説明

固体酸化物形燃料電池の発電セルの燃料極構造

【課題】レドックスサイクルを繰り返しても剥離しにくい発電性能のよいNi−セリア系燃料極を提供する。
【解決手段】燃料極層と電解質との間にセリア系第1中間層を設けた固体酸化物形燃料電池の燃料極構造において、前記セリア系第1中間層と燃料極層との間にセリア系第2中間層を設け、前記セリア系第2中間層の厚さをセリア系第1中間層の2〜3倍の厚さとし、前記セリア系第2中間層のNi量をX、セリア系第1中間層に含まれるNi量をY、燃料極層に含まれるNi量をZとした場合、Y<X<Zの関係を満たし、製造時にセリア系第2中間層に含まれるNiOwt%を35〜55wt%としたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に関し、特に、微細構造を有し、反応場である3相界面が増加した固体酸化物形燃料電池の発電セルの燃料極構造を提供することができるNi系合金粉とGdドープセリア(以下、GDCという)またはSmドープセリア(以下、SDCという)のサーメットからなる燃料極構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体酸化物形燃料電池は、純水素ガスを燃料として発電しているが純水素ガスは比較的高価であるために、近年、都市ガス、天然ガス、メタノール、石炭ガスなどを改質して得られた水素ガスを燃料とすることが主流となってきた。この固体酸化物形燃料電池の構造は、一般に、酸化物からなる固体電解質の片面に空気極を積層し、固体電解質のもう一方の片面に燃料極を積層してなる構造を有している発電セルと、この発電セルの空気極の外側に空気極集電体を積層させ、一方、発電セルの燃料極の外側に燃料極集電体を積層させ、前記空気極集電体および燃料極集電体の外側にそれぞれセパレータを積層させた積層構造体を複数積層させた構造を有している。
【0003】
前記発電セルを構成する固体電解質として、例えば、ランタンガレート系酸化物イオン伝導体を用いることが知られており、このランタンガレート系酸化物イオン伝導体は、一般式:La1−XSrGa1−Y−ZMg(式中、A=Co、Fe、Ni、Cuの1種または2種以上、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表される酸化物イオン伝導体であることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、前記発電セルを構成する燃料極として、ガドリニウムドープセリア(GDC;Ce1−xGd2−y)または、サマリウムドープセリア(SDC;Ce1−xSm2−y)がニッケル(Ni)との混合物として使用されている。最もよく使用されるのが、GDC10と呼ばれるGdがCeに対して10%ドープされたCe0.9Gd0.1である。SDCの場合は、同様にSmがCeに対して20%ドープされたCe0.8Sm0.21.9が良く使用されている。この3価のGd、あるいはSmのドーパントによる4価のセリウムの酸化物であるセリア(CeO)への影響は、添加量が10〜20atmic%であれば、発電セルの燃料極として、イオンと電子が動く混合伝導体として、有効に機能することが周知の事実である。そのため、多くの研究者が、GDC10、GDC20、SDC10、SDC20を使用し、論文等で発表を行っている(例えば、特許文献2、3、4)。
【0005】
前記GDC10やSDC20をNiO(酸化ニッケル)と混合してSOFCの燃料極とした場合、通常、700℃以上の還元雰囲気で保持される燃料極中のNiOは金属ニッケルに還元され、発電反応に寄与する。発電セルの空気極で、酸素が乖離し、酸化物イオンとなり電解質中を移動して、燃料極のGDCあるいはSDC中を移動して、Niとの接触界面に水素が来たときに反応して電力を発生し、水蒸気を発生する。これがSOFCの原理である。
【0006】
固体酸化物形燃料電池(SOFCの燃料極構造として、電解質との間にセリア系中間層を入れて、電解質との密着性を高めることが一般的に行われている。また、セリア系中間層にNiを混ぜて、燃料極の最表面に向けて、セリアの量を減らして、Ni量を増やす傾斜組成を実施することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−335164号公報
【特許文献2】特開2009−211830号公報
【特許文献3】特開2004−200125号公報
【特許文献4】特開2004−164864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、電解質とNi−セリア系の燃料極との間に中間層がない場合、発電試験中にNi−セリア系の燃料極は電解質から極短時間で剥離してしまうことが知られている。電解質にランタンカレート系を用いた場合、中間層がない場合、数時間の発電試験で、発電性能が低下してしまい、解体後の調査で、Ni−セリア系燃料極が電解質から、完全に剥離していた事象があった。そこで、電解質と燃料極との中間層として、ドープされたセリアであるガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)を挿入すると、発電試験中に燃料極の剥離を抑制することができ、耐久性能が著しく伸びた。しかしながら、セリア系の中間層を入れた発電セルにおいても、発電試験における過酷条件であるレドックスサイクルが繰り返されると、発電性能が大きく低下することが確認された。このセルのレドックス後の状態を調べたところ、中間層と燃料極との間で剥離を起こしており、燃料極の中間層の物理的な接触が低下したために、発電性能が低下したと考えられる。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、レドックスサイクルを繰り返しても剥離しにくい発電性能のよいNi−セリア系燃料極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、SOFCの中間層について鋭意研究したところ、中間層と燃料極との間に中間層と燃料極との中間の組成を持つ第2中間層を挿入し、この第2中間層の割合を第1中間層に対して、調整し、適正化を実施することにより、耐レドックス性能が著しく向上するという知見を得た。
【0011】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 燃料極層と電解質との間にセリア系第1中間層を設けた固体酸化物形燃料電池の燃料極構造において、
前記セリア系第1中間層と燃料極層との間にセリア系第2中間層を設け、
前記セリア系第2中間層の厚さをセリア系第1中間層の2〜3倍の厚さとし、
前記セリア系第2中間層のNi量をX、セリア系第1中間層に含まれるNi量をY、燃料極層に含まれるNi量をZとした場合、Y<X<Zの関係を満たし、
製造時にセリア系第2中間層に含まれるNiOwt%を35〜55wt%としたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。
(2) 前記セリア系第1中間層に、製造時、NiOを含まない場合、前記セリア系第1中間層は、100%ガドリニウムドープセリア(GDC;Ce1−xGd2−y)または100%サマリウムドープセリア(SDC;Ce1−xSm2−y)からなることを特徴とする(1)に記載の固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。
(3) 前記セリア系第1中間層に、製造時、NiOを含む場合、製造時のNiOwt%を5〜25wt%とすることを特徴とする(1)に記載の固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。」
に特徴を有するものである。
【0012】
本発明について説明する。
【0013】
SOFCの発電セルの場合、空気極において、空気中の酸素が電子を受け取り、酸化物イオンになり、電解質中を酸素空孔のイオンホッピングにより燃料極側まで移動する。中間層がない場合、酸化物イオンは電解質の界面のNiがある部分において、水素と反応して、水蒸気を生成し、同時に電力を発生される。燃料極側は、通常、700℃以上の還元雰囲気であるため、当初の酸化ニッケル(NiO)は、金属ニッケル(Ni)に変化して、燃料電池反応に寄与している。還元雰囲気で、酸化ニッケルから金属ニッケルに変化した際に、電解質からのニッケルの結合が切れてしまうために、剥離に繋がってしまうと考えられる。
【0014】
そこで、セリア系中間層を燃料極と電解質との間に挟むことにより、酸化ニッケルが金属ニッケルに還元された場合においても、電解質と中間層との接合があるために、剥離を抑制できると推測される。中間層がセリア系であり、700℃程度の水素雰囲気においても酸化物の状態であるために、電解質と焼きついた状態が維持できているために、剥離しないと考えられる。これが第1中間層を挟む効果に繋がる。
【0015】
しかし、第2中間層がなく、第1中間層と燃料極でできている発電セルの場合、第1中間層中のNiが少ないか、或いは、ないため、第1中間層と燃料極との間で、Ni量が大きく変化する。酸化物イオンが第1中間層を出たところで、燃料極層のNiの多い部分で、多くの酸化物イオンが水素と反応する。そのため、レドックスサイクルにより、燃料ガスの供給が停止すると、この部分で、金属ニッケルが酸化ニッケルに変化し、その酸化反応により過剰に発熱して、当該箇所が剥離すると考えられる。
【0016】
セリア系であり、且つ、製造時のNiOの割合を35〜55wt%とする第2中間層を第1中間層と燃料極層との間に入れて、発電セルを製作した場合、数十回のレドックス試験において、殆ど性能低下がなく、且つ、試験後の燃料極の観察においても剥離は確認されなかった。
【0017】
NiO量を35〜55wt%含むセリア系の第2中間層を入れることにより、第1中間層から移動してきた酸化物イオンがニッケル量の少ない第2中間層で、除々に反応して水蒸気を作るが多くの酸化物イオンは最外層である燃料極まで移動して、燃料電池反応を起こすと考えられる。第2中間層の存在により、酸化物イオンと水素より水蒸気を発生させる燃料電池反応が、面ではなく、第2中間層の全体で反応し、急激な電池反応を緩和する効果がある。その結果、最外層の燃料極層部分での燃料電池反応が少なくなり、この部分での発熱量が減って、剥離防止につながったと考えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、ガドリニウムドープセリア(GDC;Ce1−xGd2−y)またはサマリウムドープセリア(SDC;Ce1−xSm2−y)とニッケル(Ni)との混合物を主成分とする固体酸化物形燃料電池の第1中間層と燃料極との間に第1中間層と燃料極との中間の組成を持つ第2中間層を挿入し、この第2中間層の割合を第1中間層に対して、調整し、適正化を実施することにより、耐レドックス性能が著しく向上するという本発明に特有の効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を、実施例を用いて以下に説明する。
【実施例】
【0020】
(a)ランタンガレート系電解質原料と電解質板の作製
酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化コバルトのそれぞれ試薬級の粉体を用意し、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)O3−σで示される組成となるように配合し、ボールミル混合後、空気中、1350℃に3時間保持し、得られた塊状焼結体をハンマーミルで粗粉砕の後、ボールミルで微粉砕して、平均1.3μmのランタンガレート系電解質原料を製造した。この粉にトルエン−エタノール混合溶媒にポリビニルブチラールとフタル酸n−ジオクチルを溶解した有機バインダー溶液を混合してスラリーとし、ドクターブレード法で薄板状に成形し、円形に切り出した後、空気中1450℃に4時間加熱保持して焼結し、厚さ200μm、直径120mmの円板上の自立膜のランタンガレート電解質を製造した。
(b)燃料極原料の作製
セリウムの酸化物であるセリア(CeO)とガドリニウムの酸化物であるガドリニア(Gd)をCeとGdの元素比で7:3に成るように秤量し、ボールミルにより、24時間混合した。例えば、(Ce0.7Gd0.3)O1.85の場合、それぞれの粉の平均粒径は1〜2μmのものを使用した。混合後、1300℃で6時間保持し、ハンマーミルで粗粉砕の後、ボールミルで微粉砕して、平均粒径1.5μmのガドリニウムドープセリア(GDC)を製造した。このGDCの粉末と市販の純度99.5%以上の平均粒径1.0μmの酸化ニッケル(NiO)を重量比でGDC:NiO=30:70の割合で、ボールミルで混合した。この混合割合でNiが還元された場合にはGDC:Niの体積比は、ほぼ65:35になる。サマリウムドープセリア(Ce0.7Sm0.3)O1.85の場合も同様に作製可能である。
【0021】
このNiO−GDCの混合粉にエチルセルロース、ターピネオール、ジブチルグリコールアセテートの混合物からなる有機バインダーを加えて混合し、燃料極ペーストを作製した。このペーストをスクリーン印刷により、自立膜のランタンガレート電解質上に印刷、塗布し、乾燥後、30μmの厚さとなるようにした。次いで、空気中、1250℃で3時間保持して、燃料極を作製した。
(c)サマリウムストロンチウムコバルタイト系空気極原料粉の製造
酸化サマリウム、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトのそれぞれの試薬級の粉体を用意し、Sm0.5Sr0.5CoO2.75で示される組成となるように秤量し、ボールミル混合後、空気中1000℃に3時間加熱保持し、得られた粉体をボールミルで微粉砕して、平均粒径1.1μmのサマリウムストロンチウムコバルタイト系空気極原料粉末を作製した。この粉にエチルセルロース、ターピネオール、ジブチルグリコールアセテートの混合物からなる有機バインダーを加えて混合し、空気極ペーストを作製した。この空気極ペーストをスクリーン印刷により、燃料極と反対の面の自立膜のランタンガレート電解質上に印刷、塗布し、乾燥後、20μmの厚さとなるようにした。次いで、空気中、1100℃で3時間保持して、空気極を作製した。
【0022】
このようにして、固体電解質、燃料極および空気極からなる本発明固体電解質型燃料電池用発電セル(以下、本発明発電セルという)を製造し、得られた本発明発電セルの燃料極の上に厚さ0.74mmの多孔質Niからなる燃料極集電体を積層し、一方、本発明発電セルの空気極の上に厚さ1.0mmの多孔質Agからなる空気極集電体を積層し、さらに前記燃料極集電体、空気極集電体の上にそれぞれ、セパレータを積層することにより本発明の固体電解質形燃料電池を作製した。
【0023】
このようにして得られた本発明固体電解質形燃料電池および従来の固体電解質形燃料電池を用いて次の条件で発電試験を実施し、その結果を表1〜5に示した。
<発電試験>
温度:750℃
燃料ガス:水素
燃料ガス流量:565mL/min.(5ml/min./cm
酸化剤ガス:空気
酸化剤ガス流量:2.7L/min.(25ml/min./cm
電流密度:540mA/cm
燃料利用率:75%
空気利用率:37.5%
の条件で初期状態での発電を行った。
【0024】
その後、負過電流が0Aの0CV(開回路)の状態で、燃料ガスを30秒間隔で、ON−OFFを80回繰り返しレドックス試験を実施した。再度、540mA/cmの電流密度まで負過電流を取り、その際、初期の電圧から何mV低下したかを測定した。
[実施例A]
第1中間層の厚さを1μm(一定)、第2中間層の組成をNiO:GDC=45:55wt%(一定)として、第2中間層の厚さを0〜10μmの範囲で変化させて、レドックス80回後の電圧低下と燃料極の剥離面積を測定した。その結果を表1に示した。
【0025】
実施例1〜3では、本発明の条件であり、初期性能、レドックス後の性能においても性能低下が認められなかった。
【0026】
一方、比較例1では、第二中間層を含んでおらず、初期性能は良いが、レドックスサイクル後に410mVの極端な電圧低下があり、試験後の燃料極の45%が剥離をしており、最外層の燃料極層が剥離していた。
【0027】
また、比較例2では、第二中間層が存在するが薄いため、レドックス80回後の電圧低下が27mVと多少、高く、剥離面積も7%あった。
【0028】
さらに、比較例3、比較例4では、第二中間層の厚さがそれぞれ、7μm、10μmあり、初期性能も多少、低い。レドックス後の燃料極の剥離は確認されなかたが、レドックスによる性能低下が著しかった。
【0029】
【表1】

[実施例B]
第1中間層の厚さを1μmで一定、第2中間層の厚さを3μmで一定として、第2中間層の組成NiO:GDCを20:80〜60:40の範囲で変化させて、レドックス80回後の電圧低下と燃料極の剥離面積を測定した。その結果を、表2に示した。
【0030】
実施例4〜6では、レドックス後の電圧低下も少なく、剥離も認められなかった。比較例5では、第二中間層のNiO量が少ない場合であり、レドックス後の電圧低下が86mVと最も大きくなった。しかし、剥離はなかった。比較例6では、レドックス80回後の電圧低下が23mVと多少、大きい。比較例7では、22mVの電圧低下に加えて、燃料極の面積の6%に剥離が生じた。
【0031】
【表2】

[実施例C]
第1中間層の厚さを1μmで一定として、第2中間層の組成NiO:GDCを45:55wt%一定として、第2中間層の厚さを3μmで一定として、第1中間層の組成NiO:GDCを0:100〜30:70(wt%)の範囲で変化させて、レドックス80回後の電圧低下と燃料極の剥離面積を測定し、第1中間層の組成の影響について調べた。第1中間層のNiO:GDCの比率は0:100〜25:75(wt%)までは、初期性能もレドックス後の電圧低下も、ほとんど変化がないことが窺える。
【0032】
【表3】

[実施例D]
第1中間層の厚さを1μm一定として、第1中間層の組成NiO:GDC=15:85wt%一定として、第2中間層の厚さを3μm一定として、第2中間層の組成NiO:GDC=45:55wt%一定として、燃料極層(第3層目)の組成NiO:GDCを50:50〜90:10(wt%)の範囲で変化させて、レドックス80回後の電圧低下と燃料極の剥離面積を測定した。
【0033】
実施例13〜15では、レドックス後の電圧低下も少なく、剥離も少なかった。比較例9では、レドックス80回後の電圧低下が44mVと多少、大きい。比較例10、11では、32mV、353mVの電圧低下に加えて、燃料極の面積の17%、58%に剥離が生じた。
【0034】
【表4】

[実施例E]
実施例Eの試験では、燃料極に使用されるセリアをGDCではなく、SDCで実施し、第1中間層の厚さを1μm一定として、第1中間層の組成NiO:SDC=15:85wt%一定として、第2中間層の厚さを3μm一定として、第2中間層の組成NiO:SDCを20:80〜70:30(wt%)の範囲で変化させて、レドックス80回後の電圧低下と燃料極の剥離面積を測定した。
【0035】
実施例16〜18では、レドックス後の電圧低下も少なく、剥離も認められなかった。比較例12では、レドックス80回後の電圧低下が23mVと多少、大きい。比較例13では、46mVの電圧低下に加えて、燃料極の面積の10%に剥離が生じた。
【0036】
すなわち、GDCと同様にSDCにおいてもNiOの混合割合が35〜55wt%のときに、レドックス後の電圧低下が少なく、剥離も少なく燃料極として適していることが判明した。
【0037】
これまで、NiOの割合で燃料極の構造を記載してきたが、これは、発電セルの製造時の混合割合であり、600〜800℃の還元雰囲気における発電中では、酸化ニッケル(NiO)が還元されて、金属ニッケル(Ni)として存在し、燃料電池反応に寄与している。
【0038】
【表5】

以上の実験結果からも明らかなように、
(1)セリア系第2中間層の厚さをセリア系第1中間層の2〜3倍の厚さとし、
(2)セリア系第2中間層のNi含有量をセリア系第1中間層のNi含有量より多くし、燃料極層のNi含有量より少なくし、セリア系第2中間層の製造時のNiOwt%を35〜55%とする
ことにより、発電効率が飛躍的に向上し、CO排出量削減に寄与する技術として期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極層と電解質との間にセリア系第1中間層を設けた固体酸化物形燃料電池の燃料極構造において、
前記セリア系第1中間層と燃料極層との間にセリア系第2中間層を設け、
前記セリア系第2中間層の厚さをセリア系第1中間層の2〜3倍の厚さとし、
前記セリア系第2中間層のNi量をX、セリア系第1中間層に含まれるNi量をY、燃料極層に含まれるNi量をZとした場合、Y<X<Zの関係を満たし、
製造時にセリア系第2中間層に含まれるNiOwt%を35〜55wt%としたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。
【請求項2】
前記セリア系第1中間層に、製造時、NiOを含まない場合、前記セリア系第1中間層は、100%ガドリニウムドープセリア(GDC;Ce1−xGd2−y)または100%サマリウムドープセリア(SDC;Ce1−xSm2−y)からなることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。
【請求項3】
前記セリア系第1中間層に、製造時、NiOを含む場合、製造時のNiOwt%を5〜25wt%とすることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の燃料極構造。

【公開番号】特開2012−156098(P2012−156098A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16401(P2011−16401)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】