説明

固形状医薬組成物及びその製造方法

【課題】 難水溶性化合物を含有し、水に接触した際に速やかに自己乳化する固形状製剤の提供。
【解決手段】 (a)難水溶性化合物、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマーを含有し、親水性界面活性剤を実質的に含有しないことを特徴とする固形状医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性薬剤又は生理活性物質を含有する自己乳化性粉末製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの難水溶性薬剤は、薬効は高いものの、水への溶解性の低さから吸収性が悪く、バイオアベイラビリティーが低くなる傾向がある。例えば、難水溶性薬剤の1つであるシクロスポリンは、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル等の有機溶媒には良く溶けるが、水にはほとんど溶けない。そのため結晶状態のシクロスポリンを固形分散製剤の形で経口投与しても消化管からほとんど吸収されず、生体利用率は非常に低い。つまり、これらの薬剤が有する高い活性を有効に活かすには、いかに水に溶解あるいは乳化させるかが重要であり、本課題に対して様々な研究が行われてきた。
【0003】
例えば、シクロスポリンの吸収性を改善するために、シクロスポリン、1,2−プロピレングリコール、ミグリオール812(中鎖脂肪酸トリグリセライド)、クレモフォーRH40(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40)、及びグリセリンモノオレートからなる組成物を水中油型のミクロエマルジョン前濃縮物として用いる例が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、この製剤は組成中の大部分が油性成分および界面活性剤であるため製剤の粘性が高く、胃内でミクロエマルジョンを形成するのに時間を要し、また胃内の水量あるいは内容物量によりミクロエマルジョン形成に影響を受けやすい。すなわち、個人差や服用時の状況の違いにより、製剤の乳化性、分散性にバラツキが出やすく、そのため、安定な吸収性が得られにくいという問題点がある。また、開示されている医薬組成物のうち、その組成によっていくつかの製剤は、製剤自身に特異な好まざる臭いがする場合もある。シクロスポリン製剤を用いる治療行為が比較的長期に渡る場合も多いことから、このことは患者にとって大きな負担になり、患者が子どもの場合はこの負担は更に大きなものとなる。
【0005】
また、親油相および界面活性剤を含有し親水相を含有しない二成分系の製剤、一例として、シクロスポリンA、クレモフォーEL(ポリオキシル35ヒマシ油)、CAPMUL MCM(モノ及びジグリセリルカプリレート/カプレート)、ミグリオール812からなる組成物を用いることにより、シクロスポリンの吸収性が改善されることが報告されている(例えば、特許文献2)。
さらに、低HLB油成分及び約10〜20のHLBの1種以上の界面活性剤を含有し親水性溶媒を実質的に含まない自己乳化性プレ濃縮物、一例として、Tween80、クレモフォーRH40、Labrafil M1944CS(Oleoyl macrogol−6 glycerides)にシクロスポリンAを加えた組成物を用いることにより、シクロスポリンの吸収性が改善されるとの報告がされている(例えば特許文献3)。
【0006】
しかしながら、これらの製剤は、いずれもシクロスポリンの溶解度が高い親水性溶媒を用いていないため、製造時にシクロスポリンを溶解するのに時間、加温等の手間がかかるという問題があり、また、シクロスポリンを高濃度で溶解させることができないため製剤自体が大きく、経口で服用する場合には、ノンコンプライアンスの点でも問題となる。また、親水性溶媒を用いていないことから、組成によってはシクロスポリンが析出してしまうことがあり、製剤としての安定性も不十分である。
【0007】
つまり、多くの自己乳化性液状製剤が検討されてきたが、バラツキの無い優れた吸収性と製剤自体の安定性を両立するには、難水溶性薬剤と界面活性剤、溶解剤等の種類や組成比をうまく調節することにより絶妙なバランスを取る必要があり、全てを満足する液状製剤はなかなか見出されなかった。
そこで、製剤を固形製剤にすることにより、製剤の安定性の面をクリアし、一方で薬剤の吸収性を高めることにより吸収性の向上と製剤の安定性を両立する研究も行われてきている。
【0008】
例えば、難水溶性薬剤を親水性担体中に分散させた固体分散体を用いることにより、薬剤の分散性を向上させた組成物が報告されている(例えば、特許文献4)。しかしながら、本組成物は最終的に薬剤を固形の状態で放出するため、その吸収性は十分とは言えない。
【0009】
また、シクロスポリンをメタノール及びアセトンで溶解し、この溶液に親水性界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を加えたものを溶媒留去して粉末性製剤を得た例も知られている(例えば、特許文献5)。しかし、該製剤は親水性界面活性剤の配合比が高いため水中での分散速度が遅く、また、親水性物質のみで構成されているため、水中での主薬の析出が認められ、その吸収性は十分とは言えない。
【0010】
つまり、吸収性を向上するには、親油性担体が必要であり、また、速やかに自己乳化させるためには親水性界面活性剤を使用しないことが望ましい。しかし、従来から難水溶性の化合物を乳化、分散するには親水性界面活性剤を使用するのが一般的であり、親水性界面活性剤を用いずに親油性物質を乳化、分散するのは極めて困難であった。
【特許文献1】特公平7−25690号公報
【特許文献2】特表2001−515491号公報
【特許文献3】特表2002−513750号公報
【特許文献4】特表平10−505574号公報
【特許文献5】特許第2536876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、製剤の安定性を向上し、さらに吸収性の向上のために、親水性界面活性剤を実質的に使用せず、難水溶性化合物を速やかに自己乳化させることのできる固形状医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、実質的に親水性界面活性剤を用いず、(a)難水溶性化合物、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマー、を用いることにより、液状製剤に比べ高い安定性を有し、水中で速やかに自己乳化する固形状医薬組成物を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明による医薬組成物は、有効成分として(a)難水溶性薬剤または生理活性物質、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマーを含有する固形状の医薬組成物で、簡易かつ安価な製造が可能な上、従来の液状製剤に比べ高い安定性を有し、水と接触した際により速やかに水中油型エマルジョンを形成することを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである:
〔1〕 (a)難水溶性化合物、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマーを含有し、親水性界面活性剤を実質的に含有しないことを特徴とする固形状医薬組成物。
〔2〕 (b)親油性界面活性剤が(b1)多価アルコールと(b2)脂肪酸のエステルである上記〔1〕に記載の医薬組成物。
〔3〕 (b1)多価アルコールがグリセリン又は重合度2〜6のポリグリセリンである上記〔2〕に記載の医薬組成物。
〔4〕 (b2)脂肪酸がオレイン酸である上記〔2〕に記載の医薬組成物。
〔5〕 (b)親油性界面活性剤がモノオレイン酸グリセリンである上記〔1〕に記載の医薬組成物。
〔6〕 (c)常温で固体の水溶性ポリマーがポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルセルロースである上記〔1〕に記載の医薬組成物。
〔7〕 (c)常温で固体の水溶性ポリマーがポリビニルピロリドンであり、そのK値が15〜90である上記〔6〕に記載の医薬組成物。
〔8〕 (a)難水溶性化合物がペプチド又はタンパク系薬剤である上記〔1〕に記載の医薬組成物。
〔9〕 (a)難水溶性化合物がシクロスポリンである上記〔1〕に記載の医薬組成物。
〔10〕 (1) (a)難水溶性化合物、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマーを、揮発性有機溶媒に溶解する工程、(2) 減圧下で蒸発乾固する工程、を包含する、上記〔1〕に記載の固形状医薬組成物を製造する方法。
〔11〕 (3) 工程(2)から得られた固形状医薬組成物を粉砕する工程をさらに包含する、上記〔10〕に記載の方法。
〔12〕 (4) 工程(3)から得られた固形状医薬組成物をキャリアーと混合する工程をさらに包含する、上記〔11〕に記載の方法。
〔13〕 (4) 工程(3)から得られた固形状医薬組成物を造粒する工程をさらに包含する、上記〔11〕に記載の方法。
〔14〕 上記〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載の方法によって製造される、固形状医薬組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物は、高い保存安定性を有し、かつ、水に接触した際に速やかに自己乳化し、安定で効率のよい吸収性を達成することができるため、散剤、顆粒剤などの通常の固形製剤のほか、ドライシロップ製剤などに有利に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。本発明において、成分(a)は難水溶性薬剤または生理活性物質等の難水溶性化合物である。本発明において「難水溶性化合物」とは、20℃のイオン交換水への溶解度が10mg/mL以下、好ましくは1mg/mL以下、さらに好ましくは0.1mg/mL以下である化合物を意味するものである。
【0017】
難水溶性薬剤または生理活性物質等の難水溶性化合物として、具体的には、アセメタシン、インドメタシン、アスピリン、アシクロビル、ベンズブロマロン、酢酸クロルマジノン、シクロスポリンA等のシクロスポリン類、フマル酸クレマスチン、クロフィブラート、ダナゾール、ジアゼパム、ニトラゼパム、ジフルニサル、ジギトキシン、ジゴキシン、ジピリダモール、エノキサシン、フロセミド、グリセオフルビン、ハロペリドール、イブプロフェン、ケトプロフェン、インダパミド、酢酸メドロキシプロゲステロン、メフェナム酸、メチルプレドニゾロン、メトトレキサート、ナプロキセン、ニフェジピン、ニトラゼパム、ノルフロキサシン、パクリタキセル、フェニトイン、フェノバルビタール、ピンドロール、ピロキシカム、塩酸プラゾシン、レセルピン、スピロノラクトン、スルピリド、テオフィリン、テルフェナジン、トラニラスト、トリアゾラム、トルブタミド、プロブコール、ドロペリドール、レボドパ、フルオロメトロン、塩酸シプロヘプタジン、塩酸ベラパミル、アテノロール、シンバスタチン、塩酸ブロムヘキシン、シメチジン、ファモチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、オキセサゼイン、スクラルファート、ゲファルナート、レバミピド、メトクロプラミド、アロプリノール、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、パルミチン酸レチノール、酪酸リボフラビン、リン酸ピリドキサール、メコバラミン、葉酸、酢酸トコフェロール、フィトナジオン、メナテトレノン、メルカプトプリン、マイトマイシンC、クエン酸タモキシフェン、タクロリムス水和物、シスプラチン、ドセタキセル水和物、FK506(タクロリムス)、リトナヴィル等のプロテアーゼインヒビター、チアガビン等の中枢神経薬、ジロートン、5−リポキシゲナーゼインヒビター等の抗炎症薬、インスリン、グルカゴン、またはこれらの構造類似体もしくは誘導体等が挙げられるが、シクロスポリン等のペプチドあるいはタンパク系薬剤が好適である。
【0018】
成分(b)は親油性界面活性剤であり、HLB(親水性−疎水性バランス、川上法)が10以下、好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下の界面活性剤から選択される1種あるいは2種以上の混合物である。
【0019】
成分(b)の親油性界面活性剤としては、例えば、(b1)多価アルコールと(b2)脂肪酸のエステル類等が挙げられる。これらのものの具体的な化合物としては、モノミリスチン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、ジステアリン酸グリセリン、ジオレイン酸グリセリン等のグリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリル、ジオレイン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸ヘキサグリセリル、テトラベヘン酸ヘキサグリセリル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリル、ペンタオレイン酸ヘキサグリセリル、ポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル、等が挙げられる。
そのうち、グリセリン又はポリグリセリン(とくに重合度2〜6)の脂肪酸エステルが好ましく、モノオレイン酸グリセリンがさらに好ましい。
【0020】
本発明において、成分(c)は常温(20℃)で固体の水溶性ポリマーであり、具体的な化合物としては、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ならびにそれらの塩、誘導体等が挙げられる。
【0021】
成分(c)のひとつであるポリビニルピロリドンについては、K値が15〜90のものが好ましく、25〜60のものがさらに好ましい。ただし、K値とは水溶液の粘度に関する値であり、Fikentscherの式(数1)を用いて計算される。K値と大体の分子量との対応は表1に示す通りである。
【0022】
【数1】

【0023】
z : 濃縮物の溶液の相対粘度
k : K値×10-3
c : 濃度(% w/v)
【0024】
【表1】

【0025】
本発明の固形状医薬組成物は、親水性界面活性剤を実質的に含有しないことを特徴とする。本発明における親水性界面活性剤とは、HLB(川上法)が10より大、好ましくは12より大、さらに好ましくは15より大きく、水に溶解する界面活性剤である。
また、「実質的に含有しない」とは、製剤中の最終濃度として1%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下であることを意味する。
製剤の保存安定性に関して、液状製剤は、時間、温度、湿度等、保存環境の変化により常に有効成分の析出や酸化劣化の可能性を有している。しかし、本発明の組成物は、剤形を固形とすることにより有効成分が析出することはなく、また、有効成分と親油性界面活性剤を水溶性ポリマーが保護し、酸化劣化を受けにくい構造をとるものと考えられる。
【0026】
また、難水溶性化合物の乳化、可溶化、分散には一般的に親水性界面活性剤が用いられるが、製剤中に親水性界面活性剤が存在すると、乳化、可溶化、分散する速度は遅くなり、腸管での吸収にもバラツキが生じやすい。しかし、本発明に記載の組成物は、親水性界面活性剤を実質的に含有せず、水と接触した際に速やかに自己乳化することから、高吸収性および安定な吸収性を与え得る。
【0027】
本発明の固形状医薬組成物は、(a)〜(c)成分を溶媒中で溶解した後、減圧乾固することによって製造することができる。
溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル等の親水性溶媒、又は、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロルメタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル等の有機溶媒が例示される。溶解を促進するために、難水溶性化合物の種類及び溶媒の種類に応じて適宜の加熱を行うことが可能である。
溶解後、溶媒を減圧下に除去し、必要に応じて粗粉砕して本発明の固形状医薬組成物をえる。
【0028】
本発明の組成物は、結合剤、賦形剤、滑沢剤、矯味矯臭剤等の製剤上通常に使用される各種添加剤の配合により、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドライシロップ製剤等固形製剤、あるいは、懸濁剤等の液剤等様々な製剤とすることができる。
通常、賦形剤は散剤、錠剤などの固形製剤の増量、希釈、充填、補形等の目的で加えられるものである。本発明において、賦形剤は、薬剤の流動性を高めるため、及び/又は自己凝集能を低減させるためにキャリアーとして効果的である。賦形剤としては、水易溶性のものが好ましいが、著しく吸湿するものは本製剤の性質上好ましくない。本発明において、賦形剤は、一般的に使用されるデンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等が用いられるが、生物学的に不活性であり、かつある程度の代謝が期待されるものを用いても良い。その他、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、蔗糖、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、プルラン、デキストリン、アラビアゴム、寒天、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ステアリン酸等の脂肪酸あるいはその塩、ワックス類等を用いても良い。本発明において特に好ましい賦形剤は、乳糖及びエリスリトールである。
【0029】
本発明の組成物を粉砕してさらに細粒化することは、製剤の乳化・溶解をさらに向上させるために有効である。本発明で用いられる微粉製剤の平均粒径は、500μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
粉砕方法は特に限定されるものではなく、当業者が通常使用する粉砕方法を適宜使用することができる。いずれの方法を使用するかは、薬剤及び賦形剤の種類、所望とする粒子の大きさ等によって適宜決定することができる。本発明において、製剤の粉砕には一般的な乾燥粉砕を用いることが出来るが、特に空気力学的粉砕器を使用することが好ましい。
具体的には、一般的な乾燥粉砕器として、実験室用に乳鉢やボールミル等少量を効率的に粉砕する装置が繁用されている。ボールミルとしては転動ボールミル、遠心ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミルが使用可能であり、これらは摩砕・回転・振動・衝撃などの原理で粉砕化を行うものである。工業用としては媒体撹拌型ミル、高速回転摩砕・衝撃ミル、ジェットミルなどの大量の原料を効率的に粉砕することを目的とした装置が挙げられる。高速回転摩砕ミルには、ディスクミル、ローラーミルがあり、高速回転衝撃ミルにはカッターミル(ナイフミル)、ハンマーミル(アトマイザー)、ピンミル、スクリーンミル等回転衝撃に加え、剪断力によっても粉砕を行うものが例示される。ジェットミルは主に衝撃にて粉砕を行うものが多いが、その種類としては最もオーソドックスな粒子・粒子衝突型、粒子・衝突板衝突型、ノズル吸い込み型(吹き出し)型が例示される。
【0030】
本発明においては、製剤の薬学的な安定化、流動性の向上、さらには自己凝集能を低減させるためにキャリアーを用いる。キャリアーとしては、水易性のものが好ましいが、著しく吸湿するものは本製剤の特質上好ましくなく、先述の賦形剤と同様のものが利用できるが、この限りではない。
本発明で用いられるキャリアーは、2000μm以下、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
本発明の粉末製剤とキャリアーの混合は、一般的に知られている混合機を用いることが出来る。混合機のタイプとしては主に回分式と連続式があり、回分式にはさらに回転型と固定型の二種が存在する。回転型には水平円筒型混合機、V 型混合機、二重円錐型混合機、立方体型混合機があり、固定型にはスクリュー型(垂直、水平)混合機、旋回スクリュー型混合機、リボン型(垂直、水平)混合機が存在する。連続式もやはり回転型と固定型の二種に分かれ、回転型は水平円筒型混合機、水平円錐型混合機、そして固定型にはスクリュー型(垂直、水平)混合機、リボン型(垂直、水平)混合機、回転円盤型混合機が挙げられる。この他に、媒体撹拌型ミル、高速回転摩砕・衝撃ミル、ジェットミル等の空気力学的粉砕器を利用した混合方法や、ナイロン性あるいはそれに準ずる性質からなる袋を利用し、撹拌することにより均一な混合製剤を作ることが可能である。
【0031】
本発明の医薬組成物は、必要に応じて製剤の粒度分布や粒径をそろえるために造粒を行うことができる。
造粒とは薬剤の粒度分布や粒径をそろえる方法であり、押出し造粒、流動層造粒、転動造粒、噴霧乾燥造粒、粉砕造粒、攪拌混合造粒などが挙げられる。押出し造粒とは、湿式造粒法であり、練合した原料湿塊をスクリーンから押し出して、柱状粒子とする方法である。流動層造粒とは製剤粒子の流動層に対し、結合剤(水、エタノール、カルボキシメチルセルロース等のバインダー液)を含む液体を噴霧して粒子同士を結合させつつ、空気で乾燥して粒子を成長させる方法である。転動造粒とは粉体に結合剤を含む液体を回転容器または振動容器内で転がして粒子を凝集させる方法である。噴霧乾燥造粒とは原料粉末をスラリー状(泥状液)か溶液状として、乾燥室内にノズルから噴霧したり、回転円盤により分散させる方法である。粉砕造粒とは、粉体を加圧し乾燥状態のままシート状あるいはスラッグとし、ナイフカッターで粉砕し、スクリーンを通して分級する方法である。攪拌混合造粒とは、攪拌されている1次粒子に結合剤を含む溶液を添加し、種々の形状の羽根の回転により粒子と粒子の架橋形成が進行し微小粒の生成、結合と破砕が繰り返されるなかで粒子の成長がおこり造粒粒子が形成されていく方法である。
本発明の微粉製剤を造粒することによって粒度分布や粒径を一定にすることは、製剤の流動性を向上させるために効果的である。本発明で用いられる造粒された微粉製剤の平均粒径は、2500μm以下、好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
本発明において利用される造粒方法は特に限定されるものではなく、当業者が通常使用する造粒方法および造粒装置を適宜使用することができる。
【0032】
以下に実施例及び比較例に記載の組成物の製造に使用した化合物の製品名及び化学名を示す。
【0033】
【表2】

【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
以下に実施例に関して、製剤の組成を表3に示す。
〔実施例1〜11〕
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1の組成物は成分(a)〜(c)の全量に対し、その約5倍量のエタノールを加え、約50℃で加温しながら攪拌、完全に溶解させ、減圧乾固することにより得られる固形物を粗粉砕することにより製造される。実施例2〜11の組成物も同様の方法で製造される。ただし、(a)〜(c)成分を溶解するための溶媒は、エタノールに限らず、(a)〜(c)成分全てを溶解可能な揮発性有機溶媒を用いてもよい。
【0038】
以下に比較例に関して、製剤の組成を表4に示す。
〔比較例1〜9〕
【0039】
【表4】

【0040】
比較例1の組成物は成分(a)〜(c)の全量に対し、その約5倍量のエタノールを加え、約50℃で加温しながら攪拌、完全に溶解させ、減圧乾固することにより得られる固形物を粗粉砕することにより製造される。比較例2〜4の組成物も同様の方法で製造される。比較例5の組成物は成分(a)〜(c)の全量に対し、その約5倍量のエタノールを加え、約50℃で加温しながら攪拌、完全に溶解させ、減圧乾固することにより得られる組成物にエタノールを加えて重量補正し、均一に混合することにより製造される。比較例6の組成物はシクロスポリンAにプロピレングリコールを加えて約50℃水浴中で攪拌しながら完全に溶解させ、その溶解液にユニオックスHC−40、パナセート875、サンソフト O−30Vを加え、十分混合して均一にすることにより製造される。比較例7の組成物はシクロスポリンAにトランスクトールPを加えて攪拌し、完全に溶解させ、その溶解液にユニオックスHC−40とラブラフィルM1944CSを加え、十分混合し、最後にコリドン30を加えて十分混合することにより製造される。比較例8の組成物はシクロスポリンAにポリソルベート80を加えて約50℃水浴中で攪拌しながら完全に溶解させ、その溶解液にユニオックスHC−40、ラブラフィルM1944CSを加え、十分混合して均一にすることにより製造される。比較例9の組成物はシクロスポリンにパナセート875を加えて約50℃水浴中で攪拌しながら完全に溶解させ、その溶解液にサンソフト O−30V、クレモフォーELを加え、十分混合して均一にすることにより製造される。
【0041】
実施例1〜11の組成物に関して、製剤の性状(固形状か液状か)、保存安定性、水と接触した際の分散性ならびに自己乳化速度、の点から性能を評価した結果を表5に示す。
【0042】
<評価方法>
・ 保存安定性及び自己乳化性の評価
○:良好、△:微析出、×:析出
・ 自己乳化速度の評価
シクロスポリン2.5mg/mLとなるように製剤をイオン交換水に加え、手振とう(上下転倒2回/秒)を行い、完全に均一になるのに要した時間で評価した。
S:30秒以内、A:30秒〜1分、B:1〜3分、C:3〜5分、D:5〜10分、E:10分以上
【0043】
【表5】

【0044】
比較例1〜9の組成物に関して、実施例と同様に性能の評価を行った。結果を表6に示す。
【0045】
【表6】

【0046】
[シクロスポリン A 含有固形製剤の粉砕]
実施例 1 にて示したシクロスポリン A含有固形製剤をジェットミルにて以下の通り粉砕し、シクロスポリンA含有微粉製剤(実施例 12、13)を得た。
(粉砕条件)
使用機器: A-O-Jet Mill(セイシン企業)
原料供給方法: オートフィーダー
原料供給速度: 0.24 g/min、 1.4 g/min
供給エアー圧力: 6.0 kg/cm2G
粉砕エアー圧力: 6.5 kg/cm2G
集塵方法: アウトレットバグ(ポリエチレン)
【0047】
粉砕時の収率は 85% であった。フィーダー速度の変更によって得られる粒子の大きさが異なっており、これらの粒度分布についてレーザー回折/散乱式粒径分布測定装置(セイシン企業)を用いて精査した。0.24 g/min で処理したものは、平均粒径が 22.2 μm の微粉(実施例 12)であり、1.4 g/min と比較的荒い粉砕を行ったものは211 μm のやや大きな粒径の粉体(実施例 13)となった。
また、同様の粉砕はアトマイザー乾式微粉砕機(東京アトマイザー)を用いることによっても可能であった。
【0048】
[シクロスポリン製剤含有微粉体の溶解性]
シクロスポリン原薬をジェットミルにて処理して得たシクロスポリン微粉体、シクロスポリンA含有微粉製剤(実施例 12)、そして実施例 1 にて示したシクロスポリン A含有固形製剤(平均粒径360 μm)をそれぞれ日局 2 号ゼラチンカプセル(シオノギクオリカプス)に約 100 mg 充填し、以下の条件で崩壊試験を行った。
(試験条件)
溶出試験機: 溶出試験機 TMB-8(富山産業株式会社)
溶出液: 脱イオン水
溶出液温度: 37℃
試験方法: 日本薬局方に従う
【0049】
その結果、いずれの製剤も試験開始後速やかにカプセルが崩壊したが、カプセル崩壊後の固形物完全溶解までに大きな差を示した。すなわち、実施例 1 の固形物は試験開始後 12 分で完全に溶解し懸濁液となったが、シクロスポリンA含有微粉製剤(実施例 12)は約 7 分で完全に溶解した。一方、シクロスポリン原薬は 60 分以上経過しても溶解することはなかった。このことによって、微細化によりシクロスポリン製剤の溶解性が向上することが示された。
【0050】
[流動性向上を目的とした粉体の取り扱い (1)]
ジェットミル処理粉体の流動性向上のため、キャリアーによる安定化を検討した。シクロスポリンA含有微粉製剤(実施例 12)に乳糖キャリアー(Pharmatose 325M、 DMV 社)、エリスリトールキャリアー(エリスリトール 50 M、日研化成)を加え(キャリアー:微粉製剤=3:1)、よく混合してシクロスポリン製剤(実施例 14:乳糖キャリアー利用製剤;実施例 15:エリスリトールキャリアー利用製剤)を得た。これら実施例 12、14、15 の製剤について安息角を測定したところ、それぞれ 46°、35°、38°と算出され、キャリアー利用による明らかな流動性向上を確認した。溶解性については実施例12、14、15の間で明瞭な違いを認めず、いずれも良好な溶解性・分散性を示した。
【0051】
[流動性向上を目的とした粉体の取り扱い (2)]
前記のようにキャリアーを利用したジェットミル処理粉体の流動性向上を確認したが、同時にかさ高くなる欠点がある。そこで、他の流動性向上処理方法として、実施例 8 のシクロスポリンA含有製剤を乳鉢にて粉砕し、以下の条件で造粒を検討した。
(造粒条件)
造粒機: ニューグラマシーン SEG-100(セイシン企業)
回転数: 1200 rpm
バインダー: 70% エタノール
5% カルボキシメチルセルロース水溶液
【0052】
得られた顆粒(実施例 16)について、流動性確認のために安息角を測定したところ 31°と算出され、大幅な流動性向上を認めた。日局 2 号ゼラチンカプセルに実施例 16 の製剤を 100 mg 充填し、崩壊試験機にて溶解性を評価したところ、試験開始後約 8 分で完全な溶解を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)難水溶性化合物、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマーを含有し、親水性界面活性剤を実質的に含有しないことを特徴とする固形状医薬組成物。
【請求項2】
(b)親油性界面活性剤が(b1)多価アルコールと(b2)脂肪酸のエステルである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(b1)多価アルコールがグリセリン又は重合度2〜6のポリグリセリンである請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(b2)脂肪酸がオレイン酸である請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(b)親油性界面活性剤がモノオレイン酸グリセリンである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
(c)常温で固体の水溶性ポリマーがポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルセルロースである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
(c)常温で固体の水溶性ポリマーがポリビニルピロリドンであり、そのK値が15〜90である請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
(a)難水溶性化合物がペプチド又はタンパク系薬剤である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
(a)難水溶性化合物がシクロスポリンである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(1) (a)難水溶性化合物、(b)親油性界面活性剤、(c)常温で固体の水溶性ポリマーを、揮発性有機溶媒に溶解する工程、
(2) 減圧下で蒸発乾固する工程、
を包含する、請求項1に記載の固形状医薬組成物を製造する方法。
【請求項11】
(3) 工程(2)から得られた固形状医薬組成物を粉砕する工程をさらに包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(4) 工程(3)から得られた固形状医薬組成物をキャリアーと混合する工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(4) 工程(3)から得られた固形状医薬組成物を造粒する工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法によって製造される、固形状医薬組成物。

【公開番号】特開2006−306740(P2006−306740A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128038(P2005−128038)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(000118497)伊藤ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】