説明

固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法

【課題】優れた発電性能を有する燃料電池用の発電層を得ることができる固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法は、固体電解質層1と、酸化剤極層2と、燃料極層3とを少なくとも備える発電層の製造方法であって、固体電解質材料粒子を含む第1のスラリーと、酸化剤極材料粒子を含む第2のスラリー及び燃料極材料粒子を含む第3のスラリーの少なくとも1つとを重層塗布する重層塗布工程と、前記重層塗布工程を実施して得られる重層グリーンシート9を焼成する焼成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の発電層の製造方法に関し、特に固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池用の発電層の基本構造は、図1に示す通り、O2-を透過する固体電解質層1を挟み、両側にそれぞれ酸化剤極層2と燃料極層3が形成されている3層構造である。このような構造の発電層では、固体酸化物形燃料電池の発電動作時に、燃料極3において下記の(1)式の反応が起こる。
2+O2-→H2O+2e- …(1)
【0003】
上記の(1)式の反応によって生成された電子は、負荷4を通って、酸化剤極層2に到達し、酸化剤極層2において下記の(2)式の反応が起こる。
1/2O2+2e-→O2- …(2)
【0004】
そして、上記の(2)式の反応によって生成された酸素イオンは、固体電解質層1を通って、燃料極層3に到達する。上記の一連の反応を繰り返すことにより、固体酸化物形燃料電池が発電動作を行うことになる。
【0005】
上記のように電気化学反応により起電力を得ている固体酸化物形燃料電池では、電極層と固体電解質層との界面において三相界面を充分に確保することで、発電効率を向上させることができる。三相界面とは、電極反応に供するガス、電極(触媒)、及び固体電解質が接する界面で形成され、反応活物質(触媒)が電子やイオンを授受して電気化学反応(酸化還元反応)が進行する場である。したがって、三相界面の長さは、固体電解質材料粒子5と電極材料粒子6との接合面の外周(図2中の太実線及び太点線)の長さである。
【0006】
そのため、固体酸化物形燃料電池の発電性能を向上させる方法として、従来より、電極層と固体電解質層との界面における三相界面の長さを増大させる方法が提案されている。例えば、焼成された固体電解質層の表面にサンドブラスト処理や研磨加工等の表面処理を施して粗面化した後、電極層を積層する方法(例えば特許文献1参照)、電極材料粒子と固体電解質材料粒子を予め複合化させた粒子を用いて電極層を形成する方法(例えば特許文献2及び特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−55326号公報(段落0032〜0035)
【特許文献2】特開2006―286221号公報(段落0005及び0006)
【特許文献3】特開2006―351406号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の方法では三相界面の長さがさほど増大せず、発電性能の向上効果が小さかった。
【0009】
本発明は、上記の状況に鑑み、優れた発電性能を有する固体酸化物形燃料電池用の発電層を得ることができる固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した従来の方法では、電極材料粒子を含むスラリーを塗布し、焼成して電極層を形成する工程と、固体電解質材料粒子を含むスラリーを塗布し、焼成し固体電解質層を形成する工程とがそれぞれ別個に実施されるせいで、電極層と固体電解質層との界面における三相界面の長さがさほど増大しないことを見出し、本発明に至った。
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係る固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法は、固体電解質層と、酸化剤極層と、燃料極層とを少なくとも備える発電層の製造方法であって、固体電解質材料粒子を含む第1のスラリーと、酸化剤極材料粒子を含む第2のスラリー及び燃料極材料粒子を含む第3のスラリーの少なくとも1つとを重層塗布する重層塗布工程と、前記重層塗布工程を実施して得られる重層グリーンシートを焼成する焼成工程とを有している。
【0012】
このような製造方法によると、固体電化質層と燃料極材料を含む層との界面及び/又は固体電化質層と酸化剤材料を含む層との界面における三相界面の長さが従来より長くなるので、優れた発電性能を有する固体酸化物形燃料電池用の発電層を得ることができる。
【0013】
また、固体電化質層と酸化剤材料を含む層との界面における三相界面の長さよりも固体電化質層と燃料極材料を含む層との界面における三相界面の長さの方が発電性能への寄与率が高いため、前記重層塗布工程が、前記第1のスラリーと、前記第3のスラリーとを少なくとも重層塗布する工程であることが好ましい。
【0014】
また、前記重層塗布工程が、前記第1のスラリーと、前記第2のスラリーと、前記第3のスラリーとを同時重層塗布する工程であることがより好ましい。これにより、第1のスラリーが第2のスラリーと第3のスラリーに挟まれた状態で塗布されることになり、固体電解質層を薄くしても固体電解質層が途切れにくくなるので、固体電解質層の薄層化を図ることができる。
【0015】
また、重層塗布による多層構造の形成およびその後の多層構造の維持を容易にするために、前記重層塗布工程が、重層塗布後にスラリーの粘度を増粘させる増粘処理を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法によると、固体電化質層と燃料極材料を含む層との界面及び/又は固体電化質層と酸化剤材料を含む層との界面における三相界面の長さが従来より長くなるので、優れた発電性能を有する固体酸化物形燃料電池用の発電層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】固体酸化物型燃料電池の概略構成を示す模式図である。
【図2】三相界面の長さを説明するための模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る発電層の製造方法を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る発電層の製造方法を示す図である。
【図5】発電層の三相界面の長さ及び交換電流密度を示すグラフである。
【図6】発電層の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。尚、本発明は、後述する実施形態に限られない。
【0019】
<<発電層の構成>>
本発明に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層は、従来と同様に、図1に示す3層構造すなわちO2-を透過する固体電解質1を挟み、両側にそれぞれ酸化剤極2と燃料極3が形成されている3層構造を基本構造としているが、電極と固体電解質との界面における三相界面の長さが従来よりも長い界面構造を有している。なお、本明細書における「三相界面の長さ」とは、単位体積あたりの長さであり、三相界面密度とも言う。
【0020】
なお、本発明に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の層構成としては、固体電解質と電極材料の反応を抑制する為に、固体電解質層と電極層の間に、これらを構成する材料の混合物を含有する中間層を設けてもよい。この場合、固体電解質層と燃料極層の間にのみ中間層を設ける形態、固体電解質層と燃料極層の間及び固体電解質層と酸化剤極層の間それぞれに中間層を設ける形態、固体電解質層と酸化剤極層の間にのみ中間層を設ける形態の3つの形態が考えられる。
【0021】
本発明において用いられる固体電解質材料としては、固体酸化物形燃料電池用の固体電解質層の製造に用いられる材料であれば、特に制限はされず、例えば、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ランタン(La)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、シリコン(Si)、ガドリニウム(Gd)、ストロンチウム(Sr)、イッテルビウム(Yb)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物が挙げられる。また、固体電解質材料の例として列挙された上記金属酸化物のうち、金属種が2種以上である金属酸化物としては、例えば、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ;Sc23−ZrO2)、スカンジアセリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ;(10Sc23・CeO2)−ZrO2)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ;Y23−ZrO2)、ランタンストロンチウムマグネシウムガレート(LSGM;La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.23)等のランタンガレート、ガドリニア安定化ジルコニア(Gd23−ZrO2)、サマリアドープセリア(Sm23−CeO2)、ガドリニアドープセリア(Gd23−CeO2)、酸化イットリウム固溶酸化ビスマス(Y23−Bi23)等が挙げられる。どのような固体電解質材料を用いるかは目的や用途に応じて適宜選択すればよい。
【0022】
本発明において用いられる燃料極材料としては、固体酸化物形燃料電池用の燃料極層の製造に用いられる材料であれば、特に制限されず、例えば、イットリウム、ジルコニウム、スカンジウム、セリウム、サマリウム、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ランタン、ガリウム、ニオブ、タンタル、シリコン、ガドリニウム、ストロンチウム、イッテルビウム、鉄、コバルト、ニッケル、及びカルシウム(Ca)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物が挙げられる。また、燃料極材料の例として列挙された上記金属酸化物のうち、金属種が2種以上である金属酸化物としては、例えば、酸化ニッケル(NiO)とサマリアドープセリア(Sm23−CeO2)の混合物の凝集体、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物(NiO−YSZ)の凝集体、酸化ニッケルとスカンジア安定化ジルコニアの混合物(NiO−ScSZ)の凝集体、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアとサマリアドープセリアの混合物の凝集体、酸化ニッケルとスカンジア安定化ジルコニアとサマリアドープセリアの混合物の凝集体、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアと酸化セリア(CeO2)の混合物の凝集体、酸化ニッケルとスカンジア安定化ジルコニアと酸化セリアの混合物の凝集体、酸化コバルト(Co34)とイットリア安定化ジルコニアの混合物の凝集体、酸化コバルトとスカンジア安定化ジルコニアの混合物の凝集体、酸化ルテニウム(RuO2)とイットリア安定化ジルコニアの混合物の凝集体、酸化ルテニウムとスカンジア安定化ジルコニアの混合物の凝集体、酸化ニッケルとガドリニアドープセリア(Gd23―CeO2)の混合物の凝集体等が挙げられる。燃料極材料の例として列挙された上記金属酸化物のうち、酸化ニッケルとサマリアドープセリアの混合物の凝集体、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物の凝集体、及び酸化ニッケルとスカンジア安定化ジルコニアの混合物の凝集体が、固体電解質材料と反応しない点、また、固体電解質材料と熱膨張率が近いので固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造時あるいは動作時に固体電解質層と燃料極層との間の剥離が抑制される点で好ましい。
【0023】
本発明において用いられる酸化剤極材料としては、固体酸化物形燃料電池用の酸化剤極層の製造に用いられる材料であれば、特に制限はされず、例えば、イットリウム、ジルコニウム、スカンジウム、セリウム、サマリウム、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ランタン、ガリウム、ニオブ、タンタル、シリコン、ガドリニウム、ストロンチウム、イッテルビウム、鉄、コバルト、ニッケル、カルシウム、及びマンガン(Mn)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物が挙げられる。また、酸化剤極材料の例として列挙された上記金属酸化物のうち、金属種が2種以上である金属酸化物としては、例えば、ランタンストロンチウムマンガネート(La0.8Sr0.2MnO3)、ランタンカルシウムコバルテート(La0.9Ca0.1CoO3)、ランタンストロンチウムコバルテート(La0.9Sr0.1CoO3)、ランタンコバルテート(LaCoO3)、ランタンカルシウムマンガネート(La0.9Ca0.1MnO3)等が挙げられる。酸化剤極材料の例として列挙された上記金属酸化物のうち、ランタンストロンチウムマンガネートが、固体電解質材料と反応しない点、また、固体電解質材料と熱膨張率が近いので固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造時あるいは動作時に固体電解質層と酸化剤極層との間の剥離が抑制される点で好ましい。
【0024】
<<本発明の第1実施形態に係る発電層の製造方法>>
本発明の第1実施形態に係る発電層の製造方法では、塗布液(スラリー)調製工程を実施した後、図3に示すように重層塗布工程、乾燥工程、裁断工程、脱脂・焼成工程を順に実施し、固体電解質層、燃料極層、及び酸化剤極層の3層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する。
【0025】
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程では、固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、及び酸化剤極層形成用のスラリーをそれぞれ調製する。
【0026】
スラリーは、溶媒に金属酸化物粒子が分散されたものであり、その他、ポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリアクリルアミド類等のバインダー成分、フタル酸ジ−n−ブチル等の可塑剤成分、ノニオン系分散剤等の分散剤成分、オクチルフェニルエーテル等の消泡剤成分等を含有している。上記のバインダー成分、可塑剤成分、分散剤成分、及び消泡剤成分はスラリーに溶解して存在している。
【0027】
スラリーに用いられる溶媒としては、水、α−テレピネオール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が挙げられるが、温度によって粘度を制御するには、バインダー成分として水溶性の感温性ポリマーを用いることが好ましいため、水を溶媒としたスラリーが好ましく用いられる。
【0028】
固体電解質層形成用のスラリーに用いられる金属酸化物粒子の平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましく、より好ましくは0.05〜2.0μmであり、更に好ましくは0.1〜1.0μmである。金属酸化物粒子の平均粒径が上記範囲未満である場合、焼成時の固体電解質層の収縮が大きくなり易いので、破損し易くなる。また、金属酸化物粒子の平均粒径が上記範囲を超える場合、固体電解質層の導電率が低くなり易くなる。
【0029】
固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、及び酸化剤極層形成用のスラリーの各粘度は、5〜500cpが好ましく、より好ましくは5〜300cpであり、更に好ましくは5〜100cpである。スラリーの粘度が上記範囲内にある場合、重層塗布工程において、支持体とスラリーが接触する塗布点直前での支持体表面温度を調整することで、固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、酸化剤極層形成用のスラリーがそれぞれ分離した多層構造を容易に形成することができる。なお、上記の粘度の値は、測定器VISCOMETER(TOKIMEC社製)を用いて測定した測定値とする。
【0030】
固体電解質層形成用のスラリーの一調製例は次の通りである。平均粒子径1.0μmのスカンジアセリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ)10.0質量部、フタル酸ジ−n−ブチル0.5質量部、分散剤(ノニオンOP−83RAT、日本油脂社製)0.3質量部、ゼラチン0.5質量部、水4.0質量部をボールミルに投入し、室温で5時間混合して混合物を得る。この混合物に粘度が50cpとなるように水を添加して、固体電解質層形成用のスラリーを得る。
【0031】
燃料極層形成用のスラリーの一調製例は次の通りである。平均粒子径1.0μmの酸化ニッケル(NiO)6質量部、平均粒子径0.1μmのイットリア安定化ジルコニア(10YSZ;ジルコニア中のイットリアの含有量10mol%)4質量部、フタル酸ジ−n−ブチル0.5質量部、分散剤(ノニオンOP−83RAT、日本油脂社製)0.3質量部、ゼラチン0.5質量部、水4.0質量部をボールミルに投入し、室温で5時間混合して混合物を得る。この混合物に粘度が50cpとなるように水を添加して、燃料極層形成用のスラリーを得る。
【0032】
酸化剤極層形成用のスラリーの一調製例は次の通りである。平均粒子径1.2μmのランタンストロンチウムマンガネート(La0.8Sr0.2Mn1.03)5質量部、スカンジアアセリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ)5.0質量部、フタル酸ジ−n−ブチル0.5質量部、分散剤(ノニオンOP−83RAT、日本油脂社製)0.3質量部、ゼラチン0.5質量部、水4.0質量部をボールミルに投入し、室温で5時間混合して混合物を得る。この混合物に粘度が50cpとなるように水を添加して、酸化剤極層形成用のスラリーを得る。
【0033】
<重層塗布工程>
重層塗布工程では、上記の調製工程において調製を終えた固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、及び酸化剤極層形成用のスラリーを、連続走行する支持体上に重層塗布する。重層塗布は、固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、及び酸化剤極層形成用のスラリーを同時に塗布する同時重層塗布が好ましいが、各スラリーの塗布タイミングがずれた重層塗布であっても構わない。固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、及び酸化剤極層形成用のスラリーを同時に塗布することにより、固体電解質層形成用のスラリーが燃料極層形成用のスラリーと酸化剤極層形成用のスラリーに挟まれた状態で塗布されることになり、固体電解質層を薄くしても固体電解質層が途切れにくくなるので、固体電解質層の薄層化を図ることができる。
【0034】
重層塗布工程において用いられる塗布装置としては特に制限はないが、同時重層塗布を行うにはスライドビードコータまたはスライドカーテンコータのように、複数のスリットからスライド面に複数のスラリーを押し出してスライド面で重層させる方法が好ましい。
【0035】
各スラリーは液温度やチクソトロピー特性等に応じて増粘する組成物としておき、塗布時のスラリー温度や送液速度等を制御することによって、重層塗布後に、固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、酸化剤極層形成用のスラリーがそれぞれ分離した多層構造を形成させることができる。
【0036】
スラリーの粘度を調整する方法としては、例えば、金属酸化物粒子のバインダーとして温度によって溶液が増粘するゼラチンやアクリルアミド類等の感温性ポリマーを用いるなどして温度制御により液の流動性を制御することが可能である。この際、界面を形成する塗布液の粘度やpH、塗布液に分散した金属酸化物粒子のゼータ電位等の物性を制御することによって構成層界面の混合量や焼成時の界面形状ひいては三相界面の長さを制御することが可能となる。
【0037】
重層塗布工程の一実施例は次の通りである。湿潤状態での層厚が燃料極層で40μm、固体電解質層で3μm、酸化剤極層で20μmとなるように、上記の調製工程において調製を終えた固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、及び酸化剤極層形成用のスラリーの各ノズルにおける各吐出量を調整し、塗布装置のバックロール7(図3参照)に保持された厚さ100μm、幅150mmの帯状支持体(例えばPET)8(図3参照)に塗布速度80m/分で各スラリーを同時重層塗布する。その後、各スラリーが同時重層塗布された帯状支持体を15℃の冷却ゾーンを通過させてスラリー粘度を増粘させ、固体電解質層形成用のスラリー、燃料極層形成用のスラリー、酸化剤極層形成用のスラリーがそれぞれ分離した多層構造を形成する。
【0038】
<乾燥工程、裁断工程、及び脱脂・焼成工程>
乾燥工程では、上記の重層塗布工程において表面に多層構造が形成された帯状支持体を所定の温度(例えば80℃)で乾燥させ、燃料極層、固体電解質層、酸化剤極層の重層グリーンシートを得る。
【0039】
乾燥工程後の裁断工程では、重層グリーンシートを裁断して、セルサイズの重層グリーンシート9(図3参照)を得る。この段階では、重層グリーンシート9に支持体(帯状支持体8がセルサイズに裁断されたもの)10が付随している(図3参照)。
【0040】
裁断工程後の脱脂・焼成工程では、セルサイズの重層グリーンシート9を所定の温度(例えば1300℃)で所定の時間(例えば4時間)焼成して、セルサイズの発電層11(図3参照)を得る。
【0041】
<<本発明の第1実施形態の変形例>>
固体電解質層、燃料極層、酸化剤極層、及び固体電解質材料と燃料極材料の混合物を含有する中間層の4層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合、あるいは、固体電解質層、燃料極層、酸化剤極層、及び固体電解質材料と酸化剤極材料の混合物を含有する中間層の4層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合は、上記の重層塗布工程において、4層の重層塗布を行うようにする。
【0042】
固体電解質層、燃料極層、酸化剤極層、固体電解質材料と燃料極材料の混合物を含有する中間層、及び固体電解質材料と酸化剤極材料の混合物を含有する中間層の5層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合は、上記の重層塗布工程において、5層の重層塗布を行うようにする。
【0043】
<<本発明の第2実施形態に係る発電層の製造方法>>
本発明の第2実施形態に係る発電層の製造方法では、スラリー調製工程を実施した後、図4に示すように重層塗布工程、乾燥工程、裁断工程、脱脂・焼成工程、酸化剤極形成工程を順に実施し、固体電解質層、燃料極層、及び酸化剤極層の3層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する。
【0044】
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程では、固体電解質層形成用のスラリー及び燃料極層形成用のスラリーをそれぞれ調製する。調製の詳細については第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0045】
<重層塗布工程>
重層塗布工程では、上記の調製工程において調製を終えた固体電解質層形成用のスラリー及び燃料極層形成用のスラリーを、連続走行する支持体上に重層塗布する。重層塗布は、固体電解質層形成用のスラリー及び燃料極層形成用のスラリーを同時に塗布する同時重層塗布であっても、各スラリーの塗布タイミングがずれた重層塗布であってもよい。
【0046】
重層塗布工程の詳細については、酸化剤極層形成用のスラリーを用いない点を除いて第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0047】
<乾燥工程、裁断工程、及び脱脂・焼成工程>
乾燥工程では、上記の重層塗布工程において表面に多層構造(2層構造)が形成された帯状支持体を所定の温度(例えば80℃)で乾燥させ、燃料極層及び固体電解質層の重層グリーンシートを得る。
【0048】
乾燥工程後の裁断工程では、重層グリーンシートを裁断して、セルサイズの重層グリーンシート9’(図4参照)を得る。この段階では、重層グリーンシート9’に支持体(帯状支持体8がセルサイズに裁断されたもの)10が付随している(図4参照)。
【0049】
裁断工程後の脱脂・焼成工程では、セルサイズの重層グリーンシート9’を所定の温度(例えば1300℃)で所定の時間(例えば4時間)焼成して、セルサイズの燃料極層3及び固体電解質層1の接合体12(図4参照)を得る。
【0050】
<酸化剤極形成工程>
酸化剤極形成工程では、上記の脱脂・焼成工程終了後に得られる接合体12(図4参照)の固体電解質層1が露出している面上に、酸化剤極層2を形成し、セルサイズの発電層11(図4参照)を得る。酸化剤極層の形成方法に特に制限はないが、例えば蒸着法を用いて酸化剤極層を形成する方法が挙げられる。
【0051】
<<本発明の第2実施形態の変形例>>
例えば、固体電解質層、燃料極層、及び酸化剤極層の3層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合、重層塗布工程において、固体電解質層形成用のスラリー及び酸化剤極層形成用のスラリーを重層塗布し、酸化剤極形成工程の代わりに燃料極形成工程を実施するようにしてもよい。
【0052】
また、例えば、固体電解質層、燃料極層、酸化剤極層、及び固体電解質材料と燃料極材料の混合物を含有する中間層の4層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合、あるいは、固体電解質層、燃料極層、酸化剤極層、及び固体電解質材料と酸化剤極材料の混合物を含有する中間層の4層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合は、上記の重層塗布工程において、固体電解質層形成用のスラリーと、燃料極材料粒子を含むスラリー及び酸化剤極材料粒子を含むスラリーの少なくとも一方とを用いて、2層あるいは3層の重層塗布を行うようにする。そして、脱脂・焼成工程後にまだ形成されていない層を形成する工程を実施するようにする。
【0053】
また、例えば、固体電解質層、燃料極層、酸化剤極層、固体電解質材料と燃料極材料の混合物を含有する中間層、及び固体電解質材料と酸化剤極材料の混合物を含有する中間層の5層構造である固体酸化物形燃料電池用の発電層を製造する場合は、上記の重層塗布工程において、固体電解質層形成用のスラリーと、燃料極材料粒子を含むスラリー及び酸化剤極材料粒子を含むスラリーの少なくとも一方とを用いて、2層、3層、あるいは4層の重層塗布を行うようにする。そして、脱脂・焼成工程後にまだ形成されていない層を形成する工程を実施するようにする。
【0054】
<<発電層の性能検証>>
ここでは、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の性能と、従来の製造方法(電極材料粒子を含むスラリーを塗布し、焼成して電極層を形成する工程と、固体電解質材料粒子を含むスラリーを塗布し、焼成し固体電解質層を形成する工程とがそれぞれ別個に実施される製造方法)により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の性能とを検証する。
【0055】
本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の三相界面の長さ、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の三相界面の長さをそれぞれ分子動力学シミュレーションにより求めた。
【0056】
本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の三相界面の長さは、焼成前に対応する表面エネルギーを有する固体電解質材料の金属酸化物粒子と、焼成前に対応する表面エネルギーを有する電極材料の金属酸化物粒子とを相互に近づけたときの接合状態を分子動力学シミュレーションにより求め、その接合状態に基づいて算出される。
【0057】
これに対して、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の三相界面の長さは、焼成前に対応する表面エネルギーを有する固体電解質材料の金属酸化物粒子と、焼成後に対応する表面エネルギーを有する電極材料の金属酸化物粒子とを相互に近づけたときの接合状態を分子動力学シミュレーションにより求め、その接合状態に基づいて算出される。
【0058】
三相界面の長さと交流電流密度との関係は既知であり、その関係を考慮することで本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の交換電流密度と、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の交換電流密度とを得ることができる。図5に示す白丸のプロットが従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の三相界面の長さ及び交換電流密度を示しており、図5に示す黒丸のプロットが本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の三相界面の長さ及び交換電流密度を示している。図5から分かるように、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の方が、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層よりも三相界面の長さが長く、そのため交換電流密度が大きくなる。
【0059】
発電層の出力電圧Vは、下記の(3)式で表される。下記の(3)式において右辺の第2項が抵抗ロスであり、右辺の第3項が反応活性化ロスである。なお、下記の(3)式中のemfは起電力、AsReは固体電解質の面積抵抗(Area specific Resistans)、Jは電流密度、J0は交換電流密度、Rは気体定数、Tは絶対温度、αは非対称パラメーター、Fはファラデー定数をそれぞれ示している。
【数1】

【0060】
本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の電流密度−反応活性化ロス特性T1、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の電流密度−出力電圧特性T2、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の電流密度−反応活性化ロス特性T3、及び従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の電流密度−出力電圧特性T4を図6に示す。
【0061】
図6から分かるように、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の方が、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層よりも反応活性化ロスが少なく、発電効率が良い。すなわち、発電性能において、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の方が従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層よりも優れている。
【0062】
なお、図6においては、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の抵抗ロスと、従来の製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層の抵抗ロスとを同一にしているが、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される固体酸化物形燃料電池用の発電層では固体電解質層を薄くすることが可能であるため、抵抗ロスの減少させ、さらに優れた発電性能を得ることも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 固体電解質層
2 酸化剤極層
3 燃料極層
4 負荷
5 固体電解質材料粒子
6 電極材料粒子
7 バックロール
8 帯状支持体
9、9’ セルサイズの重層グリーンシート
10 支持体
11 セルサイズの発電層
12 セルサイズの燃料極層及び固体電解質層の接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、酸化剤極層と、燃料極層とを少なくとも備える発電層の製造方法であって、
固体電解質材料粒子を含む第1のスラリーと、酸化剤極材料粒子を含む第2のスラリー及び燃料極材料粒子を含む第3のスラリーの少なくとも1つとを重層塗布する重層塗布工程と、
前記重層塗布工程を実施して得られる重層グリーンシートを焼成する焼成工程とを有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法。
【請求項2】
前記重層塗布工程が、前記第1のスラリーと、前記第3のスラリーとを少なくとも重層塗布する工程であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法。
【請求項3】
前記重層塗布工程が、前記第1のスラリーと、前記第2のスラリーと、前記第3のスラリーとを同時重層塗布する工程であることを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法。
【請求項4】
前記重層塗布工程が、重層塗布後にスラリーの粘度を増粘させる増粘処理を含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用の発電層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−99426(P2012−99426A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248225(P2010−248225)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】