説明

固相ペプチド合成により製造されるペプチドを精製するための化合物及び方法

本発明は、固相ペプチド合成により製造されるペプチドを精製するために用いることができる化合物に関する。さらに、本発明は、本発明による化合物を用いて固相ペプチド合成により製造されるペプチドを精製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相ペプチド合成により製造されるペプチドを精製するための化合物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドの化学合成は、十分に確立されている。原理上は、2種の方法、すなわち、しばしば非常に時間がかかり、したがって、科学研究に有用でない溶液中の合成と反応サイクルの迅速な最適化を可能にする固体担体上の合成とが区別される。固相ペプチド合成(SPPS)に利用できるプロトコールは、不溶性固相上で定義された配列を有するペプチドを合成するMerrifield法(Merrifield R. B.、J. Amer. Chem. Soc.、85、1963、2149頁)に基づいている。SPPSの一般的原理は、カップリング-脱保護のサイクルの繰返しに基づいており、そのカルボキシル末端により固相上に結合されているペプチドの遊離N末端アミンが単一N保護アミノ酸単位にカップリングする。この単位が次に脱保護され、さらなるアミノ酸が結合し得る新たなN末端アミンを曝露する。
【0003】
しかし、当SPPS法は、標的化合物(成熟ペプチド)に加えて、比較的多数の不純物及び特に大量の未成熟ペプチドを生成する。したがって、固相ペプチド合成(SPPS)により得られるペプチドの精製には、不完全なカップリング/脱保護ステップに起因する欠失ペプチド(すなわち、1つ又はいくつかのアミノ酸残基を欠くペプチド)及びはるかにより小さい程度でラセミ化又は側鎖再配列による他のペプチド副生成物、並びにSPPS手順の脱保護又は切断段階で導入される種々の化学物質を除去することが必要である。特に、合成されるペプチドが長いほど、不純物の数及び特に欠失ペプチドの数が多くなる。したがって、SPPS法の重要な目的は、標的ペプチドのみを不純物から高速且つ高収率で回収することである。
【0004】
したがって、非標的配列のペプチド鎖のさらなる伸長を終結させ、欠失ペプチドのさらなる生成を避け、短縮型ペプチドを得るためにすべてのカップリング反応の後に無水酢酸によりキャッピングすることが提案された。最終アミノ酸のカップリングの後、完全なアミノ酸配列を有するペプチドのみがそのN末端にアミノ基を有する。このアミノ基は、標的ペプチドを精製するのに用いることができる。
【0005】
N末端アミノ基を用いたペプチド精製法に関するいくつかの報告が公表された。しかし、これらの方法のいずれも有効な1段階分離を達成することができず、それどころか複雑な過程が必要である。
【0006】
標的ペプチドのみをそのN末端において2つの追加の残基(システイン-メチオニン)により伸長させ、次にフェニル-水銀基で誘導体化した固体担体と反応させる、システインのSH基の選択的結合を利用する他の方法が開発された。分離の後、標的ペプチドを生成するためにメチオニン-ペプチドアミド結合をBrCNにより選択的に切断する(D. E. Kriegerら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、73、3160頁(1976))。しかし、この方法は、メチオニン又はシステインを含むペプチドに適用できないという制約を有する。
【0007】
標的ペプチドをSH基を介して固体担体に共有結合させる他の方法が開示された(米国特許第5,648,462号及び第5,994,588号)。しかし、この方法は、システインを含むペプチドに適用できないという制約を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,648,462号
【特許文献2】米国特許第5,994,588号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Merrifield R. B.、J. Amer. Chem. Soc.、85、1963、2149頁
【非特許文献2】D. E. Kriegerら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、73、3160頁(1976)
【非特許文献3】Cheng H.ら、J. Med. Chem.、2005、48、645〜653頁)
【非特許文献4】Gill H.ら、J. Med. Chem.、2009、52、5816〜5825頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、SPPSにより製造されるペプチドを精製するさらなる方法の必要があり、前記方法は、あらゆる種類のペプチドに適用でき、実施するのに容易である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、SPPSの終了時及び脱保護/固相からのペプチドの切断のステップの前に、リンカーにより隔てられた2つの化学官能基を含む化合物で成熟ペプチドを選択的に標識することが可能であることを発見した。この化合物は、化合物を本発明による特定の固相と反応させることにより成熟ペプチドを他のエンドキャップ短縮型ペプチド(未成熟ペプチド)から精製するのに用いることができる。したがって、本発明は、以下の一般式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、
X1は、-N3又は-C≡CHからなる群から選択され、
Lは、X1とX2を隔てるリンカーを表し、
X2は、以下の一般式(A)、(B)及び(C)を有する化合物の群から選択される:
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、
Y1及びY2は、独立に-CH-又は-N-を表し、
Y3は、-OH又は脱離基を表し、
R1及びR2は、独立に-H、-CH3又はC2〜C5アルキルを表し、
点線は、存在するか、又は存在せず、
点線が存在する場合、R3はOであり、R4は存在せず、
点線が存在しない場合、R3及びR4は、-CH3を表す。]、
【0016】
【化3】

【0017】
[式中、
R5は、-H又は電子吸引基を表し、
R6及びR7は、独立に-CH3又は-Hを表し、
X3は、カルバメート前駆体である。]
及び
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、
R8は、-O-CH3又は-Hであり、
X4は、カルバメート前駆体である。]]を有する化合物に関する。
【0020】
本発明はまた、固相合成により製造されるペプチドを精製する方法であって、
(a)成熟及び未成熟ペプチドが、保護された側鎖を有し、固相に共有結合している、遊離N末端アミノ基を有する成熟ペプチドと未成熟エンドキャップペプチドとの混合物を得るステップと、
(b)成熟ペプチドの遊離N末端アミノ基とX2との反応による成熟ペプチドと一般式(I)を有する化合物との間の共有結合の形成をもたらす、ステップ(a)から得られる混合物を一般式(I)を有する化合物と接触させるステップである、ステップ(a)の混合物を本発明による一般式(I)を有する化合物と接触させるステップと、
(c)ステップ(b)から得られる混合物を固相からペプチドを切断するための酸処理に供するステップと、
(d)固体担体と成熟ペプチドとの間の安定な共有結合の形成をもたらす、ステップ(c)から得られるペプチドをX1と反応することができる固体担体と接触させるステップと、
(e)未成熟エンドキャップペプチドを除去するためにステップ(d)から得られる固体担体を洗浄するステップと、
(f)
i. X2が(A)である場合、求核条件、
ii. X2が(B)である場合、アルカリ条件、及び
iii. X2が(C)である場合、UV照射
からなる群から選択される条件下でX2と成熟ペプチドの間の共有結合を切断することにより固体担体から成熟ペプチドを遊離させることによって精製成熟ペプチドを得るステップと
を含む、上記方法に関する。
【0021】
本発明は、固相合成により製造されるペプチドを精製するための本発明による一般式(I)を有する化合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一般的原理を示す図である。
【図2】活性化カーボネート6の合成を示す図である。
【図3】銅(I)触媒を用いる環状付加による固体担体上の選択的グラフティングを示す図である。
【図4】第2の樹脂からの最終的切断を示す図である。
【図5】マイトガリギン(mitogaligin)の31〜53断片 (ピークAで溶出した成熟ペプチド31〜53)の固相ペプチド合成後に得られた粗ペプチドのHPLC-MS分析を示す図である。
【図6】本発明による化合物で標識した後のペプチド(ピークFで溶出した標識成熟ペプチド31〜53)のHPLC-MS分析を示す図である。
【図7】標識成熟ペプチド31〜53の総消費を示す粗環状付加混合物(t=2時間)のHPLC-MS分析を示す図である。
【図8】樹脂の洗浄、次に温和な塩基媒介性遊離の後のHPLC-MS分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、本発明の一般的原理は次のとおりである:化学基X2のため、本発明による化合物は、成熟ペプチドの遊離のN末端アミノ基と特異的に反応して共有結合を形成することができ、前記共有結合は、特定の条件下で特異的に開裂可能である。脱保護/固相からの切断の後、ペプチドを次にX1と特異的に反応することができる固体担体と接触させるが、前記反応は、成熟ぺプチドと前記固体担体との間の完全に安定な共有結合の形成をもたらす。X1と固体担体の間の反応(好ましくは銅(I)塩により触媒されるアジドとアルキンの間の反応又はアジドとホスフィンの間の反応)が高度に官能基選択的であり、したがって、ペプチドを構成するアミノ酸上に存在する化学官能基によって起こり得ない(アミノ酸はアジド、アルキン又はホスフィン官能基を含まない)ので、この方法は、そのアミノ酸含量がどうであろうとも、あらゆる種類のペプチドに適用できるという利点がある。さらに、この方法は、非常に迅速で、行うのが容易である。
【0024】
したがって、本発明は、以下の一般式(I)
【0025】
【化5】

【0026】
[式中、
X1は、-N3又は-C≡CHであり、
Lは、X1とX2を隔てるリンカーであり、
X2は、以下の一般式(A)、(B)及び(C)を有する化合物の群から選択される:
【0027】
【化6】

【0028】
[式中、
Y1及びY2は、独立に-CH-又は-N-を表し、
Y3は、-OH又は脱離基を表し、
R1及びR2は、独立に-H、-CH3又はC2〜C5アルキルを表し、
点線は、存在するか、又は存在せず、
点線が存在する場合、R3はOであり、R4は存在せず、
点線が存在しない場合、R3及びR4は、-CH3を表す。]、
【0029】
【化7】

【0030】
[式中、
R5は、-H又は電子吸引基を表し、
R6及びR7は、独立に-CH3又は-Hを表し、
X3は、カルバメート前駆体である。]
及び
【0031】
【化8】

【0032】
[式中、
R8は、-O-CH3又は-Hであり、
X4は、カルバメート前駆体である。]]を有する化合物に関する。
【0033】
本発明によれば、本発明による一般式(I)を有する化合物の前記リンカーLは、一般的に、少なくとも1個の原子により、詳細には1〜30個の連続する原子により、より詳細には1〜20個の連続する原子により、詳細には1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の連続する原子によりX1とX2を隔てている。一般的に、本発明による一般式(I)を有する化合物の前記リンカーLは、
-(CH2)n-、
-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-、
-Ar-、
-(CH2)n-Ar-、
-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-Ar-、
-(CH2)n-O-Ar-、
-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-O-Ar-、及び
-CH2-(CH2-O-CH2)n-Ar-
[式中、「n」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれより大きく、Arは、以下の式
【0034】
【化9】

【0035】
[式中、R9、R10、R11及びR12は、独立にH、-CH3、-O-CH3、-NO2又はF、Cl、Br及びIからなる群から一般的に選択されるハロゲン原子を表す。]を有するアリール基を表す。]を含む群から選択される。
【0036】
一般的に、本発明によれば、一般式(A)の前記化合物は、
【0037】
【化10】

【0038】
[式中、Y3は、-OH又は脱離基である。]を含む群から選択される。
【0039】
本発明によれば、Y3が「脱離基」である場合、前記脱離基は、不均一結合開裂に際して電子対と離れることができる基であり得る。特に、Y3が「脱離基」である場合、Y3は、一般的に-OR13及びN(R13)2を含む群から選択され、R13は、CH3又はC2、C3、C4若しくはC5アルキルである。
【0040】
本発明によれば、「電子吸引基」又は「EWG」とは、誘起又はメソメリー効果によりその隣接原子から電子を引き離すことができる化学基を意味する。一般的に、本発明による電子吸引基は、以下の式
【0041】
【化11】

【0042】
を有する電子吸引基を含む群から選択される。
【0043】
本発明によれば、「カルバメート前駆体」とは、アミンと反応してカルバメート官能基を形成することができる化学基を意味する。本発明による特定のカルバメート前駆体は、以下の一般式(II)
【0044】
【化12】

【0045】
[式中、X5は脱離基である。]を有する。
【0046】
本発明によれば、X5が「脱離基」である場合、前記脱離基は、不均一結合開裂に際して電子対と離れることができる基であり得る。特に、前記脱離基X5は、一般的に
【0047】
【化13】

【0048】
を含む群から選択される。
【0049】
特定の実施形態において、一般式(B)の前記化合物は、
【0050】
【化14】

【0051】
[式中、X5は先に定義したとおりである。]を含む群から選択される。
【0052】
他の特定の実施形態において、一般式(C)の前記化合物は、
【0053】
【化15】

【0054】
[式中、X5は先に定義したとおりである。]を含む群から選択される。
【0055】
1つの実施形態において、本発明による一般式(C)の前記化合物は、
【0056】
【化16】

【0057】
でない。
【0058】
他の実施形態において、本発明による一般式(C)の前記化合物は、
【0059】
【化17】

【0060】
でない。
【0061】
本発明による化合物への合成経路は、何の制約も受けない。一般的に、本発明による一般式(A)の化合物は、標準的な手順のもとでの1,3-ジメチルバルビツル酸又は5,5-ジメチル-1,3-シクロヘキサンジオンのC-アシル化により得られる。一般的に、本発明による一般式(B)の化合物は、標準的条件下でS-アルキル化又はアリール化され、次にスルホンに酸化されて、アルコールが得られ、これがさらに一般式(II)のカルバメート前駆体に変換される、2-メルカプトエタノールから得られる。一般的に、本発明による一般式(C)の化合物は、標準的条件下でさらに一般式(II)のカルバメート前駆体に変換される、ベンジル型アルコールから得られる。
【0062】
本発明はまた、固相合成により製造されるペプチドを精製する方法であって、
(a)成熟及び未成熟ペプチドが、保護された側鎖を有し、固相に共有結合している、遊離N末端アミノ基を有する成熟ペプチドと未成熟エンドキャップペプチドとの混合物を得るステップと、
(b)成熟ペプチドの遊離N末端アミノ基とX2との反応による成熟ペプチドと一般式(I)を有する化合物との間の共有結合の形成をもたらす、ステップ(a)から得られる混合物一般式(I)を有する化合物と接触させるステップである、ステップ(a)の混合物を本発明による一般式(I)を有する化合物と接触させるステップと、
(c)ステップ(b)から得られる混合物を固相からペプチドを切断するための酸処理に供するステップと、
(d)固体担体と成熟ペプチドとの間の安定な共有結合の形成をもたらす、ステップ(c)から得られるペプチドをX1と反応することができる固体担体と接触させるステップと、
(e)未成熟エンドキャップペプチドを除去するためにステップ(d)から得られる固体担体を洗浄するステップと、
(f)
i. X2が(A)である場合、求核条件、
ii. X2が(B)である場合、アルカリ条件、及び
iii. X2が(C)である場合、UV照射
からなる群から選択される条件下でX2と成熟ペプチドの間の共有結合を切断することにより固体担体から成熟ペプチドを遊離させることによって精製成熟ペプチドを得るステップと
を含む、上記方法に関する。
【0063】
本発明によれば、前記「成熟及び未成熟ペプチドが、保護された側鎖を有し、固相に共有結合している、遊離N末端アミノ基を有する成熟ペプチドと未成熟エンドキャップペプチドとの混合物」は、SPPS法の後に得られる。特に、キャッピング基により修飾されているそれらのN末端を有する前記未成熟ペプチドは、一般的に、キャッピングが無水酢酸を用いて行われた場合にはアセチル基で、又はプロピオニル基、4-ニトロフェニル基、2,4-ジニトロフェニル基で、若しくは2,6-ジニトロフェニル基でキャッピングされている。さらに、SPPS中の成熟及び未成熟ペプチドの側鎖の保護は、例えば、Boc、tBu、Trt、Mtt、Mmt、Pbf、Pmc、Tos、Bzl、Z、Troc、Pac、Alloc、All、Dde、Acm保護基を用いることなどの当業者により公知の方法により行うことができる。SPPSに用いられる固相の性質に関して、適切な固相は、当業者が選択することができる。SPPSに一般的に用いられる固相の例は、最終的にPEG鎖により置換されたポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー(Tentagel、Argogel、Novagel)、架橋ポリアクリルアミド樹脂又はPEGA、ChemMatrix(商標)などの架橋PEGポリマーである。
【0064】
したがって、SPPS後に得られる成熟ペプチドは、多くの種類の不純物と混合されている。
【0065】
本発明によれば、「成熟ペプチド」とは、固相におけるコンビナトリアル化学により得られる同じ成熟ペプチドのいくつかのコピー又は異なる成熟ペプチドのいくつかのコピーを意味する。
【0066】
本発明によれば、ステップ(a)の混合物を本発明による一般式(I)を有する化合物と接触させる前記ステップ(b)は、一般的に、固体担体に結合した前記ペプチドを、溶媒中、一般的にジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン又はジクロロメタン中で過剰な、一般的に2、5又は10当量の一般式(I)を有する化合物及び過剰な、一般的に2、5又は10当量の塩基、一般的にトリエチルアミン又はエチルジイソプロピルアミンなどの第3アミンと反応させることにより行う。
【0067】
X2が一般式(A)を有する化合物である場合、X2と成熟ペプチドの末端アミン基との間で形成される結合は、以下の式A'
【0068】
【化18】

【0069】
で一般的に示されるようなエナミン型のものである。
【0070】
X2が一般式(B)又は(C)を有する化合物である場合、X2と成熟ペプチドの末端アミン基との間で形成される結合は、以下の式B'及びC'
【0071】
【化19】

【0072】
で一般的に示されるようなカルバメート型のものである。
【0073】
本発明によれば、ステップ(b)から得られる混合物を固相担体からペプチドを切断するための酸処理に供する前記ステップ(c)は、一般的にカルボカチオンスカベンジャーのTFA(トリフルオロ酢酸)又はフッ化水素中溶液による処理によって行う。本発明による特に適切な酸処理は、トリイソプロピルシラン(2.5容積/容積%)、フェノール(5重量/容積%)及び水(5容積/容積%)のTFA中混合物による標準的処理である。
【0074】
一般的に、本発明によるX1と反応することができる適切な固体担体は、PEGA樹脂、ChemMatrix(商標)樹脂、SPOCC(超透過性有機コンビナトリアル化学)樹脂などの合成親水性ポリマーから、又はアガロース若しくはセファロースなどの天然親水性炭化水素ポリマーから選択される。これら固体担体に、X1と反応することができる化合物をグラフトする、すなわち、X1と不可逆性共有結合を形成するためのアジド、アルキン、シクロオクチン又はホスフィン官能基を含む化合物をグラフトする。本発明によるX1と反応することができる化合物をグラフトした固体担体の例は、
X1がC≡CHである場合、
【0075】
【化20】

【0076】
[式中、nは1、2、3、4、5である。]であり、
X1がN3である場合、
【0077】
【化21】

【0078】
である。
【0079】
したがって、本発明による固相合成により製造されるペプチドを精製する前記方法において、ステップ(c)から得られるペプチドをX1と反応することができる固体担体と接触させる前記ステップ(d)は、X1の性質及び固体担体性質に依存する。
【0080】
1つの実施形態において、固体担体にアジド又はアルキン官能基を含む化合物をグラフトする場合、本発明による方法の前記ステップ(d)は、特に銅塩、一般的にCu(I)塩から選択される触媒の存在下で実施する。他の実施形態において、固体担体にシクロオクチン又はホスフィン官能基を含む化合物をグラフトする場合、本発明による方法の前記ステップ(d)は、触媒を用いずに実施する。本発明による固相合成により製造されるペプチドを精製する方法の前記ステップ(d)は、一般的に以下により実施する:
i. X1がC≡CHである場合、
無酸素雰囲気中、水をベースとするpH=5〜8の緩衝液(一般的に100mMリン酸又はHEPES、pH=7)中で、場合によって、ペプチドが緩衝液に不溶性である場合に有機溶媒を添加して、粗ペプチド混合物を過剰のアジド官能化固体担体(一般的に1.2〜2モル等量)と混合し、次にCu(I)イオンの源(一般的に0.1〜10モル等量)及びトリス[(ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミン又はトリス[(3-ヒドロキシ-1-プロピル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミンなどの場合によるCu(I)リガンドを添加する。一般的に、銅(I)源は、臭化銅などの固形Cu(I)塩であるか、又はアスコルビン酸ナトリウム若しくはトリス(カルボキシルエチル)ホスフィンなどの還元剤による硫酸銅などのCu(II)塩の即座の還元により得られる。
ii. X1がN3である場合、
ii.a)無酸素雰囲気中、水をベースとするpH=5〜8の緩衝液(一般的に100mMリン酸又はHEPES、pH=7)中で、場合によって、ペプチドが緩衝液に不溶性である場合に有機溶媒を添加して、粗ペプチド混合物を過剰のアルキン官能化固体担体(一般的に1.2〜2モル等量)と混合し、次にCu(I)イオンの源(一般的に0.1〜10モル等量)及びトリス[(ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミン又はトリス[(3-ヒドロキシ-1-プロピル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミンなどの場合によるCu(I)リガンドを添加する。一般的に、銅(I)源は、臭化銅などの固形Cu(I)塩であるか、又はアスコルビン酸ナトリウム若しくはトリス-(カルボキシルエチル)-ホスフィンなどの還元剤による硫酸銅などのCu(II)塩の即座の還元により得られる。
ii.b)或いは、固体担体との共有結合の形成は、適切なシクロオクチン官能化樹脂を用いた、銅を用いない環状付加により行うことができる。一般的に、これは、水をベースとするpH=2〜8の緩衝液(一般的に100mMリン酸又はHEPES、pH=7)中で、場合によって、ペプチドが緩衝液に不溶性である場合に有機溶媒を添加して、粗ペプチド混合物を過剰のシクロオクチン官能化固体担体(一般的に1.2〜2モル等量)と混合することにより行う。
ii.c)或いは、固体担体との共有結合の形成は、適切なホスフィン官能化樹脂を用いたシュタウディンガーライゲーション反応により行うことができる。一般的に、これは、無酸素雰囲気中、水をベースとするpH=5〜8の緩衝液(一般的に100mMリン酸又はHEPES、pH=7)中で、場合によって、ペプチドが緩衝液に不溶性である場合に有機溶媒を添加して、粗ペプチド混合物を過剰のホスフィン官能化固体担体(一般的に1.2〜2モル等量)と混合することにより行う。
【0081】
前記ステップ(d)において、粗ペプチド混合物を完全に溶解するための添加剤として用いることができる有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジノン、アセトニトリル、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、イソプロパノール、エタノール又はメタノールからなる群から一般的に選択される。
【0082】
本発明によれば、未成熟エンドキャップペプチドを除去するためのステップ(d)から得られる固相担体を洗浄する前記ステップ(e)は、固体担体を、ポリプロピレンフリットを取り付けたポリプロピレン注射器又は焼結ガラス漏斗などの固体担体を保持することができるが、溶媒がそれを自由に通り抜ける状態にするフィルターを取り付けた解放容器に移し、次に例えば、EDTA二ナトリウム塩250mM、メタノール、ジメチルホルムアミド及び脱イオン水などの大量の各種水溶液及び有機溶媒で連続的に流し洗浄することにより一般的に実施する。
【0083】
本発明によれば、X2と成熟ペプチドの間の共有結合を切断することにより固体担体から成熟ペプチドを遊離させることによって精製成熟ペプチドを得る前記ステップ(f)は、成熟ペプチドを標識するために用いた一般式(I)の化合物の性質によって異なる条件下で実施する。実際、成熟ペプチドのN末端アミノ基と前記化合物(I)のX2部分の間に形成される結合の安定性は、以下のようにX2の性質によって異なる:
-成熟ペプチドのN末端アミノ基と式(A)のX2部分の間に形成される結合は、求核条件下で開裂可能である。一般的に、本発明による前記求核条件は、水又は水と例えば、メタノール、エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン若しくはアセトニトリルなどの有機溶媒との混合物などの溶媒中での大過剰のヒドラジン、エタノールアミン又はヒドロキシルアミンによる処理である。
-成熟ペプチドのN末端アミノ基と式(B)のX2部分の間に形成される結合は、アルカリ条件下で開裂可能である。一般的に、本発明による前記アルカリ条件は、9より大きい、一般的に9から13まで、詳細には10から12まで、より詳細には11から12までのpHを有するアルカリ溶液による固相担体の処理からなる。本発明による適切なアルカリ溶液は、CAPS緩衝液、リン酸緩衝液又は水酸化ナトリウムをベースとする溶液である。
-成熟ペプチドのN末端アミノ基と式(C)のX2部分の間に形成される結合は、UV照射下で開裂可能である。一般的に、本発明による前記UV照射は、固定波長、一般的に254nm、320nm、350nm又は420nmのUV光へのUV透明容器内の無酸素脱イオン水中懸濁液中固体担体の曝露からなる。
【0084】
このステップ(f)の後、成熟ペプチドは、ろ過及び脱イオン水による樹脂の洗浄により固体担体から分離される。
【0085】
式(A)及び(B)のX2部分について、純成熟ペプチドのアルカリ溶液が一般的に得られる。必要な場合、適切な酸性化緩衝液を用いて溶液のpHを低下させることが可能である。
【0086】
本発明はさらに、固相合成により製造されるペプチドを精製するための本発明による一般式(I)を有する化合物の使用に関する。
【0087】
本発明の記述を通して、また分子の表示を簡略化するために、
【化22】

結合を用いる。この結合は、表示されていない化合物の残りのみを表す。
【0088】
本発明のさらなる態様及び利点は、実例となるものであって、本願書の範囲を限定するものでないとみなすべきである、以下の図及び実施例で開示される。
【0089】
図面の簡単な説明
図1は本発明の一般的原理を示す図である。
図2は活性化カーボネート6の合成を示す図である。
図3は、銅(I)触媒を用いる環状付加による固体担体上の選択的グラフティングを示す図である。
図4は第2の樹脂からの最終的切断を示す図である。
図5は、マイトガリギン(mitogaligin)の31〜53断片 (ピークAで溶出した成熟ペプチド31〜53)の固相ペプチド合成後に得られた粗ペプチドのHPLC-MS分析を示す図である。
図6は、本発明による化合物で標識した後のペプチド(ピークFで溶出した標識成熟ペプチド31〜53)のHPLC-MS分析を示す図である。
図7は、標識成熟ペプチド31〜53の総消費を示す粗環状付加混合物(t=2時間)のHPLC-MS分析を示す図である。
図8は、樹脂の洗浄、次に温和な塩基媒介性遊離の後のHPLC-MS分析を示す図である。
【実施例】
【0090】
固相ペプチド合成
97アミノ酸タンパク質マイトガリギンの31〜53断片(マイトガリギンの前記31〜53断片は配列番号1に示すような次のアミノ酸配列RGLSWTGTSRRLPWSTWSLSRSTを有する)の固相ペプチド合成(SPPS)は、HBTU/HOBtをカップリング試薬及びリンク(Rink)樹脂として0.1mモルスケールのFmoc/tBu化学を用いてApplied Biosystem製の自動合成装置433Aで行った。伸長は、10倍過剰の保護アミノ酸及びカップリング試薬を用いて自動的に行った。用いた側鎖保護基は、Arg(Pbf)、Ser(tBu)、Thr(tBu)、Trp(Boc)であった。製造業者から購入した0.1mモルスケールプログラムを用い、シングルカップリングとそれに続く無水酢酸によるキャッピングを用いた。Arg40及びArg41の導入のためにダブルカップリングを行った。2時間にわたるTFA/H2O/iPr3SiH/フェノール、87.5/5/2.5/5による処理により粗ペプチドを樹脂から遊離させ、ペプチドを氷冷ジエチルエーテルにより沈澱させ、遠心分離により回収し、ジエチルエーテルで3回洗浄した。
【0091】
ペプチドは、HPLC(高圧液体クロマトグラフィー)及びMALDI-TOF(マトリックスレーザー支援脱離イオン化/飛行時間)質量分析により分析した(図5〜8)。HPLC分析は、Hitachi L-2130ポンプ、Hitachi L-2455ダイオードアレイ検出器及びHitachi L-2200オートサンプラーを装着したLaChrom Eliteシステムで行った。装置にC18逆相カラム(Nucleosil、300Å、5μm、250×4.6mm)を装着した。溶媒A及びBは、それぞれH2O中0.1%TFA及びMeCN中0.1%TFAであった。勾配は、1ml/分の流速で30分にわたり25%〜35%Bであった。MS分析は、337nm窒素レーザー及びグリッドレス遅延抽出(gridless delayed extraction)イオン源を装着したAutoflex MALDI-TOF機器(Bruker Daltonics、Bremen、Germany)で行った。当機器は、150nsの遅延及び19kVの加速電圧でリフレクター陽イオンモードで用いた。機器の制御及び外部校正は、Flex-Controlソフトウエア(Bruker)を用いて実施した。観測されたm/zは、モノアイソトピックイオンに対応している。試料は、乾燥小滴法を用いてマトリックスとしてのα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(HCCA)の溶液とともに共結晶化させた。成熟ペプチド(31〜53)は、図5に示すようにピークAで溶出した。
【0092】
活性化カーボネート6の合成(図2)
・2-(2-アジド-エトキシ)-エタノール(2)
2-(2-クロロエトキシ)エタノール(15g、0.12モル)及びアジ化ナトリウム(15.7g、2当量)のH2O(50ml)中溶液を90℃で16時間加熱した。反応混合物をRTに冷却し、次いで、CH2Cl2(6x50ml)で抽出した。合わせた有機層をMgSO4上で乾燥し、ろ過した。溶媒を減圧下で除去して、アジド2を無色液体(15g、95%)として得た。1H及び13C NMRスペクトルは、文献データ(Cheng H.ら、J. Med. Chem.、2005、48、645〜653頁)と一致していた。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 3.78〜3.73 (m, 2H)、3.70 (t, 2H, J = 5.0 Hz)、3.61 (t, 2H, J = 4.5 Hz)、3.41 (t, 2H, J = 5.0 Hz)、2.09 (bt, 1H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 72.7、70.3、62.1、51.0。
・トルエン-4-スルホン酸2-(2-アジド-エトキシ)エチルエステル(3)
2-(2-アジド-エトキシ)-エタノール2(14.1g、0.108モル)及びピリジン(13ml、1.5当量)のCH2Cl2(150ml)中溶液を氷浴中で冷却した。塩化p-トルエンスルホニル(30.7g、1.5当量)を次にDMAP(173mg、0.01当量)を加えた。反応混合物をRTで72時間撹拌し、次いで1M HCl水溶液(3x50ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで、減圧下で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離剤:石油エーテル/AcOEt、9:1次に7:3)による精製により、トシレート3を無色油(23.8g、78%)として得た。1H及び13C NMRスペクトルは、文献データ(Gill H.ら、J. Med. Chem.、2009、52、5816〜5825頁)と一致していた。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.81 (d, 2H, J = 8.2 Hz)、7.35 (d, 2H, J = 8.2 Hz)、4.17 (t, 2H, J = 4.7 Hz)、3.70 (t, 2H, J = 4.7 Hz)、3.61 (t, 2H, J = 5.0 Hz)、3.32 (t, 2H, J = 5.0 Hz)、2.45 (s, 3H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 145.2、133.2、130.1、128.2、70.4、69.4、69.0、50.9、21.9。
・2-[2-(2-アジド-エトキシ)-エチルスルファニル]-エタノール(4)
水性NaOH(20mlのH2O中3.33g、1.5当量)をトシレート3(15.8g、55.5mモル)及びβ-メルカプトエタノール(5.8ml、1.5当量)のMeOH(200ml)中溶液に1滴ずつ加えた。得られた混合物をRTで72時間撹拌し、次いで、メタノールを減圧下で蒸発した。得られた懸濁液を水(50ml)で希釈し、CH2Cl2(6x50ml)で抽出した。合わせた有機層をMgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで、減圧下で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離剤:石油エーテル/AcOEt、8:2次に6:7)による精製により、スルフィド4を無色液体(8.41g、79%)として得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 3.74 (t, 2H, J = 5.8 Hz)、3.68 (t, 2H, J = 6.4 Hz)、3.65 (t, 2H, J = 5.0 Hz)、3.40 (t, 2H, J = 5.0 Hz)、2.79 (t, 2H, J = 5.8 Hz)、2.75 (t, 2H, J = 6.4 Hz)、2.41 (bs, 1H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 71.4、69.9、60.9、50.9、36.2、31.5; ESI-HRMS: : [M+H]+ m/z = 214.0623 (C6H13N3NaO2Sの計算値: 214.0626)。
・2-[2-(2-アジド-エトキシ)-エチルスルホニル]-エタノール(5)
スルフィド4(8.41g、44mモル)のCH2Cl2(100ml)中溶液を氷浴中で冷却した。mCPBA(純度84%、27.1g、3当量)を少しずつ加え、得られた溶液をRTで16時間撹拌した。1M NaHSO3水溶液(20ml)を加え、得られた懸濁液をRTで30分間激しく撹拌した。白色のm-クロロ安息香酸沈殿物をセライトパッド上でろ過した。有機層を飽和NaHCO3水溶液(3x20ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで、減圧下で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離剤:石油エーテル/AcOEt、1:1次に3:7次に純AcOEt)による精製により、スルホン5を無色液体(8.41g、86%)として得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 4.12 (t, 2H, J = 5.1 Hz)、3.96 (t, 2H, J = 5.3 Hz)、3.67 (t, 2H, J = 4.9 Hz)、3.44 (t, 2H, J = 4.9 Hz)、3.34〜3.40 (m, 4H)、2.63 (bs, 1H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 70.2、65.2、57.5、56.7、55.0、51.0; ESI-HRMS: :
[M+Na]+ m/z = 246.0519 (C6H13N3NaO4Sの計算値: 246.0524)。
・2-[2-(2-アジド-エトキシ)-エチルスルホニル]-エチル4-ニトロフェニルカーボネート(6)
アルコール5(4.0g、17.9mモル)及びピリジン(10ml、6.9当量)のCH2Cl2(100ml)中溶液を氷浴中で冷却し、クロロギ酸p-ニトロフェニル(5.42g、1.5当量)を加えた。得られた溶液をRTで16時間撹拌し、次いで、1M HCl水溶液(3x50ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで、減圧下で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離剤:石油エーテル/AcOEt、7:3次に1:1)による精製により、カーボネート6を白色非晶質固体(6.3g、91%)として得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 8.29 (d, 2H, J = 8.8 Hz)、7.40 (d, 2H, J = 8.8 Hz)、4.75 (t, 2H, J = 5.8 Hz)、3.97 (t, 2H, J = 5.1 Hz)、3.68 (t, 2H, J = 4.6 Hz)、3.61 (t, 2H, J = 5.8 Hz)、3.43 (t, 2H, J = 4.6 Hz)、3.35 (t, 2H, J = 5.1 Hz); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 155.5、152.2、145.8、125.6、122.0、70.3、65.2、62.2、55.1、53,9、50.9; ESI-HRMS: : [M+Na]+ m/z = 411.0581 (C13H16NaN4O8Sの計算値: 411.0587)。
【0093】
アジドトレースレス標識の樹脂上への取り付け
iPr2NEt(20当量)の存在下でDMFに溶解した活性化カーボネートN3-CH2CH2OCH2CH2SO2CH2CH2-OCOO-(pNO2)-C6H4 6(10当量)をペプチド樹脂7(1当量)と2時間混合した。次いで、ペプチド樹脂をDMF(3x)及びCH2Cl2(3x)で洗浄し、標準的TFA開裂を適用して、アジド標識ペプチド8(HPLCピークF、図6参照)を遊離させた。
【0094】
アルキン樹脂上へのアジド標識ペプチドの選択的負荷
0.4mモル/g(1当量)のアミノメチルPEGA 800樹脂(Novabiochem)をポリプロピレンフリット及びテフロン(登録商標)栓を取り付けた注射器に導入し、CH2Cl2(3x)、CH2Cl2中0.1%TFA(3x)、CH2Cl2(3x)、CH2Cl2中10% iPr2NEt(3x)、CH2Cl2(3x)及びペプチド合成用DMF(3x)で連続的に洗浄した。次いで、ペンチン酸(2当量)及びHATU(2当量)を吸引により移し、その後、iPr2Net(4当量)を移した。樹脂を回転により2時間混合した。反応の完結は、カイザー試験を用いて確認した。脱酸素化100mM HEPES緩衝液pH7に溶解した、DMF(3x)で十分に洗浄した後、CuSO4(0.5当量)及びアスコルビン酸Na(1当量)をアルキン樹脂9(2当量)に加え、その後、粗アジド標識ペプチド8(1当量)を加えた。2時間後、上清を標識ペプチド8の総消費についてHPLCにより確認し(図7参照)、短縮型ペプチド及び銅触媒を除去するためにペプチド樹脂10を250mM EDTA二ナトリウム塩溶液(pH4.2)、脱イオン水、メタノール、ジメチルホルムアミド及び脱イオン水で連続的に十分に洗浄した。
【0095】
純非標識標的ペプチドの遊離
ペプチド樹脂10を20℃で(2x30分)又は37℃で3x5分50mM CAPS緩衝液pH11.7で最終的に処理し(図8のHPLC分析参照)、溶液をTFAでpH3〜5に酸性化した。緩衝塩は、疎水性SPEカートリッジなどの標準的方法を用いてその後除去した。
【0096】
本願書を通して、種々の参考文献は、本発明が関係する最新の技術を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)
【化1】

[式中、
X1は、-N3又は-C≡CHからなる群から選択され、
Lは、X1とX2を隔てるリンカーを表し、
X2は、以下の一般式(A)、(B)及び(C)を有する化合物からなる群から選択される:
【化2】

[式中、
Y1及びY2は、独立に-CH-又は-N-を表し、
Y3は、-OH又は脱離基を表し、
R1及びR2は、独立に-H、-CH3又はC2〜C5アルキルを表し、
点線は、存在するか、又は存在せず、
点線が存在する場合、R3はOであり、R4は存在せず、
点線が存在しない場合、R3及びR4は、-CH3を表す。]、
【化3】

[式中、
R5は、-H又は電子吸引基を表し、
R6及びR7は、独立に-CH3又は-Hを表し、
X3は、カルバメート前駆体である。]
及び
【化4】

[式中、
R8は、-O-CH3又は-Hであり、
X4は、カルバメート前駆体である。]]を有する化合物。
【請求項2】
前記リンカーLがX1とX2を少なくとも1個の原子、特に1〜30個の連続する原子で隔てている、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記リンカーLが、-(CH2)n-、-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-、-Ar-、-(CH2)n-Ar-、-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-Ar-、-(CH2)n-O-Ar-、-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-O-Ar-及び-CH2-(CH2-O-CH2)n-Ar-[式中、「n」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれより大きく、Arは、以下の式
【化5】

[式中、R9、R10、R11及びR12は、独立にH、-CH3、-O-CH3、-NO2又はハロゲン原子を表す。]を有するアリール基を表す。]を含む群から選択される、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(A)の前記化合物が
【化6】

[式中、Y3は、-OH又は脱離基である。]を含む群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
Y3が脱離基であり、Y3が-OR13及びN(R13)2[式中、R13がCH3又はC2、C3、C4若しくはC5アルキルである]を含む群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記電子吸引基が以下の式
【化7】

を有する電子吸引基を含む群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
前記カルバメート前駆体が以下の一般式(II)
【化8】

[式中、X5は脱離基である。]を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
一般式(B)の前記化合物が
【化9】

【化10】

を含む群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
一般式(C)の前記化合物が
【化11】

を含む群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
X5
【化12】

を含む群から選択される脱離基である、請求項7から9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
固相合成により製造されるペプチドを精製する方法であって、
(a)成熟及び未成熟ペプチドが、保護された側鎖を有し、固相に共有結合している、遊離N末端アミノ基を有する成熟ペプチドと未成熟エンドキャップペプチドとの混合物を得るステップと、
(b)成熟ペプチドの遊離N末端アミノ基とX2との反応による成熟ペプチドと一般式(I)を有する化合物との間の共有結合の形成をもたらす、ステップ(a)から得られる混合物を一般式(I)を有する化合物と接触させるステップである、ステップ(a)の混合物を請求項1から10のいずれか一項に記載の一般式(I)を有する化合物と接触させるステップと、
(c)ステップ(b)から得られる混合物を固相からペプチドを切断するための酸処理に供するステップと、
(d)固体担体と成熟ペプチドとの間の安定な共有結合の形成をもたらす、ステップ(c)から得られるペプチドをX1と反応することができる固体担体と接触させるステップと、
(e)未成熟エンドキャップペプチドを除去するために、ステップ(d)から得られる固体担体を洗浄するステップと、
(f)
i. X2が(A)である場合、求核条件、
ii. X2が(B)である場合、アルカリ条件、及び
iii. X2が(C)である場合、UV照射
からなる群から選択される条件下でX2と成熟ペプチドの間の共有結合を切断することにより固体担体から成熟ペプチドを遊離させることによって精製成熟ペプチドを得るステップと
を含む、上記方法。
【請求項12】
前記「X1と反応することができる固体担体」が化合物をグラフトした固体担体であり、前記化合物がX1と反応することができるアジド、アルキン、シクロオクチン又はホスフィン官能基を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記「X1と反応することができる固体担体」が
X1がC≡CHである場合、
【化13】

[式中、nは1、2、3、4、または、5である。]、
X1がN3である場合、
【化14】

を含む群から選択される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
固相合成により製造されるペプチドを精製するための請求項1から10のいずれか一項に記載の一般式(I)を有する化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−510833(P2013−510833A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538362(P2012−538362)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067539
【国際公開番号】WO2011/058188
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(507033059)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク・(セ・エン・エール・エス) (17)
【Fターム(参考)】