説明

固体酸と多分岐高分子からなる化合物およびその利用

【課題】フィルム化する際のハンドリング性、フィルムの安定性や耐久性、プロトン伝導度に優れ、高分子電解質膜、固体酸触媒、イオン交換膜などに利用できる化合物の提供。
【解決手段】固体酸と多分岐高分子からなる化合物であって、前記固体酸が前記多分岐高分子と求電子置換反応によって結合していることを特徴とする化合物であり、好ましくは前記固体酸が、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理し多環状芳香族炭化水素を縮合およびスルホン化することによって得られるスルホン酸基が導入された無定形炭素であり、前記多分岐高分子が、主鎖に耐酸化性である芳香族構造を有し末端にはスルホン基を有する多分岐高分子である化合物により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸と多分岐高分子からなる化合物およびその利用に関するものであり、さらに詳しくは、フィルム化する際のハンドリング性、フィルムの安定性や耐久性、およびプロトン伝導度に優れ、高分子電解質膜、固体酸触媒、イオン交換膜などに利用できる固体酸と多分岐高分子からなる化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高いエネルギー効率を有し、環境負荷の少ない燃料電池が注目されている。燃料電池とは、水素やメタノールなどの燃料を酸素または空気を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、アルカリ型などに分類される。このうち、陽イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、用いる電解質膜を薄くすることにより燃料電池内の内部抵抗を低減できるため高電流で操作でき、小型化が可能である。このような利点から固体高分子型の研究が盛んになってきている。
【0003】
固体高分子型燃料電池に用いる電解質膜には、燃料電池の電極反応に関与するプロトンについて高いプロトン伝導性が要求される。このようなプロトン伝導性高分子電解質膜材料としては、ナフィオン(Nafion, デュポン社の登録商標)などのスルホン酸基含有フッ素樹脂が知られている。
しかし、これらの高分子電解質材料は扱いづらいフッ素系の樹脂である上、合成経路が複雑であり、非常に高価であるという問題を抱えている。
また、スルホン酸基含有フッ素樹脂は、ガラス転移温度が低く、耐熱性が低いため、動作温度を高温化した際には樹脂が劣化する恐れも抱えている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、スルホン基を有する多分岐高分子を用いて燃料電池用電解質膜を製造することが提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、この多分岐高分子は分子の絡み合いが生じにくいために、多分岐高分子のみで電解質膜のフィルム化を試みた場合では、フィルムの機械的強度が弱かったり、もしくはフィルム化自体が困難であるという課題がある。
【0005】
本発明者らは、スルホン酸基が導入された無定形炭素(スルホン酸基導入無定形炭素)である固体酸が燃料電池用電解質膜として優れた性質を持つことを見出し、先に出願を行った(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【特許文献2】特開2003−183244号公報
【特許文献3】国際出願番号:PCT/JP2004/13035
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記固体酸はプロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、また製造コストも低く、高分子電解質膜材料として極めて優れた性質を示す。しかしこの物質は粉状であるため、充分な強度を持つ電解質膜をつくるためには、通常はバインダー樹脂と混合してフィルム化する必要がある。
そしてバインダー樹脂と混合してフィルム化する際には、一度なんらかの溶媒中へバインダー樹脂とともに分散または溶解させてワニスを調整することが必要となる。しかしながら、スルホン酸基導入無定形炭素は溶媒に溶解しないためにワニスを調整するうえで制約が大きい。また、バインダー樹脂の選択によってはバインダーとの親和性も低く、フィルム化したあとで溶出する恐れもある。
【0007】
本発明の第1の目的は、フィルム化する際のハンドリング性、フィルムの安定性や耐久性、およびプロトン伝導度に優れ、高分子電解質膜、固体酸触媒、イオン交換膜などに利用できる化合物を提供することであり、
本発明の第2の目的は、そのような化合物の利用および用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、固体酸と溶媒との親和性が高い多分岐高分子を求電子置換反応にて結合させることによって、フィルム化する際のハンドリング性を向上させ、フィルムの安定性や耐久性を向上させ、且つプロトン伝導度を向上させるができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の請求項1記載の発明は、固体酸と多分岐高分子からなる化合物であって、前記固体酸が前記多分岐高分子と求電子置換反応によって結合していることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2は、請求項1記載の化合物において、前記固体酸が、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理し多環状芳香族炭化水素を縮合およびスルホン化することによって得られるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3は、請求項2記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、13C核磁気共鳴スペクトルにおいて縮合芳香族炭素6員環およびスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4は、請求項2あるいは請求項3記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において半値幅が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5は、請求項2から請求項4のいずれかに記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において炭素(002)面の回折ピークのみが検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6は、請求項2から請求項5のいずれかに記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、主鎖に耐酸化性である芳香族構造を有し末端にはスルホン基を有する多分岐高分子であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項8は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、ABX型モノマー(ただし、Xは2か3)の逐次重合によって合成され、その数平均重合度が2〜100であるような樹枝状高分子であって、ABX型モノマーとは1つの芳香族構造AとX個のスルホン基Bを有し且つ芳香族構造Aとスルホン基Bの一つずつが求電子置換反応することにより逐次重合するものであることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項9は、請求項1から請求項8のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、少なくとも以下の式(A)〜(D)、式(E)〜(H)から選択されるモノマーから合成される多分岐高分子であることを特徴とする。
(但し、式(A)〜(D)、式(E)〜(H)中のArは、式(I)〜(K)から選択される少なくとも1つの基を示す。)
【0018】
【化8】

【0019】
【化9】

【0020】
【化10】

【0021】
本発明の請求項10は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、少なくとも以下の式(A’)〜(D’)、式(E’)〜(H’)から選択される基を含む多分岐高分子であることを特徴とする。
(但し、式(A’)〜(D’)、式(E’)〜(H’)中のArは、式(I’)〜(K’)から選択される少なくとも1つの基を示す。)
【0022】
【化11】

【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
本発明の請求項11は、請求項1から請求項10のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、以下の式(L)〜(M)から選択される基を含む多分岐高分子であることを特徴とする。
【0026】
【化14】

【0027】
本発明の請求項12は、請求項1から請求項11のいずれかに記載の化合物において、前記固体酸と前記多分岐高分子からなる化合物のプロトン伝導度が、0.01〜0.30S/cm(温度80℃湿度100%条件下で交流インピーダンス法による)であることを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項13は、請求項1から請求項12のいずれかに記載する化合物を用いたことを特徴とする高分子電解質膜である。
【0029】
本発明の請求項14は、請求項1から請求項12のいずれかに記載する化合物を用いたことを特徴とする膜・電極接合体である。
【0030】
本発明の請求項15は、請求項1から請求項12のいずれかに記載の化合物を用いたことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の請求項1記載の発明は、固体酸と多分岐高分子からなる化合物であって、前記固体酸が前記多分岐高分子と求電子置換反応によって結合していることを特徴とするものであり、多分岐高分子のみでは十分なプロトン伝導性が得がたいのに対して、固体酸に多分岐高分子を結合させることによって、プロトン伝導性が高く、かつ耐熱性に優れ、そして溶媒との親和性に優れるためにフィルム化する際のハンドリング性に優れ、フィルム内での固体酸の安定性や耐久性にも優れており、しかも大量に産業廃棄されている硫酸ピッチを固体酸として、リサイクル使用すれば低コストとなるとともに環境負荷を大幅に低減可能となるという効果があり、膜強度を有する高分子電解質膜、高温動作でも効率が低下しない膜電極接合体および燃料電池、固体酸触媒、イオン交換膜などに利用できるという顕著な効果を奏する。
この固体酸に多分岐高分子を結合させたあとも、環境負荷を大幅に低減できる特性は保持されるという顕著な効果を奏する。
【0032】
本発明の請求項2は、請求項1記載の化合物において、前記固体酸が、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理し多環状芳香族炭化水素を縮合およびスルホン化することによって得られるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とするものであり、
プロトン伝導性がより優れた化合物を提供できるとともに環境負荷を大幅に低減できるというさらなる顕著な効果を奏する。
この固体酸はスルホン化と炭化という非常に簡便なステップで合成でき、しかも必ずしも精製された出発原料を必要とせず、重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを出発原料としても良いので大幅なコストダウンになるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0033】
本発明の請求項3は、請求項2記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、13C核磁気共鳴スペクトルにおいて縮合芳香族炭素6員環およびスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とするものであり、
プロトン伝導性が確実により優れた化合物を提供できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0034】
本発明の請求項4は、請求項2あるいは請求項3記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において半値幅が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とするものであり、
プロトン伝導性が確実により優れた化合物を提供できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0035】
本発明の請求項5は、請求項2から請求項4のいずれかに記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において炭素(002)面の回折ピークのみが検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とするものであり、
プロトン伝導性が確実により優れた化合物となり、このような純度が高い無定形固体酸を用いると、燃料電池に適用した時に発電性能により優れるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0036】
本発明の請求項6は、請求項2から請求項5のいずれかに記載の化合物において、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とするものであり、
プロトン伝導性が確実により優れた化合物を提供できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0037】
本発明の請求項7は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、主鎖に耐酸化性である芳香族構造を有し末端にはスルホン基を有する多分岐高分子であることを特徴とするものであり、
この多分岐高分子でスルホン酸基導入無定形炭素を表面修飾することによって溶媒との親和性が高く、かつ耐熱性に優れ、フィルム化する際のハンドリング性を向上させ、フィルムの安定性や耐久性を向上させ、プロトン伝導度を向上させることができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0038】
本発明の請求項8は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子がABX型モノマー(ただし、Xは2か3)の逐次重合によって合成され、その数平均重合度が2〜100であるような樹枝状高分子であって、ABX型モノマーとは1つの芳香族構造AとX個のスルホン基Bを有し且つ芳香族構造Aとスルホン基Bの一つずつが求電子置換反応することにより逐次重合するものであることを特徴とするものであり、
容易に合成できるとともに溶媒との親和性がより高く、この多分岐高分子にスルホン酸基導入無定形炭素を求電子置換反応によって結合させることによって、フィルム化する際のハンドリング性を向上させ、フィルムの安定性や耐久性を向上させ、且つプロトン伝導度を向上させるができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0039】
本発明の請求項9は、請求項1から請求項8のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、少なくとも前記式(A)〜(D)、式(E)〜(H)から選択されるモノマーから合成される多分岐高分子であることを特徴とするものであり、
前記多分岐高分子を低コストで容易に合成できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0040】
本発明の請求項10は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、少なくとも前記式(A’)〜(D’)、式(E’)〜(H’)から選択される基を含む多分岐高分子であることを特徴とするものであり、
フィルムの安定性や耐久性をさらに向上させ、且つプロトン伝導度をさらに向上させるができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0041】
本発明の請求項11は、請求項1から請求項10のいずれかに記載の化合物において、前記多分岐高分子が、前記式(L)〜(M)から選択される基を含む多分岐高分子であることを特徴とするものであり、
フィルムの安定性や耐久性をさらに向上させ、且つプロトン伝導度をさらに向上させることができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0042】
本発明の請求項12は、請求項1から請求項11のいずれかに記載の化合物において、前記固体酸と前記多分岐高分子からなる化合物のプロトン伝導度が、0.01〜0.30S/cm(温度80℃湿度100%条件下で交流インピーダンス法による)であることを特徴とするものであり、
プロトン伝導度を確実に向上させるができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0043】
本発明の請求項13は、請求項1から請求項12のいずれかに記載する化合物を用いたことを特徴とする高分子電解質膜であり、膜化する際のハンドリング性に優れ、膜内での固体酸の安定性や耐久性に優れており、プロトン伝導性、耐久性、機械的強度に優れ、かつ耐熱性に優れ、優れた性能を示すという顕著な効果を奏する。
【0044】
本発明の請求項14は、請求項1から請求項12のいずれかに記載する化合物を用いたことを特徴とする膜・電極接合体であり、膜内での固体酸の安定性や耐久性に優れており、プロトン伝導性、耐久性、機械的強度に優れ、かつ耐熱性に優れ高温で動作可能であり、優れた性能を示すという顕著な効果を奏する。
【0045】
本発明の請求項15は、請求項1から請求項12のいずれかに記載の化合物を用いたことを特徴とする燃料電池であり、次世代クリーンエネルギーとして使用される燃料電池の材料自体の環境負荷を低減でき、耐久性に優れ、高温で動作可能であり、そして優れた発電特性を示すという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の化合物は、固体酸と多分岐高分子からなることを特徴とするものである。
本発明おいて使用する固体酸は、水に不溶であり、酸としてはたらく官能基を有するものであれば特に限定されない。酸としてはたらく官能基には、例えば、OH、SO3 H、COOH、NO3 H、NO2 Hなどのブレンステッド酸の性質を持つ官能基、BF3 、AlCl3 などのルイス酸の性質を持つ官能基が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
好適な固体酸としては、スルホン基導入無定形炭素を例示でき、また、これ以外にも、ゼオライト、IV族元素のシリケート、含水酸化ジルコニウム、含スルホン化ジルコニウム、有機系固体酸、モルデナイトなどの無機系固体酸などを例示できる。
【0048】
固体酸として使用するスルホン基導入無定形炭素は、スルホン酸基を持ち、無定形炭素としての性質を示す物質であればどのようなものでもよい。
ここで「無定形炭素」とは、炭素からなる物質であって、ダイヤモンドや黒鉛のような明確な結晶構造を持たない物質をいい、より具体的には、粉末X線回折において、明確なピークが検出されないか、あるいは幅の広いピークが検出される物質を意味する。
【0049】
好適なスルホン酸基導入無定形炭素としては、(1)以下の(A)、(B)および(C)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素、(2)以下の(A)、(B)および(C)の性質、並びに以下の(D)および/または(E)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素、(3)以下の(C)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素を例示できる。
【0050】
(A)13C核磁気共鳴スペクトルにおいて縮合芳香族炭素6員環およびスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出される。
(B)粉末X線回折において半値幅が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出される。
(C)プロトン伝導性を示す。
(D)スルホン酸密度が0.5〜14mmol/gである。
(E)硫黄含有量は、0.3〜15atm%である。
【0051】
上記(A)の性質に関して、縮合芳香族炭素6員環のピークは130ppmに、およびスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環のピークシフトは140ppmに検出される。したがって、縮合芳香族炭素6員環がスルホン基を有していれば、140ppmへの化学シフトが検出されることとなる。13C核磁気共鳴スペクトルでは、定量的な取り扱いは考えていないために、140ppmへのピークシフトが検出できればよい。
上記(B)の性質に関して検出される回折ピークは(002)面以外のものがあってもよいが、(002)面の回折ピークのみが検出されることが好ましい。無定形炭素が粉体X線回折において、炭素(002)面の回折ピークを示さないと性能が悪く、ピークを示すものは優れた性能を示す。このような純度が高い無定形固体酸を用いると、さらに優れた発電特性を示す。
【0052】
上記(C)の性質に関して、プロトン伝導度は特に限定されないが、0.01〜0.30Scm-1であることが好ましい(前記プロトン伝導度は、温度80℃、湿度100%の条件下、交流インピーダンス法によって測定される値である。)。プロトン伝導度が0.01Scm-1未満であると電池特性が不十分となってしまう恐れがあり、またプロトン伝導度が0.30Scm-1を超えると収率が下がってしまう恐れがある。
【0053】
上記(D)の性質に関し、スルホン酸密度は0.5〜14mmol/gであることが好ましい。スルホン基密度が0.5mmol/g未満であるとプロトン伝導度が不十分となってしまう恐れがあり、またスルホン基密度が14mmol/gを超えると収率が下がってしまう恐れがある。より望ましくは、スルホン酸密度は1〜8mmol/gである。
【0054】
上記(E)の性質に関し、硫黄含有量は0.3〜15atm%であることが好ましいが、3〜10atm%であることがさらに好ましい。硫黄含有量が少ない場合では、スルホン基の密度が低くプロトン伝導度が不十分となってしまう恐れがある。硫黄含有量が多い場合では、スルホン酸基が導入された無定形炭素自体の合成における収率が低くなってしまう恐れがある。
【0055】
スルホン酸基導入無定形炭素は、例えば、有機化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理することによって製造することができる。この製造方法の概略を図1に示す。
図1に示すように有機化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理すると、炭化、スルホン化、環同士の縮合が起きる。この結果、図1に示すようなスルホン酸基導入無定形炭素を得ることができる。
【0056】
濃硫酸または発煙硫酸中の有機化合物の加熱処理は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流中、あるいは乾燥空気気流中で行うことがスルホン酸密度の高い無定形炭素を製造する上で必要である。より好ましい処理は有機化合物を加えた濃硫酸または発煙硫酸に窒素、アルゴンなどの不活性ガス、あるいは乾燥空気を吹き込みながら加熱を行うことである。
【0057】
濃硫酸と芳香族化合物の反応によって芳香族スルホン酸と水が生成するが、この反応は平衡反応である。したがって反応系内の水が増えると、逆反応が早く進むため、無定形炭素に導入されるスルホン酸の量が著しく低下する。
【0058】
不活性ガスや乾燥空気気流中で反応を行うか、反応系にこれらのガスを吹き込みながら反応を行い、水を反応系から積極的に除去することによって高いスルホン酸密度をもつ無定形炭素を合成することができる。
【0059】
加熱処理においては、有機化合物の部分炭化、環化および縮合などを進行させると共に、スルホン化を起こさせる。従って、加熱処理温度は、前記反応を進行させる温度であれば特に限定されないが、工業的には、100〜350℃が好ましく、さらに好ましくは150〜250℃である。
処理温度が100℃未満の場合、有機化合物の縮合、炭化が十分でなく、炭素の形成が不十分である恐れがあり、また、処理温度が350℃を超えると、スルホン酸基の熱分解が起きる場合がある。
【0060】
加熱処理時間は使用する有機化合物や処理温度などによって適宜選択できるが、通常、5〜50時間が好ましく、さらに好ましくは10〜20時間である。
【0061】
使用する濃硫酸または発煙硫酸の量は特に限定されないが、有機化合物1モルに対し、通常、2.6〜50.0モルが好適であり、さらに好適には6.0〜36.0モルである。
【0062】
有機化合物としては、芳香族炭化水素類を使用することができるが、それ以外の有機化合物、例えば、グルコース、砂糖(スクロース)、セルロースのような天然物、ポリエチレン、ポリアクリルアミドのような合成高分子化合物を使用してもよい。
芳香族炭化水素類は、多環式芳香族炭化水素類でも単環式芳香族炭化水素類でもよく、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレン、コロネンなどを使用することができ、好適には、ナフタレンなどを使用することができる。有機化合物は、一種類だけを使用してもよいが、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
また必ずしも精製された有機化合物を使用する必要はなく、例えば、芳香族炭化水素類を含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを使用してもよい。
【0063】
グルコース、セルロースなどの天然物や合成高分子化合物を原料とするときは、濃硫酸または発煙硫酸中での加熱処理の前に、これらの原料を不活性ガス気流中で加熱し、部分炭化させておくことが好ましい。
このときの加熱温度は、通常、100℃〜350℃が好ましく、処理時間は、通常、1〜20時間が好ましい。
部分炭化の状態は、加熱処理物の粉末X線回折パターンにおいて、半値幅が30°の(002)面の回折ピークが検出されるような状態が好ましい。
【0064】
芳香族炭化水素類、またはこれを含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを原料とする場合、濃硫酸または発煙硫酸中での加熱処理の後、生成物を真空加熱することが好ましい。これは、過剰の硫酸を除去すると共に、生成物の炭化・固化を促進させ、生成物の収率を増加させる。
真空排気は排気速度10L/min以上、到達圧力100torr以下の排気装置を用いることが好ましい。
好ましい加熱温度は140〜300℃、より好ましい温度は200〜280℃である。この温度における真空排気の時間は、通常2〜20時間である。
【0065】
次いで、本発明で用いる多分岐高分子について説明する。
本発明で好ましく用いる多分岐高分子は主鎖に耐酸化性である芳香族構造を有し末端にはスルホン基を有することを特徴とする多分岐高分子である。
最初に多分岐高分子を合成するためのモノマーについて説明する。
多分岐高分子を合成するためのモノマーは前記式(A)〜(D)、式(E)〜(H)から選択されるモノマーからなる。
【0066】
つぎに、多分岐高分子について説明する。この多分岐高分子は上述のモノマーから合成されるものである。この多分岐高分子は、スルホン基を有している。
多分岐高分子は、少なくとも前記式(A’)〜(D’)、式(E’)〜(H’)から選択される基を含む骨格構造を含むものである。
【0067】
また、上述の多分岐高分子は、前記式(L)〜(M)から選択される末端基を含むものである。
【0068】
また、上述の多分岐高分子は、末端に上述の前記式(L)〜(M)から選択される末端基がないところでは、末端はスルホン酸基、またはスルホン酸塩(Na、K、またはLiなど)基となっている。
【0069】
多分岐高分子の重合反応は上述のとおり、前記式(A)〜(D)、式(E)〜(H)のモノマーから合成される。この重合は、芳香族構造とスルホン基による求電子置換反応の繰り返しとなる。そこで、前記式(A)〜(D)の芳香族構造をA、スルホン基をBと簡略して、AB2型モノマーと表すこととする。また、スルホン基を3つもつ式(E)〜(H)のモノマーの場合では、AB3型モノマーと表すこととする。以上より、多分岐高分子は、ABX型モノマー(ただし、Xは2または3)の求電子置換反応による逐次重合によって合成される樹枝状高分子である。
【0070】
多分岐高分子の数平均重合度は、2〜100であることが好ましい。数平均重合度が2未満では機械的強度が不足する恐れがあり、数平均重合度が100を超えると機械的強度には優れるがフィルム化する際のハンドリング性が劣る恐れがある。
【0071】
つぎに、多分岐高分子を合成するためのモノマーおよび多分岐高分子の合成方法について説明する。
最初に、モノマーの合成方法について説明する。このモノマーの合成方法は以下の通りである。
すなわち、式(1)[ただし、式(1)においてXはClだけでも、Fだけでも、ClとFでもよい]に示すような、シアノ基、ニトロ基、クロロ基、フルオロ基などの電位吸引基とクロロ基またはフルオロ基を1つのベンゼン環に有する化合物とスルホン酸基(またはスルホン酸塩基)を持つフェノールとの反応によりモノマーを合成できる。
【0072】
【化15】

【0073】
なお、モノマーの合成方法は、上述の方法に限定されるわけではない。このほか、モノマーの合成法にはつぎの方法を採用することができる。すなわち、式(2)に示すようにp−クロロまたはp−フルオロベンゼンスルホン酸(またはスルホン酸塩)とビスフェノール類との反応に示すように、ビスフェノール類のp−クロロまたはp−フルオロベンゼンスルホン酸(またはスルホン酸塩)への求電子置換反応によりモノマーを合成できる。
【0074】
【化16】

【0075】
つぎに、多分岐高分子の合成方法について説明する。この多分岐高分子の合成法は以下の通りである。
すなわち、ナスフラスコに上述のAB2型モノマーと、たとえばメタンスルホン酸と五酸化リンの混合液を加え、窒素雰囲気下で所定温度に加熱し所定時間反応させる。その後アニソール(Anisole)などの末端封止剤を反応溶液中に加え、所定温度に加熱し所定時間反応させ末端を修飾する。
なお、多分岐高分子の合成方法は、上述の方法に限定されるわけではない。このほか、スルホン酸樹脂の合成法にはつぎの2種の方法を採用することができる。
【0076】
1つは、モノマーを硫酸、リン酸、ポリリン酸、五酸化リン、またはメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フルオロスルホン酸などのスルホン酸類の単独液体中、0〜200℃(好ましくは30℃〜150℃である。低温では反応が遅すぎ、高温ではゲル化などの副反応が起こるからである。)で0.1〜72時間(好ましくは3〜48時間である。短いと十分な分子量が得られないからであり、あまり長くしても分子量の増加速度が小さくなるからである。)攪はんする方法である。
【0077】
他の1つは、モノマーを硫酸、リン酸、ポリリン酸、五酸化リンと、メタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フルオロスルホン酸などのスルホン酸類が、5〜95%(好ましくは30〜70%である。)含む混合物中で0〜200℃(好ましくは30〜150℃である。低温では反応が遅すぎ、高温ではゲル化などの副反応が起こるからである。)で0.1〜72時間(好ましくは3〜48時間である。短いと十分な分子量が得られないからであり、あまり長くしても分子量の増加速度が小さくなるからである。)攪はんする方法である。
【0078】
以上のとおり多分岐高分子は合成される。
この多分岐高分子は、直鎖状高分子では両端2つの末端部分しか持たないのに対して、その分子量に比例した数だけの末端部分を有している。そして、この多分岐高分子は、主鎖が耐酸化性である芳香族構造であり、末端部分にスルホン酸(またはスルホン酸塩)基を有している。そのために、優れた溶媒親和性も有している。
【0079】
次に、固体酸と多分岐高分子を反応させて化合物を合成する方法について説明するが、例えば、多分岐高分子を合成する際に固体酸を同時に混合するだけでよい。もしくは、多分岐高分子を合成している途中で固体酸を混合してもよい。固体酸のスルホン基が多分岐高分子の芳香族構造へ求電子置換反応することにより結合される。
もしくは、多分岐高分子のスルホン基が固体酸の芳香族構造へと求電子置換反応する副反応も起こりうる。このような副反応が生じても特に問題はない。どちらについても芳香族構造とスルホン基との求電子置換反応が起きることにより結合が生じることとなるためである。このようにして固体酸と多分岐高分子は、求電子置換反応することによって結合する。
【0080】
このようにして合成した固体酸と多分岐高分子からなる化合物のプロトン伝導度は、0.01〜0.30Scm-1(温度80℃、湿度100%の条件下、交流インピーダンス法によって測定される値である)となることが望ましい。プロトン伝導度が0.01Scm-1未満であると電池特性が不十分となってしまう恐れがあり、またプロトン伝導度が0.30Scm-1を超えると収率が下がってしまう恐れがあるためである。
このようにして合成した固体酸と多分岐高分子からなる化合物は、優れたプロトン伝導性と耐熱性を有するため、燃料電池用高分子電解質として用いることができる。
また、優れた溶媒親和性を有するため、バインダー樹脂と混合して燃料電池用高分子電解質のワニスを調整する際に非常にハンドリングに優れている。
なお、この化合物の用途は上述の燃料電池用高分子電解質に限定されるわけではない。この化合物の用途は、このほか、電気分解用高分子電解質、純水製造用イオン交換樹脂、帯電防止剤なども挙げることができる。
【0081】
本発明の化合物は、プロトン伝導性や固体酸触媒として優れ、また、耐久性(耐熱性、耐酸性、化学的安定性)およびコスト性に優れていることから、前記のようにイオン交換体、プロトン伝導性材料、電解質膜、固体酸触媒担持体などとして非常に有用である。さらに、本発明の化合物を利用して固体電解質膜を作製し、これを用いて膜電極接合体や燃料電池を作製することが可能である。
【0082】
本発明の化合物を用いて電解質膜を作成する方法の一例としては、まず、本発明の化合物を支持体に積層し乾燥などを行い、電解質膜を作製する。必要に応じてその上へ保護フィルムを積層して保存する。
【0083】
本発明の電解質膜を用いて膜電極接合体を製造する方法は、例えば、使用時、この支持体、保護フィルムを剥離させた後、電解質の両面に、ナフィオン(Nafion, デュポン社の登録商標)などのプロトン伝導性樹脂溶液をバインダーとして塗布して、触媒層付きガス拡散電極を合わせ、ホットプレスにすることで膜電極接合体が得られる。本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
ここにセパレータや補助的な装置(ガス供給装置、冷却装置)を組み立て、単一あるいは積層することにより、燃料電池を作製することができる。
すなわち、上記のような方法で得られた膜電極接合体を、ガスセパレーターなどで挟むことで、本発明の燃料電池が得られる。
【0085】
本発明の燃料電池は、単独または複数を積層してスタックを形成して、用いることもできる。
【0086】
図6は本発明の膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
前記電解質膜1をその両面に常法により電極触媒層2、3を接合・積層して膜電極結合体12が形成される。
【0087】
図7は、この膜電極結合体12を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの一実施態様の構成を示す分解断面図である。膜電極結合体12の電極触媒層2および電極触媒層3と対向して、それぞれカーボンペーパーにカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を塗布した構造を持つ空気極側ガス拡散層4および燃料極側ガス拡散層5が配置される。これによりそれぞれ空気極6および燃料極7が構成される。そして、単セルに面して反応ガス流通用のガス流路8を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路9を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ10により挟持して単セル11が構成される。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(固体酸の製造)
20gのナフタレンを300mLの96%濃硫酸に加え、この混合物に窒素ガスを30ml/minで吹き込みながら250℃で15時間加熱することによって黒色の液体が得られた。
この液体を排気速度50L/min、到達圧力1×10-2torr以下の高真空ロータリーポンプで真空排気しながら250℃で5時間加熱することによって過剰の濃硫酸の除去と炭化の促進を行い、黒色粉末を得た。
この黒色粉末を不活性気流中下180℃で12時間加熱した後、300mLの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸が前述した閃光燃焼を用いた元素分析計による元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返して、固体酸を得た。得られた固体酸は水に不溶であった。
【0089】
(固体酸の解析)
スルホン酸基導入無定形炭素の13CMAS(Magnetic angle spinning )核磁気共鳴スペクトルの測定:ASX200(Bruker社製、測定周波数:50.3MHz)を使用して測定した。
図4はスルホン酸基導入無定形炭素の13CMAS(Magnetic Angle Spinning)核磁気共鳴スペクトルの測定結果を示すグラフである。
130ppm付近には縮合芳香族炭素6員環による化学シフトが現れ、140ppm付近にはスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環による化学シフトが現れた。
スルホン酸基導入無定形炭素のX線解析装置:Geigerflex RAD−B,CuKα(株式会社リガク社製)を使用した。
図5はスルホン酸基導入無定形炭素のX線解析結果を示すグラフである。
炭素(002)面と(004)面の回折ピークが確認された。(002)面の回折ピークの半値幅は11°であった。
また、スルホン酸密度の測定は以下のとおりである。製造した材料1gを蒸留水100mLに分散させ、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって求めた。なお、中和点はpHメータを用いて決定した。4.9mmol/gであった。
【0090】
(固体酸の性能評価)
固体酸粉末を加圧成型(日本分光社製、10mmΦ錠剤成型器、成型条件:400kg/cm2 、室温、1分)することによって、厚さ0.7mm、直径10mmのディスクを作製し、ディスクの片面に白金を蒸着した後、インピーダンスアナライザー(HYP4192A)を用いて交流インピーダンス法によってプロトン伝導度を測定した。
周波数5〜13MHz、印加電圧12mV、温度80℃、湿度100%にてセルのインピーダンスの絶対値と位相角を測定した。得られたデータは、コンピュータを用いて発振レベル12mVにて複素インピーダンス測定を行った。プロトン伝導度は2.2×10-1Scm-1であることが確認された。
この結果は、上記スルホン酸基導入無定形炭素がナフィオンに匹敵するプロトン伝導度を有することを示している。
【0091】
(多分岐高分子を合成するためのモノマーの合成)
最初に以下の方法により式(3)によりモノマーを合成した。
300mlの三口フラスコにDean−stark抽出器と窒素導入管をつけ、窒素気流下で、11.8gのp−phenol sulfonic acidsodium saltと炭酸カリウム6.6g、150mlのジメチルスルホキシド(DMSO)および60mlのトルエン(Toluene)を加え、165℃で2時間共沸脱水を行った。
トルエンを留去した後、2,6−ジクロロベンゾニトリル(2,6−dichlorobenzonitrile)を3.4g加え、150℃で48時間反応させた。
反応溶液をガラスフィルターでろ別後、800mlのクロロホルムに投入し沈澱を析出させた。得られた沈澱をメタノールで1時間還流洗浄した後、水で2度再結晶を行いAB2型モノマーを得た。
収率は46%であった。得られたAB2型モノマーの構造は1H−NMRおよびIRにより確認した。
【0092】
【化17】

【0093】
(多分岐高分子の合成および固体酸と多分岐高分子からなる本発明の化合物の合成)
つぎに、以下の方法により、得られたAB2型モノマーから多分岐高分子を合成した。
すなわち、50mlのナスフラスコに0.4gの上述AB2型モノマーと5mlのメタンスルホン酸と五酸化リンの混合液を加え、窒素雰囲気下で120℃で48時間反応させ多分岐高分子を合成した。
図2(イ)は合成した多岐高分子の分子構造を示し、(ロ)はこの多岐高分子の分子鎖を示すイメージ図である。
つぎに、以下の方法により、得られた多分岐高分子を含む反応溶液中に0.05gの固体酸を加え、120℃で更に24時間反応させ末端を修飾した。
反応終了後、800mlの水に投入し反応物を析出させた後、メタノールで1時間還流洗浄し、100℃で1晩減圧乾燥し、固体酸と多分岐高分子からなる本発明の化合物を得た。得られた本発明の化合物は水溶媒に対して良好な親和性を示し溶解した。
図3は固体酸と多岐高分子からなる本発明の化合物の分子構造を示す説明図である。
【0094】
(固体酸と多岐高分子からなる本発明の化合物の解析)
本発明の化合物の13CMAS(Magnetic Angle Spinning )核磁気共鳴スペクトルの測定:ASX200(Bruker社製、測定周波数:50.3MHz)を使用して測定した。
130ppm付近には縮合芳香族炭素6員環による化学シフトが現れ、140ppm付近にはスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環による化学シフトが現れた。
本発明の化合物のX線解析装置:Geigerflex RAD−B,CuKα(株式会社リガク社製)を使用した。
炭素(002)面と(004)面の回折ピークが確認された。(002)面の回折ピークの半値幅は11°であった。
また、本発明の化合物のスルホン酸密度の測定は以下のとおりである。製造した材料1gを蒸留水100mLに分散させ、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって求めた。なお、中和点はpHメータを用いて決定した。スルホン酸密度は5.5mmol/gであった。
【0095】
(固体酸と多分岐高分子からなる本発明の化合物の性能評価)
本発明の化合物の粉末を加圧成型(日本分光社製、10mmΦ錠剤成型器、成型条件:400kg/cm2 、室温、1分)することによって、厚さ0.7mm、直径10mmのディスクを作製し、ディスクの片面に白金を蒸着した後、インピーダンスアナライザー(HYP4192A)を用いて交流インピーダンス法によってプロトン伝導度を測定した。
周波数5〜13MHz、印加電圧12mV、温度80℃、湿度100%にてセルのインピーダンスの絶対値と位相角を測定した。得られたデータは、コンピュータを用いて発振レベル12mVにて複素インピーダンス測定を行った。プロトン伝導度は2.4×10-1Scm-1であることが確認された。この結果は、本発明の化合物がナフィオンに匹敵するプロトン伝導度を有することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の化合物は、固体酸と多分岐高分子からなる化合物であって、前記固体酸が前記多分岐高分子と求電子置換反応によって結合していることを特徴とするものであり、多分岐高分子のみでは十分なプロトン伝導性が得がたいのに対して、固体酸に多分岐高分子を求電子置換反応にて結合させることによって、プロトン伝導性が高く、かつ耐熱性に優れ、そして溶媒との親和性に優れるためにフィルム化する際のハンドリング性に優れ、フィルム内での固体酸の安定性や耐久性にも優れており、しかも大量に産業廃棄されている硫酸ピッチを固体酸として、リサイクル使用すれば低コストとなるとともに環境負荷を大幅に低減可能となるという効果があり、膜強度を有する高分子電解質膜、高温で動作可能な膜電極接合体および燃料電池、固体酸触媒、イオン交換膜などに利用できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】スルホン酸基導入無定形炭素を製造する工程を概念的に示す説明図である。
【図2】(イ)はAB2型モノマー(A:ベンゼン環、B:スルホン基)を重合してできる多岐高分子の分子構造を示し、(ロ)はこの多岐高分子の分子鎖を示すイメージ図である。
【図3】固体酸と多岐高分子からなる本発明の化合物の分子構造を示す説明図である。
【図4】スルホン酸基導入無定形炭素の13CMAS(Magnetic Angle Spinning)核磁気共鳴スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図5】スルホン酸基導入無定形炭素のX線解析結果を示すグラフである。
【図6】電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
【図7】図6に示した膜電極結合体を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの構成を示す分解断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1 電解質膜
2、3 電極触媒層
4 空気極側ガス拡散層
5 燃料極側ガス拡散層
6 空気極
7 燃料極
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレータ
11 単セル
12 膜電極結合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸と多分岐高分子からなる化合物であって、前記固体酸が前記多分岐高分子と求電子置換反応によって結合していることを特徴とする化合物。
【請求項2】
前記固体酸が、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理し多環状芳香族炭化水素を縮合およびスルホン化することによって得られるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、13C核磁気共鳴スペクトルにおいて縮合芳香族炭素6員環およびスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする請求項2記載の化合物。
【請求項4】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において半値幅が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする請求項2あるいは請求項3記載の化合物。
【請求項5】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折において炭素(002)面の回折ピークのみが検出されるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、0.5〜14mmol/gであるスルホン酸基が導入された無定形炭素であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
前記多分岐高分子が、主鎖に耐酸化性である芳香族構造を有し末端にはスルホン基を有する多分岐高分子であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
前記多分岐高分子がABX型モノマー(ただし、Xは2か3)の逐次重合によって合成され、その数平均重合度が2〜100であるような樹枝状高分子であって、ABX型モノマーとは1つの芳香族構造AとX個のスルホン基Bを有し且つ芳香族構造Aとスルホン基Bの一つずつが求電子置換反応することにより逐次重合するものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の高分子。
【請求項9】
前記多分岐高分子が、少なくとも以下の式(A)〜(D)、式(E)〜(H)から選択されるモノマーから合成される多分岐高分子であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の化合物。
(但し、式(A)〜(D)、式(E)〜(H)中のArは、式(I)〜(K)から選択される少なくとも1つの基を示す。)
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項10】
前記多分岐高分子が、少なくとも以下の式(A’)〜(D’)、式(E’)〜(H’)から選択される基を含む多分岐高分子であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の化合物。
(但し、式(A’)〜(D’)、式(E’)〜(H’)中のArは、式(I’)〜(K’)から選択される少なくとも1つの基を示す。)
【化4】

【化5】

【化6】

【請求項11】
前記多分岐高分子が、以下の式(L)〜(M)から選択される基を含む多分岐高分子であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の化合物。
【化7】

【請求項12】
前記固体酸と前記多分岐高分子からなる化合物のプロトン伝導度が、0.01〜0.30S/cm(温度80℃湿度100%条件下で交流インピーダンス法による)であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載する化合物を用いたことを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項14】
請求項1から請求項12のいずれかに記載する化合物を用いたことを特徴とする膜・電極接合体。
【請求項15】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の化合物を用いたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−214508(P2008−214508A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54422(P2007−54422)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】