説明

固体高分子型燃料電池用触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極

【課題】高電位での酸化消耗耐性が高く、高い電池性能を発揮し得る触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極を提供する。
【解決手段】炭素材料に酸素還元活性を持つ触媒成分を担持した触媒であって、前記炭素材料の25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90が10ml/g以上200ml/g以下であり、且つ、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50が2ml/g以上100ml/g以下であり、且つ、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50と、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90の比V50/V90が0.2以上0.6以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素を燃料とするクリーンな電源として、電気自動車の駆動電源、また、発電と熱供給を併用する定置電源として開発が進められている。また、固体高分子型燃料電池は、リチウムイオン電池等の二次電池と比較して高いエネルギー密度であることが特長であり、高エネルギー密度が要求される携帯用コンピュータあるいは移動用通信機器の電源としても開発が進められている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の典型的な単セルは、アノード(燃料極)とカソード(空気極)、及び両極間に配したプロトン伝導性の固体高分子電解質膜が基本構成となる。アノード及びカソードは、通常、白金等の貴金属を担持した触媒、フッ素樹脂紛等の造孔剤、及び固体高分子電解質等からなる薄膜電極として使用される。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、前述のように高エネルギー密度の電源ではあるが、単位電極面積当たりの出力の更なる向上が求められている。そのための最も効果的な解決策の一つは、アノードとカソードを構成する電極触媒で起こる電気化学反応の触媒活性を向上させることである。水素を燃料とするアノードでは、水素分子が水素カチオン(プロトン)に酸化する電気化学的反応であって、その触媒活性の向上である。一方、カソードでは、固体高分子電解質から来るプロトンと酸素が反応して酸素が水に還元される電気化学反応であって、その触媒活性の向上である。このような固体高分子型燃料電池のアノードとカソードの電極触媒には、白金等の貴金属が用いられる。しかしながら、貴金属は高価であるので、固体高分子型燃料電池の実用化や普及を加速するために電極単位面積当たりの使用量の低減が求められ、そのためには触媒活性の更なる向上が必須である。
【0005】
更に、燃料電池として使用した場合には、起動停止や高負荷運転によって、触媒成分の白金等の金属が溶出したり、担体等に用いている炭素材料が腐食したりすることが知られており、白金等の金属の溶出やカーボン腐食を妨げる耐久技術も非常に重要になっている。
【0006】
上記触媒担体として用いている炭素材料の腐食を妨げる方策としては、これまで、以下の技術が開示されている。例えば、特許文献1には、熱処理する等して、ラマン分光スペクトルから得られるD−バンドと呼ばれる1300〜1400cm-1の範囲のピーク強度(ID)と、G−バンドと呼ばれる1500〜1600cm-1の範囲のピーク強度(IG)との相対的強度比(ID/IG)を0.9〜1.2に調整した炭素材料を、触媒担体として用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、触媒担体として用いる炭素材料の比表面積を800m2/g以上900m2/g以下にすることによる、発電性能が高く、高電位耐久性及び燃料不足耐久性に優れた固体高分子型燃料電池の電極構造体が開示されている。
【0008】
また、特許文献3では、アノード電極が触媒層、水分解層、及びガス拡散層で構成され、前記触媒層に使用される担体は、60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量が100cc/g以下であり、前記水分解層に使用される担体は、60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量が150cc/g以上であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-41253号公報
【特許文献2】特開2006-318707号公報
【特許文献3】特開2006-134629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、触媒担体として用いている炭素材料の腐食を妨げる方策としては、特許文献1、2にあるように、炭素材料の黒鉛化度や比表面積を制御すること等が挙げられる。しかしながら、黒鉛化度を上げたり、比表面積を減少したりすれば、大まかには酸化消耗耐性が向上することは間違いないが、黒鉛化度や比表面積が同程度でも酸化消耗耐性が高いものと低いものがあり、真に酸化消耗耐性の高い炭素材料を得るためには、それが何に起因するかを明確にする必要があった。更に、起動停止時には、セル電位が1.5V程度の高電位になることも知られており、その電位でも酸化消耗耐性のある材料である必要があった。また、黒鉛化度を上げたり、比表面積を減少したりすると、触媒粒子の分散性が低下するだけでなく、保湿性が低下し、燃料電池性能が低下することが分かっていた。
【0011】
また、特許文献3のように、水吸着量の大きな担体と水吸着量の小さな担体とを組み合わせることで性能低下を妨げるとしているが、高い電位での酸化消耗耐性と、低加湿時と高負荷運転時の性能低下を両立するものは得られていない。
【0012】
本発明は、上記問題点を鑑み、特に高電位での酸化消耗耐性が高く、高い電池性能を発揮し得る触媒及びこれを用いた固体高分子型燃料電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、炭素材料の黒鉛化度、酸素濃度、窒素吸着表面積、水蒸気吸着量等を鋭意調べたところ、相対湿度の異なる2つの条件下での水蒸気吸着量が、それぞれ特定の範囲で特定の関係にあると高電位でも酸化消耗耐性に優れ、電池性能も向上することを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、以下の要旨とするものである。
【0014】
(1) 炭素材料に酸素還元活性を持つ触媒成分を担持した触媒であって、前記炭素材料の25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90が10ml/g以上200ml/g以下であり、且つ、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50が2ml/g以上100ml/g以下であり、且つ、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50と、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90の比V50/V90が0.2以上0.6以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。
(2) 前記炭素材料の窒素吸着表面積が50m2/g以上200m2/g以下である(1)に記載の固体高分子型燃料電池用触媒。
(3) (1)又は(2)に記載の触媒を少なくとも含んでなる固体高分子型燃料電池用電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、従来の触媒に比べて、特に高電位での高い酸化消耗耐性を持ち、且つ、高い電池性能を得ることができるという効果がある。前記触媒を用いた電極を固体高分子型燃料電池に使用すると、自動車用燃料電池や定置用燃料電池等の耐久性を向上させ、且つ、高い電池性能を得ることができることから、貴金属の使用量を低減でき、大幅な低コスト化を実現でき、固体高分子型燃料電池の商業的な市場普及を加速することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、触媒担体として用いられる炭素材料の相対湿度50%と90%での水蒸気吸着量を特定の範囲にし、かつ、相対湿度50%と90%での水蒸気吸着量の比を特定の範囲にしたものである。このようにすると、従来の触媒に比べて、特に高電位での高い酸化消耗耐性を持ち、且つ、高い電池性能を得ることができる。
【0017】
更に、前記炭素材料の窒素吸着表面積についても特定の範囲にすることで、より優れた性能が得られるものである。
【0018】
燃料電池起動停止時等に、燃料極が空気等の存在によって部分的に水素が欠乏した箇所が存在すると、空気極の電位が上昇し、触媒担体である炭素材料が酸化消耗することが知られている。このような高電位での酸化消耗耐性は、触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90の変化に敏感で、200ml/g以下であると、上記酸化消耗が抑制され、酸化消耗耐性に優れた触媒とすることができる。一方、触媒担体として用いられる炭素材料の、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90が200ml/g超であると、上記酸化消耗が著しく起こり、触媒担体の親水性が高まり過ぎて排水能が低下し、燃料電池性能が低下したり、上記酸化消耗に伴って担持されていた触媒が脱落したり、溶出したりして、触媒量が減少し、燃料電池性能が低下する。一方、水蒸気吸着量V90が10ml/g未満になると、高負荷運転時に生成した水を蓄えておくことができなくなり、燃料電池自動車等のように低加湿での運転が必要な場合には、特に、燃料電池性能の低下が避けられず、好ましくない。
【0019】
特に高い電位での酸化消耗耐性を向上させるためには、炭素材料の黒鉛化度を上昇させ、酸化消耗の起点となる欠陥を少なくすることが重要である。一方、高い相対湿度での水蒸気吸着は、細孔構造や比表面積に依存していると考えられ、複雑な細孔構造をなしていると、比表面積が大きくなると同時に、水蒸気吸着量が増加する。つまり、高い相対湿度での水蒸気吸着量の多い炭素材料は、細孔構造が複雑で、上記酸化消耗の起点となる欠陥が多いため、酸化消耗耐性が劣ると推測できる。25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90のより好ましい範囲は30ml/g以上100ml/g以下である。
【0020】
燃料電池自動車等では、燃料電池セル内の湿度を高く保つために、大量の水を搭載し、供給することは不可能であり、低加湿状態での運転を余儀なくされる。電解質は湿度が低下するとプロトン伝導度が低下し、燃料電池の性能が低下してしまうため、低加湿状態でも運転によって生じる生成水を効率良く利用し、燃料電池性能の低下を妨げることが必要である。そのためには、炭素材料に保湿機能を保持させ、高負荷運転時に生成した水を炭素材料中に蓄えておき、その蓄えた水を生成水が少ない低負荷運転時に利用することが重要であるが、炭素材料の、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50は、保湿機能を表す良い指標になっており、2ml/g以上であると、生成水を保持し、燃料電池性能の低下を最小限に抑えることが可能となる。一方、炭素材料の、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50が100ml/g超であると、低加湿時の性能低下を抑えることは可能であるが、高負荷運転時に生成する大量の水を排水することが困難になり、逆に性能が低下するため、100ml/g以下とする。25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50のより好ましい範囲は10ml/g以上100ml/g以下である。
【0021】
低加湿時の燃料電池性能の低下を防ぐためには、前述したように、炭素材料の、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50が2ml/g以上100ml/g以下であることが必要であるが、それに加えて、炭素材料に吸着している水蒸気を触媒層中に吐き出し、触媒層を湿潤な状態に保ち、電解質のプロン伝導度の低下を抑制することが必要である。つまり、炭素材料が相対湿度90%で吸着した水蒸気を相対湿度が50%に下がった時に適切量吐き出すことが必要であり、更に、相対湿度50%以下になっても水蒸気を吐き出す余力を残していることが必要である。そのためには、炭素材料の、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90と、炭素材料の、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50の比V50/V90が0.2以上0.6以下である必要がある。V50/V90比が0.2未満であると、相対湿度が50%以下になるような低加湿時に吐き出される水蒸気量が少なく、燃料電池性能が劇的に低下してしまう。一方、V50/V90比が0.6超であると、相対湿度が50%以下の低加湿時には水蒸気を吐き出す余力があり、燃料電池性能の低下を最小限に抑えることが可能であるが、相対湿度が50%〜70%の間で吐き出される水蒸気量が少なく、この領域での燃料電池性能の低下が避けられない。
【0022】
本発明では、炭素材料の相対湿度50%と90%での水蒸気吸着量(V50とV90)、及び、それらの比(V50/V90)を規定することで、低加湿時と高負荷運転時の性能低下を妨げると同時に、燃料欠乏時を含む高電位時の酸化消耗耐性を保持することを達成している。一方、特許文献3では、飽和水蒸気圧での水吸着量を規定した炭素材料を用いることによって燃料欠乏時の性能低下を妨げられるとしている。しかし、飽和水蒸気圧での水吸着量を規定するのみでは、上記の低加湿時と高負荷運転時での性能低下や高電位時の耐久性を両立することはできない。
【0023】
前述したように、特に高い電位での酸化消耗耐性を向上させるためには、炭素材料の黒鉛化度を上昇させ、酸化消耗の起点となる欠陥をより少なくすることが重要であるが、それには、炭素材料の窒素吸着表面積を50m2/g以上200m2/g以下にするのがより好ましい。窒素吸着表面積が50m2/gよりも低いと、均一粒子径の触媒を均一に担持することが困難になり、触媒粒子径がばらついてしまったり、触媒粒子が凝集している箇所ができてしまったりするために、燃料電池性能の低下を引き起こしたりする場合があり、凝集した触媒の寄与によると想像されるが、酸化消耗耐性も低下してしまう場合がある。一方、窒素吸着表面積が200m2/g超であると、細孔構造が複雑であったりして、酸化消耗の起点となる欠陥が多数存在するためと想像されるが、特に高電位での酸化消耗耐性は劣ってしまう場合がある。
【0024】
本発明で指標となる25℃、相対湿度50%と90%における水蒸気吸着量は、25℃の環境に置かれた炭素材料1g当たりに吸着した水蒸気量を標準状態の水蒸気体積に換算して示した。炭素材料の25℃、相対湿度50%と90%における水蒸気吸着量の測定は、市販の水蒸気吸着量測定装置を用いて測定することができる。水蒸気吸着量の測定結果は、一般的に、吸着時と脱離時でヒステリシスを生じるため、同じ相対湿度でも異なる値を示すが、本発明においては吸着した水蒸気をいかに吐き出すかが重要な因子であり、脱離時の値を用いる。
【0025】
窒素吸着比表面積は、サンプルを110℃で真空乾燥した上で、自動比表面積測定装置を用いて窒素ガスにて測定し、BET法に基づく1点法にて比表面積を決定することができる。
【0026】
触媒担体として用いられる炭素材料の種類の例としては、コークス、樹脂を原料とした種々の人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンブラック、チャー、いわゆる炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等が挙げられる。
【0027】
本発明で規定している水蒸気吸着量を持つような上記種類の炭素材料を選び出すこともできるし、例えば、アルカリ賦活、水蒸気賦活、炭酸ガス賦活、塩化亜鉛賦活等の賦活処理を行ったり、硝酸や硫酸などの酸処理を行ったり、不活性雰囲気や還元性ガス雰囲気、酸化性ガスを含む雰囲気で熱処理を行ったりして、炭素材料の水蒸気吸着量を制御することもできる。
【0028】
酸素還元活性を有する触媒成分の例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属、これらの貴金属を2種類以上複合化した貴金属の複合体や合金、貴金属と有機化合物や無機化合物との錯体、遷移金属、遷移金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等を挙げることができる。また、これらの2種類以上を複合したもの等も用いることもできる。本発明において、触媒成分である金属等の担持量は、触媒成分を担持した炭素材料の全質量に対して(すなわち触媒全体の質量に対して)、金属量の換算値で10質量%〜80質量%がより好ましい。10質量%未満では、担持される触媒成分が少なくなるために、触媒層の単位厚みでの出力が減少する場合がある。そのため、高出力を得るには触媒層を厚くする必要があり、生成水の除去が困難になる場合がある。一方、80質量%を越えると、触媒活性成分を高密度分散させることが困難で触媒活性が低下する場合がある。より好ましくは、20質量%〜80質量%であり、更に好ましくは、20質量%〜60質量%である。
【0029】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒の製造方法は特に限定されないが、塩化白金酸等の金属塩化物、金属硝酸塩、金属錯体を水や有機溶媒等の溶媒に溶解した上で、還元剤で還元して、白金を含む触媒活性成分を炭素担体に担持する(液相吸着する)製造方法が好ましい。前記還元剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、エーテル類等が挙げられる。その際に、水酸化ナトリウムや塩酸等を加えてpHを調節し、更に、粒子の凝集を妨げるためにポリビニルピロリドン等の界面活性剤を添加してもよい。前記炭素担体に担持した触媒を、更に、再還元処理してもよい。前記再還元処理方法としては、還元雰囲気、若しくは、不活性雰囲気の中で、500℃以下の温度で熱処理を行う。また、蒸留水中に分散し、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類及びエーテル類から選ばれる還元剤で還元することもできる。
【0030】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、少なくとも前記炭素材料に前記酸素還元活性を有する触媒成分を担持した触媒を含む触媒層を有することを特徴とする。触媒層は、前記触媒の他に、プロトン伝導性を有する電解質材料を含むが、電解質材料の種類や形態、電極構成に必要なバインダー材料の種類・構造によらず触媒の効果を発揮するものであって、これら電極構成材料を特に限定するものではない。尚、プロトン伝導性を有する電解質材料としては、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等を挙げることができる。
【0031】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒を含んでいれば、その製造方法は特に限定されないが、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒と前記プロトン伝導性を有する電解質材料の入った溶媒からなる触媒層スラリーを作製し、テフロン(登録商標)シート等の高分子材料、ガス拡散層、又は、電解質膜に塗布、乾燥する方法が例として挙げられる。テフロン(登録商標)シート等の高分子材料に塗布した場合には、触媒層と電解質膜が接触するように2枚のテフロン(登録商標)シート等の高分子材料で電解質膜を挟み、ホットプレスで触媒層を電解質膜に定着させた後、更に2枚のガス拡散層で挟んでホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を作製する方法を例として挙げることができる。また、ガス拡散層に塗布した場合には、触媒層と電解質膜が接触するように2枚のガス拡散層で電解質膜挟み、ホットプレス等、触媒層を電解質膜に圧着する方法等でMEAを作製することができる。電解質膜に触媒層を塗布した場合には、触媒層とガス拡散層が接触するように2枚のガス拡散層で挟み、触媒層をガス拡散層に圧着する方法等でMEAを作製することができる。
【0032】
触媒層スラリーに用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0033】
ガス拡散層の機能としては、セパレーターに形成されたガス流路から触媒層までガスを均一に拡散させる機能と、触媒層とセパレーター間に電子を伝導する機能が求められ、最低限、これらの機能を有していれば特に限定されるものではない。一般的な例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の炭素材料が主な構成材料として用いられる。
【実施例】
【0034】
コークス、樹脂を原料とした種々の人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンブラック、チャー、いわゆる炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等の炭素材料を、アルカリ賦活、水蒸気賦活、炭酸ガス賦活、塩化亜鉛賦活等の賦活処理を行ったり、硝酸や硫酸などの酸処理を行ったり、不活性雰囲気や還元性ガス雰囲気、酸化性ガスを含む雰囲気で熱処理を行ったりして、水蒸気吸着量V50、V90、及びV50/V90の値を表1に示すAからMまでの13種の炭素材料を触媒担体として用意した。エチレングリコール中に塩化白金酸水溶液とポリビニルピロリドンと触媒担体炭素材料を入れ、140℃で攪拌しながら60分保持し、塩化白金酸を還元した。その後、濾過、洗浄を行い、得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、粉砕して、触媒No.1〜13を作製した。尚、触媒の白金担持量(金属量換算)は、触媒全体の質量に対して50質量%になるように調製した。
【0035】
炭素材料の水蒸気吸着量は、定容量式水蒸気吸着装置(日本ベル製、BELSORP-aqua3)を用いて測定し、120℃、1Pa以下で2時間脱気前処理を行った試料を25℃の恒温中に保持し、真空状態から、25℃における水蒸気の飽和蒸気圧までの間、徐々に水蒸気を供給して段階的に相対湿度を変化させ、水蒸気吸着量を測定した。次に、飽和水蒸気圧から、段階的に相対湿度を減少させ、水蒸気脱離過程における水蒸気吸着量を測定した。得られた測定結果から吸着等温線を描き、図から水蒸気脱離過程での相対湿度90%のときの水蒸気吸着量を読み取った。表1では、読み取った水蒸気量を試料1g当たりに吸着した標準状態の水蒸気体積に換算して示した。
【0036】
白金粒子の粒子径は、X線回折装置(理学電機製)を用いて得られた触媒の粉末X線回折スペクトルの白金(111)ピークの半値幅からScherrerの式によって見積った。
【0037】
炭素材料の窒素吸着比表面積は、120℃で真空乾燥したサンプルを自動比表面積測定装置(日本ベル製、BELSORP36)を用いて窒素ガスにて測定し、BET法に基づく1点法にて比表面積を決定した。
【0038】
【表1】

【0039】
前記触媒No.1〜13を、それぞれ、アルゴン気流中で5%ナフィオン溶液(アルドリッチ製)を触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が3倍になるように加え、軽く撹拌後、超音波で触媒を粉砕し、白金触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が、2質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、各触媒層スラリーを作製した。
【0040】
前記触媒層スラリーをテフロン(登録商標)シートの片面にそれぞれスプレー法で塗布し、80℃のアルゴン気流中10分間、続いて120℃のアルゴン気流中1時間乾燥し、触媒No.1〜13を触媒層に含有した固体高分子型燃料電池用電極を得た。尚、それぞれの電極は白金使用量が0.10mg/cm2となるようにスプレー等の条件を設定した。白金使用量は、スプレー塗布前後のテフロン(登録商標)シートの乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
【0041】
さらに、得られた固体高分子型燃料電池用電極から2.5cm角の大きさで2枚づつ切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように同じ種類の電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)を挟み、130℃、90kg/cm2で10分間ホットプレスを行った。室温まで冷却後、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥がし、アノード及びカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。更に、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC-CC1-060)を2.5cm角の大きさに2枚切り取って、ナフィオン膜に定着させたアノードとカソードを挟むようにして130℃、50kg/cm2で10分間ホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)10種を作製した。
【0042】
作製した各MEAは、それぞれ燃料電池測定装置に組み込み、電池性能測定を行った。電池性能測定は、セル端子間電圧を開放電圧(通常0.9〜1.0V程度)から0.2Vまで段階的に変化させ、セル端子間電圧が0.8Vのときに流れる電流密度を測定した(初期電池性能)。また、耐久試験として、セル端子間電圧を0.9Vに15秒間保持、セル端子間電圧を1.3Vに15秒間保持のサイクルを4000回実施し、その後、耐久試験前と同様に電池性能を測定した(耐久試験後電池性能)。ガスは、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ50%と80%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整した。セル温度は70℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ50℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に各MEAの電池性能結果と耐久試験後電池性能を示した。本発明の実施例に相当する触媒No.2, 7, 8, 10, 13を用いたMEAは、優れた初期電池性能を発揮するのと同時に、耐久試験後にも高い電池性能を維持している。比較例の触媒No.3, 4, 5, 6, 11を用いたMEAは、初期電池性能は優れているが、耐久試験後の電池性能が低く、耐久性に劣ることが分かる。また、比較例の触媒No.1, 9, 12を用いたMEAは、初期電池性能と耐久試験後電池性能の差を示した劣化率は低く、耐久性に優れているが、初期電池性能が本発明の実施例に相当する触媒No.2, 7, 8, 10, 13を用いたMEAに比べて劣位である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料に酸素還元活性を持つ触媒成分を担持した触媒であって、前記炭素材料の25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90が10ml/g以上200ml/g以下であり、且つ、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50が2ml/g以上100ml/g以下であり、且つ、25℃、相対湿度50%における水蒸気吸着量V50と、25℃、相対湿度90%における水蒸気吸着量V90の比V50/V90が0.2以上0.6以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記炭素材料の窒素吸着表面積が50m2/g以上200m2/g以下である請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒を少なくとも含んでなる固体高分子型燃料電池用電極。

【公開番号】特開2011−146321(P2011−146321A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7784(P2010−7784)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】