説明

固体材料の表面処理方法

【解決手段】一般式(1)で表される安定化された一官能性シラノールを固体材料の表面に化学結合させる固体材料の表面処理方法。
123SiOH (1)
(R1、R2、R3は同一でも異なっていてもよく、置換又は非置換の炭素数1〜40の1価炭化水素基、置換又は非置換の炭素数1〜100の1価の複素環式置換基から独立に選択される置換基を表す。但し、一般式(1)で表される一官能性シラノールの自己脱水縮合速度は、トリエチルシラノールよりも小さい。)
【効果】本発明では、実質的に自己縮合性がない安定化されたシラノールを前駆体として単分子膜処理を行うため、膜形成化合物の利用効率が高く、多層膜形成や膜構造の乱れが起こらない。従って、再現性や信頼性に優れた有機ケイ素単分子膜による固体材料の表面処理方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機単分子膜の研究は長年にわたって続けられており、LB膜や有機チオール膜、有機シラン膜等が知られている。分子サイズの膜厚により基材の有する表面形状(柱状)(微細構造、平坦度等)に影響を与えずに表面改質を行うことができるため、半導体の微細化、MEMSや電子部品等の微細加工要求の広がりにつれて本格的な展開が期待されている。
なかでも、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を膜形成材料として利用する有機ケイ素単分子膜は、水酸基を有する材料と共有結合を形成して化学的に安定な単分子膜を容易に形成することができるため、数多くの報告がなされている(特許文献1,2,3)。前記LB膜や有機チオール膜とは異なり、有機ケイ素単分子膜は、被処理固体材料表面の水酸基が膜形成化合物との反応点となる。
【0003】
有機ケイ素単分子膜形成前駆体としては、通常アルコキシシランやクロロシランのような加水分解性ケイ素化合物が使用される。これらの化合物は、固体の表面水酸基に直接作用して脱アルコール又は脱塩化水素することも可能であるが、特にアルコキシシランの場合には脱アルコール反応は遅く、むしろまず系中の水によって加水分解反応してシラノールが生成した後、これが固体の表面水酸基と反応して結合を生じる。つまり、本来の前駆体はシラノールであると考えられるが、現実的にはアルコキシシランが用いられている。これはアルコキシシランが安定であるのに対して、シラノールが熱的に安定でない場合が多く、保存中や膜形成過程で自己脱水縮合してジシロキサンやシロキサンポリマーを生じるために、製膜の再現性が乏しく、膜形成化合物の利用効率が低くなることが原因である。また、前記アルコキシシランの加水分解反応とそれに続く表面水酸基との反応を効率的に進行させるため、酸や塩基等の触媒を添加することが一般的である(特許文献1,2)。
ところが、これらの触媒はシラノールの縮合触媒としても作用するために、生成したシラノールが不活性なシロキサン類に変換されてしまう。
【0004】
クロロシランを用いる場合には、表面水酸基との反応性が高いために必ずしも事前の加水分解は必要ないが、逆に化学的安定性に乏しく、無水溶媒を使用する等、保存や使用に際して格別の注意が必要である(特許文献3)。また、製膜時に毒性や腐食性の高い塩化水素が生成するため、単分子膜処理の主要な用途として期待されている半導体や電子部品等の用途には用い難い。
【0005】
上記のような不安定なシラノールを与える有機ケイ素化合物を前駆体として使用することのもう一つの問題点は、形成された膜の一部あるいは全部が真の単分子膜ではなくなるおそれがあることである。具体的には、シラノールの自己縮合によるシロキサンポリマーが生成し、これが基材の表面に粗大な粒子となって堆積することがある。また、膜構造の一部に乱れが生じて多層膜となる。
【0006】
従って、熱的及び化学的に安定なシラノールを前駆体として単分子膜処理を行うことができれば、上記問題はすべて解決することができるが、一般に化合物の安定性と反応性は相反する性質であり、安定性が増すに従って反応性が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−337654号公報
【特許文献2】特開平10−151421号公報
【特許文献3】特開平4−221630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、安定な有機ケイ素化合物前駆体を用いた信頼性の高い単分子膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の構造を有する一官能性シラノールが熱的、化学的に安定であり、かつ固体材料に対して適度な反応性を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は以下の固体材料の表面処理方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)で表される安定化された一官能性シラノールを固体材料の表面に化学結合させることを特徴とする固体材料の表面処理方法。
123SiOH (1)
(式中、R1、R2、R3は同一でも異なっていてもよく、置換又は非置換の炭素数1〜40の1価炭化水素基、置換又は非置換の炭素数1〜100の1価の複素環式置換基から独立に選択される置換基を表す。但し、一般式(1)で表される一官能性シラノールの自己脱水縮合速度は、トリエチルシラノールよりも小さい。)
請求項2:
上記一般式(1)において、R1、R2、R3の合計炭素数が10以上である請求項1に記載の固体材料の表面処理方法。
請求項3:
上記一般式(1)において、R1及びR2がイソプロピル基である請求項1又は2に記載の固体材料の表面処理方法。
請求項4:
固体表面に上記一般式(1)で表されるシラノールを化学結合させる際に、触媒を使用しない請求項1〜3のいずれか1項記載の固体材料の表面処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、実質的に自己縮合性がない安定化されたシラノールを前駆体として単分子膜処理を行うため、膜形成化合物の利用効率が高く、多層膜形成や膜構造の乱れが起こらない。従って、再現性や信頼性に優れた有機ケイ素単分子膜による固体材料の表面処理方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の表面処理方法において、膜形成前駆体となる化合物は下記一般式(1)で表され、自己脱水縮合速度がトリエチルシラノールよりも小さいことを特徴とする一官能性シラノールである。
123SiOH (1)
【0013】
上記一般式(1)において、R1、R2、R3は同一でも異なっていてもよく、置換又は非置換の炭素数1〜40、好ましくは1〜30、更に好ましくは1〜20の1価炭化水素基、又は置換又は非置換の炭素数1〜100、好ましくは1〜80、更に好ましくは1〜60の1価の複素環含有置換基である。この場合、1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられ、これらの1価炭化水素基の水素原子の1個又はそれ以上が、フッ素、塩素等のハロゲン原子、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基、アセタミド基、ベンズアミド基等のアミド基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のエステル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のオルガノキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジエチルアミノエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基、シアノ基、ニトロ基等によって置換されていてもよい。また、1価の複素環含有置換基としては、テトラゾリル基、トリアゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ピリジル基、ビピリジル基、ターピリジル基、カルバゾリル基、フェナンスロリニル基、ピペリジニル基、ピロリル基、インドリル基、インドリニル基、オキシインドリル基、ピロリジニル基、ピペラジニル基、2−オキシピロリジノ基、2−オキシピペリジノ基、フリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、テトラヒドロフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、ビチオフェニル基、ターチオフェニル基、クアドラチオフェニル基、シロリル基、ベンゾシロリル基、ジベンゾシロリル基、シラシクロペンチル基、シラシクロヘキシル基等の複素環状1価置換基や、これらの複素環状1価置換基により置換された炭化水素基等が挙げられ、これらの複素環含有置換基の水素原子の1個又はそれ以上が、フッ素、塩素等のハロゲン原子、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基、アセタミド基、ベンズアミド基等のアミド基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のエステル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のオルガノキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基等の炭化水素基、ピペリジノ基、ピロリジノ基、N−メチルピペラジノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジエチルアミノエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基、シアノ基、ニトロ基等によって置換されていてもよい。
【0014】
1、R2、R3で表される置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、イソアミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、テキシル基、フェニル基、2−ノルボルニル基、2−ノルボルネン−5−イル基、2−ノルボルネン−5−イルエチル基、トリル基、ベンジル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、フェネチル基、スチリル基、4−ビニルフェニル基、4−エチニルフェニル基、4−スチリルフェニル基、3−スチリルフェニル基、アズリル基、デシル基、ナフチル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、フェニルエチニル基、9−フルオレニル基、9,9−ジメチルフルオレン−2−イル基、3−クロロプロピル基、トリフルオロプロピル基、ノナフルオロヘキシル基、トリデカフルオロオクチル基、ヘプタデカフルオロデシル基、ペンタフルオロフェニル基、4−アセチルフェニル基、4−ベンゾイルフェニル基、アセトキシプロピル基、メタクリロイルオキシプロピル基、アセタミノプロピル基、4−アセタミノフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、tert−ブトキシカルボニルフェニル基、メトキシカルボニルデシル基、メトキシプロピル基、エトキシエトキシプロピル基、ジメチルアミノフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジエチルアミノプロピル基、N−フェニルアミノプロピル基、シアノエチル基、シアノフェニル基、ニトロフェニル基、5−テトラゾリル基、1,2,4−トリアゾール−3−イル基、1,3−イミダゾール−4−イル基、ベンズイミダゾール−5−イル基、1−エチルカルバゾール−3−イル基、カルバゾール−1−イルプロピル基、4−メチルピリジル基、2−ピリジルエチル基、2,2’−ビピリジン−6−イル基、ピペリジノプロピル基、2−オキシピロリジノエチル基、2−オキシピロリジノプロピル基、ピペラジノプロピル基、3−フリル基、3−チエニル基、5−ヘキシル−2−チエニル基、2−チエニルビニル基、2,2’−ビチオフェン−5−イル基、2,2’−ビチオフェン−5−イルスチリル基、4−ヘキシルチオフェン−3−イル基、3−ヘキシルチオフェン−2−イル基、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2−イル基、1,1−ジメチルジベンゾシロール−3−イル基等が挙げられる。
【0015】
シラノールの自己脱水縮合速度は様々な方法で測定することができる。相対的な速度の大小を比較するためには複数のシラノールに対して同一温度、圧力、濃度の条件で測定を行えばよい。最も簡便な方法として、測定するシラノールを一定の温度/圧力下に置き、自己脱水縮合による生成物であるジシロキサンの時間生成量を測定し、反応初期段階(反応率約10%まで)の反応率をプロットすることにより反応速度を見積もることができる。縮合速度が遅いシラノールの場合には、例えば加熱する等の方法により加速試験を行うこともできる。より具体的には、まず標準物質であるトリエチルシラノールについて、一定温度(例えば100℃)及び一定圧力(例えば1気圧)のもとで、脱水縮合生成物であるヘキサエチルジシロキサンの生成量を一定時間毎に調べる。脱水縮合反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の一般的な分析方法により調べることができる。次に比較したいシラノールに対して同じ試験を行い、経過時間に対するジシロキサンの生成量を調べて反応率をプロットし、トリエチルシラノールと比較することにより、トリエチルシラノールに比べて自己脱水縮合速度が小さいかどうかを判定することができる。測定条件においてシラノールが固体である場合には、溶媒を使用してシラノール溶液を調製した上で測定を行い、同じ溶媒、同じ濃度で測定したトリエチルシラノールの自己脱水縮合速度と比較する。使用する溶媒は、測定条件においてシラノールや生成するジシロキサン及び水と反応しない溶媒であり、例えばヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒が挙げられる。
【0016】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、tert−ブチルジメチルシラノール、メチルジイソプロピルシラノール、tert−アミルジメチルシラノール、エチルジイソプロピルシラノール、テキシルジメチルシラノール、トリイソプロピルシラノール、プロピルジイソプロピルシラノール、3−クロロプロピルジイソプロピルシラノール、3−アセトキシプロピルジイソプロピルシラノール、3−(2−オキソピロリジノ)プロピルジイソプロピルシラノール、メチルジ−sec−ブチルシラノール、1−メチルシクロヘキシルジメチルシラノール、ブチルジイソプロピルシラノール、tert−ブチルジイソプロピルシラノール、エチルジ−sec−ブチルシラノール、フェニルジエチルシラノール、テキシルジエチルシラノール、イソプロピルジイソブチルシラノール、ペンチルジイソプロピルシラノール、シクロペンチルジイソプロピルシラノール、プロピルジ−sec−ブチルシラノール、イソプロピルジ−sec−ブチルシラノール、アリルジ−sec−ブチルシラノール、3−クロロプロピルジ−sec−ブチルシラノール、3−アセトキシプロピルジ−sec−ブチルシラノール、3−(2−オキソピロリジノ)プロピルジ−sec−ブチルシラノール、フェニルイソプロピルエチルシラノール、メチルジシクロペンチルシラノール、ヘキシルジイソプロピルシラノール、シクロヘキシルジイソプロピルシラノール、フェニルジイソプロピルシラノール、ブチルジ−sec−ブチルシラノール、sec−ブチルジイソブチルシラノール、エチルジシクロペンチルシラノール、ベンジルジイソプロピルシラノール、プロピルジシクロペンチルシラノール、イソプロピルジシクロペンチルシラノール、アリルジシクロペンチルシラノール、3−クロロプロピルジシクロペンチルシラノール、3−アセトキシプロピルジシクロペンチルシラノール、3−(2−オキソピロリジノ)プロピルジシクロペンチルシラノール、メチルジフェニルシラノール、オクチルジイソプロピルシラノール、2−エチルヘキシルジイソプロピルシラノール、エチルジフェニルシラノール、デシルジイソプロピルシラノール、ブチルジフェニルシラノール、tert−ブチルジフェニルシラノール、ドデシルジイソプロピルシラノール、トリ−m−トリルシラノール、オクタデシルジイソプロピルシラノール、4−[4−(ジフェニルアミノ)スチリル]フェニルジイソプロピルシラノール、4−[4−(ジメチルアミノ)スチリル]フェニルジイソプロピルシラノール、5−[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]−5’−[3−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)スチリル]−2,2’−ビチオフェン、5−[4−(ビス(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)アミノ)フェニル]−5’−[3−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)スチリル]−2,2’−ビチオフェン等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)で表される化合物の使用量は任意であるが、通常固体の表面水酸基の数に対して過剰量を使用し、好ましくは10倍モル以上の量を使用することが好ましい。未反応の過剰分は回収して再利用することができる。
【0018】
本発明の表面処理方法において、固体材料は限定されないが、例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、鉄、ニッケル、銅、コバルト、クロム、モリブデン、ルテニウム、銀、真鍮、ステンレススチール等の金属、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化インジウムスズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化インジウム亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ等の金属酸化物、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス等が挙げられる。固体材料の形態も限定されず、板、球、盤、粒子、多孔質等いずれにも適用することができる。固体材料の表面形状についても限定されず、平面、曲面、マイクロ構造、ナノ構造等いずれにも適用することができる。
【0019】
本発明の表面処理方法において、固体材料が表面に水酸基を有する場合はそのまま使用してもよいが、水酸基が少ない場合には反応点を増加させるために親水化処理を行うことが好ましい。酸素プラズマ処理、コロナ処理、UVオゾン処理等の乾式処理やピラニア溶液(硫酸−過酸化水素水)を用いた湿式処理によって無機材料表面を酸化的に親水化処理し、表面水酸基の数を増やすことができる。プラスチック等の有機材料も水酸基やカルボキシル基を有していればそのまま使用してもよいが、無機材料と同様に表面を酸化的に親水化処理することが可能であり、また酸化ケイ素等の無機薄膜層を表面に設けることによって反応点を増加させることもできる。
【0020】
本発明の表面処理方法において、固体材料と一般式(1)で表される化合物とを接触させる方法は任意である。例えば、一般式(1)で表される化合物の溶液を調製し、固体材料を浸漬する液相法、反応室内に一般式(1)で表される化合物を揮発させ、固体材料を共存させて気相で吸着製膜する気相法等が挙げられる。
【0021】
本発明の表面処理方法において、触媒を用いることもできる。酸性あるいは塩基性を示す様々な物質を触媒として使用することができ、具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化スズ、塩化亜鉛、ジブチルスズジラウレート、チタンテトライソプロポキシド、三塩化ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、イットリウムトリフレート、イッテルビウムトリフレート、トリメチルシリルトリフレート、tert−ブチルジメチルシリルトリフレート等のルイス酸、活性白土、陽イオン交換樹脂等の固体酸、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムtert−ブトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化スカンジウム等の金属酸化物、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、ヘキサメチレンテトラミン、グアニジン等の窒素化合物、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、トリエチルアミントリフルオロメタンスルホン酸塩、ピリジン塩酸塩、トリブチルホスフォニウムテトラフルオロボレート、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等のオニウム塩等が挙げられる。触媒の使用量は任意であり、処理速度に応じて変化させることができるが、式(1)で表される化合物に対するモル比で0.0001〜10の比率で添加することが好ましいが、本発明においては触媒を使用しないで処理することができ、かかる無触媒下の処理が好ましい。
【0022】
本発明の表面処理方法において、温度は任意であり、処理速度に応じて自由に変化させることができるが、0〜300℃が好ましい。圧力は任意であるが、一般式(1)の化合物の溶液を用いる浸漬法の場合には常圧が最も好ましい。一般式(1)の化合物の蒸気と無機固体を接触させる気相法の場合には、常圧で行うこともできるし、化合物の蒸気圧を高めるために減圧して行うこともできる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明する。
【0024】
[合成例1]オクタデシルジイソプロピルシラノールの合成
撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートを備えた四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内にマグネシウム及び乾燥テトラヒドロフラン(THF)を仕込んだ。内容物を撹拌しながら、1−クロロオクタデカンの乾燥THF溶液を滴下ロートから加えて溶媒還流下で2時間反応を行い、オクタデシルマグネシウムクロリドTHF溶液を調製した。
【0025】
上記と同様の撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートを備えた別の四つ口丸底フラスコを用意し、窒素置換した。フラスコにジクロロジイソプロピルシランを仕込み、60℃で加熱撹拌しながらオクタデシルマグネシウムクロリドTHF溶液を滴下ロートより加えた。溶媒還流下で反応を続け、反応混合物のGC−MS分析によりオクタデシルジイソプロピルクロロシランが主生成物として生成していることを確認した。
【0026】
反応混合物を室温に冷却し、10質量%塩化アンモニウム水溶液を加えて撹拌して塩を溶解させた。室温で2時間撹拌した後、有機層をGC−MS分析するとオクタデシルジイソプロピルクロロシランがオクタデシルジイソプロピルシラノールに変換されたことがわかった。有機層を分液して分別蒸留し、沸点177℃/0.1kPaの留分としてオクタデシルジイソプロピルシラノールを得た。
【0027】
[合成例2]5−[4−(ビス(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)アミノ)フェニル]−5’−[3−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)スチリル]−2,2’−ビチオフェン(下記式(2)の化合物)の合成
【化1】

【0028】
窒素雰囲気下、5−[N,N−ビス(9,9’−ジメチルフルオレン−2−イル)アミノフェニル]−5’−ビニル−2,2’−ビチオフェン241.2mg(0.36mmol)、m−ヒドロキシジイソプロピルシリルブロモベンゼン122.5mg(0.43mmol)、炭酸ナトリウム65.8mg(0.62mmol)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール13.3mg(0.06mmol)、トランス−ジ−μ−アセテート−ビス[o−(ジ−o−トリルホスフィノ)ベンジル]ジパラジウム(II)13.5mg(0.014mmol)をジメチルアセトアミド5mlに加え、150℃で17時間撹拌した。
【0029】
得られた溶液を減圧濃縮し、水とトルエンを加えた後、分液操作により有機層を抽出した。得られた溶液を硫酸マグネシウムにより乾燥し、ロータリーエバポレーターにて減圧濃縮した後、HPLCにより精製して黄色固体103.4mgを得た。この固体のNMRスペクトル及びMALDI−TOFMSスペクトルを測定した結果、式(2)の化合物であることが確認された。
1H−NMR(300MHz,δ in CDCL3):0.99(d,J=7.3Hz,6H),1.07(d,J=7.1Hz,6H),1.14−1.33(m,2H),1.42(s,12H),1.70(s,1H),6.88(d,J=15.9Hz,1H),6.98(d,J=3.7Hz,1H),7.08−7.70(m,28H)
MALDI−TOFMS m/z:873.4(M+
【0030】
[実施例1]
オクタデシルジイソプロピルシラノールをトルエンと混合して無色透明の50mMトルエン溶液を調製した。この溶液は室温で3ヶ月経過した後も無色透明を保っていた。シリコンウェハ基板をUVオゾン処理により親水化し、この溶液に5分間浸漬した後引き上げて、溶媒を揮発させた。次いで、この基板を150℃のオーブン中で30分加熱した。オーブンから基板を取り出して室温に冷却し、トルエン中で1分間超音波洗浄して基板と結合していないシランを除去した後、室温で窒素を吹き付けて乾燥させた。洗浄溶液を分析したところ、未反応のオクタデシルジイソプロピルシラノールが検出されたが、自己縮合したジオクタデシルテトライソプロピルジシロキサンは検出されなかった。
【0031】
得られた処理済基板の水(1μL)に対する接触角測定を行った結果、表1の結果が得られた。なお、接触角の値は3箇所ないし4箇所を測定した平均値を記載した。10μm角の観察範囲で処理済基板表面の原子間力顕微鏡(AFM)測定を行い、表面の算術平均粗さRaを求めると0.21nmであった。50nm以上の大きさを有する粒子(粗大粒子)は観察されなかった。また、処理済基板表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果を表2に示した。
【0032】
[比較例1]
実施例1において、基板をオクタデシルジイソプロピルシラノール溶液に浸漬しなかったことを除いて同様の加熱及び洗浄処理を行い、比較用基板を得た。水接触角を測定し、表1に示した。
【0033】
[比較例2]
実施例1において、オクタデシルジイソプロピルシラノールのかわりにオクタデシルトリメトキシシランを使用したことを除いて同様の操作を行い、比較用基板を得た。水接触角及びAFM測定の結果を表1に示した。
【0034】
[比較例3]
デシルトリメトキシシラン、エタノール、水、硝酸を2時間激しく混合することにより、無色透明のデシルトリメトキシシラン加水分解物の溶液を得た。実施例1において、基板を浸漬する溶液をデシルトリメトキシシラン加水分解物の溶液に変更したことを除いて同様の加熱及び洗浄処理を行い、比較用基板を得た。水接触角を測定し、その結果を表1に示した。AFMで表面形状を観察したところ、50nm以上の粗大粒子が多数存在することがわかった。比較例3で調製した溶液は室温で保存すると徐々に白濁し、1ヶ月後には白色沈澱が生成していた。
【0035】
[比較例4]
オクタデシルトリメトキシシランを用いてエタノール、水、硝酸を激しく混合することにより加水分解物溶液を調製しようとしたところ、白色の沈澱が生成して無色透明の溶液を調製することができなかった。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び2に示されるように、実施例1ではオクタデシルジイソプロピルシラノールが基板に結合していることから、比較例1に比べて水接触角が上昇している。また、AFMによる表面粗さの測定値が未処理基板とほとんど変化しておらず、かつXPSによる表面分析により表面の炭素量が増加していることから、基板表面にオクタデシルジイソプロピルシラノールの単分子膜が形成されていると判断される。
【0039】
比較例2では、基板にオクタデシルトリメトキシシラン溶液を塗布し、空気中で加熱することにより基板の接触角が上昇した。しかし、AFMにより高さが50nmを超える粗大な粒子が観察され、その結果未処理基板に比べて表面粗さが増加している。この粗大粒子はオクタデシルトリメトキシシランの加水分解と縮合により生成したシロキサンポリマーであり、基板表面に均一なシラン単分子膜が形成されているとはいえない。
【0040】
比較例3では、デシルトリメトキシシラン加水分解物溶液を使用することにより基板の水接触角が上昇している。しかし、処理基板表面のAFM観察から、粗大粒子が多数基板表面に付着しており、単分子膜が形成されているとはいえない。
【0041】
また、比較例3及び比較例4に記載したように、デシルトリメトキシシランやオクタデシルトリメトキシシランの加水分解物は、種々のシラノールやその縮合物の混合物であって安定性に乏しく、溶液中で不可逆的に縮合が進行して沈澱が生じた。これに対して実施例1で調製したオクタデシルジイソプロピルシラノールの溶液は長期間安定であり、ケイ素化合物を無駄にすることがなく経済効率が高い。
[実施例2]
5−[4−(ビス(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)アミノ)フェニル]−5’−[3−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)スチリル]−2,2’−ビチオフェン(下記式(2)で表される化合物)の5mMトルエン溶液を調製し、厚み5μmの酸化チタンナノ粒子膜を形成した導電性ガラス(フッ素ドープ酸化スズ)を24時間室温で浸漬した。基板をトルエンで洗浄した後、電子プローブマイクロ分析法(EPMA)及びXPSにより試料表面の分析を行った。結果を表3に示す。各元素の相対感度係数の違いや分析方法による検出深さの違いによって検出されにくい元素があるが、二種の分析結果を総合すると有効量の式(2)の化合物が酸化チタンナノ粒子表面に吸着されていると判断される。また式(2)の化合物のトルエン溶液は室温で3ヶ月以上経過しても安定であり、吸着操作を上記と同じように行うことができた。
【0042】
【化2】

【0043】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される安定化された一官能性シラノールを固体材料の表面に化学結合させることを特徴とする固体材料の表面処理方法。
123SiOH (1)
(式中、R1、R2、R3は同一でも異なっていてもよく、置換又は非置換の炭素数1〜40の1価炭化水素基、置換又は非置換の炭素数1〜100の1価の複素環式置換基から独立に選択される置換基を表す。但し、一般式(1)で表される一官能性シラノールの自己脱水縮合速度は、トリエチルシラノールよりも小さい。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、R1、R2、R3の合計炭素数が10以上である請求項1に記載の固体材料の表面処理方法。
【請求項3】
上記一般式(1)において、R1及びR2がイソプロピル基である請求項1又は2に記載の固体材料の表面処理方法。
【請求項4】
固体表面に上記一般式(1)で表されるシラノールを化学結合させる際に、触媒を使用しない請求項1〜3のいずれか1項記載の固体材料の表面処理方法。

【公開番号】特開2011−132164(P2011−132164A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292478(P2009−292478)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】