説明

固体高分子型燃料電池用電極触媒

【課題】 より高い電池性能を有する固体高分子型燃料電池用電極触媒を提供する。
【解決手段】 白金(Pt)を含む触媒成分が導電性カーボンに担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該白金を含む触媒成分の電気化学的有効表面積(ECA)が90m/g−(触媒成分)以上である固体高分子型燃料電池用電極触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池用電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電極触媒として、例えば、特許文献1には、導電性カーボン担体に白金アロイを20〜60質量%の割合で担持したものであって、白金(Pt)アロイのECA(電気化学的面積)が35m/g−Pt以上とする電気触媒が記載されている。
【0003】
電気化学的有効表面積(ECA)はPt系触媒を特徴づけるために使用される。サイクリックボルタンメトリーにより、50〜400mV.vs.RHEにみられる始祖の吸着波から電気二重層の分を差し引き、水素の吸着に関する電気量が測定される。この電気量と210μクーロン/cm−Ptを用いてECAを算出することができる(非特許文献1)。しかし、この測定方法で全てのPt系触媒のCEAを評価できる訳ではない。特に、Pt−Ru系触媒においては、Ruの含有量が高くなるに伴い、電気二重層の電気量が高くなるため、水素吸着波よりECAを算出することは不適であるといわれている(非特許文献2、3)。
【0004】
ECAを評価する測定法として、上述の方法以外に、COストリッピング法がある。この測定方法を適用することにより、Pt−Ru系触媒においても正確なECAを算出することができる。また、COストリッピング法は、Pt−Ru系触媒だけではなく、Pt−Ru系触媒以外のPt系触媒にも適用可能である。
【0005】
また、CO分子を触媒に予め吸着させた後、サイクリックボルタンメトリーによりCOを酸化させ、CO酸化ピーク、サイクリックボルタンメトリーにおける2回目のサイクリックボルタモグラムをベースラインとしCO酸化に関する電気量と420μクーロン/cm の関係を用いて算出された方法もある(非特許文献4、5)。
【0006】
【特許文献1】特公平7−63627号公報
【非特許文献1】J.Electronal.Chem.,7,1964,p382
【非特許文献2】Surf.Sci,2004,573,100−108
【非特許文献3】J.Electrochim.Acta,2007,47,p3693
【非特許文献4】Electrochemistry,70,No.12,2002,p958
【非特許文献5】J.Clectrochem.Soc.,147(12),2000,p.4421
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の電極触媒は、その電池性能が必ずしも十分に高いとはいえない。そこで、本発明の目的は、より高い電池性能を有する固体高分子型燃料電池用電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は下記発明により達成される。
(1)白金(Pt)を含む触媒成分が導電性カーボンに担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該白金を含む触媒成分の電気化学的有効表面積(ECA)が90m/g−(触媒成分)以上である固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(2)触媒成分がPtとRu、Pd、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種とを含むものである上記(1)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(3)触媒成分がPtとRuとPd、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種とを含むものである上記(1)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(4)導電性カーボンが、その表面にSiO の層を形成したものである上記(1)〜(3)のいずれかの固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(5)SiO の担持量が、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、1〜40質量%である上記(4)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極触媒は高い電池性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の電極触媒は、導電性カーボン担体に白金を含む触媒成分を担持したものであり、その触媒成分の電気化学的有効表面積(ECA)が90m/g−(触媒成分)以上であることを特徴とする。
【0011】
上記ECAは下記方法により測定したものである。
(ECA測定方法)
触媒10mgを5%ナフィオン溶液(Aldrich社製)1mLに添加し、超音波により十分に分散させ、触媒ペーストを作成する。この触媒ペースト5μLをグラッシーカーボン電極上に塗布し、乾燥させる。この触媒層をグラッシーカーボン電極上に固定化し、試験電極とする。
【0012】
上記試験電極を25℃に保持された0.1規定の過塩素酸水溶液に浸漬して作用極とし、対極には白金線、参照極には可逆水素電極(RHE)を用いてECAを測定する。まず、30分間アルゴンガスにて脱気を行った後、サイクリックボルタンメトリーにより50〜800mV.vs.RHEの範囲で20回行い、電極のクリーニングを行った。次に、10vol%CO/N ガスに切り替え、系内に供給し、50mV.vs.RHEで1時間保持し、触媒にCOを吸着させる。次いで、アルゴンガスに切り替え、50mV.vs.RHEで30分間保持し、系内のCOの除去を行った。50〜800mV.vs.RHEの範囲でサイクリックボルタンメトリーを2回実施する。この測定結果よりECAを算出する(非特許文献5参照)。
【0013】
本発明の電極触媒において、白金(Pt)を含む触媒成分としては、例えば、PtとRu、Pd、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種とを含むものを挙げることができる。なかでも、PtとRuとPd、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種とを含むものが好適に用いられる。
【0014】
本発明の電極触媒において、導電性カーボンとしては、特に限定はなく、一般に用いられている導電性カーボンを使用することができる。例えば、カーボンブラック、カーボンナノホン、活性炭カーボン、カーボンナノチューブ、フラレンなどが用いられるが、なかでも、カーボンブラック、特に、その表面にSiO の層を形成した、SiO 修飾導電性カーボンが好適に用いられる。
導電性カーボンの表面をSiO 修飾するには、例えば、導電性カーボンを、常法により、シラン化合物および/またはシランカップリング剤で処理すればよい。具体的には、導電性カーボンとシランカップリング剤とを加熱縮合する方法、水熱反応法、プラズマ反応法などが用いられる。
【0015】
上記シラン化合物としては、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等のクロロシラン;テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;テトラエチルオルトシリケートなどが挙げられる。
【0016】
上記シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。なかでも、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0017】
SiO 修飾導電性カーボン担体において、SiO の量は、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%である。
【0018】
本発明の電極触媒は上記SiO 修飾導電性カーボン担体に触媒成分を担持することにより得られる。上記触媒成分の担持は、含浸法、イオン注入法など一般に知られている方法にしたがって行うことができる。
【0019】
触媒成分の量は、導電性カーボン担体とSiO と触媒成分との総質量に対して、0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
<担体調製>
エタノール250gに3−アミノプロピルトリエトキシシラン5gおよびカーボンブラック(Ketjen Black EC、ケッチェンブラックインターナショナル製)10gを添加し、30分間、室温で攪拌を行った。次に、ろ過、水洗後、窒素雰囲気下、110℃で乾燥し、SiO 修飾導電性カーボン担体を得た。次に、このSiO 修飾導電性カーボン担体を1規定の硝酸水溶液100gに加え、室温で2時間攪拌した後、ろ過、水洗を行い、窒素雰囲気下110℃で乾燥した。次に、上記硝酸処理したSiO 修飾導電性カーボン担体を、テトラエチルオルトシリケート21gおよびエタノール230gの溶液に加え、室温で15分間攪拌した後、25%アンモニア水6.8g、水11.2gを添加し、室温で約10時間攪拌を行った。その後、ろ過、水洗を行い、窒素雰囲気下110℃で乾燥し、担体Aを得た。
<触媒調製>
エチレングリコール100mLにNaOH(顆粒状)2gを添加し、窒素雰囲気下、70℃で溶解させた。次に、エチレングリコール100mLにジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(Pt:0.386g)4.79g、硝酸ルテニウム水溶液(Ru:0.425g)9.34gを添加した。このエチレングリコール溶液に、NaOHを溶解させたエチレングリコール溶液を添加し、窒素雰囲気下、室温で1時間攪拌した(脱気)。次に、この溶液を、窒素雰囲気下、90℃(液温)で3時間還流した。冷却後、この溶液に担体Aを0.386g添加し、窒素雰囲気下、室温で、1時間攪拌した(脱気)後で、160℃(液温)で、窒素雰囲気下、3時間還流した。冷却後、攪拌しながら、1N硝酸水溶液を徐々に滴下し、pH1に調整した。固体をろ過し、イオン交換水で十分に洗浄し、窒素雰囲気下110℃で乾燥した後に、水素を用いて300℃で2時間還元処理して触媒Aを作成した。得られた触媒Aを分析したところ、その組成は、Pt:Ru:SiO :カーボンブラック=38:23:9:30(質量%)であった。
<評価>
触媒Aに純水と5質量%ナフィオン分散液(Dupont社製)を加え、超音波洗浄機で30分間処理し、触媒ペーストを作成した。この触媒ペーストをカーボンペーパー(東レ製、TGP−090−H)上にPtRu(触媒成分)が1.0mg/cm となるように塗布、乾燥させ、触媒層を形成した。これをアノード電極とした。また、Johnson Mattey社製のPt担持カーボン触媒(HiSPEC9100)を用いて、同様の方法で触媒ペーストを作成し、Ptがカーボンペーパー(東レ製、TGP−090−H)上に、PtRuが1.0mg/cm となるように塗布、乾燥させ、触媒層を形成した。これをカソード電極とした。上述のようにして得られた電極をホットプレス機にて高分子固体高分子電解質膜(米国Dupont社製、Nafion117膜)に両面に接合し、電極膜接合体(MEA)を作製した。このようにして作製したMEAを用い、燃料電池特性測定用セル(単セル)を組み立て、試験を実施した。セルの温度は60℃とし、アノード側には1Mメタノール水溶液を、カソード側には空気を供給し、電圧−電流特性試験を実施した。結果を図1に示す。電池電圧が0.4Vでの電流密度は80mA/cm であった。
(比較例1)
実施例1において、アノードに用いる触媒を触媒AからJohnson Mattey社製のPt−Ru担持カーボン触媒(HiSPEC10100)に変更した以外は実施例1と同様にしてMEAを作製し、その電池評価を行った。結果を図1に示す。電池電圧が0.4Vでの電流密度は40mA/cm であった。
【0021】
実施例1と比較例1における、各触媒のECAおよび0.4Vでの電流密度をまとめて表1に示す。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1および比較例1における、電圧−電流特性曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金(Pt)を含む触媒成分が導電性カーボンに担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該白金を含む触媒成分の電気化学的有効表面積(ECA)が90m/g−(触媒成分)以上である固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
触媒成分がPtとRu、Pd、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種とを含むものである請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
触媒成分がPtとRuとPd、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種とを含むものである請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
導電性カーボンが、その表面にSiO の層を形成したものである請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
SiO の担持量が、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、1〜40質量%である請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2010−92808(P2010−92808A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264225(P2008−264225)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】