説明

固型油脂成形助剤及び固型油脂

【課題】マーガリン、ショートニング等をシート状、ブロック状等に成形した固型油脂が相互に融着しないようにするために、従来は成形物を剥離シート等で包んで長時間安定化させる等の手間や時間がかかる方法や、成形後に高価な液体窒素等によって成形物を冷却する等の原材料コストのかかる方法に代り、安価で効果的に固型油脂成形物相互の融着を防止することのできる固型油脂成形助剤及び固型油脂を提供する。
【解決手段】固型油脂成形助剤は、HLBが7以上であり、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である蔗糖脂肪酸エステルを、70重量%以下のアルコールを含むアルコール水溶液中に0.3〜5.0重量%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固型油脂成形助剤及び固型油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリンやショートニング等の固型油脂は、製菓、製パン用として、特にパイ、デニッシュなどを製造する際に、シート、平板、ブロック、サイコロ状等の形状で使用されている。しかしながら固型油脂をこれらの形状に成形しても、使用時には油脂が相互に融着し、ブロック、サイコロ状のものは大きな塊となって生地への分散性が悪くなり、パイやデニッシュ等の層が出づらくなる。このためシート状のものは、シートとシートの間にポリエチレンシートやパーメント紙などの剥離シートを挟み融着を防止しているが、剥離シートを挟んで長時間安定させる必要があり、長期間保存しておくと剥離シートと固型油脂が剥離し難くなり、そのために手間及び時間を要し、作業が滞ったり、また剥離シートに付着してロスする油脂量が多くなるといった生産性の問題や、使用済み剥離シートの廃棄に伴う環境問題を生じる虞がある等の観点から、剥離シートなどを使用しないで固型油脂の融着を防止する方法が求められている。
【0003】
剥離シートを使用せずに固型油脂相互の融着を防止する方法としては、製造機通過後所定の形状に成形した固型油脂を、液体窒素等で冷却する方法、様々な形状に成形する際にエタノールまたはエタノール水溶液の冷却した液中に押出す方法(特許文献1)、水相部に水および糖アルコールを、油相部に植物性硬化油と、高HLBのポリグリセリン脂肪酸エステルおよび低HLBのポリグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として用いた水中油型乳化物を塗布する方法(特許文献2)、穀粉、糖類、澱粉、豆類粉、アルコール、液状油脂、粉末油脂及びこれらの水溶液、懸濁液、乳化物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の可食性組成物を噴霧又は塗布する方法(特許文献3)等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−199859号公報
【特許文献2】特開2002−65161号公報
【特許文献3】特開2002−233306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体窒素を使用する方法では原材料コストが高くつくほか、作業環境上、酸素欠乏を引き起こさないような労働安全上の配慮を必要とするために装置が大掛かりなものとなるという問題があり、特許文献1に記載の方法では、多量の水−アルコール溶液を必要とするとともに、冷却することを必須としており、冷却機やドライアイスを添加する必要があり、コストがかかる。また特許文献2に記載の方法のように水中油型乳化物を用いると、噴霧した際のミストが油脂を含んでいるために作業環境が汚れるという問題があった。更に特許文献3に記載の方法のように、可食性組成物をそのまま噴霧又は塗布した場合は、油脂組成物中の水分が可食性組成物に移行して可食性組成物が吸湿し剥離しにくかったり、長期保存した際に細菌が繁殖する虞がある。また可食性組成物を水溶液、懸濁液、乳化液としても、分散性が低く、シートの剥離効果が低いという問題があった。
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究した結果、特定の界面活性剤を含むアルコール水溶液を固型油脂成形物表面に噴霧したり塗布する等の簡単な処理を行うだけで、固型油脂成形物相互の融着を効果的に防止できることを見出し本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、
(1)HLBが7以上であり、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である蔗糖脂肪酸エステルを、70重量%以下のアルコールを含むアルコール水溶液中に0.3〜5.0重量%含有することを特徴とする固型油脂成形助剤、
(2)上記(1)の固型油脂成形助剤で処理したことを特徴とする固型油脂、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固型油脂成形助剤を、所定形状に成形した固型油脂表面に噴霧、塗布したり、固型油脂を本発明助剤に浸漬する等の方法により、本発明成形助剤で固型油脂表面を処理すると、従来のように剥離シート等の包装材料で包んで長時間安定化させたり、剥離シート等の包装材料を取り除くという手間や、包装材料が廃棄物となり、作業環境が汚れたり、また廃棄物処理の問題が生じる虞がない。また固型油脂表面を高価な液体窒素等で処理するなど高価で大掛かりな装置を設置する必要や、アルコール溶液を用いても冷却する必要がなく、安価にしかも効率良く相互に融着のない固型油脂を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においてHLBが7以上の蔗糖脂肪酸エステルとしては、蔗糖と、アルキル基の炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸のモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル等が挙げられ、これらを適宜混合したものも用いることができる。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、パルミトレイン酸、エルカ酸のようなモノエン酸、リノール酸のようなジエン酸、リノレン酸のようなトリエン酸が好ましく、不飽和度がトリエン酸以上のものは剥離効果においては問題はないが、酸化安定性、発臭の点で問題があるため、トリエン酸以下の不飽和脂肪酸が好ましい。蔗糖脂肪酸エステルは、HLBが9以上のものが好ましく、特にHLBが9〜16が好ましい。蔗糖脂肪酸エステルは、一種のみを用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0010】
本発明の固型油脂成形助剤は、上記蔗糖脂肪酸エステルをアルコール水溶液中に、0.3〜5.0重量%含むものである。蔗糖脂肪酸エステルの含有量が0.3重量%未満であると充分な剥離効果を得ることが出来ず、固型油脂の一部融着が発生することとなり、5.0重量%を超えると固型油脂表面の乳化による白化が生じることなる。また蔗糖脂肪酸エステルを、アルコール水溶液中に0.3〜5.0重量%含んでいても、蔗糖脂肪酸エステルのHLBが7未満の場合には固型油脂の大部分が固着し塊状のものとなる。
【0011】
上記アルコール水溶液は、70重量%以下のアルコールと水とからなるものを用いるが、より好ましくはアルコール含有量が50重量%以下、特にアルコール含有量が30〜50重量%であるものが好ましい。上記アルコールとしては食品の性格上食用アルコールを用いることができるが、蒸留酒のような酒類を使用することもできる。
【0012】
本発明の固型油脂成形助剤を用いて固型油脂を成形するには、まずシート状、平板状、ブロック状、サイコロ状等の形状の固型油脂を成形する。シート状、平板状の固型油脂を得るには急冷可塑化製造機に成型ノズルを設置する方法が挙げられる。またブロック状、サイコロ状の固型油脂を得るには急冷可塑化製造機に成型ノズルを設置する方法の他、シート状、平板状の固型油脂を適宜カットする方法が挙げられる。次いで固型油脂成形物の表面を本発明の固型油脂成形助剤によって処理する。処理方法としては、例えば固型油脂成形物表面に本発明の成形助剤を噴霧、塗布する方法や、本発明の成形助剤中に固型油脂成形物を浸漬する方法等が挙げられるが、固型油脂成形物表面に本発明の成形助剤が、固型油脂の表面を覆う程度付着するように処理することが好ましい。尚、本発明において固型油脂成形物の形状は、上記したシート状、平板状、ブロック状、サイコロ状等の形状に限定されず、円柱、瓦状のような任意の形状に成形したものであって良い。また固型油脂成形物表面を固型油脂成形助剤で処理する方法も、上記した噴霧、塗布、浸漬に限らず、任意の方法を採用することができる。
【0013】
上記のようにして処理した固型油脂成形物は、ポリエチレン袋のような食品充填用の包剤に充填し、固化が安定するまで保管するのであるが、常温で充分な硬さが得られない場合、冷蔵庫に保管する方法が採られる。保管温度は固型油脂によって異なるが、製造後成型直後の固型油脂の温度を5℃程度下回る温度以下であることが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
牛脂83重量部、水16.5重量部、グリセリンモノ脂肪酸エステル0.5重量部の組成のマーガリンを急例可塑化装置を通した後、成形用ノズルで幅25cm×厚さ1cmに押し出し、長さ25cmで切断したもの10枚を用い、剥離性の評価を実施した。グリセリンモノ脂肪酸エステルはエマルジーMS(理研ビタミン製)を用いた。この成形マーガリンの表面に下記処理剤20gを塗布して用いた。成形マーガリンは処理剤を塗布した後、10枚を重ね合わせ5℃の定温保管庫に置いた。
【0015】
処理剤組成
(1)実施例1:アルコール49重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB16の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0016】
(2)実施例2:アルコール49重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB9の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0017】
(3)実施例3:アルコール49重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB7の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0018】
(4)実施例4:アルコール49.7重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル0.3重量%含有。
【0019】
(5)実施例5:アルコール45重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル5重量%含有。
【0020】
(6)実施例6:アルコール69重量%、水30重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0021】
(7)実施例7:アルコール29重量%、水70重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0022】
(8)比較例1:アルコール50重量%、水50重量%からなる溶液。
【0023】
(9)比較例2:アルコール49重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB5の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0024】
(10)比較例3:アルコール79重量%、水20重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル1重量%含有。
【0025】
(11)比較例4:アルコール49.9重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル0.1重量%含有。
【0026】
(12)比較例5:アルコール43重量%、水50重量%からなる溶液中に、HLB11の蔗糖オレイン酸エステル7重量%含有。
【0027】
次いで上記処理剤又は条件で処理した成形マーガリンを5日間静置させた後シートマーガリンの剥離性の試験を行った。
【0028】
剥離性試験は10枚重ねて保管した成型マーガリンをマーガリンの継ぎ目にスパテラを差し込み、以下のようにして剥離性を評価した。結果を表1に示す。尚、表面処理を施していない点を除き、上記実施例、比較例と同様にして処理したシートマーガリンの剥離性を、参考例として表1にあわせて示す。
【0029】
剥離性試験評価基準
○:10枚が固着することなく剥離する
△:10枚に剥離するが、一部固着している部分がある
×:10枚に剥離しない
××:全く剥離しない
【0030】
(表1)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが7以上であり、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である蔗糖脂肪酸エステルを、70重量%以下のアルコールを含むアルコール水溶液中に0.3〜5.0重量%含有することを特徴とする固型油脂成形助剤。
【請求項2】
請求項1記載の固型油脂成形助剤で処理したことを特徴とする固型油脂。

【公開番号】特開2006−204126(P2006−204126A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17640(P2005−17640)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】