説明

固体高分子型燃料電池用の電解質膜およびその製造方法

【課題】電極との接触性が改善された炭化水素系電解質膜を提供する。
【解決手段】電解質膜1は、炭化水素系電解質を主成分として含む基材層1と、基材層1に積層された表面層5とを備えている。表面層5は、水酸基およびプロトン伝導基を有する高分子材料を主成分として含む層である。表面層5を構成する高分子材料は、例えば、水酸基を有する第1高分子と、プロトン伝導基を有する第2高分子とを含むものである。第1高分子が架橋することによってマトリクスが形成され、そのマトリクスに第2高分子が保持されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用の電解質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のエネルギー源として燃料電池が脚光を浴びている。特に、プロトン伝導性を有する高分子膜を電解質に使用した固体高分子型燃料電池(PEFC)は、エネルギー密度が高く、家庭用コージェネレーションシステム、携帯機器用電源、自動車用電源などの幅広い分野での使用が期待される。PEFCの電解質膜には、燃料極−酸化極間でプロトンを伝導する電解質として機能するとともに、燃料極に供給される燃料と、酸化極に供給される酸化剤とを分離する隔壁となることが求められる。電解質および隔壁としての機能が不十分であると、燃料電池の発電効率が低下する。このため、プロトン伝導性、電気化学的安定性および機械的強度に優れ、燃料および酸化剤の透過性が低い高分子電解質膜が望まれる。
【0003】
現在、PEFCの電解質膜には、プロトン伝導基としてスルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸(例えば、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」)が広く用いられている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は電気化学的な安定性に優れるものの、原料となるフッ素樹脂は汎用品ではなく、その合成過程も複雑であることから非常に高価である。電解質膜が高価であることは、PEFCの実用化に対する大きな障害となる。また、パーフルオロカーボンスルホン酸膜はメタノールを透過しやすく、メタノールを含む溶液が燃料極に供給されるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の電解質膜にパーフルオロカーボンスルホン酸膜を用いることは難しい。
【0004】
このため、パーフルオロカーボンスルホン酸膜の代替として、低コストかつメタノールの透過が抑制された炭化水素系電解質膜の開発が進められている。例えば、特許文献1〜4には、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミドでできた電解質膜が、それぞれ提案されている。これら炭化水素系電解質膜の原料となる樹脂はフッ素樹脂に比べて安価であり、上記電解質膜の使用により、PEFCの低コスト化を図れる。しかし、特許文献1〜4に提案されている炭化水素系電解質膜の性能は必ずしも十分ではなく、炭化水素系電解質膜を用いたPEFCの実用化には未だ至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−93114号公報
【特許文献2】特開平10−45913号公報
【特許文献3】特開平9−245818号公報
【特許文献4】特表2000−510511号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L.Wang et al. Journal of Power Source 164(2007)
【非特許文献2】Okamoto et al. J. Memb. Sci., 2004, 230, 111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化水素系電解質膜が実用化に至らない原因は様々であるが、しばしば、炭化水素系電解質膜と電極との接触性が良くない点が指摘されている。接触性が悪いと、接触抵抗の低減や発電効率の向上が困難となる。
【0008】
電解質膜と電極との接触性の改善には、電解質膜の表層部を熱で溶融させつつ電解質膜と電極とを接合するホットプレス法が有効である。しかし、ポリイミドのような熱硬化性樹脂を主成分とした炭化水素系電解質膜にホットプレス法を採用するのは困難である。アノード、電解質膜およびカソードをセパレータで強く挟む方法もあるが、接触抵抗を十分に低減するには至らない。
【0009】
電解質膜と電極との接触性を改善する他の方法として、非特許文献1には、ナフィオンを電解質膜に塗布する方法が開示されている。例えば、スルホン化ポリイミド膜をナフィオン分散液に浸漬し、乾燥させる。これにより、スルホン化ポリイミド膜上にナフィオン層が形成される。ナフィオン層を有するスルホン化ポリイミド膜と、電極とをホットプレス法で接合する。しかし、コストや環境負荷の観点から、フッ素樹脂の使用を回避ないし抑制できるのであれば、それに越したことはない。
【0010】
こうした事情に鑑み、本発明の目的は、電極との接触性が改善された炭化水素系電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
炭化水素系電解質を主成分として含む基材層と、
前記基材層に積層された層であり、水酸基およびプロトン伝導基を有する高分子材料を主成分として含む表面層と、
を備えた、固体高分子型燃料電池用の電解質膜を提供する。
【0012】
他の側面において、本発明は、
上記本発明の電解質膜と、
前記電解質膜を挟むように配置された一対の電極と、
を備えた、膜−電極接合体を提供する。
【0013】
さらに他の側面において、本発明は、
上記本発明の膜−電極接合体を発電要素として有する、燃料電池を提供する。
【0014】
さらに他の側面において、本発明は、
炭化水素系電解質を主成分として含む基材を準備する工程と、
水酸基を有する第1高分子と、プロトン伝導基を有する第2高分子とを含む溶液を調製する工程と、
前記溶液を用いて、前記第1高分子を架橋することによって形成されたマトリクスに前記第2高分子が保持された高分子材料を主成分として含む表面層を前記基材上に形成する工程と、
を含む、固体高分子型燃料電池用の電解質膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の電解質膜は、基材層と、基材層に積層された表面層とを有する。表面層は、水酸基およびプロトン伝導基を有する。水酸基は、含水時における表面層の柔軟性を高めると考えられる。そのため、本発明の電解質によれば、機械的強度やガス遮断性のような特性を基材層で確保しつつ、表面層によって電極との接触性を改善することができる。また、複層構成によれば、各層の特性を個別的に調節できるため、単層構成に比べて、設計の自由度も高い。
【0016】
本発明の電解質膜は、従来の炭化水素系電解質膜に比べて、電極との接触性が改善されたものである。したがって、本発明の電解質膜を燃料電池のMEAに用いると、触媒や電解質が活性化するのに要する時間(エージング時間)を短くできたり、発電効率が高まったりする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の電解質膜の一例を示す模式図
【図2】本発明の膜−電極接合体の一例を示す模式図
【図3】本発明の燃料電池の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本明細書において、「主成分」とは、重量%で最も多く含まれる成分のことをいう。
【0019】
図1は、本実施形態の炭化水素系電解質膜の模式図である。電解質膜1は、基材層3および表面層5を有する。表面層5は、基材層3に積層された層であり、基材層3の表面を覆っている。電解質膜1の表面は、表面層5によって形成されている。
【0020】
本実施形態では、基材層3を挟むように、当該基材層3の上面および下面に表面層5が設けられている。これにより、アノードおよびカソードの両極で接触性を改善できる。ただし、表面層5が基材層3の片面にのみ設けられていてもよい。さらに、表面層5によって基材層3が包まれていてもよい。つまり、基材層3の側面が表面層5によって覆われていてもよい。
【0021】
<<基材層3>>
基材層3は、炭化水素系電解質を主成分として含む層である。炭化水素系電解質は、水を含んで膨潤するものであるが、水に不溶または難溶の性質を有するものである。そのような炭化水素系電解質として、スルホン化ポリイミドやスルホン化ポリアリーレンを例示できる。スルホン化ポリアリーレンとして、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンやスルホン化ポリエーテルスルホンを例示できる。これらの樹脂は、フッ素樹脂に比べて安価であり、メタノール遮断性にも優れる。
【0022】
中でも、スルホン化ポリイミドは、剛直な分子構造を持つので、熱的または機械的耐久性に優れている。また、スルホン化ポリイミドは、原料モノマーとして使用する酸無水物やジアミンの種類によって性質が変化する。そのため、基材層3の材料としてスルホン化ポリイミドを用いる場合には、電解質膜1に要求される特性に適合するように、基材層3の性質を比較的簡単に調節できる。
【0023】
一般に、スルホン化ポリイミドは、熱溶融しないうえ、電極との親和性も低い。そのため、スルホン化ポリイミドでできている電解質膜と電極との接触性はあまりよくない。スルホン化ポリイミドでできている電解質膜は、活性化が遅いことも指摘されている。これに対し、本実施形態の電解質膜1では、基材層3が表面層5で覆われている。そのため、電解質膜1と電極との接触性は、単独のスルホン化ポリイミド膜と比較して、大幅に改善されている。また、表面層5はスルホン化ポリイミド膜(基材層3)に比べて迅速に活性化しうる。本実施形態の電解質膜1を燃料電池に用いることによって、発電時のエージングに必要な時間を短縮できたり、発電効率が向上したりする。
【0024】
基材層3の厚さは特に限定されないが、電解質膜1の強度を確保するために、5〜300μmの範囲にあるとよい。
【0025】
<<表面層5>>
表面層5は、水酸基および水酸基以外のプロトン伝導基を有する高分子材料を含む層である。プロトン伝導基の例は、スルホン酸基やリン酸基であり、典型的にはスルホン酸基である。プロトン伝導基を有することによって、当該高分子材料の電解質としての機能が確保される。
【0026】
表面層5は、適度な保水性を有する層である。適度な保水性を有することによって、電解質膜1と電極との間をプロトンや水が移動しやすくなる。また、表面層5があることによって、電解質膜1の表面の柔軟性が増す。表面が軟らかいと、電解質膜1が電極の凹凸に追従しやすくなる。その結果、電解質膜1と電極との接触面積が大きくなるとともに、接触抵抗も低減する。
【0027】
具体的に、表面層5を構成する高分子材料は、水酸基を有する第1高分子と、プロトン伝導基を有する第2高分子とを含むものでありうる。さらに詳細には、第1高分子が架橋することによってマトリクスを形成し、そのマトリクスに第2高分子が保持されている。
【0028】
第1高分子は、多数の水酸基を有している影響で水溶性である場合が多いが、架橋処理することによって非水溶性のマトリクスを形成しうる。そして、このマトリクスにプロトン伝導基を有する第2高分子を保持させる。このようにすれば、水溶性の第2高分子を表面層5の材料として使用できる。水溶性の第2高分子を使用することによって、表面層5に優れた保水性および柔軟性を付与できる。このような表面層5において、水は、高い移動度を有する。
【0029】
第1高分子として、例えばビニル樹脂を使用できる。ビニル樹脂の具体例は、ポリビニルアルコール(PVA)およびエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)であり、これらを単独または混合して使用できる。中でも、ポリビニルアルコールを好適に使用できる。よく知られているように、PVAは水溶性であるが、架橋PVAは非水溶性である。表面層5を形成するための第1高分子が水溶性であることは、後述する製造方法を採用できるという観点で好ましい。
【0030】
第1高分子として、多糖類を用いてもよい。多糖類として、キチン、キトサンおよびセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1つを使用できる。第1高分子として、ビニル樹脂と多糖類との混合物も使用できる。
【0031】
第2高分子として、水溶性を有するスルホン化ポリアリーレンを好適に用いることができる。スルホン化ポリアリーレンとして、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンやスルホン化ポリエーテルスルホンが挙げられる。表面層5に用いられるスルホン化ポリアリーレンは、スルホン酸基を多く導入することによって水に可溶な性質が付与されたものでありうる。
【0032】
さらに、第2高分子として、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、水溶性スルホン化ポリエーテルエーテルケトンおよび水溶性スルホン化ポリエーテルスルホンからなる群より選ばれた少なくとも1つを用いてもよい。これらは、いずれも水に溶ける性質を有している。第1高分子と同様に、第2高分子が水溶性であることは、後述する製造方法を採用できるという観点で好ましい。
【0033】
表面層5の保水性と基材層3の保水性との大小関係は特に限定されない。保水性の指標として、水重量膨潤率を採用できる。水重量膨潤率が高ければ高いほど保水性に優れることを意味する。
【0034】
水重量膨潤率は、下式によって定義される。ただし、25℃、60RH%の雰囲気に放置したときの試料の重量を乾燥重量とし、25℃の水に浸漬して膨潤させた後の試料の重量を膨潤重量とする。
(水重量膨潤率)=100×{(膨潤重量)/(乾燥重量)−1}
【0035】
具体的に、表面層5は、40〜200%の水重量膨潤率を有していることが好ましい。これにより、表面層5が十分な保水性と高い柔軟性を発揮し、電解質膜1と電極との接触性を改善する効果が十分に得られる。基材層3も表面層5と同程度の保水性を有しているとよい。
【0036】
なお、表面層5の水重量膨潤率は、次の手順で測定できる。電解質膜1の水重量膨潤率と、基材層3の水重量膨潤率とを個別に測定する。得られた測定値と各層の寸法とから、表面層5の固有の水重量膨潤率を見積もることができる。
【0037】
表面層5の厚さは、特に限定されるものではないが、0.3〜200μmまたは1〜50μmの範囲にあるとよい。基材層3のプロトン伝導率にもよるが、表面層5が厚すぎるとプロトン伝導性が低くなりすぎる可能性がある。他方、表面層5が薄すぎると、表面層5が電解質膜1と電極との接触性に及ぼす効果が期待できなくなる。
【0038】
なお、本実施形態では、電解質膜1の上面(第1主面)を形成する表面層5と、下面(第2主面)を形成する表面層5との双方が同一の組成および同一の厚さを有する。ただし、一対の表面層5の組成や厚さは、互いに相違していてもよい。なぜなら、アノードに適した表面層5と、カソードに適した表面層5とを別々に作製することを要する場合が考えられるからである。
【0039】
<<電解質膜1の製造方法>>
図1に示す電解質膜1は、以下に示す方法によって製造できる。まず、炭化水素系電解質を主成分として含む電解質膜を準備する。この電解質膜は、基材層3となるものであり、例えばスルホン化ポリイミド電解質膜である。スルホン化ポリイミド電解質膜の製造方法は既知であり、例えば非特許文献2に開示されている。
【0040】
その一方で、水酸基を有する第1高分子と、プロトン伝導基を有する第2高分子とを含む溶液を調製する。この溶液には、基材層3を構成するべき電解質膜が溶けない溶媒を用いるとよい。具体的には、溶媒として水が用いられる。この場合、第1高分子および第2高分子は、水溶性であることを要する。第1高分子の水溶液と、第2高分子の水溶液とを別々に調製し、これらの水溶液を混合して用いるようにしてもよい。
【0041】
溶液における第1高分子と第2高分子との比率は特に限定されない。ただし、プロトン伝導基を有する第2高分子が多すぎると、表面層5の機械的強度が不足したり、第2高分子が表面層5から溶出しやすくなったりする。一方、第2高分子が少なすぎると、プロトン伝導性が不足し、電解質膜1の機能不全を招く。これらの点を考慮し、第1高分子としてPVAを用いる場合において、第1高分子と第2高分子の比率は、重量比で(第1高分子:第2高分子)=95:5〜50:50の範囲にあるとよい。
【0042】
なお、PVAの分子量は特に限定されないが、粘度平均分子量が10000〜2000000の範囲にあるPVAを用いることにより、電解質膜として好適な膜を形成できる。PVAの粘度平均分子量の好ましい範囲は、例えば50000〜200000である。
【0043】
溶液の濃度は特に限定されないが、通常、1〜50重量%の範囲である。3〜20重量%の範囲であれば、均一な厚さの表面層5を形成しやすい。
【0044】
次に、溶液を基材に塗布する。塗布方法として、ディッピング法やスプレー法を採用できる。これらの方法によれば、均一な厚さの膜を基材上に効率よく形成することができる。基材が水に溶けない材料でできている場合には、生産効率に優れるディッピング法を採用するとよい。こうして基材上に形成された膜は、第1高分子および第2高分子を含む前駆体膜である。前駆体膜において、第1高分子は架橋されていない。
【0045】
次に、基材上に形成された前駆体膜を乾燥させる。前駆体膜の乾燥は、前駆体膜を加熱することによって行ってもよい。PVAのように熱処理によって結晶化が進む第1高分子を使用する場合、乾燥時の加熱の有無が表面層5の特性に影響を及ぼす。架橋前にPVAの結晶化を適度に進めることによって、表面層5のプロトン伝導性およびメタノール遮断性が改善しうる。
【0046】
前駆体膜が形成された基材を熱処理炉に入れることによって、前駆体膜の乾燥を行える。熱処理炉の雰囲気温度は、前駆体膜の融解温度または分解温度未満であれば特に限定されない。第1高分子としてPVAを用いる場合、PVAの結晶化が進行する温度である100〜180℃の範囲がよく、PVAの結晶化が最も進行する120〜140℃の範囲が好ましい。熱処理時間は、温度にもよるが、PVAが比較的速やかに結晶化するため、数分間〜1時間程度である。
【0047】
次に、第1高分子を架橋する工程を行う。架橋剤として、第1高分子の水酸基と反応する官能基を分子内に複数有する架橋剤を用いればよい。具体的には、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドおよびスベロイルクロライドを例示できる。
【0048】
架橋工程は既知の手法に従って行うことができる。例えば、架橋剤を含む溶液(架橋溶液)に前駆体膜を浸漬する。これにより、第1高分子の架橋反応が進行し、基材(基材層3)の上に表面層5が形成される。架橋溶液の濃度および架橋時間は、前駆体膜の組成および架橋剤の種類などに応じて適宜設定すればよい。一例では、架橋溶液の濃度が1〜20重量%、架橋時間が0.1〜48時間である。架橋溶液の濃度や架橋時間によって架橋の度合いが変化する。これにより、表面層5の水重量膨潤率や硬度を制御できる。
【0049】
なお、ナトリウム塩またはアンモニウム塩などの塩の状態にあるプロトン伝導基を有する第2高分子を用いた場合、プロトン伝導基をプロトン型に変化させるための酸処理工程を実施してもよい。酸処理工程の具体的な方法は特に限定されない。例えば、架橋工程を実施した後で、電解質膜を0.5〜2Nの塩酸水溶液または硫酸水溶液に、1〜24時間程度浸漬すればよい。
【0050】
以上の各工程を実施することによって、図1に示す電解質膜1が得られる。
【0051】
なお、第1高分子および第2高分子を含む溶液を用いて表面層5としてのフィルムを作製し、そのフィルムを基材に貼り合わせることによって、電解質膜1を得るようにしてもよい。この方法は、基材が溶液に可溶である場合に有効である。
【0052】
さらに、架橋を使う方法以外にも、水酸基およびプロトン伝導基を有する高分子材料を作る方法はある。具体的には、以下の方法(i)(ii)(iii)が挙げられる。
(i)プロトン伝導基を有するモノマーと水酸基を有するモノマーとの共重合
(ii)水酸基とプロトン伝導基とを有するモノマーの重合
(iii)水酸基を有する高分子へのプロトン伝導基の導入(官能基置換やグラフト化による)
【0053】
これらの方法によって得た高分子材料をフィルム状に成形し、基材に貼り合わせることによって、図1の構造を持った電解質膜を製造できる。また、こうした方法を採用する場合には、第1高分子や第2高分子が水に可溶であることを要しない。
【0054】
本発明の電解質膜の用途は特に限定されないが、PEFCの高分子電解質膜(PEM)としての用途、特に燃料にメタノールを含む溶液を用いるDMFCのPEMとしての用途に好適である。
【0055】
<<膜−電極接合体>>
本発明の膜−電極接合体(MEA)の一例を図2に示す。図2に示すMEA21は、電解質膜1と、電解質膜1を挟むように配置された一対の電極(アノード7およびカソード8)とを備えている。電解質膜1とアノード7とは互いに接合されている。同様に、電解質膜1とカソード8とは互いに接合されている。電解質膜1と各電極との接合は、熱プレスや圧接のような既知の手法によって行える。
【0056】
<<固体高分子型燃料電池>>
本発明の固体高分子型燃料電池(PEFC)の一例を図3に示す。図3に示す燃料電池11は、MEA21と、MEA21を挟むように配置された一対のセパレータ(アノードセパレータ13aおよびカソードセパレータ13b)とを備えている。各部材は、当該部材の主面に垂直な方向に圧力が印加された状態で接合されている。
【0057】
電解質膜1が用いられたMEA21をPEFCに組み込むことにより、PEFCのエージング時間や発電効率を改善できる。本発明の燃料電池は、必要に応じて、図3に示す部材以外の部材を備えていてもよい。また、図3に示すPEFC11はいわゆる単セルであるが、本発明の燃料電池は、このような単セルを複数積層したスタックであってもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0059】
(実施例)
まず、スルホン化ポリイミド電解質膜(4,4'-bis(aminophenoxy)biphenyl-3,3'-disulfonic acid(BAPBDS):4,4'-bis(aminophenoxy)biphenyl(BAPB)=4:1(モル比))を以下の手順で作製した。4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル-3,3’-ジスルホン酸(BAPBDS)3.17g、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)0.55g、m-クレゾール15mlおよびトリエチルアミン1.7mlを100mlの四つ口フラスコに入れ、窒素気流下、80℃にて撹拌しながら各原料をm-クレゾールに溶解させた。次に、その溶液に、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二水和物(NTDA)2.01gおよび安息香酸1.73gを加え、そのまま窒素を流しながら180℃で20時間撹拌して重合を行った。反応終了後、m-クレゾール10mlを加えて重合溶液を希釈した。希釈液をアセトン中に滴下し、析出した固形物を濾別し、乾燥させた。得られた生成物を6.5重量%となるようにm-クレゾールに溶かし、塗布液を調製した。この塗布液をガラス基板に塗布し、120℃で12時間乾燥させた。乾燥後、得られた膜を1.0mol/mlの硫酸水溶液中に室温で24時間浸漬し、プロトン交換を行った。純水で膜を洗浄後、150℃で12時間真空乾燥させ、スルホン化ポリイミド電解質膜を得た。
【0060】
次に、PVA(重合度3500)の水溶液(濃度5重量%)と、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa、重量平均分子量1000000)の水溶液(濃度5重量%)とを、ポリマー重量比でPVA:PSSNa=70:30となるように混合した。全体が均一になるまで混合溶液を撹拌した。この混合溶液に、スルホン化ポリイミド電解質膜を浸漬した。スルホン化ポリイミド電解質膜の寸法は、縦10cm、横10cm、厚さ40μmであった。混合溶液から膜を引き上げた後、60℃で乾燥させた。さらに、もう一度浸漬した後、膜を室温で24時間乾燥させた。このようにして、PVAおよびPSSNaを含む前駆体膜をスルホン化ポリイミド電解質膜の上に形成した。
【0061】
次に、上記で得た膜を架橋溶液に室温で4時間浸漬し、架橋反応を行った。架橋溶液として、グルタルアルデヒドを18重量%、硫酸を0.01重量%含むアセトン溶液を用いた。架橋反応の終了後、膜を純水で洗浄し、さらに0.5モル/リットルの硫酸水溶液に60℃で6時間浸漬した。これにより、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)をポリスチレンスルホン酸(PSSA)に変化させた。最後に、膜を純水で洗浄し、室温で24時間真空乾燥させた。このようにして、実施例の電解質膜を得た。この電解質膜における表面層の厚みは7μmであった。
【0062】
一方、上述の混合溶液を用いて、PVAおよびPSSNaでできた厚さ30μmのフィルムを作製した。このフィルムに対して、実施例の電解質膜と同一条件で架橋処理を行った。このフィルムは、実施例の電解質膜の表面層と同一物である。こうして得られたフィルムの水重量膨潤率は64%であった。また、基材として用いたスルホン化ポリイミド電解質膜の水重量膨潤率は87%であった。
【0063】
次に、実施例の電解質膜を用いて発電試験を行った。具体的には、電解質膜を水に浸漬した後、パッシブ型のDMFCによる発電試験を行った。アノードおよびカソードとして、カーボンペーパー(東レ社製、TGP-H-060)上に、白金担持触媒(田中貴金属社製、TEC66E50(アノード)、TEC10E50E(カソード))およびパーフルオロカーボンスルホン酸(デュポン社製、ナフィオンDE-520)からなる触媒層が設けられたガス拡散電極を用いた。アノード、電解質膜およびカソードを重ね合わせ、DMFCの外側のプレートを締め付けて、アノード、電解質膜およびカソードを圧接した。燃料として、3モル/リットルの濃度のメタノール水溶液を用いた。カソードは空気に曝した。負荷として、モータに直結したプロペラを用いた。
【0064】
燃料の供給から40分後にプロペラが回転した。その後、燃料の供給を止めるまでプロペラは連続回転していた。負荷時の電圧は0.3V、電流は24〜25mAであった。
【0065】
(比較例)
実施例で基材として用いたスルホン化ポリイミド電解質膜を比較例の電解質膜(縦10cm、横10cm、厚さ40μm)として準備した。先に述べたように、スルホン化ポリイミド電解質膜の水重量膨潤率は87%であった。次に、比較例の電解質膜について、実施例と同一条件でDMFCによる発電試験を行った。その結果、燃料の供給から20時間後にプロペラが回転したが、5秒で停止した。負荷時の電圧は0.08Vであった。
【0066】
このように、スルホン化ポリイミド電解質膜(基材層3)の上に表面層5を設けることによって、DMFCの発電までに要する時間や発電特性が改善した。
【符号の説明】
【0067】
1 電解質膜
3 基材層
5 表面層
7 アノード
8 カソード
11 燃料電池
21 膜−電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系電解質を主成分として含む基材層と、
前記基材層に積層された層であり、水酸基およびプロトン伝導基を有する高分子材料を主成分として含む表面層と、
を備えた、固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項2】
前記高分子材料が、水酸基を有する第1高分子と、プロトン伝導基を有する第2高分子とを含み、
前記第1高分子が架橋することによってマトリクスを形成しており、
前記マトリクスに前記第2高分子が保持されている、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項3】
前記第1高分子が、ビニル樹脂および/または多糖類である、請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項4】
前記ビニル樹脂が、ポリビニルアルコールおよび/またはエチレン-ビニルアルコール共重合体である、請求項3に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項5】
前記多糖類が、キチン、キトサンおよびセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1つである、請求項3に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項6】
前記第2高分子が、水溶性を有するスルホン化ポリアリーレンである、請求項2〜5のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項7】
前記第2高分子が、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、水溶性スルホン化ポリエーテルエーテルケトンおよび水溶性スルホン化ポリエーテルスルホンからなる群より選ばれた少なくとも1つである、請求項2〜5のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項8】
前記表面層が、前記基材層を挟むように当該基材層の上面および下面に設けられている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項9】
前記基材層を構成する炭化水素系電解質が、スルホン化ポリイミドまたはスルホン化ポリアリーレンである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解質膜と、
前記電解質膜を挟むように配置された一対の電極と、
を備えた、膜−電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の膜−電極接合体を発電要素として有する、燃料電池。
【請求項12】
炭化水素系電解質を主成分として含む基材を準備する工程と、
水酸基を有する第1高分子と、プロトン伝導基を有する第2高分子とを含む溶液を調製する工程と、
前記溶液を用いて、前記第1高分子を架橋することによって形成されたマトリクスに前記第2高分子が保持された高分子材料を主成分として含む表面層を前記基材上に形成する工程と、
を含む、固体高分子型燃料電池用の電解質膜の製造方法。
【請求項13】
前記溶液が、前記第1高分子および前記第2高分子の水溶液であり、
前記表面層を形成する工程が、前記水溶液を前記基材に塗布する工程と、前記基材上で、前記第1高分子を架橋する工程とを含む、請求項12に記載の固体高分子型燃料電池用の電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−295572(P2009−295572A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104131(P2009−104131)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】