説明

固体酸化物形燃料電池システムの運転方法

【課題】発電効率の低下を抑えつつも、SOFCの温度調整、特には冷却を、より迅速に行なうことのできるSOFCシステムの運転方法を提供する。
【解決手段】炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、改質ガスを用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池とを含む固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池による発電時に、炭素数1以上4以下の炭化水素を改質器を経ずに固体酸化物形燃料電池に供給する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下場合によりSOFCという)は、高効率かつクリーンに発電を行なえる装置として開発が進められている。
【0003】
例えば、灯油等を原燃料として使用する場合、原燃料を改質して水素に富む改質ガスとし、これを燃料としてSOFCに供給することが行なわれる。このために改質器を備えたSOFCシステムを用いる。
【0004】
SOFCは発電時に発熱するため、SOFCの温度を調整すること、特にはSOFCを冷却することが必要である。
【0005】
特許文献1には、定格運転時において、燃料電池スタックの温度を迅速かつ正確に制御することができる燃料電池発電装置の制御方法が記載される。この文献では、燃料電池スタックを冷却するために燃料電池スタックに供給する空気流量を増加させている。
【特許文献1】特開2007−287633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOFCの冷却のために、SOFCのカソードに供給する空気の流量を増やす場合、空気供給のために用いるブロワー等の昇圧手段の負荷が上昇する。すなわち、いわゆる補機損が増加するので、SOFCシステムの発電効率が低下する。また、SOFCの熱を空気に伝熱させて冷却するため、冷却を迅速に行うという観点で、未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明の目的は、発電効率の低下を抑えつつも、SOFCの温度調整、特には冷却を、より迅速に行なうことのできるSOFCシステムの運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、該改質ガスを用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池とを含む固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、
固体酸化物形燃料電池による発電時に、炭素数1以上4以下の炭化水素を改質器を経ずに固体酸化物形燃料電池に供給する工程
を有する固体酸化物形燃料電池システムの運転方法が提供される。
【0009】
前記炭化水素系燃料が炭素数5以上の炭化水素を含むことが好ましい。
【0010】
前記炭化水素系燃料が灯油であることが好ましい。
【0011】
負荷変動時に前記工程を行なうことが好ましい。
【0012】
前記固体酸化物形燃料電池のアノード電極が、ニッケルサーメットを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、発電効率の低下を抑えつつも、SOFCの温度調整、特には冷却を、より迅速に行なうことのできるSOFCシステムの運転方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のSOFCシステムの運転方法は、SOFCによる発電時に、改質器を経ずに炭素数1以上4以下の炭化水素(以下場合により、C4-炭化水素という)をSOFCに供給する工程(C4-炭化水素直接供給工程)を有する。より具体的にはC4-炭化水素直接供給工程では、C4-炭化水素を、改質器を経ずにSOFCのアノードに導入する。
【0015】
図1に、SOFCシステムの主要構成を示す。ここでは改質器1およびSOFC2を備える外部改質型SOFCシステムについて説明する。
【0016】
改質器の改質反応管1aに、炭化水素系燃料と、適宜気化された水(水蒸気)とが供給される。改質反応管に収容される改質触媒によって、炭化水素系燃料が、水素を含む改質ガスに水蒸気改質される。得られた改質ガスがSOFCのアノード2aにアノードガスとして供給される。
【0017】
一方、SOFCのカソード2cにはカソードガスとして空気が供給される。
【0018】
固体電解質2bを介して水素と酸素が電気化学的に反応し、発電が行なわれる。
【0019】
カソードから排出されるカソードオフガス、およびアノードから排出されるアノードオフガスは改質器のバーナー1bに導かれ、ここでアノードオフガス中の可燃分が燃焼する。この燃焼熱によって改質反応管が加熱される。
【0020】
さて、発電に伴い、SOFCは発熱する。一般的に、定格運転を安定して継続する場合において、カソードガスおよびアノードガスによってSOFCの温度が、適当な範囲になるよう、SOFCシステムを設計することができるであろう。しかし、SOFCシステムの発電時において、SOFCの温度上昇を抑制したい場合や、SOFCの温度を低下させたい場合がある。例えば負荷変動時(SOFCの電気出力が変動する際)などの過渡的状態においては、SOFCの急激な温度上昇が見られることがある。また、定格運転時や部分負荷運転時においても、何らかの外乱によってSOFCが温度上昇することもあり、また、SOFCの温度を低下させたい場合もある。
【0021】
このような場合に、C4-炭化水素直接供給工程を行なう。すなわち、炭素数1以上4以下の炭化水素(C4-炭化水素)を、改質器1を経ずに、SOFCのアノード1aに供給する。このとき、必要に応じてC4-炭化水素とともに適宜気化した水をアノードに供給することができる。
【0022】
C4-炭化水素は、アノードにおいて、特にはアノード電極において水蒸気改質される。水蒸気改質反応は大きな吸熱を伴う反応である。したがって水蒸気改質に伴う吸熱によってアノードが冷却され、SOFCが冷却される。アノード電極が直接反応熱によって冷却されるので、迅速な冷却が可能となる。
【0023】
また、C4-炭化水素がアノードにおいて改質されて改質ガスが生成する。この改質ガスも発電に有効に寄与する。いわば、取り去るべき熱を利用して改質ガスを発生させ、発電に利用することができる。したがって、発電効率の低下を抑えることに止まらず、発電効率を上昇させることもできる。
【0024】
空気等のガス顕熱を利用してSOFCを冷却する場合に比べ、反応熱を利用してSOFCを冷却する場合は、C4-炭化水素を供給するための補機損が小さくてすむ。
【0025】
C4-炭化水素としては、例えばメタン、エタン、プロパンおよびブタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0026】
アノードに直接供給する燃料としてC4-炭化水素を用いれば、コーク生成を防止することができる。炭素数5以上の炭化水素を直接アノードに供給すると、熱分解してコークが生成することがある。コーク生成は、SOFCの性能劣化の原因となり、場合によってはSOFCの運転が継続できなくなることもある。
【0027】
改質器に供給する炭化水素系燃料と、改質器を経ずに直接SOFCに供給するC4-炭化水素とは、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
負荷変動時などの過渡的な状態において、SOFCの温度が急激に上昇することがある。特にこのような場合には、空気によるSOFC温度制御は容易とはいえない。しかし、本発明によれば、このような場合にも効果的にSOFCを冷却することができる。
【0029】
C4-炭化水素直接供給工程による冷却が不要になったら、適宜この工程を止めることができる。
【0030】
改質器やSOFCに供給する流体は、適宜予熱することができる。また、流体からの熱回収や流体同士の熱交換も適宜行なうことができる。
【0031】
図1を用いた上の説明においては、外部改質型SOFCシステムを例にとって説明したが、これに限らず、本発明は間接内部改質型SOFCシステムにも適用可能である。
【0032】
〔炭化水素系燃料〕
改質器に供給する炭化水素系燃料としては、改質ガスの原料としてSOFCの分野で公知の、分子中に炭素と水素を含む(酸素など他の元素を含んでもよい)化合物もしくはその混合物から適宜選んで用いることができ、炭化水素類、アルコール類など分子中に炭素と水素を有する化合物を用いることができる。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等の炭化水素燃料、また、メタノール、エタノール等のアルコール、ジメチルエーテル等のエーテル等である。
【0033】
なかでも灯油やLPGは、いずれの地域においても入手容易であり好ましい。また独立して貯蔵可能であるため、都市ガスのラインが普及していない地域において有用である。さらに、灯油やLPGを利用したSOFC発電装置は、非常用電源として有用である。特には、液体であることにより取り扱いも容易である点で、灯油が好ましい。
【0034】
ただし、反応性の観点から、改質器に供給する炭化水素系燃料は、炭素数5以上の炭化水素を含むことが好ましい。
【0035】
〔改質器〕
改質器は、炭化水素系燃料から水素を含む改質ガスを製造する。
【0036】
改質器においては、水蒸気改質、部分酸化改質、および、水蒸気改質反応に部分酸化反応が伴うオートサーマルリフォーミングのいずれを行ってもよい。
【0037】
改質器には、水蒸気改質能を有する水蒸気改質触媒、部分酸化改質能を有する部分酸化改質触媒、部分酸化改質能と水蒸気改質能とを併せ持つ自己熱改質触媒を適宜用いることができる。
【0038】
改質器の構造は、改質器として公知の構造を適宜採用できる。例えば、密閉可能な容器内に改質触媒を収容する領域を有し、改質に必要な流体の導入口と改質ガスの排出口を有する構造とすることができる。
【0039】
改質器の材質は、改質器として公知の材質から、使用環境における耐性を考慮して適宜選んで採用できる。
【0040】
改質器の形状は、直方体状や円管状など適宜の形状とすることができる。
【0041】
炭化水素系燃料(必要に応じて予め気化される)および水蒸気、さらに必要に応じて空気等の酸素含有ガスをそれぞれ単独で、もしくは適宜混合した上で改質器(改質触媒層)に供給することができる。また、改質ガスはSOFCのアノードに供給される。
【0042】
〔SOFC〕
改質器から得られる改質ガスが、SOFCのアノードに供給される。一方、SOFCのカソードには空気などの酸素含有ガスが供給される。ガスの取り合い等は適宜配管等を用いて行う。
【0043】
SOFCとしては、公知のSOFCを適宜選んで採用できる。SOFCでは、一般的に、酸素イオン導電性セラミックスもしくはプロトンイオン導電性セラミックスが電解質として利用される。
【0044】
SOFCは単セルであってもよいが、実用上は複数の単セルを配列させたスタック(円筒型の場合はバンドルと呼ばれることもあるが、本明細書でいうスタックはバンドルも含む)が好ましく用いられる。この場合、スタックは1つでも複数でもよい。
【0045】
SOFCの形状も、立方体状スタックに限らず、適宜の形状を採用できる。
【0046】
C4-炭化水素がSOFCのアノードにおいて水蒸気改質される。特には、アノード電極においてC4-炭化水素が水蒸気改質される。この改質のために好ましいアノード電極材料としては、ニッケルと電解質材料を混合・混焼したニッケルサーメットが挙げられる。すなわち、アノード電極が、ニッケルサーメットを含むこと、さらにはニッケルサーメットからなることが好ましい。
【0047】
〔改質触媒〕
改質器で用いる水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒、自己熱改質触媒のいずれも、それぞれ公知の触媒を用いることができる。部分酸化改質触媒の例としては白金系触媒、水蒸気改質触媒の例としてはルテニウム系およびニッケル系、自己熱改質触媒の例としてはロジウム系触媒を挙げることができる。燃焼を促進可能な改質触媒の例としては白金系およびロジウム系触媒を挙げることができる。
【0048】
部分酸化改質反応が進行可能な温度は例えば200℃以上、水蒸気改質反応が進行可能な温度は例えば400℃以上である。
【0049】
〔改質器の運転条件〕
以下、水蒸気改質、自己熱改質、部分酸化改質のそれぞれにつき、改質器における定格運転時および停止運転時の条件について説明する。
【0050】
水蒸気改質では、灯油等の改質原料にスチームが添加される。水蒸気改質の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは450℃〜850℃、さらに好ましくは500℃〜800℃の範囲で行うことができる。反応系に導入するスチームの量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する水分子モル数の比(スチーム/カーボン比)として定義され、この値は好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は炭化水素系燃料の液体状態での流速をA(L/h)、触媒層体積をB(L)とした場合A/Bで表すことができ、この値は好ましくは0.05〜20h-1、より好ましくは0.1〜10h-1、さらに好ましくは0.2〜5h-1の範囲で設定される。
【0051】
自己熱改質ではスチームの他に酸素含有ガスが改質原料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。水蒸気改質反応に伴う吸熱をバランスし、かつ、改質触媒層やSOFCの温度を保持もしくはこれらを昇温できる発熱量が得られるように酸素含有ガスを添加することができる。酸素含有ガスの添加量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.005〜1、より好ましくは0.01〜0.75、さらに好ましくは0.02〜0.6とされる。自己熱改質反応の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは450℃〜850℃、さらに好ましくは500℃〜800℃の範囲で設定される。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.2〜5の範囲で選ばれる。反応系に導入するスチームの量は、スチーム/カーボン比として好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。
【0052】
部分酸化改質では酸素含有ガスが改質原料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。反応を進めるための温度を確保するため、熱のロス等において適宜添加量は決定される。その量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.1〜3、より好ましくは0.4〜1.0とされる。部分酸化反応の反応温度は、例えば400℃〜1000℃、好ましくは450℃〜850℃、さらに好ましくは500℃〜800℃の範囲で設定することができる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜30の範囲で選ばれる。反応系においてすすの発生を抑制するためにスチームを導入することができ、その量は、スチーム/カーボン比として好ましくは0.1〜5、より好ましくは0.5〜3、さらに好ましくは1〜2とされる。
【0053】
〔他の機器〕
SOFCシステムの公知の構成要素は、必要に応じて適宜設けることができる。具体例を挙げれば、液体を気化させる気化器、各種流体を加圧するためのポンプ、圧縮機、ブロワーなどの昇圧手段、流体の流量を調節するため、あるいは流体の流れを遮断/切り替えるためのバルブ等の流量調節手段や流路遮断/切り替え手段、熱交換・熱回収を行うための熱交換器、気体を凝縮する凝縮器、スチームなどで各種機器を外熱する加熱/保温手段、炭化水素系燃料(改質原料)や燃焼用燃料の貯蔵手段、計装用の空気や電気系統、制御用の信号系統、制御装置、出力用や動力用の電気系統、燃料中の硫黄分濃度を低減する脱硫器などである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば定置用もしくは移動体用の発電装置やコージェネレーションシステムに利用されるSOFCシステムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を実施することのできるSOFCシステムの例につき、その概略構成を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0056】
1 改質器
1a 改質反応管
1b バーナー
2 SOFC
2a アノード
2b 固体酸化物電解質
2c カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、該改質ガスを用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池とを含む固体酸化物形燃料電池システムの運転方法であって、
固体酸化物形燃料電池による発電時に、炭素数1以上4以下の炭化水素を改質器を経ずに固体酸化物形燃料電池に供給する工程
を有する固体酸化物形燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
前記炭化水素系燃料が炭素数5以上の炭化水素を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記炭化水素系燃料が灯油である請求項1記載の方法。
【請求項4】
負荷変動時に前記工程を行なう請求項1から3の何れか一項記載の方法。
【請求項5】
前記固体酸化物形燃料電池のアノード電極が、ニッケルサーメットを含む請求項1〜4の何れか一項記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−224114(P2009−224114A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65845(P2008−65845)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】