説明

固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法及び固体高分子型燃料電池用電極触媒層並びに固体高分子型燃料電池

【課題】超音波により触媒担持カーボン、プロトン伝導性高分子、分散媒からなるインキを霧化させ、プロトン伝導性固体高分子膜または多孔質カーボンシート上に噴霧することにより作製する工程を含む固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法において、触媒担持カーボン粒子の凝集が少なく、粒径の小さいカーボン粒子が均一に分散し、且つ空隙率の高い形態をつくり、三相界面の面積を増大させることで白金触媒の有効利用率の高い触媒層を製造するための固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法を提供する。
【解決手段】高圧流を小径孔を有するノズルを通過させることによって撹拌、破砕を行う、湿式加圧分散による処理をインキに対して行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造が容易であり、ガス拡散性が高く、触媒の有効利用率が高い固体高分子電解質型燃料電池用電極触媒層およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素、酸素を燃料として、水の電気分解の逆反応を起こさせることにより電気を生み出す発電システムである。これは、従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。中でも、室温付近で使用可能な固体高分子型燃料電池は車載用電源や家庭据置用電源などへの使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。燃料電池の実用化に向けての課題は、出力密度、耐久性の向上などがあげられるが、最大の課題はコスト削減である。コスト削減の為に最も要求されているのは、電極に触媒として使用されている白金の使用量の低減である。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、一般的に多数の単セルが積層されて構成されている。図1は、固体高分子型燃料電池用の膜・電極接合体の例を断面で示した部分説明図である。単セルは、二つの電極(酸化極と還元極)でプロトン伝導性固体高分子膜3を挟んで接合した膜・電極接合体10を、ガス流路を有するセパレータで挟んだ構造をしている。酸化極では水素ガスの酸化、還元極では水素イオンの還元がそれぞれ起こる。この酸化還元反応は、電極内部において電子伝導体であるカーボン粒子と、プロトン伝導体の両方に接し、かつ導入ガスが吸着しうる白金触媒の表面でのみ起こる。酸化還元反応が起こるこの部分は、三相界面と呼ばれており、この界面の面積が燃料電池の性能に大きく影響してくる。三相界面ではないところに存在する白金粒子は、電極の酸化還元反応に寄与しないため、全く機能しないことになる。白金使用量を低減させる為には、この機能しない白金の量をできるだけ減らし、使用した白金の有効利用率を高める必要がある。電極は、カーボン粒子、プロトン伝導体、触媒からなる触媒層1、2と、カーボン紙のようなガスが透過し、かつ電気を伝導するガス拡散層4との二層構成で、触媒層1、2が固体高分子膜3と接するように構成される。
【0004】
現状では、カーボン粒子上に担持された白金触媒がプロトン伝導体と接していなかったり、触媒がプロトン伝導体で覆われているためにガスが届かないこと等の理由から、白金の利用率は低い値となっている。このため、触媒層の微細構造を最適化し、白金の有効利用率を高めることは非常に重要な課題である。
【0005】
触媒層は、これまで塗布法やスクリーン印刷法などで基材上に塗工される事が多かった。この場合、塗工されたインキを乾燥させる際に触媒担持カーボンの凝集が起こりやすく、その結果、触媒層における空孔率が低下して燃料ガスの経路が遮断される、プロトン伝導体と接触していない触媒が増加するなどの傾向が見られた。このような場合、三相界面の面積は小さくなり、白金の利用率は低くなることが予想される。利用率を高めるためには、白金担持カーボン粒子の凝集が無く、粒径の小さいカーボン粒子が均一に分散し、且つ空隙率の高い形態が必要とされる。
【0006】
そこで、圧力式スプレーを用いて触媒層を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。圧力式スプレーを用いた場合では、触媒インクの乾燥速度が高くなるため、触媒の凝集が起こりにくく、その結果発電特性が改善された。しかしながら、従来の圧力式スプレーでは、ノズルから噴出してから塗着するまでの間の二次凝集、塗着後の粒
子の飛散、霧の粒子径のばらつきなどがあり、これらが三相界面の減少の要因となっていた。
【0007】
以下に公知の文献を記す。
【特許文献1】特開平8−115726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題点について鑑み、固体酸化物型燃料電池用電極触媒層において、触媒担持カーボン粒子の凝集が少なく、粒径の小さいカーボン粒子が均一に分散し、且つ空隙率の高い形態をつくり、三相界面の面積を増大させることで白金触媒の有効利用率の高い触媒層を製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は係る課題に鑑みなされたもので、請求項1の発明は、超音波により触媒担持カーボン、プロトン伝導性高分子、分散媒からなるインキを霧化させ、プロトン伝導性固体高分子膜または多孔質カーボンシート上に噴霧することにより作製する工程を含む固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法において、高圧流を小径孔を有するノズルを通過させることによって撹拌、破砕を行う、湿式加圧分散による処理をインキに対して行うことを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法としたものである。
【0010】
本発明の請求項2の発明は、前記湿式加圧分散処理において、ノズルを通過させる際の液体の圧力が30MPa〜200MPaであることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法としたものである。
【0011】
本発明の請求項3の発明は、前記湿式加圧分散処理において、インキがノズルを通過する回数が1回〜50回であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法としたものである。
【0012】
本発明の請求項4の発明は、インキ中に存在する触媒担持カーボンとプロトン伝導性粒子からなる粒子の粒径が10〜800nmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法としたものである。
【0013】
本発明の請求項5の発明は、請求項1〜4に記載の製造方法により作製された固体高分子型燃料電池用電極触媒層において、層の空孔率が70〜90%であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒層としたものである。
【0014】
本発明の請求項6の発明は、請求項1〜4いずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法により製造された電極触媒層、または請求項5の電極触媒層によってプロトン伝導性固体高分子膜が挟持されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池としたものである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明は、触媒担持カーボン、プロトン伝導性高分子、分散媒からなる混合液を湿式加圧分散処理によって撹拌、破砕を行い、作製したインキを超音波により霧化させ、プロトン伝導性固体高分子膜または多孔質カーボンシート上に噴霧することにより電極触媒層を形成する工程を経て作製された固体高分子型燃料電池およびその製造方法である。インキの分散を行う際に混合液を高圧で小径孔を有するノズルを通過させることによって撹拌、破砕を行う湿式加圧分散を用いることでインキ中の触媒担持カーボンとプロ
トン伝導性高分子からなる粒子を比較的均一なサイズで微細化し、塗工時にインキ中の粒子の再凝集が起こらないよう超音波スプレーによって触媒層を作製するため、粒径が小さく、かつ空孔率の高い触媒層が作製できる。このようにして作製した触媒層は触媒の利用率が高く、この触媒層を用いて作製した燃料電池は少ない触媒量で優れた性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の詳細について説明する。本発明では、触媒担持カーボン、プロトン伝導性高分子、分散媒からなる混合液を高圧で数百ミクロンの小径孔を有するノズルを通過させることによって撹拌、破砕を行う湿式加圧分散による処理を行うことでインキ中の触媒担持カーボン粒子を微細化し、作製したインキを超音波により霧化させ、基材上に噴霧することにより、固体高分子型燃料電池用の電極触媒層を作製する。
【0017】
本発明で用いる触媒粒子としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属又はこれらの合金、または酸化物、複酸化物等が使用できる。またこれらの触媒の粒径は、大きすぎると触媒の活性が低下し、小さすぎると触媒の安定性が低下するため、0.5〜20nmが好ましい。更に好ましくは1〜5nmが良い。
これらの触媒を担持する電子伝導性の粉末は、一般的に炭素粉末が使用される。炭素の種類は、微粉末状で導電性を有し、触媒に犯されないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンが使用できる。カーボンの粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると触媒層のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下するため、10〜1000nm程度が好ましい。更に好ましくは10〜100nmが良い。
【0018】
触媒インキ中に含まれるプロトン伝導性高分子には様々なものが用いられるが、用いる電解質膜の成分によって、インキ中のプロトン伝導性高分子を選択する必要がある。市販のナフィオンを電解質膜として用いた場合は、ナフィオンを使用するのが好ましい。電解質膜にナフィオン以外の材料を用いた場合はインキ中に電解質膜と同じ成分を溶解させるなど、最適化をはかる必要がある。
【0019】
触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒粒子や水素イオン伝導性樹脂を浸食することがなく、流動性の高い状態でプロトン伝導性高分子を溶解または微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はないが、揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましく、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノ―ル、2−プロパノ―ル、1−ブタノ−ル、2‐ブタノ−ル、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ペンタノ−ル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1−メトキシ−2−プロパノ−ル等の極性溶剤等が使用される。また、これらの溶剤のうち二種以上を混合させたものも使用できる。また、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高く、このような溶媒を用いる際は水との混合溶媒にするのが好ましい。水素イオン伝導性樹脂となじみがよい水が含まれていてもよい。水の添加量は、プロトン伝導性ポリマーが分離して白濁を生じたり、ゲル化しない程度であれば特に制限はない。また、成膜後の触媒層の空孔率を制御するためにグリセリンを添加したり界面活性剤を用いることもできる。
【0020】
触媒インク中の固形分含有量は、多すぎるとインキの粘度が高くなるため超音波による霧化が困難になり、また少なすぎると成膜レートが非常に遅く、生産性が低下してしまうため、1〜50wt%であることが好ましい。固形分は触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子からなるが、触媒担持カーボンの含有量を多くすると同じ固形分含有量でも粘度は高くなり、少なくすると粘度は低くなる。触媒担持カーボンの固形分に占める割合は10〜80%が好ましい。またこのときの触媒インクの粘度は、超音波による霧化を行うことを考慮すると、0.1〜500cP程度が好ましい。さらに好ましくは5〜100cPが良い。またインキの分散時に分散剤を添加することで、粘度の制御をすることもできる。
【0021】
触媒インク中の触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子からなる粒子はいくつかの粒子が凝集した形態でいると考えられる。凝集粒子のサイズは、小さすぎると、電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると触媒層のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下する為、10〜2000nm程度が好ましい。更に好ましくは10〜800nmが良い。
【0022】
触媒インクの粘度、インク中の粒子のサイズは、インクの分散処理の条件によって制御することができる。分散処理は、様々な装置を用いて行うことができる。例えば、ボールミルや超音波処理、ホモジナイザー、コニーダ、湿式加圧分散処理などが挙げられる。中でも、湿式加圧分散処理は粒径の微細化、均一化が可能であるだけでなく、ジェット流の衝突により生ずる衝突力によって触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子の接触面積を増加させ、触媒の有効利用率を高めることも期待できる。また、ボールミルのように媒体を用いないので不純物の混入が無いという利点もある。湿式加圧分散処理の装置のなかでも、高圧流を数百ミクロンの小径孔を有するノズルを通過させることによって撹拌、破砕を行うものはナノマイザーという装置名で市販されている。この装置は加圧条件を変えることで様々な粒径設計ができ、かつ粒径のばらつきが小さいため、触媒インキの分散を行う上で好適な手法である。
【0023】
ナノマイザーは、その処理圧力によって様々な用途に用いられる。処理圧力が0〜1MPaのときは液体と粉末の混練、1〜50MPaのときは水と油の乳化、30〜120MPaのときは均一分散、100〜150MPaのときは硬い物質の破砕などに用いられている。触媒インキをナノマイザーで処理する場合、均一な分散と粒子の微細化が要求されるため、処理圧力は30〜200MPaの間であることが好ましい。さらに好ましくは80〜150MPaの間が良い。
【0024】
ナノマイザーでの加圧分散処理は、一度行った後、さらに何度も繰り返して行うことができる。この処理回数は特に制限するものではないが、使用する材料や、使用目的によって1回で十分なものや、何度も処理する必要があるものがある。触媒インキの分散を行う場合は、粒子の微細化が要求されるため、処理回数は多いほうが好ましい。具体的には1回から50回程度が好ましい。
【0025】
触媒層の形成方法としては、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、スプレー法などの塗布法が一般的に用いられる。中でもスプレー法は、塗工されたインキを乾燥させる際に触媒担持カーボンの凝集が起こりにくく、均質で空孔率の高い触媒層が得られるため、好ましい。スプレー法の中でも超音波により霧化を行うものは、ノズルから噴出してから塗着するまでの間のインキの二次凝集、塗着後の粒子の飛散がなく、また霧の粒径のばらつきも小さいため好ましい。以下、このスプレー法について説明する。
【0026】
超音波振動を利用した超音波スプレーとは、ピエゾセラミックなどによって発生させた
周波数10kHz〜200kHzの超音波をノズル部に伝え、液体膜を振動させることできめ細かい粒子を形成、噴霧させるスプレーである。超音波スプレーでは噴霧の際、圧力を必要としないため、自然落下による噴霧を実現できる。そのため、超音波スプレーによって噴霧された触媒インクはワークから粒子が弾き飛ばされるオーバースプレーや二次飛散をほとんど起こさない。したがって、インキの利用効率が高くなる。また従来の高圧スプレーの場合と比較すると超音波スプレーは霧の粒径が細かく、粒径のばらつきが小さいため、均質な膜を作製することが可能となる。霧の粒径は10〜90μm程度である。またスプレーの霧は気流の影響を受けやすく、ノズルからワークまでの全体をキャップし、補助エアを流すことにより霧の進行パターンを制御する必要がある。補助エアの圧力は、0.005〜0.02MPa程度で良く、これによって自然落下噴霧を妨げることはない。
【0027】
超音波スプレーにおける噴霧速度は、最大流量50リットル/1時間程度である。ただし、流量にかかわらずに均一な噴霧が可能であり、自然落下噴霧も保たれる。
【0028】
超音波スプレーを用いて触媒インクを噴霧する場合、自然落下であるため噴出から塗着までの時間が長く、また霧の粒径が小さいため、塗着時には溶媒がほとんど蒸発しており、塗着後の粒子の凝集が起こりにくい。そのため空孔率の高い触媒層を形成することが可能となる。触媒の空孔度は増大するにつれガスの拡散性は増加するが、電子及びプロトンの伝導パスは減少し、機械的強度も低下する。このことを考慮すると空孔度は50%以上であることが好ましい。更に好ましくは70〜90%が良い。
【0029】
このように、超音波スプレーを用いてインキを噴霧させることにより触媒担持カーボンとプロトン伝導性高分子からなる粒子の粒径が均一で細かく、且つ空孔度の高い触媒層を作成することができる。また、インキを湿式ジェットミルで処理することにより更なる粒径の微細化、触媒利用率の向上が可能となる。
【0030】
超音波スプレーにより作製した触媒層を用いて膜・電極接合体を作製するプロセスとしては、一般的にガス拡散層の上にインクを噴霧し、これを乾燥させて、プロトン伝導性高分子膜と触媒層を熱圧着により接合する手法が用いられる。このほかにも、プロトン伝導性高分子膜の両面に直接インクを噴霧し、これをガス拡散層で挟持させる手法、また離型性の基材上にインクを噴霧し、それをプロトン伝導性高分子膜の両面に転写したものをガス拡散層で挟持させる手法を用いても何ら問題はない。
【0031】
超音波スプレーにより噴霧する際の基材の温度は室温付近からプロトン伝導性高分子のガラス転移点の間であればどの値でも良いが、溶媒の蒸発速度が速いほうが塗着後の液滴の流動による粒子の凝集が少なく、均質な膜を作製できるため、50〜120℃が好ましい。
【0032】
ガス拡散層としては電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料が用いられる。また、塗工後のインキがガス拡散層の中に染みこみ、ガス拡散性が低下するのを防ぐため、ガス拡散層の上に目止め層として触媒を担持していないカーボン層を設けたものを使用することもできる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明における固体高分子型燃料電池およびその製造方法について、具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0034】
<実施例1>
白金担持量が45wt%である白金担持カーボン触媒と市販のプロトン伝導性高分子(ナフィオン)溶液を溶媒中で混合し、ナノマイザー(株式会社東海製TL‐1500)で分散処理を行った。出発原料の組成比は白金触媒担持カーボンとナフィオンは重量比で2:1とし、溶媒は水、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ルを体積比で1:1:1とした。また、固形分含有量は5wt%とした。ナノマイザーの処理は圧力50MPa、処理回数10回とした。処理後のインキの粘度は約50cPであった。またインキ中の白金担持カーボンとプロトン伝導性高分子からなる粒子の平均粒径を粒度分布計で測定したところ、約500nmであった。作製したインキを超音波スプレー(LECHLER社製 超音波アトマイザー)によりカーボンペーパー上に噴霧することで触媒層を作製した。このときカーボンペーパの温度は80℃にした。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.5mg/cm2になるように調節した。霧化させるための超音波の周波数は100kHz、流量は50L/h、基材とノズル間の距離は20cmとした。また、ノズルからワークまでの全体をキャップし、圧力0.01MPaで補助エアを流すことにより霧の進行パターンを制御した。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は80%であった。
【0035】
<実施例2>
実施例1と同様の出発原料混合液を調製し、ナノマイザーで分散処理を行った。ナノマイザーの処理は圧力150MPa、処理回数10回とした。処理後のインキの粘度は約30cPであった。またインキ中の白金担持カーボンとプロトン伝導性高分子からなる粒子の平均粒径を粒度分布計で測定したところ、約150nmであった。作製したインキを実施例1と同様な条件でスプレーを行うことにより触媒層を作製した。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.5mg/cm2になるように調節した。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は90%であった。
【0036】
<比較例1>
実施例1と同様の出発原料混合液を調製し、遊星型ボールミル(FRITSCH社製 Pulverisette7)を用いて分散処理を行った。ポット、ボールの材質はジルコニアとした。処理後のインキの粘度は約60cPであった。またインキ中の白金担持カーボンとプロトン伝導性高分子からなる粒子の平均粒径を粒度分布計で測定したところ、約700nmであった。作製したインキを実施例1と同様な条件でスプレーを行うことにより触媒層を作製した。触媒層の厚さは、触媒層の白金担持量が0.5mg/cm2になるように調節した。得られた触媒層について、触媒層のみの空孔率を細孔分布測定装置で測定したところ、空孔率は70%であった。
【0037】
<膜・電極接合体作製>
実施例1および2、比較例1においてカーボンペーパー4上に作製した触媒層を用いて膜・電極接合体10を作製した。作製した電極を5cm2の正方形に打ち抜き、酸化極1、還元極2とした。この2つの電極でプロトン伝導性高分子膜3を挟持した状態で130℃、588×104Pa、30分の条件でホットプレスを行い、膜・電極接合体を得た。図1に膜・電極接合体の模式図を示す。プロトン伝導性高分子膜としてはデュポン株式会社製Nafion112を用いた。
【0038】
<発電性能測定結果>
作製した膜・電極接合体の発電性能測定を行った。測定セルとして、膜・電極接合体を、ガス流路を有するセパレータで挟持させ、ボルトで両極を締め付けたものを用いた。評価条件はセル温度80℃、ガスは酸化極が水素、還元極は酸素とした。流量は両極とも1L/min.とした。また、ガスの相対湿度は100%とした。性能の比較は、電圧が0.7Vのときの電流密度で行った。表1に結果を示した。
【0039】
表1は、実施例1および2、比較例1で作製した触媒インキおよびそれを用いて作製した触媒層、またそれを用いて作製した膜・電極接合体の評価結果である。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】固体高分子型燃料電池用の膜・電極接合体の例を断面で示した部分説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1… 電極触媒層(酸化極)
2… 電極触媒層(還元極)
3… プロトン伝導性高分子膜
4… ガス拡散層(カーボンペーパー)
10… 膜・電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波により触媒担持カーボン、プロトン伝導性高分子、分散媒からなるインキを霧化させ、プロトン伝導性固体高分子膜または多孔質カーボンシート上に噴霧することにより作製する工程を含む固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法において、高圧流を小径孔を有するノズルを通過させることによって撹拌、破砕を行う、湿式加圧分散による処理をインキに対して行うことを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
【請求項2】
前記湿式加圧分散処理において、ノズルを通過させる際の液体の圧力が30MPa〜200MPaであることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
【請求項3】
前記湿式加圧分散処理において、インキがノズルを通過する回数が1回〜50回であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
【請求項4】
インキ中に存在する触媒担持カーボンとプロトン伝導性粒子からなる粒子の粒径が10〜800nmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の製造方法により作製された固体高分子型燃料電池用電極触媒層において、層の空孔率が70〜90%であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒層。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒層の製造方法により製造された電極触媒層、または請求項5の電極触媒層によってプロトン伝導性固体高分子膜が挟持されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−164993(P2007−164993A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355787(P2005−355787)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】