説明

固体高分子形燃料電池用電解質膜、その製造方法及び固体高分子形燃料電池用膜電極接合体

【課題】厚さが薄くても強度が高く、含水時の寸法安定性に優れ、抵抗の低い電解質膜、当該電解質膜の製造方法、出力が高く耐久性に優れる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【解決手段】不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする固体高分子形燃料電池用電解質膜であって、前記不織布は、平均繊維径が0.01〜6μmのポリプロピレンの繊維からなり、かつ、目付量が1.0〜4.0g/mであり、片面又は両面の最外層として、前記イオン交換樹脂と同じでも異なっていてもよいイオン交換樹脂からなる補強されない層を有し、前記補強されない層の総厚みが2〜10μmであり、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜全体の厚みが10〜20μmであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布で補強された固体高分子形燃料電池用電解質膜、その製造方法及び当該電解質膜を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロトン伝導性の高分子膜を電解質として用いる固体高分子形燃料電池の研究が進んでいる。固体高分子形燃料電池は、低温で作動し、出力密度が高く、小型化できるという特徴を有し、車載用電源等の用途に対し有望視されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池用の電解質膜には、通常厚さ10〜200μmのプロトン伝導性イオン交換膜が用いられ、特にスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(以下、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体という。)からなる陽イオン交換膜が基本特性に優れるため広く検討されている。実際の車載を目的とした燃料電池用電解質膜は、膜オーム損が特に低いものが求められてきている。膜オーム損は、その用いられる電解質ポリマーの導電性に依存するものの、特に10〜30μm程度の厚みの電解質膜が検討されつつある。
【0004】
上記陽イオン交換膜の電気抵抗を低減する方法としては、スルホン酸基濃度の増加と膜厚の低減がある。しかし、スルホン酸基濃度が著しく増加すると膜の機械的強度が低下したり、燃料電池の長期運転において膜がクリープしやすくなり、燃料電池の耐久性が低下する等の問題が生じる。一方、膜厚を低減すると膜の機械的強度が低下し、膜をガス拡散電極と接合させて膜電極接合体を作製する場合に、加工しにくくなったり取扱いにくくなる等の問題が生じる。
【0005】
また、上記の電解質膜は含水時に寸法が増大しやすく、様々な弊害を生じやすい。例えば、膜電極接合体を作製する場合には、寸法変化によって取り扱いが困難になるという問題がある。膜電極接合体を燃料電池セルに組込んで運転を行う場合には、反応により生成した水や燃料ガスとともに供給される水蒸気等により膜が膨潤し、膜の寸法が増大する。通常、膜と電極は接合しているので電極も膜の寸法変化に追従する。膜電極接合体は通常ガスの流路として溝が形成されたセパレータ等で拘束されているため、膜の寸法増大分は「しわ」となる。そして、そのしわがセパレータの溝を埋めてガスの流れを阻害することがある。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)からなる多孔質体にスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体を含浸する方法が提案されている(特許文献1)。しかしPTFEの多孔質体はその材質に由来し比較的軟質であるために、延伸倍率の高い延伸操作をほどこすことが求められ、高生産性であるとは言いがたい。また、ポリオレフィンからなる多孔質体にイオン交換樹脂を充填する方法も提案されているが(特許文献2)、膜抵抗の上昇が大きく、実用上十分でない。
【0007】
また、特許文献3では、ポリエチレン繊維、織布、不織布により補強された固体高分子形燃料電池用電解質膜が提案されている。これらの補強体は、ポリエチレンの耐熱性が低いため、燃料電池の運転環境では補強体として構造を維持できない懸念がある。また、不織布に関する提案では目付量が比較的大きく、実際の運転環境では膜抵抗の上昇を招くと考えられる。
【0008】
また、特許文献4では、フッ素樹脂の不織布により補強された固体高分子形燃料電池用電解質膜が提案されている。これらの手法により、十分な性能と耐久性を併せ持つ高性能・高耐久燃料電池用電解質膜が得られるが、これらの補強体は材料粘度が高く、細い繊維径をもつ不織布を安定的に製造することは困難であり、また、強度の高い不織布を作製するには、一部のフッ素樹脂に関してはイオン交換樹脂との界面の密着性が弱く、表面処理を行ったとしても十分に抵抗の上昇を抑えることが困難な場合がある。
【0009】
【特許文献1】特公平5−75835号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特公平7−68377号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−231928号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2007−18995号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、厚さが薄くても強度が高く、含水時の寸法安定性に優れ、抵抗の低い固体高分子形燃料電池用電解質膜を高い生産性を実現しながら提供することを目的とする。
【0011】
さらに、厚さが薄くても強度が高く、含水時の寸法安定性に優れ、抵抗の低い固体高分子形燃料電池用電解質膜を高い生産性で製造することができる固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造右方法を提供する。
【0012】
さらにこのような電解質膜を有することにより、出力が高く耐久性に優れる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質膜は、不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする固体高分子形燃料電池用電解質膜であって、前記不織布は、平均繊維径が0.01〜6μmのポリプロピレンの繊維からなり、かつ、目付量が1.0〜4.0g/mであり、片面又は両面の最外層として、前記イオン交換樹脂と同じでも異なっていてもよいイオン交換樹脂からなる補強されない層を有し、前記補強されない層の総厚みが2〜10μmであり、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜全体の厚みが10〜20μmであることを特徴とする。
【0014】
90℃の温水中に2時間浸漬させたときの、前記不織布の質量分率が5〜10質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法は、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜は、平均繊維径が0.01〜6μmのポリプロピレンの繊維からなり目付量が1.0〜4.0g/mである不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする固体高分子形燃料電池用電解質膜であり、片面又は両面の最外層として前記イオン交換樹脂と同じでも異なっていてもよいイオン交換樹脂からなる補強されない層が配置されており、前記補強されない層の総厚みが2〜10μmであり、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜全体の厚みが10〜20μmであり、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜を乾燥する乾燥工程を有し、前記乾燥工程は、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜にエタノールを塗布して150℃以下で乾燥を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、触媒とイオン交換樹脂とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、該カソードと該アノードとの間に配置される高分子電解質膜と、を備える固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、前記高分子電解質膜は本発明の固体高分子形燃料電池用電電解質膜からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質膜は、補強による抵抗の上昇が少なく、含水時の寸法安定性に優れ、高い生産性を有する。
【0018】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法によれば、厚さが薄くても強度が高く、含水時の寸法安定性に優れ、抵抗の低い固体高分子形燃料電池用電解質膜を高い生産性で製造することができる。
【0019】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、出力が高く耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質膜(以下、電解質膜ともいう。)は、必要最小限の目付量のポリプロピレン樹脂の繊維からなる不織布を用いて補強することで、補強による抵抗の上昇が少なく、含水時の寸法安定性に優れ、さらに高い生産性を有することから低コスト化とすることができる。
【0021】
本発明において不織布とは、JIS L−0222にも記載されるとおり、繊維シート、ウェブ又はパットで、繊維が一方向又はランダムに配列しており、交絡、及び/又は融着、及び/又は接着によって繊維間が結合されたものである。本発明の電解質膜に用いられる不織布は、融着により繊維間が結合していると抵抗の上昇を抑えることができるので好ましい。
【0022】
本発明の電解質膜に用いる不織布は、ポリプロピレン樹脂の繊維からなる。本発明に用いる不織布の繊維は、アスペクト比10000以上を有することが好ましい。繊維長は20mm以上であることが望ましい。
【0023】
本発明における不織布は、アスペクト比の大きい繊維からなることにより、繊維同士の充分な絡み合いが形成され、力学的欠陥と成り得る繊維端部の数が著しく少ない。また、繊維間の交点の少なくとも一部が固定化されているため、弾性率が高い。
【0024】
本発明の電解質膜に用いる不織布は、繊維の平均繊維径(直径)が、0.01〜6μmであり、0.01〜3μmであることがより好ましく、0.1〜3μmであることが特に好ましい。
【0025】
なお、本発明における平均繊維径は、電子顕微鏡観察において、繊維200本の繊維径を測定し、データのうち最も細い10本のデータと太いデータ10本を除いた平均値を平均繊維径とする。
【0026】
繊維の平均繊維径を6μm以下とすることで、プロトン移動が円滑に行われ、不織布の厚みも抑えることができるため、補強による抵抗の上昇を抑えることができる。また、平均繊維径を6μm以下とすると、同一膜厚における繊維間の交点を増すことができるため、不織布の強度を増強でき、電解質膜の寸法安定性を向上しうる。一方、平均繊維径を0.01μm以上とすることで、繊維1本あたりの引張強度を強くすることができ、ハンドリングの点で実用上使用することが容易となる。
【0027】
本発明の電解質膜に用いる不織布の目付け量は、1.0〜4.0g/mであり、好ましくは2.0〜3.0g/mである。目付量を1.0g/m以上とすることで十分な強度を有し、4.0g/m以下とすることで、電解質膜の抵抗の上昇を抑えることができる。
【0028】
本発明における不織布に対しては、放射線照射、プラズマ照射及び金属ナトリウムによる化学処理からなる群から選ばれる1種以上の表面処理を行うことが好ましい。これらの表面処理を行うことにより、繊維表面に−COOH基、−OH基、−COF基等の極性基が導入され、マトリックスとなるイオン交換樹脂と補強材となる不織布との界面の密着性を高めることができ、その結果、補強効果を高めることができる。
【0029】
本発明において電解質膜の主成分であるイオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂であればよく、炭化水素系重合体や部分フッ素化された炭化水素系重合体からなる陽イオン交換樹脂等が使用できる。燃料電池に使用する場合は、耐久性に優れるスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換樹脂が好ましい。電解質膜中のイオン交換樹脂は、単一のイオン交換樹脂からなってもよいし、2種以上のイオン交換樹脂を混合したものであってもよい。
【0030】
スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体としては、公知の重合体が広く採用される。例えば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体は、SOF基を有する樹脂からなる前駆体を加水分解及び酸型化処理して得られる。なお、本明細書において、パーフルオロカーボン重合体は、エーテル結合性の酸素原子等を含んでいてもよい。
【0031】
上記SOF気を有する樹脂からなる前駆体としては、汎用のスルホン酸基含有パーフルオロカーボン重合体を製造するために使用されている下記式(1)で表されるフルオロスルホニル基含有パーフルオロ化合物や、下記式(2)〜(6)で表される、フルオロスルホニル基を1又は2個有するパーフルオロ化合物に基づくモノマー単位と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンのようなパーフルオロオレフィン、クロロトリフルオロエチレン、又はパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づくモノマー単位とを含む共重合体が好ましい。特に下記フルオロスルホニル基含有パーフルオロ化合物に基づくモノマー単位とテトラフルオロエチレンに基づくモノマー単位とを含む共重合体が特に好ましい。
【0032】
また、上記SOF基を有する樹脂からなる前駆体としては、下記のフルオロスルホニル基含有パーフルオロ化合物に基づくモノマー単位を2種以上含有してもよい。
【0033】
【化1】

【0034】
ただし、式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基、nは1〜12の整数、mは0〜3の整数、pは0又は1(ただし、m+p>0)を示す。kは2〜6の整数を示す。Rf1、Rf2は、それぞれ独立に、単結合又はエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖パーフルオロアルキレン基を示す。qは0又は1を示す。Rf3は、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基を示す。Rf4、Rf5は、それぞれ独立に、炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基を示す。Rf6は、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基を示す。
【0035】
スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の重量平均分子量は、1×10〜1×10が好ましく、特に5×10〜5×10が好ましい。重量平均分子量が1×10以上であれば、膨潤度等の物性が経時的に変化しにくく、電解質膜の耐久性が充分となる。重量平均分子量が1×10以下であれば、溶液化及び成形が容易となる。
【0036】
また、パーフルオロカーボン重合体以外の重合体の陽イオン交換樹脂としては、例えば下記式(1)で表されるモノマー単位と下記式(2)で表されるモノマー単位とを含む重合体が挙げられる。ここで、Pはフェニルトリール基、ビフェニルトリール基、ナフタレントリール基、フェナントレントリール基、アントラセントリール基であり、Pはフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、フェナントリレン基、アントラシレン基であり、Aは−SO基(Mは水素原子又はアルカリ金属原子、以下同じ)、−COOM基又は加水分解によりこれらの基に転換する基であり、B、Bはそれぞれ独立に酸素原子、イオウ原子、スルホニル基又はイソプロピリデン基である。P及びPの構造異性は特に限定されず、P及びPの水素原子の1個以上がフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は炭素数1〜3のアルキル基に置換されていてもよい。
【0037】
【化2】

【0038】
本発明におけるイオン交換樹脂のイオン交換容量としては、燃料電池用の高分子電解質膜として使用する場合は0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂、特に0.7〜1.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂であることが好ましい。イオン交換容量が低すぎると抵抗が大きくなる。一方、イオン交換容量が高すぎると水に対する親和性が強すぎるため、発電時に電解質膜が溶解するおそれがある。
【0039】
本発明の電解質膜は、片面又は両面の最外層として、不織布で補強されたイオン交換樹脂と同じでも異なっていてもよいイオン交換樹脂からなる補強されない層を有する。これにより、本発明の電解質膜を固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜として使用するとき、電解質膜と電極の接合部における抵抗を低下させることができる。本発明においては、両面の最外層として、補強されない層を有することが好ましい。
【0040】
本発明において、イオン交換樹脂からなる補強されない層の厚みは2〜10μmであり、4〜8μmであることがより好ましい。厚みが2μm以上となると、燃料電池の燃料ガスのバリアー性に優れ、厚みが10μm以下になると、膜抵抗上昇と寸法変化を抑えることができる。
【0041】
なお、本明細書において補強されない層の厚みは、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、SEM等の断面観察より測定することできる。補強されない層の厚みは、電解質膜表面と不織布の繊維との最短距離を意味する。
【0042】
また、イオン交換樹脂からなる補強されない層は、補強材以外の抵抗上昇を招かない成分を含んでいてもよい。
【0043】
本発明の電解質膜を固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜として使用するとき、プロトンの移動は不織布の繊維に遮蔽される。補強されない層の厚みが薄すぎると、電流が繊維を回避して迂回するための距離が大きくなり、不要な抵抗上昇の要因となり得る。特に補強されない層の厚みが不織布の繊維の平均繊維径の半分以下である場合は、抵抗の上昇が起こりやすくなる。補強されない層の厚みが不織布の繊維の平均繊維径の値である場合には、電流の迂回距離が小さく済み、結果として抵抗の不要な上昇を避けられ好ましい。
【0044】
本発明の電解質膜は、電解質膜全体の厚みが10〜20μmであり、好ましくは12〜18μmである。
【0045】
電解質膜全体の厚さを20μm以下とすることで、抵抗を小さくすることができ、また、燃料電池の高分子電解質膜として使用する場合、薄いほうがカソード側で生成する生成水の逆拡散を起こし易くすることができる。電解質膜全体の厚さを10μm以上とすることにより、力学的強度を十分に高めることができ、ガス漏れ等の発生を抑えることができる。
【0046】
また、上記の電解質膜の膜厚の観点から、不織布の厚さは好ましくは0.5〜16μm以下であり、特に好ましくは8〜16μmである。
【0047】
不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする電解質膜を作製する方法としては、例えば、(1)不織布に、イオン交換樹脂の溶液又は分散液を塗工又は含浸させた後、乾燥し造膜するキャスト法、(2)不織布に、あらかじめ形成しておいたイオン交換樹脂の膜状物を加熱積層して一体化する方法等が挙げられる。この不織布とイオン交換樹脂との複合膜を延伸処理等によって強化してもよい。
【0048】
上述のように不織布とイオン交換樹脂との複合膜を形成した時点で、その最外層としてイオン交換樹脂からなる補強されない層が形成されていることもある。また、複合膜の形成に続いて、該複合膜の表面にイオン交換樹脂の溶液又は分散液をコーティングしたり、イオン交換樹脂の単膜を積層したりすることによってもイオン交換樹脂からなる補強されない層を形成することができる。
【0049】
本発明の電解質膜は、90℃の温水中に2時間浸漬させたときの不織布の質量分率が5〜10質量%が好ましく、5〜8質量%が特に好ましい。5質量%以上とすることで、寸法変化を抑制し、10質量%以下とすることで、膜抵抗上昇の低い電解質膜を得ることができる。90℃の温水中に2時間浸漬させたときの不織布の質量分率とは、90℃の温水中に2時間浸漬させた電解質膜の質量に対しての不織布の質量の割合である。
【0050】
本発明の電解質膜の製造方法では、固体高分子形燃料電池用電解質膜を乾燥する乾燥工程を有しており、乾燥工程では、固体高分子形燃料電池用電解質膜にエタノールを塗布して150℃以下で乾燥を行う。乾燥を行うことにより、電解質膜の寸法安定性を向上させることができる。また、エタノールを塗布して乾燥させることで、電解質膜の乾燥温度を150℃以下としても十分に乾燥を行うことができるので、ポリプロピレン不織布の熱劣化を回避することができる。乾燥温度範囲は110〜150℃が好ましく、130〜150℃が特に好ましい。
【0051】
本発明の電解質膜は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の高分子電解質膜として用いられる。固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、触媒とイオン交換樹脂とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、該カソードと該アノードとの間に配置される高分子電解質膜と、を備える。
【0052】
固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は通常の手法に従い、例えば以下のようにして得られる。まず、白金触媒又は白金合金触媒微粒子を担持させた導電性のカーボンブラック粉末と電解質材料とを含む液状組成物からなる均一な分散液を得て、以下のいずれかの方法でガス拡散電極を形成して膜電極接合体を得る。
【0053】
第1の方法は、電解質膜の両面に上記分散液を塗布し乾燥後、両面を2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパーで密着する方法である。第2の方法は、上記分散液を2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパー上に塗布乾燥後、分散液が塗布された面が電解質膜と密着するように、電解質膜の両面から挟みこむ方法である。第3の方法は、上記分散液を別途用意した基材フィルム上に塗布、乾燥して触媒層を形成した後、電解質膜の両面に電極層を転写し、さらに2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパーで両面を密着する方法である。なお、ここでカーボンクロス又はカーボンペーパーは触媒を含む層により均一にガスを拡散させるためのガス拡散層としての機能と集電体としての機能を有するものである。
【0054】
得られた膜電極接合体は、燃料ガス又は酸化剤ガスの通路となる溝が形成されセパレータの間に挟まれ、膜電極接合体のアノード側には水素ガスが供給され、カソード側には酸素又は空気が供給され固体高分子形燃料電池が得られる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。例1〜3は実施例であり、例4〜15は比較例である。
【0056】
〔例1〕
〔イオン交換樹脂からなる補強されない層(単層)の製造〕
CF=CFとCF=CF−OCFCF(CF)−OCFCFSOFとを共重合し、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の前駆体を得た。この前駆体を加水分解及び酸型化処理してイオン交換容量が1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂であるイオン交換樹脂に変換し、次いで、このイオン交換樹脂の水とエタノール溶液の混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度15質量%)を調整した。次いで、この溶液に硝酸セリウムを蒸留水に溶解した溶液を添加し、イオン交換樹脂中のスルホン酸基の15%をCe3+でイオン交換した樹脂(以下、イオン交換樹脂(A)という)の溶液を得た。この溶液をダイコートにより旭硝子社製フッ素樹脂(商品名:フィルムアフレックス)品番100N(厚み100μm)の上に流延し、80℃15分間乾燥し、上記イオン交換樹脂(A)からなる補強されていない単層を得た。
【0057】
〔不織布連続体の製造〕
材料にポリプロピレンを用い、化繊ノズル社製のメルトブローン製造装置を使用し、温度、延伸用ホットエアー、流量を適宜調整して、平均繊維径が2.0μm、目付け量が3.0g/mのポリプロピレンの不織布連続体RA1を作製した。
【0058】
〔厚み調整(厚密化)〕
次に、図1に示す簡易積層装置(TAISEI LAMINATOR社製VAII−700)を用いて、ポリプロピレンの不織布連続体RA1(41)を市販の厚さ100μmの連続ポリエチレンテレフタレート支持体42上に載せ、厚密化して、連続PET支持体/厚密化不織布連続体RAP1(43)を得た。
【0059】
厚密化不織布連続体RAP1の接触式マイクロメータ(キーエンス社製:AT−005V 5mmΦ円形Tip)による厚み測定をしたところ、平均9.3μmであった。なお、厚密化の際の金属ロール44の温度及びゴムロール45の温度は120℃、ロール加圧の力は600mmのロール面長に対して0.026MPa/mであり、連続PET支持体の送り速度は0.15m/分であった。得られた連続PET支持体/厚密化不織布RAP1(43)の仮圧着品は、ハンドリング性に優れていた。
【0060】
〔電解質膜形成〕
さらに図1の簡易積層装置(TAISEI LAMINATOR社製VAII−700)を用いて、連続PET支持体/厚密化不織布連続体RAP1と、単層とを熱圧着せしめ、連続PET支持体/中間積層体P1を得た。なお、厚密化の際の金属ロール44の温度及びゴムロール45の温度は120℃、ロール加圧の圧力は600mmのロール面長に対して0.026MPa/mであり、連続PET支持体/中間積層体P1の挿入速度は0.15m/分であった。
【0061】
次に、図2に示す連続コーティングシステムを用いて、連続PET支持体/中間積層体P1から連続PET支持体を剥がした中間積層体P1(51)を用いて、剥がした面にイオン交換樹脂(A)の水とエタノール溶液の混合液(固形分濃度15質量%)の溶液を用いて、ダイコータ52により塗工し乾燥炉53にて80℃20分間乾燥させた。
【0062】
その後、得られた電解質膜にエタノールを25g/mダイコート52により塗布し、140℃30分の条件で、残留溶媒等を乾燥させて補強された電解質膜R1を得た。なお、電子顕微鏡の断面観察から、表面の補強されない層の総厚みは約8.3μmであり、補強膜全体の厚みは15.6μmであった。
【0063】
[含水時の不織布質量分率及び寸法変化率測定]
電解質膜R1を90℃のイオン交換水に2時間浸漬した後の、単位面積あたりの電解質膜R1の質量を測定した。測定した単位面積あたりの質量と不織布の目付量から、90℃のイオン交換水に2時間浸漬させたときの不織布の質量分率を求めた。
【0064】
また、電解質膜R1を縦方向、横方向それぞれ2枚、短冊型(2cm×10cm)に切り出し、短辺方向と平行に6cm間隔のラインを引く。温度25℃、湿度50%の雰囲気に2時間曝し、ライン間の長さを測定する。次に、2枚のサンプルの内、一方には20mN、もう一方には60mNの張力が掛かった状態で、90℃のイオン交換水に2時間浸漬した後、水中でライン間の長さを測定する。ここで測定されたサンプルの伸びから、張力の影響を取り除くために、(1)式により、張力が0となるサンプルの伸びを算出し、縦方向の伸びと横方向の伸びの平均値を求め、寸法変化率とした。
(張力0Nの伸び)=(張力20mNの伸び)−((張力60mNの伸び)−(張力20mNの伸び))÷2 ・・・(1)。
【0065】
[燃料電池の作製及び評価]
燃料電池セルを以下のようにして組み立てる。まずイオン交換樹脂(A)をエタノールと水の混合溶媒(質量比で1:1)に投入し、還流機能を有したフラスコ内で60℃16時間撹拌して溶解し、固形分9%のポリマー溶液を得る。次に白金担持カーボンを水、エタノールの順で逐次添加することにより、エタノールと水の混合分散媒(質量比で1:1)に分散した触媒分散液(固形分9質量%)を得る。その後、ポリマー溶液と触媒分散液を4:5の質量比で混合し、塗工液を作製する。次にこの塗工液をETFE基材上にダイコート法で塗工し、乾燥して厚さ10μm、白金担持量0.2mg/cmの触媒層を形成する。次に電解質膜R1にこの触媒層を熱プレスにより(温度130℃、圧力2.6MPa)接着し、さらにその両外側にカーボンクロスをガス拡散層として配置することにより、膜電極接合体が得られる。この膜電極接合体の両外側にガス通路用の細溝をジグザグ状に切削加工したカーボン板製のセパレータ、さらにその外側にヒータを配置することにより、有効膜面積25cmの固体高分子形燃料電池が組み立てられる。
【0066】
燃料電池の温度を80℃に保ち、カソードに空気、アノードに水素をそれぞれ0.2MPaで供給し、電流密度1.0A/cmで16時間発電する。次にカソードに窒素、アノードに水素をそれぞれ0.2MPaで供給し、1mVの交流印加電圧を周波数20kHz〜5Hzまで掃印し、インピーダンスを測定する。このとき、インピーダンスの位相角が0度となる周波数のセル抵抗を測定し、この抵抗値から接触抵抗等を差し引くことで、膜単体の比抵抗値とする。結果は、表1に示すとおりとなった。なお、接触抵抗等については、厚みが15、20、25μmの無補強膜のセル抵抗RE、RE、REを測定し、(2)式より算出した。
(接触抵抗等)=(35RE+5RE−25RE)÷15 ・・・(2)。
【0067】
〔例2〕
CF=CFとCF=CF−OCFCF(CF)−OCFCFSOFとCF=CF−OCFCF(OCFCFSOF)−OCFCFSOFとを共重合し、それぞれのモノマー単位の割合が82.6mol%、7.8mol%、9.6mol%であるスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の前駆体を得た。この前駆体を加水分解及び酸型化処理してイオン交換容量が1.52ミリ当量/グラム乾燥樹脂であるイオン交換樹脂に変換し、次いで、このイオン交換樹脂の水とエタノール溶液の混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度10質量%)を調整した。次いで、この溶液に硝酸セリウムを蒸留水に溶解した溶液を添加し、イオン交換樹脂中のスルホン酸基の10%をCe3+でイオン交換した樹脂(以下、イオン交換樹脂(B)という)の溶液を得た。
【0068】
イオン交換樹脂(A)溶液の代わりに、上記のイオン交換樹脂(B)の水とエタノールの混合液を溶媒とする溶液を用いた以外は例1と同様の手法により、電解質膜R2を作製した。電解質R2の補強されない層の厚さは、約6.5μmであり、電解質膜R2全体の厚さは16.3μmであった。電解質膜R2について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0069】
〔例3〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が0.9μm、目付量2.6g/mのポリプレンの不織布連続体RA3を作製した。
【0070】
ポリプロピレンの不織布連続体RA1の代わりに、ポリプロピレンの不織布連続体RA3を用い、厚み調整(厚密化)を行って不織布連続体RA3の厚みを11.5μmとした後に、市販のコロナ放電処理機(tantec社Corona Generator Model HV 05−2)を用いてコロナ放電により表面処理を行った以外は、例2と同様の手法により、電解質膜R3を作製した。電解質R3の補強されない層の厚さは、約5.8μmであり、電解質膜R3全体の厚さは12.8μmであった。電解質膜R3について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0071】
〔例4〕
ポリプロピレンの不織布連続体RA1の代わりに、帝人デイーエスエム・ソルテック社製ポリエチレン多孔体を用い、厚み調整(厚密化)を行わないこと以外は、例1と同様の手法により、電解質膜R4の作製を試みたが、製膜時の乾燥(温度140℃)時にポリエチレン多孔体に熱変形が生じたため、電解質膜R4を作製することができなかった。
【0072】
〔例5〕
図3に示すように、口径30mmの単軸押出機31(L/D=24:田辺プラスティック社製)に、流量調整構造と加熱エアー導入構造をもつ特殊ダイ32を取り付け、その先端部に有効幅10cmに、内径300μmの円形吐出口10本を直線状に配し、その配列方向と平行に、吐出樹脂に延伸応力がかかるように延伸用ホットエアー36を500μmのスリットから噴出させることが可能な延伸エアー吹き出し口331を有する化繊ノズル社製のメルトブローン不織布製造用特殊ノズル33を用い、旭硝子社製パーフルオロ樹脂(商品名:アフロンPFA(MFR 40g/10分))を用い、ダイ温度360℃、延伸用ホットエアー36を温度330℃で、3Nm/hrの流量で噴出、駆動ステージ上37上の吸引ポンプ381を有するエアー吸引装置38に設置せしめた20メッシュのステンレスメッシュ35上にガス吸引口に設置せしめたステンレスメッシュ(20メッシュ)を連続的に6m/分の速度で一方向に駆動せしめ、幅約5cm、平均繊維径が3.5μm、目付け量が1.6g/mの不織布A1(34)を形成した。しかしながら、形成した不織布は、繊維径にばらつきがあり、所望する繊維径の不織布を得るための歩留まりは50%であった。これは、同じ繊維径2.6μmのポリプロピレン不織布を得るための歩留まり80%に比べて低い。不織布A1は、内径3インチ、肉厚7mmの紙管に巻き取ることができ、長さ3mの不織布連続体RA5を得た。
【0073】
ポリプロピレンの不織布連続体RA1の代わりに、PFAの不織布連続体RA5を用い、厚み調整(厚密化)を行って厚みを11.5μmとした後に、例3に記載のコロナ放電処理機を用いてコロナ放電により表面処理を行った以外は、例2と同様の手法により、電解質膜R6を作製した。電解質R6の補強されない層の厚さは、約6.2μmであり、電解質膜R6全体の厚さは16.9μmであった。電解質膜R3について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0074】
〔例6〕
例5に記載の単軸押出機と、特殊ダイ、メルトブローン不織布製造用特殊ノズルを用いて、旭硝子社製ETFEフッ素樹脂(商品名:アフロンCOP(MFR 40g/10分))を用い、ダイ温度360℃、延伸用ホットエアーを温度330℃で、3Nm/hrの流量で噴出させて、ガス吸引口に設置せしめたステンレスメッシュ(20メッシュ)上に平均繊維径が5μm、目付量が1.5g/mの不織布連続体RA6の作製を試みたが、繊維が切れやすく、安定して繊維を形成することができなかったため、作製することができなかった。
【0075】
〔例7〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が0.01μm未満、目付量4.0g/mのポリプレンの不織布連続体RA7の作製を試みた。しかしながら、繊維が形成されてもコレクター上への集積効率が低く、多くが周辺空間に飛散した。一部、コレクター上に集積されたものを布状連続体として回収を試みたが、繊維間の結合が弱く、布状として回収できなくなり、不織布連続体RA7の作製することができなかった。
【0076】
〔例8〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が6.5μm、目付量4.0g/mのポリプレンの不織布連続体RA8の作製を試みたが、繊維の本数が少ないとともに、繊維間の密着も弱く、布状連続体として巻き取ることができず、不織布連続体RA8を作製することができなかった。
【0077】
〔例9〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が0.9μm、目付量0.9g/mのポリプレンの不織布連続体RA9の作製を試みたが、繊維の本数が少ないとともに、繊維間の密着も弱く、3inch紙間に布状連続体として巻き取ることができず、不織布連続体RA9を作製することができなかった。
【0078】
〔例10〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が2μm、目付量5.11g/mのポリプレンの不織布連続体RA10を作製した。
【0079】
ポリプロピレンの不織布連続体RA1の代わりに、ポリプロピレンの不織布連続体RA10を用い、厚み調整(厚密化)を行って厚みを13μmとした以外は、例1と同様の手法により、電解質膜R10を作製した。電解質R10の補強されない層の厚さは、約7.8μmであり、電解質膜R10全体の厚さは18.8μmであった。電解質膜R10について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0080】
〔例11〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が2μm、目付量4g/mのポリプレンの不織布連続体RA11を作製した。
【0081】
ポリプロピレンの不織布連続体RA1の代わりに、ポリプロピレンの不織布連続体RA11を用い、厚み調整(厚密化)を行って厚みを13μmとした以外は、例1と同様の手法により、電解質膜R11を作製した。電解質R11の補強されない層の厚さは、約14.0μmであり、電解質膜R11全体の厚さは21.0μmであった。電解質膜R11について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0082】
〔例12〕
例3に記載のコロナ放電処理機をコロナ放電により表面処理を、厚み調整(厚密化)を行った後に行った以外は、例2と同様の手法により、電解質膜R12を作製した。電解質R12の補強されない層の厚さは、約10.4μmであり、電解質膜R12全体の厚さは15.7μmであった。電解質膜R12について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0083】
〔例13〕
材料にポリプロピレンを用い、例1に記載のメルトブローン製造装置を使用し、延伸用ホットエアーの温度、流量を調整して、平均繊維径が2μm、目付量2.6g/mのポリプレンの不織布連続体RA13を作製した。
【0084】
ポリプロピレンの不織布連続体RA1の代わりに、ポリプロピレンの不織布連続体RA13を用い、厚み調整(厚密化)を行って不織布の厚みを8.5μmとした後に、例3に記載のコロナ放電処理機を用いてコロナ放電により表面処理を行い、さらに単膜の厚さを調整した以外は、例1と同様の手法により、電解質膜R13を作製した。電解質R13の補強されない層の厚さは、1.0μm未満であり、電解質膜R13全体の厚さは8.6μmであった。電解質膜R13について、例1と同様に燃料電池を作製し評価を試みたが、水素クロスリークが大きく発電を行うことができなかったので、評価することができなかった。
【0085】
〔例14〕
イオン交換樹脂(A)の水とエタノールの混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度15%)をダイコートにより旭硝子社製アフレックス(商品名)上に塗布し、80℃20分間乾燥し、上記イオン交換樹脂(A)からなる厚み25μmの単膜を得た。該単膜にエタノールを25g/m塗布し、140℃で30分乾燥し、電解質膜14を得た。電解質膜R14について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0086】
〔例15〕
イオン交換樹脂(B)の水とエタノールの混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度10%)をダイコートにより旭硝子社製アフレックス(商品名)上に塗布し、80℃20分間乾燥し、上記イオン交換樹脂(B)からなる厚み25μmの単膜を得た。該単膜にエタノールを25g/m塗布し、140℃で30分乾燥し、電解質膜R15を得た。電解質膜R15について、例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、含水時の寸法安定性に優れ、抵抗の低い電解質膜を安価な材料を用いて生産性高く得ることができるから低コストである。そしてこの電解質膜を用いて得られた膜電極接合体は、出力が高く安定性に優れ安価であり、高い発電性能と耐久性を有する固体高分子形燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】不織布厚密化・PET仮圧着の連続加工装置概略図である。
【図2】補強された電解質膜製造のための連続塗工システム概略図である。
【図3】メルトブローン不織布製造装置で用いられる押出システム概略図である。
【符号の説明】
【0090】
31:単軸押出機
32:特殊ダイ
33:メルトブローン不織布製造法特殊ノズル
34:不織布A1
35:ステンレスメッシュ
36:延伸用ホットエアー
37:駆動ステージ
38:エアー吸引装置
39:余剰樹脂排出口
41:不織布連続体RA1
42:連続PET支持体
43:連続PET支持体/厚密化不織布連続体RAP1
44、54:金属ロール
45、55:ゴムロール
51:中間積層体P1
52:ダイコーター
53:乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする固体高分子形燃料電池用電解質膜であって、
前記不織布は、平均繊維径が0.01〜6μmのポリプロピレンの繊維からなり、かつ、目付量が1.0〜4.0g/mであり、
片面又は両面の最外層として、前記イオン交換樹脂と同じでも異なっていてもよいイオン交換樹脂からなる補強されない層を有し、
前記補強されない層の総厚みが2〜10μmであり、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜全体の厚みが10〜20μmであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
90℃の温水中に2時間浸漬させたときの、前記不織布の質量分率が5〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法であって、
前記固体高分子形燃料電池用電解質膜は、平均繊維径が0.01〜6μmのポリプロピレンの繊維からなり目付量が1.0〜4.0g/mである不織布で補強されたイオン交換樹脂を主成分とする固体高分子形燃料電池用電解質膜であり、片面又は両面の最外層として前記イオン交換樹脂と同じでも異なっていてもよいイオン交換樹脂からなる補強されない層が配置されており、前記補強されない層の総厚みが2〜10μmであり、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜全体の厚みが10〜20μmであり、
前記固体高分子形燃料電池用電解質膜を乾燥する乾燥工程を有し、前記乾燥工程は、前記固体高分子形燃料電池用電解質膜にエタノールを塗布して150℃以下で乾燥を行うことを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項4】
触媒とイオン交換樹脂とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、該カソードと該アノードとの間に配置される高分子電解質膜と、を備える固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、前記高分子電解質膜は請求項1又は2の固体高分子形燃料電池用電電解質膜からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−252723(P2009−252723A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103385(P2008−103385)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】