説明

固定構造及び管端溶接装置

【課題】管の固定時における管の軸線方向への移動を防止し、もって管の端部を管板に管端溶接する際の作業性を向上させる。
【解決手段】管の内部に挿入され、管の軸線方向に移動自在な移動シャフト51と、移動シャフト51を囲んで設けられ拡径自在なスリーブ52と、移動シャフト51に一体的に設けられ、スリーブ52の一端52a側から他端52b側に向かう移動シャフト51の移動により、スリーブ52を拡径させるスリーブ拡径部53と、スリーブ52の他端52bに当接され、スリーブ拡径部53の相対移動によるスリーブ52の軸線方向への移動を阻止する移動阻止部54とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定構造及び管端溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や火力発電所あるいは石油・天然ガス精製設備等において使用される熱交換器の製造工程では、流体流通用の多数の管と、管支持用の板(以下、管板と称する)とを接合するための溶接作業が行われる。この溶接作業は、各管の端部と、管が挿通された管板の孔部の周縁とを全周に亘って溶接(シール溶接)するものであり、管端溶接と呼ばれている。
【0003】
管端溶接では、溶接トーチの周方向の移動(旋回)が自動化された溶接装置を用いるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。この溶接装置は、モータ駆動される回転部材に溶接トーチが取り付けられた自動溶接部を備えている。自動溶接部における溶接トーチの前方には、シャフト状の固定構造が突出して設けられており、この固定構造を溶接対象の管の内部に挿入することで、管の中心軸線と溶接トーチの旋回軸線とが位置決め(軸合わせ)されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−075870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、固定構造は、管の内部に挿入され管の軸線方向に移動自在な移動シャフトと、移動シャフトの一部を外周側から囲んで設けられ径が変化自在なスリーブと、を備えている。なお、移動シャフト及びスリーブの中心軸線と、溶接トーチの旋回軸線とは、同一軸線上に配置されている。
また、スリーブの両端には、スリーブを内周側から拡径させる第1コーン及び第2コーンが設けられている。第1コーン及び第2コーンのスリーブと接する側には、それぞれ斜面が形成されている。第1コーンは、移動シャフトの先端に一体的に設けられている。一方、第2コーンと移動シャフトとは、互いに相対移動自在に設けられている。
【0006】
位置決め作業の手順としては、まず、移動シャフト及びスリーブを管の内部に挿入させる。次に、第2コーンを一定の位置に保持した状態で、移動シャフトを管から引き出す方向で移動させる。移動シャフトの移動により、第1コーンが第2コーン側、すなわち管の端部側に向かって移動する。すると、第1コーンと第2コーンとの間の距離が短くなり、スリーブはその軸線方向で圧縮される。
この圧縮によって、スリーブは、第1コーン及び第2コーンのそれぞれの斜面に乗り上がるようにして、内周側から拡径される。拡径されたスリーブは、管の内周面に密着し、管の中心軸線と、移動シャフト及びスリーブとの中心軸線とが軸合わせされる。また、上述したように、移動シャフト及びスリーブの中心軸線と、溶接トーチの旋回軸線とは、同一軸線上に配置されている。よって、スリーブが管の内周面に密着することで、管の中心軸線と溶接トーチの旋回軸線とが軸合わせされるように、管と溶接装置とが位置決めされる。
【0007】
しかしながら、スリーブが第2コーンの斜面に乗り上がるようにして拡径するため、第2コーンが一定の位置に保持されていても、スリーブは拡径と共に移動シャフトの移動方向、すなわち管の端部側に向かって移動していた。また、スリーブが拡径して管の内周面に密着すると、スリーブと管との密着部分に摩擦力が生じる。この摩擦力により、管は移動シャフトが移動する方向に付勢され、管が管板から突出する虞があった。このように管が管板から突出すると、管の位置決め作業をやり直す必要があるので、管端溶接の作業性が低下する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、管の固定時における管の軸線方向への移動を防止し、もって管の端部を管板に管端溶接する際の作業性を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、固定構造に係る第1の解決手段として、管の内部に挿入され、管の軸線方向に移動自在な移動シャフトと、該移動シャフトを囲むように設けられ拡径自在なスリーブと、前記移動シャフトに一体的に設けられ、前記スリーブに対して前記軸線方向に相対移動することにより前記スリーブを拡径させるスリーブ拡径部と、前記スリーブの端部に当接するように設けられ、前記スリーブ拡径部の相対移動による前記スリーブの軸線方向への移動を阻止する移動阻止部とを具備する、という手段を採用する。
【0010】
また、固定構造に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記スリーブ拡径部は、前記スリーブの一端側を拡径させる第1拡径部と、前記スリーブの他端側を拡径させる第2拡径部とを備える、という手段を採用する。
【0011】
また、固定構造に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記移動シャフトは、前記軸線方向に延在する第1シャフトと、前記軸線方向において前記第1シャフトと相対移動自在な第2シャフトと、を備え、前記第1拡径部は前記第1シャフトに一体的に設けられ、前記第2拡径部は前記第2シャフトに一体的に設けられる、という手段を採用する。
【0012】
また、本発明では、管端溶接装置に係る第1の解決手段として、管の端部と当該管を支持する管板とを溶接する管端溶接装置であって、溶接トーチを管の端部に沿って旋回させて管の端部を管板に溶接する自動溶接部と、第1〜第3のいずれかの解決手段に係る固定構造を備え、管の中心軸線と前記溶接トーチの旋回軸線とを軸合わせするように管と前記自動溶接部とを位置決めする位置決め装置と、を具備する、という手段を採用する。
【0013】
また、管端溶接装置に係る第2の解決手段として、管端溶接装置に係る第1の解決手段において、複数の管に亘って自動溶接部を移動させる移動装置と、該移動装置を支持する支持台と、第1〜第3のいずれかの解決手段に係る固定構造を備え、前記支持台を管板に固定する支持台固定装置と、をさらに備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る固定構造によれば、移動シャフト及びスリーブを管の内部に挿入した後、移動シャフトを管の軸線方向に移動させると、スリーブ拡径部がスリーブを拡径させて管を固定する。このようなスリーブの拡径時において、本発明ではスリーブの軸線方向への移動を阻止する移動阻止部が設けられているので、スリーブの移動に伴って管が軸線方向に移動することがない。
したがって、このような固定構造を管端溶接装置に適用した場合に、管の端部を管板に管端溶接する際の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る溶接装置の正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る管端溶接装置の側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における自動溶接部の垂直断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態における固定構造の垂直断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態において、自動溶接部の前進動作を示す概略図である。
【図6】本発明の第1実施形態において、固定構造の固定動作を示す概略図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る管端溶接装置の側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態におけるプレート固定装置の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図1〜図8を参照して詳しく説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、図1〜図8においては、XYZ直交座標系が設定されており、XY平面が水平面に平行する面となっている。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る管端溶接装置3の正面図である。また、図2は、第1実施形態に係る管端溶接装置3の側面図である。これら図1、図2において、符号1は管板、符号2は管板1に挿通された流体流通用の管、符号3は第1実施形態に係る管端溶接装置を示している。
【0018】
図1に示すように、管板1は、不図示の熱交換器における容器(シェル)内に設けられる板状の部材であって、その壁面がY方向に直交する姿勢で設けられている。管板1には、その壁面におけるX方向及びZ方向に亘って、複数の管2が一定の配列ピッチで配設されている。図2に示すように、管板1には板厚方向に貫通する複数の孔部1aが形成されており、各孔部1aに管2がそれぞれ挿通されている。管2の端部2aは、管板1の壁面と面一となる位置に設けられている。管端溶接装置3は、管2の端部2aと、管板1の孔部1aにおける周縁とを全周に亘って溶接(シール溶接)するものである。
【0019】
図1に戻り、管端溶接装置3は、ベースプレート10(支持台)と、プレート固定装置20(支持台固定装置)と、移動装置30と、自動溶接部40と、不図示の全体制御装置とを備えている。なお、自動溶接部40には、不図示の溶接制御装置が接続されている。
【0020】
ベースプレート10は、矩形の板部材から、自動溶接部40の移動範囲に対応する部分が切り欠かれた形状を有するものである。ベースプレート10のX方向における両端部には、アーム11を介して吊下用リング12がそれぞれ設けられている。吊下用リング12は、管端溶接装置3を吊り下げつつ移動させるために用いられるものである。
【0021】
プレート固定装置20は、ベースプレート10を管板1に固定するための装置であって、ベースプレート10の切り欠かれた部分を除いた3つの隅角部に各々設けられている。また、図2に示すように、プレート固定装置20は、シャフト状の固定構造50を備えている。固定構造50は、管2の内部に挿入されて、管2の内周面に密着することで、ベースプレート10を管板1に固定するためのものである。なお、固定構造50の詳細は後述する。
【0022】
再び図1に戻り、移動装置30は、X方向及びZ方向に自動溶接部40を移動させる装置である。移動装置30が自動溶接部40をX方向及びZ方向に移動させることで、自動溶接部40が矩形の領域S内に配された管2に対して管端溶接を実施できる構成となっている。移動装置30は、X軸ガイド部31と、Z軸ガイド部32とを備えている。X軸ガイド部31は、ベースプレート10の板面上に固定されており、X方向に向かって延在する直動ガイド、ボールネジ及びスライダを含んで構成されている。また、X軸ガイド部31には、ボールネジを回転させてスライダをX方向に往復移動させるX軸モータ33が設けられている。X軸モータ33には、例えばサーボモータが用いられる。Z軸ガイド部32は、X軸ガイド部31のスライダに固定されており、Z方向に向かって延在する直動ガイド、ボールネジ及びスライダを含んで構成されている。すなわち、Z軸ガイド部32は、X方向に移動自在に設けられている。また、Z軸ガイド部32には、ボールネジを回転させてスライダをZ方向に往復移動させるZ軸モータ34が設けられている。Z軸モータ34には、例えばサーボモータが用いられる。
【0023】
Z軸ガイド部32のスライダにはブラケット35が固定され、ブラケット35にはスライドガイド部36が設けられている。自動溶接部40はスライドガイド部36に設けられており、スライドガイド部36は自動溶接部40をY方向に往復移動させるものである。スライドガイド部36には、自動溶接部40を往復移動させるための不図示のエアシリンダ等が設けられている。なお、ブラケット35に、自動溶接部40のX方向及びZ方向での微少な移動に対応するためのフローティング機構が設けられていてもよい。
【0024】
図2に示すように、自動溶接部40は、溶接トーチ41と、位置決めピン42と、位置決め装置60とを備えている。溶接トーチ41は、管板1に向かって突出し、Y方向に延在する軸線R(旋回軸線)周りに旋回自在に設けられており、管2の端部2aと管板1とを管端溶接するものである。位置決めピン42は、管板1に向かって突出して設けられ、自動溶接部40が管板1に向かって前進したときに自動溶接部40をY方向で位置決めするものである。
【0025】
位置決め装置60は、自動溶接部40が管板1に向かって前進したときに管2の内部に挿入される固定構造50を備えている。位置決め装置60は、固定構造50の固定動作によって、管2の中心軸線2bと軸線Rとを軸合わせするように、管2と自動溶接部40とを位置決めするものである。なお、本実施形態におけるプレート固定装置20及び位置決め装置60は、同一の構成を有する固定構造50をそれぞれ備えている。
【0026】
続いて、本実施形態における自動溶接部40を、より詳細に説明する。図3は、本実施形態における自動溶接部40の垂直断面図である。自動溶接部40は、筐体43内に、旋回用モータ44と、回転部材45とを備えている。旋回用モータ44は、溶接トーチ41を軸線R周りに旋回させる回転駆動力を発生する駆動装置である。旋回用モータ44の出力軸には、ピニオンギア46が設けられている。また、旋回用モータ44は、筐体43内に一体的に設けられている。回転部材45は、円形の外周部を有する部材であって、筐体43にベアリング47を介して、軸線R周りに回転自在に設けられている。回転部材45の外周部にはギアが形成されており、回転部材45の外周部のギアと、ピニオンギア46とは互いに噛合している。また、回転部材45には溶接トーチ41が固定されている。すなわち、溶接トーチ41は、回転部材45に固定されていることで、軸線R周りに旋回自在となっている。
【0027】
本実施形態における位置決め装置60は、自動溶接部40に設けられている。位置決め装置60は、シャフト状の固定構造50と、第1シリンダ61と、第2シリンダ62とを備えている。
【0028】
固定構造50は、移動シャフト51と、スリーブ52と、コーン53(スリーブ拡径部)と、ストッパー54(移動阻止部)とを備えている。移動シャフト51は、筐体43から+Y方向側(以下、単に「+Y側」と称する)に溶接トーチ41よりも突出して設けられ、スリーブ52、コーン53及びストッパー54を支持する棒状の部材である。移動シャフト51は、第1シャフト51aと、第2シャフト51bとを備えている。第1シャフト51aは、Y方向に延在する棒状の部材である。第2シャフト51bは、第1シャフト51aを囲んで設けられる筒状の部材である。また、第1シャフト51aと第2シャフト51bとは、Y方向において互いに相対移動自在に設けられている。第2シャフト51bは、カラー55を介して筐体43にY方向に移動自在に支持されている。なお、第1シャフト51a及び第2シャフト51bの各中心軸線は、軸線Rと同一軸線上に配されている。
【0029】
カラー55は、第2シャフト51bを囲んで設けられる筒状の部材であって、筐体43に固定されている。カラー55は、溶接トーチ41の管端溶接時に生じる熱・火花等によっても溶解及び発火しない材質が用いられ、例えばセラミックを用いて成形されている。
【0030】
スリーブ52は、移動シャフト51の先端側の一部をその外周側から囲んで設けられる筒状の部材である。スリーブ52のY方向における両端、すなわち一端52a及び他端52bの径は、スリーブ52の中央部における径よりも大きく設定されている。なお、一端52aは、固定構造50の先端側、すなわち+Y側に設けられ、他端52bは−Y側に設けられている。スリーブ52には、Y方向に延びる複数のスリット52cが形成されている。そのため、スリーブ52は、内周側から外周側に向かって付勢されることで、その径が変化自在となっている。
【0031】
コーン53は、スリーブ52の+Y側に設けられており、スリーブ52に対して−Y側に相対移動することで、スリーブ52を内周側から拡径させるものである。
ストッパー54は、移動シャフト51の一部を外周側から囲んで設けられる部材であって、スリーブ52の他端52bとカラー55との間に配されている。
【0032】
第1シリンダ61及び第2シリンダ62は、それぞれ筐体43内に固定されている。第1シリンダ61の出力軸は、第1シャフト51aに接続され、第2シリンダ62の出力軸は、ブラケットを介して第2シャフト51bに接続されている。第1シリンダ61及び第2シリンダ62は、個別に動作させることができるものであり、例えば圧縮空気を駆動源とするエアシリンダである。
【0033】
続いて、本実施形態における固定構造50を、より詳細に説明する。図4は、本実施形態における固定構造50の垂直断面図である。移動シャフト51の第1シャフト51aは、第2シャフト51bよりも+Y側に向けて突出して設けられている。スリーブ52は、第2シャフト51bの+Y側の端部を外周側から囲んで設けられている。また、スリーブ52は、第2シャフト51bに対してY方向で相対移動自在に設けられている。
【0034】
コーン53は、第1コーン56(第1拡径部)と、第2コーン57(第2拡径部)とを備えている。第1コーン56は、第1シャフト51aの+Y側の端部に一体的に設けられている。第1コーン56の−Y側の端部には、−Y側に向かうにしたがって縮径する第1斜面56aが形成されている。この第1斜面56aは、スリーブ52における一端52aの内周側に配置されている。一方、スリーブ52は、第1斜面56aと同一の傾斜を有し且つ第1斜面56aに対向して設けられる第1対向面52dを備えている。第1コーン56の+Y側の端部には、+Y側に向かうに従って縮径する縮径部56bが形成されている。
【0035】
第2コーン57は、第2シャフト51bの+Y側の端部を外周側から囲みつつ一体的に設けられ、スリーブ52の内周側に配置されている。第1コーン56と第2コーン57とは、Y方向において互いに相対移動自在に設けられている。第2コーン57の−Y側の端部には、−Y側に向かうにしたがって縮径する第2斜面57aが形成されている。この第2斜面57aは、スリーブ52における他端52bの内周側に配置されている。一方、スリーブ52は、第2斜面57aと同一の傾斜を有し且つ第2斜面57aに対向して設けられる第2対向面52eを備えている。
【0036】
ストッパー54は、スリーブ52の他端52bとカラー55との間に設けられている。ストッパー54は、Y方向と直交する面である支持面54aを備えており、支持面54aは他端52bに接して設けられている。ストッパー54における支持面54a側の外径は、スリーブ52の他端52bが拡径したときの内径よりも大きく設定されている。
【0037】
次に、第1実施形態に係る管端溶接装置3の管端溶接における動作を説明する。
まず、吊下用リング12を用いて、管端溶接装置3を吊り下げつつ、管板1の壁面における領域Sに向けて移動させる。プレート固定装置20の固定構造50を、領域S外の管2の内部に挿入し、固定構造50の固定動作によりベースプレート10を管板1に固定する。なお、固定構造50の固定動作は、後述する位置決め装置60の位置決め動作と共に説明する。
【0038】
次に、移動装置30の作動により、自動溶接部40を溶接対象の管2の正面に移動させる。移動後、溶接対象の管2の正面には、自動溶接部40における位置決め装置60の固定構造50が対向して配置される。
【0039】
次に、自動溶接部40を管板1に向けて前進させる。図5は、自動溶接部40の前進動作を示す概略図であって、(a)は前進動作前の状態を示す側面図、(b)は前進動作後の状態を示す側面図である。
図5(a)に示すように、移動装置30の作動によって、自動溶接部40が溶接対象の管2の正面に移動する。移動後、溶接対象の管2の正面には、自動溶接部40における位置決め装置60の固定構造50が対向して配置されている。
【0040】
次に、図5(b)に示すように、スライドガイド部36の作動により、自動溶接部40が管板1に向けて前進する。自動溶接部40が前進することで、固定構造50は溶接対象の管2の内部に挿入される。前進後、溶接トーチ41は、管2の端部2aに対向して配置される。また、自動溶接部40には位置決めピン42が設けられており、自動溶接部40がY方向で位置決めされる。そのため、溶接トーチ41の先端と、管2の端部2aとの間の距離が、溶接に適した距離に設定される。
【0041】
次に、位置決め装置60を作動させて、管2の中心軸線2bと、溶接トーチ41の旋回中心である軸線Rとが軸合わせするように、管2と自動溶接部40とを位置決めする。図6は、固定構造50の固定動作を示す概略図であって、(a)は固定構造50が管2の内部に挿入された状態を示す垂直断面図、(b)はスリーブ52の他端52bが拡径した状態を示す垂直断面図、(c)はスリーブ52の一端52aが拡径した状態を示す垂直断面図である。
【0042】
図6(a)に示すように、自動溶接部40が管板1に向かって前進し、固定構造50が管2の内部に挿入された状態では、スリーブ52の一端52a及び他端52bの外周面と、管2の内周面との間には隙間が形成されている。すなわち、固定構造50が管2の内部に挿入された時点では、管2の中心軸線2bと軸線Rとは必ずしも同一軸線上に配されない。
【0043】
次に、図6(b)に示すように、第1シャフト51a及びカラー55を一定の位置に保持した状態で、第2シリンダ62(図6では図示せず)の作動により、第2シャフト51bを−Y側に移動させる。第2シャフト51bの移動により、第2シャフト51bに一体的に設けられた第2コーン57が−Y側に移動する。そのため、第2コーン57の第2斜面57aは、第2対向面52eを−Y側に付勢すると共に径方向外側に押し拡げる。すなわち、スリーブ52の他端52bが、第2斜面57aに乗り上がるようにして拡径する。したがって、第2コーン57がスリーブ52に対して−Y側に相対移動することで、スリーブ52の他端52bは内周側から拡径される。
【0044】
スリーブ52の他端52bが拡径すると、他端52bの外周面は管2の内周面に密着する。よって、他端52bにおいて、スリーブ52は管2に対して固定される。
なお、他端52bが拡径するときに、第2コーン57はスリーブ52を−Y側に向けて付勢する。しかしながら、スリーブ52における他端52bの−Y側にはストッパー54が接して設けられており、ストッパー54はカラー55に保持されている。そのため、スリーブ52が第2コーン57から−Y側に向けて付勢されたとしても、スリーブ52の−Y側への移動は生じず、スリーブ52は一定の位置に保持される。さらに、他端52bが拡径し、管2の内周面に密着したときにも、他端52bから管2に対して加えられる−Y側への付勢力は生じない。このような付勢力が生じないことから、管2の管板1からの−Y側への突出を防止することができる。
【0045】
次に、図6(c)に示すように、第2シャフト51b及びカラー55を一定の位置に保持した状態で、第1シリンダ61(図6では図示せず)の作動により、第1シャフト51aを−Y側に移動させる。第1シャフト51aの移動により、第1シャフト51aに一体的に設けられた第1コーン56が−Y側に移動する。そのため、第1コーン56の第1斜面56aは、第1対向面52dを−Y側に付勢すると共に径方向外側に押し拡げる。すなわち、スリーブ52の一端52aが、第1斜面56aに乗り上がるようにして拡径する。したがって、第1コーン56がスリーブ52に対して−Y側に相対移動することで、スリーブ52の一端52aは内周側から拡径される。
【0046】
スリーブ52の一端52aが拡径すると、一端52aの外周面は管2の内周面に密着する。よって、一端52aにおいて、スリーブ52は管2に対して固定される。
なお、一端52aが拡径するときに、第1コーン56はスリーブ52を−Y側に向けて付勢する。しかしながら、スリーブ52における他端52bの−Y側にはストッパー54が接して設けられており、ストッパー54はカラー55に保持されている。そのため、スリーブ52が第1コーン56から−Y側に向けて付勢されたとしても、スリーブ52の−Y側への移動は生じず、スリーブ52は一定の位置に保持される。さらに、一端52aが拡径し、管2の内周面に密着したときにも、一端52aから管2に対して加えられる−Y側への付勢力は生じない。このような付勢力が生じないことから、管2の管板1からの−Y側への突出を防止することができる。
【0047】
スリーブ52の一端52a及び他端52bが、いずれも拡径して管2の内周面に密着することにより、軸線Rは、管2の中心軸線2bに対して傾くことなく、管2の中心軸線2bと軸線Rとが同一軸線上に配されて互いに軸合わせされる。よって、固定構造50の固定動作を含む位置決め装置60の位置決め動作によって、管2の中心軸線2bと軸線Rとが軸合わせされるように、管2と自動溶接部40とが位置決めされる。
【0048】
なお、位置決め装置60の位置決め動作を行うことで、固定構造50が管2の内周面に密着し、固定構造50がX方向及びZ方向に微少に移動する場合がある。このような固定構造50の移動に応じて自動溶接部40をX方向及びZ方向に移動させる上述のフローティング機構が、ブラケット35設けられていてもよい。
【0049】
また、第1実施形態における第1コーン56及び第2コーン57は、第1シャフト51a及び第2シャフト51bによって個別にY方向に移動できることから、スリーブ52の一端52a及び他端52bをそれぞれ拡径させることが可能となっている。そのため、一端52a及び他端52bの、管2の内周面に対する密着力を個別に調整でき、それぞれの密着力を均一化するように調整できる。例えば、一端52a及び他端52bの各密着力が不均一であれば、管2の中心軸線2bと軸線Rとの軸合わせが適切に実施されない虞がある。よって、一端52a及び他端52bの管2の内周面に対する密着力を均一化することで、軸合わせを適切に実施することができる。なお、本実施形態では、スリーブ52の他端52bから拡径させ、次いで一端52aを拡径させているが、この順序は逆でもよい。
【0050】
次に、自動溶接部40の作動により、管2の端部2aと管板1とを管端溶接する。
旋回用モータ44を作動させ溶接トーチ41を軸線R周りに旋回させつつ、管2の端部2aと管板1とを管端溶接する。溶接時には、位置決め装置60の位置決め動作によって、管2の中心軸線2bと軸線Rとが軸合わせされている。また、上述したようにコーン53(第1コーン56及び第2コーン57)がスリーブ52を拡径させるときに、スリーブ52が−Y側に移動せず、管2に対する−Y側への付勢力が生じない。そのため、管2の管板1からの−Y側への突出が防止され、溶接トーチ41の先端と管2の端部2aとの距離を、溶接に適した距離に維持できる。したがって、軸線R周りに旋回自在な溶接トーチ41は、管2の端部2aと、管板1の孔部1aにおける周縁とを全周に亘って適切に管端溶接できる。
【0051】
なお、第1実施形態におけるプレート固定装置20が備える固定構造50は、位置決め装置60が備える固定構造50と同一の構成を有している。そのため、プレート固定装置20を用いてベースプレート10を管板1に固定するときに、プレート固定装置20の固定構造50が挿入される管2の、管板1からの突出を防止することができる。
【0052】
本実施形態によれば、第1コーン56及び第2コーン57がスリーブ52を拡径させても、スリーブ52はY方向において一定の位置に保持され、スリーブ52の管2に対する相対位置が保持される。そのため、スリーブ52が拡径して管2の内周面に密着しても、管2を管板1から−Y側に突出させる方向での付勢力が生じない。よって、管2の管板1からの突出が防止でき、管2の端部2aと溶接トーチ41との間の距離を溶接に適した距離に維持することで適切に管端溶接を実施できる。
【0053】
〔第2実施形態〕
図7は、第2実施形態に係る管端溶接装置3Aの側面図である。なお、図7において、図2に示す第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
第2実施形態に係る管端溶接装置3Aのプレート固定装置20は、ベースプレート10を管板1に固定するシャフト状の第2固定構造50A(固定構造)を備えている。
【0054】
第2実施形態におけるプレート固定装置20を、より詳細に説明する。図8は、第2実施形態におけるプレート固定装置20の垂直断面図である。なお、図8において、図3及び図4に示す第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
プレート固定装置20は、第2固定構造50Aと、固定用シリンダ21とを備えている。
第2固定構造50Aは、第2移動シャフト51A(移動シャフト)と、第2スリーブ52A(スリーブ)と、第1コーン56と、ストッパー54とを備えている。
第2移動シャフト51Aは、Y方向に延在する棒状部材である。第2移動シャフト51Aは、カラー55を介してプレート固定装置20の筐体22に支持されている。カラー55は、第2移動シャフト51Aを外周側から囲んで設けられる筒状の部材であって、筐体22に固定されている。なお、第2移動シャフト51Aとカラー55とは、相対移動自在に設けられている。
【0056】
第2スリーブ52Aは、第2移動シャフト51Aの先端側(+Y側)の一部を外周側から囲んで設けられる筒状の部材である。第2スリーブ52Aの+Y側における一端52aの径は、第2スリーブ52Aの中央部の径よりも大きく設定されている。一方、第2スリーブ52Aの他端52fの径と、中央部の径とは同一に設定されている。第2スリーブ52Aには、Y方向に延びる複数のスリット52cが形成されており、スリット52cが形成されていることで、一端52aの径が変化自在となっている。
【0057】
固定用シリンダ21は、筐体22内に固定され、例えば圧縮空気を駆動源とするエアシリンダである。固定用シリンダ21の出力軸は、第2移動シャフト51Aに接続されている。
【0058】
プレート固定装置20は、ベースプレート10を管板1に固定するための装置である。そのため、第2移動シャフト51Aの中心軸線である軸線Rと、管2の中心軸線2b(図7参照)との軸合わせ、特に軸線Rの中心軸線2bに対する傾きの精度は厳密には要求されない。また、ベースプレート10に管板1との間の距離を一定に保つためのスペーサ等を設けることで、ベースプレート10を管板1の壁面に平行に設けることも可能である。したがって、その一端52aのみが拡径する第2スリーブ52Aを用いたとしても、本実施形態に係る管端溶接装置3Aを管板1に適切に固定することができ、また、この固定方法によっても、自動溶接部40の管端溶接精度を低下させるものではない。
【0059】
したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態によって得られる効果に加え、プレート固定装置20の構造を簡略化することができるので、組立の手間及びコスト等を削減できる。
【0060】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)例えば、上記実施形態では、固定構造50において、第1コーン56及び第2コーン57が別体に構成され、互いに相対移動自在に設けられているが、これに限定されるものではなく、第1コーン56及び第2コーン57が一体的に設けられる構成であってもよい。
【0061】
このような構成によれば、別々に設けられる第1シャフト51a及び第2シャフト51bの代わりに、第2の実施形態で説明した第2移動シャフト51Aを用いることができることから、スリーブ52を拡径させるための駆動装置(エアシリンダ等)を簡略化でき、組立の手間及びコスト等を削減できる。なお、このような構成においては、一端52a及び他端52bの管2の内周面に対する各密着力を均一化するため、例えばスリーブ52を高い弾性を有する材料で成形することが考えられる。
【0062】
(2)位置決め装置60の固定構造50は、スリーブ52の一端52a及び他端52bを個別に拡径できる構成である。しかしながら、これに限定されるものではなく、移動装置30が、軸線Rの延在する方向を管2の中心軸線2bと同一の方向に維持したまま、自動溶接部40をX方向及びZ方向に移動させることのできる構成であれば(例えば高い剛性を備える場合など)、位置決め装置60が備える固定構造を第2実施形態における第2固定構造50Aとしてもよい。
【0063】
(3)上記各実施形態におけるストッパー54とカラー55とは別体に構成されているが、これに限定されるものではなく、これらが一体的に成形されていてもよい。
【0064】
(4)第2実施形態における第2スリーブ52Aは、+Y側の一端52aが拡径する構成であるが、これに限定されるものではなく、−Y側の他端52fの径が第2スリーブ52Aの中央部の径よりも大きく設定され、且つ他端52fが拡径する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…管板、2…管、2a…端部、2b…中心軸線、3…管端溶接装置、10…ベースプレート(支持台)、20…プレート固定装置(支持台固定装置)、30…移動装置、40…自動溶接部、41…溶接トーチ、50…固定構造、50A…第2固定構造(固定構造)、51…移動シャフト、51A…第2移動シャフト(移動シャフト)、51a…第1シャフト、51b…第2シャフト、52…スリーブ、52A…第2スリーブ(スリーブ)、52a…一端、52b…他端、53…コーン(スリーブ拡径部)、54…ストッパー(移動阻止部)、56…第1コーン(第1拡径部)、57…第2コーン(第2拡径部)、60…位置決め装置、R…軸線(旋回軸線)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内部に挿入され、管の軸線方向に移動自在な移動シャフトと、
該移動シャフトを囲むように設けられ拡径自在なスリーブと、
前記移動シャフトに一体的に設けられ、前記スリーブに対して前記軸線方向に相対移動することにより前記スリーブを拡径させるスリーブ拡径部と、
前記スリーブの端部に当接するように設けられ、前記スリーブ拡径部の相対移動による前記スリーブの軸線方向への移動を阻止する移動阻止部と
を具備することを特徴とする固定構造。
【請求項2】
前記スリーブ拡径部は、前記スリーブの一端側を拡径させる第1拡径部と、前記スリーブの他端側を拡径させる第2拡径部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の固定構造。
【請求項3】
前記移動シャフトは、前記軸線方向に延在する第1シャフトと、前記軸線方向において前記第1シャフトと相対移動自在な第2シャフトと、を備え、
前記第1拡径部は前記第1シャフトに一体的に設けられ、前記第2拡径部は前記第2シャフトに一体的に設けられることを特徴とする請求項2に記載の固定構造。
【請求項4】
管の端部と当該管を支持する管板とを溶接する管端溶接装置であって、
溶接トーチを管の端部に沿って旋回させて管の端部を管板に溶接する自動溶接部と、
請求項1から3のいずれか一項に記載の固定構造を備え、管の中心軸線と前記溶接トーチの旋回軸線とを軸合わせするように管と前記自動溶接部とを位置決めする位置決め装置と、
を具備することを特徴とする管端溶接装置。
【請求項5】
複数の管に亘って自動溶接部を移動させる移動装置と、
該移動装置を支持する支持台と、
請求項1から3のいずれか一項に記載の固定構造を備え、前記支持台を管板に固定する支持台固定装置と、
をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の管端溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−121064(P2012−121064A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276207(P2010−276207)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】