説明

固体酸化物形燃料電池のアノード還元法

【課題】固体酸化物形燃料電池のアノード中の金属酸化物に対する従来の還元法における問題を解決してなる固体酸化物形燃料電池のアノード還元法を得る。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池のアノード還元法であって、固体酸化物形燃料電池のアノードの燃料流路側にパージガスを流し、カソードの酸化剤流路側に酸化剤ガスを流しながら、固体酸化物形燃料電池に逆電流を流すことにより、アノード中の触媒金属の酸化物を電気化学的に還元することを特徴とする固体酸化物形燃料電池のアノード還元法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池のアノード還元法に関し、より詳しくは固体酸化物形燃料電池のアノード中の触媒金属の酸化物を還元する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下、適宜“SOFC”と言う。〕には平板型、円筒型、一体積層型、横縞型、その他各種あるが、これらは原理的には同じである。その単電池すなわちセルは、固体酸化物電解質を挟んでアノード及びカソードが配置され、アノード/固体酸化物電解質/カソードの三層構造で構成される。
【0003】
そのうち、例えば平板型のSOFCには、(a)電解質膜自体でその構造を保持する自立膜式や(b)膜厚の厚いアノードで電解質膜を支持する支持膜式のほか、(c)多孔質の絶縁性の多孔質支持基体の上に電池を配置した形式なども考えられている。図1(a)〜(c)はそれらセルの態様例を説明する図である。
【0004】
図1(a)は自立膜式のセルであり、セル1は、電解質膜3の下面にアノード2が配置され、電解質膜3の上面にカソード4が配置されて構成される。
図1(b)は支持膜式のセルであり、セル1は、膜厚の厚いアノード2の上に電解質膜3が配置され、電解質膜3の上にカソード4が配置されて構成される。支持膜においては、電解質膜の膜厚を薄くでき、その膜厚が例えば10μmとなり、650〜800℃という低温で運転できる。このためその構成材料として耐熱合金、例えばステンレス鋼など安価な材料の使用を可能とし、また小型化が可能であるなど各種利点を有する。
図1(c)は、絶縁性の多孔質支持基体5の上に順次、アノード2、電解質3及びカソード4を配置して構成したセル1である。
【0005】
前述いずれの型式のSOFCでも、セル一つでは高々0.8V程度の電圧しか得られないので、実用的な電力を得るために複数個のセルを配置し、電気的に直列に接続して構成される。図2は平板型を例にその態様を説明する図で、SOFCセルの2個をインターコネクタ6、7を介してセットし、スタック化した場合を示している。図2のとおり、隣接するセル間を電気的に直列に接続するのと同時に、カソードとアノードのそれぞれに空気と燃料とを分配し供給し排出する目的で、インターコネクタとセルとが交互に積層される。なお、図2中A−A線断面が図1(a)〜(c)に示すような各種型式のセルの断面図に相当している。
【0006】
ここで、セルの固体酸化物電解質としては、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、イットリアドープセリア、ガドリアドープセリアなどが用いられ、カソードの構成材料としてはSrドープのLaMnO3、LSCF:(La0.6Sr0.4)Co0.2Fe0.83などが用いられ、多孔質支持体の構成材料としてはNiと希土類元素酸化物が固溶したZrO2などが用いられる。
【0007】
アノードの構成材料としては、触媒金属(Ni、Co、Ru)を含む材料、Niを主成分とする材料、NiとYSZ〔(Y23X(ZrO21-X(式中、x=0.05〜0.15)〕との混合物つまりそのコンポジット材料などが用いられる。その作製時に構成材料にグラファイト粉末などを混入して焼結することで多孔質とされる。
【0008】
ところで、アノードは、そのように多孔質構造を持つ層であり、その成分のうちNi等の金属がメタンの改質反応と電気化学反応に寄与する。これを、NiとYSZを例に説明すると、NiはSOFCの作製時には酸化状態、すなわちNiO(酸化ニッケル)の状態にあり、セルのアノードとして機能させるためには、一旦金属Niに還元しておく必要がある。
【0009】
図3は、支持膜式のSOFCセルを例にして、その作製工程例を説明する図である。図3中、アノード、電解質及びカソードの構成原料例を併記している。図3のとおり、アノード原料として酸化ニッケル(NiO)粉末、YSZ粉末、グラファイト粉末を混合した後、造粒し、次いでプレス成形によりグリーン基板を作製する。この基板がセルにおいてアノードとなり、電解質を支持することになる。グラファイト粉末は、成形を容易にするとともに、焼結時にアノードを多孔質とするための補助材である。
【0010】
次いで、そのグリーン基板上に電解質材料を塗布、成膜した後、共焼結する。より具体的には、電解質原料としてYSZ粉末、バインダー等を混合した後、解砕し、これを水性スラリーとし、スクリーン印刷等によりグリーン基板上に塗布、成膜した後、共焼結する。そして、共焼結体のうち、電解質の膜面上にカソード材料、例えばLSCFをスクリーン印刷等により塗布した後、焼成し、アノード/電解質/カソードの三層ユニットからなるSOFCセルを作製する。
【0011】
ここで、以上のような工程で作製される三層ユニットのうちアノード層に着目すると、原料である酸化ニッケル(NiO)は、その作製過程で共焼結、焼成の工程を経るが、そのまま酸化状態、すなわちNiOの状態にあることから、アノード層はYSZとNiOのコンポジット層となっている。しかしNiOのままであると、メタンの改質反応も電気化学反応も起こせないので、これをアノードとして機能させるためには、NiOを一旦Niに還元しておく必要がある。
【0012】
〈従来のアノード還元法〉
アノード層中のNiOを還元するために、従来法では、上述のように作製したセルを例えば電気炉内に配置し、水素等の還元性ガスをアノード側に供給し、高温状態で化学的に還元する方法がとられている。NiOの還元反応は下記のとおりである。
【化1】

【0013】
この還元反応は、ある程度高温にならないと起こらないので、600℃程度以上の温度に昇温し、その状態で水素を供給して還元を行う。ただし、カソードにも還元性ガスが供給されるとカソードが分解する恐れがあるために、カソードにはきちんと空気などの酸化剤ガスを供給し、また、アノードに供給する水素などの還元性ガスがカソード側まで回り込まないようにシールを行っておくことも必要である。
【0014】
図4〜5は、平板型SOFCスタックを例に、従来法によるアノード還元法を説明する図である。図4はそのための装置構成の概略である。NiOを高温状態で化学的に還元するために、SOFCスタックを電気炉内に設置する。そして、アノード側流路に還元性ガスを流し、カソード側流路に空気などの酸化剤ガスを流しながら昇温し、600℃程度以上の温度で還元処理を行う。なお、還元性ガス及び酸化剤ガスは、それぞれ、供給管から、分配機構を介して各セルのアノード側及びカソード側に供給されるが、図示は省略している。この点、後述図6についても、還元性ガスがパージガスとなる点を除き、同じである。
【0015】
図5は、その還元状況を示し、還元性ガスとして水素を用いる場合を例示している。アノード層中のNiOは水素と反応し、還元されてNiとなる。その際生成する水蒸気は、未反応水素とともにオフガスとしてアノード側、すなわち燃料流路から排出される。このオフガスはそのまま、カソード側から排出される空気と混合して電気炉内で燃焼させるか、あるいは、それが少量の場合には空気で希薄化させて大気中に放出するなどの処置がとられる。
【0016】
しかし、NiOの還元反応速度は決して高くない。このため、NiOの還元を完全に完了させるためには、多量の還元性ガスを投入する必要がある。その一方で、一度に多量の還元性ガスを投じると、上記のとおり、そのオフガスの処理が大変となる。例えば、アノード側からのオフガスを空気と混合させて燃焼させる場合、大量のオフガスがあると、燃焼温度が上昇し過ぎるなどの問題が発生する。
【0017】
しかも、アノードをその厚さ方向に見た場合、最初に還元されるのは燃料流路に近い部分であり、電解質とアノードの界面部分が最も遅く還元されることになる。
【0018】
前述のとおり、アノードは例えばNiとYSZの両成分と孔形成用物質の混合物を成形、焼結して構成される多孔質構造を持つ層であり、そのうちNiがメタンの改質反応と電気化学反応に寄与する。このため燃料流路に近い部分がNiに還元されるとメタンの改質反応は進むが、電解質とアノードの界面部分の酸化ニッケル(NiO)が完全にNiに還元されていないと電気化学反応は進まず、セルとして機能しないことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、固体酸化物形燃料電池のアノード中の触媒金属の酸化物に対する従来の還元法における以上の問題を解決してなる、新規且つ有用な固体酸化物形燃料電池のアノード還元法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、固体酸化物形燃料電池のアノードを還元する方法である。そして、固体酸化物形燃料電池のアノードの燃料流路側にパージガスを流し、カソードの酸化剤流路側に酸化剤ガスを流しながら、固体酸化物形燃料電池に逆電流を流すことにより、アノード中の触媒金属の酸化物を電気化学的に還元することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
従来法では、アノードを還元するのに多量の還元性ガスを必要とし、また、その還元に使用したオフガスの処理にも注意を要した。これに対して、本発明のアノード還元法によれば、アノードを還元するに際して、固体酸化物形燃料電池に逆電流を印加して電気化学的に還元することにより、その還元に要する還元性ガスの使用量を大幅に軽減し、しかも還元時間を短縮することができる。また、還元性ガスの使用量を少なくできることから、そのオフガスの処理も容易となる。このように、本発明のアノード還元法は実用上も非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のアノード還元法においては、SOFCのアノードの流路側にパージガスを流し、カソードの流路側に空気等の酸化剤ガスを流しながら、定電圧電源等の電源よりSOFCに逆電流を流すことにより〔すなわち、発電時における通常の電池電流の流れ、酸素イオンの流れ方向とは逆向きに(逆方向に)電流を流すことにより〕、アノード中の触媒金属の酸化物を電気化学的に還元する。
【0023】
本発明においては、その還元反応速度を上げるために、上記“SOFCのアノードの流路側にパージガスを流し、カソードの流路側に酸化剤ガスを流しながら、SOFCに逆電流を流す”処理を高温下に行うことが望ましい。その温度は500〜800℃の範囲とすることができる。また、そのパージガスとして還元性ガスまたは還元性ガスを含むガスを流すことにより、アノードの流路側からアノード中の流路側の触媒金属の酸化物を部分的に還元し、逆電流の流れを促進することができる。
【0024】
従来法においては、SOFCセルのアノード中のNiOを還元するに際して、アノードを還元性ガス(通常は水素)で還元していたのに対して、本発明においては、これに代えて、SOFCセルに強制的に逆電流を流し、3相界面(アノードの電解質との界面、すなわちアノードのうち電解質側)から還元を起させることにより電気化学的にアノード中のNiOを還元するものである。
【0025】
図6〜7は、平板型SOFCスタックを例に、本発明のアノード還元法を説明する図である。図6において、平板型SOFCスタックを例えば電気炉内に配置する。そして、カソードとアノードに定電圧電源を図示のとおりセットする。電源陽極からの導線をカソードに接続し、電源陰極からの導線をアノードに接続する。そして、還元操作時に、カソード側に空気を流し、アノード側にパージガスを流しながら、定電圧電源からカソードとアノード間に電流を流して電気を供給する。これによる還元状況を図7に示している。
【0026】
図7のとおり、定電圧電源により強制的に逆電流を流し、3相界面のNiOからOを引き抜いて(NiO+2e-→Ni+O2-)カソード側に流し込む。流れている電流はすべて酸素イオン(O2-)の逆流によるものであり、そしてその酸素イオンの供給源はNiOであるから、電流量に応じたNiOが確実に還元されることになり、無駄がない。
【0027】
そのように、アノードの電解質との界面、すなわちアノードのうち電解質側のNiOから還元を起させ、NiOからOを引き抜いてカソード側に流し込むことは、本発明のアノード還元法において重要な特徴点である。これにより、電極活性として最も必要となる領域である電解質とアノードの界面領域(3相界面)、すなわちアノード層のうち最も電解質側寄りのNiOから還元することができる。
【0028】
なお、アノード全体がNiOの状態では、絶縁状態に近く、電流が流れないために、アノード側に水素等の還元性ガスを含むパージガス(還元性ガスのみでもよい)を流して燃料流路側のアノード表面付近を還元しておくことは必要である。また、逆電流による電解質側からの反応速度(=O引き抜き反応速度)、燃料流路側アノード表面付近での反応速度を上げるために、やはり500℃程度以上の温度で還元処理を行うことは必要であり、また、カソードの還元を防止するために、カソード側に空気を流すことは必要である。
【0029】
電源としては、定電流電源、定電圧電源、双方とも可能であるが、印加する逆電圧が1電池あたり2V以上になると、アノード成分であるジルコニア等の分解が起こる危険があるため、2V以下の電圧になるように印加電圧を制限する必要がある。
【0030】
本発明は、平板型、円筒型、一体積層型、横縞型、その他いずれの固体酸化物形燃料電池に対しても適用される。
【0031】
〈実験例〉
以下、実験例を基に本発明をさらに詳しく説明する。本実験は以下のように実施した。本発明のアノード還元法の実験として、図6のように、SOFCセルスタックを電気炉中に配置し、加熱して750℃に達した時点を起点にし、その起点から40分経過時に還元開始、すなわちアノード側に水素と窒素の混合ガス(混合比=50/50)を流しながら、その起点から60分経過時(=還元開始時から20分経過時)に逆電流を印加した。また、比較実験として、図4のように、上記と同様のSOFCセルスタックを電気炉中に配置し、加熱して750℃に達した時点を起点にし、その起点から40分経過時に還元開始、すなわちアノード側に水素と窒素の混合ガス(混合比=50/50)を流した。両試験とも、還元開始時点からカソード側に空気を流した。
【0032】
図8はその結果を示す図で、横軸は経過時間、縦軸は1セルあたりの電池電圧である。図8のとおり、本発明のアノード還元法により、逆電流を流した場合には、その印加時点から電池電圧が急激に上がり、その印加時点からおよそ20分で電池電圧が1Vで安定する。これに対して、比較実験である逆電流無しの場合には、電池電圧が1Vに安定するまで50分(=本発明のアノード還元法の実験での逆電流印加時を起点)かかっている。
【0033】
このように、本発明のアノード還元法によれば、アノードの還元時間を大幅に短縮できるだけでなく、その短縮に伴い還元性ガスの投入量を低減することができる。還元性ガスの投入量を少なくできることから、従来法のアノード還元法におけるオフガス処理の問題も解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】SOFCセルの態様例を説明する図
【図2】SOFCスタックの態様例を説明する図
【図3】支持膜式のSOFCセルを例にして、その作製工程例を説明する図
【図4】従来法によるアノード還元法を説明する図
【図5】従来法によるアノード還元法における還元状況を説明する図
【図6】本発明のアノード還元法を説明する図
【図7】本発明のアノード還元法における還元状況を説明する図
【図8】実験例の結果を示す図
【符号の説明】
【0035】
1 セル
3 アノード
3 電解質膜
4 カソード
5 多孔質支持基体
6、7 インターコネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池のアノード還元法であって、固体酸化物形燃料電池のアノードの燃料流路側にパージガスを流し、カソードの酸化剤流路側に酸化剤ガスを流しながら、固体酸化物形燃料電池に逆電流を流すことにより、アノード中の触媒金属の酸化物を電気化学的に還元することを特徴とする固体酸化物形燃料電池のアノード還元法。
【請求項2】
前記アノード中の触媒金属の酸化物が酸化ニッケルであることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池のアノード還元法。
【請求項3】
前記パージガスとして還元性ガスまたは還元性ガスを含むガスを流すことにより、アノード中の触媒金属の酸化物をアノードの燃料流路側から部分的に還元し、逆電流の流れを促進することを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池のアノード還元法。
【請求項4】
前記固体酸化物形燃料電池のアノードの燃料流路側にパージガスを流し、カソードの酸化剤流路側に酸化剤ガスを流しながら、固体酸化物形燃料電池に逆電流を流す処理を500〜800℃の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池のアノード還元法。
【請求項5】
前記固体酸化物形燃料電池が平板型、円筒型、一体積層型または横縞型の固体酸化物形燃料電池であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池のアノード還元法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−34305(P2008−34305A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208460(P2006−208460)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】