説明

固体電解質膜

【課題】耐熱性に優れ、さらに酸密度の向上した有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜を得ることを目的とする。
【解決手段】金属原子および金属原子に結合した酸素原子を含む無機骨格を有し、かつ中心細孔径1〜50nmのメソポーラス材料の細孔表面に、イオン交換能を有する官能基が結合し、少なくとも1つの炭素原子を含む、2価以上の有機基が結合してなる有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラス(メソ多孔体)材料はミクロ多孔体とマクロ多孔体の中間に位置する材料であり、一般に細孔径が2〜50nm程度のものをいう。そして、ナノサイズの均一な細孔内に有機基を配置した有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料も種々提案されており、固体電解質としての検討もなされている。特に、イオン交換能を持つアルキルスルホン酸を有する有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料についていくつかの報告がなされている(たとえば、特許文献1および2)。しかしながら、アルキルスルホン酸の酸強度はベンゾスルホン酸に比べて弱いため、イオン導電体としては期待できない。また、ベンゾスルホン酸を骨格とする有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料については、イオン交換能を有する官能基の量である、酸量が十分に導入されたものが得られていない(H=0.3mmol/g)。たとえば、架橋型ベンゼンシランを原料として得られるメソポーラスベンゼンシリカによるスルホン化が最も簡便な合成プロセスである。しかし、そこでは架橋されたフェニル基(ベンゼン環)にスルホン酸を付与する際、シリコンに架橋されたフェニル基のπ電子がシリコンによって引き込まれ、フェニル基のπ電子密度が低下する(求核性の低下)。その結果、芳香族求核電子反応が進行しづらく、スルホン化されにくい。
【0003】
さらに、このようなフェニル基の求核性の低下を抑えるために、芳香環の一箇所にアルキル鎖をつけることにより(アルキル化)、スルホン化を円滑に進行させる方法がある。しかしながら、この方法で得られた有機−無機ハイブリッドメソポーラス固体電解質は熱的構造安定性に欠ける難点を有する。
【0004】
【特許文献1】WO02/037506号
【特許文献2】特開2003−263999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の難点を解決し、耐熱性に優れた有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜を得ることを目的とする。さらに、本発明は酸密度の向上した有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)金属原子および金属原子に結合した酸素原子を含む無機骨格を有し、かつ中心細孔径1〜50nmのメソポーラス材料の細孔表面に、イオン交換能を有する官能基が結合し、かつ少なくとも1つの炭素原子を含む、2価以上の有機基が結合してなる有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜;
(2)金属原子がケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、マンガン、ハフニウム、バナジウム、もしくはタングステンである(1)記載の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜;
(3)有機基が置換されていてもよいシクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルキレン基もしくは2価以上の芳香族基の1種以上から選ばれる(1)記載の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜;ならびに
(4)イオン交換能を有する官能基がスルホン酸基、リン酸基もしくはカルボン酸基の1種以上から選ばれる(1)〜(3)のいずれか記載の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性に優れ、さらに酸密度の向上した有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の固体電解質膜におけるメソポーラス材料は、金属原子および金属原子に結合した酸素原子を含む無機骨格を有する。ここで、金属原子は特に制限されないが、たとえばケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、マンガン、ハフニウム、バナジウム、タングステン、鉄、クロム、モリブデン、等が挙げられる。そして、好適には有機基および酸素との結合性の点からケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、マンガン、ハフニウム、バナジウム、タングステンの1つ以上から選ばれ、さらに好適にはケイ素、チタン、アルミニウムもしくはジルコニウムである。
【0009】
そして、本発明のメソポーラス材料の細孔は、粒子の表面のみならず内部にも形成される。このメソポーラス材料は中心細孔径1〜50nmを有する。好ましくは1〜10nmであり、より好ましくは1〜5nmである。中心細孔径が1nm未満である場合は、細孔の平均の大きさが吸着の対象となる物質の大きさよりも小さくなることが多くなるために、吸着性能が低下しやすい。一方、中心細孔径が50nmを超す場合は、比表面積が低下して、触媒、吸着特性が低下しやすい。
【0010】
この細孔の形状は特に制限されないが、例えば、トンネル状に貫通したものであってもよく、また、球状もしくは六角柱状等の多角形状の空洞が互いに連結したような形状を有していてもよい。ここで、本発明において、中心細孔径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径である。この細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、固体電解質を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、BJH法、DFT法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0011】
また、本発明のメソポーラス材料は、細孔径分布曲線における中心細孔径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれることが好ましい。すなわち、たとえば、中心細孔径が3.00nmである場合、この3.00nmの±40%、すなわち1.80〜4.20nmの範囲にある細孔の容積の合計が、全細孔容積の60%以上を占めているのが好ましい。このような条件を満たす有機無機複合材料は、細孔の直径が非常に均一である。
【0012】
また、本発明のメソポーラス材料の比表面積は特に制限されないが、300m/g以上であることが好ましい。比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0013】
本発明においては、このようなメソポーラス材料の細孔表面に、イオン交換能を有する官能基が結合し、かつ少なくとも1つの炭素原子を含む、2価以上の有機基が結合させて有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料を形成させる。
【0014】
本発明のメソポーラス材料は、上記の無機骨格中に有機基を備えており、この骨格中の有機基は上記の金属原子と結合するための反応部位を有する。この有機基は炭素原子を1以上有しており、2点以上で結合するために2価以上の価数を有するものが使用される。このような有機基としては、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、アルケニレン基(たとえばエチニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基)、アルキレン基もしくは2価以上の芳香族基等が挙げられる。この骨格中の有機基は水素原子の一部がアミド基、アミノ基、カルボキシル基、アシル其、アルキル基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。
また、上記の芳香族以外の2価以上の有機基は、芳香族残基と結合したものであってもよい。さらに、後述するように、いったん骨格有機基として、たとえばエチニレン基を導入した後に、これを反応部位として上記芳香族基を導入することもできる。
【0015】
この2価以上の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントラセネディル基、ピリジネディル基、メチルフェニレン基等が挙げられる。具体的には、ベンゾシクロブテン、スルホン酸ベンゾシクルブテン、カルボン酸ベンゾシクロブテン等が好適に使用される。
【0016】
これらの有機基に結合される、イオン交換能を有する官能基としてはスルホン酸基、リン酸基もしくはカルボン酸基の1種以上から選ばれる。これらのイオン交換能を有する官能基の有機基への導入は、細孔表面への有機基の結合前もしくは後のいずれでもよい。これらのイオン交換能を有する官能基は、有機基としての芳香族基の芳香環に導入するのが好適である。この場合、イオン交換能を有する官能基が結合した芳香環が少なくとも1つの炭素原子を含む、2価以上の有機基を介して2点以上で結合することになる。
【0017】
つぎに、本発明のメソポーラス材料の製造方法について説明する。本発明の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料の骨格部分は有機金属化合物および界面活性剤を用いる通常の方法により形成しうる。たとえば、鋳型剤である界面活性剤とともに1,2−ビス(トリエトキシ)エテン、1,2−ビス(トリメトキシ)エテン、等を重縮合させることにより、骨格有機基としてたとえばエチニレン基を有する骨格構造を形成しうる。この場合、必要に応じて、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のアルコキシシランを併用することもできる。また、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、メルカプト基等の官能基を有するアルコキシシランを用いることもできる。
【0018】
この重縮合反応に際しては、有機金属化合物は界面活性剤を含む水溶液中で、酸性もしくはアルカリ条件下で行われる。界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のいずれの界面活性剤も使用することができる。このような界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム[C2n+1N(CH]、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウムの塩化物、あるいは他のハロゲン化物、水酸化物、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、等が挙げられる。
【0019】
非イオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基を有し、親水性成分としてポリエチレンオキサイド鎖を有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、C1633(OCHCHOH、C1225(OCHCHOH、C1633(OCHCH10OH、C1633(OCHCH20OH、C1837(OCHCH10OH、C1835(OCHCH10OH、C1225(OCHCH23OH等が挙げられる。
【0020】
また、ソルビタン脂肪酸エステル成分とポリエチレンオキサイド成分を有した界面活性剤を使用することもできる。このような界面活性剤としては、「TritonX−100」(アルドリッチ)、ポリエチレンオキサイド(20)ソルビタンモノラウリレート(Tween20、アルドリッチ)、ポリエチレンオキサイド(20)ソルビタンモノパルミテート(「Tween40」)、ポリエチレンオキサイド(20)ソルビタンモノステアレート、ポリエチレンオキサイド(20)ソルビタンモノオリエート(「Tween60」)、ソルビタンモノパルミテート(「Span40」)等が挙げられる。
【0021】
さらに、界面活性剤として、ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖−ポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖のトリブロックコポリマー((PO)(EO)(PO))も好ましく使用できる。ここで、x、yには特に制限はないが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは15〜20、yは50〜60であることがより好ましい。
【0022】
このようなトリブロックコポリマーとしては、(EO)(PO)70(EO)、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80、等が挙げられる。
【0023】
界面活性剤の使用量としては、有機金属化合物との混合割合が有機金属化合物/界面活性剤=1/1〜10/1(モル比)となるような量を用いると好適であり、有機金属化合物/界面活性剤=2/1〜5/1(モル比)程度がさらに好適である。
【0024】
重縮合の反応温度は、0〜100℃の範囲が好ましいが、温度が低い方が生成物の構造の規則性が高くなる傾向がある。構造の規則性を高くするために好ましい反応温度は20〜40℃である。一方、反応温度が高い方が、重合度が高く構造の安定性が高くなる傾向がある。重合度を高くするために好ましい反応温度は60〜80℃である。重縮合反応の後、熟成を行った後に生成した沈殿あるいはゲルを濾過し、必要に応じて洗浄を行った後に乾燥すると、細孔内に界面活性剤が充填されたままの前駆体が得られる。
【0025】
この前駆体を、重縮合反応において使用したものと同じ界面活性剤を含む水溶液中あるいは水等の電解質液中に分散させ、当該前駆体を50〜200℃で水熱処理しうる。この場合、重縮合反応において使用した溶液をそのままあるいは希釈して好ましくは60〜100℃であり、さらに好ましくは70〜80℃に加熱しうる。pHは弱アルカリ性であることが好ましく、pHはたとえば8〜8.5であることが好ましい。この水熱処理の時間は特に制限されないが、1時間以上が好ましく、3〜8時間がより好ましい。
【0026】
この水熱処理後、前駆体を濾過した後に、乾燥し、余剰の処理液が除去される。ついで、前駆体から界面活性剤を除去するが、その方法としては、焼成による方法、水やアルコール等の溶媒で処理する方法等が挙げられる。このようにして界面活性剤を除去した前駆体を得ることができる。
【0027】
焼成による方法においては、界面活性剤を含む前駆体を300〜1000℃、好ましくは200〜500℃で加熱する。加熱時間は通常30分以上、好ましくは完全に界面活性剤成分を除去するために1時間以上である。焼成は空気中で行いうるが、多量の燃焼ガスが発生するため、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。溶媒を用いて前駆体から界面活性剤を除去する場合は、例えば、界面活性剤の溶解性の高い溶媒中に前駆体を分散させ、攪拌後固形分を回収する。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、アセトン等を使用することができる。
【0028】
上記芳香環を上記の無機骨格中の有機基に導入するには、この無機骨格中の有機基における上記反応部位を化学修飾して実施されるが、たとえばディルス・アルダー反応によるのが好適である。
【0029】
本発明の1態様においては、ついで導入された芳香環にイオン交換基を導入する。この方法としては、例えば、前駆体を例えばクロロホルム等の溶媒に溶解し、陽イオン交換基を導入するための原料を添加する。陽イオン交換基を導入し、メソポーラス材料からなる膜を形成する方法は、例えば、上述したメソポーラス材料の製造工程において、前駆体を含むゾル溶液をガラス基板等に塗布し、乾燥した後、焼成して界面活性剤を除去することにより、中心細孔径が前記範囲内にある細孔を有する前駆体からなる薄膜を形成し、更に、上述した方法により特性基の部分に陽イオン交換基を結合して導入させることによって好適に得ることができる。
【0030】
また、前駆体の生成を経ないで、原料から膜を直接的に形成することもできる。有機金属化合物原料、界面活性剤、溶媒(水,アルコール等)、塩酸等を適当な比で混合することにより、均一な溶液が調製できる。この溶液を所定の基板上に塗布して、必要であれば、加熱・乾燥することにより、均一な透明の膜が形成できる。このとき溶液を基板に塗布する方法は特に限定されないが、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法等が挙げられる。この均一な透明膜から界面活性剤を除去する方法としては、焼成法と溶媒抽出法が挙げられる。焼成法では、基板にコートした膜を200〜600℃で焼成する。溶媒抽出法では、基板にコートした膜をエタノール等の溶媒に塩酸を加えた溶液に浸漬することにより行われる。
【0031】
また、イオン交換能を有する官能基を芳香環に導入する方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、イオン交換能を有する官能基がスルホン酸基である場合には、発煙硫酸、無水硫酸(酸酸化硫黄、SO3)、クロロスルホン酸(クロロ硫酸、ClSO3H)等のスルホン酸化剤を用いる方法が挙げられる。また、イオン交換能を有する官能基がリン酸基である場合には、オキシ塩化リン(POCl3)等のリン酸化剤を用いる方法や、クロロメチル化後に亜リン酸トリエチルを反応させた後で加水分解する方法が挙げられる。更に、イオン交換能を有する官能基がカルボン酸基である場合には、有機基として側鎖基又は末端基がメチル基である基を導入し、そのメチル基を酸化する方法が挙げられる。
【0032】
本発明による有機−無機ハイブリッド材料からなる固体電解質膜は、耐熱性に優れ、酸密度が大きく、たとえば、燃料電池などにおける固体電解質膜、センサー用電解質膜等として有用である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
(1)メソポーラスエチニレンシリカ(HME:Hybrid Mesoporous Ethenylene−Silica)の合成
i.ゾル溶液調製
原料として、架橋型有機シランであるビス(トリエトキシシリル)エテン(EtO) 3SiCH=CHSi(OEt) 3 (1.78g)にエタノール(3.0mL)を添加した後、イオン交換水(2.0mL)と2N−HCl(50μL)を混合し、室温下、1時間攪拌(200rpm)した。さらに、界面活性剤として、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C1837N(CH33Cl)(C18TMACl)(0.95g)、エタノール(1.5mL)、イオン交換水(0.8mL)および2N−HCl(50μL)の混合物をシリカゾル溶液に添加し、2.5時間攪拌(300rpm)した。
ii.薄膜作製
上記方法で得られたゾル溶液を用いて、ガラス基板にコートした。さらに、このコート膜をオートクレーブに入れ、NH(400μL)を添加し、100℃で、15時間処理した。ついで、このコート膜を100℃で、1時間、電気炉で加熱し、界面活性剤を60℃で抽出した(1wt%HCl溶液:エタノール希釈)
図1は界面活性剤除去後の薄膜のXRD結果を示し、規則性の高いメソポーラスエチニレンシリカが得られた。また、透過電子顕微鏡により、メソ細孔構造(中心細孔径3nm、壁厚1.5nmの2D−ヘキサゴナル構造)の形成が観察された。
(2)メソポーラスエチニレンシリカ(HME)薄膜のディールス−アルダー反応によるフ
ェニル修飾複合メソポーラスエチニレンシリカ(ph−HME: Phenyl-modified Hybri
d Mesoporous Ethenylene−Silica)の合成
上記の方法で得られたHME膜にベンゾシクロブテン(0.01g)を添加し、その混合物をオートクレーブに入れ、220℃で15時間反応させた(ディールス−アルダー反応)。さらに、クロロホルム(150g)を添加し、細孔内および表面に付着した未反応のベンゾシクロブテンを除去(100℃、6時間を2回繰り返し)した後、80℃で6時間、乾燥した。
【0034】
図2は、ph−HME薄膜のXRD結果を示し、メソ細孔構造が確認された(図3はph−HMEの構造を示す)。
(3)スルホン化(SO Hph−HME)
上記方法で得られたph−HME膜を、濃硫酸(100mL)と混合し、80℃でアルゴン雰囲気中で3日間、攪拌させた。さらに、イオン交換水(500mL)を添加し、ついでろ過した。イオン交換水で十分に洗浄(300mLで5回繰り返し)した後、80℃で6時間乾燥させることにより、目的とするスルホン酸基を有するメソポーラス有機シリカ(SO Hph−HME)膜を得た。
【0035】
図4は、SO Hph−HME薄膜のXRD結果を示し、メソ細孔構造が確認された。また、SO Hph−HME薄膜の酸量は1.0mmoL/gであった。
参考例1
(1)メソポーラスエチニレンシリカ(HME:Hybrid Mesoporous Ethenylene−Silica)
の合成
(方法1)イオン交換水(10mL)、界面活性剤(Brij56)CH3(CH) 15(OCHCH) 10OH (1.92g)、2M−HCl(50mL)の混合物に、ビス(トリエトキシシリル)エテン(EtO) 3SiCH=CHSi(OEt) 3 (5.0mmol)を添加し、50℃で2時間、攪拌した。さらに、その混合溶液を100℃で24時間、水熱処理し、ついでエタノール−塩酸の混合溶液で界面活性剤を抽出した。
【0036】
(方法2)イオン交換水(22.5mL)、界面活性剤(P123)((EO)30 (PO) 70 (EO) 30(0.99g)、4M−HCl(15mL)の混合物に、ビス(トリエトキシシリル)エチレン(EtO) 3SiCH=CHSi(OEt) 3 (5.0mmol)を添加し、40℃で2時間、攪拌した。さらに、その混合溶液を100℃で24時間、水熱処理し、ついでエタノール−塩酸の混合溶液で界面活性剤を抽出した。
(2)メソポーラスエチニレンシリカ(HME)のディールス−アルダー反応によるフェニル修飾複合メソポーラスエチニレンシリカ(ph−HME: Phenyl-modified Hybrid Mesoporous Ethenylene−Silica)の合成
上記の方法で得られたHME(1.0g)にベンゾシクロブテン(0.6g)を添加し、その混合物をオートクレーブに入れ、220℃で15時間反応させた(ディールス−アルダー反応)。さらに、クロロホルム(150g)を添加し、細孔内および表面に付着した未反応のベンゾシクロブテンを除去(100℃、6時間を2回繰り返し)した後、80℃で6時間乾燥した。
(3)スルホン化(SO Hph−HME)
上記方法で得られたph−HME(1.0g)を、真空下で150℃、2時間予備加熱し、ついで濃硫酸(100mL)を混合し、80℃でアルゴン雰囲気中で3日間、攪拌させた。さらに、イオン交換水(500mL)を添加し、ついでろ過した。イオン交換水で十分に洗浄(300mLで5回繰り返し)した後、80℃で6時間乾燥させることにより、目的とするスルホン酸基を有するメソポーラス有機シリカ(SO Hph−HME)を得た。
(4)評価方法
スルホン酸基を有するメソポーラス有機シリカ粉体(0.1g)に対して、ポリテトラフルオロエチレン1wt%溶液になるように混合し、140℃、1時間加熱した。これを、乳鉢で粉砕し、錠剤成形器を用い、200kg/cmの圧力でペレット化した。得られたペレットをイオン交換水に24時間、浸漬した後、伝導度測定セルにセットした。さらに、32kg/cmの圧力をかけながら、LCRメータを用い、相対湿度100%、25℃における1KHzでの交流抵抗を測定した。また、相対湿度20〜80%、25℃の場合、ペレットを恒温恒湿槽内でLCRメータを用い、1KHzでの交流抵抗を測定した。
【0037】
図5および6は、それぞれ界面活性剤「Brij56」および「P123」から得られた、スルホン化処理後のSO Hph−HMEのXRDパターンを示す。図5および6より、メソ構造に帰属されるピーク5.6μmと9.8μmがそれぞれ確認された。図7および8、ならびに表1はそれぞれ窒素吸着等温線および細孔構造結果を示す。図7および8より吸着等温線がIV型を示すことにより、メソ細孔が構築されていることがわかる。表1より、界面活性剤Brij56およびP123から得られた、スルホン化処理後のSO Hph−HMEのメソ中心細孔径(D)はそれぞれ1.9nm、6.0nmであった。また、酸量はそれぞれ1.56mmoL/g、1.85mmoL/gであった。表1において、SBETは比表面積、Vは細孔容積、αは格子定数を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図9は水の吸着等温線(25℃)を示す。メソ細孔径6.0nmの場合、相対湿度P/P=0.4〜0.8;メソ細孔径1.9nmの場合、相対湿度P/P=0.3〜0.5、の領域で水の毛管凝縮が確認された。プロトン伝導度はメソ細孔構造に起因する水の毛管凝縮効果に大きく依存し、メソ細孔径を小さくすることにより、低湿側においてプロトン伝導度を大きくしうる(図10は相対湿度100%を基準としたプロトン伝導度を示し、表2は各試料のプロトン伝導度値を示す。)。
【0040】
【表2】

【0041】
(熱安定性)
本発明におけるように、芳香族環に2箇所直接結合した炭素原子を配置させることにより(ジアルキル化)(図11のA)、1箇所直接結合した炭素原子を配置させる構造(モノアルキル化)(図11のB)に比して耐熱性を著しく向上し得た。図12は前者のTGおよびDTA曲線を示し、分解温度は450℃であり、構造的に450℃まで安定である。これに対し、後者では250℃まで安定であった(図示せず)。
(5)クロロスルホン酸を用いたスルホン化(SO Hph−HME)
5wt%クロロスルホン酸(ジクロロエタン希釈)100mLに上記方法で得られたph−HME(0.2g)を添加した。反応温度は30、50℃で、反応時間は3、24時間で実施した。その後、スルホン化された生成物をエタノール(100mL)により洗浄し(3回)、熱湯による洗浄(2時間×3回)および水による洗浄(24時間)を施した。さらに乾燥(80℃で24時間)乾燥し、目的とするスルホン酸基を有するメソポーラス有機シリカ(SO Hph−HME)を得た。
【0042】
図13は、クロロスルホン酸でスルホン化して(30℃、3時間)得られたSO Hph−HMEのXRDパターンを示す。SO Hph−HME(クロロスルホン酸法)において、9.62nm(d100)、4.95nm(d200)、3.50nm(d300)のピークはメソ構造に帰属される。
【0043】
図14はSO Hph−HME(クロロスルホン酸法:30℃、3時間)の窒素吸着等温線および細孔構造結果を示す(SBETは比表面積、Dmesoは平均細孔径を示す。)。吸着等温線はp/p=0.5〜0.7でヒステリシスを持ち、IV型を示した。図15はSO Hph−HME(クロロスルホン酸法:30℃、3時間)の13C-NMRを示す。146ppmは-CH=CH-に帰属され、129ppm、126ppm、137ppmはフェニル由来、そして28ppm、19ppmはアルキル鎖(-CH-、-CH-)に帰属されるシグナルである。139ppmはC-SO Hに帰属され、クロロスルホン酸によりスルホン化されていることが確認できる。また、滴定法によるSO Hph−HMEの酸量(H+)は1.51mmoL/gであった。
【0044】
表3はクロロスルホン酸でスルホン化して得られたSO Hph−HMEの細孔構造および酸量を示す。
【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、耐熱性に優れ、さらに酸密度の向上した有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】界面活性剤除去後のHME薄膜のXRD。
【図2】ph−HME薄膜のXRD。
【図3】ph−HMEの構造を示す。
【図4】SO Hph−HME薄膜のXRD。
【図5】界面活性剤「Brij56」から得られた、スルホン化処理後のSO Hph−HMEのXRDパターン。
【図6】界面活性剤「P123」から得られた、スルホン化処理後のSO Hph−HMEのXRDパターン。
【図7】界面活性剤「Brij56」から得られた、スルホン化処理後のSO Hph−HMEの窒素吸着等温線。
【図8】界面活性剤「P123」から得られた、スルホン化処理後のSO Hph−HMEの窒素吸着等温線。
【図9】水の吸着等温線(25℃)。
【図10】相対湿度100%を基準としたプロトン伝導度。
【図11】芳香族環に2箇所直接結合した炭素原子を配置させる構造(ジアルキル化)(A)および1箇所直接結合した炭素原子を配置させる構造(モノアルキル化)(B)。
【図12】SO Hph−HMEのTGおよびDTA曲線。
【図13】クロロスルホン酸でスルホン化して(30℃、3時間)得られたSO Hph−HMEのXRDパターン。
【図14】SO Hph−HME(クロロスルホン酸法:30℃、3時間)の窒素吸着等温線および細孔構造。
【図15】SO Hph−HME(クロロスルホン酸法:30℃、3時間)の13C-NMR。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子および金属原子に結合した酸素原子を含む無機骨格を有し、かつ中心細孔径1〜50nmのメソポーラス材料の細孔表面に、イオン交換能を有する官能基が結合し、かつ少なくとも1つの炭素原子を含む、2価以上の有機基が結合してなる有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜。
【請求項2】
金属原子がケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、マンガン、ハフニウム、バナジウム、もしくはタングステンである請求項1記載の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜。
【請求項3】
有機基が置換されていてもよいシクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルキレン基もしくは2価以上の芳香族基の1種以上から選ばれる請求項1記載の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜。
【請求項4】
イオン交換能を有する官能基がスルホン酸基、リン酸基もしくはカルボン酸基の1種以上から選ばれる請求項1〜3のいずれか記載の有機−無機ハイブリッドメソポーラス材料からなる固体電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−41266(P2008−41266A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209827(P2006−209827)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】