説明

固体電解質用電極及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、固体電解質用電極材料として酸化ルテニウムに着目し、酸化ルテニウム本来の物性を最大限に発揮し維持しうる微細構造を有する電極を形成せしめる固体電解質用電極の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の固体電解質用電極の製造方法は、ジピバロイルメタネートルテニウムの粗原料を得たのちカラムクロマトグラフィー法により精製し、さらに昇華により精製した原料を用いて加熱気化させる工程と、不活性ガスをキャリアガスとして気化した原料を酸素ガスと共に、ミキサーで攪拌した後、固体電解質基板上へ搬送する工程と、400〜800℃の固体電解質基板上で原料を分解して、酸化ルテニウム電極を形成する工程と、を有し、酸化ルテニウム電極が、850℃で8時間熱処理しても、微細構造に変化がない程度に粒子径が揃った粒子から構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池および酸素センサー等に適用される酸素イオン伝導性の固体電解質用電極およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導性の固体電解質として、酸化ジルコニウムに酸化カルシウムまたは酸化イットリウム等の安定化剤を固溶させた材料が、一般に安定化ジルコニアとして用いられている。
【0003】
これらの固体電解質の作動温度は高いため、固体電解質型酸素センサーの電極材料には、高い伝導率と高い耐食性、酸素分子の解離反応に対する触媒活性をもつことが要求され、現在は白金などの貴金属が用いられている。
【0004】
それに対して、酸化ルテニウム(RuO)は電子伝導性を持つ金属酸化物であり、高い伝導率(〜10S/cm)と触媒活性を持つことから、新しい酸素センサー用電極として期待される。ここで、固体電解質型酸素センサーの電極として酸化ルテニウムを用いた例としては、特許文献1(特開平8−122297号公報)に開示されている。本公報では、内側電極として酸化ルテニウムを使用している。そして、酸化ルテニウムをペーストにして高温で加熱焼付けを行なって電極を形成させる。
【0005】
しかし、ペースト焼き付けによる酸化ルテニウム電極の形成法ではペースト中の酸化ルテニウム金属粒子の大きさがサブミクロン〜十数ミクロンと大きく、しかも焼付け時の溶媒気化、残留炭化物等の影響を受けて、酸化ルテニウムが有する本来の高伝導率、高耐食性、酸素分子の解離反応に対する高触媒活性等の要求特性を発揮させることが難しく、固体電解質型酸素センサーの電極材料としては白金電極が現実に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−122297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来から固体電解質として用いられている安定化ジルコニアは、高い酸素イオン伝導を得るために1000℃程度で作動させる必要がある。したがって、安定化ジルコニアを燃料電池や酸素センサーに使用する場合、電極および構成材料に耐熱性が要求され、信頼性や経済性等において課題があった。
【0008】
本発明では固体電解質用電極材料として酸化ルテニウムに着目し、高い作動温度においても高伝導率、高耐食性、高触媒活性等の要求物性を維持するために、酸化ルテニウム本来の物性を最大限に発揮し維持しうる微細構造を有する電極を形成せしめる固体電解質用電極の製造方法を提供することにある。すなわち、高い作動温度で長時間使用されたとしても微細構造に変化のない酸化ルテニウム電極を製造することも目的とする。さらに、固体電解質基板−電極の界面抵抗増加を抑制し、電極界面反応が極めて容易に進行した酸化ルテニウム電極の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに所定の高純度のジピバロイルメタネートルテニウムを原料と使用することで、原料搬送中での副反応進行等による原料使用効率の低下を抑えると共に、固体電解質基板上で均質に原料分解を進めて粒子径の均一な粒子からなる微細構造を有する酸化ルテニウム電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の固体電解質用電極の製造方法は、三塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させてジピバロイルメタネートルテニウムを合成するに際して窒素雰囲気下で還流して粗原料を得、該粗原料をカラムクロマトグラフィー法により精製し、さらに昇華により精製したジピバロイルメタネートルテニウムを原料とし、該原料を加熱気化させる工程、不活性ガスをキャリアガスとして気化した前記原料を酸素ガスと共に、ミキサーで攪拌した後、安定化剤を含有する酸化ジルコニウムからなる酸素イオン伝導性の固体電解質基板上へ搬送する工程、400〜800℃の前記固体電解質基板上で前記原料を分解して、酸化ルテニウム電極を形成する工程と、を有し、前記酸化ルテニウム電極が、850℃で8時間熱処理しても、微細構造に変化がない程度に粒子径が揃った粒子から構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の固体電解質用電極は、本発明に係る固体電解質用電極の製造方法によって作製されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の固体電解質用電極は、安定化剤を含有する酸化ジルコニウムからなる酸素イオン伝導性の固体電解質基板上に酸化ルテニウム電極が形成されてなり、酸化ルテニウム電極が、850℃で8時間熱処理しても、微細構造に変化がない程度に粒子径が揃った粒子から構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の固体電解質用電極の製造方法は、いわゆる有機金属CVD法(MOCVD法)に属する電極成膜方法である。有機金属CVD法とは、原料として有機金属を使用したCVD法である。ここでCVD(chemical vapor deposition)法とは、反応系分子の気体あるいはこれと不活性の担体との混合気体を、加熱した基板上に流し、加水分解,自己分解,光分解,酸化還元,置換等の反応による生成物を基板上に蒸着させる方法をいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高い作動温度においても高伝導率、高耐食性、高触媒活性等の要求物性を維持するために、酸化ルテニウム本来の物性を最大限に発揮し維持しうる微細構造を有する電極を形成せしめることが可能となった。すなわちこの電極は、電極界面反応が極めて容易に進行した酸化ルテニウム電極であり、高い作動温度で長時間使用されたとしても微細構造に変化がない。さらに、固体電解質基板−電極の界面抵抗増加が抑制されている。
【0015】
さらに所定の高純度のジピバロイルメタネートルテニウムを原料と使用することで、原料搬送中での副反応進行等による原料使用効率の低下を抑えると共に、固体電解質基板上で均質に原料分解を進めて粒子径の均一な粒子からなる微細構造を有する酸化ルテニウム電極を提供することができる。さらに気化残渣が少ない。
【0016】
本発明により製造した電極は、安定化ジルコニアを燃料電池や酸素センサーに使用する場合、安定化ジルコニアとの相性に優れ、高い酸素イオン伝導を得るために高温で作動させた場合においても、電極の耐熱性に優れ、信頼性や経済性も併せ持っている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例による固体電解質用電極の形成に用いられる製造装置を示した概念図である。
【図2】原料の熱重量曲線を示す図であり、Ru(DPM)とRu(AcAc)の二例を示したものである。
【図3】実施例1の電極の電子顕微鏡写真を示す図であり、(a)は成膜後、(b)は850℃8時間のアニール後、の微細構造である。
【図4】実施例1の電極のX線回折チャートを示す図である。基板はイットリア安定化酸化ジルコニウムである。
【図5】電極の電子顕微鏡写真を示す図であり、実施例1の成膜後のものと、参考例1の引用したものを示す。
【図6】電極の電子顕微鏡写真を示す図であり、実施例1の成膜後のものと、参考例2の引用したもの、とを示す。
【図7】実施例1及び比較例1〜6の出力特性図(I−V特性図)である。
【図8】実施例1の電極の交流インピーダンス解析を行なった結果を示した図である。
【図9】電極の電極界面抵抗成分について温度−界面伝導度特性を示す図であり、実施例1と比較例1をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施形態及び実施例を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0019】
以下、図1に示すCVD成膜装置を使用して固体電解質基板上に酸化ルテニウム電極を成膜する手順について説明する。図1の製造装置は一例である。このCVD成膜装置は、キャリアガスである不活性ガス発生源1とキャリアガス流量コントローラー2とからなるキャリアガス供給手段3と、酸素ガス発生源4と酸素ガス流量コントローラー5とからなる酸素ガス供給手段6と、キャリアガスを反応官7内部に導入するために、反応管7内部に挿入されたキャリアガス導入管8と、反応管7内であってキャリアガス導入管8内に配置されたジピバロイルメタネートルテニウム粉末を載せるための原料皿9と、原料皿9に載せられたジピバロイルメタネートルテニウム粉末を加熱するために反応管側面に周設した原料加熱用ヒーター10と、キャリアガス導入管8から不活性ガスと共に搬送される気化したジピバロイルメタネートルテニウムと混合可能に導入される酸素ガスを反応管7内部に供給するための酸素ガス供給手段6と接続された酸素ガス導入管11と、酸素ガスと気化したジピバロイルメタネートルテニウムとを均一に混合するミキサー部12と、反応管7内部に設置され基板13を保持する基板ホルダー14と、基板13を加熱するために反応管7側面に周設した基板加熱用ヒーター15と、反応管7内部を所定圧に調整する圧力計16、真空ポンプ17と排気ダクト18からなる排気手段19とを備える。
【0020】
まず、ジピバロイルメタネートルテニウムを原料皿9に載せ、図1に示したように反応管7内で且つキャリアガス導入管8の端部付近に設置する。
【0021】
原料は、ジピバロイルメタネートルテニウムが好ましい。ジピバロイルメタネートルテニウム(Ru(DPM))は、β−ジケトン(R1−CO−CH―CO−R2)錯体に属する。例えばアセチルアセトネートルテニウム(Ru(AcAc))では、必要な蒸気圧を得るために高い加熱温度が必要となる。これに対して、ジピバロイルメタネートルテニウムは、気化させるための加熱温度をアセチルアセトネートルテニウムよりも低く設定できる。また、気化後の残渣もほとんどない。したがって、原料の使用効率が高くなる。
【0022】
本発明では、三塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させてジピバロイルメタネートルテニウムを合成するに際して窒素雰囲気下で還流して粗原料を得、該粗原料をカラムクロマトグラフィー法により精製し、さらに昇華により精製したジピバロイルメタネートルテニウムを使用することがより好ましい。上記の製法により得たジピバロイルメタネートルテニウムは、窒素雰囲気下での還流により合成途中での酸化分解が起こらず、副生成物の含有が少ない。したがって、気化効率が高く気化後の残渣が少ない。また副生成物の含有量が少ないため基板到達前の分解が減少し、基板表面に純度の高いままジピバロイルメタネートルテニウムが供給されることとなる。さらに、ジピバロイルメタネートルテニウム以外の異物ガス、例えば原料の半分解副生成物、炭素系化合物等が少ないため、基板表面での反応が均質に進み、粒子径の揃った粒子からなる酸化ルテニウム薄膜を析出させることが可能となる。なお、ジピバロイルメタネートルテニウム以外の異物ガスが多いと粒子径の揃った粒子からなる酸化ルテニウム薄膜の析出を阻害する要因となると考えられる。
【0023】
還流条件は、窒素雰囲気下で、例えば100〜230℃、好ましくは、120〜210℃で、15〜25時間、好ましくは18〜22時間である。またアルカリ性反応促進剤としては、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が例示できる。
【0024】
原料皿は、ジピバロイルメタネートルテニウムに対して不活性の材質の皿が選択され、例えば石英ボートとする。
【0025】
なお、図1ではジピバロイルメタネートルテニウムを昇華させる方法について述べたが、ジピバロイルメタネートルテニウムを有機溶媒、例えばエタノールに溶解させて気化容器に収納して、バブリングにより原料蒸気を反応管7、例えば石英管の内部に導入しても良い。
【0026】
次に排気手段19によって反応管7内を所定の減圧とする。圧力は13〜4000Pa、好ましくは13〜70Paとする。
【0027】
基板加熱用ヒーター15を作動させて、基板13を所定温度に加熱する。基板温度は400〜800℃とする。
【0028】
基板は、安定化剤を含有する酸化ジルコニウムからなる酸素イオン伝導性の固体電解質基板とする。安定化剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム又は酸化スカンジウム並びに酸化セリウム等の金属酸化物であることが好ましい。安定化剤を含有する酸化ジルコニウムとは、安定化酸化ジルコニウム又は部分安定化酸化ジルコニウムである。
【0029】
次に原料加熱ヒーター15を作動させて、原料26を加熱する。原料加熱温度は、140〜270℃とする。所望の気化速度を得るために原料加熱温度を適宜調整する。
【0030】
次にキャリアガス導入手段3を作動させて、不活性ガス、例えばアルゴンガスを原料皿9に送る。窒素ガスを用いても良い。同時に、酸素ガス導入手段6を作動させて酸素ガスを反応管内に導入する。図1では、キャリアガス導入管8と酸素ガス導入管11とを並列で反応管内に挿入した状態としているが、キャリアガスと酸素ガスとの混合をより確実に行なうためにキャリアガス導入管8の外径よりも大きな内径を有する酸素ガス導入管11を、キャリアガス導入管8が酸素ガス導入管11の内部に挿入される態様で配置しても良い。不活性ガスと酸素ガスの流量は、反応管7の大きさや基板大きさによって適宜調整する。
【0031】
原料を含むキャリアガスと酸素ガスとが反応管7内に送られ、ミキサー12で攪拌され、加熱された基板13表面に導入される。なお、基板加熱ヒーター15は原料加熱ヒーター10よりも高い温度に設定されているため、反応管7の内壁面に原料が凝集することはない。
【0032】
基板表面に到達した原料は熱分解して、酸素存在下で基板上に酸化ルテニウムが析出する。なお、原料であるジピバロイルメタネートルテニウムは、ルテニウム原子1個に対して酸素原子が6個含まれているため、原理的には酸素を導入しなくても酸化ルテニウムを析出しうる。しかし、炭素原子が含まれるため、酸素が炭素の燃焼に消費されると還元状態となり、酸素欠損の酸化ルテニウムが析出しやすくなり、又酸化ルテニウム電極中に炭素等の不純物が混入するおそれがある。したがって、これらを防止する範囲内で酸素ガスを導入することが好ましい。
【0033】
なお、有機溶媒にジピバロイルメタネートルテニウムを溶解してバブリングにより原料蒸気を導入した場合には、反応管7内が有機溶媒により還元雰囲気にされるため、多くの酸素を導入する必要が生ずる。したがって、酸素欠損の酸化ルテニウムが析出しやすくなり、又酸化ルテニウム電極中に炭素等の不純物が混入しやすくなるため、ジピバロイルメタネートルテニウムは昇華により気化させる方がより好ましい。
【0034】
このようにして得られた酸化ルテニウムは、電極界面反応が極めて容易に進行し、酸化ルテニウム本来の物性を最大限に発揮し維持しうる微細構造を有する。さらに所定の高純度のジピバロイルメタネートルテニウムを原料と使用することで、原料搬送中での副反応進行等による原料使用効率の低下が抑えられると共に、固体電解質基板上で均質に原料分解を進めて粒子径の均一な粒子からなる微細構造を有する。このような微細構造を有する酸化ルテニウム電極は、高い作動温度で長時間使用されたとしても微細構造に変化がなく、特性劣化がない。また、固体電解質基板−電極の界面抵抗増加が抑制される。なお、粒子径は数原子からなるクラスターから数十ミクロンの粒子まで可能であり、膜厚に左右されるが、1 ナノメートルから100ミクロン程度である。
【0035】
なお酸化ルテニウム電極は、固体電解質酸素センサーの形状、大きさ等によって最適な膜厚とする。膜厚は、原料の供給量や成膜時間などの条件によって制御することが可能である。
【実施例】
【0036】
(原料の気化テスト)
三塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させてジピバロイルメタネートルテニウムを合成するに際して窒素雰囲気下で155〜200℃の範囲内で20時間還流して粗原料を得、この粗原料をカラムクロマトグラフィー法により精製し、さらに昇華により精製したジピバロイルメタネートルテニウムを実施例として熱重量分析を行なった。結果を図2に示す。熱重量曲線から明らかなように、140℃付近から昇華し始め、230℃付近で完全に昇華した。一方、アセチルアセトネートルテニウム(Ru(AcAc))を比較例として同様の昇華テストを行なったところ、200℃付近から昇華し始め、270℃付近で昇華が終了した。したがって、ジピバロイルメタネートルテニウムは、低温でアセチルアセトネートルテニウムよりも高い蒸気圧特性を有する。また気化安定性が良いため残渣が少ない。これはジピバロイルメタネートルテニウムが安定して基板まで到達することを示唆している。
【0037】
(酸化ルテニウム電極の形成)
図1の装置を用いて、イットリア安定化酸化ジルコニウム基板上に酸化ルテニウム電極の形成を行なった。アルゴンをキャリアガスとしてジピバロイルメタネートルテニウムを酸素ガスとともに反応管中に導入した。キャリアガス流量は8.0×10−7/s、酸素ガス流量は3.2×10−7/sとし、基板温度650℃で60分成膜した。
【0038】
(微細構造評価)
得られた膜を実施例1として、電子顕微鏡(SEM)による微細構造の観察とX線回折(XRD)による相同定を行った。図3(a)に実施例1のSEM観察の結果を示す。直径約0.3μmの球状粒子が生成したことがわかった。また膜は図4に示すように、酸化ルテニウム(RuO)であることをXRDによって確認した。この膜を空気中850℃で8時間熱処理したところ、図3(b)に示すように微細構造はほとんど変化しなかった。これは、粒子径の揃った均一の粒子から酸化ルテニウム電極が形成され、これよりも小さな粒子が少ないため、小さな粒子の融解による結晶粒子の粗大化現象が起きなかったと考えられる。小さな粒子の発生が抑制されたのは、ジピバロイルメタネートルテニウムを原料として基板以外で生ずる副生成物生成反応が少なかったからと考えられる。また、微細構造が変化していないということは、RuOと安定化酸化ジルコニウム基板の組み合わせが非常にいいということにも起因している。なお、膜厚は2〜3μmであった。
【0039】
スパッタリングで成膜した白金電極を比較例1とした。熱処理によって微細構造は大きく変化し、島状に凝集した組織が観察された。これに対して実施例1は良好な微細構造を維持しており、耐熱性に優れた電極であることがわかった。
【0040】
Kimら(Electrochemical and Solid−State Letters,4(5)A62−A64(2001)中、図2)は、ルテニウム塩化物のエタノール溶液を加熱した基板上に吹き付けてRuO膜を作製した。この方法で得られた膜は、図5の参考例1で示す通り、微粒子から成っているが、膜は非常に疎である。
【0041】
Limら(Journal of The Electrochemical Society,148(3)A275−A278(2001)中、図2)は、RuOのスパッタによって基板上にRuO膜を堆積させた。この膜は、図6の参考例2で示す通り、数十nm程度の粒子からなっており緻密であるが、粒子の大きさは一様ではない。
【0042】
図5の参考例1、図6の参考例2と実施例1とを比較すると、実施例1は粒子径の揃った均一な粒子からなる薄膜であるところに特徴がある。均一な大きさの粒子によって構成されているため、安定した電極性能を示す優れた電極であると考えられる。
【0043】
(電気的特性評価)
実施例1の酸化ルテニウム電極表面に金ペースト法で金電極とリード線を付け、直流法による出力特性(I−V特性)の評価、交流インピーダンス法による複素インピーダンスの評価を行った。同様に比較例1のスパッタリングで成膜した白金電極表面に同様の方法で直流法による出力特性(I−V特性)の評価を行なった。図7に出力特性の評価結果、図8に実施例1の交流インピーダンス法による複素インピーダンスの評価結果を示した。
【0044】
(比較例2)
イットリア安定化酸化ジルコニウム基板上に白金超微粉末を含むペーストを塗布し、熱処理を行なって白金電極を得、これを比較例2とした。
【0045】
(比較例3)
イットリア安定化酸化ジルコニウム基板上にイリジウム超微粉末を含むペーストを塗布し、熱処理を行なってイリジウム電極を得、これを比較例3とした。
【0046】
(比較例4)
イットリア安定化酸化ジルコニウム基板上にパラジウム超微粉末を含むペーストを塗布し、熱処理を行なってパラジウム電極を得、これを比較例4とした。
【0047】
(比較例5)
イットリア安定化酸化ジルコニウム基板上にロジウム超微粉末を含むペーストを塗布し、熱処理を行なってロジウム電極を得、これを比較例5とした。
【0048】
(比較例6)
イットリア安定化酸化ジルコニウム基板上に金超微粉末を含むペーストを塗布し、熱処理を行なって金電極を得、これを比較例6とした。
【0049】
比較例2〜6についても直流法による出力特性の評価を行なった。図7に出力特性の評価結果を併せて示した。
【0050】
図7によると、実施例1では出力特性は直線的に変化し、電極として良好な特性が得られていることが確認できた。さらに、500℃、印加電圧5.0kV/mで52A/mの出力電流を示した。この値は、スパッタ法によって作製した白金電極(比較例1)の2〜3倍という非常に高い値である。
【0051】
なお、実施例1について、850℃で8時間熱処理したサンプルについて、同様の出力特性の評価を行なったところ、導電性にも変化は見られなかった。これはSEM観察による熱処理前後で微細構造に変化がなかった結果と一致する結果となった。
【0052】
図9に実施例1と比較例1について、電極の電極界面抵抗成分の温度依存性について評価した結果を示した。実施例1の酸化ルテニウム電極は、800〜1250℃の範囲内で比較例1よりも電気伝導度が高く、しかも良好な温度−電流特性を有していることが分かった。高い作動温度を必要とする固体電解質型酸素センサーの電極として実施例1は適していることが分かる。
【0053】
図8に、実施例1の電極を用いて交流インピーダンス解析を行なったときの結果を示す。この図から、ほぼ3つの半円があることがわかる。原点付近の小さな半円(C〜10−12F)は電極の種類によらないもので安定化酸化ジルコニウム基板のバルクの伝導度である。続く右側の半円(C=2.1×10−8F)は基板の粒界成分の伝導度を示す。続く右側の四分の一円(C=1.5×10−6F)は基板と電極の界面成分の伝導度を示す。実施例1では、電極の種類に大きく依存し、電極界面抵抗に起因する(C=1.5×10−6F)の四分の一円が小さく、基板と電極の界面成分の伝導度が大きいので、電極界面反応が極めて容易に進行していることがわかる。これは微細構造観察の欄で述べたとおり、酸化ルテニウム電極と安定化酸化ジルコニウムとの相性にも起因する。
【0054】
以上から、MOCVD法によって作製した酸化ルテニウム膜が優れた電極であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0055】
1,不活性ガス発生源
2,キャリアガス流量コントローラー
3,キャリアガス供給手段
4,酸素ガス発生源
5,酸素ガス流量コントローラー
6,酸素ガス供給手段
7,反応官
8,キャリアガス導入管
9,原料皿
10,原料加熱用ヒーター
11,酸素ガス導入管
12,ミキサー部
13,基板
14,基板ホルダー
15,基板加熱用ヒーター
16,圧力計
17,真空ポンプ
18,排気ダクト
19,排気手段
20,熱電対
21,ニードルバルブ
23,24,シール付きフランジ
25,リボンヒーター
26,原料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させてジピバロイルメタネートルテニウムを合成するに際して窒素雰囲気下で還流して粗原料を得、該粗原料をカラムクロマトグラフィー法により精製し、さらに昇華により精製したジピバロイルメタネートルテニウムを原料とし、該原料を加熱気化させる工程
不活性ガスをキャリアガスとして気化した前記原料を酸素ガスと共に、ミキサーで攪拌した後、安定化剤を含有する酸化ジルコニウムからなる酸素イオン伝導性の固体電解質基板上へ搬送する工程
400〜800℃の前記固体電解質基板上で前記原料を分解して、酸化ルテニウム電極を形成する工程と、を有し、
前記酸化ルテニウム電極が、850℃で8時間熱処理しても、微細構造に変化がない程度に粒子径が揃った粒子から構成されていることを特徴とする固体電解質用電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固体電解質用電極の製造方法によって作製されたことを特徴とする固体電解質用電極。
【請求項3】
安定化剤を含有する酸化ジルコニウムからなる酸素イオン伝導性の固体電解質基板上に酸化ルテニウム電極が形成されてなり、酸化ルテニウム電極が、850℃で8時間熱処理しても、微細構造に変化がない程度に粒子径が揃った粒子から構成されていることを特徴とする固体電解質用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−186482(P2009−186482A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67599(P2009−67599)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【分割の表示】特願2002−80098(P2002−80098)の分割
【原出願日】平成14年3月22日(2002.3.22)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】