説明

回転衝撃試験方法及び回転衝撃試験装置

【課題】実使用環境において被試験体に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬可能な回転衝撃試験方法及び回転衝撃試験装置を提供する。
【解決手段】回転衝撃試験方法は、鉛直回転軸を中心として1ガイド部を回転させることによって、第1筐体を回転させる回転工程と、第1筐体の保持を解除することによって、第1筐体を第1ガイド部に当接させながら径方向外向きに滑走させる滑走工程と、滑走工程において第1被試験体に働くコリオリの加速度の時間推移及び被試験体の電気信号を検出する検出工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などの回転衝撃試験方法、及び回転衝撃試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
砲弾を火砲から発射する時,砲弾は砲身内で加速され,砲弾には数万Gの加速度が印加される。近年、様々な電子部品を搭載する砲弾の研究が行われており、搭載される電子部品の加速度に対する抗たん性の確保が技術的課題としてクローズアップされてきた。
【0003】
実際の射撃を行わずに電子部品などの被試験体に加速度を印加する方法としては、落下試験がある。落下試験とは、電子部品を収容する鋼製の容器を12m程度の高さから落下させ、地上に置かれた金属製の受台に容器を衝突させることによって、被試験体に加速度を印加する方法である。落下試験によれば、地上に置かれた金属製の受台の材質及び形状に応じて、被試験体に印加される加速度の大きさと印加時間とを調節できる。しかしながら、落下試験では、実際の射撃に比べて、極めて短い時間しか射撃相当の加速度を印加できない。
【0004】
そこで、衝撃試験被試験体を収容する筐体を所定の高さから液体中に落下させる方法が提案されている(特許文献1参照)。このような方法によれば、被試験体を固体上に落下させる方法に比べて、被試験体に加速度が印加される時間を長くできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−2051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、被試験体の耐衝撃性を正確に評価するには、実使用環境において被試験体に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬することが重要である。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法において被試験体に印加される加速度の時間推移を調整するには、筐体の形状、液体の粘度及び落下高さなどを適切に変更する必要がある。また、筐体を液体中に落下させるので、印加される加速度は射撃に比べかなり小さいと予想される。そのため、実使用環境において被試験体に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬することが困難である。
【0008】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、実使用環境において被試験体に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬可能な回転衝撃試験方法及び回転衝撃試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の基本原理は、回転円板上で移動する質点に働くコリオリの力を利用して、被試験体にコリオリの力に基づく加速度(以下、「コリオリの加速度」と略称する。)を印加するものである。回転円板の回転ベクトルをω、質点の質量をm、質点の速度ベクトルをvとすると、質点には、2・m・ω×v(ただし、ω×vはベクトル積)に則ったコリオリの力が働く。また、質点には、コリオリの加速度2・ω×vが働く。
【0010】
本発明に係る回転衝撃試験方法では、鉛直回転軸を中心として回転しながら鉛直回転軸の径方向に直線移動する物体に働くコリオリの力を利用して、被試験体に加速度が印加される。回転衝撃試験方法は、第1被試験体を収容する第1筐体を、鉛直回転軸の径方向に沿って設けられる第1ガイド部に当接させた状態で保持する保持工程と、鉛直回転軸を中心として第1ガイド部を回転させる回転工程と、第1筐体の保持を解除することによって、第1筐体を第1ガイド部に当接させながら径方向外向きに滑走させる滑走工程と、滑走工程において第1被試験体に働くコリオリの加速度の時間推移を検出する検出工程とを備える。
【0011】
本発明に係る回転衝撃試験装置は、鉛直回転軸を中心として回転しながら鉛直回転軸の径方向に直線移動する物体に働くコリオリの力を利用して、被試験体に加速度を印加する。回転衝撃試験装置は、鉛直回転軸を中心として回転可能な回転体と、鉛直回転軸の径方向に沿って設けられており、回転体に取り付けられる第1ガイド部と、第1被試験体を収容し、第1ガイド部に当接される第1筐体と、第1筐体を第1ガイド部に当接させた状態で保持する第1保持機構と、第1保持機構による第1筐体の保持を解除する第1解除機構とを備える。
【0012】
筐体と第1ガイド部との動摩擦係数を仮定すれば、回転体の角速度及び筐体の質量に基づいて運動方程式を解くことができる。さらに、運動方程式の解として得られる時間に対する筐体の重心の速度に基づいて、コリオリの加速度の時間推移を計算できる。
【0013】
また、運動方程式を解くことにより、保持機構で保持される筐体の重心と鉛直回転軸との間隔と、回転体の角速度とによってコリオリの加速度の時間推移を調整できることが判る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コリオリの加速度の時間推移を事前に計算できるとともに、保持機構で保持される筐体の重心と鉛直回転軸との間隔と、回転体の角速度とによってコリオリの加速度の時間推移を調整できるので、実使用環境において被試験体に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬可能な回転衝撃試験方法及び回転衝撃試験装置を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、被試験体が電子部品である場合には、コリオリの加速度の印加時に被試験体から送信される電気信号を解析することによって、被試験体がコリオリの加速度の印加時に正常に作動したか否かを容易に判別できる。
【0016】
さらに、筐体に加速度センサが搭載される場合には、被試験体に実際に印加されたコリオリの加速度の時間推移を外部計測器によって計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る回転衝撃試験装置100の構成を示す断面図である。
【図2】実施形態に係る滑走部8周辺の構成を示す透過斜視図である。
【図3】実施形態に係る回転体7を鉛直方向上方から見た平面図である。
【図4】実施形態に係る第1滑走部81の斜視図である。
【図5】実施形態に係る筐体V1の構成を示す透過斜視図である。
【図6】実施形態に係る第1滑走空間S1を径方向外側から見た図である。
【図7】実施形態に係る滑走工程において筐体Vに働く慣性力を示す模式図である。
【図8】実証実験で使用した筐体の構成を示す透過斜視図である。
【図9】実証実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0019】
(実施形態の概要)
本実施形態に係る回転衝撃試験は、被試験体を遠心力で径方向外向きに滑走させることによって、被試験体にコリオリの加速度を働かせるものである。本実施形態では、被試験体に働くコリオリの加速度により、被試験体には、衝撃力が印加される。
【0020】
ここで、被試験体に働くコリオリの加速度は、前述の通り算出可能である。また、被試験体に働くコリオリの加速度の時間推移は、保持機構で保持される筐体の重心と鉛直回転軸との間隔と、回転体の角速度ωとを変更することによって容易に調整可能である。従って、本実施形態に係る回転衝撃試験によれば、実使用環境において被試験体に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬できる。
【0021】
以下において、回転衝撃試験装置の構成及び機能と、回転衝撃試験方法とについて順次説明する。
【0022】
(回転衝撃試験装置100の構成及び機能)
本実施形態に係る回転衝撃試験装置100の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る回転衝撃試験装置100の構成を示す断面図である。なお、図1は、第1筐体V1及び第2筐体V2(以下、「筐体V」と適宜総称する。)が放出された状態を模式的に示している。
【0023】
回転衝撃試験装置100は、図1に示すように、枠体1、観察窓2、緩衝体3、駆動源4、回転軸5、軸受け部6、回転体7、滑走部8、保持機構9、解除機構10、振れ止め部11、内部配線12、スリップリング13及び外部配線14を備える。
【0024】
第1筐体V1は、第1被試験体DUT1を収容する(図5参照)。第2筐体V2は、第2被試験体DUT2を収容する。第1被試験体DUT1及び第2被試験体DUT2は、回転衝撃試験装置100による回転衝撃試験の対象物である。第1被試験体DUT1及び第2被試験体DUT2(以下、「被試験体DUT」と適宜総称する。)は、例えば、砲弾に内蔵されるCPUやLSIなどの電子部品である。被試験体DUTは、電子部品としての機能に応じた所定の電気信号を送信する。
【0025】
枠体1は、胴部1a及び蓋部1bによって構成される。胴部1aと蓋部1bとが互いに密着して固定されることによって、枠体1の内部に密閉空間が形成される。
【0026】
観察窓2は、蓋部1bに形成される。ユーザは、観察窓2を介して枠体1の内部を観察できる。
【0027】
緩衝体3は、胴部1aの内壁に沿って配置される。緩衝体3は、滑走部8から放出される筐体Vを受け止める。
【0028】
駆動源4は、蓋部1bの上面中央に配置される。駆動源4は、回転軸5に駆動力を供給する。駆動源4は、例えば、圧縮空気によって駆動するエアタービンである。
【0029】
回転軸5は、回転衝撃試験装置100の内部で鉛直方向に沿って支持される。回転軸5は、回転衝撃試験装置100から供給される動力によって鉛直回転軸Aを中心として回転する。回転軸5の内部には、内部配線12が挿通される。
【0030】
軸受け部6は、蓋部1bに形成される。軸受け部6は、回転軸5の下端部を回転自在に支持する。軸受け部6は、回転体7の上端部を回転自在に支持する。軸受け部6の内部には、内部配線12が挿通される。
【0031】
回転体7は、連結部71とフライホイール72とによって構成される。連結部71は、回転軸5の下端部に連結される。フライホイール72は、連結部71の下部に連結される。フライホイール72は、例えば円板状に形成されており、回転エネルギーを貯蔵する機能を有する。回転体7の内部には、内部配線12が挿通される。
【0032】
滑走部8は、フライホイール72上に取り付けられる。滑走部8は、第1滑走部81と第2滑走部82とを有する。第1滑走部81は、第1筐体V1の滑走空間S1(図3参照)を構成する。第2滑走部82は、第2筐体V2の滑走空間S2(図3参照)を構成する。滑走部8の構成については後述する。
【0033】
保持機構9は、筐体Vを滑走部8内の所定位置に保持する。なお、図1では、保持機構9のうちフライホイール72内に設けられる一対の第1保持軸91a及び一対の第2保持軸92aのみが図示されている。保持機構9の構成については後述する。
【0034】
解除機構10は、回転体7の下部に取り付けられる。解除機構10は、回転体7とともに回転する。解除機構10は、一対の第1保持軸91a及び一対の第2保持軸92aの下端に連結される支持板101と、支持板101を上下動させるモータ102とを有する。解除機構10は、モータ102を駆動して支持板101を降下させる。これによって、一対の第1保持軸91aが降下されて第1筐体V1の保持が解除されるとともに、一対の第2保持軸92aが降下されて第2筐体V2の保持が解除される。解除機構10の構成については後述する。
【0035】
振れ止め部11は、解除機構10の下端部を支持する。振れ止め部11は、鉛直回転軸Aを中心として回転する回転体7の振れが大きい場合に、回転体7の振れを止める。
【0036】
内部配線12は、図示しないが、電力線と信号線とを有する。電力線は、回転軸5及び回転体7の内部に挿通されており、モータ102とスリップリング13とを接続する。信号線は、滑走部8の電気接点21(図4参照)とスリップリング13とを接続する。信号線には、筐体Vの6本の端子33(図5参照)及び滑走部8の電気接点21(図4参照)を介して、被試験体DUTから送信される所定の電気信号が伝達される。
【0037】
スリップリング13は、回転側の内部配線12と非回転側の外部配線14とを電気的に接続する。
【0038】
図示しないが、回転衝撃試験装置100は、オシロスコープなどの外部計測器を備える。
【0039】
外部配線14は、スリップリング13と図示しない外部計測器とを接続する。外部配線14は、内部配線12によって伝送される信号を図示しない外部計測器に伝送する。また、外部配線14は、スリップリング13と図示しない外部電源装置とを接続する。
【0040】
(滑走部8周辺)
以下において、本実施形態に係る滑走部8周辺の構成について、図面を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係る滑走部8周辺の構成を示す透過斜視図である。図3は、本実施形態に係る回転体7を鉛直方向上方から見た平面図である。図4は、本実施形態に係る第1滑走部81の斜視図である。なお、図3では、後述する第1蓋部81c及び第2蓋部82cが省略されている。
【0041】
1.回転体7
回転体7は、鉛直回転軸Aを中心として回転方向Bに向かって回転する。回転体7は、第1水平面fH1及び第2水平面fH2を有する。第1水平面fH1及び第2水平面fH2は、鉛直回転軸Aの径方向Cに沿って水平に形成される。第1水平面fH1と第2水平面fH2とは、鉛直回転軸Aを中心として180℃回転対称に形成される。
【0042】
2.滑走部8
図2及び図3に示すように、滑走部8は、第1滑走部81及び第2滑走部82を有する。
【0043】
2.1 第1滑走部81
第1滑走部81は、第1ガイド部81a、第1側壁部81b及び第1蓋部81cを有する。
【0044】
第1ガイド部81aは、径方向Cに沿って回転体7(フライホイール72)上にボルトによって取り付けられる。第1筐体V1は、第1ガイド部81aに当接された状態で保持される。また、第1筐体V1は、第1ガイド部81aに当接された状態で滑走する。第1ガイド部81aは、第1筐体V1が当接される第1ガイド面fG1を有する。本実施形態において、第1ガイド面fG1は、図3に示すように、径方向Cに沿って延びる鉛直面である。
【0045】
ここで、図4に示すように、第1ガイド部81aには、凹部20及び6本の電気接点21が形成されている。凹部20は、径方向Cに沿って形成される。6本の電気接点21は、凹部20の底面において、径方向Cに沿って形成される。6本の電気接点21は、内部配線12の信号線に接続されている。
【0046】
第1側壁部81bは、径方向Cに沿って回転体7(フライホイール72)上にボルトによって取り付けられる。第1側壁部81bは、第1ガイド部81aに対向する第1側壁面fS1を有する。第1側壁面fS1は、径方向Cに沿って延びるように形成される。また、本実施形態において、第1側壁面fS1は、図3に示すように、径方向Cに沿って延びる鉛直面であり、第1ガイド面fG1に対向している。
【0047】
第1蓋部81cは、第1ガイド部81a、第1側壁部81b及び回転体7によって囲まれた第1滑走空間S1を覆う。第1蓋部81cは、第1ガイド部81a及び第1側壁部81bにボルトによって取り付けられる。
【0048】
なお、第1ガイド部81aと第1側壁部81bとは、フライホイール72への締結面において互いに連結されていてもよい。
【0049】
2.2 第2滑走部82
第2滑走部82は、第2ガイド部82a、第2側壁部82b及び第2蓋部82cを有する。第2ガイド部82a、第2側壁部82b及び第2蓋部82cは、上述の第1ガイド部81a、第1側壁部81b及び第1蓋部81cと同様の構成を有する。
【0050】
ただし、第2滑走部82は、鉛直回転軸Aを中心として第1滑走部81と180°回転対称に形成されていることに留意すべきである。第2ガイド部82aの第2ガイド面fG2は、鉛直回転軸Aを中心として第1ガイド面fG1と180°回転対称に形成される。第2側壁部82bの第2側壁面fS2は、鉛直回転軸Aを中心として第1側壁面fS1と180°回転対称に形成される。
【0051】
フライホイール72上には、第2水平面fH2、第2ガイド面fG2及び第2側壁面fS2によって囲まれた第2滑走空間S2が形成される。
【0052】
なお、第2ガイド部82aと第2側壁部82bとは、フライホイール72への締結面において互いに連結されていてもよい。
【0053】
3.保持機構9
図2及び図3に示すように、保持機構9は、第1保持機構91及び第2保持機構92を有する。
【0054】
3.1 第1保持機構91
第1保持機構91は、第1滑走空間S1の鉛直回転軸A側において、第1筐体V1を第1ガイド面fG1に当接させた状態で保持する。第1保持機構91は、一対の第1保持軸91a、一対の第1介在レバー91b及び一対の第1保持レバー91cによって構成される。
【0055】
一対の第1保持軸91aは、フライホイール72に挿通される。一対の第1保持軸91aの下端部は、支持板101に連結される。一対の第1保持軸91aの上端部は、一対の第1介在レバー91bの第1端部に挿入される。
【0056】
一対の第1介在レバー91bは、一対の第1保持軸91aと一対の第1保持レバー91cとの間に介在する部材である。一対の第1介在レバー91bの第1端部は、一対の第1保持軸91aに係止される。一対の第1介在レバー91bの第2端部は、鉛直軸mに回転可能に支持される。
【0057】
ここで、鉛直軸mは、第1介在レバー91bの第2端部に設けられる。そのため、第1保持軸91aから第1介在レバー91bに作用する力を、第1保持レバー91cから第1介在レバー91bに作用する力よりも小さくできる。このように、第1介在レバー91bは、てこの作用によって第1保持レバー91cを保持できる。
【0058】
一対の第1保持レバー91cは、第1筐体V1を直接保持する。一対の第1保持レバー91cの第1端部は、一対の第1介在レバー91bの第2端部に係止される。一対の第1保持レバー91cの第2端部は、鉛直軸nに回転可能に支持される。また、一対の第1保持レバー91cの第2端部の先端に形成された爪部Pは、第1筐体V1の両側に噛み合わされる。
【0059】
ここで、鉛直軸nは、第1保持レバー91cの第2端部に設けられる。そのため、第1介在レバー91bから第1保持レバー91cに作用する力を、第1筐体V1から第1保持レバー91cに作用する力よりも小さくできる。このように、第1保持レバー91cは、てこの作用によって第1筐体V1を保持できる。
【0060】
第1保持機構91による第1筐体V1の保持は、第1筐体V1が回転方向Bに回転している場合に解除機構10が作動されることによって解除される。具体的には、支持板101がモータ102の駆動力で降下すると、一対の第1保持軸91aは、一対の第1介在レバー91bから下方に抜き外される。次に、一対の第1介在レバー91bが自身の遠心力によって鉛直軸mを中心として回転方向Dに回転することによって、一対の第1保持レバー91cの第1端部の係止が外れる。次に、一対の第1保持レバー91cは、爪部Pにかかる第1筐体V1の遠心力によって鉛直軸nを中心として回転方向Eに回転する。この結果、第1筐体V1の両側から一対の第1保持レバー91cの爪部Pが外れることによって、第1筐体V1の保持が解除される。
【0061】
3.2 第2保持機構92
第2保持機構92は、第2滑走空間S2の鉛直回転軸A側において、第2筐体V2を保持する。第2保持機構92は、一対の第2保持軸92a、一対の第2介在レバー92b及び一対の第2保持レバー92cによって構成される。
【0062】
一対の第2保持軸92a、一対の第2介在レバー92b及び一対の第2保持レバー92cは、上述の第1保持軸91a、一対の第1介在レバー91b及び一対の第1保持レバー91cと同様の構成を有する。
【0063】
第2保持機構92による第2筐体V2の保持は、第2筐体V2が回転方向Bに回転している場合に解除機構10が作動されることによって解除される。
【0064】
(筐体V)
以下において、本実施形態に係る筐体Vの構成について、図面を参照しながら説明する。なお、第1筐体V1と第2筐体V2との構成は同じであるので、以下、第1筐体V1の構成について説明する。
【0065】
図5は、本実施形態に係る筐体V1の構成を示す透過斜視図である。図6は、本実施形態に係る第1滑走空間S1を径方向外側から見た図である。図5に示すように、第1筐体V1は、本体部30、第1側壁31、第2側壁32、6本の端子33を有する。
【0066】
本体部30は、円柱状に形成された収容容器である。本体部30は、内部に形成された空間に第1被試験体DUT1を収容する。第1被試験体DUT1は、電子部品としての機能に応じた所定の電気信号を送信する。
【0067】
第1側壁31は、本体部30の第1ガイド部81a側に設けられる。第2側壁32は、本体部30の第1側壁部81b側に設けられる。
【0068】
第1側壁31は、第1ガイド面fG1に当接される被当接面fC1を有する。第1筐体V1は、被当接面fC1が第1ガイド面fG1に当接された状態で、第1滑走空間S1を滑走する。
【0069】
6本の端子33は、いわゆるブラシ端子である。6本の端子33は、被当接面fC1から突出する。6本の端子33は、本体部30に収容される第1被試験体DUT1と電気的に接続される。図6に示すように、6本の端子33は、第1ガイド部81aの6本の電気接点21に当接される。これによって、第1筐体1が第1滑走空間S1を滑走する場合、第1被試験体DUT1から送信される所定の電気信号は、6本の端子33を介して6本の電気接点21に伝達される。
【0070】
(回転衝撃試験方法)
次に、回転衝撃試験装置100を用いた回転衝撃試験方法について説明する。
【0071】
まず、第1被試験体DUT1を第1筐体V1に収容するとともに、第2被試験体DUT2を第2筐体V2に収容する。
【0072】
次に、第1筐体V1を第1ガイド部81a(第1ガイド面fG1)に当接させて配置するとともに、第2筐体V2を第2ガイド部82a(第2ガイド面fG2)に当接させて配置する。
【0073】
次に、第1筐体V1を第1ガイド部81aに当接させた状態で、第1保持機構91によって第1筐体V1を保持するとともに、第2筐体V2を第2ガイド部82aに当接させた状態で、第2保持機構92によって第2筐体V2を保持する(以下、「保持工程」という。)。具体的には、一対の第1保持レバー91cの爪部Pを第1筐体V1の両側に噛み合わせた後に、一対の第1保持レバー91cの第1端部を、一対の第1介在レバー91bの第2端部に係止するとともに、一対の第1介在レバー91bの第1端部に一対の第1保持軸91aの上端部を挿入する。同様に、一対の第2保持レバー92cの爪部Pを第2筐体V2の両側に噛み合わせた後に、一対の第2保持レバー92cの第1端部を一対の第2介在レバー92bの第2端部に係止するとともに、一対の第2介在レバー92bの第1端部に一対の第2保持軸92aの上端部を挿入する。
【0074】
次に、鉛直回転軸Aを中心として第1ガイド部81a及び第2ガイド部82aを回転方向Bに回転させる(以下、「回転工程」という。)。これによって、筐体V、回転体7、滑走部8、保持機構9及び解除機構10が一体となって回転方向Bに回転される。
【0075】
次に、第1筐体V1の保持を解除することによって、第1筐体V1を第1ガイド部81aに当接させながら径方向C外向きに滑走させる。また、第2筐体V2の保持を解除することによって、第2筐体V2を第2ガイド部82aに当接させながら第1筐体V1と同時に径方向Cの外向きに滑走させる(以下、「滑走工程」という。)。具体的には、回転軸5の回転を一定に保持しながら、解除機構10を駆動する。これによって、保持機構9による筐体Vの保持が解除されるとともに、筐体Vは遠心力による滑走を開始する。
【0076】
ここで、図7は、滑走工程において筐体Vに働く慣性力を示す模式図である。図7に示すように、筐体Vが径方向C外向きに滑走するほど筐体Vに働く遠心力Frが大きくなるので、筐体Vの径方向C外向きの速度は増加する。そのため、筐体Vが径方向C外向きに滑走するほど筐体Vに働くコリオリの力Fcが増加する。このようなコリオリの力Fcに基づくコリオリの加速度の時間推移は、図示しないオシロスコープ等の外部計測器により検出される(以下、「検出工程」という。)。
【0077】
なお、滑走工程において被試験体DUTから送信される電気信号は、6本の端子33から6本の電気接点21に伝達された後、内部配線12、スリップリング13及び外部配線14を介して、図示しないオシロスコープ等の外部計測器に入力される。
【0078】
次に、第1筐体V1及び第2筐体V2は、滑走部8から放出された後、胴部1aの内壁に沿って配置される緩衝体3に衝突する。
【0079】
(作用及び効果)
(1) 本実施形態に係る回転衝撃試験方法は、鉛直回転軸Aを中心として第1ガイド部81aを回転方向Bに回転させることによって、第1筐体V1を回転方向Bに回転させる回転工程と、第1筐体V1の保持を解除することによって、第1筐体V1を第1ガイド部81aに当接させながら径方向C外向きに滑走させる滑走工程と、滑走工程において第1被試験体DUT1に働くコリオリの加速度の時間推移を検出する検出工程とを備える。
【0080】
このように、第1ガイド部81aに沿って第1筐体V1を滑走させることによって、第1筐体V1に収容された第1被試験体DUT1にコリオリの加速度を働かせることができる。このようなコリオリ力の加速度によって、第1被試験体DUT1に衝撃力が印加される。ここで、第1被試験体DUT1に働くコリオリの加速度は、上述のように運動方程式の解として算出可能である。また、第1被試験体DUT1に働くコリオリの加速度の時間推移は、回転体7の回転数(角速度ωに対応)及び第1筐体V1の保持位置(半径rに対応)の変更によって、容易に調整可能である。従って、本実施形態に係る回転衝撃試験方法によれば、実使用環境において第1被試験体DUT1に印加される加速度の時間推移を精度良く模擬することができる。特に、砲弾発射時などの特殊なケースであっても、砲弾に収容される電子部品が受ける加速度の時間推移を精度良く模擬できる。
【0081】
また、本実施形態に係る回転衝撃試験方法では、滑走工程において、電子部品である第1被試験体DUT1から送信される電気信号を取得する。
【0082】
従って、電気信号を解析することによって、コリオリの加速度による衝撃力が印加される滑走工程において、第1被試験体DUT1が正常に作動したか否かを容易に判別できる。また、第1筐体V1の外部で電気信号を解析できるので、電気信号を記憶可能なメモリを第1筐体V1に収容する必要がない。従って、メモリのクロック精度やメモリ容量による制約を受けることなく電気信号を分析することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る回転衝撃試験方法では、滑走工程において、鉛直回転軸Aを中心として第1筐体V1と対称に第2筐体V2を滑走させる。
【0084】
従って、滑走工程において、径方向Cにおける対称な運動を生じさせることができるので、回転体7の回転に振れが発生することを抑制できる。また、第1被試験体DUT1と第2被試験体DUT2とに対する加速度(すなわち、衝撃力)の印加衝撃試験を同時に実施できるので、試験効率を向上することができる。
【0085】
(2) 本実施形態に係る回転衝撃試験装置100は、回転方向Bに回転可能な回転体7と、径方向Cに沿って設けられる第1ガイド部81aと、第1筐体V1を第1ガイド部81aに当接させた状態で保持する第1保持機構91と、第1保持機構91による保持を解除する解除機構10とを備える。
【0086】
従って、第1筐体V1を第1ガイド部81aに当接させた状態で保持して、回転体7を回転させながら解除機構10を作動させることによって、第1ガイド部81aに沿って第1筐体V1を滑走させることができる。これによって、第1筐体V1に収容された第1被試験体DUT1にコリオリの加速度を働かせることができる。第1被試験体DUT1に働くコリオリの加速度は、上述のように運動方程式の解として算出可能である。また、第1被試験体DUT1に働くコリオリの加速度の時間推移は、回転体7の回転数及び第1筐体V1の保持位置の変更によって、容易に調整可能である。従って、本実施形態に係る回転衝撃試験装置によれば、実使用環境において第1被試験体DUT1に印加されるコリオリの加速度の時間推移を精度良く模擬することができる。
【0087】
また、本実施形態に係る回転衝撃試験装置100によれば、オシロスコープ等の外部計測器によって、印加されるコリオリの加速度の時間推移を計測できる。
【0088】
また、本実施形態に係る回転衝撃試験装置100において、第1ガイド部81aは、径方向Cに沿って第1ガイド部81aに設けられる6本の電気接点21を有し、第1筐体V1は、6本の電気接点21に当接され、第1被試験体DUT1から送信される電気信号を6本の電気接点21に伝達する6本の端子33を有する。
【0089】
従って、電気信号を解析することによって、滑走工程におけるコリオリの加速度の印加中に第1被試験体DUT1が正常に作動したか否かを容易に判別できる。また、第1筐体V1の外部で電気信号を解析できるので、電気信号を記憶可能なメモリを第1筐体V1に収容する必要がない。従って、メモリのクロック精度やメモリ容量による制約を受けることなく電気信号を分析することができる。
【0090】
また、本実施形態に係る回転衝撃試験装置100は、第2ガイド部82aと第2保持機構92とを備え、解除機構10は第2保持機構92による保持を解除する。
【0091】
従って、滑走工程において、径方向Cにおける対称な運動を生じさせることができるので、回転体7の回転に振れが発生することを抑制できる。また、第1被試験体DUT1と第2被試験体DUT2との回転衝撃試験を同時に実施できるので、試験効率を向上することができる。
【0092】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0093】
(1) 上記実施形態では、第1筐体V1及び第2筐体V2を同時に滑走させることとしたが、これに限られるものではない。1つの筐体Vのみを滑走させてもよいし、3以上の筐体Vを同時に滑走させてもよい。
【0094】
また、n個の筐体を同時に滑走させる場合には、上面視において、鉛直回転軸Aを中心としてn個のガイド部を360/n度ずつずらして配置すればよい。これによって、鉛直回転軸Aを中心としてn枚の滑走面fが360/n度ずつずれた位置に配置されるので、n個の筐体をバランス良く滑走させることができる。
【0095】
(2) 上記実施形態では、被試験体DUTが電子部品であることとしたが、これに限られるものではない。被試験体DUTは、実使用環境において衝撃が印加される物体であればよい。
【0096】
(3) 上記実施形態では、1つの筐体Vに1つの被試験体DUTが収容されることとしたが、これに限られるものではない。1つの筐体Vに複数の被試験体DUTが収容されていてもよい。
【0097】
(4) 上記実施形態では、保持機構9による保持を解除する1つの解除機構10の構成について説明したが、これに限られるものではない。解除機構10は、第1保持機構91による保持を解除する第1解除機構と、第2保持機構92による保持を解除する第2解除機構とによって構成されていてもよい。
【0098】
(5) 上記実施形態では、被試験体DUTから送信される所定の電気信号を筐体Cの外部で取得することとしたが、これに限られるものではない。例えば、筐体Cの内部に収容されたメモリに記憶させてもよい。この場合には、耐衝撃性後において、メモリから読み出される電気信号を分析すればよい。
【0099】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実証実験】
【0100】
以下、本発明に係る回転衝撃試験方法の実証実験について具体的に説明する。ただし、本発明は、下記の実証実験に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができるものである。
(実験目的)
以下に説明する実験は、被試験体に働くコリオリの加速度の実測値と被試験体に働くコリオリの加速度の計算値とが一致することを実証すること、及び回転衝撃試験によって実使用環境における加速度の時間推移を精度良く模擬できることを実証することを目的とする。
【0101】
なお、今回の実験では、砲弾発射時における加速度の時間推移を模擬した。
【0102】
(実験装置)
今回の実験では、図1〜図6に示す回転衝撃試験装置100と同様の構成を有する実験装置を使用した。
【0103】
(実験結果)
コリオリの加速度の実測値は、コリオリの加速度の計算値と精度良く合致することが実証された。
【0104】
この結果から、図9に示すように、砲弾発射時の加速度の時間推移を精度良く模擬できることが判明した。図9において、実線は回転衝撃試験装置で実現可能と判明した加速度の時間推移(実験結果)を示し、破線は砲弾発射時の加速度の時間推移を示す。
【符号の説明】
【0105】
100…回転衝撃試験装置、1…枠体、1a…胴部、1b…蓋部、2…観察窓、3…緩衝体、4…駆動源、5…回転軸、6…軸受け部、7…回転体、71…連結部、72…フライホイール、8…滑走部、81…第1滑走部、82…第2滑走部、9…保持機構、10…解除機構、101…支持板、102…モータ、11…振れ止め部、12…内部配線、13…スリップリング、14…外部配線、A…鉛直回転軸、B…回転方向、C…径方向、V…筐体、DUT…被試験体、f…ガイド面、f…水平面、f…側壁面、S…滑走空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直回転軸を中心として回転しながら前記鉛直回転軸の径方向に直線移動する物体に働くコリオリの力を利用して、被試験体に加速度を印加する回転衝撃試験方法であって、
第1被試験体を収容する第1筐体を、前記径方向に沿って設けられる第1ガイド部に当接させた状態で保持する保持工程と、
前記鉛直回転軸を中心として前記第1ガイド部を回転させる回転工程と、
前記第1筐体の保持を解除することによって、前記第1筐体を前記第1ガイド部に当接させながら前記径方向外向きに滑走させる滑走工程と、
前記滑走工程において前記第1被試験体に働くコリオリの加速度の時間推移を検出する検出工程と、
を備える回転衝撃試験方法。
【請求項2】
前記滑走工程において、電子部品である前記第1被試験体から送信される電気信号を取得する、
請求項1に記載の回転衝撃試験方法。
【請求項3】
前記保持工程において、第2被試験体を収容する第2筐体を、前記鉛直回転軸を中心として前記第1ガイド部と対称に形成される第2ガイド部に当接させた状態で保持し、
前記滑走工程では、前記鉛直回転軸を中心として前記第1筐体と対称に前記第2筐体を前記第2ガイド部に当接させながら滑走させる、
請求項1又は2に記載の回転衝撃試験方法。
【請求項4】
鉛直回転軸を中心として回転しながら前記鉛直回転軸の径方向に直線移動する物体に働くコリオリの力を利用して、被試験体に加速度を印加する回転衝撃試験装置であって、
前記鉛直回転軸を中心として回転可能な回転体と、
前記鉛直回転軸の径方向に沿って設けられており、前記回転体に取り付けられる第1ガイド部と、
第1被試験体を収容し、前記第1ガイド部に当接される第1筐体と、
前記第1筐体を前記第1ガイド部に当接させた状態で保持する第1保持機構と、
前記第1保持機構による前記第1筐体の保持を解除する第1解除機構と、
を備える回転衝撃試験装置。
【請求項5】
前記第1被試験体は、電子部品であり、
前記第1ガイド部は、前記径方向に沿って設けられる電気接点を有し、
前記第1筐体は、前記電気接点に当接され、前記第1被試験体から送信される電気信号を前記電気接点に伝達する端子を有する、
請求項4に記載の回転衝撃試験装置。
【請求項6】
前記鉛直回転軸を中心として前記第1ガイド部と対称に設けられており、前記回転体に取り付けられる第2ガイド部と、
第2被試験体を収容し、前記第2ガイド部に当接される第2筐体と、
前記第2筐体を前記第2ガイド部に当接させた状態で保持する第2保持機構と、
前記第2保持機構による前記第2筐体の保持を解除する第2解除機構と、
を備える請求項4又は5に記載の回転衝撃試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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