説明

固体高分子型燃料電池用触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極

【課題】本発明は、酸化消耗耐性の高く、高い電池性能を発揮し得る触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極を提供する。
【解決手段】炭素材料に酸素還元活性を持つ触媒成分を担持した触媒であって、前記炭素材料の25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量(V10)が2ml/g以下であり、且つ、前記炭素材料の25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量(V90)が400ml/g以上であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒、及び、これを用いた固体高分子型燃料電池用電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素を燃料とするクリーンな電源として、電気自動車の駆動電源、また、発電と熱供給を併用する定置電源として開発が進められている。また、固体高分子型燃料電池は、リチウムイオン電池等の二次電池と比較して高いエネルギー密度であることが特長であり、高エネルギー密度が要求される携帯用コンピュータあるいは移動用通信機器の電源としても開発が進められている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の典型的な単セルは、アノード(燃料極)とカソード(空気極)、及び両極間に配したプロトン伝導性の固体高分子電解質膜が基本構成となる。アノード及びカソードは、通常、白金等の貴金属を担持した触媒、フッ素樹脂紛等の造孔剤、及び固体高分子電解質等からなる薄膜電極として使用される。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、前述のように高エネルギー密度の電源ではあるが、単位電極面積当たりの出力の更なる向上が求められている。そのための最も効果的な解決策の一つは、アノードとカソードを構成する電極触媒で起こる電気化学反応の触媒活性を向上させることである。水素を燃料とするアノードでは、水素分子が水素カチオン(プロトン)に酸化する電気化学的反応であって、その触媒活性の向上である。一方、カソードでは、固体高分子電解質から来るプロトンと酸素が反応して酸素が水に還元される電気化学反応であって、その触媒活性の向上である。このような固体高分子型燃料電池のアノードとカソードの電極触媒には、白金等の貴金属が用いられる。しかしながら、貴金属は高価であるので、固体高分子型燃料電池の実用化や普及を加速するために電極単位面積当たりの使用量の低減が求められ、そのためには触媒活性の更なる向上が必須である。
【0005】
更に、燃料電池として使用した場合には、起動停止や高負荷運転によって、触媒成分の白金等の金属が溶出したり、担体等に用いている炭素材料が腐食したりすることが知られており、白金等の金属の溶出やカーボン腐食を妨げる耐久技術も非常に重要になっている。
【0006】
上記触媒担体として用いている炭素材料の腐食を妨げる方策としては、これまで、以下の技術が開示されている。例えば、特許文献1には、熱処理する等して、ラマン分光スペクトルから得られるD-バンドと呼ばれる1300〜1400cm-1の範囲のピーク強度(ID)と、G-バンドと呼ばれる1500〜1600cm-1の範囲のピーク強度(IG)との相対的強度比(ID/IG)を0.9〜1.2に調整した炭素材料を、触媒担体として用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、触媒担体として用いる炭素材料の比表面積を800m2/g以上900m2/g以下にすることによる、発電性能が高く、高電位耐久性及び燃料不足耐久性に優れた固体高分子型燃料電池の電極構造体が開示されている。
また、特許文献3では、アノード電極が触媒層、水分解層、及びガス拡散層で構成され、前記触媒層に使用される担体は、60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量が100cc/g以下であり、前記水分解層に使用される担体は、60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量が150cc/g以上であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-41253号公報
【特許文献2】特開2006-318707号公報
【特許文献3】特開2006-134629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、触媒担体として用いている炭素材料の腐食を妨げる方策としては、特許文献1、2にあるように、炭素材料の黒鉛化度や表面積を制御すること等が挙げられる。しかしながら、黒鉛化度を上げたり、比表面積を減少したりすれば、大まかには酸化消耗耐性が向上することは間違いないが、黒鉛化度や比表面積が同程度でも酸化消耗耐性が高いものと低いものがあり、真に酸化消耗耐性の高い炭素材料を得るためには、それが何に起因するかを明確にする必要があった。また、黒鉛化度を上げたり、比表面積を減少したりすると、触媒粒子の分散性が低下するだけでなく、保湿性が低下し、燃料電池性能が低下することが分かっていた。
【0010】
また、特許文献3のように、水吸着量の大きな担体と水吸着量の小さな担体とを積層して組み合わせることで性能を向上させるとしているが、酸化消耗耐性が十分なものは得られていない。
【0011】
本発明は、上記問題点を鑑み、酸化消耗耐性の高く、高い電池性能を発揮し得る触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、炭素材料の黒鉛化度、酸素濃度、比表面積、水蒸気吸着量等を鋭意調べたところ、水蒸気吸着量と酸化消耗耐性、及び、電池性能の傾向が合致していることを見出し、即ち、異なる相対湿度における2種類の水蒸気吸着量が特定の値であると優れた酸化消耗耐性で優れた電池性能を示すことを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、以下の要旨とするものである。
(1) 炭素材料に酸素還元活性を持つ触媒成分を担持した触媒であって、前記炭素材料の25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量(V10)が2ml/g以下であり、且つ、前記炭素材料の25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量(V90)が400ml/g以上であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。
(2) 前記炭素材料の25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量V10と、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90の比V10/V90が0.002以下である(1)に記載の固体高分子型燃料電池用触媒。
(3) (1)又は(2)に記載の触媒を少なくとも含んでなる固体高分子型燃料電池用電極。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、従来の触媒に比べて、高い酸化消耗耐性を持ち、且つ、高い電池性能を得ることができるという効果がある。前記触媒を用いた電極を固体高分子型燃料電池に使用すると、自動車用燃料電池や定置用燃料電池等の耐久性を向上させ、且つ、高い電池性能を得ることができることから、貴金属の使用量を低減でき、大幅な低コスト化を実現でき、固体高分子型燃料電池の商業的な市場普及を加速することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、触媒担体として用いられる炭素材料の水蒸気吸着量を調べ、相対湿度10%と90%での水蒸気吸着量を特定の範囲にしたものである。
【0015】
燃料電池起動停止時等に、燃料極が空気等の存在によって部分的に水素が欠乏した箇所が存在すると、空気極の電位が上昇し、触媒担体である炭素材料が酸化消耗することが知られているが、触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量V10が2ml/g以下であると、上記酸化消耗が抑制され、酸化消耗耐性に優れた触媒とすることができる。触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量が2ml/g超であると、上記酸化消耗が著しく起こり、触媒担体の親水性が高まり過ぎて排水能が低下し、燃料電池性能が低下したり、上記酸化消耗に伴って担持されていた触媒が脱落したり、溶出したりして、触媒量が減少し、燃料電池性能が低下する。従って、より好ましくは10%程度の余裕があるとよく、1.8ml/g以下とすることが好ましい。
【0016】
相対湿度10%程度の低い相対湿度での水蒸気吸着量は、炭素材料のアグリゲートなどの凝集構造や細孔構造ではなく、炭素材料表面を構成する官能基種とその密度に依存していると考えられる。本発明の相対湿度10%での水蒸気吸着量が2ml/g以下であると、炭素材料表面の官能基の絶対量が少なく、したがって、官能基の酸化分解などに由来する酸化消耗が抑制されると推察される。
【0017】
触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量V10は、酸化消耗耐性のみを考えるのであれば小さいほど良いが、触媒を担持する際の分散性は官能基の存在によって逆に向上することも考えられるため、下限値としては0.05ml/g以上とすることが好ましい。
【0018】
触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度90%での水蒸気吸着量V90が400ml/g以上であると、触媒成分近傍にある電解質が適当な湿潤状態を保ち、プロトン伝導性の低下を防ぐことができるため、自動車用燃料電池のように低加湿での運転をする必要が生じた場合においても、燃料電池性能の低下を最小限に抑えることが可能となる。より好ましくは、10%程度の余裕があるとよく、440ml/g以上とすることが好ましい。
【0019】
触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90が高過ぎると、高負荷運転をした時に生成水の排出が滞り、燃料電池性能が低下することになるため、上限値としては2000ml/g以下とすることが好ましい。より好ましくは1200ml/g以下である。相対湿度90%での水蒸気吸着量の支配要因は炭素材料表面の細孔構造にあると推察される。即ち、本発明の相対湿度90%での水蒸気吸着量が400ml/g以上であるためには、炭素材料表面に相応の細孔が存在すると推察される。
【0020】
本発明においては、触媒の保湿能力に対応する指標である25℃、相対湿度90%での水蒸気吸着量V90が高い値を有すると同時に、触媒担体炭素材料の高い耐酸化消耗性に対応する指標である25℃、相対湿度10%での水蒸気吸着量V10が小さい値を有することが、耐久性と触媒の高活性の両立には必須となる。さらに検討を進めた結果、25℃、相対湿度10%での水蒸気吸着量V10と25℃、相対湿度90%での水蒸気吸着量V90の比であるV10/V90が0.002以下であると、高い耐久性(耐酸化消耗性)と高い保湿能力の両立に好適であることが見出された。V10/V90が0.002を超えると、耐久性の低下、あるいは、保湿性能の低下を生じることになる。従って、さらに好ましくは、V10/V90が0.0018以下であることが好ましい。
【0021】
本発明で指標となる25℃、相対湿度10%と90%における水蒸気吸着量は、25℃の環境に置かれた炭素材料1g当たりに吸着した水蒸気量を標準状態の水蒸気体積に換算して示した指標である。炭素材料の25℃、相対湿度10%と90%における水蒸気吸着量の測定は、市販の水蒸気吸着量測定装置を用いて測定することができる。本発明における水蒸気吸着量は、水蒸気の蒸気圧0の真空状態から吸着を開始し、水蒸気の相対圧を高めて徐々に炭素材料に水蒸気を吸着させたときの吸着量、いわゆる、等温吸着曲線における相対湿度10%と90%の値を用いたものである。あるいは、25℃、相対湿度10%と90%の恒温恒湿槽に乾燥した炭素材料を十分な時間静置し、質量変化から測定することもできる。即ち、乾燥した炭素材料を、25℃で相対湿度10%の恒温恒湿槽及び25℃で相対湿度90%の恒温恒湿槽にそれぞれ静置して、水蒸気を吸着させて、それぞれの質量変化から、本発明で指標となる25℃、相対湿度10%と90%における水蒸気吸着量を求めることができる。前述の何れか1つの測定方法で得られた値が、本発明の範囲内であれば、本作用効果が得られるものである。
【0022】
触媒担体として用いられる炭素材料の種類の例としては、コークス、樹脂を原料とした種々の人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンブラック、チャー、いわゆる炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等が挙げられる。また、例えばシリカなどの多孔体を鋳型として炭素源を多孔体の細孔部分に充填したのち炭素源を炭素化した後に、鋳型を溶解して製造する、いわゆる鋳型炭素なども好適に用いることが可能である。また、これらの2種類以上の複合体であってもよい。
【0023】
本発明で規定している水蒸気吸着量を持つような上記種類の炭素材料を選び出すこともできるし、例えば、アルカリ賦活、水蒸気賦活、炭酸ガス賦活、塩化亜鉛賦活等の賦活処理を行ったり、不活性雰囲気や還元性ガス雰囲気、酸化性ガスを含む雰囲気で熱処理を行ったりして、水蒸気吸着量を制御することもできる。
【0024】
触媒として用いられる炭素材料の粒子径は10nm以上5μm以下がより好ましい。この範囲より大きな炭素材料は粉砕して用いることができ、粉砕する方が好ましい。粒子径が5μm超であると、ガス拡散経路やプロトン伝導経路を分断する恐れが高くなる他、特に経済的な理由により触媒成分の使用量が限定され、例えば、厚さ10μm程度の触媒層で性能を発現することが求められた時に、触媒層の触媒担持炭素材料の分布が不均一になり易く、好ましくない場合がある。また、粒子径が10nm未満であると、電子伝導性が低くなり、好ましくない場合がある。さらに安定した性能を得るためには、炭素材料の粒子径は、15nm以上、4.5μm以下とすることが好ましい。
【0025】
酸素還元活性を有する触媒成分の例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属、これらの貴金属を2種類以上複合化した貴金属の複合体や合金、貴金属と有機化合物や無機化合物との錯体、遷移金属、遷移金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等を挙げることができる。また、これらの2種類以上を複合したもの等も用いることもできる。
【0026】
前記触媒成分としての金属の担持量は、触媒成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で10質量%〜80質量%の範囲が好ましい。10質量%未満では、担持される触媒成分が少なくなるために、触媒層の単位厚みでの出力が減少する場合がある。そのため、高出力を得るには触媒層を厚くする必要があり、生成水の除去が困難になり、電池性能が低下するだけでなく、運転時に触媒層に含まれる水分量が増加して耐久性も低下する場合がある。一方、80質量%を越えると、触媒活性成分を高密度分散させることが困難で触媒活性が低下する場合があり、また、触媒粒子同士が凝集しやすくなって耐久性も低下する場合がある。より好ましくは、15質量%〜80質量%であり、更に好ましくは、15質量%〜70質量%である。
【0027】
前記触媒粒子の粒子径は、2.0nm〜10.0nmの範囲が好ましい。より好ましくは、3.0nm〜7.0nmの範囲である。
【0028】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒の製造方法は特に限定されないが、塩化白金酸等の金属塩化物、金属硝酸塩、金属錯体を水や有機溶媒等の溶媒に溶解した上で、還元剤で還元して、白金を含む触媒活性成分を炭素担体に担持する(液相吸着する)製造方法が好ましい。前記還元剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、エーテル類等が挙げられる。その際に、水酸化ナトリウムや塩酸等を加えてpHを調節し、更に、粒子の凝集を妨げるためにポリビニルピロリドン等の界面活性剤を添加してもよい。前記炭素担体に担持した触媒を、更に、再還元処理してもよい。前記再還元処理方法としては、還元雰囲気、若しくは、不活性雰囲気の中で、500℃以下の温度で熱処理を行う。また、蒸留水中に分散し、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類及びエーテル類から選ばれる還元剤で還元することもできる。
【0029】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、少なくとも前記炭素材料に前記酸素還元活性を有する触媒成分を担持した触媒を含む触媒層を含むことを特徴とする。触媒層は、前記触媒の他に、プロトン伝導性を有する電解質材料を含むが、電解質材料の種類や形態、電極構成に必要なバインダー材料の種類・構造によらず触媒の効果を発揮するものであって、これら電極構成材料を特に限定するものではない。尚、プロトン伝導性を有する電解質材料としては、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等を挙げることができる。
【0030】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒を含んでいれば、その製造方法は特に限定されないが、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒と前記プロトン伝導性を有する電解質材料の入った溶媒からなる触媒層スラリーを作製し、テフロン(登録商標)シート等の高分子材料、ガス拡散層、又は、電解質膜に塗布、乾燥する方法が例として挙げられる。テフロン(登録商標)シート等の高分子材料に塗布した場合には、触媒層と電解質膜が接触するように2枚のテフロン(登録商標)シート等の高分子材料で電解質膜を挟み、ホットプレスで触媒層を電解質膜に定着させた後、更に2枚のガス拡散層で挟んでホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を作製する方法を例として挙げることができる。また、ガス拡散層に塗布した場合には、触媒層と電解質膜が接触するように2枚のガス拡散層で電解質膜挟み、ホットプレス等、触媒層を電解質膜に圧着する方法等でMEAを作製することができる。電解質膜に触媒層を塗布した場合には、触媒層とガス拡散層が接触するように2枚のガス拡散層で挟み、触媒層をガス拡散層に圧着する方法等でMEAを作製することができる。
【0031】
触媒層スラリーに用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0032】
ガス拡散層の機能としては、セパレーターに形成されたガス流路から触媒層までガスを均一に拡散させる機能と、触媒層とセパレーター間に電子を伝導する機能が求められ、最低限、これらの機能を有していれば特に限定されるものではない。一般的な例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の炭素材料が主な構成材料として用いられる。
【実施例】
【0033】
コークス、樹脂を原料とした種々の人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンブラック、チャー、いわゆる炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等の炭素材料を、アルカリ賦活、水蒸気賦活、炭酸ガス賦活、塩化亜鉛賦活等の賦活処理を行ったり、不活性雰囲気や還元性ガス雰囲気、酸化性ガスを含む雰囲気で熱処理を行ったりして、水蒸気吸着量V10、V90、V10/V90の値を表1に示すAからNまでの14種の炭素材料を用意した。これらの炭素材料の粒子径は、10nm以上5μm以下に入っているものであった。
【0034】
蒸留水中に塩化白金酸水溶液とポリビニルピロリドンを入れ、90℃で攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウムを蒸留水に溶かした上で注ぎ、塩化白金酸を還元する。その水溶液に触媒担体炭素材料を添加し、60分間撹拌した後に、濾過、洗浄を行った。得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、粉砕して、水素雰囲気中250℃で1時間熱処理することによって、触媒No.1〜14を作製した。尚、触媒の白金担持量は50質量%になるように調製した。
【0035】
炭素材料の水蒸気吸着量は、定容量式水蒸気吸着装置(日本ベル製、BELSORP18)を用いて測定し、120℃、1Pa以下で2時間脱気前処理を行った試料を25℃の恒温中に保持し、真空状態から、25℃における水蒸気の飽和蒸気圧までの間、徐々に水蒸気を供給して段階的に相対湿度を変化させ、水蒸気吸着量を測定した。尚、同測定を、定容量式水蒸気吸着装置(日本ベル製、BELSORP-aqua3)を用いて行っても、同じ値を得ている。得られた測定結果から吸着等温線を描き、図から相対湿度10%と90%のときの水蒸気吸着量を読み取った。表1では、読み取った水蒸気量を試料1g当たりに吸着した標準状態の水蒸気体積に換算して示した。
【0036】
白金粒子の粒子径は、X線回折装置(理学電機製)を用いて得られた触媒の粉末X線回折スペクトルの白金(111)ピークの半値幅からScherrerの式によって見積った。
【0037】
【表1】

【0038】
前記触媒No.1〜14を、それぞれ、アルゴン気流中で5%ナフィオン溶液(アルドリッチ製)を触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が3倍になるように加え、軽く撹拌後、超音波で触媒を粉砕し、白金触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が、2質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、各触媒層スラリーを作製した。
【0039】
前記触媒層スラリーをテフロン(登録商標)シートの片面にそれぞれスプレー法で塗布し、80℃のアルゴン気流中10分間、続いて120℃のアルゴン気流中1時間乾燥し、触媒No.1〜14を触媒層に含有した固体高分子型燃料電池用電極を得た。尚、それぞれの電極は白金使用量が0.10mg/cm2となるようにスプレー等の条件を設定した。白金使用量は、スプレー塗布前後のテフロン(登録商標)シートの乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
【0040】
さらに、得られた固体高分子型燃料電池用電極から2.5cm角の大きさで2枚づつ切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように同じ種類の電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)を挟み、130℃、90kg/cm2で10分間ホットプレスを行った。室温まで冷却後、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥がし、アノード及びカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。更に、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC-CC1-060)を2.5cm角の大きさに2枚切り取って、ナフィオン膜に定着させたアノードとカソードを挟むようにして130℃、50kg/cm2で10分間ホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)14種を作製した。
【0041】
作製した各MEAは、それぞれ燃料電池測定装置に組み込み、電池性能測定を行った。電池性能測定は、セル端子間電圧を開放電圧(通常0.9〜1.0V程度)から0.2Vまで段階的に変化させ、セル端子間電圧が0.8Vのときに流れる電流密度を測定した。また、耐久試験としては、開放電圧に15秒間保持、セル端子間電圧を0.5Vに15秒間保持のサイクルを4000回実施し、その後、耐久試験前と同様に電池性能を測定した。ガスは、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ50%と80%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整した。セル温度は70℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ50℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に各MEAの電池性能結果と耐久試験後電池性能を示した。本発明の触媒No.1, 4, 6, 7, 9, 10, 12, 13, 14を用いたMEAは、優れた初期電池性能を発揮するのと同時に、耐久試験後にも高い電池性能を維持している。比較例の触媒No.2, 8を用いたMEAは、初期電池性能は優れているが、耐久試験後の電池性能が低く、耐久性に劣ることが分かる。また、比較例の触媒No.3, 5を用いたMEAは、初期電池性能と耐久試験後電池性能の差を示した劣化率は低く、耐久性に優れているが、初期電池性能が本発明の触媒No.1, 4, 6, 7, 9, 10, 12, 13, 14を用いたMEAに比べて劣位である。尚、比較例の触媒No.11を用いたMEAは、初期電池性能、耐久性能共に、本発明の触媒No.1, 4, 6, 7, 9, 10, 12, 13, 14を用いたMEAに比べて劣っている。このような優れた初期電池性能と耐久性能を両立して発揮できるのは、本発明によれば、相対湿度90%での水蒸気吸着量が高いため、保湿性に優れ、上記のような低加湿の条件においても高い電池性能を発揮し、更に、相対湿度10%での水蒸気吸着量が低く、炭素材料の酸化消耗を促進するような官能基の吸着量が少ないため、高い耐久性能を発揮するからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料に酸素還元活性を持つ触媒成分を担持した触媒であって、前記炭素材料の25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量(V10)が2ml/g以下であり、且つ、前記炭素材料の25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量(V90)が400ml/g以上であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記炭素材料の25℃、相対湿度10%における水蒸気吸着量V10と、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90の比V10/V90が0.002以下である請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒を少なくとも含んでなる固体高分子型燃料電池用電極。

【公開番号】特開2010−192436(P2010−192436A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14622(P2010−14622)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】