説明

固体電解質燃料電池用セルチューブ、及び固体電解質燃料電池

【課題】共焼結の降温時にクラックを発生させない発電性能の高い固体電解質燃料電池用セルチューブ、及び、発電性能の高い固体電解質燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】基体管11上に燃料極13と電解質14と空気極15とを備える固体電解質燃料電池用セルチューブであって、基体管11が、Y、Gd及びYbから選択される少なくとも1種類以上の第1の金属酸化物を安定化剤として含有するZrOを含み、燃料極13が、Y、Gd、CaO、Nd及びYbからなる群から選択される1種類または2種類以上の第2の金属酸化物を安定化剤として含有するZrOとNiOとを含み、NiOの含有量が30体積%以上35体積%以下であり、燃料極13の熱膨張係数から基体管11の熱膨張係数を減算した値が、−2×10−6/K以上0.5×10−6/K以下である固体電解質燃料電池用セルチューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質燃料電池や水蒸気電解に用いられるセルチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形の固体電解質燃料電池(SOFC)の一般的な構成では、多孔質基体管上に、順に電池の発電膜である燃料極、電解質及び空気極を積層させた単素子が、基体管長手方向に沿って複数形成され、隣接する単素子同士がインターコネクタで連結される。これにより、複数の単素子が直列に接続され、高出力を得ることができる。
【0003】
燃料極材料としてはNi系の材料が使用される。Niは高温で凝集しやすいため、電解質材料であるY安定化ZrO(YSZ)やCeO系酸化物と混合したサーメット(Cermet)として用いられる。サーメットとすることにより、電極反応の起きる界面がより多く形成されるため、特性も改善される効果も期待できる。
【0004】
基体管材料としては、NiO/YSZ(特許文献1)、CaO安定化ZrO(CaSZ)とチタン酸カルシウムとからなる材料(特許文献2)、及びMgOとMgAlとからなる複合材料(特許文献3)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−106916号公報([0010]、[0011])
【特許文献2】特開2002−358984号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平5−82146号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、NiOを含有するYSZを基体管とすることにより、燃料極との熱膨張係数を整合させている。しかし、高温で燃料が遮断されると、例えばインターコネクタと電解質の境界からOが進入し、燃料極のNiがNiOに再び酸化される。その際、体積膨張により燃料極にクラックが発生する。それに伴い、電解質にもクラックが生じる。これにより、基体管までOが進入するため、基体管に含まれるNiがNiOに再び酸化され、基体管にクラックが発生する。
【0007】
また、熱膨張係数の低い基体管上に熱膨張係数の差が大きい燃料極を成膜すると、共焼結後の降温時に燃料極が大きく収縮し、燃料極中で引張応力が生じる。このため、燃料極にクラックが発生し、それに伴い電解質、及び基体管にもクラックが生じる。その結果、基体管から燃料ガスがリークするため、燃料電池の電池効率を低下させる。
【0008】
特許文献2のように、チタン酸カルシウムとCaSZとを共焼結すると、カルシウムが電解質界面まで拡散し、カルシウムジルコネイトを生成する。この生成物は絶縁体であるため、電解質が高抵抗となり、燃料電池の高出力化の妨げとなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、共焼結の降温時にクラックを発生させない発電性能の高い固体電解質燃料電池用セルチューブ、及び、発電性能の高い固体電解質燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、基体管上に燃料極と電解質と空気極とを備える固体電解質燃料電池用セルチューブであって、前記基体管が、Y、Gd及びYbから選択される少なくとも1種類以上の第1の金属酸化物を安定化剤として含有するZrOを含み、前記燃料極が、Y、Gd、CaO、Nd及びYbからなる群から選択される1種類または2種類以上の第2の金属酸化物を安定化剤として含有するZrOとNiOとを含み、前記NiOの含有量が30体積%以上35体積%以下であり、前記燃料極の熱膨張係数から前記基体管の熱膨張係数を減算した値が、−2×10−6/K以上0.5×10−6/K以下であることを特徴とする固体電解質燃料電池用セルチューブを提供する。
【0011】
上記基体管は、Niを含まないため、Niの再酸化が生じない。
燃料極に含有されるNiOの量は、30体積%以上35体積%以下であることが好ましい。上記数値範囲内で、燃料極におけるNiOの含有量を少なくすると、Niの再酸化に起因するセルチューブのダメージを抑制することができる。一方、燃料極におけるNiOの含有量を多くすると、Niの再酸化に起因するセルチューブのダメージは増加傾向となるが、導電性の高い燃料極とすることができる。従って、燃料極の材料として、上記安定化剤を含有するZrOを用い、且つ、NiOの含有量を最適化することで、NiがNiOに再酸化される際の体積膨張によるセルチューブへのダメージを抑制すると共に、高い導電率を有する燃料極とすることができる。
【0012】
上記燃料極の熱膨張係数から基体管の熱膨張係数を減算した値が、−2×10−6/Kより低値の場合、圧縮応力により燃料極が剥離する。また、0.5×10−6/Kより高値の場合、共焼結後の降温時に燃料極が大きく収縮し、燃料極内に引張応力が発生するため燃料極にクラックが生じる。従って、燃料極の熱膨張係数から基体管の熱膨張係数を減算した値を、−2×10−6/K以上0.5×10−6/K以下、好ましくは0×10−6/K以上0.5×10−6/K以下にすることによって、共焼結後の降温時に発生する燃料極の剥離及び割れを防止することができる。
【0013】
上記発明において、前記第1の金属酸化物がYまたはGdの少なくとも一方であり、前記第1の金属酸化物の含有量が、3.5mol%以上4.7mol%以下であることが好ましい。
また、前記第2の金属酸化物の含有量が、9.5mol%以上15.0mol%以下であることが好ましい。
【0014】
安定化剤を含有するZrOの熱膨張係数は、安定化剤の組成と関係している。上記発明において、基体管に含有させる安定化剤の量は3.5mol%以上4.7mol%以下、好ましくは3.7mol%以上4.5mol%以下、更に好ましくは3.7mol%以上4.2mol%以下にする。
【0015】
燃料極の安定化剤の含有量は9.5mol%以上15.0mol%以下、好ましくは9.7mol%以上14.0mol%以下、更に好ましくは10.0mol%以上13.0mol%以下にする。安定化剤の含有量が9.5mol%以上15.0mol%以下で、燃料極の熱膨張係数は低値を示す。一方9.5mol%より少ないと、燃料極の熱膨張係数は高くなる傾向を示す。また、15.0mol%より多い場合、熱膨張係数は低値を示すが、含有量が多すぎることにより安定化剤とZrOとの合成時に共沈が良好に行われず、安定化剤単体で析出してしまう割合が増加する。
基体管及び燃料極の安定化剤を上記含有量で含むZrOとすることによって、上記基体管の熱膨張係数と燃料極の熱膨張係数との関係を満たすことができる。
【0016】
上記発明において、前記第1の金属酸化物がYbであり、前記Ybの含有量は3.5mol%以上4.3mol%以下であることが好ましく、3.7mol%以上4.2mol%以下であることが更に好ましい。
また、前記第2の金属酸化物の含有量は8.0mol%以上15.0mol%以下であることが好ましく、9.5mol%以上15.0mol%以下であることが更に好ましい。
【0017】
第1の金属酸化物がYbである場合、同量の他の金属酸化物をZrOに含有させた場合と比較して、より大きな熱膨張係数を示す領域が存在する。従って、基体管の熱膨張係数を大きくすることができるため、燃料極に、より多くのNiOを含有させることが容易となる。このような燃料極は、導電率を向上させることができる。Ybの含有量が3.5mol%より低いと、熱膨張係数が低下する。
【0018】
安定化剤の含有量を8.0mol%以上15.0mol%以下とすることで、燃料極の熱膨張係数は所望の値となる。安定化剤の含有量が9.5mol%以上15.0mol%以下であれば、より導電性の高い燃料極とすることができる。
【0019】
上記発明において、前記燃料極に含まれる金属酸化物を含有するZrOの粒径が、20μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0020】
燃料極に含まれる安定化ZrOの(平均)粒径が、20μmより小さい場合、燃料極の導電率が低下して発電性能が低くなる。燃料極に含まれる安定化ZrOの粒径が、50μmより大きい場合、共焼結が安定的に実施できない。燃料極に含まれる安定化ZrOの粒径が20μm以上50μm以下、好ましくは25μm以上45μm以下、更に好ましくは30μm以上40μm以下とすると、安定に共焼結ができると共に、高温で高い導電率を示す燃料極とすることができる。
【0021】
また、本発明は基体管上に燃料極と電解質と空気極とを備える固体電解質燃料電池用セルチューブであって、前記基体管が、Ybを安定化剤として含有するZrOを含むことを特徴とする固体電解質燃料電池用セルチューブを提供する。
【0022】
ZrOに安定化剤としてYbが用いられることにより、Y、Gdと比較して、高い熱膨張係数の基体管とすることができる。このことにより、燃料極の熱膨張係数との差を最適化することが容易となる。また、基体管の熱膨張係数を高くすることができることに伴い、燃料極の組成の選定範囲を広くすることができる。
【0023】
また、本発明は上記固体電解質燃料電池用セルチューブを備えた固体電解質燃料電池を提供する。
【0024】
上記のようなセルチューブを備えることで、共焼結時に発生する燃料極の剥離及び割れを防止できる。そのため、高い電池効率を有する固体電解質燃料電池となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、共焼結後の降温時における、セルチューブでのクラックの発生を防止し、且つ、燃料極の導電性を高めることができる。そのため高出力の燃料電池が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る円筒形の固体電解質燃料電池用セルチューブの断面概略図である。
【図2】第1実施形態に係る安定化ZrOにおけるNiO含有量と燃料極の熱膨張係数の関係を示すグラフである。
【図3】第2実施形態に係る安定化ZrOにおけるNiO含有量と燃料極の熱膨張係数の関係を示すグラフである。
【図4】燃料極に用いる安定化ZrOの粒径とNiOの含有量による導電率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る固体電解質燃料電池の実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態に係る円筒形の固体電解質燃料電池用セルチューブの断面概略図である。多孔質基体管11上に、順に燃料極13、固体電解質膜14、及び、空気極15が積層された単素子12が形成されている。単素子12は、基体管11上に複数形成されており、隣接する単素子同士がインターコネクタ16で連結される。
【0028】
本実施形態において、基体管は、安定化剤としてY又はGdを含有するZrOを含む。燃料極は、安定化剤を含有するZrO及びNiOを含み、安定化剤がY、Gd、CaO、Nd及びYbからなる群から選択される1つ以上の金属酸化物である。
【0029】
(基体管の熱膨張係数と燃料極の熱膨張係数との最適な組合せ範囲)
基体管の熱膨張係数が9.5×10−6/Kから11.0×10−6/K、燃料極の熱膨張係数が10.3×10−6/Kから12.8×10−6/Kの材料をそれぞれ組み合わせ、最適な熱膨張係数の差を検討した。
基体管及び燃料極は、以下の工程で形成した。
基体管材質としてのYSZ粉末(平均粒径:2μm)に、メチルセルロース(10質量%)及び水(20質量%)を添加した。上記基体管材質を押し出し成形法により管状に成形し、基体管とした。
燃料極材質としてのNiO(平均粒径0.6μm)及びYSZ(平均粒径1μm)の混合粉末に、スキージオイルを15質量%添加して、3本ローラを用いて混合しスラリー化した。
電解質として10mol%YSZを用い同様にスラリー化した。基体管上にスクリーンプリント法によりスラリーを100μmの厚さで成膜した。次いで、電解質スラリーを、燃料極の上に成膜した。燃料極及び電解質を成膜した基体管を、電気炉を用いて1400℃で5時間の条件で焼成し、試験片とした。焼成後、試験片は溶剤除去性染色浸透探傷試験(ダイ・チェック)によりクラックの有無を目視にて確認した。探傷剤は、例えば浸透液(商品名FP−S),洗浄液(FR−Q),現像液(FD−S)(いずれも(株)タセト社製)を使用した。
【0030】
上記試験により、燃料極の熱膨張係数から基体管の熱膨張係数を減算した値が、0.5×10−6/K以下であるとき、すなわち、「基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数」の関係を満たした場合、試験片にクラックが発生しなかった。別に行った試験では、熱膨張係数差が−2×10−6/Kより小さいとき、燃料極の剥離が確認された。
【0031】
(安定化ZrOの熱膨張係数)
安定化ZrOの安定化剤をY、Gd、CaO、Nd3、及びYbとし、各安定化剤含有量(mol%)を3.2から20.0mol%とした時の、各熱膨張係数を測定した。
熱膨張係数の計測は,押し棒式熱膨張計(例えば,(株)リガク社製,横型熱膨張計TMA8360型)を用いた。測定粉体を直径50mm×厚さ5mmの金型に詰め,一軸プレス機にて150kg/cmで成形した。次いで,静水圧プレス法にて1ton/cmの圧力で本成形を行った。成形後,1400℃で4時間の条件にて大気中で焼成した。焼成後,幅3mm×厚さ2mm×長さ20mmの形状に切断して,計測試料とした。熱膨張係数の計測は,5℃/minの昇温速度で900℃まで昇温させて膨張量を計測し,室温から900℃までの平均熱膨張係数を熱膨張係数とした。
【0032】
表1にY安定化ZrO(YSZ)の熱膨張係数を示す。
【表1】

【0033】
YSZの熱膨張係数は、Yの含有量が、3.5mol%〜4.7mol%のときに10.4×10−6/K以上、9.5mol%〜20.0mol%のときに9.7×10−6/K以下となった。Gd(4.5mol%、9.5mol%、12.5mol%)、CaO(15.0mol%)、Nd(13.0mol%)またはYb(10.0mol%)を含む安定化ZrOの熱膨張係数はそれぞれ、10.4×10−6/K、9.6×10−6/K、9.7×10−6/K、9.5×10−6/K、9.5×10−6/K、9.7×10−6/Kとなり、Yと同様の傾向を示した。
上記結果から、本実施形態では、熱膨張係数が9.5×10−6/K〜10.6×10−6/Kの範囲内にある安定化ZrOを、以降の検討に用いるものとする。
【0034】
(燃料極のNiOの含有量)
本実施形態において、燃料極は、安定化ZrOの他に、NiOを含む。安定化ZrOとNiOとでは熱膨張係数が異なる。そのため、安定化ZrOにNiOを含有させると、NiOの含有量に応じて熱膨張係数が変化する。以下で、NiO含有量と燃料極の熱膨張係数との関係、及び、燃料極のNiO含有量の決定理由を述べる。
【0035】
安定化ZrOにNiOをそれぞれ30体積%、35体積%、40体積%添加したときの燃料極の熱膨張係数を以下の式(1)から算出した。
α=αNiO×VNiO+α×(1−VNiO)・・・(1)
(α;燃料極の熱膨張係数、αNiO;NiOの熱膨張係数、VNiO;NiOの体積分率、α;安定化ZrOの熱膨張係数)
安定化ZrOの熱膨張係数は9.5×10−6/K〜10.6×10−6/Kとした。NiOの熱膨張係数は14×10−6/Kとした。
【0036】
図2は、燃料極中の各NiO含有量での安定化ZrOの熱膨張係数と燃料極の熱膨張係数との関係を示すグラフである。同図において、横軸は安定化ZrOの熱膨張係数、縦軸は燃料極の熱膨張係数である。
NiOの熱膨張係数は、本実施形態で用いられる安定化ZrOの熱膨張係数よりも高い。そのため、安定化ZrOにNiOを含有させた燃料極の熱膨張係数は、ベースとなる安定化ZrOの熱膨張係数よりも高くなった。図2によれば、熱膨張係数:9.5×10−6/K〜10.6×10−6/Kの安定化ZrOに、NiOを30体積%〜40体積%含有させる条件下では、熱膨張係数:10.9×10−6/K〜12×10−6/Kの燃料極を作製することができる。
【0037】
上記結果より、「基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数」を満たすためには、基体管の熱膨張係数を少なくとも10.4×10−6/K以上とする必要があることがわかった。基体管の熱膨張係数は、基体管に含まれる安定化ZrOに依存する。従って、本実施形態では、3.5mol%〜4.7mol%の安定化剤が含有された安定化ZrO(熱膨張係数:10.4×10−6/K〜10.6×10−6/K)を基体管の材料として採用できる(表1参照)。
【0038】
熱膨張係数:10.4×10−6/K〜10.6×10−6/Kの基体管を用いた場合、「基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数」を満たすためには、燃料極の熱膨張係数を少なくとも11.1×10−6/K以下とする必要がある。作製可能な燃料極の熱膨張係数の範囲が10.9×10−6/K〜12×10−6/Kであるため、上記関係式を満たす燃料極の熱膨張係数の範囲は、実質的に10.9×10−6/K〜11.1×10−6/Kとなる。図2によれば、NiOの含有量が30体積%以上35体積%以下であれば、燃料極の熱膨張係数を11.1×10−6/K以下とすることが可能である。
【0039】
また、図2によれば、安定化ZrOの熱膨張係数は、燃料極のNiO含有量を30体積%とすると9.8×10−6/K以下、燃料極のNiO含有量を35体積%とすると9.5×10−6/Kであれば良い。表1中の安定化ZrOのうち、上記いずれかにあてはまるのは、9.5mol%〜20mol%の安定化剤が含有された安定化ZrO(熱膨張係数:9.5×10−6/K〜9.7×10−6/K)である。
しかしながら、安定化剤が15.0mol%より多い場合、熱膨張係数は上記条件を満たすが、含有量が多すぎることにより安定化剤とZrOとの合成時に共沈が良好に行われず、安定化剤単体で析出してしまう割合が増加するという問題が生じる。
そのため、本実施形態では、9.5mol%〜15mol%の安定化剤が含有された安定化ZrO(熱膨張係数:9.5×10−6/K〜9.7×10−6/K)を燃料極の材料として採用する。
図2によれば、熱膨張係数が9.7×10−6/Kの安定化ZrOを用いた場合において、燃料極のNiO含有量を30体積%とすると、燃料極の熱膨張係数は11.0×10−6/Kとなる。従って、燃料極の熱膨張係数は、10.9×10−6/K〜11.0×10−6/Kの範囲内となることが好ましい。
【0040】
(粒径の影響)
安定化ZrOの導電率は、4端子法により計測した。原料粉体は、任意の組成に配合し、ZrOボール(メディア)とエタノール(溶媒)を用いたボールミルで20時間混合した後、乾燥させ、成形前試料とした。次いで,成形前試料を長さ30mm×幅3mmの金型に詰め,40kg/cmの圧力で一軸成形した後に、1400℃で4時間保持の条件で焼成し、試料とした。焼成後に,白金線と白金ペーストで端子を取り付けた。試料を電気炉中に設置し、N雰囲気で1000℃まで昇温させ、60%H−Nガスを0.3l/minの流量で流して還元した。その後、900℃まで降温させて電流値と電圧降下を計測した。計測した電流値と電圧降下から抵抗値と導電率を算出した。
【0041】
図4は、燃料極に用いる安定化ZrOの粒径と燃料極の導電率との関係を示すグラフである。同図において、横軸に安定化ZrOの粒径、縦軸は導電率である。
NiOを30体積%含有したとき、燃料極に用いる安定化ZrOの粒径が20μmから50μmの範囲で、導電率が150S/cm以上であった。また、安定化ZrOの粒径が40μmのとき導電率は最大値190S/cmとなった。
NiOを35体積%含有したとき、燃料極に用いる安定化ZrOの粒径が20μmから60μmの範囲で、導電率は150S/cm以上であり、特に、20μmから50μmの範囲では、200S/cmを超えていた。
【0042】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係る円筒形の固体電解質燃料電池用セルチューブは、基体管に含有される安定化剤以外は、第1実施形態と同様の構成とする。
本実施形態において、基体管は、安定化剤としてYbを含有するZrOを含む。
【0043】
第1実施形態にて、固体電解質燃料電池用セルチューブでは、基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数の関係を満たすとき、セルチューブにクラックが発生しないことが確認されている。以下で、基体管の安定化剤としてYbを含有するZrOを用いた場合において上記関係が満たされるための条件を説明する。
【0044】
(安定化ZrOの熱膨張係数)
安定化ZrOの安定化剤をYbとし、安定化剤含有量(mol%)を3.2から8.0mol%とした時の熱膨張係数を、第1実施形態と同様の方法で測定した。
【0045】
表2にYbSZの熱膨張係数を示す。
【表2】

【0046】
YbSZの熱膨張係数は、Ybの含有量が、3.5mol%〜4.3mol%のときに10.5×10−6/K以上となり、特に、3.7mol%〜4.2mol%では、10.7×10−6/Kを示した。
上記結果によれば、熱振動がマクロな現象として現れたものが熱膨張であるため、ランタノイド系化合物の中でも質量が大きいYbが、大きな熱膨張係数を実現できたものと考えられる。
【0047】
(燃料極のNiOの含有量)
安定化ZrOにNiOをそれぞれ30体積%、35体積%、40体積%添加したときの燃料極の熱膨張係数を、第1実施形態と同様の式にて算出した。ここで、安定化ZrOの熱膨張係数の範囲は、第1実施形態に示す表1と、上に示す表2とから、9.5×10−6/K〜10.7×10−6/Kとなる。
【0048】
図3は、燃料極中の各NiO含有量での安定化ZrOの熱膨張係数と燃料極の熱膨張係数との関係を示すグラフである。同図において、横軸は安定化ZrOの熱膨張係数、縦軸は燃料極の熱膨張係数である。
図3によれば、熱膨張係数:9.5×10−6/K〜10.7×10−6/Kの安定化ZrOに、NiOを30体積%〜40体積%含有させる条件下では、熱膨張係数:10.9×10−6/K〜12×10−6/Kの燃料極を作製することができる。
【0049】
上記結果より、「基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数」を満たすためには、基体管の熱膨張係数を少なくとも10.4×10−6/K以上とする必要があることがわかった。従って、本実施形態では、3.5mol%〜4.3mol%のYbが含有された安定化ZrO(熱膨張係数:10.5×10−6/K〜10.7×10−6/K)を基体管の材料として採用できる(表2参照)。
【0050】
熱膨張係数:10.5×10−6/K〜10.7×10−6/Kの基体管を用いた場合、「基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数」を満たすためには、燃料極の熱膨張係数を少なくとも11.2×10−6/K以下とする必要がある。作製可能な燃料極の熱膨張係数の範囲が10.9×10−6/K〜12×10−6/Kであるため、上記関係式を満たす燃料極の熱膨張係数の範囲は、実質的に10.9×10−6/K〜11.2×10−6/Kとなる。図3によれば、NiOの含有量が30体積%以上35体積%以下であれば、燃料極の熱膨張係数を11.2×10−6/K以下とすることが可能である。
【0051】
また、図3によれば、燃料極に含有させる安定化ZrOの熱膨張係数は、燃料極のNiO含有量を30体積%とすると10×10−6/K以下、燃料極のNiO含有量を35体積%とすると9.6×10−6/K以下であれば良い。第1実施形態に示す表1と、上に示す表2とにおいて確認された安定化ZrOの熱膨張係数から、8.0mol%〜15mol%の安定化剤が含有された安定化ZrO(熱膨張係数:9.5×10−6/K〜10.0×10−6/K)を燃料極の材料として採用することができる。
上記結果によれば、燃料極のNiO含有量を35体積%とした場合における、使用可能な安定化ZrOの熱膨張係数の範囲が、第1実施形態よりも広くなった。また、固体電解質燃料電池において、基体管と燃料極との熱膨張係数差が小さい方が、体積膨張によるセルチューブへのダメージが少なく、燃料極のNiO含有量が多い方が燃料極の導電率が高くなる。すなわち、本実施形態において、燃料極のNiO含有量は35体積%が好ましく、安定化剤は9.5mol%〜15mol%の範囲で燃料極に含有させることが好ましい。
【実施例】
【0052】
基体管及び燃料極の組成を、表2に示す組合せとした。上記基体管の熱膨張係数と燃料極の熱膨張係数との最適な組合せ範囲と同様の工程で、基体管上に燃料極及び電解質を共焼結により形成し、クラックの有無を確認した。
基体管材質は、表2に示す組成のYSZ粉末またはYbSZ粉末とした。燃料極の安定化剤は表2に示す組成のY、Gd、CaO、Nd、Ybとし、NiOの添加量は30体積%または35体積%とした。それ以外は、上記(基体管の熱膨張係数と燃料極の熱膨張係数との組合せ範囲)での実験方法に従った。
【0053】
表3に、焼成試験の結果を示す。
【表3】

【0054】
試料番号No.1〜No.5は、基体管に用いる安定化剤量の範囲を決定するための試料である。No.1〜No.5を参照すると、Yの含有量が3.5mol%(No.2)、3.7mol%(No.3)、4.7mol%(No.4)の試験片において、焼成後にクラックは確認されなかった。
なお、No.2〜No.4の試験片は、いずれも基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数の関係を満たしている。
【0055】
No.6−1〜No.6−3は、基体管に用いる安定化剤種の適用性を確認するための試料である。安定化剤を4.5mol%Gdとした試験片(No.6−1)では、クラックは確認されなかった。また、安定化剤を3.7mol%Yb及び4.2mol%Ybとした試験片(No.6−2、No.6−3)でもクラックは確認されなかった。安定化剤としてYbを用いる場合、熱膨張係数が10.7×10−6/Kを示す濃度領域がある。そのため、NiO含有量を35体積%としてもセルとして成立できる。
【0056】
No.7〜No.10及びNo.3は、燃料極に用いる安定化剤量の範囲を決定するための試料である。No.7〜No.10及びNo.3を参照すると、燃料極Yの含有量が9.5mol%(No.8)、13.0mol%(No.3)、15.0mol%(No.9)の試験片において、焼成後にクラックは確認されなかった。なお、No.8、No.3、No.9の試験片は、いずれも基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数の関係を満たしている。
燃料極Yの含有量が9.0mol%(No.7)の試験片では、燃料極の熱膨張係数が高いため、クラックが確認された。また、20.0mol%(No.10)の試験片では、クラックが発生する場合が見られた。これは、安定化剤の含有量過多により、安定化剤とZrOとの合成時に共沈がうまくいかず、安定化剤(金属酸化物)単体で析出してしまう割合が増加したためと考えられる。
【0057】
No.11〜No.14及びNo.3は、燃料極に含有されるZrOの粒径範囲を決める試料である。No.11〜No.14及びNo.3を参照すると、燃料極の安定化ZrO粒径が10μm(No.11)、20μm(No.12)、40μm(No.3)、50μm(No.13)の試験片において、焼成後にクラックは確認されなかった。なお、No.11、No.12、No.3、No.13の試験片は、いずれも基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数の関係を満たしている。
60μmの試験片では、クラックの発生状態が安定しなかった。これは、粒径が大きすぎることにより、収縮率が小さくなり、共焼結が安定的にできなくなるためと考えられる。
【0058】
No.15〜No.19を参照すると、燃料極の安定化剤を変えても、焼成後の試験片にクラックは確認されなかった。なお、No.15〜No.19の試験片は、いずれも基体管の熱膨張係数+0.5×10−6/K≧燃料極の熱膨張係数の関係を満たしている。
【0059】
(発電評価)
No.3、No.6−3、No.8、No.11〜No.13について、発電評価を行った。
上記試験片の外周に空気極を成膜したセルとし、平均粒径2μmのLa0.5Sr0.25Ca0.25MnO粉末を、スキージオイルを添加して3本ローラを用いて空気極スラリーした。各試験片の電解質上に、空気極スラリーを、スクリーンプリント法により100μmの厚さで成膜した。試験片を1200℃で2時間保持の条件で焼結した。
発電時の集電は、燃料極端部と空気極全面とに白金メッシュを巻きつけて行った。発電時の燃料は、70%H+30%Nの混合ガスとした。酸化剤として空気を用い、試験片を900℃に保持して発電を行った。
【0060】
No.3、No.6−3、No.8、No.12、No.13で、出力密度は0.14W/cm(電圧0.7V、電流密度0.2A/cm2)以上の値が得られた。特に、No.6−3の出力密度は、0.18W/cm(電圧0.7V、電流密度0.25A/cm2)を示した。これは、燃料極のNiO含有量を増加させたことによる効果であると考えられる。一方、No.11は出力が小さく、0.1W/cmだった。これは燃料極に含まれる安定化ZrOの粒径が小さいため、燃料極の導電率が低くなっていることが原因だと推定される。
【符号の説明】
【0061】
11 基体管
12 単素子
13 燃料極
14 固体電解質
15 空気極
16 インターコネクタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体管上に燃料極と電解質と空気極とを備える固体電解質燃料電池用セルチューブであって、
前記基体管が、Y、Gd及びYbから選択される少なくとも1種類以上の第1の金属酸化物を安定化剤として含有するZrOを含み、
前記燃料極が、Y、Gd、CaO、Nd及びYbからなる群から選択される1種類または2種類以上の第2の金属酸化物を安定化剤として含有するZrOとNiOとを含み、
前記NiOの含有量が30体積%以上35体積%以下であり、
前記燃料極の熱膨張係数から前記基体管の熱膨張係数を減算した値が、−2×10−6/K以上0.5×10−6/K以下であることを特徴とする固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項2】
前記第1の金属酸化物がYまたはGdの少なくとも一方であり、前記第1の金属酸化物の含有量が、3.5mol%以上4.7mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項3】
前記第2の金属酸化物の含有量が、9.5mol%以上15.0mol%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項4】
前記第1の金属酸化物がYbであり、前記Ybの含有量が、3.5mol%以上4.3mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項5】
前記第2の金属酸化物の含有量が、8.0mol%以上15.0mol%以下であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項6】
前記燃料極に含まれる第2の金属酸化物を含有するZrOの粒径が、20μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項7】
基体管上に燃料極と電解質と空気極とを備える固体電解質燃料電池用セルチューブであって、
前記基体管が、Ybを安定化剤として含有するZrOを含むことを特徴とする固体電解質燃料電池用セルチューブ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の固体電解質燃料電池用セルチューブを備えた固体電解質燃料電池。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−257947(P2010−257947A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43519(P2010−43519)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発 実用性向上のための技術開発 高温円筒横縞形セルスタックの低コスト化技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】