説明

固定式等速自在継手

【課題】耐久性、高負荷条件、低負荷条件、高角条件性能に優れた特性を低コストで具現化できる固定式等速自在継手を提案する。
【解決手段】継手内部に潤滑グリースが封入された固定式等速自在継手である。ボール37の表面粗さをRa0.15μm以下とするとともに、ボールが転動する相手面の表面粗さをボール37の表面粗さよりも粗くする。潤滑グリースの添加剤組成として、基油、ジウレア化合物、モリブデンジチオカーバメート、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、及びアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や産業機械の動力伝達装置の駆動軸などに用いる固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
固定式等速自在継手は、図5に示すように、内径面1に複数のトラック溝2が形成された外側継手部材3と、外径面4に外側継手部材3のトラック溝2と対をなす複数のトラック溝5が形成された内側継手部材6と、外側継手部材3のトラック溝2と内側継手部材6のトラック溝5との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外側継手部材3の内径面1と内側継手部材6の外径面4との間に介在してボール7を保持するケージ8とを備えている。ケージ8には、ボール7が収容される窓部9が周方向に沿って複数配設されている。
【0003】
また、外側継手部材3は、前記トラック溝2が形成されたマウス部3aと、このマウス部3aの底壁10から突設されたステム部3bとからなる。内側継手部材6の軸心孔の内径面には雌スプライン11が形成され、この内側継手部材6の軸心孔にシャフト12の端部が嵌入される。このシャフト12の端部には雄スプライン13が形成され、この雄スプライン13が内側継手部材6の軸心孔の雌スプライン11に嵌合される。なお、雄スプライン13の端部には周方向溝が形成され、この周方向溝には抜け止めとしての止め輪14が装着されている。
【0004】
この場合、外側継手部材3のトラック溝2は、その曲率中心O1が継手中心Oから軸方向に外側継手部材3の開口側に継手軸線Lに沿って所定寸だけずらされている。また、内側継手部材6のトラック溝5は、その曲率中心O2が継手中心Oから軸方向に外側継手部材3のトラック溝2の曲率中心O1と反対側の奥側に継手軸線Lに沿って所定の寸法だけ離して設けている。すなわち、曲率中心O1と曲率中心O2は継手中心Oから互いに逆方向に等距離だけ継手軸線Lに沿って軸方向にオフセットしている。
【0005】
等速自在継手の開口部は、ブーツ15にて密封されている。ブーツ15は、大径部15aと、小径部15bと、大径部15aと小径部15bとを連結する蛇腹部15cとからなる。そして、大径部15aが外側継手部材3の外径面の開口部側のブーツ装着部17に外嵌され、その外嵌された状態で大径部15aに対してブーツバンド16を締め付ける。これによって、大径部15aが外側継手部材3のブーツ装着部17に装着される。また、シャフト12には、周方向溝が形成されたブーツ装着部18が形成され、このブーツ装着部18にブーツ15の小径部15bが外嵌され、その外嵌された状態で小径部15bに対してブーツバンド16を締め付ける。
【0006】
ところで、CO2削減が強く望まれる運輸部門、特に自動車部品においては、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で使用期間の延長且つ軽量化が急務な課題である。使用期間の延長を可能とするためには、特に転動寿命の向上が課題となる。また、軽量化を達成するためには、部品の耐久時の許容荷重を増加させることが必要である。このことより転動寿命の向上が強く求められている。
【0007】
また、自動車の駆動軸であるドライブシャフトは、登坂時のような高いトルクで低速回転の条件(以下、高負荷条件とする)から平坦な高速道の走行時のような低いトルクで高速回転の条件(以下、低負荷条件とする)、更に、ホイールの転舵角をフル転舵(CVJの作動角が最大角付近)で低いトルクで微速回転条件(以下高角条件とする)にて使用される。このような代表的な負荷モードが繰り返し作用しており、トルク伝達部材にボールを用いた固定式等速自在継手(以下、固定式ボール型等速自在継手と呼ぶ場合がある)は、全ての走行モードに十分に耐えることが必要であり、どれか一つの条件に優れた固定式ボール型等速自在継手であっても、実用の耐久性を具備したことにはならない。また、しゅう動式等速自在継手は、固定式ボール型等速自在継手よりも小さな(約半分の)作動角で使用されるため、固定式ボール型等速自在継手よりも寿命は長い場合が多い。そのため、特に、固定式ボール型等速自在継手の転動寿命の向上が望まれる。
【0008】
耐久性を考える場合、潤滑抜きでは考えられない。そして、潤滑の組成は使用される製品により大きく異なる。それは、接触する部品の運動状態と接触する面性状により、トライボロジー現象が大きく異なるためである。したがって、潤滑剤が封入される製品(例えば、自動車用ドライブシャフトの固定式ボール型等速自在継手)を明確に限定し、運転状態を把握し、更に転動面の面性状を考慮し、潤滑剤の組成が決定されなければならない。
【0009】
等速自在継手に封入される潤滑剤には、例えば特許文献1〜特許文献3に記載のものがある。特許文献1および特許文献2では、このようなグリース組成とすることによって、等速自在継手の摩耗を効果的に低減し、潤滑部分のフレーキングの発生を防止するものである。しかしながら、この場合、高負荷条件下のみに効果的なグリース組成を提供するものである。特許文献3では、等速自在継手の摩耗を低減し、振動の発生を防止するものである。
【0010】
また、特許文献4では、耐荷重性、耐摩耗性及び摩擦係数等の潤滑性能の少なくともいずれかの性能において改善したものである。そして、その改善された性能に応じてそれに適する各種の機械や装置の潤滑剤に有効に使用することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3988895号公報
【特許文献2】特開2004−123858号公報
【特許文献3】特許第3988897号公報
【特許文献4】特開昭61−12791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献1〜特許文献3に記載のもので、接触面における面性状についての記載はない。しかしながら、接触する部品の運動状態と接触する面性状により、トライボロジー現象が大きく異なる。このため、自動車のドライブシャフトにおけるボールを用いた固定式等速自在継手では、運転状態を把握し、さらに運転面の面性状を考慮して、潤滑剤の組成を決定する必要がある。また、特許文献4に記載のもは、用途が等速自在継手に限定されず、しかも接触面における面性状についても全く限定されたものではない。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、耐久性、高負荷条件、低負荷条件、高角条件性能に優れた特性を低コストで具現化できる固定式等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の固定式等速自在継手は、内径面にトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するケージとを備え、継手内部に潤滑グリースが封入された固定式等速自在継手において、前記ボールの表面粗さをRa0.15μm以下とするとともに、ボールが転動する相手面の表面粗さをボールの表面粗さよりも粗くし、かつ、前記潤滑グリースの添加剤組成として、基油、ジウレア化合物、モリブデンジチオカーバメート、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、及びアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩を含んでいるものである。
【0015】
本発明の固定式等速自在継手によれば、ボールの表面粗さをRa0.15μm以下としているので、ボールとのケージの接触部の摩耗を少なくすることができる。なお、ボール以外の部品の表面粗さは、トライボロジー的にはボールの面粗さと同等に仕上げることが理想であるが、表面積が大きく断続的で複雑な形状をしているため仕上げの表面粗さをRa0.15μm以下に仕上げることは経済的でない。そのため、ボール以外の部品の表面仕上げは研削加工(研削時の研削目が残存する)や焼入鋼切削(切削のリード目が残存する)または熱処理のままの面(研削や旋削等を省略)に留め、ボールの表面粗さよりも低下させることが経済的である。好ましくは、Ra0.4μm〜1.8μmである。
【0016】
高負荷時において、潤滑剤が具備すべき要件は、摩耗の低減と摩擦係数の低下である。
低負荷時において、潤滑剤が具備すべき要件は、初期摩耗の促進(なじみ性の付与)と摩擦係数の低下及び摩耗粉の分散である。更に、高角時において、潤滑剤が具備すべき要件は、摩耗の低減と摩擦係数の低下である。
【0017】
このように、高負荷時は摩耗を防止し、低負荷時は初期の摩耗を促進する必要があり相反する特性を具備する必要がある。また、高負荷は接触面の温度が高く、低負荷は接触面の温度が低い。そこで、摩耗の防止と促進(なじみ性付与)の相反する特性を満たすため、温度や面圧条件で効果が異なる固体潤滑剤を添加する。メラミンシアヌレート(MCA)が、高負荷条件でアブレシブ作用の少なく耐摩耗性が高くこのため添加した。また、二硫化モリブデン(MoS2)が、低負荷条件のような低せん断応力域で容易に作用し且つメラミンシアヌレートよりもアブレシブ作用があり、併用添加した。その潤滑機構としては、層状格子構造を持ち、すべり運動により薄層状に容易にせん断し、摩擦係数を低下させることが知られている。また、等速自在継手の焼け付き防止にも効果がある。
【0018】
また、摩擦係数の低減のため、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)がより高温域で反応するため、摩擦調整剤として添加した。更に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が、より低温域から反応する事から、摩耗調整剤として併用添加した。
【0019】
ZnDTPが分解して金属表面にポリフォスフェートの膜を生成し、これが潤滑面を被覆して粘弾性を有する高分子膜を形成し、振動を吸収し、また、金属接触を妨げて摩耗を防止する効果を有すると考えられる。これらの摩擦調整剤は、単独または相互作用し高い摩擦及び摩耗調整性能を示す。
【0020】
また、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩(Caスルホネート)を(好ましくは0.5〜3.5重量%)摩耗粉の分散に効果があり添加した。アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩は、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤や防錆剤として知られているジノニルナフタレンスルホン酸やアルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸などの合成スルホン酸のカルシウム塩である。Caスルホネートは、固体潤滑剤の分散にも効果がある。
【0021】
植物油脂としては、ヒマシ油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、などが用いられる。これ等の植物油脂の1種または2種以上の組合わせからなる油性剤は、金属表面に吸着しやすく金属間どうしの接触を妨げるものであり、低負荷時の摩擦係数を低下させると考えられる。
【0022】
前記成分に加えて、酸化防止剤、防錆剤、防食剤等を含有させることができる。本グリース組成物は、グリース組成物の全重量に対して、好ましくは成分の基油:57.5〜94.3重量%、成分のジウレア化合物:1〜25重量%、成分のメラミンシアヌレート:2〜4重量%、二硫化モリブデン:0.2〜2.5重量%、モリブデンジチオカーバメート:1〜3重量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛:0.5〜1.5重量%、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩:0.5〜3.5重量%、植物油脂:0〜3重量%、さらに好ましくは成分の基油:57.5〜94.3重量%、成分のジウレア化合物:1〜25重量%、成分のメラミンシアヌレート:2.5〜3.5重量%、二硫化モリブデン:0.2〜2.5重量%、モリブデンジチオカーバメート:1〜3重量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛:0.5〜1.5重量%、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩:0.5〜3.5重量%、植物油脂:0.5〜3重量%を含んでいる。
【0023】
ジウレア化合物の含有量が1重量%未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化しにくくなり、25重量%より多いと、得られた組成物が硬くなり過ぎ、所期の効果が得られ難くなる。 成分のメラミンシアヌレートの含有量が2重量%未満、モリブデンジチオカーバメートの含有量が1重量%未満、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量が0.5重量%未満、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩の含有量が0.5重量%未満では、所期の効果を十分に得ることが困難な場合があり、一方、 成分のメラミンシアヌレート、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、植物油脂の上限より多い場合にも、効果の増大はなく、耐久寿命向上の効果においては、むしろ逆効果である。モリブデンジチオカーバメート、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の上限より多い場合には、添加効果が顕著でなくなる。
【0024】
外側継手部材のトラック溝底面及び内側継手部材のトラック溝底面に曲線部とストレート部を有するアンダーカットフリータイプとすることができる。
【0025】
このようなアンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手において、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とを継手軸中心線に対して、そのトラック溝と反対側の径方向にそれぞれ等距離だけオフセットさせたものであってもよい。
【0026】
外側継手部材のトラック溝とシャフトの干渉がより高角側に移動するため、最大作動角を大きく取ることが可能となる。しかし、トラック溝の円弧部の高角側は、最大作動角が増加すると、トラック深さが浅くなり、高角条件下での耐久性が低下する。そこで、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とを径方向にオフセットすることによって、トラックの奥側を深くすることができる。
【0027】
ケージの素材は、炭素量が0.46重量%以上で0.50重量%以下の炭素鋼で、焼入れ後の硬さがHRC56〜60の芯部硬さを有するのが好ましい。また、前記ボールを8個とするとともに、外側継手部材の球面角を17°〜18.5°とし、かつ外側継手部材の球面入口に、ケージ組み込み用の切欠部を設けるのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の等速自在継手は、耐久性、高負荷条件、低負荷条件、及び高角度条件性能に優れた特性を低コストで具現化できる。潤滑グリースの添加剤組成の含有量を前記のように限定することによって、低負荷耐久性をさらに向上することができる。添加剤組成の基油を鉱油することによって、低コスト化を図ることができる。
【0029】
アンダーカットフリータイプとすることによって、最大作動角を大きくとることができ、しかも、前記した添加剤組成の潤滑グリースを継手内部に封入するにより高角条件下での耐久性の低下を防止できる。さらに、径方向にオフセットさせることによって、トラック溝の奥側を深くすることができ、この構造と前記潤滑グリースとの組み合わせによって、最大作動角の小さいバーフィールドタイプと同等の高角耐久性を確保できる。
【0030】
ケージの素材を前記のように限定することによって、高強度で耐久性に優れた固定式高角継手が可能となる。炭素量が前記した範囲の下限未満では、硬さが低下し、耐摩耗性が著しく低下する。また、炭素量が前記した範囲の上限を超えるとケージの窓抜き加工のプレス加工が困難となり、プレス面の寸法精度が著しく低下する問題が生じる。芯部硬度の下限未満では、強度の向上が見られない。
【0031】
外側継手部材の球面角を17°〜18.5°とすることによって、ケージの強度を更に増加でき、耐久性も大幅に向上する。この理由は、球面部はケージを抱き抱え、ケージを補強する役目があるためである。また、球面角の増加は、ケージと内側継手部材およびボールの等速二等分面からのズレを低減するため、耐久性が向上する。また、ボール個数を8個に増加することにより、ボール径を小さくでき、作動性を犠牲にすることなくオフセット量も低減でき外側継手部材とボールの滑りを大幅に低減できる。
【0032】
外側継手部材は、通常S53C前後の炭素鋼を高周波焼入れし、内側継手部材は浸炭焼入れしているため、外側継手部材の軟化抵抗は小さく運転中内側継手部材よりも硬度が低下しやすい。そのため、負荷条件が同じ場合、外側継手部材の寿命で固定式ボール等速継手の寿命は決まる。そのため、8個ボールとすることにより、より外側継手部材の寿命を向上できる。強度と耐久性が向上し、小型・軽量化が可能となる。
【0033】
ところで、球面角の増加は、ケージの外側継手部材への組込みを困難とするがケージ組込み用の切欠き部を球面の入口に設けることにより組込みが容易に可能となる。更に、組込み用の切欠き部は、旋削加工で加工可能であるが、鍛造で加工することにより、経済性が大幅に増加する。球面角が下限未満と成ると、効果が小さく、上限を超えると組込み用の切欠き部の加工費が大幅に増加するのと、鍛造加工が困難となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の断面図である。
【図2】前記等速自在継手の外側継手部材とケージとの寸法関係の説明図である。
【図3】前記等速自在継手の外側継手部材の要部断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す等速自在継手の断面図である。
【図5】従来の等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0036】
図1は本発明に係る固定式等速自在継手を示し、この固定式等速自在継手はアンダーカットフリータイプであって、内径面31に複数のトラック溝32が形成された外側継手部材33と、外径面34に外側継手部材33のトラック溝32と対をなす複数のトラック溝35が形成された内側継手部材36と、外側継手部材33のトラック溝32と内側継手部材36のトラック溝35との間に介在してトルクを伝達する複数のボール37と、外側継手部材33の内径面31と内側継手部材36の外径面34との間に介在してボール37を保持するケージ38とを備えている。ケージ38には、ボール37が収容される窓部39が周方向に沿って複数配設されている。この場合、外側継手部材33のトラック溝32と内側継手部材36のトラック溝35とは、それぞれ周方向に45°ピッチで8本形成され、ボール数が8個とされる。このため、外側継手部材33は、図2と図3に示すように、トラック溝間に、周方向に45°ピッチで8個の内径面構成面51が形成される。
【0037】
また、外側継手部材33は、前記トラック溝32が形成されたマウス部33aと、このマウス部33aの底壁40から突設されたステム部33bとからなる。内側継手部材36の軸心孔の内径面には雌スプライン41が形成され、この内側継手部材6の軸心孔にシャフト42の端部が嵌入される。このシャフト42の端部には雄スプライン43が形成され、この雄スプライン43が内側継手部材36の軸心孔の雌スプライン41に嵌合される。なお、雄スプライン43の端部には周方向溝が形成され、この周方向溝には抜け止めとしての止め輪44が装着されている。
【0038】
外側継手部材33のトラック溝32の溝底面は、奥側の曲線部32aと開口側のストレート部32b(継手軸線Lと平行に延びる)とを有する。また、内側継手部材36のトラック溝35の溝底面は、奥側のストレート部35a(継手軸線Lと平行に延びる)と開口側の曲線部35bとを有する。トラック溝32の曲線部32aは、その曲率中心O1が継手中心Oから軸方向に外側継手部材3の開口側に所定の寸法だけずらされている。また、トラック溝35の曲線部35bは、その曲率中心O2が継手中心Oから軸方向に外側継手部材33の曲線部32aの曲率中心O1と反対側の奥側に所定の寸法だけ離して設けている。すなわち、曲率中心O1と曲率中心O2は継手中心Oから互いに逆方向に等距離、継手軸線Lに沿って軸方向にオフセットしている。
【0039】
等速自在継手の開口部は、ブーツ45にて密封されている。ブーツ45は、大径部45aと、小径部45bと、大径部45aと小径部45bとを連結する蛇腹部45cとからなる。そして、大径部45aが外側継手部材33の外径面の開口部側のブーツ装着部47に外嵌され、その外嵌された状態で大径部45aに対してブーツバンド46を締め付ける。これによって、大径部45aが外側継手部材33のブーツ装着部47に装着される。また、シャフト42には、周方向溝が形成されたブーツ装着部48が形成され、このブーツ装着部48にブーツ45の小径部45bが外嵌され、その外嵌された状態で小径部45bに対してブーツバンド46を締め付ける。
【0040】
ところで、外側継手部材33のマウス部33aの開口端面には図2と図3に示すようなチャンファ50が形成される。また、相対向する一対の内径面構成面51A、51Bの開口端に切欠部52が形成される。このため、切欠部52を有さない相対向する一対の内径面構成面51、51の開口端間寸法をEとし、相対向する一対の内径面構成面51A、51Bの開口端間寸法(切欠部52の開口端間寸法)をFとしたときに、F>Eとなる。
【0041】
外側継手部材33の球面角αを17°〜18.5°とする。ここで、「球面角」とは、図3に示すように、外側継手部材33の内球面(内径面)中心(継手中心)Oに対してその内径面31の継手開口側端部がなす軸方向角度を意味する。
【0042】
また、固定式ボール型等速自在継手の強度で最も低強度な部品は、ケージ38である。ケージ38は浸炭焼入れで使用されることが多い。しかし、浸炭処理は、耐摩耗性や軟化抵抗の増加には有利であるが、炭素量が1.0重量%前後と高いため、切欠きを有する部品では、著しく靭性を低下させる。靭性の低下は、継手に衝撃荷重が作用した場合、脆性的に破断するため瞬間的にトルク伝達が不能となり危険回避時の安全性に問題が生じる場合がある。
【0043】
そのため、本発明では、炭素量0.46重量%以上で0.50重量%以下の鋼を焼入れし、焼入れ後の炭素量を浸炭の表面炭素量(0.9〜1.1重量%)の半減とし、芯部硬度をHRC52以上としている。これにより、このケージ38は、靭性と強度を大幅に向上させたものとなって、高強度で耐久性に優れた固定式高角継手が可能となる。炭素量が前記範囲の下限未満では、硬さが低下し、耐摩耗性が著しく低下する。また、前記範囲の上限を超えるとケージ38の窓抜き加工のプレス加工が困難となり、プレス面の寸法精度が著しく低下する問題が生じる。また、芯部硬度が、前記範囲の下限未満では、強度の向上が見られない。
【0044】
ところで、固定式等速自在継手(トルク伝達部材にボールを用いた固定式等速自在継手)のボールは、一般的には、継手の滑らかな作動と各ボールへの均一な負荷の観点から、最も仕上げ精度を考慮する必要が有る。このため、ボールは、熱処理後には、上下の平板の間に研磨剤及びボールを入れ、平板を相対運動させる研磨を行い、その後、ラッピング仕上げして、ボールを平滑で真球に加工する。このため、ボールは、一回の処理で大量に加工できるため、仕上げの面粗さを小さくしてもコストの増加は小さい。
【0045】
そこで、本発明では、ボール37の面粗さは、Ra0.15以下とする。Ra0.15を超えると、ケージ38と点接触するためケージ38の転走面の摩耗が著しく増加し、運転時異音の発生を招くことがある。
【0046】
ボール以外の部品の表面粗さは、トライボロジー的にはボール37の面粗さと同等に仕上げることが理想であるが、表面積が大きく断続的で複雑な形状しているため仕上げの表面粗さをRa0.15以下に仕上げることは経済的でない。そのため、ボール以外の部品の表面仕上げは研削加工(研削時の研削目が残存する)や焼入鋼切削(切削のリード目が残存する)または熱処理のままの面(研削や旋削等を省略)に留め、ボールの表面粗さよりも低下させることが経済的である。好ましくは、Ra0.4〜1.8である。尚、研削加工後ショットブラストやタンブラー加工を実施する場合がある。
【0047】
このような、経済的なトライボロジー的表面形状を前提とし、それに適合した潤滑剤の組成を見出すことが極めて重要であり、効率的で経済的な潤滑が可能となる。更に、組成を決めるためには、固定式等速自在継手(トルク伝達部材にボールを用いた固定式等速自在継手)の損傷モードを詳しく把握する必要がある。そこで、損傷モードを経時的に注意深く観察し鋭意究明した。
【0048】
その結果、高負荷条件では、外側継手部材と内側継手部材のトラックのはく離により寿命に至る。高負荷条件下では、境界潤滑状態で運動しており、ボールの転がり滑り運動により表面の大きなせん断応力がクライオリティとなり、表面層の軟化と摩耗が繰り返す。このため、高負荷条件下では、表面にせん断亀裂が発生し亀裂の進展によりマクロ的はく離にいたることが判った。従って、潤滑剤が具備すべき要件は、摩耗の低減と摩擦係数の低下である。
【0049】
低負荷条件では、ボールのはく離により寿命に至る。低負荷条件下で比較的短寿命な固定式ボール型等速自在継手の内側継手部材・外側継手部材のトラックを経時的に観察すると、研削目が多く残っているものが短寿命であることが判った。また、運転の初期(なじみの時期)以降は、トラックの摩耗は停留することが判った。より詳細に調査した結果、低負荷条件でなじみが完了すると流体潤滑状態で運動することが多くなることが判った。すなわち、なじみ性が低下すると流体潤滑状態に至らず、トラックの研削目がボールの表面に傷をつけ、この傷より亀裂が発生し、その後進展しボールがはく離することが判った。また、もう一つの亀裂発生の要因として、なじみ時のアブレシブ摩耗の摩耗粉がボールを攻撃し傷となり、その部位より亀裂が発生しボールがはく離することが判った。従って、潤滑剤が具備すべき要件は、初期摩耗を促進(なじみ性の付与)と摩擦係数の低下及び摩耗粉の分散である。
【0050】
高角条件では、内側継手部材のトラック肩部の欠けより寿命に至る。高角条件下では、固定式ボール型等速自在継手は、球面中心に対しトラックの中心が軸方向にオフセットしているためオフセットした側のトラック奥のトラック深さ(トラックの底から球面までの深さ)が浅くなる。このため、トラックとボールの接触楕円がトラック肩部に乗り上げ肩部の応力集中により、浸炭焼入れされた内側継手部材のトラック肩部が欠ける。
【0051】
外側継手部材は、中炭素鋼(JIS S53CやS48C)を高周波焼入れされる場合が多く、このような場合、外側継手部材の表面の炭素量は浸炭焼入れされたものより半分ほど少ない。このため、外側継手部材の肩部の靭性は内側継手部材の肩部の靭性より高く、外側継手部材の肩部は欠け難く塑性変形の状態で止まることが判った。更に、トラックの摩耗が進展すると、より肩部への乗り上げが増加し、欠けの発生を助長することが判った。従って、潤滑剤が具備すべき要件は、摩耗の低減と摩擦係数の低下である。
【0052】
以上より、高負荷時において、潤滑剤が具備すべき要件は、摩耗の低減と摩擦係数の低下である。低負荷時において、潤滑剤が具備すべき要件は、初期摩耗の促進(なじみ性の付与)と摩擦係数の低下及び摩耗粉の分散である。更に、高角時において、潤滑剤が具備すべき要件は、摩耗の低減と摩擦係数の低下である。尚、高角条件は、高負荷条件と同じと考えられるため、高負荷時と低負荷時の要件を考慮し潤滑組成を決定すれば良い。
【0053】
すなわち、高負荷時は摩耗を防止し、低負荷時は初期の摩耗を促進する必要があり相反する特性を具備する必要がある。高負荷と低負荷の接触面の硬さ変化の調査より、高負荷は接触面の温度が高く、低負荷は接触面の温度が低いことを見出した。そこで、摩耗の防止と促進(なじみ性付与)の相反する特性を満たすため、温度や面圧条件で効果が異なる固体潤滑剤を添加する。メラミンシアヌレート(MCA)が、高負荷条件でアブレシブ作用の少なく耐摩耗性が高い事を見出し添加した。メラミンシアヌレートは、例えば、メラミン水溶液とシアヌル酸又はイソシアヌル酸水溶液を混合すると容易に白色の沈殿として析出してくる。メラミンシアヌレートは、通常平均粒径1〜2μmの白色微粉末として市販されている。メラミンシアヌレートは、6員環構造のメラミン分子とシアヌル酸分子が水素結合で強力に結合して平面状に配列し、その平面が互いに弱い結合力で層状に重なりあっている。このため、二硫化モリブデンと同様にへき開性を有すると推定され、メラミンシアヌレートは、優れた潤滑性を与えるものと考えられる。また、二硫化モリブデン(MoS2)が、低負荷条件のような低せん断応力域で容易に作用し且つメラミンシアヌレートよりもアブレシブ作用がある事を見出し、併用添加した。一般に極圧添加剤として広く用いられている。その潤滑機構としては、層状格子構造を持ち、すべり運動により薄層状に容易にせん断し、摩擦係数を低下させることが知られている。また、等速自在継手の焼け付き防止にも効果がある。
【0054】
また、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)がより高温域で反応する。そこで、摩擦係数の低減のため、これを摩擦調整剤として添加した。更に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が、より低温域から反応する事から、これを摩耗調整剤として併用添加した。
【0055】
ZnDTPが分解して金属表面にポリフォスフェートの膜を生成し、これが潤滑面を被覆して粘弾性を有する高分子膜を形成する。このため、振動を吸収し、また、金属接触を妨げて摩耗を防止する効果を有すると考えられる。前記摩擦調整剤は、単独または相互作用し高い摩擦及び摩耗調整性能を示す。
【0056】
また、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩(Caスルホネート)は、摩耗粉の分散に効果がある事を見出し添加(好ましくは0.5〜3.5重量%)した。アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩は、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤、防錆剤として知られているジノニルナフタレンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸などの合成スルホン酸のカルシウム塩である。Caスルホネートは、固体潤滑剤の分散にも効果がある。
【0057】
植物油脂としては、ヒマシ油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、などが用いられる。これ等の植物油脂の1種または2種以上の組合わせからなる油性剤は、金属表面に吸着しやすく金属間同士の接触を妨げるものであり、低負荷時の摩擦係数を低下させると考えられる。前記成分に加えて、酸化防止剤、防錆剤、防食剤等を含有させることができる。
【0058】
本グリース組成物は、グリース組成物の全重量に対して、好ましくは成分の基油:57.5〜94.3重量%、成分のジウレア化合物:1〜25重量%、 成分のメラミンシアヌレート:2〜4重量%、二硫化モリブデン:0.2〜2.5重量%、モリブデンジチオカーバメート:1〜3重量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛:0.5〜1.5重量%、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩:0.5〜3.5重量%、植物油脂:0〜3重量%、さらに好ましくは成分の基油:57.5〜94.3重量%、成分のジウレア化合物:1〜25重量%、成分のメラミンシアヌレート:2.5〜3.5重量%、二硫化モリブデン:0.2〜2.5重量%、モリブデンジチオカーバメート:1〜3重量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛:0.5〜1.5重量%、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩:0.5〜3.5重量%、植物油脂:0.5〜3重量%を含んでいる。
【0059】
ジウレア化合物の含有量が1重量%未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化しにくくなり、25重量%より多いと、得られた組成物が硬くなり過ぎ、所期の効果が得られ難くなる。成分のメラミンシアヌレートの含有量が2重量%未満、モリブデンジチオカーバメートの含有量が1重量%未満、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量が0.5重量%未満、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩の含有量が0.5重量%未満では、所期の効果を十分に得ることが困難な場合がある。一方、成分のメラミンシアヌレート、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、植物油脂の上限より多い場合にも、効果の増大はなく、耐久寿命向上の効果においては、むしろ逆効果である。モリブデンジチオカーバメート、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の上限より多い場合には、添加効果が顕著でなくなる。
【0060】
基油に関しては特に限定するものではない。鉱物油、合成油(エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油)等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。経済的には、鉱油が望ましいが、耐熱性を考慮し合成油を使用しても良い。
【0061】
本発明に使用する増ちょう剤としては、ウレア系増ちょう剤が望ましい。ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0062】
メラミンシアヌレートは、メラミンとシアヌル酸の付加物である。シアヌル酸は、イソシアヌル酸と互変異性の関係にあり、通常市販されているメラミンシアヌレートは、メラミン1モルとシアヌル酸1モルの付加物であり、メラミンイソシアヌレートの形態にある。この明細書において、メラミンシアヌレートは、メラミンとシアヌル酸またはイソシアヌル酸の付加物を示すものとする。メラミンシアヌレートは、例えば、メラミン水溶液とシアヌル酸またはイソシアヌル酸水溶液を混合すると容易に白色の沈殿として析出してくる。メラミンシアヌレートは、通常平均粒径1〜2μmの白色微粉末として市販されている。
【0063】
二硫化モリブデンは、一般に極圧添加剤として広く用いられている。モリブデンジチオカーバメートの好ましい例としては下記の化1で表されるものが挙げられる。
【化1】

【0064】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は下記一般式化2で表されるものが好ましい。
【化2】

【0065】
アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩は、エンジン油等の潤滑油に用いられるジノニルナフタレンスルホン酸やアルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸などの合成スルホン酸のカルシウム塩である。植物油脂としては、ヒマシ油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、などが用いられる。これ等の植物油脂は単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0066】
前記図1に示す等速自在継手では、外側継手部材33と内側継手部材36のトラック溝32、35の一部をストレートとすることにより、鍛造の加工が容易となる。また、鍛造での寸法精度も向上し、熱処理後のトラック溝32、35の仕上げが廃止、または仕上げの取代を大幅に削減でき経済的となる。また、外側継手部材33のトラック溝32とシャフト42の干渉がより高角側に移動するため、最大作動角を大きく取ることが可能となる。
【0067】
また、外側継手部材33の球面角α(図2参照)を17°〜18.5°とすることにより、ケージ38の強度を更に増加でき、耐久性も大幅に向上する。この理由は、球面部はケージ38を抱き抱え、ケージ38を補強する役目があるためである。また、球面角の増加は、ケージ38と内側継手部材36およびボール37の等速二等分面からのズレを低減するため、耐久性が向上する。また、ボール個数を8個に増加することにより、ボール径を小さくでき、作動性を犠牲にすることなくオフセット量も低減でき外側継手部材33とボール37の滑りを大幅に低減できる。
【0068】
外側継手部材33は、通常S53C前後の炭素鋼を高周波焼入れし、内側継手部材36は浸炭焼入れしているため、外側継手部材33の軟化抵抗は小さく運転中、内側継手部材36よりも硬度が低下しやすい。そのため、負荷条件が同じ場合、外側継手部材33の寿命で等速自在継手の寿命は決まる。したがって、8個ボールとすることにより、より外側継手部材33の寿命を向上できる。強度と耐久が向上し、小型・軽量化が可能となる。但し、球面角の増加は、ケージ38の外側継手部材33への組込みを困難とするがケージ組込み用の切欠き部52を球面の入口に設けることにより組込みが容易に可能となる。更に、組込み用の切欠き部52は、旋削加工で加工可能であるが、鍛造で加工することにより、経済性が大幅に増加する。球面角が下限未満と成ると、効果が小さく、上限を超えると組込み用の切欠き部52の加工費が大幅に増加するのと、鍛造加工が困難となる。
【0069】
次に図4は他の実施形態を示し、この場合の固定式等速自在継手は、曲率中心O1と曲率中心O2は継手中心Oから互いに逆方向に等距離f1、軸方向にオフセットしているとともに、曲率中心O1及び曲率中心O2を、継手軸中心線に対して、そのトラック溝と反対側の径方向にそれぞれ等距離f2だけオフセットさせている。
【0070】
この図4に示す等速自在継手の他の構成は前記図1に示した等速自在継手と同様であるので、図1と同一構成(部材)については図1と同じ符号を付してそれらの説明を省略する。このため、この図4に示す等速自在継手であっても、図1に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0071】
ところで、アンダーカットフリータイプとすることによって、円弧部のトラックの高角側のトラックは最大作動角が増加する。このため、トラック深さが浅くなり、高角条件下での耐久性が低下する。しかしながら、本グリースを封入することにより、高角条件下での耐久性の低下を防止できる。このようにアンダーカットフリータイプの等速自在継手は高角条件下での耐久性が低下するため、図4に示すようにトラックのオフセットを半径方向にもオフセットすることにより、奥側の浅いトラックを深くできる。この構造と本グリースを組み合わせることにより、図5に示した最大作動角の小さなバーフィールドタイプと同等の高角耐久性を確保できる。
【0072】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、固定式等速自在継手として、アンダーカットフリータイプにかぎらず、バーフィールドタイプの固定式等速自在継手であってもよい。また、前記したように、ボール数としては、8個が好ましいが、8個に限るものではない。
【実施例】
【0073】
次に実施例を示す。実施品1、2、3、4及び比較品1、2、3を製作して、各実施品及び比較品について、高負荷耐久、低負荷耐久、高角耐久、伝達効率について調べた。各実施品及び比較品の構成部品(外側継手部材、内側継手部材、ケージ、ボール)は、表1に示す材質のものを用いた。外側継手部材33のトラック溝32、内側継手部材36のトラック溝35、ケージ38の窓部39のボール接触面、ボール37の熱処理後の硬さは、それぞれHRC60.1、61.7、62.0、65.1であった。また、これらの各部材を200℃で1時間保持後の硬度の低下を測定した結果、外側継手部材33のトラック溝32、内側継手部材36のトラック溝35、ケージ38の窓部39のボール接触面、ボール38の硬さは、それぞれHRC58.2、60.5、60.8、64.5であった。この結果、軟化抵抗は、高周波焼入れの外側継手部材33が最も低いことがわかる。
【表1】

【0074】
表1において、第1ケージとは、材質にS48Cを用い、焼入れ後の芯部硬さをHRC56とし、第2ケージとは、材質にSCr415を用い、焼入れ後の芯部硬さをHRC40としたものである。また、各実施品及び比較品の構成部品の製造方法を次の表2に示す。表2において、第1ボールとは、後述する表4に記載のように、その面粗さが0.08μmとし、第2ボールとは、表4に記載のように、その面粗さが0.16μmとしたものである。ラッピング1とラッピング2とは表2に示すように、処理時間の違いのみである。なお、第1ケージを実施品(実施例)に用い、第2ケージを比較品(比較例)に用いた。
【表2】

【0075】
また、実施品1、2、3及び比較品1、2、3の潤滑グリースは、鉱油(100℃での動粘度が13.5mm2/sec)2000g中で、60.6gのジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、31.3gのオクチルアミンと66.2gのステアリルアミンを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてグリースを得た。このベースグリースに、表5に示す配合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.1グレードに調整した。
【0076】
実施品4の潤滑グリースは、鉱油(100℃での動粘度が13.5mm2/sec)2000g中で、60.3gのジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、65.5gのステアリルアミンと24.1gのシクロヘキシルアミンを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてグリースを得た。このベースグリースに、表5に示す配合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.1グレードに調整した。
【0077】
また、試験条件を次の表3に示す。表3において、◎は優れている「優」であることを示し、○は等速自在継手として使用可能であって、「良」であることを示し、×は「不可」であることを示している。
【表3】

【0078】
試験結果を次の表4に示します。比較品1のグリースは高負荷条件で作用しやすい添加剤を主に含んだものである。低負荷耐久性と伝達効率が悪化する。伝達効率は、グリースの摩擦係数の指標とした。実施品1は、低温域から作用する添加剤を比較品1に追加で添加し、MCA4%に減少したグリースである。全ての試験を満足することが判る。実施品2は、実施品2のMCAを更に3%まで減少したグリースである。実施品1より向上していることがわかる。更に、MCAを1.5%まで減少した比較品2は、寿命が悪化する。実施品3は、実施品2に植物油を添加し、実施品2より低負荷耐久寿命が向上していることがわかる。比較品3は、ボールの面粗さをRa0.16とした場合、耐久性が著しく低下する。実施品4は、実施品3よりウレア系増ちょう剤種を変更した。実施品3と同等の性能があった。
【表4】

【符号の説明】
【0079】
31 内径面
32、35 トラック溝
32a 曲線部
32b ストレート部
33 外側継手部材
34 外径面
35a ストレート部
35b 曲線部
36 内側継手部材
37 ボール
38 ケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面にトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するケージとを備え、継手内部に潤滑グリースが封入された固定式等速自在継手において、
前記ボールの表面粗さをRa0.15μm以下とするとともに、ボールが転動する相手面の表面粗さをボールの表面粗さよりも粗くし、かつ、前記潤滑グリースの添加剤組成として、基油、ジウレア化合物、モリブデンジチオカーバメート、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、及びアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩を含んでいることを特徴とする固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記潤滑グリースの添加剤組成が、メラミンシアヌレート:2〜4重量%、二硫化モリブデン:0.2〜2.5重量%、モリブデンジチオカーバメート:1〜3重量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛:0.2〜1.5重量%、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩:0.5〜3.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記潤滑グリースの添加剤組成には、さらに植物油脂が添加されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定式等速自在継手。
【請求項4】
前記添加剤組成の基油を鉱油としたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の固定式等速自在継手。
【請求項5】
外側継手部材のトラック溝底面及び内側継手部材のトラック溝底面に曲線部とストレート部を有するアンダーカットフリータイプであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とを継手軸中心線に対して、そのトラック溝と反対側の径方向にそれぞれ等距離だけオフセットさせたことを特徴とする請求項5に記載の固定式等速自在継手。
【請求項7】
ケージの素材は、炭素量が0.46重量%以上で0.50重量%以下の炭素鋼で、焼入れ後の硬さがHRC56〜60の芯部硬さを有することを特徴とする請求項6に記載の固定式等速自在継手。
【請求項8】
前記ボールを8個とするとともに、外側継手部材の球面角を17°〜18.5°とし、かつ外側継手部材の球面入口に、ケージ組み込み用の切欠部を設けたことを特徴とする請求項7に記載の固定式等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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