説明

固定された質量中心を有するひげぜんまい

【課題】ひげぜんまいの収縮及び拡張中に質量中心の移動を減少する。
【解決手段】ばねテンプ共振器の分野に関係し、ひげぜんまい1は、曲線が第1平面で伸長する第1ヘアスプリング3と、曲線が第1平面に平行な第2平面で伸長する第2ヘアスプリング5と、直列の二重ひげぜんまい1を形成するように第1ヘアスプリング3の曲線の一端を、第2ヘアスプリング5の曲線の一端に固着する取付部材4とを含む。第1ヘアスプリング3の曲線、及び第2ヘアスプリング5の曲線が各々、連続可変ピッチを含み、かつ取付部材4の突起の中央平面を通過し、かつ第1及び第2平面に平行な直線に対して対称であること、及び収縮及び拡張中に質量中心の移動を減少させるために、各曲線が、関係:


を遵守する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その曲率により、実質的に固定された質量中心による展開が可能になる、ばねテンプ共振器を形成するために使用されるひげぜんまいに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2及び3は、それぞれ3つの部品、2つの部品又は単一の部品を使用するマイクロマシニング可能な材料で作られた曲線隆起部を有するひげぜんまいをいかにして製造するかを説明している。これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
末端曲線の理論曲率を決定するために、フィリップス(Phillips)の基準を適用することが知られている。しかしながら、フィリップスの基準は実際のところ、更に低い速度変化が必要な場合に、必ずしも満足できない近似法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第2184652号明細書
【特許文献2】欧州特許第2196867号明細書
【特許文献3】欧州特許第2105807号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
収縮及び拡張したひげぜんまいの質量中心の移動を減少させ得る所定の条件を遵守するひげぜんまいを提案することによって、前述の欠点の一部あるいは全部を克服することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
それ故に、本発明は、曲線が第1平面で伸長する第1ヘアスプリングと、曲線が第1平面に平行な第2平面で伸長する第2ヘアスプリングと、直列の二重ひげぜんまいを形成するように第1ヘアスプリングの曲線の一端を、第2ヘアスプリングの一端に固着する取付部材とを含むひげぜんまいであって、第1ヘアスプリングの曲線、及び第2ヘアスプリングの曲線が各々、連続可変ピッチを有し、かつ取付部材の突起の中央平面を通過する第1及び第2平面に平行な直線に対して対称であること、及び収縮及び拡張中に質量中心の移動を減少させるために、各曲線が、関係:
【0007】
【数1】

【0008】
を遵守することを特徴とするひげぜんまいに関する。
【0009】
本発明の他の有利な特徴によれば:
−各曲線は、次の関係
【0010】
【数2】

【0011】
−及び場合により、
【0012】
【数3】

【0013】
−及び場合により、
【0014】
【数4】

【0015】
−及び場合により、
【0016】
【数5】

【0017】
−及び場合により、
【0018】
【数6】

【0019】
も遵守し、
−取付部材の質量によって形成される不平衡を補償するために、各ヘアスプリングは、少なくとも1つの釣り合いおもりを含み、
−ひげぜんまいは、シリコンから形成され、
−温度変化及び機械的衝撃に対する感度を制限するように、ひげぜんまいは、二酸化ケイ素で被覆された少なくとも一部を含む。
【0020】
更に、本発明は、例えばテンプのような慣性ブロックを含む時計用の共振器であって、慣性ブロックが、前述の応用例のいずれかによるひげぜんまいと協働することを特徴とする共振器に関する。
【0021】
他の特徴及び利点は、添付図面を参照して非限定的な表示として与えられる、以下の説明から明瞭に現れるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】コヒーレント推論(coherent reasoning)を説明する図である。
【図2】コヒーレント推論を説明する図である。
【図3】二次モーメント方程式までを遵守する2.3コイルを有する曲線の計算例である。
【図4】三次モーメント方程式までを遵守する2.3コイルを有する曲線の計算例である。
【図5】四次モーメント方程式までを遵守する2.3コイルを有する曲線の計算例である。
【図6】二次モーメント方程式までを遵守する5.3コイルを有する曲線の計算例である。
【図7】三次モーメント方程式までを遵守する5.3コイルを有する曲線の計算例である。
【図8】四次モーメント方程式までを遵守する5.3コイルを有する曲線の計算例である。
【図9】本発明によるひげぜんまいの図である。
【図10】本発明によるひげぜんまいの図である。
【図11】軸B−Bに沿った破断面図である。
【図12】図9及び図10によるひげぜんまいの非等時性のシミュレーション曲線である。
【図13】取付部材の質量が無視できないひげぜんまいの非等時性のシミュレーション曲線である。
【図14】取付部材の質量を補償する本発明によるひげぜんまいの図である。
【図15】取付部材の質量を補償する本発明によるひげぜんまいの図である。
【図16】図14及び図15のひげぜんまいの非等時性のシミュレーション曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
理論度数に対する機械時計の速度変化は、主に脱進機及びばねテンプ共振器に起因する。2つのタイプの速度変化は、テンプの振動振幅によって引き起こされるか、時計運動の位置によって引き起こされるかに応じて区別できる。これが、非等時性試験に関して、時計運動が6つの位置:2つの水平(上及び下向きの文字盤)及び4つの垂直位置(上向き位置から90°回転した巻真)で試験を受ける理由である。それにより得られる6つの異なる曲線から、「波腹」とも呼ばれる前記曲線間の最大変化が決定され、1日当たりの運動の最大速度変化を秒で表す(s.j-1)。
【0024】
脱進機は、テンプの振幅に応じて速度変化を誘発し、それは調節が困難である。従って、ひげぜんまいは一般的に、同じ振幅によるその変化が、脱進機のそれと実質的に逆であるように構成される。更に、ひげぜんまいは、その変化が4つの水平位置のシダで最小であるように構成される。
【0025】
計算により理想曲線を決定するために、数学的観点から必要なひげぜんまいの適応を提示するための試みがなされた。満足のゆくひげぜんまいを設計するために、すなわちひげぜんまいの質量中心がテンプの中心軸に残る、幾何学的条件が、とりわけフィリップス(Philips)及びグロースマン(Grossmann)氏によって提示された。しかしながら現在の条件は、大まかな近似法である。従って、質量中心の非常に僅かな移動が、大きな速度変化を引き起こし得るので、次の現在の幾何学的条件によって得られた速度変化は、多くの場合期待外れである。
【0026】
これが、本発明により好適には、現在の幾何学的条件、特にフィリップス及びグロースマン氏が定めたそれよりも良好な速度変化結果を得るために新規条件が以下に提示される理由である。
【0027】
「n次ひげぜんまいモーメント」、
【0028】
【数7】

【0029】
は、次式:
【0030】
【数8】

【0031】
(式中、
−Lは、ひげぜんまいの長さであり、
−snは、n乗の、ひげぜんまいに沿った曲線横座標を表し、

【0032】
【数9】

【0033】
は、その曲線横座標によるひげぜんまいのパラメータ化である)によって定義される。
【0034】
従って、各n次に関して固定された質量中心を得るために、ひげぜんまいモーメント
【0035】
【数10】

【0036】
は、ゼロでなければならない。全ての次数を計算することは、それが無数にあるので、不可能であるため、ゼロ関係(1)が遵守される次数が大きいほど、質量中心の移動量は小さい。
【0037】
図1に示す例において、ひげぜんまいの8つの次数モーメントが、少なくとも次数と同じ多さ(我々の場合に少なくとも8)の係数を含む多項式を使用するパラメータ化を介して、「理想的な」理論曲線を定義する点によって表される。
【0038】
ひげぜんまいのこれらのゼロモーメント条件を適用するために、図9及び図10に示したタイプのひげぜんまい、すなわち曲線が第1平面で伸長する第1ヘアスプリング3と、曲線が第1平面に平行な第2平面で伸長する第2ヘアスプリング5とを含むひげぜんまい1から開始する。ヘアスプリング3、5の各端部は、直列の二重ひげぜんまいを形成するように取付部材4によって固着される。
【0039】
以上に説明したように、それぞれ3つの部品、2つの部品又は単一の部品を使用するシリコンのようなマイクロマシニング可能な材料から特許文献1、特許文献2及び特許文献3に説明した方法を使用して、このタイプのひげぜんまいを製造することは、可能である。当然に、このタイプのひげぜんまいは、他の方法及び/又は他の材料から製造できる。
【0040】
計算を簡単にするため、第1ヘアスプリング3の曲線及び第2ヘアスプリング5の曲線は、好ましくは各々が連続可変ピッチを含み、かつテンプの中心軸及び取付部材4の突起の中央平面Pの中心を通過する第1及び第2平面に平行な直線Aに対して対称である。
【0041】
従って、例として、各ヘアスプリング3、5に関して、最初の7つの次数は、次の関係:
【0042】
【数11】

【0043】
【数12】

【0044】
【数13】

【0045】
【数14】

【0046】
【数15】

【0047】
【数16】

【0048】
【数17】

【0049】
を遵守せねばならない。
【0050】
以上で説明したように、遵守される関係(2)〜(8)の数が高いほど、ひげぜんまい1の質量中心の移動が限定される。比較として、フィリップ条件は、関係(2)、すなわち一次近似法に近い。関係(2)〜(5)の応用は、図1の部分拡大図である図2に示す。
【0051】
パラメータ化を使用して、以上に説明したように、ひげぜんまいのテンプ、材料、断面及び長さに関して選択された慣性に応じて多種多様のヘアスプリング曲線を定義することが可能であるが、パラメータ化多項式の係数でも可能である。例えば、次数及び/又はコイル数を限定する特定の解を選択することも可能である。
【0052】
可能な曲線シミュレーションを図3〜図8に示す。このように図3を形成するために、パラメータ化は、2.3コイルを有するひげぜんまいに関して関係(2)〜(4)及び二次パラメータ化多項式に限定される。図4は、ここでも2.3コイルの巻きを限定する関係(2)〜(5)からの三次多項式によるパラメータ化を示す。最後に、図5は、2.3コイルの巻きを限定する関係(2)〜(6)からの四次多項式によるパラメータ化を示す。図6〜8は、図3〜5と同じ基準を示すが、2.3コイルから5.3コイルに巻きが増加する。以上に示した関係(2)〜(8)を遵守する無数の曲線の解があることが判る。
【0053】
非等時性シミュレーションが、図9及び図10のひげぜんまい1を形成する図5に示す曲率から実行された。ヘアスプリング3は、一体成形のひげ玉6を含み、かつ取付部材4に対向するヘアスプリング5の端部は、ひげ持ち7に固着される。8mg.cm2の高さのテンプ慣性、並びに0.0267mm×0.1mmの断面及び46mmの長さLを有するシリコンひげぜんまいが、選択された。図12に示すシミュレーション結果は、300°で0.3s.j-1の非常に有利な結果を示す。それ故にこれらの新規な条件の利点は、「波腹」を減少させるためになおも調整がなされねばならないフィリップス及びグロスマン条件と比較してすぐに明瞭である。
【0054】
ひげぜんまいが、特許文献1に説明したように3つの部品から形成される特殊な場合に、取付部材は、無視できない質量になり、かつ速度変化が200°で11.8s.j-1に達する、図13に見られるように、非等時性を大幅に増幅することがある。
【0055】
最多数の関係(2)〜(8)を遵守することに加えて、取付部材によって引き起こされる不平衡を補償すること、すなわちテンプの中心軸からの距離に関する取付部材の質量を補償することも必要になる。それ故に、本発明は好ましくは、2つのヘアスプリング3、5に不均衡を対称的に加えることによって、取付部材の不平衡を相殺することを提案する。好ましくは、加えられる不平衡は、図14及び図15に示すように、各ヘアスプリング3’、5’上の2つの実質的に等しい釣り合いおもり8’、9’を含む。好ましくは、釣り合いおもり8’、9’の質量は、実質的に等しく、かつその合計は、一方で取付部材4’とテンプの中心軸との間の、かつ他方で釣り合いおもり8’、9’と前記テンプの中心軸との間の距離の差に応じて取付部材4’のそれよりも大きいか、小さい。距離が実質的に同じならば、一緒に加えられる釣り合いおもり8’、9’の質量が、取付部材4’のそれと実質的に等しい質量を形成することは、明瞭である。好適には、200°で1.4s.j-1の好ましい速度変化が、図16に示すように、上記と同じ基準によって得られることを意味する。
【0056】
当然に、本発明は、示した例に限定されず、当業者に見えてくる種々の応用例及び変更が可能である。特に、例えばテンプの中心軸が位置せねばならない起始点に、ヘアスプリングの端部が近すぎないように、内半径及び外半径の間の比率の限定のような他の定義基準が、提供できる。
【0057】
更に、ひげぜんまいが、シリコンで作られる時、温度変化及び機械的衝撃に対する感度を低くするために、二酸化ケイ素で少なくとも部分的に被覆されても良い。
【0058】
最後に、各釣り合いおもり8’9’は、異なっても良い。特に、それらは、各々が2つの異なる質量を形成しても良く、すなわち4つの釣り合いおもりがあっても良い。
【符号の説明】
【0059】
1、1’…ひげぜんまい、3、3’…第1ヘアスプリング、4、4’…取付部材、5、5’…第2ヘアスプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲線が第1平面で伸長する第1ヘアスプリング(3、3’)と、曲線が前記第1平面に平行な第2平面で伸長する第2ヘアスプリング(5、5’)と、直列の二重ひげぜんまい(1、1’)を形成するように前記第1ヘアスプリング(3、3’)の曲線の一端を、前記第2ヘアスプリング(5、5’)の曲線の一端に固着する取付部材(4、4’)とを含むひげぜんまい(1、1’)であって、前記第1ヘアスプリング(3、3’)の曲線、及び前記第2ヘアスプリング(5、5’)の曲線が各々、連続可変ピッチを含み、かつ前記取付部材(4、4’)の突起の中央平面を通過し、かつ前記第1及び第2平面に平行な直線(A)に対して対称であること、及び収縮及び拡張中に質量中心の移動を減少させるために、各曲線が、関係:
【数1】

を遵守することを特徴とするひげぜんまい(1、1’)。
【請求項2】
収縮及び拡張中に質量中心の移動を更に減少させるように、各曲線が、次の関係:
【数2】

も遵守することを特徴とする請求項1に記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項3】
収縮及び拡張中に質量中心の移動を更に減少させるように、各曲線が、次の関係:
【数3】

も遵守することを特徴とする請求項2に記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項4】
収縮及び拡張中に質量中心の移動を更に減少させるように、各曲線が、次の関係:
【数4】

も遵守することを特徴とする請求項3に記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項5】
収縮及び拡張中に質量中心の移動を更に減少させるように、各曲線が、次の関係:
【数5】

も遵守することを特徴とする請求項4に記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項6】
収縮及び拡張中に質量中心の移動を更に減少させるように、各曲線が、次の関係:
【数6】

も遵守することを特徴とする請求項5に記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項7】
前記取付部材(4’)の質量によって形成される不平衡を補償するように、各ヘアスプリング(3’、5’)が、少なくとも1つの釣り合いおもり(8’、9’)を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のひげぜんまい(1’)。
【請求項8】
シリコンから形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項9】
温度変化及び機械的衝撃に対する感度を制限するように、二酸化ケイ素で被覆された少なくとも一部を含むことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のひげぜんまい(1、1’)。
【請求項10】
慣性を含む時計用の共振器であって、前記慣性が、請求項1から9のいずれかに記載のひげぜんまいと協働することを特徴とする共振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−18169(P2012−18169A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152652(P2011−152652)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(504341564)モントレー ブレゲ・エス アー (56)
【Fターム(参考)】