説明

固定された組織サンプルからの核酸またはタンパク質の回収のための方法、組成物、およびキット

ヒドラジン含有化合物およびヒドラジド含有化合物などの捕捉分子を利用することにより液体の細胞学的保存液中に保存されたサンプルからの核酸またはタンパク質の回収率を改善するための方法および材料を提供する。ヒドラジン含有化合物およびヒドラジド含有化合物を含む溶解溶液、ならびにそれを含むキットも提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は2010年1月4日付で出願された米国仮特許出願第61/292,078号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
組織または細胞サンプルにおいて固定された核酸またはタンパク質の回収率を改善するための方法およびキットが記述される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
組織学、病理学および細胞生物学の分野において、固定は、生物学的サンプルが腐敗から保護される化学工程である。固定は、継続中のいかなる生化学反応も終結させ、処理サンプルの機械的強度または安定性を高めることもできる。固定の目的は、生物学的材料のサンプルをその天然状態にできるだけ近いように保存することである。固定サンプルは検査または分析に用いられる。
【0004】
浸漬は、固定される組織の容量よりも最低20倍超の容量の固定剤にサンプルが浸漬される固定技法である。固定剤は固定するように組織を通して拡散し、そのため組織のサイズおよび密度、ならびに固定剤の種類が考慮に入れられなければならない。より大きなサンプルを用いることは、固定剤がより深い組織に到達するのに、より長い時間がかかることを意味する。
【0005】
固定剤は架橋性または沈殿性固定剤に分類することができる。架橋性固定剤は組織中のタンパク質間に共有化学結合を作出することによって作用する。これは可溶性タンパク質を細胞骨格につなぎ止め、さらなる硬性を組織にもたらす。沈殿性または変性性の固定剤は、タンパク質分子の溶解性を低下させることによって、たいていは、多くのタンパク質に三次構造を与える疎水性相互作用を妨害することによって、作用する。
【0006】
組織学においてよく用いられる固定剤の一つが架橋性固定剤のホルムアルデヒドであり、これはホルマリンという名で飽和水溶液として販売されることが多い。ホルムアルデヒドは、塩基性アミノ酸リジンの残基と主に相互作用するものと考えられる。別の一般的な固定用アルデヒドはグルタルアルデヒドであり、これはホルムアルデヒドに類似した機構によって働くものと考えられる。
【0007】
ホルムアルデヒドは-CH2-結合、すなわち、メチレン架橋を通じてタンパク質または核酸中の第1級アミノ基を架橋することにより組織または細胞を保存または固定する。ホルムアルデヒドは非常に反応性に富むため、サンプルまたは媒質中の過剰なホルムアルデヒドは、機能タンパク質(酵素もしくは抗体など)、核酸プローブ、樹脂、またはアミノ基を有するその他任意の機能性試薬を伴ういかなるサンプル処理または分析をも、これらのアミノ基に対する架橋結合とその後の試薬不活化とによって、妨害する。さらに、架橋は熱によって元に戻りうるが、媒質中の過剰ないかなるホルムアルデヒドも、最終的には再び架橋を形成し、架橋の戻りが有効となることの妨げになる。
【0008】
酸化性固定剤はタンパク質および他の生体分子のさまざまな側鎖と反応し、組織構造を安定化する架橋の形成を可能にすることができる。サンプルが電子顕微鏡検査用に調製される場合、四酸化オスミウムは二次固定剤として用いられることが多い。特定の組織プレパラートにおいて重クロム酸カリウム、クロム酸および過マンガン酸カリウムも用いられる。二つの一般的な沈殿性固定剤はエタノールおよびメタノールである。アセトンも使われる。
【0009】
酢酸は、その他の沈殿性固定剤と組み合わせて用いられることがある変性剤である。アルコールは、それ自体で、固定中に組織の収縮を引き起こすことが公知であるのに対し、酢酸単独では組織腫脹を伴うため、この二つを組み合わせることで、組織形態のさらに良好な保全をもたらすことができる。他の固定剤はピクリン酸および塩化第二水銀を含む。
【0010】
生物学的サンプルの固定に関する問題の一つは、サンプル中の核酸およびタンパク質が固定剤に不可逆的に結合されうるということである。たとえ核酸およびタンパク質が固定剤に不可逆的に結合されなくても、サンプルからの過剰の固定剤の除去は核酸およびタンパク質の信頼性の高い回収および分析にとって重要でありうる。さらに、固定剤は、PCRなどの下流の生化学分析における単離されたタンパク質または核酸の使用を妨害しうる。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、固定された生物学的サンプルから、核酸またはタンパク質などの標的分子を回収および分析する方法、ならびにこのような方法において有用な材料およびキットに関する。
【0012】
一つの態様において、液体の細胞学用保存液中に保存された生物学的サンプルから標的分子を抽出するための方法が提供される。
【0013】
一つの態様において、この方法は、
A) 生物学的サンプルと、


の少なくとも一つの末端ヒドラジン基を含む捕捉剤を含む捕捉溶液と
を接触させる段階; および
B) 生物学的サンプルから核酸またはタンパク質を放出するのに十分な条件の下で生物学的サンプルを処理する段階; および
C) 核酸またはポリペプチドである標的分子を、単離溶液から回収する段階
を含む。
【0014】
一つの態様において、捕捉剤は、
a) 式Iに記載の化合物

; および
b) 式IIに記載の化合物

からなる群より選択され、
式中、R1がC1〜C12アルキル; C1〜C12アルケニル; C3〜C6シクロアルキル; C3〜C6シクロアルケニル; C6〜C10アリール; およびC6〜C10ヘテロアリールからなる群より選択され; R2が、それぞれの場合で同じであってもまたは異なっていてもよく、

からなる群より選択され; mが0および1からなる群より選択される整数であり; かつnが1および2からなる群より選択される整数である。ある態様において、捕捉剤は、水中での該捕捉剤の溶解性を高めるように当技術分野において公知の方法により改変することができる。例えば、R1は、R1構成要素の親水性を高める構成要素で置換されてもよい。
【0015】
別の態様において、捕捉剤は式Iの化合物であり、式中、mが1であり、かつR1がC1〜C12アルキル、C1〜C6アルキル、およびC2〜C4アルキルからなる群より選択される。
【0016】
別の態様において、捕捉剤は式IIの化合物であり、式中、nが2であり、R1がC1〜C12アルキル、C1〜C6アルキル、およびC2〜C4アルキルからなる群より選択され、かつR2

である。
【0017】
別の態様において、捕捉剤は、セミカルバジド; チオセミカルバジド; カルバジド; チオカルバジド; N-アミノグアニジンおよび塩酸塩を含むその塩; N,N-ジアミノグアニジンおよび二塩酸塩を含むその塩; アセチルヒドラジド; アジピン酸ジヒドラジド; コハク酸ジヒドラジド; ギ酸ヒドラジド; マレイン酸ジヒドラジド; マロン酸ジヒドラジド; ベンゼンスルホニルヒドラジド; トシルヒドラジド; メチルスルホニルヒドラジドからなる群より選択される。
【0018】
別の態様において、捕捉溶液は約0.1 M〜約1.0 M、約0.1 M〜約0.5 M、約0.2 M〜約0.4 M、または約0.3 Mの捕捉剤を含む。
【0019】
別の態様において、約0.3 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたは約0.3 Mのコハク酸ジヒドラジドが用いられる。
【0020】
別の態様において、捕捉溶液は液体の細胞学用保存液に直接添加される。
【0021】
別の態様において、捕捉溶液は、約2体積部の溶解溶液と、液体の細胞学用保存液中に保存された約1体積部の生物学的サンプルとを含む。
【0022】
別の態様において、捕捉溶液はタンパク質消化酵素をさらに含む。
【0023】
別の態様において、生物学的サンプルは、該生物学的サンプルから標的分子が放出される前に捕捉溶液と接触される。
【0024】
別の態様において、標的分子は、溶解溶液の存在下において生物学的サンプルを溶解させることにより生物学的サンプルから放出される。
【0025】
別の態様において、捕捉溶液は溶解溶液として機能する。
【0026】
別の態様において、捕捉溶液は、溶解溶液の前に、溶解溶液の後に、または溶解溶液と同時に生物学的サンプルに添加される。
【0027】
別の態様において、標的分子は標的核酸であり、かつ標的核酸は、
(i) 核酸プローブを、第2の核酸を有する標的核酸とハイブリダイズさせて核酸ハイブリッドを形成させる段階;
(ii) 核酸ハイブリッドを固相に結合させる段階;
(iii) 固相を捕捉溶液から分離する段階; および
(iv) 標的核酸を固相から溶出させる段階
を含む方法によって、捕捉溶液から回収される。
【0028】
別の態様において、核酸ハイブリッドはDNA:RNAハイブリッドである。
【0029】
別の態様において、核酸ハイブリッドは、
核酸ハイブリッドと、
核酸ハイブリッドに結合できる抗体であって、固相に結合されているかまたは固相に結合されるように適合されている該抗体と
を接触させる段階を含む方法によって、固相に結合される。
【0030】
別の態様において、標的核酸は約20℃〜約70℃の溶出温度で固相から溶出される。
【0031】
別の態様において、標的核酸は約50℃〜約60℃の溶出温度で固相から溶出される。
【0032】
別の態様において、以下を含む溶解溶液が提供される:
(i) 緩衝液;
(ii) 界面活性剤;
(iii) 式

の少なくとも一つの末端ヒドラジン基を含む捕捉剤; および
(iv) 任意で、タンパク質消化酵素。
【0033】
別の態様において、溶解溶液の捕捉剤は、
a) 式Iに記載の化合物

; および
b) 式IIに記載の化合物

からなる群より選択され、
式中、
R1がC1〜C12アルキル; C1〜C12アルケニル; C3〜C6シクロアルキル; C3〜C6シクロアルケニル; C6〜C10アリール; およびC6〜C10ヘテロアリールからなる群より選択され、ここでR1は、水中での該捕捉剤の溶解性を高めるように置換されていてもよく;
R2が、それぞれの場合で同じであってもまたは異なっていてもよく、かつ

からなる群より選択され、かつ
mが0および1からなる群より選択される整数であり; かつ
nが1および2からなる群より選択される整数である。
【0034】
別の態様において、セミカルバジド; チオセミカルバジド; カルバジド; チオカルバジド; N-アミノグアニジンおよび塩酸塩を含むその塩; N,N-ジアミノグアニジンおよび二塩酸塩を含むその塩; アセチルヒドラジド; アジピン酸ジヒドラジド; コハク酸ジヒドラジド; ギ酸ヒドラジド; マレイン酸ジヒドラジド; マロン酸ジヒドラジド; ベンゼンスルホニルヒドラジド; トシルヒドラジド; メチルスルホニルヒドラジド。
【0035】
別の態様において、溶解溶液の捕捉剤は、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、および塩酸アミノグアニジンからなる群より選択される。
【0036】
別の態様において、溶解溶液は約0.2 M〜約1.5 Mの捕捉剤を含む。
【0037】
別の態様において、溶解溶液は約0.2 M〜約0.5 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたは約0.2 M〜約0.5 Mのコハク酸ジヒドラジドを含む。
【0038】
別の態様において、液体の細胞学用保存液中に保存された生物学的サンプルから標的分子を回収するためのキットが提供され、該キットは、上記の溶解溶液を含み、かつ任意で、タンパク質消化酵素、固相、標的核酸とハイブリダイズできる核酸プローブ、および抗体からなる群より選択される少なくとも一つのさらなる成分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ヒドラジンがカルボニル捕捉剤として機能する基本的機構を、例示的なヒドラジン化合物としてアミノグアニジンを用い、概説している。
【図2】アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、およびアミノグアニジンの3種の異なるヒドラジンの存在下での、または非存在下での、SurePath液体細胞学的収集媒質中にスパイクされたSiHa細胞からの核酸の回収を例示する。いずれの場合にも、右側のバーは、示したヒドラジンを、示した終濃度まで添加した結果を表し、一方で左側のバーは、等量の水を添加した結果を表す。二つ組の実験の結果が示されている。
【図3】コハク酸ジヒドラジドの濃度変化の効果を実証している。
【図4】アジピン酸ジヒドラジドの濃度変化がSurePath媒質中のサンプルに与える効果を実証している。各条件に対して、左側のバーは細胞の非存在下でのデータを表し、一方で右側のバーは10,000個のSiHa細胞で得られたデータを表す。「サンプル」はSurePath媒質のみを示す。「0.16 M」および「0.30 M」は、アジピン酸ジヒドラジドを含む溶解緩衝液がSurePathサンプルに、それぞれ、0.16 Mおよび0.30 Mの終濃度まで添加されたことを示す。「水」は、SurePathの代わりに水が用いられたことを示す。
【図5】細胞数が変化した場合の、捕捉剤としてのアジピン酸ジヒドラジドの有効性を実証している。
【図6】溶解前に、ヒドラジンと生物学的サンプルとを10分間プレインキュベーションした効果を例示している。
【図7】アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、およびアミノグアニジンを10分間の処理および一晩の処理で比較している。
【図8】プロテイナーゼKの存在下または非存在下でのヒドラジンによる前処理の効果を実証している。
【図9】溶出段階を室温(25℃)または56℃のいずれかで行った場合の、QiaAmp抽出におけるコハク酸ジヒドラジドおよびアジピン酸ジヒドラジドの性能を実証している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
詳細な説明
本出願は概して、液体の細胞学用媒質中に保存された生物学的サンプルからの標的分子の回収率を高めるための捕捉化合物の使用に関する。
【0041】
一つの態様において、a) 捕捉剤を媒質に添加する段階; b)サンプル中の保存剤を捕捉剤が捕捉するのに十分な温度かつ時間でインキュベーションを行う段階; およびc) 核酸またはタンパク質を回収する段階を含む、液体の細胞学的保存媒質中の生物学的サンプルから核酸またはタンパク質を回収するための方法が提供される。本明細書において用いられる場合、捕捉剤は、固定剤と反応でき、それによって固定剤を溶液から除去できる任意の化合物である。本開示の材料および方法との関連で、これらの化合物は理想的には、以下の特性の一つまたは複数を示す: (1) 水中で高溶解性; (2) 化学的に中性; (3) 無毒性; および(4) 容易に利用可能かつ安価。別の態様において、これらの化合物は上記の特性のそれぞれを示す。
【0042】
液体の細胞学的保存媒質は架橋性および/または沈殿性保存剤を含みうる。架橋性保存剤は非限定的に、アルデヒド、四酸化オスミウム、重クロム酸カリウム、クロム酸、および過マンガン酸カリウムを含む。沈殿性保存剤は非限定的に、アルコールおよび酢酸を含む。
【0043】
一つの態様において、液体の細胞学的保存媒質は、ホルムアルデヒドなどのカルボニルベースの保存剤を含む。ホルムアルデヒドは、メチレン橋によってアミノ基を架橋結合させることにより細胞を固定する交差反応性分子である。これは細胞学の目的には有用であるが、それによって固定サンプルからの核酸および/またはタンパク質の効率的な単離が阻害されることもある。
【0044】
一つの態様において、液体の細胞学用保存媒質はアルデヒドを含む。液体の細胞学用保存媒質によく用いられる例示的なアルデヒドは、ホルムアルデヒド、グリオキサル、グルタルアルデヒド、グリセルアルデヒド、アクロレインもしくは他の脂肪族アルデヒド; または未知の性質のアルデヒドを含むが、これらに限定されることはない。そのような液体の細胞学的保存媒質の一つが、臨床の現場で最もよく用いられている保存媒質の一つ、SUREPATH(登録商標)である。SUREPATH媒質は、37%近くのホルムアルデヒド含量を有し、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールも含有する。高いホルムアルデヒド含量は、これを有用な固定剤とするが、しかし固定サンプルからの標的分子(核酸およびタンパク質など)の抽出ならびにその後の分子解析のためのそれらの使用に対して難題をもたらす。この態様において同様に含まれるのは、クアテルニウム-15(メテナミン-3-クロロアリロクロライド)、トリスニトロ(トリス-ヒドロキシメチルニトロメタン)、グライダント(Glydant)(1,3-ジメチロール-5,5-ジメチルヒダントインまたはDMDM-ヒダントイン)、ジェルマール-115(イミダゾリジニル尿素)、ジェルマールII(ジアゾリジニル尿素)、ブロノポール(2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール)、ブロニドックス(5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン)、ブロモタロニル(Bromothalonil)(メチルジブロモグルタロニトリル、1,2-ジブロモ-2,4-ジシアノブタン)、スットシドA(Suttocide A)(ヒドロキシメチルグリシネート)、およびパラホルムアルデヒドを含むが、これらに限定されない、ホルムアルデヒド遊離剤を含有することが公知の保存媒質である。この態様において同様に含まれるのは、起源不明のアルデヒドを含有する媒質であり、これはプルパルド(4-アミノ-3-ヒドラジノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール)などの、アルデヒド特異的な試薬の使用によって検出することができる。
【0045】
一つの態様において、捕捉剤はアルデヒドなどのカルボニル化合物と反応することができる。例示的なカルボニル捕捉剤は非限定的にヒドラジンを含む。本明細書において用いられる場合、ヒドラジンは、末端ヒドラジン官能基を含む任意の化合物である。本明細書において用いられる場合、「ヒドラジン官能基」は、下記式

に記載の化学基であり、式中、波状の結合が化学構造の場合には残部への付着を示す。ヒドラジンはカルボニル(アルデヒドおよびケトン)と容易に反応して、ヒドラゾン結合を形成する。これらの結合はカルボニルの酸素を、他の因子と結合するアルデヒドの能力を制限する窒素官能基と置き換える。例示的な反応スキームは図1に記載されている。
【0046】
ヒドラジンは単一官能性または多官能性ヒドラジンでありうる。「単一官能性」ヒドラジンは、単一の末端ヒドラジン官能基を含むヒドラジンである。「多官能性ヒドラジン」は、二つ以上の末端ヒドラジン官能基を含むヒドラジンである。
【0047】
一つの態様において、捕捉剤は式Iに記載のヒドラジンである:

式中、
R1 C1〜C12アルキル; C1〜C12アルケニル; C3〜C6シクロアルキル; C3〜C6シクロアルケニル; C6〜C10アリール; およびC6〜C10ヘテロアリール; ならびに
mが0および1からなる群より選択される整数である。
【0048】
一つの例示的な態様において、捕捉剤はアミノグアニジンであり、これは、mが0である式Iに記載のヒドラジンである。
【0049】
他の例示的な態様において、捕捉剤は式Iに記載のヒドラジンであり、式中、mが1であり、かつR1がC1〜C12アルキル、C1〜C6アルキル、およびC2〜C4アルキルからなる群より選択される。
【0050】
別の態様において、捕捉剤はヒドラジドとして公知のヒドラジンのクラスから選択される。ヒドラジドは同様に、カルボニル(アルデヒドおよびケトン)と反応して、ヒドラゾン結合を形成させることができる。本明細書において用いられる場合、ヒドラジドは、末端ヒドラジド官能基

を含む化合物であり、
式中、波状の結合が中心化学構造への付着を示し、かつR2

からなる群より選択される。
【0051】
一つの態様において、捕捉剤は式IIに記載のヒドラジドである:

式中、
R1 C1〜C12アルキル; C1〜C12アルケニル; C3〜C6シクロアルキル; C3〜C6シクロアルケニル; C6〜C10アリール; およびC6〜C10ヘテロアリール; ここでR1は、水中での該捕捉剤の溶解性を高めるように置換されていてもよく、
R2が、それぞれの場合で同じであってもまたは異なっていてもよく、

からなる群より選択され、かつ
mが1および2からなる群より選択される整数である。
【0052】
一つの例示的な態様において、捕捉剤は式IIに記載のヒドラジドであり、式中、R1がC1〜C12アルキル、C1〜C6アルキル、およびC2〜C4アルキルからなる群より選択される。
【0053】
別の例示的な態様において、捕捉剤は式IIに記載の二官能性ヒドラジドであり、式中、nが2であり、ならびにR1がC1〜C12アルキル、C1〜C6アルキル、およびC2〜C4アルキルからなる群より選択される。
【0054】
別の態様において、捕捉剤は、セミカルバジド(化学式: NH2C(=O)NHNH2); チオセミカルバジド(化学式: NH2C(=S)NHNH2); カルバジド(化学式: NH2NHC(=O)NHNH2); チオカルバジド(化学式: NH2NHC(=O)NHNH2); N-アミノグアニジンおよび塩酸塩を含むその塩、ならびにN,N-ジアミノグアニジン(化学式: NH2NHC(=NH)NHNH2)および二塩酸塩を含むその塩を含むが、これらに限定されない、炭酸誘導体およびチオ炭酸誘導体から選択されるヒドラジンである。
【0055】
他の例示的な態様において、捕捉剤は、アセチルヒドラジド(化学式: CH3C(=O)NHNH2)、アジピン酸ジヒドラジド(化学式: NH2NHC(=O)(CH2)4C(=O)NHNH2)、コハク酸ジヒドラジド(化学式: H2NNHCOCH2CH2CONHNH2)、ギ酸ヒドラジド(化学式: NH2NHC(=O)H)、マレイン酸ジヒドラジド(化学式: H2NNHCOCHCHCONHNH2)、およびマロン酸ジヒドラジド(化学式: H2NNHCOCH2CONHNH2)からなる群より選択されるヒドラジンである。
【0056】
他の例示的な態様において、捕捉剤は、ベンゼンスルホニルヒドラジド(化学式: H2NNHS(=O)2C6H5)、トシルヒドラジド(化学式: H2NNHS(=O)2C6H5CH3)およびメチルスルホニルヒドラジド(化学式: H2NNHS(=O)2CH3)を含むが、これらに限定されない、スルホン酸誘導体から選択されるヒドラジンである。
【0057】
ある態様において、捕捉剤は、水中での該捕捉剤の溶解性を高めるように当技術分野において公知の方法により改変することができる。例えば、式Iまたは式II中のR1は、R1構成要素の親水性を高める構成要素で置換されてもよい。
【0058】
一つの態様において、本方法は生物学的サンプルを捕捉溶液と接触させる段階を含む。本明細書において用いられる場合、「捕捉溶液」という用語は、捕捉剤を含む水溶液を指す。例示的な態様において、生物学的サンプルは液体の細胞学用保存媒質から分離され、その後、捕捉溶液と接触されうる。そのような場合に、生物学的サンプルは単一アリコットの捕捉溶液中でインキュベートされてもよく、または捕捉溶液中で連続的に洗浄されてもよい。別の例示的な態様において、捕捉溶液は液体の細胞学用保存媒質に直接添加されうる。別の例示的な態様において、添加される捕捉溶液の量はサンプル中の固定剤の量の推定に基づくことができる。捕捉剤の量はサンプル中の固定剤の量と同じであってもよく、サンプル中の固定剤の量より少なくてもよく、またはサンプル中の固定剤を超えていてもよい。一つの態様において、捕捉剤の量はサンプル中の固定剤の量と比べてわずかに過剰である。例示的な態様において、捕捉溶液は約0.1 M〜約1.0 M、約0.1 M〜約0.5 M、約0.2 M〜約0.4 M、または約0.3 Mの捕捉剤を含む。別の態様において、約0.3 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたはコハク酸ジヒドラジドが用いられる。本明細書において用いられる、「約」という用語は、濃度との関連で用いられる場合、示した濃度に切り上げまたは切り捨てできる全ての濃度を明示的に含む。
【0059】
別の態様において、標的分子は、とりわけ、溶解を含む方法によって生物学的サンプルから抽出することができる。本明細書において用いられる場合、「溶解」および「溶解させること」という用語は、細胞壁; 細胞膜; または小胞体、ゴルジ装置、リソソーム、ミトコンドリア、核、液胞および小胞を含むが、これらに限定されない、脂質膜によって規定される細胞小器官もしくは他の構造の完全性を破壊する作用を指す。例示的な溶解の方法は、超音波処理もしくは細胞溶解によるなどの、機械的溶解; ならびにポリオキシエチレングリコールドデシルエーテル(Brij-58として市販されている)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPSとして市販されている)、Nonidet P-40 (Igepal CA-630としても公知)、デオキシコール酸塩、Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム(SDSとして市販されている)、および/またはポリソルベート界面活性剤(TWEENとして市販されている)などの界面活性剤の使用を含む、化学的溶解を含む。
【0060】
標的分子が溶解によって抽出される場合、生物学的サンプルは溶解溶液と接触されなければならない。本明細書において用いられる場合、「溶解溶液」は、細胞を溶解するのに有用な任意の溶液を指す。例示的な溶解溶液は非限定的に、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58として市販されている)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPSとして市販されている)、Nonidet P-40 (Igepal CA-630としても公知、tert-オクチルフェノキシポリ(オキシエチレン)エタノール)、デオキシコール酸塩、Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム(SDSとして市販されている)、および/またはポリソルベート界面活性剤(TWEENとして市販されている)を含む溶解溶液を含むが、これらに限定されない、低張溶解溶液および界面活性剤ベースの溶解溶液を含む。
【0061】
別の態様において、溶解溶液は、任意で緩衝剤を含む。例示的な緩衝剤は非限定的に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(「TRIS」)およびその誘導体、例えばN-トリス-(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(「TAPS」)、3-[N-トリス-(ヒドロキシメチル)-メチル-アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(「TAPSO」); N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(「TES」); N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-グリシン(「TRICINE」); ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス-(ヒドロキシメチル)メタン(「ビス-TRIS」); 1,3-ビス[トリス(ヒドロキシ-メチル)メチルアミノ]プロパン(「ビス-TRIS PROPANE」); 炭酸塩‐重炭酸塩; グリシン; リン酸塩; 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(「HEPES」); N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(「Bicine」); 3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(「MOPS」); ならびに他のGood緩衝液を含む。溶解溶液の数多くの他の構成要素が同様に含まれてもよい。サンプルの種類、溶解の方法、関心対象の被分析物、および用いられる分析の方法にしたがって当業者は、溶解溶液の的確な種類および組成を容易に判定することができる。
【0062】
一つの態様において、捕捉溶液は溶解溶液として機能することもできる。あるいは、捕捉溶液と溶解溶液とを、別個の溶液として生物学的サンプルに連続的にまたは同時に添加してもよい。一つの態様において、生物学的サンプルは、溶解溶液が添加される前に、捕捉溶液とともにインキュベートされる。別の態様において、捕捉溶液は、溶解溶液が添加される前に除去される。別の態様において、溶解溶液は、捕捉溶液が添加される前に生物学的サンプルに添加される。別の態様において、生物学的サンプルは、捕捉溶液が添加される前に、生物学的サンプルから標的分子を部分的にまたは完全に放出するのに十分な条件の下で溶解溶液とともにインキュベートされうる。
【0063】
一つの態様において、標的分子は核酸である。任意の方法を用いて、生物学的サンプルから核酸を回収することができる。例として、標的核酸を回収する方法は非限定的に、シリカまたはガラス吸着、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティー精製、スピンカラムクロマトグラフィーおよびゲルろ過を含むが、これらに限定されない、クロマトグラフィー; 溶媒抽出および沈殿; ならびに遠心分離を含む。核酸の回収方法は非限定的に、硫酸アンモニウム沈殿、示差的可溶化、スクロース勾配遠心分離およびクロマトグラフィーを含む。限定ではなく例として、核酸は、核酸に特異的に結合するように改変された磁気ビーズを用いることによって単離することができる。
【0064】
別の態様において、特定の配列を含む核酸は、これを、特定の配列に相補的な核酸プローブとハイブリダイズさせることにより単離することができる。一つの態様において、核酸プローブは固相に結合されるか、または固相に結合されるように適合される。別の態様において、核酸分子と核酸プローブとのハイブリダイゼーションは、プローブと核酸分子との間でDNA:RNAハイブリッドを生ずる。得られたハイブリッドを次いで、DNA:RNAハイブリッドに特異的に結合することが公知の抗体(「DNA:RNA結合抗体」)により結合させることができ、これを次に、固相に結合させるか、または固相に結合させるように適合させることができる。どちらの場合にも、核酸とプローブとのハイブリダイゼーションは、固相と結合した核酸を生じ、これを次いで、機械的手段により溶解物から分離することができる。限定ではなく例として、そのような方法は米国特許第6,228,578号および米国特許出願第12/695,071号に記述されており、それらの内容は、参照によりその全体が組み入れられる。例示的なDNA:RNA結合抗体は、米国特許第4,732,847号および同第4,865,980号に開示されているものを含むが、これらに限定されることはなく、それらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0065】
限定ではなく例として、適切な固相は以下を含むが、これらに限定されることはない:シリカ、ホウケイ酸塩、ケイ酸塩、無機ガラス、有機重合体、例えばポリ(メタ)クリレート、ポリウレタン、ポリスチレン、アガロース、多糖類、例えばセルロース、金属酸化物、例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタンおよび酸化ジルコニウム、金属、例えば金もしくは白金、アガロース、セファデックス、セファロース、ポリアクリルアミド、ジビニルベンゼン重合体、スチレンジビニルベンゼン重合体、デキストランおよびその誘導体、ならびに/またはシリカゲル、ビーズ、膜および樹脂; ガラスまたはシリカ表面、例えばビーズ、プレートおよびキャピラリー管; 磁性材料を組み入れているかもしくは磁性材料と結合しているポリスチレン、アガロース、ポリアクリルアミド、デキストランおよび/またはシリカ材料を含むがこれらに限定されない磁化可能または磁性(例えば、常磁性、超常磁性、強磁性またはフェリ磁性)粒子。いくつかの例示的な態様において、核酸プローブまたは抗体は、マイクロチューブ、マイクロプレートのウェル、またはキャピラリーなどの加工容器の表面に結合させることができ、これらの表面を用いて、核酸をマイクロスケールで単離することができる。ビオチン化された核酸プローブまたは抗体が提供される場合、固相は、例えば、アビジン、ストレプトアビジンおよび/またはニュートラアビジンなどの、ビオチン部分に結合できる物質でコーティングされてもよい。別の態様において、固相は、DNA:RNAハイブリッドに特異的な抗体でコーティングされてもよく、またはDNA:RNAハイブリッドでコーティングされるように適合されてもよい。
【0066】
開示される方法および組成物を用いて得られる核酸は、非限定的にゲル電気泳動法、逆転写酵素PCRおよびリアルタイムPCRを含むPCR関連技法、配列決定法、サブクローニング手順、サザンブロッティング法、ノザンブロッティング法、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション法を含む後続の分子分析法、ならびにハイブリッド捕獲および多重分析を含むさまざまな突然変異分析において用いることができる。
【0067】
一つの態様において、捕捉溶液は、標的核酸を生物学的サンプルから放出させ、標的分子を単離するのに必要な全ての成分を含む。限定ではなく例として、そのような捕捉溶液は、とりわけ、界面活性剤、緩衝液、標的核酸に特異的な核酸プローブ、および固相を含むことができ、ここで核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションによって標的核酸が固相に捕獲される。限定ではなく例として、これは、固相の構成要素に結合できるリガンドを含むように核酸プローブを改変することによって達成することができる。例えば、ビオチン部分を含むようにプローブを改変することができ、例えば、アビジン、ストレプトアビジンおよび/もしくはニュートラアビジンなどの、ビオチン部分に結合できる物質、またはその断片で固相をコーティングすることができる。別の例では、標的核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションによってDNA:RNAハイブリッドを形成させることができ、これを次いで、参照により内容の全体が組み入れられる米国特許第6,228,578号および米国特許出願第12/695,071号に記述されている方法によるなどで、DNA:RNAハイブリッドに特異的な抗体によって固相に捕獲することができる。
【0068】
一つの態様において、標的分子はポリペプチドである。本明細書において用いられる場合、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって連結された少なくとも二つのアミノ酸を含む任意の分子を指し、オリゴペプチドおよびタンパク質を明示的に含む。ポリペプチドの回収方法は非限定的に、硫酸アンモニウム沈殿、示差的可溶化、スクロース勾配遠心分離およびクロマトグラフィーを含む。クロマトグラフィーによるポリペプチド単離方法は、非限定的にサイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、免疫アフィニティークロマトグラフィー、および金属結合クロマトグラフィーを含む。
【0069】
開示される方法および組成物によって得られるポリペプチドは、非限定的に配列決定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、ELISAアッセイ法、ドットブロット法および酵素アッセイ法を含む後続の分子分析法において用いることができる。
【0070】
記述される方法は、非限定的に細菌、真菌、酵母、原生動物、プリオンおよびウイルスを含む、全病原体を単離するために用いることもできる。
【0071】
本明細書において記述される方法および組成物は、架橋性または沈殿性固定剤のいずれかの中で保存された標本に対して容易かつ迅速に最適化される。本明細書において記述される方法および組成物は同様に、全ての生物学的流体に対して適合可能であり、例えば、標本の脱キャッピングおよびキャッピングならびに人間工学的な移動が皆無であることを含む、完全な自動化を可能にする、抽出および分析用の自動サンプル処理装置QIAensemble(登録商標) Next Gen(商標) Sample Processorを含めて、高速大量処理自動化に適合することが証明されている簡単なプロトコルを提供する。したがって、それらは、投入量の変更、無害な材料廃液、少ない固形廃棄物、および試薬の室温での貯蔵を可能にすることによって、超高速大量処理かつ環境に配慮したサンプル処理をもたらす。
【実施例】
【0072】
材料および方法
A. 細胞およびサンプル
ヒトパピローマウイルス16核酸を含む生物学的サンプルを用いて本開示による材料および方法を試験した。いくつかの例では、SiHa細胞株を用い、これはヒト子宮頸がんに由来する。SiHa細胞は、組み込まれたHPV 16ゲノムを含むことが公知である。他の例では、HPV 16に感染しているものと判定された臨床サンプルを用いた。HPV 16アッセイ法の陰性対照として、HPV陰性であるものと判定された臨床サンプルまたはJurkat細胞を用いた。
【0073】
他に指定のない限り、本実施例において用いられた全てのサンプルは、示した液体の細胞学用保存媒質中で少なくとも一晩固定された。
【0074】
B. 一般プロトコル: HandyLabs(商標)抽出
いくつかの例では、陰イオン交換材料で処理された常磁性ビーズを使った、陰イオン交換クロマトグラフィーに基づく市販のDNA抽出技術であるHandyLabs(商標)抽出技術を用いて抽出を行った。以下の一般プロトコルを、本実施例において用いた。
【0075】
サンプルをSurePath(登録商標)液体細胞学的媒質500 μL中にスパイクし、5 mLの試験管の中に入れた。捕捉剤の水溶液(または超純水) 100 μLおよびプロテイナーゼK錠剤(キットに付属されている)を試験管に添加した。溶解溶液1.2 mLおよびHLビーズ60 μL (ともにキットに付属されている)を次いで添加し、試験管を60℃で10分間インキュベートした。次に磁石を2分間添加してビーズをペレット化し、上清を除去した。次いでビーズを緩衝液1 (キットに同梱されている) 400 μLに再懸濁し、混合物を振盪し、ビーズをペレット化し、上清を除去した。次いで、ビーズを緩衝液2 (キットに同梱されている) 30 μLに再懸濁し、核酸を65.8℃で9分間溶出させた。ビーズを再度、ペレット化し、溶出液を96ウェルプレートに移し入れた。緩衝液3 (キットに同梱されている) 12 μLおよびDigene Collection Medium (Qiagen Gaithersburg, Inc., Qiagen, MD) 8 μLを各ウェルに添加した。NexGen(登録商標) (とりわけ、米国_に記述されている)またはHC2(登録商標)アッセイ法(米国特許第6,228,578号に記述されている)のいずれかを用いて、HPV 16の存在を検出した。
【0076】
C. 一般プロトコル: QiaAmp(登録商標)抽出
いくつかの例では、カラム形式でのシリカゲル吸収に基づく市販のDNA抽出技術であるQiaAmp(登録商標) DNA抽出キット(Qiagen Inc., Hilden, Germany)を用いて、核酸抽出を行った。
【0077】
SurePath(登録商標)サンプル250 μLおよび捕捉剤の水溶液(または超純水) 50 μLを2 mLの試験管に添加し、混合するために手短くボルテックスで攪拌した。緩衝液ATL (キットに付属されている) 80 μLおよびプロテイナーゼK溶液(キットに付属されている) 20 μLを試験管に添加し、試験管を10回パルスボルテックスで攪拌し、その後、振盪水浴(900 rpm)中にて15分間70℃でインキュベートした。100%エタノール360 μLを添加し、試験管を15回パルスボルテックスで攪拌し、混合物を5分間室温でインキュベートした。次いで溶解物を、QiaVac(登録商標)真空マニホールド上に置いたQiaAmp(登録商標)カラムに移し入れた。次いで真空の適用によりカラムを通じて溶解物を吸引した。次いでカラムを2回、最初は緩衝液AW2 (キットに付属されている) 750 μLで、その後、100%エタノールで洗浄した。次いでカラムをマニホールドから取り出し、2 mLの試験管の中に入れ、14000 rpmで3分間遠心分離した。次いでカラムを溶出用試験管の中に入れ、3分間56℃で乾燥する。次いで緩衝液AVE 70 μLを膜に添加し、5分間室温でインキュベートし、1分間14000 rpmで遠心分離した。溶出液を96ウェルプレートに移し入れ、NexGen(登録商標) (とりわけ、米国特許出願公開第2010/0105060 A1号に記述されている)またはHC2(登録商標)アッセイ法(米国特許第6,228,578号に記述されている)のいずれかを用いて、HPV 16の存在を検出した。
【0078】
実施例1
本実施例では、10,000個のSiHa細胞(HPV16+)をスパイクしたSUREPATH陰性臨床例を用いて、ヒドラジン化合物の使用に関する最初の実現可能性を調査する。陰性臨床例だけを含むサンプルを、各条件に対する陰性対照として用いる。各サンプルをアジピン酸で処理し、溶解し、上記のHandyLabsプロトコルによる核酸単離のために加工処理した。他に指定のない限り、各サンプルはプロテイナーゼKを含有する。
【0079】
表Iに記載されているように、「CV」は変動係数を指し、「S/N」はシグナル対ノイズ比を指し、「RLU/CO」は相対発光量/カットオフ比を指し、および「PK」はプロテイナーゼKを指す。全HPV 16ゲノムを含むプラスミド1 pgを、NexGen(登録商標)アッセイ法の陽性対照として用いた。回収率のベースラインは、液体の細胞学用保存媒質なしでJurkat細胞中にスパイクされたSiHa細胞を用いて定める。「回収A(%)」はベースラインと比較して、プロテイナーゼKなし、0.3 Mアジピン酸ジヒドラジドを用いて得られたデータを表す。「回収B(%)」はベースラインと比較して、プロテイナーゼKあり、0.3 Mアジピン酸ジヒドラジドを用いて得られたデータを表す。「回収C(%)」はベースラインと比較して、プロテイナーゼKあり、0.16 Mアジピン酸ジヒドラジドを用いて得られたデータを表す。「回収D(%)」はベースラインと比較して、プロテイナーゼKなし、0.3 Mアジピン酸ジヒドラジドを用いて得られたデータを表す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例2
塩酸アミノグアニジンがSUREPATH媒質中の捕捉剤として、10分間のプレインキュベーション時間で用いられる場合、95%〜100%のDNA回収率が得られる。
【0082】
【表2】


【0083】
塩酸アミノグアニジンが添加される場合、溶液は徹底的に混合されうる。SUREPATH標本は、塩酸アミノグアニジンと混合される前に室温でありうる。塩酸アミノグアニジン (0.5 M)およそ300 μL〜400 μLが、本明細書において記述されるアッセイ法において用いられるSUREPATH媒質およそ500 μLに添加されうる。作業容量を減らすことが有益であれば、さらに高濃度の塩酸アミノグアニジンが使用されうる。塩酸アミノグアニジンは高溶解性であるため、濃縮(例えば、4 M)溶液が調製されうる。一つの態様において、1 M、2 M、3 Mまたは4 Mの塩酸アミノグアニジンを含むストック捕捉溶液が使用されうる。
【0084】
表2に記載されているように、「CV」は変動係数を指し、「NC」は陰性較正を指し、「PK」はプロテイナーゼKを指し、「DCM」はDIGENE収集媒質を指し、「DCM-IPG」は、陽性較正物質1 pgを含むDIGENE収集媒質を指し、「SP」はSUREPATH媒質を指し、「NP-SP」は陰性プールのSUREPATH媒質を指し、および「Sp-SP」はスパイク済のSUREPATH媒質を指す。
【0085】
実施例3
アミノグアニジン、アジピン酸ジヒドラジドおよびコハク酸ジヒドラジドを、HandyLabsプロトコルにおいて相互に比較した。20,000個のSiHa細胞をSurePath媒質またはDigene収集媒質(Collection Medium)のいずれかにスパイクし、上記のHandyLabsプロトコルにしたがって加工処理した。各条件に対して二つ組の実験を行った。SurePath媒質での各ヒドラジンに対する結果は、図2にて例証されている。いずれの場合でも分かるように、捕捉剤の添加は核酸の回収率を改善した。Digene収集媒質におけるサンプルと比べた場合、捕捉剤の非存在下での回収率は40%〜60%で変化したのに対し、捕捉剤の添加は回収率を85%〜100%にまで改善した。
【0086】
実施例4
さまざまな濃度のコハク酸ジヒドラジドおよびアジピン酸ジヒドラジドを同様に、HandyLabsプロトコルにおいて試験した。
【0087】
一つの実験では、20,000個のSiHa細胞をSurePath媒質中にスパイクし、0.16 M、0.3 Mもしくは0.5 Mのコハク酸ジヒドラジドまたは等量の水を用い、上記のHandyLabsプロトコルにしたがって加工処理した。結果は図3にて実証されている。
【0088】
別の実験では、20,000個のSiHa細胞をSurePath媒質中にスパイクし、0.16 M、0.3 Mもしくは0.5 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたは等量の水を用い、上記のHandyLabsプロトコルにしたがって加工処理した。結果は図4にて実証されている。
【0089】
実施例5
細胞数(それゆえ標的核酸のコピー数)を変化させることの効果についても試験した。SurePath 500 μLあたり20,000、10,000、5,000、2,500および0個のSiHa細胞のストックを作出し、0.3 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたは等量の水のいずれかを用い、HandyLabsプロトコルにしたがって加工処理した。結果は図5にて示されている。
【0090】
実施例6
捕捉剤による前処理が回収率を改善するかどうかについても試験した。一部のサンプルを、プロテイナーゼKおよび溶解緩衝液の添加前に10分間0.3 Mアジピン酸ジヒドラジドもしくは0.5 Mアミノグアニジン(または等量の水)のいずれかとともにインキュベートしたことを除いては、20,000個のSiHa細胞をSurePath媒質またはDigene収集媒質のいずれかの中にスパイクし、上記のHandyLabsプロトコルにしたがって加工処理した。0.3 Mアジピン酸ジヒドラジド、0.3 Mコハク酸ジヒドラジド、または0.5 Mアミノグアニジンとの10分間または一晩のいずれかのプレインキュベーションを用いて、これを繰り返した。結果は図6および図7にて実証されている。
【0091】
さらに、前処理にプロテイナーゼKを含めることには効果があるかどうかについて試験した。1サンプルを、プロテイナーゼKを含む捕捉溶液で10分間前処理したことを除いては、捕捉剤として0.3 Mのコハク酸ジヒドラジドを用いて上記のようにサンプルを試験した。結果は図8にて示されている。
【0092】
実施例7
QiaAmpプロトコルはHandyLabsプロトコルよりもSurePath媒質との適合性が低いことが認められた。それゆえ、陰イオン交換カラムから核酸を溶出する温度を高くすることによって回収率が改善されうるかどうか調べた。20,000個のSiHa細胞をSurePath媒質500 μL中にスパイクし、捕捉剤として0.3 Mコハク酸ジヒドラジドまたは0.3 Mアジピン酸ジヒドラジドのいずれかを用い上記のHandyLabsプロトコルまたはQiaAmpプロトコルのいずれかにしたがって加工処理した。QiaAmpプロトコルの場合、溶出は室温または56℃のいずれかで行った。結果は図9にて示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、液体の細胞学用保存液中に保存された生物学的サンプルから標的分子を抽出するための方法:
A) 生物学的サンプルと、
少なくとも一つの末端ヒドラジン基を含む捕捉剤を含む捕捉溶液と
を接触させる段階;
B) 生物学的サンプルから核酸またはタンパク質を放出するのに十分な条件の下で生物学的サンプルを処理する段階; および
C) 標的分子を単離する段階。
【請求項2】
捕捉剤が、
a) 式Iに記載の化合物

; および
b) 式IIに記載の化合物

からなる群より選択され、
式中、
R1 C1〜C12アルキル; C1〜C12アルケニル; C3〜C6シクロアルキル; C3〜C6シクロアルケニル; C6〜C10アリール; およびC6〜C10ヘテロアリール、ここでR1は、水中での該捕捉剤の溶解性を高めるように置換されていてもよく;
R2が、それぞれの場合で同じであってもまたは異なっていてもよく、かつ

からなる群より選択され、かつ
mが0および1からなる群より選択される整数であり; かつ
nが1および2からなる群より選択される整数であり、
該捕捉剤は、水中での溶解性を高めるように改変されていてもよい、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
捕捉剤が式Iの化合物であり、式中、R1がC1〜C12アルキルであり、かつmが1である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
R1がC1〜C6アルキルである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
R1がC2〜C4アルキルである、請求項3または請求項4記載の方法。
【請求項6】
捕捉剤が式IIの化合物であり、式中、R1がC1〜C12アルキルであり、R2

であり、かつnが2である、請求項2記載の方法。
【請求項7】
R1がC1〜C6アルキルである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
R1がC2〜C4アルキルである、請求項6または請求項7記載の方法。
【請求項9】
捕捉剤が、セミカルバジド; チオセミカルバジド; カルバジド; チオカルバジド; N-アミノグアニジンおよびその塩; N,N-ジアミノグアニジンおよびその塩; アセチルヒドラジド; アジピン酸ジヒドラジド; コハク酸ジヒドラジド; ギ酸ヒドラジド; マレイン酸ジヒドラジド; マロン酸ジヒドラジド; ベンゼンスルホニルヒドラジド; トシルヒドラジド; メチルスルホニルヒドラジドからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
捕捉溶液が約0.1 M〜約1.0 Mの捕捉剤を含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
捕捉溶液が約0.1 M〜約0.5 Mの捕捉剤を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
捕捉溶液が約0.2 M〜約0.4 Mの捕捉剤を含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
捕捉溶液が約0.3 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたは約0.3 Mのコハク酸ジヒドラジドを含む、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
捕捉溶液が液体の細胞学用保存液に直接添加される、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
捕捉溶液がタンパク質消化酵素をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
生物学的サンプルが、該生物学的サンプルから標的分子が放出される前に捕捉溶液と接触される、請求項1〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
標的分子が、溶解溶液の存在下において生物学的サンプルを溶解させることにより生物学的サンプルから放出される、請求項1〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
捕捉溶液が溶解溶液である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
捕捉溶液が、生物学的サンプルへの溶解溶液の添加の前、添加の後、または添加と同時に、生物学的サンプルに添加される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
標的分子が標的核酸であり、かつ
C) 該標的核酸が、
(i) 核酸プローブを、第2の核酸を有する標的核酸とハイブリダイズさせて核酸ハイブリッドを形成させる段階;
(ii) 核酸ハイブリッドを固相に結合させる段階;
(iii) 固相を単離する段階; および
(iv) 標的核酸を固相から溶出させる段階
を含む方法によって、単離される、
請求項1〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
核酸ハイブリッドがDNA:RNAハイブリッドであり、かつ
該DNA:RNAハイブリッドが、
核酸ハイブリッドと、
核酸ハイブリッドに結合できる抗体であって、固相に結合されているかまたは固相に結合されるように適合されている該抗体と
を接触させる段階を含む方法によって、固相に結合される、
請求項20記載の方法。
【請求項22】
標的分子が標的核酸であり、かつ
C) 該標的核酸が、
(i) 標的核酸を陰イオン交換マトリックスに結合させる段階; および
(ii) 標的核酸を陰イオン交換マトリックスから溶出させる段階
を含む方法によって、単離される、
請求項1〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
標的核酸が約20℃〜約70℃の溶出温度で陰イオン交換マトリックスから溶出される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
標的核酸が約50℃〜約60℃の溶出温度で陰イオン交換マトリックスから溶出される、請求項22または請求項23記載の方法。
【請求項25】
以下を含む、溶解溶液:
(i) 緩衝液;
(ii) 界面活性剤;
(iii) 少なくとも一つの末端ヒドラジン基を含む捕捉剤; および
(iv) 任意で、タンパク質消化酵素。
【請求項26】
捕捉剤が、
a) 式Iに記載の化合物

; および
b) 式IIに記載の化合物

からなる群より選択され、
式中、
R1がC1〜C12アルキル; C1〜C12アルケニル; C3〜C6シクロアルキル; C3〜C6シクロアルケニル; C6〜C10アリール; およびC6〜C10ヘテロアリールからなる群より選択され、ここでR1は、水中での該捕捉剤の溶解性を高めるように置換されていてもよく;
R2が、それぞれの場合で同じであってもまたは異なっていてもよく、かつ

からなる群より選択され、かつ
mが0および1からなる群より選択される整数であり; かつ
nが1および2からなる群より選択される整数であり、
該捕捉剤は、水中での溶解性を高めるように改変されていてもよい、
請求項25記載の溶解溶液。
【請求項27】
捕捉剤が、セミカルバジド; チオセミカルバジド; カルバジド; チオカルバジド; N-アミノグアニジンおよびその塩; N,N-ジアミノグアニジンおよびその塩; アセチルヒドラジド; アジピン酸ジヒドラジド; コハク酸ジヒドラジド; ギ酸ヒドラジド; マレイン酸ジヒドラジド; マロン酸ジヒドラジド; ベンゼンスルホニルヒドラジド; トシルヒドラジド; メチルスルホニルヒドラジドからなる群より選択される、請求項25または請求項26記載の溶解溶液。
【請求項28】
約0.1 M〜約1.0 Mの捕捉剤を含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の溶解溶液。
【請求項29】
約0.1 M〜約0.5 Mのアジピン酸ジヒドラジドまたは約0.1 M〜約0.5 Mのコハク酸ジヒドラジドを含む、請求項25〜28のいずれか一項記載の溶解溶液。
【請求項30】
液体の細胞学用保存液中に保存された生物学的サンプルから標的分子を回収するためのキットであって、請求項25〜29のいずれか一項記載の溶解溶液を含み、かつ任意で、タンパク質消化酵素、固相、標的核酸とハイブリダイズできる核酸プローブ、および抗体からなる群より選択される少なくとも一つのさらなる成分を含む、前記キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−516183(P2013−516183A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547332(P2012−547332)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/020107
【国際公開番号】WO2011/082415
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(510069559)キアジェン ゲイサーズバーグ インコーポレイテッド (13)
【Fターム(参考)】