説明

固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法および解析プログラム

【課題】固体粒子が分散した高分子液体の分子運動と緩和・流動現象を予測する手法および解析プログラムを提案すること。
【解決手段】分子運動解析装置1における系運動計算手段115は、系発生手段114によって生成された各高分子および微粒子(固体粒子)を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を、ランジュバン方程式に従って時間発展させる数値解析工程を行う。固体粒子は、系のある場所にあらかじめ配置されるか、数値解析工程により逐次計算される高分子の相分離を利用して生成される。作成された系における固体粒子部分のチューブ構成要素の位置を、式9に従って時間発展させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを使って、人工的に合成された高分子化合物あるいは自然界に存在する高分子化合物に、金属、ガラス、珪藻土などの固体粒子を分散させた材料について、溶液あるいは溶融状態における高分子の分子運動を、静置下ないし高速かつ大きな流動変形をともなう条件で解析するための解析方法および解析プログラムに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、からみあい点間分子量の数倍以上の分子量を持つ高分子のからみあい液体に固体粒子を分散させた系において、高分子のからみあい点間にふくまれるモノマーの緩和時間よりも長大な時間領域における高分子および粒子の運動や、高分子のからみあいおよび粒子による流動不均一などに起因する緩和・流動現象を解析することのできる解析方法および解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料を対象とした工業的利用法でもっとも大なるものはプラスチック製品である。プラスチック製品を製造する成形加工工程では、高分子材料はいったん熱で溶融した状態となり、これを金型に流し込んで成形される。この過程では、高分子のからみあいに起因する複雑な流動挙動を示し、これが製品の良不良に直接影響するため、流動挙動を予測する手法の開発が行われてきている。
【0003】
高分子液体に粒子を分散させた系は実用的にはプラスチック系材料などにひろく用いられている。プラスチックの剛性を上げるためにガラス粒子、タルク、ウィスカーなどの各種のフィラーを導入することや、材料に機能性を与えるための金属粒子添加なども行われている。しかし、粒子の形状や比率、高分子の形状(分子量、分子量分布、分岐構造、共重合)、および異種高分子材料の混合比率に基づき、分子運動および成形加工性を予測する方法は何ら提案されておらず、これがプラスチック材料設計の大きな問題点となっている。
【0004】
プラスチック成形加工CAE(コンピュータ支援工学)として販売されているソフトウエア群は有限要素法や有限差分法を用いる。これらの方法では、構成方程式と呼ばれる、材料にかかる変形と、それに応答する応力の関係を示す式が必要である。高分子材料の構成方程式として多数のものが提案されているが、高分子材料に固体粒子を混ぜた混合物に対する式は存在しない。また、現象論的に作られている式がほとんどのため、どのような粒子分散状態や分子の形状においてどのような式を用いるべきか、全くわかっていない。このため、様々な測定により、どの構成方程式が対象とする材料の挙動を最適に示すのかを決定する必要がある。さらに、構成方程式には通常数個から数十個のフィッティングパラメーターが含まれるため、式が決まってから後、それらを決める作業がさらに必要である。
【0005】
このような方法は測定実験が煩雑であるばかりでなく、測定すべき物性量が特殊な装置でなければ計測できない、測定に試料が大量に必要である、などの問題点がある。また、同じ化学種の材料(たとえばポリスチレン)であっても、分子量、分子量分布、分岐などの分子構造が異なると、用いるべき構成方程式が変わったり、パラメーターが変わったりするので、樹脂のグレードごとに詳細な計測実験が必要である。
【0006】
分子の形状と構成方程式の形や、そこでのパラメーターとの相関が解析できていないために、すでにデータが分かっている複数の材料を混ぜただけでも、再度データを取得しなければならない。固体粒子を混ぜた場合や、異種高分子材料の混合物や、異種高分子の組み合わせからなる共重合高分子の場合、適用できる構成方程式が一般には知られていないため、上記の構成方程式およびパラメーター決定の過程はさらに複雑、煩雑なものとなり、事実上不可能であるといえる。
【0007】
特に、固体粒子が分散した高分子材料の分子運動予測と流動予測には溶媒による流体力学的相互作用が重要であるため、粒子と溶媒の自由度を両方扱う必要がある。このため、溶媒がニュートン流体の場合であっても取り扱いは単純ではない。流体相互作用を無視したブラウニアンダイナミクスでは扱える現象がかなり限定される。流体相互作用をOseenテンソルで与えるストークシアンダイナミクスでも粒子濃度が希薄な場合しか扱えない。流体部分のダイナミクスを有限要素法などで計算し、粒子の位置が変わるごとにリメッシングを繰り返す方法は原理的には可能だが、計算コストの面で現実的でない。近年開発された田中と荒木のFluid Particle Dynamics法(非特許文献1)や山本らのSmoothed Profile法(非特許文献2)は常識的なコストで計算が可能であるとして注目されている。しかし、これらの手法は、いまだニュートン流体を媒体とする計算にとどまっている。高分子流体を溶媒とするなら、流体要素の履歴を追う必要があるため溶媒の計算をラグランジュ的に行う必要があるが、現在のところどちらの手法もオイラー的な計算であるため、高分子液体を媒質とする系への適用には技術的な困難が多い。
【0008】
このような問題を回避するためには、異種材料の混合比率および分子の構造から分子の運動を予測し、そこから流動挙動を計算する、いわゆる分子シミュレーション法が有効である。
【0009】
本願出願人は、特許文献1において、高分子系に特有のからみあい現象による影響も考慮して、高分子材料として通常用いられている数十万から数百万の分子量をもつ分子の運動を、高分子材料に特有な種々の現象が起きる数十秒から数百秒の時間範囲で計算、予測することの可能な高分子材料の分子運動解析方法および解析プログラムを提案している。また、特許文献2においては、上記の手法を拡張し、高速大変形流動下での分子運動予測と材料の流動予測を行うための手法および解析プログラムを提案している。加えて特許文献3において、異種高分子材料を混合した混合材料の分子運動予測と流動予測を行うための手法および解析プログラムを提案している。さらに特許文献4において共重合高分子の分子運動予測と流動予測を行うための手法および解析プログラムを提案している。さらに特許文献5において分岐高分子の分子運動予測と流動予測を行うための手法および解析プログラムを提案している。
【非特許文献1】Phys.Rev.Lett.,85,1338−1341(2000)
【非特許文献2】Phys.Rev.Lett.,87,075502(2001)
【特許文献1】国際公開第03/060777号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/060778号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/088529号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006/027842号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2006/018903号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記の各特許文献において本願出願人が提案している手法を元にして、固体粒子が分散した高分子液体の分子運動と緩和・流動現象を予測する手法および解析プログラムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法は、
レプテーション(reptation)理論に基づき、解析対象の高分子化合物の高分子を、からみあい点間分子量に基づき粗視化する粗視化工程と、
当該粗視化工程において粗視化分子動力学法に基づきモデル化した多数の高分子の運動を、ランジュバン方程式を解くことにより解析する数値解析工程と、
分子に含まれる分岐点とからみあい点との幾何学的位置関係交換工程と、を含む固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記粗視化工程は、
解析対象の高分子の単位胞サイズと分子密度に基づき、系内に多数のチューブ構成要素を発生させ、
解析対象の高分子の分子分岐構造および分子量分布に従って、チューブ構成要素を接合して多数の高分子を生成し、
チューブ構成要素間をランダムに選択して高分子間でからみあい構造を発生させ、
各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を確定する工程を含み、
前記数値解析工程は、
前記粗視化工程において生成された各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を、式1に示すランジュバン方程式に従って時間発展させる工程を含み、
解析対象の高分子化合物における固体粒子は、系のある場所にあらかじめ配置されるか、前記数値解析工程により逐次計算される高分子の相分離を利用して生成されることを特徴とする。
【0012】
(式1)

但し、 ζ:チューブ構成要素の抵抗
R:チューブ構成要素の位置
k:変形速度テンソル
b:チューブ要素に含まれるモノマーの長さ
:チューブ要素内に平均して含まれるモノマーの数
k:ボルツマン定数
T:温度
r:チューブ要素の配向ベクトル
n:チューブ要素に含まれるモノマー数
μ:aの体積中あたりの化学ポテンシャル
(a:チューブ構成要素の平均の長さ)
f:熱搖動力
(b、ζ、nの添え字αおよびβは系に混合される化学種の種類を表す)
【0013】
本発明では、上記各工程を行うことにより、固体粒子(微粒子)を分散させた高分子化合物の運動を従来になく高速かつ正確に計算および予測できる。従って、目標とする特性を備えた高分子化合物分子の構造の決定、微粒子構造(固体粒子構造)の決定、および当該決定に基づく高分子化合物分子および微粒子(固体粒子)の製造を適切に行うことができる。
【0014】
本発明において、式1における右辺第2項の化学ポテンシャルは、自由エネルギーFにより、式2で表すことができる。
【0015】
(式2)

但し、Nα:aの体積中あたりの化学種αのチューブ要素数
(a:チューブ構成要素の平均の長さ)
Fmix:混合の自由エネルギー
Fvol:非圧縮条件に基づく現象論的自由エネルギー
【0016】
本発明において、式2における右辺の混合の自由エネルギーFmixは、式3で表すことができる。このように、混合の自由エネルギーとしては、計算する材料に応じて様々な式を利用することができる。たとえば、式3のように、エンタルピー効果のみを考えた自由エネルギーを用いてブロック共重合体の計算をすることができる。
【0017】
(式3)

但し、φ:モノマーの体積分率
χ:χパラメーター
【0018】
本発明において、式2における右辺の非圧縮条件に基づく自由エネルギーは、式4で表すことができる。
【0019】
(式4)

但し、G:現象論的な弾性率(ほぼkTに等しい)
【0020】
本発明において、前記数値解析工程では、前記チューブ構成要素内のモノマー数を式5に従って時間発展させることができる。
【0021】
(式5)

【0022】
但し、式5におけるρは対象とする隣接チューブ構成要素の平均モノマー密度であり、式6で表される。
【0023】
(式6)

【0024】
本発明において、前記数値解析工程では、前記式1および前記式5の数値解析を、前進差分、後退差分、およびそれらの混合差分により行うことができる。
【0025】
本発明において、前記数値解析工程では、前記式1および前記式5の数値解析を、式7で表されるチューブ構成要素が平均チューブ長さまで拡散するのに必要な時間を単位時間とし、その単位時間だけ繰り返すことができる。
【0026】
(式7)

【0027】
本発明において、前記数値解析工程は、高分子のそれぞれの末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数を監視し、当該モノマー数に基づき、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更する工程を含んでいてもよい。
【0028】
本発明において、前記数値解析工程では、前記末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数が、式8で規定される範囲を超えた場合に、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更し、前記末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数が式8で規定される下限を下回った場合には、当該末端に位置するチューブ構成要素に隣接するからみあい点を削除し、当該末端に位置するチューブ構成要素は隣接するチューブ構成要素に統合することが望ましい。
【0029】
(式8)

【0030】
本発明において、前記数値解析工程では、前記末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数が前記式8で規定される上限を上回った場合には、当該末端に位置するチューブ構成要素に新しくからみあい点を作成し、当該末端からチューブ構成要素平均長さに相当する半径を持つ球を想定し、当該球を横切るチューブ構成要素の中からランダムに一つのチューブ構成要素を選択し、選択したチューブ構成要素と前記末端に位置するチューブ構成要素との間に新しくからみあい点を作成することが望ましい。
【0031】
本発明において、前記幾何学的位置関係交換工程では、ある分岐点に含まれる分岐部分のからみあい点の数が、あるしきい値を下回った場合には、緩和したものとみなし、当該緩和した分岐点部分は、ある確率で隣接する他の分岐部分あるいは主鎖部分のからみあい点とからみあい点を共有し、当該緩和した分岐点に含まれる分岐部分のうち、一つの隣接するからみあい点を共有する数が、あるしきい値を超えた場合には、分岐点とからみあい点の幾何学的位置関係を交換することが望ましい。このようにすると、あらゆる分岐構造をもつ高分子の拡散を可能ならしめることができる。
【0032】
本発明において、前記幾何学的位置関係交換工程では、解析対象の高分子化合物における固体粒子に属する高分子要素と、解析対象の高分子化合物における液体部分に含まれる高分子要素とのからみあい点の共有を、固体粒子表面のみで行うことが望ましい。
【0033】
本発明において、解析対象の高分子化合物に、共重合高分子を用いて固体粒子表面からグラフトされた高分子が含まれることが望ましい。
【0034】
本発明において、前記数値解析工程では、解析対象の高分子化合物における固体粒子部分のからみあい点要素の位置を、式9に従って時間発展させ、当該式9には、前記チューブ構成要素内における固体粒子のモノマー数は算入せず、前記からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更しないことが望ましい。固体粒子ではモノマーの輸送は起きないので計算する必要がなく、併せて、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素も変更されないからである。
【0035】
(式9)

但し、ζ:固体粒子部分の摩擦抵抗
κ:固体粒子部分の弾性率
【0036】
本発明では、このような数値解析を逐次行うことにより、高分子化合物の運動を従来になく高速かつ正確に計算および予測できる。特に、固体粒子を分散させた環境下にあり、同種原子間相互作用および異種原子間相互作用を持ち、星状、櫛状、ポンポン状、ランダム状、直鎖状、およびこれらの混合様態をもつ分岐構造またはそれらの混合物、あるいは異種高分子材料の混合物、並びに同一分子内に異なる化学構造をもつ共重合体やその混合物で構成される材料中における分子の運動、および、高分子材料として通常用いられている数十万から数百万の分子量をもつ分子の運動と流動挙動を、プラスチック成形加工やナノテクノロジーにおいて重要な高速大変形流動下で、高分子材料に特有な種々の現象が起きる数十秒から数百秒の時間範囲で計算、予測することができる。
【0037】
本発明において、前記式1〜8の数値解析により逐次生成される各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を含む条件に基づき、可視化する可視化工程を含むことが望ましい。
【0038】
また、上記の目的を達成するために、本発明の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析プログラムは、コンピュータに、上記各方法を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明の解析方法および解析プログラムでは、上記各構成により、固体粒子(微粒子)を分散させた高分子化合物の運動を従来になく高速かつ正確に計算および予測できるので、これに基づき、目標とする特性を備えた高分子化合物分子の構造の決定、微粒子構造(固体粒子構造)の決定、および当該決定に基づく高分子化合物分子および微粒子(固体粒子)の製造を適切に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を参照して、本発明を適用した固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析装置の一実施形態を示す。
【0041】
(分子運動解析装置の構成)
図1は、本実施形態の分子運動解析装置の全体構成を示す概略ブロック図である。本例の分子運動解析装置1は、パーソナルコンピュータ101と、ここに接続された入出力装置2および各種の情報を記憶保持している記憶装置3とから基本的に構成されている。入出力装置2には、キーボード102、マウス103、ディスプレー104およびプリンタ105が含まれている。また、記憶装置3として、本例では、ハードディスク装置106が接続されている。
【0042】
なお、パーソナルコンピュータ101に代えて、エンジニアリングワークステーションや大型計算機、あるいは携帯端末などを用いてもよい。また、入力装置としては、マウス103の他にタッチペンやタッチパネルなどのポインティングデバイスを利用することも可能である。さらに、ハードディスク装置106の代わりに、他の揮発性または不揮発性メモリを用いてもよい。
【0043】
本例のハードディスク装置106には、分子分岐構造記憶部107、分子化学構造記憶部108、分子量分布記憶部109、微粒子部記憶部110、流動変形条件記憶部111、数値計算条件記憶部112、可視化条件記憶部113が含まれている。
【0044】
分子分岐構造記憶部107には、解析対象の高分子材料に含まれている分子の分岐構造が、分子毎に記憶保持されている。分子の分岐構造としては、星状、櫛状、ポンポン状、ランダム状、直鎖状、およびこれらの混合様態が含まれる。
【0045】
分子分岐構造記憶部107には、解析対象の高分子材料に含まれている分子の分岐構造が、分子毎に記憶されている。分子の分岐構造としては、星状、櫛状、ポンポン状、ランダム状、直鎖状、およびこれらの混合様態が含まれる。
【0046】
分子化学構造記憶部108には、解析対象の高分子材料に含まれている各分子の化学物質名、からみあい点間分子量の値、モノマー摩擦係数(Monomeric friction coefficient)の値、共重合構造、および分子密度が記憶保持されている。
【0047】
分子量分布記憶部109には、平均重量分子量および平均数分子量が分子種毎に記憶されている。分子種毎に採取出来る場合には、材料の分子量分布を計測する一般的手法であるゲル濾過クロマトグラフィー装置(GPC)の出力をそのまま利用してもよい。
【0048】
微粒子部記憶部110には、固体粒子(微粒子)の体積分率、摩擦係数、弾性率、液相との相互作用パラメーター、固体粒子(微粒子)の形状、固体粒子(微粒子)の大きさが記憶されている。
【0049】
流動変形条件記憶部111には、材料に与える変形テンソルおよび変形速度テンソル、またはその一部が記憶されている。たとえば、せん断変形の場合には、せん断変形である旨の識別記号と、せん断変形速度あるいはせん断変形量が記憶保持される。
【0050】
数値計算条件記憶部112には、数値積分を行う際の時間刻み、計算の境界条件、静止画を出力するタイミング等、数値計算上必要な条件が記憶されている。
【0051】
可視化条件記憶部113には、分子の識別番号、可視化倍率、光源の位置、視野角度、可視化する分子の数、表示する情報等、可視化計算上必要な条件が記憶されている。
【0052】
次に、パーソナルコンピュータ101は、CPU、ROM、RAMを中心に構成され、ROM内に格納されている制御プログラムを実行することにより、以下に述べる各手段114〜123として機能する。すなわち、系発生手段114、系運動計算手段115、計算制御手段116、高分子3次元位置情報表示手段117、視野変更手段118、観察対象変更手段119、画像表示モード変更手段120、流動変形制御手段121、静止画像作成手段122、動画像作成手段123として機能する。
【0053】
系発生手段114は、ハードディスク装置106における分子分岐構造記憶部107、分子化学構造記憶部108、分子量分布記憶部109、微粒子部記憶部110、数値計算条件記憶部112から、計算対象となる高分子材料系をパーソナルコンピュータ101のRAM上に仮想的に構築する機能がある。
【0054】
詳細に説明すると、まず、数値計算条件記憶部112から、計算する単位胞サイズ(Unit cell size)を取得する。続いて、分子化学構造記憶部108から分子密度を取得する。これらの数値から、系内に多数のチューブ構成要素を発生させる。次に、分子化学構造記憶部108、分子分岐構造記憶部107、分子量分布記憶部109に保持されている記憶内容に従って、チューブ構成要素を接合し、多数の高分子を得る。次に、チューブ構成要素間をランダムに選択して高分子間でからみあい構造を発生させる。この時点で、各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素が確定される。次に、微粒子部分(固体粒子部分)となるチューブ構成要素を微粒子部記憶部110により確定させる。必要があれば微粒子(固体粒子)を構成するチューブ構成要素を再配置する。これにより計算を始めるための初期条件が決まる。
【0055】
系運動計算手段115には、系発生手段114によって生成された各高分子および微粒子(固体粒子)を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を時間発展させる機能がある。
【0056】
なお、高速大変形下での挙動を計算するにあたり、変形を与えない状態で十分長時間系を平衡化した後、これを初期状態として採用し、変形を与えることが望ましい。特に化学種の異なる高分子材料をブレンドする場合や共重合高分子による計算には混合状態の平衡化にも配慮することが望ましい。微粒子(固体粒子)を含む場合には微粒子(固体粒子)の形状や分散状況にも配慮することが望ましい。
【0057】
(分子運動解析プログラムの処理)
次に、図2を参照して、上記構成の分子運動解析装置1の制御プログラムが行う処理について説明する。図2は、系運動計算手段115による処理動作を示すフローチャートである。
【0058】
まず、ステップ201では、式1に従い、各チューブ構成要素の位置座標および配向ベクトルを時間発展させる。式1は、レプテーション理論で扱われていない、チューブ状の束縛の分子間相互作用および熱揺らぎによって運動する様子に対応したランジュバン方程式である。
【0059】
(式1)

【0060】
式1における左辺は、チューブ構成要素自身の運動と流体の流れから受ける抵抗力を表しており、ζはチューブ構成要素の抵抗、Rはチューブ構成要素の位置、kは流動変形条件記憶部111で与えられる変形速度テンソルを表している。ζは分岐高分子中の分岐点および末端においては、相当する比率に変えられる。また各文字のα、βの添え字は化学種を表している。
【0061】
式1における右辺の第1項は、からみあいを通じて相互に力学的作用を及ぼすチューブ構成各要素からの寄与を表す項であり、bはチューブ要素に含まれるモノマー長さ、nはチューブ要素内に平均して含まれるモノマーの数、kはボルツマン定数、Tは温度、rはチューブ要素の配向ベクトル、nはチューブ要素に含まれるモノマー数である。張力の記述には、高分子のゴム弾性理論の記述に用いられる線形バネの仮定を用いている。なお、本実施例においては共重合体の計算を可能にするため、各チューブ要素に化学種の異なるモノマーを含んだ場合の張力が考慮されている。
【0062】
式1の右辺第2項は、自由エネルギーを微分して得られる化学ポテンシャルの勾配を示す。自由エネルギーは系に応じてさまざまな式を用いることができる。本実施例では、モノマー間のエンタルピー的な相互作用のみを考慮した混合の自由エネルギーFmixと非圧縮条件に基づく自由エネルギーFvolを用い、化学ポテンシャルを以下の式2のようにしている。
【0063】
(式2)

【0064】
式2における混合の自由エネルギーFmixは、以下の式3のようにしている。
【0065】
(式3)

ここで、φはモノマーの体積分率、χはχパラメーターである。
【0066】
また、式2における非圧縮条件に基づく自由エネルギーFvolは、以下の式4のようにしている。
【0067】
(式4)

ここで、Gは現象論的な弾性率で、ほぼkTに等しい。本実施例ではG=kTとした。
【0068】
式1の右辺第3項は、チューブ構成要素に与えられる熱拡散を表わし、この大きさは、分子化学構造記憶部108に記憶されているチューブ構成要素に割り当てられる摩擦係数による。
【0069】
次に、ステップ202(図2参照)において、チューブ構成要素内のモノマー数を式5に従って時間発展させる。式5は、チューブ状の束縛内部を高分子を構成するモノマーがすべり運動する様子を記述するものである。
【0070】
(式5)

【0071】
式5の左辺は、チューブ状の束縛条件内部を高分子を構成するモノマーがすべり運動する際に受ける摩擦抵抗、ρは対象とする隣接チューブ構成要素の平均モノマー密度であり、式6で表される。
【0072】
(式6)

【0073】
式5の右辺の第1項は、接続された両端のチューブ構成要素から受ける張力を記述する項である。この項は、式1の、からみあいを通じて相互に力学的作用を及ぼすチューブ構成各要素からの寄与を表す右辺第1項と同様に、高分子のゴム弾性理論の記述に用いられる線形バネの仮定を用いている。また、式1と同様に、共重合体を計算するため一つのチューブ要素内に化学種の異なるモノマーを含む場合の張力も計算する式となっている。
【0074】
式5の右辺第2項は、式1と同様に系の自由エネルギーに基づく項である。式5の右辺第3項はモノマーすべりの熱拡散を記述する項である。式1のチューブ構成要素に与えられる熱拡散を表す右辺第3項は、チューブ構成要素が3次元拡散をするのを前提としているのに対して、式5ではチューブ内部に存在するモノマーはチューブに沿った1次元拡散を前提としており、また、式1では、チューブ構成要素は常に2個1組で移動するのに対してチューブ内部のモノマーはチューブ構成要素1個分だけ考慮すればよいので、拡散係数の大きさが異なっている。
【0075】
なお、ステップ201およびステップ202における式1および式5の数値解法は、前進差分、後退差分、およびそれらの混合差分による。
【0076】
次に,微粒子部分(固体粒子部分)に属するチューブ構成要素の位置を、式9に従って時間発展させる。
【0077】
(式9)

但し、ζは固体粒子部分の摩擦抵抗であり、κは固体粒子部分の弾性率である。
【0078】
式9の処理においては、チューブ構成要素内における固体粒子のモノマー数は算入せず、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更しないようにする。固体粒子ではモノマーの輸送は起きないので計算する必要がなく、併せて、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素も変更されないからである。
【0079】
次に、ステップ201〜203における数値解析は、次の式7で表されるチューブ構成要素が平均チューブ長さまで拡散するのに必要な時間を単位時間とし、その単位時間だけ繰り返される。これがステップ204である。
【0080】
(式7)

【0081】
ステップ204の後には、高分子液体部分に属するからみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更するステップ205を実行する。高分子のそれぞれの末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数を監視する。この末端チューブ構成要素におけるモノマー数が、次の式8で規定される範囲を超えた場合、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更する。末端チューブ構成要素におけるモノマー数が式8で規定される下限を下回った場合には、該末端チューブ構成要素に隣接するからみあい点を削除し、該末端チューブ構成要素は隣接するチューブ構成要素に統合する。
【0082】
(式8)

【0083】
この操作により、当該からみあい点の相手方も削除され、隣接するチューブ構成要素に統合される。削除後、該チューブ構成要素内のモノマー数は、隣接するチューブ構成要素内のモノマー数に合算され、各分子における総モノマー数は保存する。また、末端チューブ構成要素におけるモノマー数が式5で規定される上限を上回った場合には、該末端チューブ構成要素に新しくからみあい点を作成する。この際には、該末端からチューブ構成要素平均長さに相当する半径を持つ球を想定し、該球を横切るチューブ構成要素の中からランダムに一つを選び、そのチューブ構成要素と該末端チューブ構成要素との間に新しくからみあい点を作成する。
【0084】
上記のからみあい点削除操作により、分岐部分のからみあい点があるしきい値を下回った場合、分岐部分は緩和したとみなし、ある確率で同じ分岐点に属する他の分岐部分とからみあい点を共有する。本実施例では、分岐部分のからみあい点が2を下回った場合に緩和したとみなし、同じ分岐点に属する分岐部分すべてに対して等確率でからみあい点を共有するとした。
【0085】
上記の分岐部分におけるからみあい点共有操作により、同じ分岐点に属する複数の分岐部分が同じからみあい点を共有するが、共有する分岐部分の数があるしきい値を超えた場合には、からみあい点と分岐点の幾何学的位置関係を交換する。本実施例では、同じ分岐点に属する分岐部分の数の半数を上回る分岐部分が同じからみあい点を共有したら、当該分岐点とからみあい点の幾何学的位置交換を起こすものとした。また、からみあい点共有操作では、固体粒子に属する高分子要素(チューブ構成要素)と、解析対象の高分子化合物における液体部分に含まれる高分子要素(チューブ構成要素)とのからみあい点の共有については、固体粒子表面のみで行うものとした。
【0086】
次に、再び図1を参照して説明すると、分子運動解析装置1の高分子3次元位置情報表示手段117は、系運動計算手段115により逐次得られる各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素等を、可視化条件記憶部113に記憶される条件に基づき、ディスプレー104上に表示またはハードディスク装置106に画像ファイルとして作成する機能をもつ。
【0087】
視野変更手段118は、キーボード102またはマウス103の操作により、視野角、視線方向、観察位置、光源方向、光源強さ、光源色、対象色等を変更し、高分子3次元位置情報表示手段117により得られる画像を変更する機能を持つ。同時に可視化条件記憶部113に記憶される条件を変更する機能を持つ。
【0088】
観察対象変更手段119は、キーボード102またはマウス103の操作により、計算されている多数の高分子の中から、可視化対象とする分子を選択、変更する機能をもつ。
【0089】
画像表示モード変更手段120は、キーボード102またはマウス103の操作により、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素等から、必要な情報あるいはその組み合わせを選択的に表示させるよう画像表示モードを変更する手段を持つ。たとえば、位置座標、配向ベクトルのみを表示して他は表示しないモード、あるいは、ある一つの分子のみ表示して他は表示しないモード、微粒子(固体粒子)のみを表示するモードなどを再帰的に選択することができる機能をもつ。
【0090】
流動変形制御手段121は、キーボード102またはマウス103の操作により、式1の変形速度テンソルを含む流体抵抗の項(左辺)または数値計算条件記憶部112で与えられる境界条件、またはその両方を変更する機能を持つ。同時に、流動変形条件記憶部111における変形テンソルおよび変形速度テンソルを変更する機能を持つ。
【0091】
静止画像作成手段122は、数値計算条件記憶部112に指定されたタイミング、あるいはキーボード102またはマウス103の操作、またはその両方により、該当する時点で高分子3次元位置情報表示手段117に対してディスプレー104上に表示させ、あるいはハードディスク装置106に画像ファイルとして出力させ、または、プリンタ105を介して印刷出力させるために、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素等を、可視化条件記憶部113に記憶される条件に基づき提供させる機能を持つ。
【0092】
動画像作成手段123は、数値計算条件記憶部112に指定されたタイミング、キーボード102あるいはマウス103の操作、またはその両方により、当該する時点から高分子3次元位置情報表示手段117に対して、ハードディスク装置106に位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素等を可視化条件記憶部113に記憶される条件に基づき静止画像を作成させ、動画像として再構築する機能を持つ。
【0093】
(星状分岐高分子についての分子運動解析の実施例)
次に、上記構成のブロック共重合高分子材料の分子運動解析装置を用いて、星状高分子の分子運動を解析した例を説明する。
【0094】
本例の分子運動解析装置1は、パーソナルコンピュータ101として中央演算装置(CPU)がXeon(登録商標)動作周波数3GHz、メモリが2GBのApple製を用いた。キーボード102、マウス103は該パーソナルコンピュータに標準付属するものを用いた。ディスプレー104は17インチの液晶ディスプレーを用いた。プリンタ105はOKI製カラーレーザプリンタを用いた。
【0095】
図3には、本例において使用した分子分岐構造記憶部107、分子化学構造記憶部108、分子量分布記憶部109、微粒子部記憶部110、流動変形条件記憶部111、数値計算条件記憶部112、可視化条件記憶部113の一部に相当するASCIIテキストファイルを示す。本例では、上記の各記憶部を一つのファイルで一括して与えている。
【0096】
この図において、「cell_size=16」の項301は、数値計算条件記憶部112の一部に相当し、計算に用いた周期境界条件の基本セルサイズを表している。
【0097】
「chemical_component_number=2」の項302は、微粒子部記憶部110の一部に相当し、計算しようとする系が高分子と固体粒子という化学的に異なる成分2つを含む事を示している。
【0098】
「chi12=4.0」の項303は、微粒子部記憶部110の一部に相当し、固体粒子と高分子液体との相互作用の強さを与える式3のχパラメーターを与える。
【0099】
「molecule_spec1=linear」の項304は分子分岐構造記憶手段107の一部に相当し、高分子液体部分を構成する分子の分岐構造が直鎖高分子であることを示している。
【0100】
「Z1=10.0」の項305は、分子量分布記憶部109の一部に相当し、高分子液体部分の高分子の分子量がからみあい要素10に相当することを示している。
【0101】
「fraction1=0.95」の項306、および「chemical_spec_for_component1=1」の項307は、分子化学構造記憶部108の一部に相当し、高分子液体部分の化学種を1と定義すること、および体積分率が0.95であることを示している。
【0102】
「molecule_spec2=linear」の項308、「Z2=5.0」の項309、「fraction2=0.05」の項310、および「chemical_spec_for_component2=2」の項311は、微粒子部記憶部110の一部に相当し、微粒子(固体粒子)を構成する要素がからみあい要素数5をもつ直鎖状の高分子で、体積分率が0.05であること、および化学種は高分子液体の1に対して2であることを示している。
【0103】
「quit_dynamics_count=1000」の項312は、数値計算条件記憶部112の一部に相当し、計算を終了する時間を式7で表される時間を単位として表している。
【0104】
「flow_type=steady_shear」の項313、および「flow_rate=0.01」の項314は、流動変形条件記憶部111の一部に相当し、定常せん断流動を0.01のひずみ速度で与えることを示している。
【0105】
「solid_component=2」の項315、「solid_modulus_factor=2」の項316、および「fricrion_ratio_for_chemical2=2」の項317は、微粒子部記憶部110の一部に相当し、粒子部分を化学種2で示される箇所とすること、式9のκを2とすること、式9のζを式1のζに対して2倍とすること、をそれぞれ示している。
【0106】
図4は、静止画像作成手段122により得られた、微粒子(固体粒子)を分散させた高分子液体のスナップショットである。小さな立方体で示されるものが微粒子(固体粒子)を構成するセグメントであり、一塊で一つの微粒子(固体粒子)を示す。この図には、周期境界条件下で4つの粒子がある状態を表示している。粒子の体積分率は0.05である。また細い線で描かれているものは高分子液体部分のセグメントである。高分子液体に含まれる分子ひとつを中央部にチューブ状に表示している。このようにからみあった高分子ネットワークと固体粒子が混在した系での高分子それぞれのダイナミクスを計算できるのは唯一本手法のみである。
【0107】
図5は、系運動計算手段115により得られる系のせん断粘度(固体相の定常せん断粘度)が、固体粒子の体積分率(固体相の体積分率)に対してどのように変化するかを示している。図5の横軸は固体粒子の体積分率Φ、縦軸は系のせん断粘度η(Φ)である。図中の直線は傾き1を示しており、一般によく用いられるEinsteinの粘度式(η(Φ)=η/η−1)である。本手法による解析結果は、この粘度式にあう振る舞いをすることが示されている。このことは、本手法の妥当性を示している。
【0108】
(本実施形態の効果)
本実施形態の分子運動解析装置1は、パーソナルコンピュータ101に格納されている制御プログラムを実行することにより、固体粒子が分散した高分子液体の分子運動と緩和・流動現象を、従来になく高速かつ正確に計算し、予測することができる。
【0109】
特に、固体粒子を分散させた環境下にあり、同種原子間相互作用および異種原子間相互作用を持ち、星状、櫛状、ポンポン状、ランダム状、直鎖状、およびこれらの混合様態をもつ分岐構造またはそれらの混合物、あるいは異種高分子材料の混合物、並びに同一分子内に異なる化学構造をもつ共重合体やその混合物で構成される材料中における分子の運動、および、高分子材料として通常用いられている数十万から数百万の分子量をもつ分子の運動と流動挙動を、プラスチック成形加工やナノテクノロジーにおいて重要な高速大変形流動下で、高分子材料に特有な種々の現象が起きる数十秒から数百秒の時間範囲で計算、予測することができる。
【0110】
従って、目標とする特性を備えた高分子化合物分子の構造の決定、微粒子構造(固体粒子構造)の決定、および当該決定に基づく高分子化合物分子および微粒子(固体粒子)の製造を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明を適用した高分子材料の分子運動解析装置の全体構成を示す概略ブロック図である。
【図2】図1の分子運動解析装置における系運動計算手段の処理を示す概略フローチャートである。
【図3】図1の分子運動解析装置による星状分岐高分子の分子運動解析を行う場合に用いるASCIIテキストファイルであり、図1の分子分岐構造記憶部、分子化学構造記憶部、分子量分布記憶部、流動変形条件記憶部、数値計算条件記憶部、可視化条件記憶部の一部に相当する情報を記憶するものである。
【図4】固体粒子が分散する状況下で運動する高分子の様子をシミュレーションしたスナップショット画像である。
【図5】固体粒子の体積分率を変化させた場合の系のせん断粘度の計算例である。
【符号の説明】
【0112】
1 分子運動解析装置
2 入出力装置
3 記憶装置
101 パーソナルコンピュータ
102 キーボード
103 マウス
104 ディスプレー
105 プリンタ
106 ハードディスク装置
107 分子分岐構造記憶部
108 分子化学構造記憶部
109 分子量分布記憶部
110 微粒子部記憶部
111 流動変形条件記憶部
112 数値計算条件記憶部
113 可視化条件記憶部
114 系発生手段
115 系運動計算手段
116 計算制御手段
117 高分子3次元位置情報表示手段
118 視野変更手段
119 観察対象変更手段
120 画像表示モード変更手段
121 流動変形制御手段
122 静止画像作成手段
123 動画像作成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レプテーション(reptation)理論に基づき、解析対象の高分子化合物の高分子を、からみあい点間分子量に基づき粗視化する粗視化工程と、
当該粗視化工程において粗視化分子動力学法に基づきモデル化した多数の高分子の運動を、ランジュバン方程式を解くことにより解析する数値解析工程と、
分子に含まれる分岐点とからみあい点との幾何学的位置関係交換工程と、を含む固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記粗視化工程は、
解析対象の高分子の単位胞サイズと分子密度に基づき、系内に多数のチューブ構成要素を発生させ、
解析対象の高分子の分子分岐構造および分子量分布に従って、チューブ構成要素を接合して多数の高分子を生成し、
チューブ構成要素間をランダムに選択して高分子間でからみあい構造を発生させ、
各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を確定する工程を含み、
前記数値解析工程は、
前記粗視化工程において生成された各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、および、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を、式1に示すランジュバン方程式に従って時間発展させる工程を含み、
解析対象の高分子化合物における固体粒子は、系のある場所にあらかじめ配置されるか、前記数値解析工程により逐次計算される高分子の相分離を利用して生成されることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式1)

但し、 ζ:チューブ構成要素の抵抗
R:チューブ構成要素の位置
k:変形速度テンソル
b:チューブ要素に含まれるモノマーの長さ
:チューブ要素内に平均して含まれるモノマーの数
k:ボルツマン定数
T:温度
r:チューブ要素の配向ベクトル
n:チューブ要素に含まれるモノマー数
μ:aの体積中あたりの化学ポテンシャル
(a:チューブ構成要素の平均の長さ)
f:熱搖動力
(b、ζ、nの添え字αおよびβは系に混合される化学種の種類を表す)
【請求項2】
請求項1に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記式1における右辺第2項の化学ポテンシャルは、自由エネルギーFにより式2で表されることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式2)

但し、Nα:aの体積中あたりの化学種αのチューブ要素数
(a:チューブ構成要素の平均の長さ)
Fmix:混合の自由エネルギー
Fvol:非圧縮条件に基づく現象論的自由エネルギー
【請求項3】
請求項2に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記式2における右辺の混合の自由エネルギーFmixは、式3で表されることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式3)

但し、φ:モノマーの体積分率
χ:χパラメーター
【請求項4】
請求項2または3に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記式2における右辺の非圧縮条件に基づく現象論的自由エネルギーFvolは、式4で表されることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式4)

但し、G:現象論的な弾性率(ほぼkTに等しい)
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程では、
前記チューブ構成要素内のモノマー数を式5に従って時間発展させることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式5)

但し、ρ:対象とする隣接チューブ構成要素の平均モノマー密度であり、式6で表される。
(式6)

【請求項6】
請求項5に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程では、
前記式1および前記式5の数値解析を、前進差分、後退差分、およびそれらの混合差分により行うことを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程では、
前記式1および前記式5の数値解析を、式7で表されるチューブ構成要素が平均チューブ長さまで拡散するのに必要な時間を単位時間とし、その単位時間だけ繰り返すことを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式7)

【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかの項に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程は、
高分子のそれぞれの末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数を監視し、
当該モノマー数に基づき、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更する工程を含むことを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項9】
請求項8に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程では、
前記末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数が、式8で規定される範囲を超えた場合に、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更し、
前記末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数が式8で規定される下限を下回った場合には、当該末端に位置するチューブ構成要素に隣接するからみあい点を削除し、当該末端に位置するチューブ構成要素は隣接するチューブ構成要素に統合することを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式8)

【請求項10】
請求項9に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程では、
前記末端に位置するチューブ構成要素におけるモノマー数が前記式8で規定される上限を上回った場合には、当該末端に位置するチューブ構成要素に新しくからみあい点を作成し、
当該末端からチューブ構成要素平均長さに相当する半径を持つ球を想定し、
当該球を横切るチューブ構成要素の中からランダムに一つのチューブ構成要素を選択し、
選択したチューブ構成要素と前記末端に位置するチューブ構成要素との間に新しくからみあい点を作成することを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかの項に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記幾何学的位置関係交換工程では、
ある分岐点に含まれる分岐部分のからみあい点の数が、あるしきい値を下回った場合には、緩和したものとみなし、
当該緩和した分岐点部分は、ある確率で隣接する他の分岐部分あるいは主鎖部分のからみあい点とからみあい点を共有し、
当該緩和した分岐点に含まれる分岐部分のうち、一つの隣接するからみあい点を共有する数が、あるしきい値を超えた場合には、分岐点とからみあい点の幾何学的位置関係を交換することを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項12】
請求項11に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記幾何学的位置関係交換工程では、
解析対象の高分子化合物における固体粒子に属する高分子要素と、解析対象の高分子化合物における液体部分に含まれる高分子要素とのからみあい点の共有を、固体粒子表面のみで行うことを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかの項に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
解析対象の高分子化合物に、共重合高分子を用いて固体粒子表面からグラフトされた高分子が含まれることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかの項に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記数値解析工程では、
解析対象の高分子化合物における固体粒子部分のからみあい点要素の位置を、式9に従って時間発展させ、
当該式9には、前記チューブ構成要素内における固体粒子のモノマー数は算入せず、前記からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を変更しないことを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
(式9)

但し、ζ:固体粒子部分の摩擦抵抗
κ:固体粒子部分の弾性率
【請求項15】
請求項9ないし14のいずれかの項に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法において、
前記式1〜8の数値解析により逐次生成される各高分子を構成するチューブ構成要素について、位置座標、配向ベクトル、チューブ構成要素内のモノマー数、からみあいを形成する相手方チューブ構成要素を含む条件に基づき、可視化する可視化工程を含むことを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法。
【請求項16】
コンピュータに、
請求項1ないし15に記載の固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析方法を実行させることを特徴とする固体粒子を分散させた高分子化合物の分子運動解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−110228(P2009−110228A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281301(P2007−281301)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】