの噛み合いを良くし、組立てを容易にし、大荷重を扱える回転直動変換機構においてローラの伸びに伴うがたの発生を低減すること。
【解決手段】外周面にねじ部を有するロッド1と、ロッドの外周側に設けられてロッドに対して相対回転かつ相対軸移動に設けられたホルダ部材3と、ホルダ部材に回転可能に支持されてねじ部と噛合う環状溝を有しかつロッド軸に対してねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラ21と、を備えた回転直動変換機構であって、ローラ21を回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラスラスト軸受21e3と、ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラスラスト軸受21e4を設け、一方向ローラスラスト軸受と他方向ローラスラスト軸受は、ともにローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部21c1にのみ配置される。
【解決手段】外周面にねじ部を有するロッド1と、ロッドの外周側に設けられてロッドに対して相対回転かつ相対軸移動に設けられたホルダ部材3と、ホルダ部材に回転可能に支持されてねじ部と噛合う環状溝を有しかつロッド軸に対してねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラ21と、を備えた回転直動変換機構であって、ローラ21を回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラスラスト軸受21e3と、ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラスラスト軸受21e4を設け、一方向ローラスラスト軸受と他方向ローラスラスト軸受は、ともにローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部21c1にのみ配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動と直線運動の間で運動方向を変換することにより回転トルクと推力を変換する回転直動変換機構に係り、特に、がたが小さく、常時噛合い状態を良好に保つとともに、組立て性が良好で大荷重を扱うことが可能な回転直動変換機構に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸とこの回転軸に転がり接触する弾性ローラとからなる往復直線運動機構において、弾性ローラの弾性変形によって回転軸との間における接触弧の長さを長くすることによって、小さな面圧で大きなスラスト力を得る構成が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
引用文献1に示す機構は、円柱形状のロッドとその周囲にねじって配置した円柱形状の弾性体ローラと、そのローラを回転フリーに軸支するホルダから構成されており、ロッドを回転させてホルダが直動するものである。このように、引用文献1に示す機構は、ロッドとローラ間の力の伝達をねじと環状溝の噛み合いではなくて両者間の摩擦とするものであるが、構成や動作については、概略的に云えば本発明の機構と類似している。
【特許文献1】特開平6−174041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示す従来技術では、ローラのホルダへのスラスト荷重を受けるスラスト軸受は、ローラの両端に設ける構成である。このため、スラスト荷重の向きによって、一方向または他方向からの荷重を受けるスラスト軸受の位置がローラの長さ程度だけ移動することになる。この結果、荷重を受けない側のスラスト軸受は両スラスト軸受の間のローラの伸び(ローラの長さに相当するローラの伸び量)によって、スラスト軸受の内部に軸方向の隙間が生じ、急激な反転力の作用によって、ロッドの動作にがたが生じるという課題を生じた。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、ローラの伸びに伴うがたの発生を低減できる直動変換機構を提供することにある。さらに、ローラとロッドの噛み合い状態を良好にするとともに、装置の組立てを容易にし、さらに、大荷重を扱うことを可能にする回転直動変換機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられて前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、
前記ローラを回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラスラスト軸受と、前記ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラスラスト軸受を設け、前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受は、ともに前記ローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部にのみ配置される構成とする。
【0007】
また、前記回転直動変換機構において、前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受の間で前記ローラに沿って、両ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪と一体的に動作するローララジアル軸受を介在させ、前記ローララジアル軸受の外輪に前記ホルダ部材へのローラ取付ねじを設け、前記ホルダ部材に組み込まれた前記ローラが前記ロッドに噛み合わされた状態で前記ローラ取付ねじを調整することにより、前記ローラの軸方向位置を変更し固定する構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ローラの伸びに伴うがたの発生を低減できるため、制御性が向上するという効果がある。また、力の伝達を行うローラとラックの噛合い状態を良好にし、信頼性向上とともに、噛合い部の損失を低減できるため、装置の信頼性向上とともに効率を向上する効果がある。また、組立て性を向上して、量産時のコスト低減や性能ばらつきが抑制する効果がある。また、大推力が発生可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る回転直動変換機構を自動車のラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用した構成例について以下詳細に説明する。本発明の第一の実施形態の構成例として、ロッド側が回転しないタイプを提示して、この構成例について図1乃至図7、図15、図16を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る回転直動変換機構を適用した電動パワーステアリング装置におけるラックアシスト機構の縦断面図であり、図2は、図1の視点を90度回転した時(図1の上部から見下ろした場合)の縦断面図であり、手前側に来るローラも描いた図である。また、図3は全てのローラの側面図であり、図4はローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図であり、図5は図4に示すサブアセンブリの横断面図である。
【0011】
そして、図6は、右側ローラ軸受部の拡大断面図であって図1に示すM部である。ここで、図4にもM部を示すが、図1の場合と断面が異なっている。しかし、軸受部及びローラはローラ軸を回転軸とする回転体であることと、ローラ軸に対するこれら二断面の交差角が概略等しいことから、軸受部の断面は概略等しい形状となる(逆に、ホルダ部の断面は異なる)。よって、図4は、実質的に図6(図1のM部)で説明可能であるため、図1と同一断面のM部を示す新たな図は省略する。図7は、左側ローラ軸受部の拡大断面図であって図1に示すN部である。これもM部と同様に、図4のN部の説明図とする。ここで、図6と図7は、ローラ21の拡大図であるが、その他のローラ22,23における軸受部も同様であるため、それらの図示や説明は省略する。
【0012】
図15は、本実施形態が適用されたラックアシスト機構の電動パワーステアリング装置における配置を示す図であり、図16は、本実施形態に係る回転直動変換動作を説明する図である。
【0013】
最初に、本実施形態に係る回転直動変換機構の構成を説明する。まず、図4と図5に示すローラ21,22,23とホルダ3とからなるサブアセンブリを説明する。図3から分かるように、これらのローラの右ローラ端部21c1〜23c1は、左ローラ端部21c2〜23c2に比較して長い。ローラの左右端部の長さが異なるのは、ローラ21の場合を代表とする図7に示す如く、左ローラ端部にはラジアル軸受(以後、左ローララジアル軸受21f2と称する)のみ設置するのに対して、右ローラ端部は、図6で示す如くラジアル軸受(以後、右ローララジアル軸受21f1と称する)とともに、それを挟持するように、その両側に左右両向きのスラスト荷重を各々受ける二個のローラスラスト軸受(以後、右ローラスラスト軸受21e3と左ローラスラスト軸受21e4と称する)を配置するためである。ローラスラスト軸受21eをスラストロックナット21jで固定した後、右ローララジアル軸受21f1の外周に設けたねじ(以後、ローラ取り付けねじ21mと称する)で右ホルダ端板3cに配置する。
【0014】
このように、左右両方向のスラスト荷重を受けるスラスト軸受をローラ環状溝設置部の片方(本実施形態では右側)のローラ端部に配置したため、両スラスト軸受をローラ環状溝設置部の両側に設ける場合よりも両スラスト軸受の間隔を短縮することが可能となる。引いては、両スラスト軸受の間でのローラの伸び量が小さくなる。
【0015】
ここで、ローラ21に左から右へ向かうスラスト荷重(スラスト荷重は、ローラの環状溝とロッドのねじ部との噛み合い態様によって生じる荷重であり、左方向と右方向の荷重が生じる)がかかる場合を考える。この時には左ローラスラスト軸受21e4がその荷重を受けるため、右ローラ端部21c1には、負荷はかからず、伸縮変形は無い。このため、もう一方の右ローラスラスト軸受21e3は、スラストロックナット21jによる予圧がかかった状態を保持する。
【0016】
次に、ローラ21に右から左へ向かうスラスト荷重がかかる場合を考える。この時には右ローラスラスト軸受21e3がその荷重を受けるため、右ローラ端部21c1に引っ張り荷重がかかり、伸びが生じる。このため、左ローラスラスト軸受21e4は、スラストロックナット21jによる予圧が低下し、荷重が大きい場合には軌道輪と転動体の間に軸方向隙間が発生することになる。この隙間の発生した状態(右から左へ向かうスラスト荷重がかかった状態)から衝撃的な反転荷重(左から右へ向かうスラスト荷重)がかかった場合、右ローラ端部21c1の伸びが解消される前に(軌道輪と転動体の間に隙間がある状態で)、ローラが衝撃的に左から右に動き、左ローラスラスト軸受21e4が力を受ける状態に移る。
【0017】
ロッドはローラと噛合っているため、反転荷重の際には、ロッドが衝撃荷重の向きに衝撃的に動くことを意味している。すなわち、ロッドの動きにがたが発生してしまうことになる。また、本実施形態では、ローラスラスト軸受がころがり軸受であるため、この隙間によって、軌道輪から転動体が脱落する可能性が生じる。この脱落が起ると、軸受本来の機能が損なわれるため、効率の高い回転直動変換機構の動作が不能になり、かつ急激な転動面の損傷で、短時間に破壊に到る危険性が生じる。
【0018】
以上の如く多岐に渡る不具合の原因となりうるスラスト軸受内の隙間を抑制する対策として、スラスト軸受の予圧増大が挙げられる(例えば、スラストロックナット21jによる締め上げを強める)。しかし、過度な予圧の増大は、スラスト軸受の軸受係数を増大させ、回転直動変換機構の効率の低下という弊害を生じる。
【0019】
そこで、本実施形態の如く、ローラにおける環状溝設置部の片方の端部に、両方向に対応したスラスト軸受を設けることにより、ローラ環状溝設置部の長さに依存せず両ローラスラスト軸受の軸方向間隔を短縮できるため、同じスラスト荷重でも右ローラ端部21c1の伸びが低減でき、スラスト軸受の予圧を適度なレベルに保ちつつ、スラスト軸受内の軸方向隙間を抑制することが可能となる。このように、効率の高い動作を維持しつつ、ロッドのがたを抑制できるという効果がある。
【0020】
本実施形態では、ローラスラスト軸受は転動体がボールである玉軸受としているが、ころやニードルを転動体とする線接触タイプの転がり軸受でもよい。これにより、大幅な大容量化が可能になる。さらに、転動体を無くして対向する面と両面間に注入する油等の潤滑剤からなるすべり軸受とすればより一層の大容量化が実現できる。
【0021】
また、右ホルダ端板3cの右側には、パイプ部3xが延在し、パイプ部3xにモータ5の構成要素であるロータ5aが、あらかじめ固定配置されている。次に、ローラ左端部21c2〜23c2を、ホルダ部材の中心軸に対して傾斜し、左ホルダ端板3bを貫通するローラ挿入穴3yへ通し、その後、左ローララジアル軸受21f2〜23f2を嵌合する。
【0022】
この構成と組立て手順により、ローラ挿入穴3yへローラ左端部を通すとき(右ホルダ端板3cに対して異なる方向に傾斜して立設された複数のローラを、左ホルダ端板3bに組み込むとき)は、左ローララジアル軸受の概略内径の円筒(ローラ左端部21c2)を左ローララジアル軸受の概略外径の穴へ通すことになる。この結果、これら両者の大きな径差によって、穴通しが可能となり、本実施形態の組立てが容易になるという効果がある。また、このような手順を用いない場合は、各ローラをホルダ端板の外周側から挿入する手段が考えられる。この場合には、挿入路として必須の外周と連なる溝を塞ぐ手段が必要となる。本実施形態の如く、ホルダ部材が回転するタイプであると、ローラに働く遠心力に対抗しなければならず、上記溝を塞ぐ手段には一層堅牢な構成を要する。
【0023】
その後、ラジアルロックナット21k〜23kで軸受内輪を固定すると同時に、左ローララジアル軸受21f2に予圧をかけるために、摺動性の高い予圧リングばね21k1〜23k1を介して軸受外輪を弾性支持する。ここで、予圧リングばね21k1に摺動性を持たせたのは、外輪との間の相対速度による摩擦損失を低減するためである。このようにしてローラの両端を軸支したホルダ端板3b、3cを、ホルダ連結部3dで連結しホルダ部材3を形成する。ここで、本実施形態のホルダ連結部3dは、左ホルダ端板3bと一体化しているため、剛性が高く、軽量化を実現できるという効果がある。
【0024】
また、ホルダ連結部3dと右ホルダ端板3cはホルダ連結ねじ3gで締結する。これにより、ローラの中心軸(以後、ローラ軸と称する)21d、22d、23dが、ロッドの中心軸(以後、ロッド軸と称する)1dに対してロッドねじ山1aのリード角以上の軸角をもってねじり配置される。このようにして、ローラとホルダ部材のサブアセンブリを製作する。ここで、サブアセンブリのローラ軸受(主としてスラスト軸受)は、全て、その最外径がローラ環状溝の底の径以上となっている(ローラの環状溝の底部よりもスラスト軸受の最外径の方がローラ軸から見て出っ張っている)。これが可能な理由は、ローラ軸がロッド軸に対してねじって配置されるため、軸受の設置箇所がローラとロッドの両軸の最接近点(図2に示すA点)から離れているので、軸受の最外径部とロッドの山部とが当接しないためであり、一層大きな径の軸受設置が可能となる。外径の大きな軸受は負荷容量が増大するため、装置が扱う力を増大できるという効果がある。
【0025】
このようなアセンブリを本実施形態に係る回転直動変換機構として用いた場合には、発生する推力が増大することになる。もちろん、軸受の径をローラ環状溝底の径より小さくしても、装置の動作になんら支障はない。
【0026】
図3に表わされている如く、各ローラに設けた環状溝は、軸方向にその配置位置をずらしながら設ける。本実施形態は、ローラをロッド1の周囲に等角度間隔で配するため、ローラ22の環状溝22bはローラ21の環状溝21bよりもP/2だけ右側にずらし、ローラ23の環状溝23bは環状溝21bよりもPだけ右側にずらす。これら環状溝の機構組立て時の軸方向位置は、この各ローラのずらし量とともに、ローラスラスト軸受の厚さやローララジアル軸受の長さやそのスラスト軸受を固定するホルダ部材の取り付け箇所軸方向位置等により決まる。このため、関連するこれらの寸法や位置の高精度化でローラ環状溝の機構組立て時の軸方向位置精度確保に対処することは誤差の重なりのため極めて困難となる。
【0027】
そこで、本実施形態は、ローラとホルダの取り付け箇所をローラ取り付けねじ21m〜23mとし、このねじを設けた右ローララジアル軸受の外輪をまわすことによりローラの軸方向位置を調整可能なローラスライド機構としている。この結果、複数のローラとロッドの噛合い状態を良好にできるという効果がある。この調整は、後述するように、ロッド1をこのサブアセンブリにねじ込んだ状態で行う。調整後は、リング形状からロッド側を切り欠いたC形状のローラロック部材21n〜23nをかしめて、ローラの軸方向位置を固定する。また、このローラロック部材21nを用いないで、ローラ取り付けねじ21m〜23mに接着材を流し込んで固定しても良い。この結果、上述した極めて困難な寸法管理が不要となり、製作コストの大幅な低減を可能にするという特有の効果がある。なお、右ローララジアル軸受21f1の外輪に設けた取付ねじ21mに対応してホルダ部材にもねじを切ってある。また、ローラ取り付けねじを廃して、隙間の極めて小さい隙間ばめとして、ローラスライド機構とし、接着やかしめで固定してもよい。
【0028】
また、ローラロック部材21nをC形状としたのは、ローラスラスト軸受の外径をロッド1のねじ山外径に近いところまで拡大し、軸受負荷容量の最大化とともに、軸受軌道輪からスラスト荷重作用線がはずれる距離をできるだけ小さくするためである。後者は、スラスト荷重反力とスラスト荷重による発生トルクを最小化し、それを打ち消すために軸受各部に生じる荷重の集中や新たに生じる荷重を抑制するためである。
【0029】
また、左ローララジアル軸受21f2〜23f2を左ホルダ端板3bに固定しない構成としたため、ローラ軸方向に移動可能となり、ホルダ部材への固定部である中央軌道輪(ローラ取付ねじ21が設けられた外輪)をローラ軸方向へ移動しても(中央軌道輪を回すことによって)左ローララジアル軸受の予圧は影響されない。これにより、ローラの軸方向位置の調整を右ホルダ端板3c側だけで行うことが可能となり、組み立てが容易になるという効果がある。
【0030】
次に、このローラ21,22,23とホルダ部材3のサブアセンブリ(図4、図5参照)の左ホルダ端板3bに左ホルダラジアル軸受3f2と左ホルダスラスト軸受3e2を装着した上で、それらを、左ケーシング6aへ挿入する。この時、左板ばね3pで左ホルダラジアル軸受3f2に予圧をかける。その後、予圧をかけるための右板ばね3qを装着したうえで右ホルダラジアル軸受3f1を右ホルダ端板3cと左ケーシング6a間に挿入する。さらに、右ホルダスラスト軸受3e1を軸受押さえ4のかしめまたは接着により左ケーシング6aに装着する。この時、ホルダ部材3が最もスムーズに回転する位置で軸受押さえ4を固定する。これにより、ローラとホルダ部材のサブアセンブリは、左ケーシング6aに対して、回転可能な状態で固定される。
【0031】
ここで、左ケーシング6aの狭窄部に左ラックロッドレール9aが固定配置されている。この内径は、ロッド1の外径に対してわずかに大きく設定され、その中心軸は、ホルダラジアル軸受を装着する内径と高精度で同軸度が設定されている。もちろん、この左ラックロッドレール9aは、左ケーシング6aの狭窄部そのものであってもかまわない。
【0032】
次に、このローラとホルダ部材3と左ケーシングのサブアセンブリに、ロッド1をねじ込む。この時、ホルダ部材3の回転を固定してロッド1を回転させてもよいし、逆に、ロッド1の回転を固定してホルダ部材3を回転させてもよい。これにより、ロッドねじ山1aとローラ環状溝21b〜23bが噛合う。この時、ローラの軸方向位置が未調整であるため、噛み合い箇所で干渉が起こる可能性がある。
【0033】
この対策として、ホルダ部材3とローラ21〜23のサブアセンブリ形状を不確定にしておくことや、これ以前に粗い位置調整をしておくことが考えられる。前者の具体的な方法としては、ホルダ連結ねじ3gやスラストロックナット21j〜23jを緩める方法がある。一方、後者の具体的な方法としては、ロッド1をねじ込む前に、ロッドねじと同様のリードでありながら、ねじ山の幅が正規の寸法よりも小さいダミーのロッドをねじ込むことが可能となるように、ローラの軸方向位置を概略調整することが挙げられる。そして、各々のローラの中央軌道輪をホルダ部材3に対してまわすことによりローラ取り付けねじでローラの軸方向位置を調整する。
【0034】
次に、その具体的な調整手順を述べる。(1)ホルダ部材3の回転を拘束する。(2)トルクを検知しながらロッド1を回転させつつ、そのトルクが最小になるように一本のローラの中央軌道輪をホルダ部材3に対してまわし、ローラ取り付けねじでローラの軸方向位置を調整する。(3)他のローラも同様に軸方向位置の調整を行う。(4)ロッドに一方向で一定の推力を与え、上記(2)(3)を再度行う。
【0035】
続いて、(5)(4)と逆方向の推力をロッド1に加えて、同様にロッド1を回し、回転に要するトルクが(4)時と同程度に小さいことを確認する。もしも、大きい場合には、(4)からやり直す。(6)ローラロック部材21n〜23nで各ローラの軸方向の位置固定を行う。
【0036】
上述した手順では、全ローラの位置調整を行ったが、最後の一本は行わなくても良く、原理的には調整は可能であるため、組立て工程を短縮できコスト低減が可能になるという効果がある。また、(4)は行わなくてもある程度の調整は可能であるため、同様に組立て工程を短縮できコスト低減が可能になるという効果がある。一方、この調整に先立って、ホルダ部材3とローラ21〜23のサブアセンブリ形状を不確定にしていた場合には、(4)の段階に移る前に、そのサブアセンブリ形状の不確定さを解消すべく、ホルダ連結ねじ3gやスラストロックナット21j〜23jを締める。以上の如く詳細に説明したローラの位置調整を容易にする方法として、ロッドねじ山やローラ環状山をたわみ易いようにしローラの位置の適正範囲を拡大することが挙げられる。この具体案としては、ねじ山や環状山の頂上に割れ目を入れたり、その割れ目にゴムや波板ばね等の弾性体を挿入することが挙げられる。
【0037】
次に、ステータ5bが圧入又は焼き嵌めされている右ケーシング6bを、これまでのアセンブリに右側から被せ、両ケーシング6a,6bをねじ止め等により接続する。これにより、ステータ5bとロータ5aが対向してモータ5が形成される。左ケーシング6aにおける左ラックロッドレール9aと同様に、右ケーシング6bの端部付近に、右ロッドレール9bを設ける。これは、その内径がロッド1の外径よりもわずかに大きい寸法とし、その面仕上げはロッド1がこすれても損傷しない程度のレベルに加工されている。
【0038】
ここで、以上の組み立てに際しては、適宜、グリースが構成部品間に流し込まれる。ところで、回転直動変換動作を起こすためには、直動部であるロッド1の回転を防止して直動のみ許す直動対偶が必要である。本実施形態では、図15のピニオン103とロッド1に設けたピニオン103と噛み合うラックがその役目を果たす。これが無いようなシステムの場合、例えばステアバイワイヤシステムなどでは、ボールスプラインのような直動対偶を別途備える必要がある。今回のようなステアリング機構の場合、ボールを省略してすべり対偶としても直動部の速度は小さいため、効率低下は小さい。よって、コスト重視の場合は、スプライン継ぎ手のような単純な構造としても差し支えない。このことは、ステアリング機構以外での適用において、直動部における要求速度が小さい場合、一般的に当てはまる。
【0039】
次に、本実施形態の動作について、図16を用いて動作を説明する。図16は、動作原理を説明するため、ロッド1の外周面を展開して示した図である。今、モータが、図16において、上から下へ回転する場合に限定して考える。ホルダ部材がロッド軸を中心に回転し、これに保持されている3本のローラもモータと同一回転を行う。よって、図16では、ローラは上(A位置)から下(B位置)へ垂直に移動する。図16の太線は、ローラがA位置にある場合の右ロッドねじ山フランクを示す。そして、このA位置から、ローラがδラジアン(rad)だけ公転してロッドの円周上をδ・(ラック軸半径)だけ動いてB位置に到達した場合を考える。
【0040】
このとき、右ローラ環状溝面の位置は、ロッド軸方向には移動せず、展開図上では上下方向にのみ移動する。よって、ロッドが軸方向(展開図上では左右方向)に、δ・(ロッド軸半径)・tan(ロッドねじリード角)だけ動いた場合、右ロッドねじ山フランクが左に動いて破線の位置となり、ローラ環状溝とロッドねじ山の噛み合いを保つ。このようにして回転直動変換が生じる。
【0041】
また、モータの1回転あたりのラック移動量M(以後、機構ピッチと呼称する)は、δを2πとして、 M=2π・(ロッド軸半径)・tan(ロッドねじリード角) となる。この式から明らかなように、ロッドねじリード角を小さくすることにより、減速割合を増大できることが分かる。また、噛み合い箇所は、ローラ側の環状溝面とロッド側のねじ山フランクであり、曲率の小さい面同士の噛み合いとなる。よって、噛み合い時の弾性変形によって広範囲で接触が起きるため、発生する応力の最大値(ヘルツ応力)が抑制される。このために、噛み合い一箇所あたりの負荷荷重が増大し、コンパクトながら、大きな推力が発生可能になるという効果がある。
【0042】
また、噛み合い箇所では、相対すべりが無くなる向き、すなわち一体で動く向きに摩擦力が働く。この摩擦力によって、ローラは、そのローラ環状溝がロッドねじ山というレール上を転がるように自転を起こす。ここで重要なことは、ローラが自転しても噛み合い箇所においてローラ溝が軸方向に移動しないということである。これは、ローラ溝がねじではなく環状溝であることから実現している。このように、ローラは全噛み合い箇所での摩擦の和が低減するように自ら自転速度を制御するため、損失が小さく高効率になるという効果がある。また、市販のスラスト軸受やラジアル軸受を用いることが可能となり、コスト低減の効果がある。
【0043】
次に、本発明の第二の実施形態に係る回転直動変換機構を図8に基づいて説明する。図8は、図1または図4の右ローラ端部(M部)の拡大断面図を示したもの(ローラ21を代表としたものであり、その他のローラ22,23も同様)である。ローラの左スラスト荷重を受ける軸受及び右スラスト荷重を受ける軸受は、ホルダ部材に固定される側であるホルダ固定側軌道輪を中央側軌道輪21e0として一体化し、その右側に配されてローラとともに回転する回転側右軌道輪21e1、さらに、左側の回転側左軌道輪21e2からなる構成とする(第一の実施形態を示す図6の構成と図8の構成を対比すると両者の差異は明らかになる)。中央側軌道輪の外周にローラ取り付けねじ21m、内周に右側ローララジアル軸受21f1を設ける以外は、既に説明した第一の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。
【0044】
第二の実施形態は、ホルダ部材に固定される側であるスラスト軸受の軌道輪を背中合わせとする極限とみなすことができる。よって、両ローラスラスト軸受の軸方向における設置間隔が極めて小さくなるため、衝撃的な反転荷重時のがた発生をより一層抑制できるという効果がある。また、第二の実施形態は、この中央側軌道輪にニードルタイプの右側ローララジアル軸受も設けているため、ローラ右端部を軸支する軸受群がコンパクトにまとまり、機構の小形化が図れるという効果もある。
【0045】
次に、本発明の第三の実施形態に係る回転直動変換機構を図9に基づいて説明する。図9は、図1または図4のローラ21における左ローラ端部(N部)の拡大断面図を示したもの(ローラ21を代表としたものであり、その他のローラ22,23も同様)で、左ローララジアル軸受がニードルまたはころ軸受となる以外は、既に説明した第一または第二の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。図9の図示構造により、軸受に予圧は不要となり、ラジアルロックナット21kでばねを外輪に押付ける必要が無くなり、そこで発生していた摩擦損失を回避できるため、性能が向上するという効果がある。
【0046】
また、この外輪を左ホルダ端板3bに接着等で固定しても、外輪ところ(ニードル)間または内輪ところ(ニードル)間で軸方向に相対移動が可能となるため、ローラの軸方向位置決めをローラの右端部のローラ取付けねじ21mで行っても不具合は生じない。この結果、左ローララジアル軸受21f2の姿勢が安定化して、ローラの姿勢も安定するため、例えば、装置の動作方向が急激に反転しても、軸受姿勢がローラ挿入穴3y内でこじることもなく、ローラの良好な回転を常時維持できるという効果がある。接着ではなく、ローラ挿入穴内面の凸部やロック部材によって外輪を固定しても同様の効果がある。
【0047】
次に、本発明の第四の実施形態に係る回転直動変換機構を図10に基づいて説明する。図10は、図1または図4のローラ21における右ローラ端部(M部)の拡大断面図を示したもの(ローラ21を代表としたものであり、その他のローラ22,23も同様)で、中央及び左右の軌道輪21e5,21e6,21e7がころに対応した形状として、テーパころ軸受を設置し、専用のラジアル軸受を廃した以外は、第一の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。ローラスラスト軸受が線接触を基本としたころ軸受となるため、各部の寸法を変えることなく(特に外径を拡大することなく)、その容量を大幅に増大できることから、装置の大容量化を可能にする効果がある。
【0048】
特に、図10に図示した構成例を回転直動変換機構として用いる場合、大推力化を可能とする効果がある。また、テーパ軸受としているために、ラジアル荷重を受けるための専用の右ローララジアル軸受が不要となり、構成が単純となって、小型化が可能になるという効果もある。さらに、調芯性を付加することも可能で、この場合、ローラ取付けねじ21mやローラ挿入穴3y(図7、図9参照)の軸方向精度の悪化による不具合を緩和する効果がある。
【0049】
次に、本発明の第五の実施形態に係る回転直動変換機構を図2、図3、図11、図12及び図13に基づいて説明する。図2は、本発明の第五の実施形態が適用された電動パワーステアリング装置のラックアシスト機構の縦断面図であり、手前に来るローラも描いてある。図3は全ローラの側面図である。また、図11はローラとホルダ連結部材が一体化したローラホルダ連結アセンブリの縦断面図であり、図12はローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図であり、図13は同じサブアセンブリの横断面図である。公転ローラとホルダ部材の構成が異なる以外は、第一乃至第四の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。ここで、ローラは21〜23の3本設置するが、それらの構成は同様であるため、ローラ21を代表として以後説明を行う。
【0050】
本発明の第一乃至第四の実施形態では、ローラが中実体であったのに対して、第五の実施形態では、図11に図示するように、ローラ21を、それらの中心軸部に貫通穴の開いた中空体とし、その穴に、ホルダ部材に固定配置する軸(図11の例でホルダ連結部3mと兼用)を挿入する。ローラはホルダ部材に対して回転可能に軸支される必要があるため、この軸とローラの間に軸受が配置される。この軸は、ホルダ部材3の両端板3b,3cを連結するホルダ連結部を兼ねるものであり(以後、ローラ内蔵ホルダ連結部3mと称する)、この実施形態組立て時には、ローラ21とローラ内蔵ホルダ連結部3mとそれらに関連するローラ軸受を一体化したローラホルダ連結アセンブリ210を、一構成部品として扱うことが可能になる。これにより、調整が必要で時間を要するローラ軸受部の組立て工程を、本体の組立て工程と並列して組むことが可能となるため、組立て時間短縮等の組立て性向上という効果がある。
【0051】
第5の実施形態において、ローラの右側には、右ローララジアル軸受21f1とともに、両方向のスラスト荷重を受けるべく、スラスト軸受を配置する。このスラスト軸受は、ローラとともに回転する回転側左軌道輪21e2、回転側右軌道輪21e1と、ローラ内蔵ホルダ連結部3mに固定する固定側中央軌道輪21e0と、それらに適度な予圧を加えるスラストロックナット21jとから成る。これにより、ローラ内蔵ホルダ連結部3mは、ローラスラスト軸受のホルダ固定側軌道輪と一体化した部材となる。
【0052】
また、回転側左軌道輪21e2は、右ローララジアル軸受21f1の外輪と一体化し、コンパクトな構成となっており、小型化に寄与する。一方、ローラの左側には、左ローララジアル軸受21f2を配置し、ラジアルロックナット21kでその外輪をローラに固定する。上記スラスト軸受21e,21jは、ローラの環状溝設置部の両側ではなく片側に設けるため、これまでの実施形態と同様、ローラ環状溝設置部の長さに依存せず両ローラスラスト軸受の軸方向間隔を短縮できるため、スラスト軸受の予圧を適度なレベルに保ちつつ、スラスト軸受内の軸方向隙間を抑制することが可能となる。これにより、効率の高い動作を維持しつつ、ロッドのがたを抑制できるという効果がある。
【0053】
以上のようにして組立てたローラホルダ連結アセンブリ210,220,230を、右ホルダ端板3cへねじ込む(図12参照)。次に、各ローラアセンブリの左端部を左ホルダ端板3bのローラ挿入穴3yに挿入した後、ローラ端板連結部材21s〜23s(22s、23sは図示せず)を挿入し、ローラ内蔵ホルダ連結部3mにねじ込んで固定する。この方法によって、第1乃至第四の実施形態における左ローララジアル軸受の挿入と同様、複数のねじれた軸をホルダ端板に固定することが可能となる。
【0054】
この状態で、ロッド1をねじ込み、ローラスラスト軸受のホルダ固定側軌道輪と一体化したローラ内蔵ホルダ連結部3mを回転させてローラの軸方向位置を調整し、ローラとロッドの噛合い状態を調整する。詳細な手順は、前記した実施形態と同様である。この後、ローラロックナット21rでローラホルダ連結アセンブリ210〜230と右ホルダ端板3cを固定する。さらにその後、ローラ挿入穴3yとローラ端板連結部材の外径を接着する。また、ねじ固定可能な構成としてももちろん良い。以上のようにしてローラホルダアセンブリを形成する。この結果、これらローラ軸は、両ホルダ端板3b、3cを連結するホルダ連結部の役割を兼ねることになるため、ローラ内蔵ホルダ連結部3fと呼称する。本実施形態ではそれ以外のホルダ連結部を廃したため、少なくともその分の慣性モーメントが低減できる。
【0055】
以上のことより、指令に対する応答性が一層向上し、制御性が向上するという効果がある。ところで、ローラの内部を貫通する穴を開けると、ローラ部の強度低下が懸念される。しかし、ローラ部の肉厚がある程度以上あれば、最も荷重の集中するローラ溝底の荷重がほとんど増大しなくなり、ローラの強度低下は無視できる。本実施形態では、ホルダ連結部として強度的に必要最小径を有するローラ内蔵ホルダ連結部3mを用いたために、ローラ部の肉厚を大きく設定でき、ローラ強度を確保できるという特有の効果がある。要するに、本実施形態は、強度向上に貢献せず無駄な部分であるローラの中心部を除去し、回転直動変換機構にとって必須のホルダ連結部をその穴に通して、慣性モーメントを低減したものである。ここで、本実施形態では、ローラ内臓ホルダ連結部3m以外にホルダ連結部を設けなかったため、ローラ同士の間隔が空く。このため、ローラの設置加工本数を増大することが可能となり、一層の大推力化が可能となる効果もある。
【0056】
また、図14は本発明の第六の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)を示す。図14に示すような、高さと直径がほぼ同一のころを転動体とし、転動面を回転軸に対して45度の角度とするスライダーころ軸受21e9(22e9、23e9は図示せず)を、図6、図8、図10の軸受群の代わりに設けてもよい。ここで、設置するころ転動体は、その軸方向を交互に変えて両方向のスラスト荷重とラジアル軸受を受けることが可能なものである。この結果、線接触で荷重を受けるために、大荷重対応となる上に、一個の軸受で全方向の荷重を受けることが可能となり、軸方向の必要寸法の短縮とともに、部品点数低減によるコスト低減という効果がある。
【0057】
以上説明した本発明の第一乃至第六の実施形態では、何れもローラ21〜23の径がロッド1の径と概略同じにしているが、本発明の実施形態としては、強度が許す限り、ローラの径をロッドの径よりも小さくすることができる。そして、ローラ径を小さくする場合は、ローラの本数を更に多くすることができ、これにより、より一層大きなラック推力が要求される場合にも対応することができる。また、逆に、ローラをロッドより太くすることも可能である。この場合には、噛合い箇所における弾性変形も考慮した噛合い領域において、ローラとロッドの噛合い後の噛合い点軌跡のずれが小さくなるため、発生するすべりが小さくなり、噛合い箇所での摩擦損失を低減できるという効果がある。
【0058】
また、ロッドの軸方向の剛性と、全ローラの軸方向の剛性(設置した各ローラの軸方向剛性の和)が概略一致するように、両者の素材のヤング率や両者の断面形状やローラ本数を決定しても良い。これにより、ロッドとローラの伸び量が各部で概略一致するため、噛合い箇所における負荷はほぼ均等になるため、噛合い部の信頼性が向上するとともに、全体の変形量(ロッドの伸びまたは縮み量)が小さくなるため、直動量に対する回転量がほぼ一対一に対応することになり、装置の操作性が向上するという効果がある。
【0059】
以上説明したように、本発明の実施形態は、次のような構成と機能乃至作用を奏することを主たる特徴とするものである。すなわち、外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられ、前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持され、外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、ローラを回転可能に支持するローラ軸受でその軸方向で両方の向きのスラスト荷重を受ける各ローラスラスト軸受を、両者ともに、ローラ環状溝設置部の片側に配置する構成であり、また、この構成によって、がたを抑制することによる制御性の向上や、信頼性及び効率の向上、また、大推力の発生が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る回転直動変換機構を適用した電動パワーステアリング装置におけるラックアシスト機構の縦断面図である。
【図2】図1の視点を90度回転した時(図1の上部から見下ろした場合)の縦断面図であり、手前側に来るローラも描いた図である。
【図3】本実施形態における全てのローラの側面図である。
【図4】第一の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図(一部が断面図であり、図5のB1−B2−B3−B4)である。
【図5】第一の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの横断面図(図4のA−A)である。
【図6】第一の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図7】第一の実施形態における左側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すN部)である。
【図8】本発明の第二の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図9】本発明の第三の実施形態における左側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すN部)である。
【図10】本発明の第四の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図11】本発明の第五の実施形態におけるローラとホルダ連結部材が一体化したローラホルダ連結アセンブリの縦断面図である。
【図12】第五の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図(一部が断面図であり、図13のB−B)である。
【図13】第五の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの横断面図(図12のA−A)である。
【図14】本発明の第六の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図15】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構が適用されたラックアシスト機構の電動パワーステアリング装置における配置を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1:ロッド
1a:ロッドねじ山
1d:ロッド軸
21,22,23:ローラ
21b,22b,23b:ローラ溝(環状溝)
21d,22d,23d:ローラ軸
21e0,22e0,23e0:固定側中央軌道輪
21e1,22e1,23e1:回転側右軌道輪
21e2,22e2,23e2:回転側左軌道輪
21e3,22e3,23e3:右ローラスラスト軸受
21e4,22e4,23e4:左ローラスラスト軸受
21e5,22e5,23e5:固定側中央ころ軌道輪
21e6,22e6,23e6:回転側右ころ軌道輪
21e7,22e7,23e7:回転側左ころ軌道輪
21e9,22e9,23e9:スライダーころ軸受
21f1,22f1,23f1:右ローララジアル軸受
21f2,22f2,23f2:左ローララジアル軸受
21m,22m,23m:ローラ取り付けねじ
3:ホルダ部材
3e1:右ホルダスラスト軸受
3e2:左ホルダスラスト軸受
3f1:右ホルダラジアル軸受
3f2:左ホルダラジアル軸受
3m:ローラ内蔵ホルダ連結部
5:モータ
6:ケーシング
103:ピニオン
107:ラックアシスト機構
210,220,230:ローラホルダ連結アセンブリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動と直線運動の間で運動方向を変換することにより回転トルクと推力を変換する回転直動変換機構に係り、特に、がたが小さく、常時噛合い状態を良好に保つとともに、組立て性が良好で大荷重を扱うことが可能な回転直動変換機構に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸とこの回転軸に転がり接触する弾性ローラとからなる往復直線運動機構において、弾性ローラの弾性変形によって回転軸との間における接触弧の長さを長くすることによって、小さな面圧で大きなスラスト力を得る構成が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
引用文献1に示す機構は、円柱形状のロッドとその周囲にねじって配置した円柱形状の弾性体ローラと、そのローラを回転フリーに軸支するホルダから構成されており、ロッドを回転させてホルダが直動するものである。このように、引用文献1に示す機構は、ロッドとローラ間の力の伝達をねじと環状溝の噛み合いではなくて両者間の摩擦とするものであるが、構成や動作については、概略的に云えば本発明の機構と類似している。
【特許文献1】特開平6−174041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示す従来技術では、ローラのホルダへのスラスト荷重を受けるスラスト軸受は、ローラの両端に設ける構成である。このため、スラスト荷重の向きによって、一方向または他方向からの荷重を受けるスラスト軸受の位置がローラの長さ程度だけ移動することになる。この結果、荷重を受けない側のスラスト軸受は両スラスト軸受の間のローラの伸び(ローラの長さに相当するローラの伸び量)によって、スラスト軸受の内部に軸方向の隙間が生じ、急激な反転力の作用によって、ロッドの動作にがたが生じるという課題を生じた。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、ローラの伸びに伴うがたの発生を低減できる直動変換機構を提供することにある。さらに、ローラとロッドの噛み合い状態を良好にするとともに、装置の組立てを容易にし、さらに、大荷重を扱うことを可能にする回転直動変換機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられて前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、
前記ローラを回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラスラスト軸受と、前記ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラスラスト軸受を設け、前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受は、ともに前記ローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部にのみ配置される構成とする。
【0007】
また、前記回転直動変換機構において、前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受の間で前記ローラに沿って、両ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪と一体的に動作するローララジアル軸受を介在させ、前記ローララジアル軸受の外輪に前記ホルダ部材へのローラ取付ねじを設け、前記ホルダ部材に組み込まれた前記ローラが前記ロッドに噛み合わされた状態で前記ローラ取付ねじを調整することにより、前記ローラの軸方向位置を変更し固定する構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ローラの伸びに伴うがたの発生を低減できるため、制御性が向上するという効果がある。また、力の伝達を行うローラとラックの噛合い状態を良好にし、信頼性向上とともに、噛合い部の損失を低減できるため、装置の信頼性向上とともに効率を向上する効果がある。また、組立て性を向上して、量産時のコスト低減や性能ばらつきが抑制する効果がある。また、大推力が発生可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る回転直動変換機構を自動車のラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用した構成例について以下詳細に説明する。本発明の第一の実施形態の構成例として、ロッド側が回転しないタイプを提示して、この構成例について図1乃至図7、図15、図16を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る回転直動変換機構を適用した電動パワーステアリング装置におけるラックアシスト機構の縦断面図であり、図2は、図1の視点を90度回転した時(図1の上部から見下ろした場合)の縦断面図であり、手前側に来るローラも描いた図である。また、図3は全てのローラの側面図であり、図4はローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図であり、図5は図4に示すサブアセンブリの横断面図である。
【0011】
そして、図6は、右側ローラ軸受部の拡大断面図であって図1に示すM部である。ここで、図4にもM部を示すが、図1の場合と断面が異なっている。しかし、軸受部及びローラはローラ軸を回転軸とする回転体であることと、ローラ軸に対するこれら二断面の交差角が概略等しいことから、軸受部の断面は概略等しい形状となる(逆に、ホルダ部の断面は異なる)。よって、図4は、実質的に図6(図1のM部)で説明可能であるため、図1と同一断面のM部を示す新たな図は省略する。図7は、左側ローラ軸受部の拡大断面図であって図1に示すN部である。これもM部と同様に、図4のN部の説明図とする。ここで、図6と図7は、ローラ21の拡大図であるが、その他のローラ22,23における軸受部も同様であるため、それらの図示や説明は省略する。
【0012】
図15は、本実施形態が適用されたラックアシスト機構の電動パワーステアリング装置における配置を示す図であり、図16は、本実施形態に係る回転直動変換動作を説明する図である。
【0013】
最初に、本実施形態に係る回転直動変換機構の構成を説明する。まず、図4と図5に示すローラ21,22,23とホルダ3とからなるサブアセンブリを説明する。図3から分かるように、これらのローラの右ローラ端部21c1〜23c1は、左ローラ端部21c2〜23c2に比較して長い。ローラの左右端部の長さが異なるのは、ローラ21の場合を代表とする図7に示す如く、左ローラ端部にはラジアル軸受(以後、左ローララジアル軸受21f2と称する)のみ設置するのに対して、右ローラ端部は、図6で示す如くラジアル軸受(以後、右ローララジアル軸受21f1と称する)とともに、それを挟持するように、その両側に左右両向きのスラスト荷重を各々受ける二個のローラスラスト軸受(以後、右ローラスラスト軸受21e3と左ローラスラスト軸受21e4と称する)を配置するためである。ローラスラスト軸受21eをスラストロックナット21jで固定した後、右ローララジアル軸受21f1の外周に設けたねじ(以後、ローラ取り付けねじ21mと称する)で右ホルダ端板3cに配置する。
【0014】
このように、左右両方向のスラスト荷重を受けるスラスト軸受をローラ環状溝設置部の片方(本実施形態では右側)のローラ端部に配置したため、両スラスト軸受をローラ環状溝設置部の両側に設ける場合よりも両スラスト軸受の間隔を短縮することが可能となる。引いては、両スラスト軸受の間でのローラの伸び量が小さくなる。
【0015】
ここで、ローラ21に左から右へ向かうスラスト荷重(スラスト荷重は、ローラの環状溝とロッドのねじ部との噛み合い態様によって生じる荷重であり、左方向と右方向の荷重が生じる)がかかる場合を考える。この時には左ローラスラスト軸受21e4がその荷重を受けるため、右ローラ端部21c1には、負荷はかからず、伸縮変形は無い。このため、もう一方の右ローラスラスト軸受21e3は、スラストロックナット21jによる予圧がかかった状態を保持する。
【0016】
次に、ローラ21に右から左へ向かうスラスト荷重がかかる場合を考える。この時には右ローラスラスト軸受21e3がその荷重を受けるため、右ローラ端部21c1に引っ張り荷重がかかり、伸びが生じる。このため、左ローラスラスト軸受21e4は、スラストロックナット21jによる予圧が低下し、荷重が大きい場合には軌道輪と転動体の間に軸方向隙間が発生することになる。この隙間の発生した状態(右から左へ向かうスラスト荷重がかかった状態)から衝撃的な反転荷重(左から右へ向かうスラスト荷重)がかかった場合、右ローラ端部21c1の伸びが解消される前に(軌道輪と転動体の間に隙間がある状態で)、ローラが衝撃的に左から右に動き、左ローラスラスト軸受21e4が力を受ける状態に移る。
【0017】
ロッドはローラと噛合っているため、反転荷重の際には、ロッドが衝撃荷重の向きに衝撃的に動くことを意味している。すなわち、ロッドの動きにがたが発生してしまうことになる。また、本実施形態では、ローラスラスト軸受がころがり軸受であるため、この隙間によって、軌道輪から転動体が脱落する可能性が生じる。この脱落が起ると、軸受本来の機能が損なわれるため、効率の高い回転直動変換機構の動作が不能になり、かつ急激な転動面の損傷で、短時間に破壊に到る危険性が生じる。
【0018】
以上の如く多岐に渡る不具合の原因となりうるスラスト軸受内の隙間を抑制する対策として、スラスト軸受の予圧増大が挙げられる(例えば、スラストロックナット21jによる締め上げを強める)。しかし、過度な予圧の増大は、スラスト軸受の軸受係数を増大させ、回転直動変換機構の効率の低下という弊害を生じる。
【0019】
そこで、本実施形態の如く、ローラにおける環状溝設置部の片方の端部に、両方向に対応したスラスト軸受を設けることにより、ローラ環状溝設置部の長さに依存せず両ローラスラスト軸受の軸方向間隔を短縮できるため、同じスラスト荷重でも右ローラ端部21c1の伸びが低減でき、スラスト軸受の予圧を適度なレベルに保ちつつ、スラスト軸受内の軸方向隙間を抑制することが可能となる。このように、効率の高い動作を維持しつつ、ロッドのがたを抑制できるという効果がある。
【0020】
本実施形態では、ローラスラスト軸受は転動体がボールである玉軸受としているが、ころやニードルを転動体とする線接触タイプの転がり軸受でもよい。これにより、大幅な大容量化が可能になる。さらに、転動体を無くして対向する面と両面間に注入する油等の潤滑剤からなるすべり軸受とすればより一層の大容量化が実現できる。
【0021】
また、右ホルダ端板3cの右側には、パイプ部3xが延在し、パイプ部3xにモータ5の構成要素であるロータ5aが、あらかじめ固定配置されている。次に、ローラ左端部21c2〜23c2を、ホルダ部材の中心軸に対して傾斜し、左ホルダ端板3bを貫通するローラ挿入穴3yへ通し、その後、左ローララジアル軸受21f2〜23f2を嵌合する。
【0022】
この構成と組立て手順により、ローラ挿入穴3yへローラ左端部を通すとき(右ホルダ端板3cに対して異なる方向に傾斜して立設された複数のローラを、左ホルダ端板3bに組み込むとき)は、左ローララジアル軸受の概略内径の円筒(ローラ左端部21c2)を左ローララジアル軸受の概略外径の穴へ通すことになる。この結果、これら両者の大きな径差によって、穴通しが可能となり、本実施形態の組立てが容易になるという効果がある。また、このような手順を用いない場合は、各ローラをホルダ端板の外周側から挿入する手段が考えられる。この場合には、挿入路として必須の外周と連なる溝を塞ぐ手段が必要となる。本実施形態の如く、ホルダ部材が回転するタイプであると、ローラに働く遠心力に対抗しなければならず、上記溝を塞ぐ手段には一層堅牢な構成を要する。
【0023】
その後、ラジアルロックナット21k〜23kで軸受内輪を固定すると同時に、左ローララジアル軸受21f2に予圧をかけるために、摺動性の高い予圧リングばね21k1〜23k1を介して軸受外輪を弾性支持する。ここで、予圧リングばね21k1に摺動性を持たせたのは、外輪との間の相対速度による摩擦損失を低減するためである。このようにしてローラの両端を軸支したホルダ端板3b、3cを、ホルダ連結部3dで連結しホルダ部材3を形成する。ここで、本実施形態のホルダ連結部3dは、左ホルダ端板3bと一体化しているため、剛性が高く、軽量化を実現できるという効果がある。
【0024】
また、ホルダ連結部3dと右ホルダ端板3cはホルダ連結ねじ3gで締結する。これにより、ローラの中心軸(以後、ローラ軸と称する)21d、22d、23dが、ロッドの中心軸(以後、ロッド軸と称する)1dに対してロッドねじ山1aのリード角以上の軸角をもってねじり配置される。このようにして、ローラとホルダ部材のサブアセンブリを製作する。ここで、サブアセンブリのローラ軸受(主としてスラスト軸受)は、全て、その最外径がローラ環状溝の底の径以上となっている(ローラの環状溝の底部よりもスラスト軸受の最外径の方がローラ軸から見て出っ張っている)。これが可能な理由は、ローラ軸がロッド軸に対してねじって配置されるため、軸受の設置箇所がローラとロッドの両軸の最接近点(図2に示すA点)から離れているので、軸受の最外径部とロッドの山部とが当接しないためであり、一層大きな径の軸受設置が可能となる。外径の大きな軸受は負荷容量が増大するため、装置が扱う力を増大できるという効果がある。
【0025】
このようなアセンブリを本実施形態に係る回転直動変換機構として用いた場合には、発生する推力が増大することになる。もちろん、軸受の径をローラ環状溝底の径より小さくしても、装置の動作になんら支障はない。
【0026】
図3に表わされている如く、各ローラに設けた環状溝は、軸方向にその配置位置をずらしながら設ける。本実施形態は、ローラをロッド1の周囲に等角度間隔で配するため、ローラ22の環状溝22bはローラ21の環状溝21bよりもP/2だけ右側にずらし、ローラ23の環状溝23bは環状溝21bよりもPだけ右側にずらす。これら環状溝の機構組立て時の軸方向位置は、この各ローラのずらし量とともに、ローラスラスト軸受の厚さやローララジアル軸受の長さやそのスラスト軸受を固定するホルダ部材の取り付け箇所軸方向位置等により決まる。このため、関連するこれらの寸法や位置の高精度化でローラ環状溝の機構組立て時の軸方向位置精度確保に対処することは誤差の重なりのため極めて困難となる。
【0027】
そこで、本実施形態は、ローラとホルダの取り付け箇所をローラ取り付けねじ21m〜23mとし、このねじを設けた右ローララジアル軸受の外輪をまわすことによりローラの軸方向位置を調整可能なローラスライド機構としている。この結果、複数のローラとロッドの噛合い状態を良好にできるという効果がある。この調整は、後述するように、ロッド1をこのサブアセンブリにねじ込んだ状態で行う。調整後は、リング形状からロッド側を切り欠いたC形状のローラロック部材21n〜23nをかしめて、ローラの軸方向位置を固定する。また、このローラロック部材21nを用いないで、ローラ取り付けねじ21m〜23mに接着材を流し込んで固定しても良い。この結果、上述した極めて困難な寸法管理が不要となり、製作コストの大幅な低減を可能にするという特有の効果がある。なお、右ローララジアル軸受21f1の外輪に設けた取付ねじ21mに対応してホルダ部材にもねじを切ってある。また、ローラ取り付けねじを廃して、隙間の極めて小さい隙間ばめとして、ローラスライド機構とし、接着やかしめで固定してもよい。
【0028】
また、ローラロック部材21nをC形状としたのは、ローラスラスト軸受の外径をロッド1のねじ山外径に近いところまで拡大し、軸受負荷容量の最大化とともに、軸受軌道輪からスラスト荷重作用線がはずれる距離をできるだけ小さくするためである。後者は、スラスト荷重反力とスラスト荷重による発生トルクを最小化し、それを打ち消すために軸受各部に生じる荷重の集中や新たに生じる荷重を抑制するためである。
【0029】
また、左ローララジアル軸受21f2〜23f2を左ホルダ端板3bに固定しない構成としたため、ローラ軸方向に移動可能となり、ホルダ部材への固定部である中央軌道輪(ローラ取付ねじ21が設けられた外輪)をローラ軸方向へ移動しても(中央軌道輪を回すことによって)左ローララジアル軸受の予圧は影響されない。これにより、ローラの軸方向位置の調整を右ホルダ端板3c側だけで行うことが可能となり、組み立てが容易になるという効果がある。
【0030】
次に、このローラ21,22,23とホルダ部材3のサブアセンブリ(図4、図5参照)の左ホルダ端板3bに左ホルダラジアル軸受3f2と左ホルダスラスト軸受3e2を装着した上で、それらを、左ケーシング6aへ挿入する。この時、左板ばね3pで左ホルダラジアル軸受3f2に予圧をかける。その後、予圧をかけるための右板ばね3qを装着したうえで右ホルダラジアル軸受3f1を右ホルダ端板3cと左ケーシング6a間に挿入する。さらに、右ホルダスラスト軸受3e1を軸受押さえ4のかしめまたは接着により左ケーシング6aに装着する。この時、ホルダ部材3が最もスムーズに回転する位置で軸受押さえ4を固定する。これにより、ローラとホルダ部材のサブアセンブリは、左ケーシング6aに対して、回転可能な状態で固定される。
【0031】
ここで、左ケーシング6aの狭窄部に左ラックロッドレール9aが固定配置されている。この内径は、ロッド1の外径に対してわずかに大きく設定され、その中心軸は、ホルダラジアル軸受を装着する内径と高精度で同軸度が設定されている。もちろん、この左ラックロッドレール9aは、左ケーシング6aの狭窄部そのものであってもかまわない。
【0032】
次に、このローラとホルダ部材3と左ケーシングのサブアセンブリに、ロッド1をねじ込む。この時、ホルダ部材3の回転を固定してロッド1を回転させてもよいし、逆に、ロッド1の回転を固定してホルダ部材3を回転させてもよい。これにより、ロッドねじ山1aとローラ環状溝21b〜23bが噛合う。この時、ローラの軸方向位置が未調整であるため、噛み合い箇所で干渉が起こる可能性がある。
【0033】
この対策として、ホルダ部材3とローラ21〜23のサブアセンブリ形状を不確定にしておくことや、これ以前に粗い位置調整をしておくことが考えられる。前者の具体的な方法としては、ホルダ連結ねじ3gやスラストロックナット21j〜23jを緩める方法がある。一方、後者の具体的な方法としては、ロッド1をねじ込む前に、ロッドねじと同様のリードでありながら、ねじ山の幅が正規の寸法よりも小さいダミーのロッドをねじ込むことが可能となるように、ローラの軸方向位置を概略調整することが挙げられる。そして、各々のローラの中央軌道輪をホルダ部材3に対してまわすことによりローラ取り付けねじでローラの軸方向位置を調整する。
【0034】
次に、その具体的な調整手順を述べる。(1)ホルダ部材3の回転を拘束する。(2)トルクを検知しながらロッド1を回転させつつ、そのトルクが最小になるように一本のローラの中央軌道輪をホルダ部材3に対してまわし、ローラ取り付けねじでローラの軸方向位置を調整する。(3)他のローラも同様に軸方向位置の調整を行う。(4)ロッドに一方向で一定の推力を与え、上記(2)(3)を再度行う。
【0035】
続いて、(5)(4)と逆方向の推力をロッド1に加えて、同様にロッド1を回し、回転に要するトルクが(4)時と同程度に小さいことを確認する。もしも、大きい場合には、(4)からやり直す。(6)ローラロック部材21n〜23nで各ローラの軸方向の位置固定を行う。
【0036】
上述した手順では、全ローラの位置調整を行ったが、最後の一本は行わなくても良く、原理的には調整は可能であるため、組立て工程を短縮できコスト低減が可能になるという効果がある。また、(4)は行わなくてもある程度の調整は可能であるため、同様に組立て工程を短縮できコスト低減が可能になるという効果がある。一方、この調整に先立って、ホルダ部材3とローラ21〜23のサブアセンブリ形状を不確定にしていた場合には、(4)の段階に移る前に、そのサブアセンブリ形状の不確定さを解消すべく、ホルダ連結ねじ3gやスラストロックナット21j〜23jを締める。以上の如く詳細に説明したローラの位置調整を容易にする方法として、ロッドねじ山やローラ環状山をたわみ易いようにしローラの位置の適正範囲を拡大することが挙げられる。この具体案としては、ねじ山や環状山の頂上に割れ目を入れたり、その割れ目にゴムや波板ばね等の弾性体を挿入することが挙げられる。
【0037】
次に、ステータ5bが圧入又は焼き嵌めされている右ケーシング6bを、これまでのアセンブリに右側から被せ、両ケーシング6a,6bをねじ止め等により接続する。これにより、ステータ5bとロータ5aが対向してモータ5が形成される。左ケーシング6aにおける左ラックロッドレール9aと同様に、右ケーシング6bの端部付近に、右ロッドレール9bを設ける。これは、その内径がロッド1の外径よりもわずかに大きい寸法とし、その面仕上げはロッド1がこすれても損傷しない程度のレベルに加工されている。
【0038】
ここで、以上の組み立てに際しては、適宜、グリースが構成部品間に流し込まれる。ところで、回転直動変換動作を起こすためには、直動部であるロッド1の回転を防止して直動のみ許す直動対偶が必要である。本実施形態では、図15のピニオン103とロッド1に設けたピニオン103と噛み合うラックがその役目を果たす。これが無いようなシステムの場合、例えばステアバイワイヤシステムなどでは、ボールスプラインのような直動対偶を別途備える必要がある。今回のようなステアリング機構の場合、ボールを省略してすべり対偶としても直動部の速度は小さいため、効率低下は小さい。よって、コスト重視の場合は、スプライン継ぎ手のような単純な構造としても差し支えない。このことは、ステアリング機構以外での適用において、直動部における要求速度が小さい場合、一般的に当てはまる。
【0039】
次に、本実施形態の動作について、図16を用いて動作を説明する。図16は、動作原理を説明するため、ロッド1の外周面を展開して示した図である。今、モータが、図16において、上から下へ回転する場合に限定して考える。ホルダ部材がロッド軸を中心に回転し、これに保持されている3本のローラもモータと同一回転を行う。よって、図16では、ローラは上(A位置)から下(B位置)へ垂直に移動する。図16の太線は、ローラがA位置にある場合の右ロッドねじ山フランクを示す。そして、このA位置から、ローラがδラジアン(rad)だけ公転してロッドの円周上をδ・(ラック軸半径)だけ動いてB位置に到達した場合を考える。
【0040】
このとき、右ローラ環状溝面の位置は、ロッド軸方向には移動せず、展開図上では上下方向にのみ移動する。よって、ロッドが軸方向(展開図上では左右方向)に、δ・(ロッド軸半径)・tan(ロッドねじリード角)だけ動いた場合、右ロッドねじ山フランクが左に動いて破線の位置となり、ローラ環状溝とロッドねじ山の噛み合いを保つ。このようにして回転直動変換が生じる。
【0041】
また、モータの1回転あたりのラック移動量M(以後、機構ピッチと呼称する)は、δを2πとして、 M=2π・(ロッド軸半径)・tan(ロッドねじリード角) となる。この式から明らかなように、ロッドねじリード角を小さくすることにより、減速割合を増大できることが分かる。また、噛み合い箇所は、ローラ側の環状溝面とロッド側のねじ山フランクであり、曲率の小さい面同士の噛み合いとなる。よって、噛み合い時の弾性変形によって広範囲で接触が起きるため、発生する応力の最大値(ヘルツ応力)が抑制される。このために、噛み合い一箇所あたりの負荷荷重が増大し、コンパクトながら、大きな推力が発生可能になるという効果がある。
【0042】
また、噛み合い箇所では、相対すべりが無くなる向き、すなわち一体で動く向きに摩擦力が働く。この摩擦力によって、ローラは、そのローラ環状溝がロッドねじ山というレール上を転がるように自転を起こす。ここで重要なことは、ローラが自転しても噛み合い箇所においてローラ溝が軸方向に移動しないということである。これは、ローラ溝がねじではなく環状溝であることから実現している。このように、ローラは全噛み合い箇所での摩擦の和が低減するように自ら自転速度を制御するため、損失が小さく高効率になるという効果がある。また、市販のスラスト軸受やラジアル軸受を用いることが可能となり、コスト低減の効果がある。
【0043】
次に、本発明の第二の実施形態に係る回転直動変換機構を図8に基づいて説明する。図8は、図1または図4の右ローラ端部(M部)の拡大断面図を示したもの(ローラ21を代表としたものであり、その他のローラ22,23も同様)である。ローラの左スラスト荷重を受ける軸受及び右スラスト荷重を受ける軸受は、ホルダ部材に固定される側であるホルダ固定側軌道輪を中央側軌道輪21e0として一体化し、その右側に配されてローラとともに回転する回転側右軌道輪21e1、さらに、左側の回転側左軌道輪21e2からなる構成とする(第一の実施形態を示す図6の構成と図8の構成を対比すると両者の差異は明らかになる)。中央側軌道輪の外周にローラ取り付けねじ21m、内周に右側ローララジアル軸受21f1を設ける以外は、既に説明した第一の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。
【0044】
第二の実施形態は、ホルダ部材に固定される側であるスラスト軸受の軌道輪を背中合わせとする極限とみなすことができる。よって、両ローラスラスト軸受の軸方向における設置間隔が極めて小さくなるため、衝撃的な反転荷重時のがた発生をより一層抑制できるという効果がある。また、第二の実施形態は、この中央側軌道輪にニードルタイプの右側ローララジアル軸受も設けているため、ローラ右端部を軸支する軸受群がコンパクトにまとまり、機構の小形化が図れるという効果もある。
【0045】
次に、本発明の第三の実施形態に係る回転直動変換機構を図9に基づいて説明する。図9は、図1または図4のローラ21における左ローラ端部(N部)の拡大断面図を示したもの(ローラ21を代表としたものであり、その他のローラ22,23も同様)で、左ローララジアル軸受がニードルまたはころ軸受となる以外は、既に説明した第一または第二の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。図9の図示構造により、軸受に予圧は不要となり、ラジアルロックナット21kでばねを外輪に押付ける必要が無くなり、そこで発生していた摩擦損失を回避できるため、性能が向上するという効果がある。
【0046】
また、この外輪を左ホルダ端板3bに接着等で固定しても、外輪ところ(ニードル)間または内輪ところ(ニードル)間で軸方向に相対移動が可能となるため、ローラの軸方向位置決めをローラの右端部のローラ取付けねじ21mで行っても不具合は生じない。この結果、左ローララジアル軸受21f2の姿勢が安定化して、ローラの姿勢も安定するため、例えば、装置の動作方向が急激に反転しても、軸受姿勢がローラ挿入穴3y内でこじることもなく、ローラの良好な回転を常時維持できるという効果がある。接着ではなく、ローラ挿入穴内面の凸部やロック部材によって外輪を固定しても同様の効果がある。
【0047】
次に、本発明の第四の実施形態に係る回転直動変換機構を図10に基づいて説明する。図10は、図1または図4のローラ21における右ローラ端部(M部)の拡大断面図を示したもの(ローラ21を代表としたものであり、その他のローラ22,23も同様)で、中央及び左右の軌道輪21e5,21e6,21e7がころに対応した形状として、テーパころ軸受を設置し、専用のラジアル軸受を廃した以外は、第一の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。ローラスラスト軸受が線接触を基本としたころ軸受となるため、各部の寸法を変えることなく(特に外径を拡大することなく)、その容量を大幅に増大できることから、装置の大容量化を可能にする効果がある。
【0048】
特に、図10に図示した構成例を回転直動変換機構として用いる場合、大推力化を可能とする効果がある。また、テーパ軸受としているために、ラジアル荷重を受けるための専用の右ローララジアル軸受が不要となり、構成が単純となって、小型化が可能になるという効果もある。さらに、調芯性を付加することも可能で、この場合、ローラ取付けねじ21mやローラ挿入穴3y(図7、図9参照)の軸方向精度の悪化による不具合を緩和する効果がある。
【0049】
次に、本発明の第五の実施形態に係る回転直動変換機構を図2、図3、図11、図12及び図13に基づいて説明する。図2は、本発明の第五の実施形態が適用された電動パワーステアリング装置のラックアシスト機構の縦断面図であり、手前に来るローラも描いてある。図3は全ローラの側面図である。また、図11はローラとホルダ連結部材が一体化したローラホルダ連結アセンブリの縦断面図であり、図12はローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図であり、図13は同じサブアセンブリの横断面図である。公転ローラとホルダ部材の構成が異なる以外は、第一乃至第四の実施形態と同様であるため、その他の部分の構造、動作及び効果についての説明は省略する。ここで、ローラは21〜23の3本設置するが、それらの構成は同様であるため、ローラ21を代表として以後説明を行う。
【0050】
本発明の第一乃至第四の実施形態では、ローラが中実体であったのに対して、第五の実施形態では、図11に図示するように、ローラ21を、それらの中心軸部に貫通穴の開いた中空体とし、その穴に、ホルダ部材に固定配置する軸(図11の例でホルダ連結部3mと兼用)を挿入する。ローラはホルダ部材に対して回転可能に軸支される必要があるため、この軸とローラの間に軸受が配置される。この軸は、ホルダ部材3の両端板3b,3cを連結するホルダ連結部を兼ねるものであり(以後、ローラ内蔵ホルダ連結部3mと称する)、この実施形態組立て時には、ローラ21とローラ内蔵ホルダ連結部3mとそれらに関連するローラ軸受を一体化したローラホルダ連結アセンブリ210を、一構成部品として扱うことが可能になる。これにより、調整が必要で時間を要するローラ軸受部の組立て工程を、本体の組立て工程と並列して組むことが可能となるため、組立て時間短縮等の組立て性向上という効果がある。
【0051】
第5の実施形態において、ローラの右側には、右ローララジアル軸受21f1とともに、両方向のスラスト荷重を受けるべく、スラスト軸受を配置する。このスラスト軸受は、ローラとともに回転する回転側左軌道輪21e2、回転側右軌道輪21e1と、ローラ内蔵ホルダ連結部3mに固定する固定側中央軌道輪21e0と、それらに適度な予圧を加えるスラストロックナット21jとから成る。これにより、ローラ内蔵ホルダ連結部3mは、ローラスラスト軸受のホルダ固定側軌道輪と一体化した部材となる。
【0052】
また、回転側左軌道輪21e2は、右ローララジアル軸受21f1の外輪と一体化し、コンパクトな構成となっており、小型化に寄与する。一方、ローラの左側には、左ローララジアル軸受21f2を配置し、ラジアルロックナット21kでその外輪をローラに固定する。上記スラスト軸受21e,21jは、ローラの環状溝設置部の両側ではなく片側に設けるため、これまでの実施形態と同様、ローラ環状溝設置部の長さに依存せず両ローラスラスト軸受の軸方向間隔を短縮できるため、スラスト軸受の予圧を適度なレベルに保ちつつ、スラスト軸受内の軸方向隙間を抑制することが可能となる。これにより、効率の高い動作を維持しつつ、ロッドのがたを抑制できるという効果がある。
【0053】
以上のようにして組立てたローラホルダ連結アセンブリ210,220,230を、右ホルダ端板3cへねじ込む(図12参照)。次に、各ローラアセンブリの左端部を左ホルダ端板3bのローラ挿入穴3yに挿入した後、ローラ端板連結部材21s〜23s(22s、23sは図示せず)を挿入し、ローラ内蔵ホルダ連結部3mにねじ込んで固定する。この方法によって、第1乃至第四の実施形態における左ローララジアル軸受の挿入と同様、複数のねじれた軸をホルダ端板に固定することが可能となる。
【0054】
この状態で、ロッド1をねじ込み、ローラスラスト軸受のホルダ固定側軌道輪と一体化したローラ内蔵ホルダ連結部3mを回転させてローラの軸方向位置を調整し、ローラとロッドの噛合い状態を調整する。詳細な手順は、前記した実施形態と同様である。この後、ローラロックナット21rでローラホルダ連結アセンブリ210〜230と右ホルダ端板3cを固定する。さらにその後、ローラ挿入穴3yとローラ端板連結部材の外径を接着する。また、ねじ固定可能な構成としてももちろん良い。以上のようにしてローラホルダアセンブリを形成する。この結果、これらローラ軸は、両ホルダ端板3b、3cを連結するホルダ連結部の役割を兼ねることになるため、ローラ内蔵ホルダ連結部3fと呼称する。本実施形態ではそれ以外のホルダ連結部を廃したため、少なくともその分の慣性モーメントが低減できる。
【0055】
以上のことより、指令に対する応答性が一層向上し、制御性が向上するという効果がある。ところで、ローラの内部を貫通する穴を開けると、ローラ部の強度低下が懸念される。しかし、ローラ部の肉厚がある程度以上あれば、最も荷重の集中するローラ溝底の荷重がほとんど増大しなくなり、ローラの強度低下は無視できる。本実施形態では、ホルダ連結部として強度的に必要最小径を有するローラ内蔵ホルダ連結部3mを用いたために、ローラ部の肉厚を大きく設定でき、ローラ強度を確保できるという特有の効果がある。要するに、本実施形態は、強度向上に貢献せず無駄な部分であるローラの中心部を除去し、回転直動変換機構にとって必須のホルダ連結部をその穴に通して、慣性モーメントを低減したものである。ここで、本実施形態では、ローラ内臓ホルダ連結部3m以外にホルダ連結部を設けなかったため、ローラ同士の間隔が空く。このため、ローラの設置加工本数を増大することが可能となり、一層の大推力化が可能となる効果もある。
【0056】
また、図14は本発明の第六の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)を示す。図14に示すような、高さと直径がほぼ同一のころを転動体とし、転動面を回転軸に対して45度の角度とするスライダーころ軸受21e9(22e9、23e9は図示せず)を、図6、図8、図10の軸受群の代わりに設けてもよい。ここで、設置するころ転動体は、その軸方向を交互に変えて両方向のスラスト荷重とラジアル軸受を受けることが可能なものである。この結果、線接触で荷重を受けるために、大荷重対応となる上に、一個の軸受で全方向の荷重を受けることが可能となり、軸方向の必要寸法の短縮とともに、部品点数低減によるコスト低減という効果がある。
【0057】
以上説明した本発明の第一乃至第六の実施形態では、何れもローラ21〜23の径がロッド1の径と概略同じにしているが、本発明の実施形態としては、強度が許す限り、ローラの径をロッドの径よりも小さくすることができる。そして、ローラ径を小さくする場合は、ローラの本数を更に多くすることができ、これにより、より一層大きなラック推力が要求される場合にも対応することができる。また、逆に、ローラをロッドより太くすることも可能である。この場合には、噛合い箇所における弾性変形も考慮した噛合い領域において、ローラとロッドの噛合い後の噛合い点軌跡のずれが小さくなるため、発生するすべりが小さくなり、噛合い箇所での摩擦損失を低減できるという効果がある。
【0058】
また、ロッドの軸方向の剛性と、全ローラの軸方向の剛性(設置した各ローラの軸方向剛性の和)が概略一致するように、両者の素材のヤング率や両者の断面形状やローラ本数を決定しても良い。これにより、ロッドとローラの伸び量が各部で概略一致するため、噛合い箇所における負荷はほぼ均等になるため、噛合い部の信頼性が向上するとともに、全体の変形量(ロッドの伸びまたは縮み量)が小さくなるため、直動量に対する回転量がほぼ一対一に対応することになり、装置の操作性が向上するという効果がある。
【0059】
以上説明したように、本発明の実施形態は、次のような構成と機能乃至作用を奏することを主たる特徴とするものである。すなわち、外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられ、前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持され、外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、ローラを回転可能に支持するローラ軸受でその軸方向で両方の向きのスラスト荷重を受ける各ローラスラスト軸受を、両者ともに、ローラ環状溝設置部の片側に配置する構成であり、また、この構成によって、がたを抑制することによる制御性の向上や、信頼性及び効率の向上、また、大推力の発生が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る回転直動変換機構を適用した電動パワーステアリング装置におけるラックアシスト機構の縦断面図である。
【図2】図1の視点を90度回転した時(図1の上部から見下ろした場合)の縦断面図であり、手前側に来るローラも描いた図である。
【図3】本実施形態における全てのローラの側面図である。
【図4】第一の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図(一部が断面図であり、図5のB1−B2−B3−B4)である。
【図5】第一の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの横断面図(図4のA−A)である。
【図6】第一の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図7】第一の実施形態における左側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すN部)である。
【図8】本発明の第二の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図9】本発明の第三の実施形態における左側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すN部)である。
【図10】本発明の第四の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図11】本発明の第五の実施形態におけるローラとホルダ連結部材が一体化したローラホルダ連結アセンブリの縦断面図である。
【図12】第五の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの側面図(一部が断面図であり、図13のB−B)である。
【図13】第五の実施形態におけるローラとホルダ部材のサブアセンブリの横断面図(図12のA−A)である。
【図14】本発明の第六の実施形態における右側ローラ軸受部の拡大断面図(図1と図4に示すM部)である。
【図15】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構が適用されたラックアシスト機構の電動パワーステアリング装置における配置を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1:ロッド
1a:ロッドねじ山
1d:ロッド軸
21,22,23:ローラ
21b,22b,23b:ローラ溝(環状溝)
21d,22d,23d:ローラ軸
21e0,22e0,23e0:固定側中央軌道輪
21e1,22e1,23e1:回転側右軌道輪
21e2,22e2,23e2:回転側左軌道輪
21e3,22e3,23e3:右ローラスラスト軸受
21e4,22e4,23e4:左ローラスラスト軸受
21e5,22e5,23e5:固定側中央ころ軌道輪
21e6,22e6,23e6:回転側右ころ軌道輪
21e7,22e7,23e7:回転側左ころ軌道輪
21e9,22e9,23e9:スライダーころ軸受
21f1,22f1,23f1:右ローララジアル軸受
21f2,22f2,23f2:左ローララジアル軸受
21m,22m,23m:ローラ取り付けねじ
3:ホルダ部材
3e1:右ホルダスラスト軸受
3e2:左ホルダスラスト軸受
3f1:右ホルダラジアル軸受
3f2:左ホルダラジアル軸受
3m:ローラ内蔵ホルダ連結部
5:モータ
6:ケーシング
103:ピニオン
107:ラックアシスト機構
210,220,230:ローラホルダ連結アセンブリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられて前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、
前記ローラを回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラスラスト軸受と、前記ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラスラスト軸受を設け、
前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受は、ともに前記ローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部にのみ配置される
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項2】
請求項1において、
前記一方向と他方向ローラスラスト軸受は、ホルダ部材固定側軌道輪とローラ固定側軌道輪と両軌道輪間の転動体とを有し、
前記一方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪と前記他方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪とは、背中合わせに配置される
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記一方向と前記他方向の両ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪の少なくとも一つまたは前記ホルダ部材固定側軌道輪と一体的に動作する構造体と前記ホルダ部材との間に、前記ホルダ部材に組み込まれた前記ローラが前記ロッドに噛合わされた状態で軸方向位置を変更し固定することを可能とするローラスライド機構を設ける
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項4】
請求項2において、
前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受の間で前記ローラに沿って、両ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪の少なくとも一つまたは前記ホルダ部材固定側軌道輪と一体的に動作する構造体に前記ホルダ部材へのローラ取付ねじを設け、
前記ホルダ部材に組み込まれた前記ローラが前記ロッドに噛み合わされた状態で前記ローラ取付ねじを調整することにより、前記ローラの軸方向位置を変更し固定する
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記構造体は、前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受のいずれか1つのローラスラスト軸受と一体的に動作するローララジアル軸受の外輪であることを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項6】
請求項1において、
前記一方向と他方向ローラスラスト軸受は、ホルダ部材固定側軌道輪とローラ固定側軌道輪と両軌道輪間の転動体とを有し、
前記一方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪と前記他方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪とは、同一の共通構造体から構成される
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項7】
請求項1において、
前記一方向ローラスラスト軸受および前記他方向ローラスラスト軸受を配置しない前記ローラの他方の端部にローラ端軸を設け、
前記ローラ端軸の外周面と、前記ホルダ部材に設けられ且つ前記ロッド中心軸に対して傾斜したローラ挿入穴の内周面とで前記ローラをラジアル軸支するラジアル軸受を設ける
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1つの請求項において、
前記ローラスラスト軸受または前記ローラスラスト軸受を含むローラ軸受の外径は、前記ローラ環状溝の底部の径以上であることを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項9】
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられて前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、
前記ローラを回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラ軸受と、前記ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラ軸受を設け、
前記一方向ローラ軸受と前記他方向ローラ軸受は、ともに前記ローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部にのみ配置され、
前記一方向ローラ軸受と前記他方向ローラ軸受は、前記ローラのスラスト軸受機能の他に、前記ローラのラジアル軸受の機能をも果たす構成である
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項10】
請求項1または9において、
前記スラスト荷重を受ける役割を担う前記一方向ローラ軸受と前記他方向ローラ軸受の少なくとも一つのローラ軸受は、線接触タイプの転がり軸受または潤滑剤を介在させるすべり軸受であることを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項1】
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられて前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、
前記ローラを回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラスラスト軸受と、前記ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラスラスト軸受を設け、
前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受は、ともに前記ローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部にのみ配置される
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項2】
請求項1において、
前記一方向と他方向ローラスラスト軸受は、ホルダ部材固定側軌道輪とローラ固定側軌道輪と両軌道輪間の転動体とを有し、
前記一方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪と前記他方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪とは、背中合わせに配置される
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記一方向と前記他方向の両ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪の少なくとも一つまたは前記ホルダ部材固定側軌道輪と一体的に動作する構造体と前記ホルダ部材との間に、前記ホルダ部材に組み込まれた前記ローラが前記ロッドに噛合わされた状態で軸方向位置を変更し固定することを可能とするローラスライド機構を設ける
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項4】
請求項2において、
前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受の間で前記ローラに沿って、両ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪の少なくとも一つまたは前記ホルダ部材固定側軌道輪と一体的に動作する構造体に前記ホルダ部材へのローラ取付ねじを設け、
前記ホルダ部材に組み込まれた前記ローラが前記ロッドに噛み合わされた状態で前記ローラ取付ねじを調整することにより、前記ローラの軸方向位置を変更し固定する
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記構造体は、前記一方向ローラスラスト軸受と前記他方向ローラスラスト軸受のいずれか1つのローラスラスト軸受と一体的に動作するローララジアル軸受の外輪であることを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項6】
請求項1において、
前記一方向と他方向ローラスラスト軸受は、ホルダ部材固定側軌道輪とローラ固定側軌道輪と両軌道輪間の転動体とを有し、
前記一方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪と前記他方向ローラスラスト軸受のホルダ部材固定側軌道輪とは、同一の共通構造体から構成される
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項7】
請求項1において、
前記一方向ローラスラスト軸受および前記他方向ローラスラスト軸受を配置しない前記ローラの他方の端部にローラ端軸を設け、
前記ローラ端軸の外周面と、前記ホルダ部材に設けられ且つ前記ロッド中心軸に対して傾斜したローラ挿入穴の内周面とで前記ローラをラジアル軸支するラジアル軸受を設ける
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1つの請求項において、
前記ローラスラスト軸受または前記ローラスラスト軸受を含むローラ軸受の外径は、前記ローラ環状溝の底部の径以上であることを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項9】
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられて前記ロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、前記ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面に前記ねじ部と噛合う環状溝を有しかつ前記ロッドの中心軸に対して前記ねじ部のリード角以上の軸角でねじり配置されたローラと、を備えた回転直動変換機構であって、
前記ローラを回転可能に支持しローラ軸の一方向の向きのスラスト荷重を受ける一方向ローラ軸受と、前記ローラ軸の他方向の向きのスラスト荷重を受ける他方向ローラ軸受を設け、
前記一方向ローラ軸受と前記他方向ローラ軸受は、ともに前記ローラの環状溝設置部に隣接する一方の端部にのみ配置され、
前記一方向ローラ軸受と前記他方向ローラ軸受は、前記ローラのスラスト軸受機能の他に、前記ローラのラジアル軸受の機能をも果たす構成である
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項10】
請求項1または9において、
前記スラスト荷重を受ける役割を担う前記一方向ローラ軸受と前記他方向ローラ軸受の少なくとも一つのローラ軸受は、線接触タイプの転がり軸受または潤滑剤を介在させるすべり軸受であることを特徴とする回転直動変換機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−120658(P2007−120658A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315009(P2005−315009)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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