説明

固体含有生物抽出物のウイルスおよび微生物含有量を低減する方法

本発明は、固体含有生物抽出物のウイルスおよび微生物含有量を低減する方法に関する。その際、本方法は、(a)酵素、タンパク質およびペプチドから選択された、生物活性を示す少なくとも1種類の有効成分またはそのような有効成分の混合物を含む固体含有生物抽出物を調製するステップと、(b)ステップ(a)において調製された抽出物を高圧処理にかけるステップとを含み、高圧処理後の固体含有生物抽出物の生物活性が、高圧処理前の固体含有生物抽出物の生物活性の少なくとも50%に相当する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体を含有する生物抽出物からウイルスおよび微生物の含有量を低減する方法、前記方法により調製された固体含有生物抽出物、ならびにそのような固体含有生物抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生物由来の出発材料から得られる抽出物は、高いウイルス含有量を有することがある。ウイルスは、タンパク質の外皮で囲まれた核酸である。外皮を持つウイルスではさらに、外側に脂質の外皮が加わる。ウイルスは独力で複製できないので、宿主に頼らざるを得ない。したがって、ウイルスは実質的に地球のすべての生物に存在している。ウイルスは高い宿主特異性を有するので、既知のウイルスのうち僅かしかヒトに対して病原性を示さない。消費者の危険を最初から排除するために、ヒトの食物に供されるかまたは薬剤の有効成分として使用される抽出物は、原理的にウイルス含有量を可能な限り僅かしかまたは全く有してはならない。元来の生産方法は、必ずしも存在するウイルスを有意に不活化または除去するわけではないので、特に医薬の有効成分を製造する場合は、その方法にさらなる分離ステップまたは不活化ステップを組み込まねばならない。
【0003】
ウイルスおよび微生物の分離または不活化には数多くの方法が知られている。たとえば、クロマトグラフィーまたは濾過による機械的除去の他、化合物の添加によりこうした混入物を選択的に不活化することができる。しかしながら最後に挙げた方法は、それらの化合物が最終産物中で有毒作用を惹起しないように、後でその化合物を完全に除去しなければならないという点で問題がある。たとえば、熱処理または光照射のような物理的方法も同様に、ウイルスまたは微生物を不活化するための一般的な方法である。
【0004】
活性物質(Wirksubstanz)が酵素混合物である複雑な生物抽出物から、タンパク質の酵素活性を失わずまたは変えずに、ウイルスを不活化または除去することは並々ならぬ挑戦的課題である。
【0005】
医薬有効成分のパンクレアチンは、特に経済的な興味を引き、ドイツ特許出願公開第3248588 A1号(特許文献1)に記載されているように、ブタの膵臓から抽出物として得られ、経口治療薬として乾燥状態で適用される。
【0006】
パンクレアチンの典型的な製造方法を以下に、図1を参照にして説明する。ブタから取り出した膵腺1をまず細かく刻み2、自己消化(オートリシス)3にかける。こうして得られた中間産物を濾過4することにより、濾過液を得る5。この濾過液中に存在する酵素を次いで沈殿させ6、混合物を濾過し7、濾過ケークを得る8。得られた濾過ケークを続いて磨砕し9、真空乾燥し10、再び磨砕して、パンクレアチンが得られる。この方法において参照符号2〜10で示される各ステップは、それぞれ中間産物をもたらし、それを以下では中間段階と称する。
【0007】
パンクレアチン中の活性物質としては、とりわけ、リパーゼ、アミラーゼおよびプロテアーゼのような様々な高分子分解酵素がある。すべての酵素が有効成分中で特定の比率および活性型で存在することが、治療薬が有効性を示すための前提である。パンクレアチンの特殊性は、その含有酵素が一部は溶液中に存在しており、一部は粒子に結合して存在し、したがって懸濁液であるという点にある。
【0008】
パンクレアチンのウイルス含有量に関する研究によれば、現行の製造工程により、外皮を持つウイルスは有意に不活化されるが、外皮を持たないウイルスは不活化されない。原理的に、医薬有効成分は感染性ウイルスを含んでいるべきではない。現行の製造工程は、明らかに、潜在的に存在する、外皮を持たないウイルスの混入を充分な安全マージンで排除することができないので、ウイルスを減少させる追加のステップを実施する必要がある。
【0009】
乾燥熱もしくは湿熱のような従来のウイルスの不活化方法、または濾過もしくはクロマトグラフィーのようなウイルスの分離方法は多くの場合、生物の出発材料からの抽出物、特に器官からの抽出物において、組成の変化および/または製品の高損失をともなわずに適用することはできない。抽出物に懸濁特性を与える不溶性成分が、こうした抽出物において特に問題となることが多い。それによって、フィルターまたはクロマトグラフィーカラムの詰まりが生じる。さらに、有効な物質はしばしば可溶性画分にも微粒子画分にも分散されており、したがって機械的分離法により一部が除去される。
【0010】
生物材料中に存在するウイルス、細菌およびキノコ類を不活化するためのさらなる方法が知られている。たとえば、国際公開WO02/056824 A2号(特許文献2)は、高圧をかけることにより、生物材料中の病原体を不活化することを開示する。この発明は、血漿の処理、つまり生物活性物質の水溶液の処理に関する。Bradley D.W.らは、「Pressure cycling technology: a novel approach to virus inactivation in plasma」、Transfusion、40、2000年、193(非特許文献1)に、同様に血漿を処理する方法を記載している。
【0011】
食品の高圧処理については、様々な記載がある。たとえば、ノロウイルスまたはA型肝炎ウイルスを不活化するために、二枚貝類を高圧で処理することができる[Kingsleyら、「Inactivation of a Norovirus by High-Pressure Processing」、Appl. Environ. Microbiol.、2007年、581(非特許文献2)、およびCalciら、「High-Pressure Inactivation of Hepatitis A Virus within Oysters」、Appl. Environ. Microbiol.、2005年、339(非特許文献3)]。こうした処理によっても、食品の官能的特性は保たれるべきである。高圧処理後における、酵素または他の有効成分の生物活性については検討されなかった。いずれにしろ、どちらの研究も固体が研究対象であった。
【0012】
しかしながら、高圧処理により特定のウイルスの不活化が実際に成功したかどうか、たやすくは予測し兼ねることも公知である[Grove S.F.ら、「Inactivation of Foodborne Viruses of Significance by High Pressure and other Processes」、J. Food Prot.、2006年、667(非特許文献4)]。試料が液体であるか固体であるかにより、試料の圧縮性が異なるので、様々な条件を選択しなければならない。
【0013】
そのほか、高圧処理が食品の変性をもたらすこともある。たとえば、果物はこうした処理にかけられると褐色になる。このような変色は酵素反応に起因し、酵素の生物活性の変化が推測される。
【0014】
充分に均質な状態で存在していない生物材料の場合、特別な困難がある。懸濁状態の固体含有抽出物においては、生物活性を示す有効成分の一部は液相中に存在し、他の部分は分散した固体微粒子中に存在する。液相の圧縮性は固体微粒子の圧縮性より大きいので、前記固体部分のウイルスを不活化すると液相に存在する有効成分の破壊をもたらす可能性がある。
【0015】
パンクレアチンまたはその製造に際し生じる中間段階は、天然のウイルス含有量およびその懸濁特性により、模範的な固体含有生物抽出物である。古典的なスパイク実験(Spiking-Experimenten)では、対応する物質が、様々な実験室株でスパイク処理され、処理の前後における力価が決定される。
【0016】
さらには、固体含有生物抽出物に含まれるウイルスおよび細菌含有量を、完全にまたは最低にまで減少させる方法が要求されている。その方法は、固体および懸濁液に対して同程度に適切でなければならない。その方法は特に、パンクレアチン中に、外皮を持たないウイルスの不活化を可能にすべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第3248588 A1号
【特許文献2】国際公開WO02/056824 A2号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Bradley D.W.ら、「Pressure cycling technology: a novel approach to virus inactivation in plasma」、Transfusion、40、2000年、193
【非特許文献2】Kingsleyら、「Inactivation of a Norovirus by High-Pressure Processing」、Appl. Environ. Microbiol.、2007年、581
【非特許文献3】Calciら、「High-Pressure Inactivation of Hepatitis A Virus within Oysters」、Appl. Environ. Microbiol.、2005年、339
【非特許文献4】Grove S.F.ら、「Inactivation of Foodborne Viruses of Significance by High Pressure and other Processes」、J. Food Prot.、2006年、667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、従来技術の欠点を克服することである。とりわけ、固体および懸濁液に適し、生物抽出物に含まれる酵素の活性を実質的に低下させず、医薬に望まれる特性を損なわず、有毒化合物を全く生成しない、固体含有生物抽出物のウイルスおよび微生物含有量を低減する方法を提示すべきである。さらに、その方法によって製造された抽出物、およびこの抽出物の使用を提示すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題は、請求項1、16、18および19の特徴部分により解決される。本発明の目的に合った変形形態は、従属請求項の特徴部分から判明する。
【0021】
本発明によれば、以下のステップを含む、固体含有生物抽出物のウイルスおよび微生物含有量を低減する方法が提供される。
【0022】
(a)酵素、タンパク質およびペプチドから選択される、生物活性を示す少なくとも1種類の有効成分またはそのような有効成分の混合物を含む固体含有生物抽出物を調製するステップ、および
【0023】
(b)ステップ(a)において調製された抽出物を高圧処理にかけるステップ。
【0024】
その際に、高圧処理後の固体含有生物抽出物の生物活性は、高圧処理前の固体含有生物抽出物の生物活性の少なくとも50%に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好ましくは、前記固体含有生物抽出物を、液相およびそこに分散する固体微粒子を含む懸濁液として調製し、その際、生物活性を示す有効成分の混合物は、一部が液相に溶解し、他の一部は固体微粒子に結合している。同様に好ましくは、固体含有生物抽出物は固体状に調製してもよい。
【0026】
本明細書中の「固体含有生物抽出物」という概念は、酵素、タンパク質およびペプチドから選択される、生物活性を示す有効成分を含む抽出物、またはそのような有効成分の混合物を含む抽出物を意味する。固体含有生物抽出物が、生物活性を示す上記の有効成分の混合物を含むことが好ましい。以下では便宜上、固体含有生物抽出物を抽出物とも称する。
【0027】
前記固体含有生物抽出物は好ましくは、動物の器官からアルコール溶解性または水溶性の抽出物として得られる抽出物である。含有される、生物活性を示す有効成分または有効成分混合物は、その抽出物中で溶液として存在しても、固体に結合した状態として存在してもよい。このような固体含有生物抽出物は複雑な抽出物である。生物活性を示す有効成分またはその種の有効成分混合物は、好ましくは医薬活性を有する。
【0028】
「生物活性を示す有効成分」という概念は、医薬上の有効成分および治療上の有効成分を意味する。本発明の意味における、生物活性を示す有効成分とは、たとえば、酵素、タンパク質およびペプチドである。
【0029】
抽出物が得られる動物器官の例としては、肝臓、膵臓および胃粘膜が挙げられる。
【0030】
本発明に基づく固体含有生物抽出物の例は、膵臓、特にブタの膵臓から得られる抽出物である。特別の例は、パンクレアチン、およびその製造の際に生じる中間段階である。この中間段階は、図2に参照符号2〜10を付して示される。中間段階の好ましい例は、濾過液(図2の参照符号5)および濾過ケーク(図2の参照符号8)であり、それらを得た後に高圧処理が実施される。すなわち、濾過液および/または濾過ケークを高圧処理にかけることができる(図2の参照符号13または14)。膵臓からは、医薬有効成分としてパンクレアチンが得られる。パンクレアチンおよびその製造の際に生じる中間段階は、とりわけ、酵素のリパーゼ、アミラーゼおよびプロテアーゼを含んでいる。したがってそれらは、本発明の意味における固体含有生物抽出物である。抽出物は好ましくは、本発明による方法のステップ(a)において、水−アルコール抽出物として調製される。
【0031】
本発明の方法は、DNAウイルスおよびRNAウイルス、外皮を持つウイルスおよび外皮を持たないウイルスのようなすべてのウイルス形態、さらにビリオンおよびプリオンまたは類似の生命系、ならびに細菌およびキノコ類に適用可能である。この方法は好ましくは、ブタの膵臓から得られるパンクレアチン中の、またはその製造の際に生じる対応する中間段階(図2を参照)中における、外皮を持たないウイルスの含有量を低減するために適用される。
【0032】
本発明の方法によると、酵素活性を実質的に低下させず、医薬目的の特性を損なわず、または有毒化合物を発生させずに、固体含有生物抽出物のウイルス含有量および微生物含有量を低減することができる。
【0033】
高圧処理後の固体含有生物抽出物の生物活性は、高圧処理前の固体含有生物抽出物の生物活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%となるべきである。
【0034】
抽出物中に含まれる、生物活性を示す有効成分の少なくとも1種類が酵素である場合、高圧処理後の固体含有生物抽出物の酵素活性は、高圧処理前の固体含有生物抽出物の酵素活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%となるべきである。
【0035】
高圧処理後における固体含有生物抽出物のウイルス感染性は、高圧処理前のウイルス感染性に比較して、1log10超、好ましくは3log10以上、特に好ましくは4log10以上の減少率まで低減させるべきである。これらは特に、外皮を持たないウイルスのウイルス感染性に関しても当てはまる。たとえば、処理後のパンクレアチンに含まれる外皮を持たないウイルスの感染性は、処理前のウイルスの感染性に比較して、1log10超、好ましくは3log10以上、特に好ましくは4log10以上の減少率まで低減させるべきである。高圧処理後における病原体含有量は、好ましくは500 KBE/g未満、特に好ましくは100 KBE/g未満である。
【0036】
抽出物の高圧処理に際し化学物質は添加されないので、処理後の有毒物質による含有量が処理前より大きくはならない。
【0037】
本発明に基づく方法のステップ(b)は好ましくは、1000〜8000barの範囲、特に好ましくは2000〜7000barの範囲、とりわけ好ましくは3000〜6000barの範囲の圧力をかけて実施される。この圧力処理は、本発明によれば、一定の圧力下でまたは圧力パルス(Druckimpulse)によって行われ、流動法またはバッチ法を用いて対応する装置中で実施することができる。ステップ(a)で調製された抽出物に対する高圧処理の時間は、好ましくは1〜60分間である。高圧処理は、好ましくは−20℃〜30℃の温度、特に好ましくは−10℃〜20℃の温度で実施される。
【0038】
ステップ(b)において高圧処理が行われる抽出物の液相は、溶媒として水または水と有機溶媒からなる混合物を含んでいてもよい。溶媒の割合は、懸濁液の重量に対して1〜90重量%の範囲でよい。パンクレアチン製造の際に生じる生物抽出物の場合、使用される溶媒は、好ましくはアルコール、特に好ましくはイソプロパノールである。イソプロパノールの割合は、懸濁液の重量に対して、典型的には5〜85重量%である。
【0039】
本発明によればさらに、本発明の方法によって得られた固体含有生物抽出物が提供される。この抽出物は、ウイルスおよび微生物の含有量が少ないことを特徴とする。この抽出物は、先の高圧処理にもかかわらず、抽出物の生物活性、特に酵素活性が実質的に低下せず、医薬を目的とした特性が損なわれず、高圧処理に際し添加された有毒化合物を含まない。
【0040】
高圧処理によって得られた、本発明の抽出物またはそれから製造された生物学的有効成分は、特に経口酵素療法の枠内で医薬品を製造するために、および食料品もしくは食品または栄養補助食品として使用することができる。
【0041】
以下に、本発明を例に基づき図面を参照にしてさらに詳しく説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】従来技術に基づく、ブタの膵腺からパンクレアチンを製造する方法のフローチャートである。
【図2】本発明に基づく、ブタの膵腺からパンクレアチンを製造する方法のフローチャートである。
【図3】パンクレアチン製造工程から得られた濾過液を様々な圧力で処理した後の相対酵素活性を、未処理試料の基準活性に対するパーセントで示した図である。
【図4】パンクレアチン製造工程から得られた濾過ケークを様々な圧力で処理した後の相対酵素活性を、未処理試料の基準活性に対するパーセントで示した図である。
【図5】パンクレアチン製造工程から得られた濾過ケークを様々な圧力および様々な温度で処理した後の相対酵素活性を、未処理試料の基準活性に対するパーセントで示した図である。
【図6】パンクレアチン製造工程から得られた濾過ケークを様々な圧力および様々な温度で処理した後の相対酵素活性を、未処理試料の基準活性に対するパーセントで示した図である。
【図7】パンクレアチン製造工程から得られた濾過ケークを様々な圧力および様々な温度で処理した後の相対酵素活性を、未処理試料の基準活性に対するパーセントで示した図である。
【実施例】
【0043】
本発明に基づくパンクレアチンの製造方法の一実施形態を、以下で図2を参照して説明する。ブタに由来する膵腺1をまず細かく刻み2、自己消化3にかける。こうして得られた中間産物を濾過4することにより、濾過液を得る5。この濾過液を後続処理の前に高圧処理にかけることもできる13。続いて濾過液中に存在する酵素を沈殿させ6、混合物を濾過し7、濾過ケークを得る8。得られた濾過ケークを高圧処理にかけることもできる14。濾過ケークを続いて磨砕し9、真空乾燥し10、再び磨砕することによりパンクレアチンが得られる12。
【0044】
図2に示される方法によれば、(i)濾過液の高圧処理13、または(ii)濾過ケークの高圧処理14、または(iii)濾過液の高圧処理13および濾過ケークの高圧処理14を行うことができる。
【0045】
例1
以下の例は、ブタの膵臓から得られた固体含有生物抽出物としてのパンクレアチンの製造方法の中間段階の高圧処理について記述する。
【0046】
(1)実施
処理は、高圧装置中でバッチ法により実施した。
【0047】
(a)40%イソプロパノールに溶解した、パンクレアチン製造工程の中間段階(濾過液の重量に対する固体の割合が約5重量%の濾過液、図2の参照符号13を参照)を、15°Cで5分間、4000、5000および6000barの高圧処理にかけた。
【0048】
(b)その代わりに、同一条件下で濾過ケーク(図2の参照符号14を参照。固体の割合は約50重量%、液体部分は約80重量%までのイソプロパノールと約20重量%までの水からなる)を高圧処理にかけた。
【0049】
両方の試料について、未処理の試料と比較して、リパーゼ活性、アミラーゼ活性およびプロテアーゼ活性を決定した。
【0050】
(2)評価
得られた結果によると、濾過ケーク(図2)で測定された3種類の酵素活性は、6000barの高圧処理においても有意な低下を示さない(図4)。リパーゼ活性は、濾過液(図2)においてもすべての圧力で安定していた。これに反して、濾過液中のアミラーゼ活性は、4000barを超える圧力では明らかに低下していた(図3)。
【0051】
例2
以下の例は、ブタの膵臓から得られたパンクレアチンの製造方法における濾過ケークの高圧処理について記述する。
【0052】
(1)実施
処理は、高圧装置中でバッチ法により実施した。
【0053】
濾過ケーク(図2の参照符号14を参照。固体の割合は約50重量%、液体部分は約80重量%までのイソプロパノールと約20重量%までの水からなる)を高圧処理にかけた。
【0054】
すべての試料について、未処理の試料と比較して、リパーゼ活性、アミラーゼ活性およびプロテアーゼ活性を決定した。
【0055】
(2)評価
得られた結果によると、濾過ケーク(図2)における酵素の不活化は、圧力にも温度にも依存することが分かる。リパーゼ活性は最高の安定性を有し、7000barの圧力においても有意には不活化しなかった(図5)。これに反して、アミラーゼ活性は、高圧処理に対して最大の感度を示した。低い温度は、酵素活性を安定化させる影響を持っていた(図5)。
【0056】
例3
以下の例は、外皮を持たないウイルス、FCVの高圧による不活化について記述する(FCV:ネコカリシウイルス)。
【0057】
(1)実施
処理は、高圧装置中でバッチ法により実施した。
【0058】
培地中のFCVストック液を、様々な圧力および温度下において様々な時間で高圧処理にかけた。出発試料および処理試料においてウイルス力価を決定した。
【0059】
(2)評価
得られた結果(表1)によると、20℃で5分間4000barで処理した試料を除いて、すべての試料において高圧処理によりウイルス力価は、1.9logの検出限界未満まで減少していることが分かる。未処理試料と処理試料からウイルス力価を求め、その差から、分離係数≧6.3logが得られる。FCVは、ブタで検出されヒトに病原性を示すが、それ自体は細胞培養で検出不可能な、同様に外皮を持たないHEVのウイルスモデルとして使用される。このウイルスの分離が>6log程度であることは、パンクレアチンの生物学的安全性が実質的に改善されたことを示している。
【0060】
【表1】

【0061】
例4
以下の例は、外皮を持たないウイルス、FCV、EMCV(脳心筋炎ウイルス)およびReo3の、高圧による不活化について記述する。
【0062】
(1)実施
処理は、高圧装置中でバッチ法により実施した。
【0063】
パンクレアチン製造工程の濾過ケークに前記3種類のウイルスをスパイクし、異なる温度および異なる時間で6000barで高圧処理をかけた。高圧処理実施後に、出発試料(投入試料(Load-Proben))、処理試料、および未処理試料(対照試料(Hold-Proben))においてウイルス力価を決定した。
【0064】
(2)評価
得られた結果(表2)によると、調べたすべてのウイルスの力価は、高圧処理により有意に減少していた。FCVでは、3.82logの減少係数を示した。他の2種類のウイルスでは、力価が1.5logの検出限界未満まで減少した。対応する投入力価から、EMCVでは≧4.98logの減少率、Reo3では≧3.78logの減少率が得られた。これら3種類の人獣共通感染性ウイルス(FCV=HEVモデル)の力価が3.5log程度を超えるまで減少したことは、パンクレアチンの生物学的安全性が格段に改善されたことを示す。この試験によれば、パンクレアチン製造処理の処理中間段階(Prozessintermediaten)における、様々なウイルスの力価は高圧処理により有意に減少し得ることが分かった。ウイルスの最適な不活化は、同時にパンクレアチン中に存在する酵素の最大の安定性が保証される条件下(温度≦0℃)で達せられる。
【0065】
【表2】

【0066】
これらの例示的実施形態も同様に本発明の対象である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体含有生物抽出物のウイルスおよび微生物含有量を低減する方法において、
(a)酵素、タンパク質およびペプチドから選択される、生物活性を示す少なくとも1種類の有効成分またはそのような有効成分の混合物を含む固体含有生物抽出物を調製するステップと、
(b)ステップ(a)において調製された抽出物を高圧処理にかけるステップとを含み、
高圧処理後の固体含有生物抽出物の生物活性が、高圧処理前の固体含有生物抽出物の生物活性の少なくとも50%に相当することを特徴とする方法。
【請求項2】
固体含有生物抽出物が、液相および前記液相中に分散する固体微粒子を含む懸濁液として調製され、生物活性を示す有効成分の前記混合物は一部が液相に溶解し他の一部が固体微粒子に結合していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体含有生物抽出物が固体状に調製されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
固体含有生物抽出物が動物の器官から得られたものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
固体含有抽出物がブタの膵臓から得られた抽出物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
高圧処理が1000〜8000barの圧力下で実施されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
圧力処理が一定の圧力下でまたはパルス圧力により実施されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
固体含有生物抽出物を高圧処理前に濾過ステップにかけ、それにより濾過液および濾過ケークを得、前記濾過ケークを高圧処理にかけることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
濾過ケークが、前記濾過ケークの重量に対して少なくとも40重量%の固体割合を有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
高圧処理後の固体含有生物抽出物の生物活性が、高圧処理前の固体含有生物抽出物の生物活性の少なくとも90%に相当することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
生物活性を示す有効成分の少なくとも1種類が酵素である場合、高圧処理後の固体含有生物抽出物の酵素活性が、高圧処理前の固体含有生物抽出物の酵素活性の少なくとも50%に相当することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
生物活性を示す有効成分の少なくとも1種類が酵素である場合、高圧処理後の固体含有生物抽出物の酵素活性が、高圧処理前の固体含有生物抽出物の酵素活性の>80%に相当することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
高圧処理後における固体含有生物抽出物のウイルス感染性が、高圧処理前のウイルス感染性に比較して、1log10超の減少率まで低減されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
高圧処理後における固体含有生物抽出物のウイルス感染性が、高圧処理前のウイルス感染性に比較して、4log10超の減少率まで低減されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
高圧処理後の、有毒物質による固体含有生物抽出物の含有量が、処理前より大きくならないことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
高圧処理後の、非胞子形成体による病原体含有量が、検出限界未満または50 KBE/g未満であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一つに記載の方法によって得られる固体含有生物抽出物において、
前記固体含有生物抽出物の酵素活性が、ステップ(a)で調製された未高圧処理の固体含有生物抽出物の生物活性の少なくとも50%に相当し、
前記固体含有生物抽出物のウイルス感染性が、ステップ(a)で調製された固体含有生物抽出物のウイルス感染性に比較して、1log10超の減少率まで低減され、
前記抽出物の病原体含有量が、500 KBE/g未満である、
ことを特徴とする固体含有生物抽出物。
【請求項18】
抽出物がブタの膵臓から得られた抽出物であることを特徴とする、請求項17に記載の固体含有生物抽出物。
【請求項19】
食品もしくは食料品または栄養補助食品としての、請求項1〜16のいずれか一つに記載の方法によって製造された固体含有生物抽出物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−500636(P2012−500636A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524251(P2011−524251)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006216
【国際公開番号】WO2010/022946
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(501335003)ノルドマルク・アルツナイミッテル・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト (4)
【Fターム(参考)】