説明

固化剤

【課題】 ほぼ中性でありかつ重金属やFの溶出が防止され、土壌を固化処理する際の作業性に優れる固化剤を提供する。
【解決手段】 土壌を固化改良する固化剤は、製鋼スラグと固化を促進する固化促進剤とを含む。製鋼工程1で生成され、選鉱工程3を経て固化剤製造工程4の粉砕工程41で微粉砕される微粉状製鋼スラグ8は、塩基度を0.8〜1.6、組成を(F):0.4%未満、(CaO):35〜65%、(SiO):20〜55%、(Al):4〜9%、F溶出量を0.8mg/L未満、6価Cr溶出量を0.05mg/L未満、粒度を1700〜4000ブレーン、とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば軟弱な建設土壌などに混合して土壌を固化改良する固化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
低湿地などで建設工事を行う場合や河川の浚渫泥土などを再生処理する場合、軟弱な土壌を固化改良することが行われる。従来、土壌を固化改良する固化剤としてセメント系の固化剤が用いられている。セメント系固化剤は、高アルカリであるため、固化剤で処理された土壌に接触した雨水などが高アルカリ水として流出し、周辺の植栽などに悪影響を及ぼすことがある。またセメント系固化剤には、鉄鋼生産の副産物として生成する高炉スラグを有効利用する高炉セメントを主材料とするものがある。このような高炉セメントを用いるセメント系固化剤では、セメント材料に由来する6価Cr(Cr6+)およびセレン(Se)などの重金属やフッ素(F)が雨水によって溶出し、周辺環境に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0003】
セメント系固化剤の高アルカリの問題を解決する一つの方法として、アルカリを中和する中和剤を含有させることが提案されている(たとえば特許文献1参照)。また他の方法として、たとえば石膏を成分とする非セメント系の固化剤が提案されている(たとえば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−282894号公報
【特許文献2】特開2004−323599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、主材が高炉セメントであるセメント系固化剤に中和剤を含有させて高アルカリの問題を解消するとしても、セメント材料に由来する重金属やFの溶出を十分に防止することができないという問題がある。また非セメント系固化剤は、高アルカリの問題および重金属等の溶出の問題を解消することができるけれども、土壌を固化改良する施工に際して固化反応が急速に進むので、施工時の作業性が良くないという問題やコスト高となる問題がある。
【0005】
本発明の目的は、土壌を固化改良する固化剤において、ほぼ中性でありかつ重金属やFの溶出が防止され、固化処理をする施工時の作業性に優れる固化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、土壌を固化改良する固化剤において、
製鋼スラグと、土壌の固化を促進する固化促進剤と、を含み、
製鋼スラグは、
塩基度(CaO/SiO)が、0.8〜1.6、
組成が、質量%で、(F):0.4%未満、(CaO):35〜65%、(SiO):20〜55%、(Al):4〜9%、
Fおよび6価Crの水に対する溶出量が、それぞれF:0.8mg/L未満、6価Cr:0.05mg/L未満、
粒度が、1700〜4000ブレーン、であることを特徴とする固化剤である。
【0007】
また本発明で、前記固化促進剤は、半水石膏および高分子凝集剤のうち少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0008】
また本発明で、前記固化促進剤は半水石膏であり、前記製鋼スラグと半水石膏とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏の含有比率は、20〜50質量%であることを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記固化促進剤は高分子凝集剤であり、前記製鋼スラグと高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める高分子凝集剤の含有比率は、2〜10質量%であることを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記固化促進剤は半水石膏および高分子凝集剤であり、前記製鋼スラグと半水石膏および高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏および高分子凝集剤の含有比率は、半水石膏が10〜50質量%、高分子凝集剤が2〜10質量%であることを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記製鋼スラグは、ステンレス鋼を溶製する製鋼工程で発生するスラグから地金を回収し、地金回収後の塊状のスラグを粉砕して得られる製鋼スラグであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固化剤の成分である製鋼スラグについて、塩基度および組成を調整することによって固化剤をほぼ中性にすることができ、6価CrおよびFの水に対する溶出量を制限することによって環境に対する安全性を高めることができる。また、製鋼スラグの粒度を調整することによって硬化性を良好に発揮して十分な土壌強度を発現することができる。また、製鋼スラグで長期的強度を得るとともに、固化促進剤で土壌の固化を促進することにより作業性の良好な初期強度を発現することができる。
【0013】
また本発明によれば、固化促進剤として含まれる半水石膏や高分子凝集剤は、固化剤をほぼ中性に保つとともに、土壌の固化を促進することにより作業性の良好な初期強度を発現する。
【0014】
また本発明によれば、固化促進剤である半水石膏および高分子凝集剤のうち少なくともいずれか一方、または両方の固化剤中での含有比率を調整することによって、固化処理施工時に土壌の取り扱いが容易な土壌硬さを得ることができ、作業性が向上する。
【0015】
また本発明によれば、製鋼スラグは、ステンレス鋼の製鋼工程で発生するスラグから地金を回収した後の塊状のスラグを粉砕したものであり、このようなステンレス鋼製造の副産物を利用することによって、処理土壌の長期的強度に優れ、安価で汎用性に優れる固化剤を得ることができる。ここで塊状は、粒状を含む意味に用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態である固化剤は、製鋼スラグと土壌の固化を促進する固化促進剤とを含む。製鋼スラグは、塩基度(CaO/SiO)が、0.8〜1.6、組成が、質量%で、(F):0.4%未満、(CaO):35〜65%、(SiO):20〜55%、(Al):4〜9%、Fおよび6価Crの水に対する溶出量が、それぞれF:0.8mg/L未満、6価Cr:0.05mg/L未満、粒度が、1700〜4000ブレーン、である。以後、組成等を表す含有比率は、特に断らない限り質量%を表すものとする。
【0017】
以下、製鋼スラグの塩基度等の範囲限定理由について説明する。
塩基度(CaO/SiO):0.8〜1.6
製鋼スラグの塩基度は、溶鋼の脱硫に大きな影響をおよぼす。塩基度が0.8未満であると、十分な脱硫反応が得られない。塩基度が1.6を超えると、製鋼スラグの流動性が低下し、溶鋼と製鋼スラグとの接触界面が減少して脱硫反応が促進されない。また、後述する(F)<0.4%を達成するには、従来スラグの流動性確保のために添加していた蛍石(CaF)の使用量を抑制しなければならない。そこで、蛍石を用いずに製鋼スラグの流動性を確保するには、塩基度を1.6以下にすることが必要になる。したがって、塩基度を0.8〜1.6とする。
【0018】
(F):0.4%未満
製鋼スラグを土壌の固化剤の成分として使用する場合、F含有量は、土壌環境基準である0.4%未満を満足しなければならない。従来スラグの流動性確保のために使用していた蛍石の使用を制限し、蛍石以外の原料から不可避的に混入する許容量である0.4%未満とする。
【0019】
(CaO):35〜65%
CaOは、脱硫反応に必須の成分であり、溶鋼を十分に脱硫するには35%以上が必要である。65%を超えると、原料から発生するSiOおよび還元剤による脱酸反応生成物として発生するSiOに対するCaOの比、すなわち塩基度が高くなり、製鋼スラグの流動性を低下させる。したがって、CaOを35〜65%とする。
【0020】
(SiO):20〜55%
SiOは、原料から発生し、また還元剤による脱酸反応生成物として発生する。20%未満では、塩基度を高くして製鋼スラグの流動性を低下させる。逆に、55%を超えると、製鋼スラグの流動性を確保することができるけれども、塩基度が低下して十分な脱硫反応が得られない。したがって、SiOを20〜55%とする。
【0021】
(Al):4〜9%
Alは、耐火レンガや原料からの混入が避けられない成分である。しかし、Alは、スラグの流動性を確保するために従来使用していた蛍石の役割を補う成分として必要なものであり、その含有量が低過ぎても高過ぎても、スラグの融点が上昇し、スラグの流動性の確保が困難になる。したがって、Alを4〜9%とする。
【0022】
Fの溶出量:0.8mg/L未満および6価Crの溶出量:0.05mg/L未満
製鋼スラグは、土壌の固化剤の成分として使用されるので、固化処理後の土壌に含まれて土壌環境基準を満たさなければならない。土壌環境基準の溶出元素の基準を満たすには、それぞれFの溶出量<0.8mg/L、6価Crの溶出量<0.05mg/Lであることを必要とする。
【0023】
粒度:1700〜4000ブレーン
ここで、ブレーンとは、日本工業規格(JIS)R5201に規定される比表面積試験により求められる粉末度のことであり、その単位は、[cm/g]である。粒度が1700未満であると、製鋼スラグの粒子が粗く、土壌粒子の表面積に対する製鋼スラグ粒子の表面積が不足するので、土壌の固化反応を十分に発現することができない。粒度のブレーン値の上限を限定する理由は特にない。しかし、製鋼スラグの粒度を極めて微粉にするには、長時間を必要とするので、工業的な生産性を考慮すると上限を4000程度とするのが妥当である。したがって、粒度を1700〜4000ブレーンとする。
【0024】
固化促進剤は、半水石膏および高分子凝集剤のうち少なくともいずれか一方を含む。固化剤に含まれる製鋼スラグは、その自硬性によって土壌を固化改良し、土壌の長期的な強度を発現する。しかし、製鋼スラグが土壌を固化する反応は遅効性であるため、製鋼スラグで処理された土壌が十分な強度を発現するには長時間を要する。一方、固化促進剤は、土壌を固化することに速効性があり、初期強度を発現することができる。したがって、固化促進剤は、土壌の固化処理作業中に軟弱な土壌に強度を付与することができるので、土壌の取り扱いを容易にして作業性を向上することができる。
【0025】
半水石膏は、ほぼ中性であり固化剤に含有させても高アルカリ化することがない。ここで、ほぼ中性とは、pHが5.0〜9.0の範囲にあることをいう。半水石膏は、土壌中の水分と反応して比較的短時間の間に硬化し、軟弱な土壌に初期強度を発現させる。高分子凝集剤としては、たとえばアクリル塩化ポリマーや天然系水溶性高分子カルシウム塩などを用いることができる。これらの高分子凝集剤は、ほぼ中性であり固化剤に含有させても高アルカリ化することがなく、土壌中の水分と反応して比較的短時間の間に硬化し、軟弱な土壌に初期強度を発現させる。
【0026】
以下、固化剤中の半水石膏および高分子凝集剤のうちのいずれか一方、または両方の含有比率の範囲限定理由について説明する。固化促進剤が半水石膏である場合、製鋼スラグと半水石膏とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏の含有比率は、20〜50%である。20%未満であると、土壌の固化処理時の初期強度が十分でなく、作業性の向上効果を十分に得ることができない。逆に50%を超えると、土壌の固化処理時の固化が急速に進み初期強度が高くなりすぎるので、かえって作業性が低下する。
【0027】
固化促進剤が高分子凝集剤である場合、製鋼スラグと高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める高分子凝集剤の含有比率は、2〜10%である。2%未満であると、土壌の固化処理時の初期強度が十分でなく、作業性の向上効果を十分に得ることができない。逆に10%を超えると、土壌の固化処理時の土壌の固化処理時の固化が急速に進み初期強度が高くなりすぎるので、かえって作業性が低下する。また、コストも大幅にアップする。
【0028】
固化促進剤が半水石膏および高分子凝集剤である場合、製鋼スラグと半水石膏および高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏および高分子凝集剤の含有比率は、半水石膏が10〜50%、高分子凝集剤が2〜10%である。半水石膏および高分子凝集剤それぞれの範囲の限定理由は、単独で含有される場合と同じである。しかし、複合で含有される場合、半水石膏と高分子凝集剤とを加算した含有比率は、20〜50%であることがより好ましい。
【0029】
図1は、固化剤を製造する工程を簡略化して示す。固化剤を製造する工程は、材料となる製鋼スラグを生成する製鋼工程1と、製鋼スラグの冷却工程2と、生成された製鋼スラグから地金を回収する選鉱工程3と、地金回収後の塊状の製鋼スラグを微粉砕し、固化促進剤と混合して固化剤を製造する固化剤製造工程4とを含む。
【0030】
製鋼スラグとしては、ステンレス鋼を溶製する製鋼工程1で発生するスラグが好適に用いられる。ステンレス鋼溶製時に得られる製鋼スラグには、電気炉で溶解されるステンレス溶鋼を脱硫処理する工程で生成されるスラグ、および脱硫処理後のステンレス溶鋼を真空脱ガス処理などの二次精錬する工程で生成されるスラグがある。
【0031】
原料の配合比およびスラグと溶鋼との間の元素分配比についての経験則に基づき、溶製する鋼種ごとにスラグ原料の種類と配合量とを調整して、製鋼スラグの塩基度および組成を前述の限定範囲とすることができる。製鋼スラグ中の(F)含有量を0.4%未満とすることによって、Fの溶出量<0.8mg/Lを実現することができる。塩基度を低く抑えてスラグの流動性を確保することによって、蛍石の使用を制限し製鋼スラグ中の(F)含有量を0.4%未満に低減することができる。なお、塩基度を低くすると脱硫反応が弱まるけれども、溶鋼とスラグとを効果的に撹拌し、溶鋼とスラグとの接触頻度および接触界面積を増大させて脱硫反応を促進することにより、低塩基度での十分な脱硫を実現することができる。
【0032】
6価Crの溶出量<0.05mg/Lを、次のようにして実現することができる。製鋼工程1で脱硫処理後にスラグに還元処理を施す。還元処理によりスラグ中の6価Crが3価Crに還元され、またCr酸化物そのものが還元されて金属Crとなり溶鋼中へ移行する。また、電気炉や二次精錬炉から製鋼スラグを取り出して薬剤により還元処理をしても良い。このような還元処理により、製鋼スラグ中の6価Crを低減し、6価Crの溶出量を0.05mg/L未満にすることができる。還元処理が施された後の製鋼スラグは、電気炉や二次精錬炉からノロポットと呼ばれる耐熱容器へと取り出されて冷却工程2で冷却される。冷却後、(F)<0.4%を満足する製鋼スラグは、選鉱工程3へと送られる。
【0033】
図2は、選鉱工程3内での地金と製鋼スラグとを分別する処理を示す。製鋼スラグには、有用な金属成分が比較的多く含有される。そこで、選鉱工程3では、溶製の副原料として再使用するために製鋼スラグ中に含まれる金属成分である地金を回収する。製鋼スラグは、ロッドミル破砕工程31で、おおまかな大きさに破砕される。破砕された製鋼スラグは、篩い分級工程32で所定の大きさ以下のものに選り分けられて、湿式の地金回収工程に送られる。なお、篩い分級工程32で篩いを通過しなかった製鋼スラグは、再びロッドミル破砕工程31へ戻される。分級された製鋼スラグは、比重選鉱工程33および磁力選鉱工程34で地金5のみが選鉱されて回収される。地金5が選鉱された後の製鋼スラグは、シックナー工程35で、パウダー状の製鋼スラグ6と塊状の製鋼スラグとに分離される。塊状製鋼スラグは、さらにエーキンス分級工程36で、おおよそ5mm程度の塊状製鋼スラグ7に分級される。シックナーで分離されたパウダー状製鋼スラグ6を固化剤の材料として用いることができる。しかし、選鉱工程3で既にパウダー状にまで破砕されている製鋼スラグ6は、製鋼スラグの中でも軟質であることが多く、また湿式処理により、塊状スラグに比べて水分により反応がある程度既に進んでいる。したがって、固化改良後の土壌に十分な長期的強度を発現させるには、塊状製鋼スラグ7を固化剤の材料にする方が好ましい。
【0034】
図1に戻って、固化剤製造工程4では、まずローラーミル粉砕工程41で塊状製鋼スラグ7を、粒度が1700〜4000ブレーンの微粉になるように粉砕する。ローラーミル粉砕工程41での粒度の調整は、経験則で得られるローラーミルの押圧力と粉砕スラグの粒度との関係に基づき、粒度が1700〜4000ブレーンの範囲になるように粉砕条件を調整する。次に、ローラーミルで粉砕された製鋼スラグにガス気流を吹き付け、ガス気流で吹き飛ばされた微粉状製鋼スラグ8をセパレーターで分級して捕集機42で捕集する。分級に際し、圧力およびセパレーター回転数を調整して1700〜4000ブレーンの範囲内にある微粉状製鋼スラグ8のみを捕集機42へ導くようにする。微粉状製鋼スラグ8と、半水石膏および高分子凝集剤のうち少なくともいずれか一方を含む固化促進剤9とを、前述した限定範囲の含有比率になるように準備し、微粉状製鋼スラグ8と固化促進剤9とを混合機33で混合して固化剤10を製造する。
【0035】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、軟弱な土壌を固化剤で固化処理し、処理後の土壌について特性を評価した。供試材とした実施例の固化剤には、前述の図1に示す工程で製造したものを使用した。実施例の固化剤の材料として使用した製鋼スラグの塩基度、組成および溶出量を表1に示す。この製鋼スラグの粒度は、1800〜3850ブレーンであった。
【0036】
【表1】


【0037】
表1に示す製鋼スラグと、固化促進剤として半水石膏および高分子凝集剤のうち少なくともいずれか一方とを混合機43で混合して4種類の固化剤を準備した。これらの固化剤を実施例1、実施例2、実施例3および実施例4と呼ぶ。実施例1の固化剤は、固化促進剤が半水石膏である。実施例1で製鋼スラグと半水石膏とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏の含有比率は、33.3%である。実施例2の固化剤は、固化促進剤が高分子凝集剤である。実施例2の高分子凝集剤にはアクリル塩化ポリマーを使用した。実施例2で製鋼スラグと高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める高分子凝集剤の含有比率は、2.0%である。実施例3の固化剤は、固化促進剤が高分子凝集剤である。実施例3の高分子凝集剤には天然系水溶性高分子カルシウム塩を使用した。実施例3で製鋼スラグと高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める高分子凝集剤の含有比率は、4.8%である。実施例4の固化剤は、固化促進剤が半水石膏および高分子凝集剤である。実施例4の高分子凝集剤には天然系水溶性高分子カルシウム塩を使用した。実施例4で製鋼スラグと固化促進剤とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏の含有比率は、48.1%であり、高分子凝集剤の含有比率は、3.8%である。比較例の固化剤として、市販のセメント系固化剤であるポルトランドセメントを用いた。固化処理の対象である土壌1mに対して使用した実施例および比較例の固化剤の配合量を表2に示す。
【0038】
【表2】


【0039】
実施例1ないし実施例3の固化剤および比較例の固化剤を用いて軟弱な建設土壌の固化処理を行った。また、実施例4の固化剤を用いて浚渫土の固化処理を行った。固化処理後の土壌について、強度、pHおよび各種元素の溶出量を測定した。
【0040】
以下、評価指標である強度、pHおよび溶出量の測定方法について説明する。強度については、JIS−A1228に従ってコーン指数を測定した。コーン指数は、その値が大きいほど土壌の強度が高いことを表す。初期強度として、固化処理後1日〜3日経過時のコーン指数を測定して評価した。また、固化処理後7日経過する時点までのコーン指数を測定して、強度の経時変化を求めるとともに、製鋼スラグによる長期的強度発現の状態を評価した。初期強度と作業性との関係は、予め表2に示す以外の種々の固化剤についても、固化処理後1日〜3日経過時点で盛土作業を行い、体感によって作業性を評価し、そのときのコーン指数を測定して求めた。初期強度としては、400〜2000kN/mである場合、土壌を取り扱い易く作業性が良好であった。また、長期的強度については、800kN/m以上であれば、建設土などとして十分な恒久的強度であると評価した。
【0041】
土壌のpHについては、地盤工学会基準(JGS)T211に規定される「土懸濁液のpH試験方法」に従って測定した。pHは、5.0〜9.0の範囲内にある場合、ほぼ中性であると評価した。なお、pHは、水質汚濁防止法に定められる「海域以外の公共用水域に排水されるもの」についての排水基準である5.8〜8.6を満足することが一層好ましい。
【0042】
溶出量については、環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」に従って測定した。溶出量を測定した元素は、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、6価Cr、ヒ素(As)、総水銀(t.Hg)、セレン(Se)、フッ素(F)およびホウ素(F)である。これらの元素の溶出量が環境庁告示第46号に示される基準値以下である場合、固化剤を使用する上で問題なしと評価した。
【0043】
土壌のコーン指数を測定した結果を表3に示す。表3中で空白の欄は未測定であることを表し、横棒(━)で示す欄は強度が高すぎて測定不能であったことを表す。固化処理後1日〜3日経過時の初期強度についてみると、実施例1〜4では、いずれも上記作業性の良好な強度の範囲を満足する。固化処理後の日数経過とともに強度は増大し、7日経過時の強度についてみると、実施例1ないし実施例4のいずれも800kN/mを超える強度であり、十分な恒久的土壌強度が得られた。初期強度は、前述の限定範囲の含有比率になるように調整した固化促進剤により発現されたものであり、7日経過時の長期的強度は、固化反応を発揮するのに時間を要するが固化強度に優れる製鋼スラグにより発現されたものである。
【0044】
【表3】


【0045】
pHの測定結果を表4に示す。表4中で、空白の欄は未測定であることを表す。実施例1ないし実施例4のpHは、7日経過時点で最小8.17、最大8.31であり、中性と評価する5.0〜9.0の範囲を満足し、さらに水質汚濁防止法の排水基準である5.8〜8.6の範囲をも満足する。ただし、実施例1および実施例2では、固化処理後1日経過時のpHが9.0を超え、ややアルカリであった。しかし、実施例1は、2日経過した時点でpH9.0以下を満足し、以降日数経過とともにpHはさらに減少し、7日経過時には前述のように中性と評価する範囲を十分に満足する値になる。実施例2については、3日経過後および7日経過後についての測定結果のみであるが、3日経過時および7日経過時のpH測定値が実施例1の測定値と同水準であることから、実施例1と同様なpH推移挙動を示すと考えられる。したがって、実施例2も固化処理後数日経過すれば、実施例1と同様pH9.0程度の中性になるものと思われる。一方、比較例のセメント系固化剤では、固化処理後1日経過時では、pH11.9の高アルカリであった。セメント系固化剤は、その後日数経過してもpHはほとんど低下せず、7日経過時点でもpH11.2と高アルカリであった。
【0046】
【表4】


【0047】
溶出量の測定結果を表5に示す。表5中で、NDで示す欄は、各元素についての溶出量が検出限界値以下であったことを示す。実施例1および実施例2では、FおよびBの溶出が認められたけれども、いずれも基準値以下の検出量であり問題がない。実施例1および実施例2のFおよびB以外の元素については検出限界値以下であり、また実施例3および実施例4については、すべての元素が検出限界値以下であった。したがって、溶出量の観点から、実施例1ないし実施例4を固化剤として使用することに全く問題がない。なお、比較例のセメント系固化剤でも重金属等の溶出は基準値以下であった。
【0048】
【表5】


【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】固化剤を製造する工程を簡略化して示す図である。
【図2】選鉱工程3内での地金と製鋼スラグとを分別する処理を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 製鋼工程
2 冷却工程
3 選鉱工程
4 固化剤製造工程
7 塊状製鋼スラグ
8 微粉状製鋼スラグ
9 固化促進剤
10 固化剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌を固化改良する固化剤において、
製鋼スラグと、土壌の固化を促進する固化促進剤と、を含み、
製鋼スラグは、
塩基度(CaO/SiO)が、0.8〜1.6、
組成が、質量%で、(F):0.4%未満、(CaO):35〜65%、(SiO):20〜55%、(Al):4〜9%、
Fおよび6価Crの水に対する溶出量が、それぞれF:0.8mg/L未満、6価Cr:0.05mg/L未満、
粒度が、1700〜4000ブレーン、であることを特徴とする固化剤。
【請求項2】
前記固化促進剤は、
半水石膏および高分子凝集剤のうち少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1記載の固化剤。
【請求項3】
前記固化促進剤は半水石膏であり、
前記製鋼スラグと半水石膏とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏の含有比率は、20〜50質量%であることを特徴とする請求項2記載の固化剤。
【請求項4】
前記固化促進剤は高分子凝集剤であり、
前記製鋼スラグと高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める高分子凝集剤の含有比率は、2〜10質量%であることを特徴とする請求項2記載の固化剤。
【請求項5】
前記固化促進剤は半水石膏および高分子凝集剤であり、
前記製鋼スラグと半水石膏および高分子凝集剤とを混合して得られる混合物中に占める半水石膏および高分子凝集剤の含有比率は、半水石膏が10〜50質量%、高分子凝集剤が2〜10質量%であることを特徴とする請求項2記載の固化剤。
【請求項6】
前記製鋼スラグは、
ステンレス鋼を溶製する製鋼工程で発生するスラグから地金を回収し、地金回収後の塊状のスラグを粉砕して得られる製鋼スラグであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の固化剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−120987(P2010−120987A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293326(P2008−293326)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(508341751)株式会社エコシステム (3)
【Fターム(参考)】