説明

固体電解質フィルムの製造方法

【課題】基材から剥離したフィルムを水洗する工程および乾燥させる工程において、皺を生じさせることなく固体電解質フィルムを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】基材上に電解質ポリマーを含むフィルムを形成する形成工程(A)と、基材上に形成されたフィルムを基材から剥離する剥離工程(B)と、剥離工程(B)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを水洗する水洗工程(C)と、水洗工程(C)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを乾燥させる乾燥工程(D)とを含む固体電解質フィルムの製造方法であり、
前記張力Tおよび前記張力Tが、T<Tの関係を満足することを特徴とする、固体電解質フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の伝導膜として、プロトン伝導性を有する高分子から製造される固体電解質フィルムを用いることが知られている。
【0003】
かかる固体電解質フィルムの製造方法として、特許文献1には、固体電解質を含むフィルムを基材上に形成する工程と、形成されたフィルムを基材から剥離する工程と、剥離したフィルムを水で洗浄する工程と、洗浄したフィルムを乾燥させる工程とを行い、得られたフィルムに張力を付与して巻き取る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−282795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法によれば、フィルムを水洗する工程や乾燥させる工程における皺の発生を抑制することが困難であるという点で、必ずしも満足できるものではなかった。
本発明は、基材から剥離したフィルムを水洗する工程および乾燥させる工程において、皺を生じさせることなく固体電解質フィルムを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
[1]基材上に電解質ポリマーを含むフィルムを形成する形成工程(A)と、
基材上に形成されたフィルムを基材から剥離する剥離工程(B)と、
剥離工程(B)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを水で洗浄する水洗工程(C)と、
水洗工程(C)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを乾燥させる乾燥工程(D)と、
を含む固体電解質フィルムの製造方法であり、
前記張力Tおよび前記張力Tが、T<Tの関係を満足することを特徴とする、固体電解質フィルムの製造方法;
[2]張力Tが0.0001N/mm〜2N/mmであり、張力Tが0.001N/mm〜10N/mmである、[1]に記載される製造方法;
[3]張力Tが0.005N/mm〜0.03N/mmであり、張力Tが0.01N/mm〜0.05N/mmである、[1]に記載される製造方法;
[4]水洗工程(C)を経て得られるフィルムの厚さ及び乾燥工程(D)を経て得られるフィルムの厚さが、共に0.001mm〜0.5mmの範囲である、[2]に記載される製造方法;
[5]水洗工程(C)を経て得られるフィルムの厚さ及び乾燥工程(D)を経て得られるフィルムの厚さが、共に0.001mm〜0.1mmの範囲である、[3]に記載される製造方法;
[6]張力Tと張力Tがテンションカットにより与えられる、[1]〜[5]のいずれか1項に記載される製造方法;
[7]前記電解質ポリマーが、イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとをそれぞれ有し、該イオン交換基を有するブロックの主鎖が、複数の芳香環が直接連結してなるポリアリーレン構造を有し、さらにイオン交換基が、主鎖を構成する芳香環に直接結合しているブロックであることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか1項に記載される製造方法;
[8]前記イオン交換基を有するブロックが、下記一般式(1)で表されることを特徴とする、[7]に記載される製造方法;
【化1】

(式中、mは5以上の整数を表し、Arは2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で、置換されていてもよく、Ar
主鎖を構成する芳香環に、少なくとも一つのイオン交換基が直接結合する。)
[9]前記イオン交換基を実質的に有しないブロックが、下記一般式(2)で表される構造単位を有することを特徴とする、[7]または[8]に記載される製造方法;
【化2】

(式中、a、b、cは互いに独立に0か1を表し、nは5以上の整数を表す。Ar、Ar、Ar、Arは互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で、置換されていてもよい。X、X'は、互いに独立に直接結合または2価の基を表す。Y、Y'は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
[10][1]〜[9]のいずれか1項に記載される製造方法で製造される固体電解質フィルム;等を提供する。
【発明の効果】
【0007】
上述のように水洗工程における張力Tおよび乾燥工程における張力Tを制御することによって、基材から剥離したフィルムを水洗する工程および乾燥させる工程において、皺を生じさせることなく固体電解質フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の方法は、形成工程(A)、剥離工程(B)、水洗工程(C)および乾燥工程(D)を含み、剥離工程(B)と水洗工程(C)との間に、酸処理工程(B’)を、乾燥工程(D)の後に、巻取り工程(E)を有することができる。上記工程は、工程毎に行う(例えば、形成工程(A)が終了した後に、剥離工程(B)を行う、剥離工程(B)が終了した後に、水洗工程(C)を行うなど)こともできるし、複数の工程を連続的に行う(例えば、形成工程(A)、剥離工程(B)、水洗工程(C)および乾燥工程(D)を連続して行うなど)こともできる。複数の工程を連続的に行うことが生産性の点で好ましく、全ての工程を連続的に行うことがより好ましい。以下、全ての工程を連続的に行う態様を例示して本発明を説明する。
【0009】
各工程において、張力は、フィルムの長手方向に対して与えられる。各工程の張力は、各工程の間にテンションカットを設ける方法などによって、変化させることができる。テンションカットは、例えばロールにモーター、クラッチ、ブレーキ等を設置したものが挙げられ、フィルムに与えられる張力を検知する検知手段を備えることが好ましい。
テンションカットに用いられるローラーとして、例えば、ニップローラー、サクションローラー、または複数のローラーの組み合わせ等が挙げられる。
ニップローラーは、フィルムをローラーで挟み込み、挟み込み圧力により生じる摩擦力によってフィルムの送り速度を制御し、その結果、フィルムにかかる圧力をローラーの前後で変化させることができる。
サクションローラーは、表面に多くの穴の開いたローラー、またはワイヤーを巻き付けて網状または簀の子状にしたローラーの内部を吸引し、負圧にすることによって、フィルムを吸い付け、その吸引力によって生じる摩擦力によってフィルムの送り速度を制御し、その結果、フィルムにかかる圧力をローラーの前後で変化させることができる。
また、複数のローラーを組み合わせて同期駆動することにより、ローラーに対するフィルムの接触角に応じて、フィルムにかかる圧力をローラーの前後で変化させることができる。
【0010】
フィルムに与えられる張力[N/mm]、引張荷重[N]、フィルム幅[mm]、フィルム厚[mm]および単位厚み当たりの張力[N/mm]は、次式で表される。
張力[N/mm]=引張荷重[N]/フィルム幅[mm]
単位厚み当たりの張力[N/mm]=張力[N/mm]/フィルム厚[mm]
ここで、引張荷重とは、フィルムに与えられる荷重を意味し、張力とは、フィルムの単位幅当たりの引張荷重を意味し、単位厚み当たりの張力とは、フィルムの単位厚み当たりの張力を意味する。
【0011】
フィルム厚は、各工程中および各工程間において変化しても構わない。ただし、水洗工程(C)を経て得られるフィルムの厚さ及び乾燥工程(D)を経て得られるフィルムの厚さは共に、好ましくは0.001mm〜1mmの範囲であり、より好ましくは0.001mm〜0.5mmの範囲であり、さらに好ましくは0.001mm〜0.1mmの範囲である。
【0012】
水洗工程(C)における張力T、乾燥工程(D)における張力T、および巻き取り工程(E)における張力Tは、フィルムに伸びまたは破れが生じない程度に小さく、かつ、フィルムに皺が生じるのを防ぐために十分な程度に大きいことが好ましい。フィルムに与えられる張力は、フィルムの降伏応力の50%以下であることが好ましい。
【0013】
[形成工程(A)]
電解質ポリマーを溶媒に溶解させ、その溶液を基材上に流延することによって、電解質ポリマーを含むフィルムを基材上に形成する。溶媒の例は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、またはプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルである。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種類以上の溶媒を混合して用いることもできる。溶媒は、後述する好適な電解質ポリマーであるポリアリーレン系ブロック共重合体の溶解度が高い点で、好ましくは非プロトン性極性溶媒を含むものであり、より好ましくはDMSOである。溶液中の電解質ポリマーの濃度は、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜10重量%である。溶液に添加剤を加えてもよい。添加剤の例は、高分子に使用され得る可塑剤、安定剤、離型剤、保水剤等である。剥離工程(B)に先立って、基材上に流延した溶液を予備乾燥させることによって、即ち溶媒の一部を蒸発させることによって、基材上に流延した溶液から溶媒の一部を除去することが、フィルム強度を向上させる点で好ましい。予備乾燥の温度は、好ましくは40〜150℃である。予備乾燥の時間は、50分以下(例えば1分〜50分)であることが得られる固体電解質フィルムのイオン伝導度を向上させる点で好ましい。予備乾燥後のフィルムに含まれる有機溶媒は、フィルムに対して60重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。
【0014】
[剥離工程(B)]
基材上に形成されたフィルムを基材から剥離する。この工程(B)における張力は、好ましくは10N/mm以下であり、より好ましくは6N/mm以下であり、さらに好ましくは0.005N/mm〜5N/mmであり、さらに一層好ましくは0.01N/mm〜1N/mmである。この工程(B)における単位厚み当たりの張力は、好ましくは20N/mm以下であり、より好ましくは12N/mm以下であり、さらに好ましくは1N/mm〜10N/mmである。この張力により、フィルムが基材から剥離される。
【0015】
[水洗工程(C)]
剥離工程(B)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを水で洗浄する。水洗工程(C)における張力Tは、好ましくは0.0001N/mm〜2N/mmであり、より好ましくは0.001N/mm〜1N/mmであり、さらに好ましくは0.002N/mm〜0.2N/mmであり、さらに一層好ましくは0.005N/mm〜0.03N/mmである。張力Tが0.0001N/mm〜2N/mmである場合には、フィルムの厚さが0.001mm〜0.5mmの範囲であることが好ましく、張力が0.005N/mm〜0.03N/mmである場合には、フィルムの厚さが0.001mm〜0.1mmの範囲であることが好ましい。また、水洗工程(C)における単位厚み当たりの張力は、好ましくは0.1N/mm〜4N/mmであり、より好ましくは0.2N/mm〜2N/mmである。水洗工程(C)を複数段に分けて行う場合には、前段における張力と後段における張力とを等しくしてもよいが、前段における張力よりも後段における張力を増加させることが好ましい。使用する洗浄液は、金属イオン成分が含まれていない水が好ましく、25℃における抵抗率が17MΩ・cm以上である水がより好ましい。このような抵抗率を呈する水は、市販の純水製造装置により得ることができる。水洗温度は、0〜100℃の範囲で選択され、好ましくは5〜80℃であり、より好ましくは10〜60℃である。水洗時間は、一般に10秒〜30分、例えば20秒〜10分であってよい。水洗は、例えばフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。
【0016】
[乾燥工程(D)]
水洗工程(C)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを乾燥させる。張力TおよびTがT<Tの関係を満たすように、張力を調節する。乾燥工程(D)における張力Tは、T<Tの関係を満たす範囲内において、好ましくは0.001N/mm〜10N/mmであり、より好ましくは0.005N/mm〜5N/mmであり、さらに好ましくは0.01N/mm〜1N/mmであり、さらに一層好ましくは0.01N/mm〜0.05N/mmである。張力Tが0.001N/mm〜10N/mmである場合には、フィルムの厚さが0.001mm〜0.5mmの範囲であることが好ましく、張力が0.01N/mm〜0.05N/mmである場合には、フィルムの厚さが0.001mm〜0.1mmの範囲であることが好ましい。また、乾燥工程(D)における単位厚み当たりの張力は、好ましくは0.2N/mm〜20N/mmであり、より好ましくは1N/mm〜10N/mmである。乾燥工程(D)を複数段に分けて行う場合には、前段における張力と後段における張力とを等しくしてもよいが、前段における張力よりも後段における張力を増加させることが好ましい。乾燥温度は20〜90℃であることが好ましい。乾燥時間は、一般に10秒〜30分、例えば20秒〜10分であってよい。乾燥は、例えば、上記乾燥温度の窒素、空気等の気体を循環させることにより行うことができる。
【0017】
[酸処理工程(B’)]
場合により、剥離工程(B)と水洗工程(C)との間に、酸処理工程(B’)を含んでもよい。剥離工程(B)で得られたフィルムを酸性溶液に浸漬させることによって、酸処理を行う。酸性溶液の例は、塩酸、硫酸および硝酸である。酸性溶液の規定度は、好ましくは0.5規定〜4規定である。酸処理温度は、好ましくは0〜80℃である。酸処理時間(フィルムと酸性溶液との接触時間)は、好ましくは5分〜10時間である。酸処理工程(B’)における張力は、好ましくは0.0002N/mm〜2N/mmであり、より好ましくは0.001N/mm〜1N/mmであり、さらに好ましくは0.002N/mm〜0.2N/mmであり、さらに一層好ましくは0.005N/mm〜0.03N/mmである。酸処理工程(B’)における単位厚み当たりの張力は、好ましくは0.1N/mm〜4N/mmであり、より好ましくは0.2N/mm〜2N/mmである。
【0018】
[巻取り工程(E)]
場合により、乾燥工程(D)の後に、フィルムを巻き取る巻き取り工程(E)を含んでよい。乾燥後のフィルムに張力Tを与えながらフィルムを巻き取る。この時、張力Tを、T<T<Tの関係を満たすように調節する。巻取り工程(E)における張力Tは、好ましくは0.0015N/mm〜15N/mmであり、より好ましくは0.003N/mm〜3N/mmであり、さらに好ましくは0.01N/mm〜0.1N/mmである。巻取り工程(E)における単位厚み当たりの張力は、好ましくは0.3N/mm〜30N/mmである。また、巻取り開始から巻取り終了までの間で張力を変化させることが好ましく、巻き径の増加とともに張力を減少させることが好ましい。
【0019】
本発明の方法において、電解質ポリマーとは、燃料電池の伝導膜として用いたときに、イオン伝導性を発現する程度にイオン交換基を有するポリマーを意味する。特にプロトン伝導性を発現するイオン交換基(プロトン交換基)を有するポリマーであることが好ましい。かかるイオン交換基としては、スルホン酸基(−SOH)、スルホニルイミド基(−SO−NH−SO−)、ホスホン酸基(−PO)、リン酸基(−OPO)、カルボキシル基(−COOH)等が挙げられ、スルホン酸基が好ましい。
【0020】
上記電解質ポリマーにおけるイオン交換基の導入量は、電解質ポリマーの単位質量当たりのイオン交換基数、即ちイオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、更に好ましくは1.0meq/g〜2.8meq/gである。当該イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が0.5meq/g以上であると、イオン伝導性が十分発現されるものであり、一方、イオン交換容量が4.0meq/g以下であると耐水性がより良好となり、何れも燃料電池用の電解質ポリマーとしての特性がより優れるため好ましい。
【0021】
上記電解質ポリマーとしては、ナフィオン(デュポン社の登録商標)に代表される含フッ素系電解質ポリマーや炭化水素系電解質ポリマーが挙げられるが、特に炭化水素系電解質ポリマーが好ましい。
【0022】
炭化水素系電解質ポリマーとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリフェニレン、ポリイミド等の主鎖に芳香族環を有するエンジニアリング樹脂や、ポリエチレン、ポリスチレン等の汎用樹脂に上記に例示したプロトン交換基を導入したポリマーが挙げられる。
【0023】
炭化水素系電解質ポリマーは、典型的にはフッ素等のハロゲン原子を全く含まない化合物であるが、部分的にフッ素原子を有していてもよい。実質的にフッ素原子を含まないものであると、含フッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有する。電解質ポリマーを構成する元素組成比において、フッ素原子が15質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
上記炭化水素系電解質ポリマーとしては、主鎖に芳香環を有するものが好ましく、中でも主鎖を構成する芳香環を有し、且つ当該芳香環に直接イオン交換基が結合しているポリマー、又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有するポリマー、あるいは主鎖を構成する芳香族を有し、且つ芳香環を有する側鎖を有するポリマー、主鎖を構成する芳香環若しくは側鎖の芳香環の、どちらかの芳香族環に直接結合したイオン交換基を有するポリマーが好ましい。
【0025】
さらに耐熱性の観点からは、イオン交換基を有する、主鎖に芳香族環を有する芳香族炭化水素系ポリマーである炭化水素系電解質ポリマーが好ましい。
【0026】
また、炭化水素系電解質ポリマーは、当該炭化水素系電解質ポリマーを含む固体電解質フィルムを得たとき、当該固体電解質フィルムが良好な機械強度を達成するといった観点から、イオン交換基を有する繰り返し単位とイオン交換基を有さない繰り返し単位とを各々含み、これらを組み合わせた共重合体であって、そのイオン交換容量が上記の範囲であるものが好ましい。係る共重合体における共重合様式は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合又は交互共重合の何れであってもよく、これらの共重合様式を組み合わせた構成でもよい。炭化水素系電解質ポリマーとしては、ブロック共重合体が好ましく、後述するポリアリーレン系ブロック共重合体がより好ましい。
【0027】
前記ポリアリーレン系ブロック共重合体は、イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとをそれぞれ一つ以上有し、該イオン交換基を有するブロックの主鎖が、複数の芳香環が直接連結してなるポリアリーレン構造を有し、さらにイオン交換基が、前記主鎖を構成する芳香環に直接結合しているブロックであることが好ましい。ここで、「ブロックの主鎖」とは、ポリアリーレン系ブロック共重合体としたときに、該共重合体の主鎖となりうる分子鎖のことを表し、「ポリアリーレン構造」とは、前記のように複数の芳香環が互いに直接結合(単結合)にて連結してなる構造を示すものである。
【0028】
さらに、前記ポリアリーレン系ブロック共重合体において、前記イオン交換基を有するブロックが、下記一般式(1)で表される構造単位を有することが好ましい。
【化3】

(式中、mは5以上の整数を表し、Ar1は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で、置換されていてもよく、Ar1は主鎖を構成する芳香環に、少なくとも一つのイオン交換基が直接結合する。)
【0029】
さらに、前記ポリアリーレン系ブロック共重合体において、前記イオン交換基を実質的に有しないブロックが、下記一般式(2)で表される繰返し構造を含むことが好ましい。
【化4】

(式中、a、b、cは互いに独立に0か1を表し、nは5以上の整数を表す。Ar2、Ar3、Ar4、Ar5は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。X、X'は、互いに独立に直接結合または2価の基を表す。Y、Y'は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0030】
前記イオン交換基を有するブロックにおいて、前記一般式(1)のmが20以上の構造単位を有することが好ましい。
【0031】
前記イオン交換基は、酸性基であることが好ましく、好ましくはスルホン酸基、スルホンイミド基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基のいずれかの酸基である。
【0032】
前記イオン交換基としては、酸性度が高いスルホン酸基が好ましく、前記イオン交換基を有するブロックが、下記一般式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。
【化5】

(式中、mは前記一般式(1)と同等の定義である。R1は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基から選ばれる置換基を表す。pは0以上3以下の整数である。)ここで、ブロックの主鎖を構成するフェニレン基は、置換基R1を有していてもよく、該置換基としては、重合反応において実質的に反応しない基であることが好ましい。また、pが2または3であるとき、同一のベンゼン環に、複数あるR1は同一でも異なっていてもよい。また、該ブロックにおいて、繰返し単位1つ当たりの、R1およびpは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0033】
上述のように、本発明の方法において、ポリアリーレン系ブロック共重合体におけるイオン交換基を有するブロックは、好ましいイオン交換基であるスルホン酸基を有し、前記一般式(1)における重合度mが大であることが好ましく、イオン交換基を有するブロックが、下記一般式(4)で表される構造単位を有することがより好ましい。
【化6】

(式中、R2は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基から選ばれる置換基を表す。m2は3以上の整数であり、p1、p2はそれぞれ0以上3以下の整数である。)また、前記一般式(4)で、ブロックの主鎖を構成するフェニレン基は、置換基R2を有していてもよく、該置換基としては、重合反応において実質的に反応しない基であることが好ましい。また、p1あるいはp2が、2または3であるとき、同一のベンゼン環に複数あるR2は、同一でも異なっていてもよい。また、前記一般式(4)で表されるブロックにおいて、主鎖を構成するフェニレン基1つ当たりのR2、p1、p2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0034】
さらに、上述のように、本発明の方法において、ポリアリーレン系ブロック共重合体におけるイオン交換基を有するブロックは、好ましいイオン交換基であるスルホン酸基を有し、前記一般式(1)における重合度mが大であることが好ましく、イオン交換基を有するブロックが、前記一般式(3)で表される構造を有し、かつ、主鎖の芳香環の連結構成を以下で定義される3つの連結様式、(3a)、(3b)、(3c)で表し、その連結様式の構成比を下記(I)式に示すTP値で示したとき、TP値が0.6以下であることが好ましい。
【化7】

【化8】

【化9】

(式中、R1、pは前記一般式(3)と同等の定義である。)
【数1】

(式中、naは前記(3a)で表される連結構成の個数、nbは前記(3b)で表される連結構成の個数、ncは前記(3c)で表される連結構成の個数である。)
【0035】
前記ポリアリーレン系ブロック重合体は、Q−Ar1−Q(式中、Ar1は前記一般式(1)と同等の定義であり、Qは脱離基を示す。)で表される化合物および/または下記一般式(5)で表される化合物と、下記一般式(6)で表される化合物とを共重合することによって得ることができる。
【化10】

(式中、R2、p1、p2は前記一般式(4)と同等の定義であり、Qは脱離基を示す。

【化11】

(式中、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5、a、b、c、n、X、X’、Y、Y’は前記一般式(2)と同等の定義であり、Qは脱離基を示す。)
【0036】
また、前記ポリアリーレン系ブロック重合体は、Q−Ar1−Q(式中、Ar1は前記一般式(1)と同等の定義であり、Qは脱離基を示す。)で表される化合物および/または前記一般式(5)で表される化合物またはその塩と、前記一般式(6)で表される化合物とを、ニッケル錯体の共存下に共重合することによって得ることができる。
【0037】
前記ニッケル錯体は、好ましくは、ニッケル(0)ビス(シクロオクタジエン)と2,2’−ビピリジルからなる錯体である。
【0038】
前記ニッケル錯体が、ハロゲン化ニッケルと2,2’−ビピリジルからなる錯体であり、さらに、亜鉛を還元剤として共存させることが好ましい。
【0039】
前記イオン交換基を実質的に有しないブロックは、前記一般式(2)におけるX、X’が特定の基であると製造上好ましく、前記イオン交換基を実質的に有しないブロックが、下記一般式(2a)で表される繰返し構造を含むブロックであることが好ましい。
【化12】

(式中、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5、a、b、c、n、Y、Y’は前記一般式(2)と同等の定義であり、X、Xはそれぞれ独立に、直接結合、カルボニル基、スルホニル基、2,2−イソプロピリデン基、2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン基及び9,9−フルオレンジイル基からなる群から選ばれる2価の基を示す。)
【0040】
また、本発明は上述のいずれかの方法によって製造される固体電解質フィルムを提供する。
【0041】
燃料電池用プロトン伝導膜に係る用途に関しては、電解質ポリマーは、イオン交換容量が0.5meq/g〜4.0meq/gであることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0043】
[降伏応力の決定]
日本工業規格 K7113に記載されるプラスチックの引張試験方法に準じて、後述する実施例1で得られたフィルムの水洗後および水洗・乾燥後の降伏応力を求めた。水洗後のフィルムの降伏応力は8N/mmであり、水洗・乾燥後のフィルムの降伏応力は40N/mmであった。
【0044】
[電解質ポリマーの合成例]
国際公開番号WO2007/043274号公報記載の実施例7、実施例21記載の方法を参考にして、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製)を使用して合成し、下記構造式で示される繰り返し単位を有するブロック共重合体の高分子電解質を得た。当該高分子電解質のイオン交換容量は2.51meq/g、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法で求められたポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は174000、重量平均分子量(Mw)は348000であった。
【化13】

【0045】
[実施例1]
上記合成例で合成した電解質ポリマーを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して、濃度が8.0重量%の溶液を調製した。得られた溶液を、長尺基材(東洋紡績社製PETフィルム、E5000グレード、厚さ0.1mm、幅400mm)上に流延塗布し、100℃で36分間乾燥した。次いで、形成されたフィルムを基材から剥離した。剥離したフィルムのフィルム厚は0.02mmであり、フィルム幅は340mmであった。剥離したフィルムを23℃の水に3分間浸漬することにより洗浄した。洗浄工程において、テンションカットにより、フィルムに5Nの引張荷重、即ち0.015N/mmの張力を与えた。洗浄中のフィルムはフィルム厚0.04mmまで膨潤しており、単位厚み当たりの張力は0.37N/mmであった。洗浄後、得られたフィルムを35℃で2.5分間乾燥することにより、フィルム厚0.02mmの固体電解質フィルムを得た。乾燥工程において、テンションカットにより、フィルムに7Nの引張荷重、即ち0.021N/mmの張力を与えた。単位厚み当たりの張力は1.0N/mmであった。得られた固体電解質フィルムに皺は確認されなかった。
【0046】
[実施例2]
乾燥工程においてフィルムに9Nの引張荷重、即ち0.026N/mmの張力(1.3N/mmの単位厚み当たりの張力)を与えた以外は、実施例1に準じて固体電解質フィルムを作成した。得られた固体電解質フィルムに皺は確認されなかった。
【0047】
[実施例3]
乾燥工程においてフィルムに10Nの引張荷重、即ち0.029N/mmの張力(1.5N/mmの単位厚み当たりの張力)を与えた以外は、実施例1に準じて固体電解質フィルムを作成した。得られた固体電解質フィルムに皺は確認されなかった。
【0048】
[比較例1]
乾燥工程においてフィルムに5Nの引張荷重、即ち0.015N/mmの張力を与えた以外は、実施例1に準じて固体電解質フィルムを作成した。得られた固体電解質フィルムには皺が確認された。
【0049】
[比較例2]
乾燥工程においてフィルムに2Nの引張荷重、即ち0.006N/mmの張力を与えた以外は、実施例1に準じて固体電解質フィルムを作成した。得られたフィルムには皺が確認された。
【0050】
[比較例3]
乾燥工程においてフィルムに3Nの引張荷重、即ち0.009N/mmの張力を与えた以外は、実施例1に準じて固体電解質フィルムを作成した。得られたフィルムには皺が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に電解質ポリマーを含むフィルムを形成する形成工程(A)と、
基材上に形成されたフィルムを基材から剥離する剥離工程(B)と、
剥離工程(B)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを水洗する水洗工程(C)と、
水洗工程(C)で得られたフィルムに張力Tを与えながら、フィルムを乾燥させる乾燥工程(D)と、
を含む固体電解質フィルムの製造方法であり、
前記張力Tおよび前記張力Tが、T<Tの関係を満足することを特徴とする、固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項2】
張力Tが0.0001N/mm〜2N/mmであり、張力Tが0.001N/mm〜10N/mmである、請求項1に記載される製造方法。
【請求項3】
張力Tが0.005N/mm〜0.03N/mmであり、張力Tが0.01N/mm〜0.05N/mmである、請求項1に記載される製造方法。
【請求項4】
水洗工程(C)を経て得られるフィルムの厚さ及び乾燥工程(D)を経て得られるフィルムの厚さが、共に0.001mm〜0.5mmの範囲である、請求項2に記載される製造方法。
【請求項5】
水洗工程(C)を経て得られるフィルムの厚さ及び乾燥工程(D)を経て得られるフィルムの厚さが、共に0.001mm〜0.1mmの範囲である、請求項3に記載される製造方法。
【請求項6】
張力Tと張力Tがテンションカットにより与えられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載される製造方法。
【請求項7】
前記電解質ポリマーが、イオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとをそれぞれ有し、該イオン交換基を有するブロックの主鎖が、複数の芳香環が直接連結してなるポリアリーレン構造を有し、さらにイオン交換基が、主鎖を構成する芳香環に直接結合しているブロックであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載される製造方法。
【請求項8】
前記イオン交換基を有するブロックが、下記一般式(1)で表されることを特徴とする、請求項7に記載される製造方法。
【化1】

(式中、mは5以上の整数を表し、Arは2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で、置換されていてもよく、Ar
主鎖を構成する芳香環に、少なくとも一つのイオン交換基が直接結合する。)
【請求項9】
前記イオン交換基を実質的に有しないブロックが、下記一般式(2)で表される構造単位を有することを特徴とする、請求項7または8に記載される製造方法。
【化2】

(式中、a、b、cは互いに独立に0か1を表し、nは5以上の整数を表す。Ar、Ar、Ar、Arは互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で、置換されていてもよい。X、X'は、互いに独立に直接結合または2価の基を表す。Y、Y'は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載される製造方法で製造される固体電解質フィルム。

【公開番号】特開2011−119244(P2011−119244A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243277(P2010−243277)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】