説明

固体酸化物燃料電池

固体酸化物燃料電池(10)は、陽極電極(12)、陰極電極(14)、及び、陽極電極(12)と陰極電極(14)の間の電解質(16)を備える。気体燃料は陽極電極(12)で部分的に規定された陽極チャンバ(18)に供給され、気体オキシダントは陰極電極(14)によって部分的に規定された陰極チャンバ(20)に供給される。電解質(16)は、緻密で非多孔性の第1の層(22)と、第1の層(22)に接した多孔性の第2の層(24)と、第2の層(24)に接した緻密で非多孔性の第3の層(26)とを備える。陽極電極(12)は第1の層(22)に接して配列され、陰極電極(14)は第3の層(26)に接して配列される。第2の層(24)は第1の層(22)と第3の層(26)との間のバッファとして作用して、欠陥が層(22、26)の間を伝播するのを防止するとともに、燃料及びオキシダントが電解質(16)を通って漏れるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体酸化物燃料電池及び固体酸化物燃料電池スタックに関する。
固体酸化物燃料電池は陽極電極、陰極電極、及び、陽極電極と陰極電極との間の電解質を備える。固体酸化物燃料電池スタックは、電気的に直列に又は電気的に並列に接続された複数の固体酸化物を備える。固体酸化物燃料電池では、気体燃料(例えば水素)が陽極電極に供給され、気体オキシダント(例えば酸素又は空気)が陰極電極に供給される。
【0002】
固体酸化物燃料電池の電解質は、陽極電極に供給される気体燃料と陰極電極に供給される気体オキシダントとの間に物理的な障壁を形成するために必要とされる。電解質は、緻密で非多孔性の層を備える。気体燃料とオキシダントは、陽極電極と陰極電極との間の電解質を通る任意の気体漏れ経路によって接触することができる。この漏れは、燃料利用の観点からは固体酸化物燃料電池の性能の低下をもたらし、固体酸化物燃料電池の機械的完全性及び耐久性にとっては有害であり得る。この気体漏れは気体オキシダント中の気体燃料を燃焼させることがあり、固体酸化物燃料電池に過酷な損傷をもたらすことさえあり得る。
【0003】
実際に、電解質には、その微細構造に欠陥又は傷がある。この欠陥又は傷は製造プロセスでの汚染及び/又は変動によって生じ得る。さらに精密な製造プロセス制御を実施することによって、こうした欠陥又は傷を最小限にすることは可能であるが、欠陥又は傷を完全に排除しようとすると、製造プロセスは厳しく制御されなければならず、したがって高価になる。
【0004】
この問題に対する1つの可能な解決策は、電解質の緻密で非多孔性の既存の層の上に、一層緻密で非多孔性の層を設けることであった。しかし、実際には、緻密で非多孔性の層に元々存在した欠陥が、その一層緻密で非多孔性の層へ伝播するので、何のメリットもない。
【0005】
したがって、本発明は、上述の問題を軽減し、好ましくは克服する新規な固体酸化物燃料電池及び新規な固体酸化物燃料電池スタックを提供することを目的とする。
したがって、本発明は、陽極電極、陰極電極、及び、陽極電極と陰極電極との間の電解質を備え、該電解質が、緻密で非多孔性の第1の層と、緻密で非多孔性の第1の層に接した多孔性の第2の層と、多孔性の第2の層に接した緻密で非多孔性の第3の層とを備える固体酸化物燃料電池を提供する。
【0006】
電解質は、緻密で非多孔性の第3の層に接した多孔性の第4の層と、多孔性の第4の層に接した緻密で非多孔性の第5の層とを備えることができる。
多孔性の層を、電解質と陽極電極との間に配列することができる。多孔性の層を、電解質と陰極電極との間に配列してもよい。
【0007】
好ましくは、電解質の第1の層、第2の層及び第3の層は同じ組成を有する。
電解質の層のうちの少なくとも1つは、ガドリニアをドープしたセリアを含むことができる。電解質の全ての層が、ガドリニアをドープしたセリアを含むことができる。
【0008】
電解質の層のうちの少なくとも1つは、スカンジアをドープしたジルコニアを含むことができる。電解質の全ての層が、スカンジアをドープしたジルコニアを含むことができる。
【0009】
また、本発明は、複数の固体酸化物燃料電池を備えることができる固体酸化物燃料電池スタックを提供する。それぞれの固体酸化物燃料電池は、陽極電極、陰極電極、及び、陽極電極と陰極電極との間の電解質を備える。それぞれの電解質は、緻密で非多孔性の第1の層と、緻密で非多孔性の第1の層に接した多孔性の第2の層と、多孔性の第2の層に接した緻密で非多孔性の第3の層とを備える。
【0010】
添付の図面を参照して、本発明を、例として一層十分に説明する。
図1に示すように、固体酸化物燃料電池スタック10は複数の固体酸化物燃料電池11を備える。それぞれの固体酸化物燃料電池11は、陽極電極12、陰極電極14、及び、陽極電極12と陰極電極14との間の電解質16を備える。気体燃料(例えば水素)は陽極電極12によって部分的に規定された陽極チャンバ18に供給され、気体オキシダント(例えば酸素又は空気)は陰極電極14によって部分的に規定された陰極チャンバ20に供給される。
【0011】
固体酸化物燃料電池11は支持構造13の上に配列され、陽極電極12は支持構造13と接触している。支持構造13は気体燃料を陽極電極12へ流すための多孔性領域を有する。隣り合う固体酸化物燃料電池11は相互接続体15によって直列に接続されており、相互接続体15は、1つの固体酸化物燃料電池11の陽極電極12を隣りの固体酸化物燃料電池11の陰極電極14と相互接続する。
【0012】
電解質16は、緻密で非多孔性の第1の層22と、緻密で非多孔性の第1の層22に接した多孔性の第2の層24と、多孔性の第2の層24に接した緻密で非多孔性の第3の層26とを備える。陽極電極12は、緻密で非多孔性の第1の層22と支持構造13との間に、且つ、緻密で非多孔性の第1の層22に接して配列され、陰極電極14は緻密で非多孔性の第3の層26に接して配列される。
【0013】
電解質16をこのような配列とした結果、多孔性の第2の層24は、緻密で非多孔性の第1の層22と緻密で非多孔性の第3の層26との間のバッファとして作用するので、緻密で非多孔性の第1の層22の欠陥の影響は、緻密で非多孔性の第3の層26に伝わらないことになる。同様に、多孔性の第2の層24は、緻密で非多孔性の第3の層26と緻密で非多孔性の第1の層22との間のバッファとして作用するので、緻密で非多孔性の第3の層26の欠陥は、緻密で非多孔性の第1の層22に伝わらない。このように、この配列によって、陽極チャンバ18と陰極チャンバ20との間の電解質16を通る漏れ経路の形成は最小限になる。
【0014】
図2に示すように、固体酸化物燃料電池スタック110は、複数の固体酸化物燃料電池11を備える。それぞれの固体酸化物燃料電池11は、陽極電極12、陰極電極14、及び陽極電極12と陰極電極14の間の電解質16を備える。気体燃料(例えば水素)は陽極電極12で部分的に規定された陽極チャンバ18に供給され、気体オキシダント(例えば酸素又は空気)は陰極電極14によって部分的に規定された陰極チャンバ20に供給される。
【0015】
固体酸化物燃料電池11は支持構造13の上に配列され、陽極電極12はその支持構造13と接触している。支持構造13は気体燃料を陽極電極12に流すための多孔性領域である。隣り合う固体酸化物燃料電池11は相互接続体15によって直列に接続されており、相互接続体15は、1つの固体酸化物燃料電池11の陽極電極12を隣りの固体酸化物燃料電池11の陰極電極14と相互接続する。
【0016】
電解質16は、緻密で非多孔性の第1の層22と、緻密で非多孔性の第1の層22に接した多孔性の第2の層24と、多孔性の第2の層24に接した緻密で非多孔性の第3の層26と、緻密で非多孔性の第3の層26接した多孔性の第4の層28と、多孔性の第4の層28に接した緻密で非多孔性の第5の層30とを備える。陽極電極12は、緻密で非多孔性の第1の層22と支持構造13との間に、且つ、緻密で非多孔性の第1の層22に接して配列され、陰極電極14は、緻密で非多孔性の第5の層30に接して配列される。
【0017】
電解質16をこのように配列した結果、図1を参照して上で述べたように、多孔性の第2の層24は、緻密で非多孔性の第1の層22と緻密で非多孔性の第3の層26との間のバッファとして作用することになる。同様に、多孔性の第4の層28は、緻密で非多孔性の第3の層26と緻密で非多孔性の第5の層30との間のバッファとして作用する。このように、この配列は、陽極チャンバ18と陰極チャンバ20との間の電解質16を通過する漏れ経路の形成を最小限にする。
【0018】
図3に示すように、固体酸化物燃料電池スタック210は複数の固体酸化物燃料電池11を備える。それぞれの固体酸化物燃料電池11は、陽極電極12、陰極電極14、及び陽極電極12と陰極電極14との間の電解質16を備える。気体燃料(例えば水素)は陽極電極12で部分的に規定された陽極チャンバ18に供給され、気体オキシダント(例えば酸素又は空気)は陰極電極14によって部分的に規定された陰極チャンバ20に供給される。
【0019】
固体酸化物燃料電池11は支持構造13の上に配列され、陽極電極12はその支持構造13と接触している。支持構造13は気体燃料を陽極電極12に流すための多孔性領域である。隣り合う固体酸化物燃料電池11は相互接続体15によって直列に接続されており、相互接続体15は1つの固体酸化物燃料電池11の陽極電極12を隣りの固体酸化物燃料電池11の陰極電極14と相互に接続する。
【0020】
電解質16は、緻密で非多孔性の第1の層22と、緻密で非多孔性の第1の層22に接した多孔性の第2の層24と、多孔性の第2の層24に接した緻密で非多孔性の第3の層26とを備える。多孔性の第4の層32が、緻密で非多孔性の第3の層26に接して配列される。陽極電極12は、緻密で非多孔性の第1の層22と支持構造13との間に、且つ、緻密で非多孔性の第1の層22に接して配列され、陰極電極14は多孔性の第4の層32に接して配列される。
【0021】
電解質16をこのように配列した結果、多孔性第2の層24は、緻密で非多孔性の第1の層22と緻密で非多孔性の第3の層26との間のバッファとして作用することになる。同様に、多孔性の第4の層32は、緻密で非多孔性の第3の層26と陰極電極14との間のバッファとして作用する。このように、この配列は、陽極チャンバ18と陰極チャンバ20との間の電解質16を通る漏れ経路の形成を最小限にする。
【0022】
更なる代替えとして、緻密で非多孔性の第1の層22と陽極電極14との間に、バッファとして作用する多孔性層を設けることも可能である。他の代替えとして、図1及び2のいずれか又は両方において、陽極電極と電解質との間に多孔性の層を設け、陰極電極と電解質との間に多孔性層を設けることも可能である。
【0023】
電解質の第1、第2及び第3の層は同じ組成であっても、異なる組成であってもよい。電解質の層のうちの1つは、92重量%のジルコニアと8重量%のイットリアからなるイットリア安定化ジルコニアを含むことができ、幾つかの例では、電解質の層の全てがイットリア安定化ジルコニアを含む。
【0024】
多孔性の第2の層を電解質に含めることにより、電解質の両端間のイオン抵抗を増大させることができ、したがって、高い導電率の電解質材料を使用することが有利である。電解質用の適切な高い導電率の材料は、スカンジアをドープしたジルコニア、及び、ガドリニアをドープしたセリアである。代わりに、電解質の層のうちの1つ又は全ては、スカンジアをドープしたジルコニアを含むことができる。更なる代替えとして、電解質の層のうちの1つ又は全てがガドリニアをドープしたセリアを含むことができる。
【0025】
陽極電極、陰極電極及び電解質の層は、スクリーン印刷、スプレー、テープキャステイング又はインクジェット印刷によって形成される。燃料電池は、陽極電極が最初に支持構造上に形成され、次いで、残りの層が形成されるか、又は、陰極電極が支持構造上に形成され、次いで残りの層が形成されるかのどちらかのやり方で、一般に支持構造上に配列される。支持構造はマグネシウム・アルミネート・スピネルを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る固体酸化物燃料電池スタックを示す図である。
【図2】本発明に係る別の固体酸化物燃料電池スタックを示す図である。
【図3】本発明に係る他の固体酸化物燃料電池スタックを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極(12)、陰極電極(14)、及び、前記陽極電極(12)と前記陰極電極(14)との間の電解質(16)を備える固体酸化物燃料電池(11)であって、
前記電解質(16)が、緻密で非多孔性の第1の層(22)と、前記緻密で非多孔性の第1の層(22)に接した多孔性の第2の層(24)と、前記多孔性の第2の層(24)に接した緻密で非多孔性の第3の層(26)とを備えることを特徴とする固体酸化物燃料電池(11)。
【請求項2】
前記電解質(16)が、前記緻密で非多孔性の第3の層(26)に接した多孔性の第4の層(28)と、前記多孔性の第4の層(28)に接した緻密で非多孔性の第5の層(30)とを備える、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項3】
前記電解質(16)と前記陽極電極(12)との間に多孔性の層(32)を備える、請求項1又は2に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項4】
前記電解質(16)と前記陰極電極(14)との間に多孔性の層(32)を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項5】
前記電解質(16)の前記第1の層(22)、第2の層(24)及び第3の層(26)が同じ組成を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項6】
前記電解質(16)の層のうちの少なくとも1つが、ガドリニアをドープしたセリアを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項7】
前記電解質(16)の全ての層が、ガドリニアをドープしたセリアを含む、請求項6に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項8】
前記電解質(16)の層のうちの少なくとも1つが、スカンジアをドープしたジルコニアを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項9】
前記電解質(16)の全ての層が、スカンジアをドープしたジルコニアを含む、請求項8に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載された固体酸化物燃料電池を複数備える固体酸化物燃料電池スタック(10)。
【請求項11】
複数の固体酸化物燃料電池(11)を備える固体酸化物燃料電池スタック(10)であって、
それぞれの前記固体酸化物燃料電池(11)が、陽極電極(12)、陰極電極(14)、及び、前記陽極電極(12)と前記陰極電極(14)との間の電解質(16)を備えており、
それぞれの前記電解質(16)が、緻密で非多孔性の第1の層(22)と、前記緻密で非多孔性の第1の層(22)に接した多孔性の第2の層(24)と、前記多孔性の第2の層(24)に接した緻密で非多孔性の第3の層(26)とを備える固体酸化物燃料電池スタック(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−516569(P2007−516569A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519984(P2006−519984)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002594
【国際公開番号】WO2005/015675
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】