説明

固相合成におけるS−アルキル−スルフェニル保護基

ペプチドのジスルフィドに支持された環化の樹脂上での形成のための新規な方法が考案される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、固相ペプチド合成(SPPS)における樹脂上でのジスルフィド結合形成、およびそれぞれのペプチド固相接合体に関する。
【0002】
システイン残基の保護のためには、極めて多様な保護基、例えばトリチル、アセタミドメチル-、t-ブチル、トリメチルアセタミドメチル、2,4,6-トリメトキシベンジル、メトキシトリチル、t-ブトキシスルフェニルを用いることができる。
【0003】
最も普通には、トリチル基が、ペプチド合成のための単純な保護のために用いられる。引き続いてシスチン形成による環化を受けるシステインの保護のためには、アセタミドメチル(acm)-保護基が、ヨード酸化と共に最も広く用いられている(Kamber et al., 1980, Helv. Chim. Acta 63, 899-915; Rietman et al., 1994, Int. J. Peptide Protein Res. 44, 199-206)。欠点としては、ヨードを用い、何れかの敏感な側鎖も酸化することにより、副生成不純物のスペクトルが実質的に増大することである。例えば、Tyr、Metはヨードを使用することによる影響を受ける。より重要なこととして、ヨードでの酸化はHIを遊離させ、次いで、この酸は最終的に側鎖の脱保護、および/または最も重要なこととして樹脂からの開裂を促進する。従って、当該方法は、使用するときには、樹脂からの開裂後の、合成における後の方の仕上げ工程としてのみ適用されなければならない。
【0004】
先行技術では、シスチン形成を可能にするために添加されるヨード以外の多くの酸化剤が知られている。その例は、Albericio et al., in: Chan and White, eds., “FMOC Solid-phase Peptide Synthesis”, Oxford university Press 2000, p. 91-114 に由来するものであり、水性緩衝液中のグルタチオン、DMSO、フェリシアン化カリウム、Ellmanの試薬、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ヨード、トリフルオロ酢酸タリウム(III)、アルキルトリクロロシランスルホキシド、強酸性媒質中でのトリフルオロメタンスルホン酸銀-DMSOに媒介された酸化である。
【0005】
通常、全てのこれら方法は、望ましくない多くの副生成物を生じ、最適な収量を得るためには10〜20時間の長い反応時間を必要とし、従って、望ましくない副反応のための充分な機会を与えるものである。
【0006】
Volkmer-Engert et al.[ペプチドにおける分子間ジスルフィド結合形成の表面支援触媒反応(surface-assisted catalysis), J. Peptide Res. 51, 1998, 365-369]は、溶媒(水)に溶解した酸素を使用することによる、活性炭に触媒された水中でのジスルフィド結合の酸化的形成を記載している。慎重な制御により、水性媒質中に物理的に溶解した酸素のプールが、酸化のための酸素を活性炭に負荷するために必要かつ充分であることが示された。従来の触媒の不存在下での空気散布に比較して、活性炭の使用は反応速度を劇的に加速させた。
【0007】
活性炭の使用は、不可避的に、このような反応が樹脂上ではなく、均一な溶液中で実施されることを必要とする;その後の脱保護の反応工程は、ペプチド-樹脂固相から除去することが不可能な活性炭が継続して存在することを許容しない。従って、環化は樹脂からの開裂後に、即ち、溶液中で起こる。このスキームでは、環化に先立つ固相支持体からの開裂および全体的な脱保護が必須である。更なる欠点として、Atherton et al.(1985, J. Chem. Perkin Trans. I. , 2065)は、一般的なスカベンジャーおよび酸分解プロモータであるチオアニソールを酸性の脱保護に使用することもまた、部分的には、acm、tert-ブチル、およびtert-ブチルスルフェニルで保護されたシステインの早過ぎる脱保護を生じることを報告した。
【0008】
米国特許第6,476,186号は、痕跡量の活性炭の存在下において、アセトニトリル/水(1:1)中におけるオクタペプチドの分子間ジスルフィド結合を工夫している。このペプチドは、2-クロロトリチル樹脂上で合成されるものであり、疎水性残基およびシステイン以外にリジンおよびスレオニンを含んでいる。システインは、酸に不安定なトリチル基で保護された。活性炭に触媒された環化は、水性溶媒混合物中での開裂および脱保護の後に行われた。
【発明の開示】
【0009】
本発明の目的は、固相合成によってジスルフィド結合された環状ペプチドを合成するための、より単純で直接的な、他のまたは改善された方法を考案することである。この目的は、下記の工程を含んでなるペプチド合成の方法によって、本発明に従って解決される。
【0010】
a.固相に結合されたペプチドを合成する工程であって、該ペプチドはシステインまたはホモシステインの少なくとも二つの残基を含み、前記システインはそれらの側鎖において各々がS-アルキル-スルフェニル保護基によって保護され、ここでのアルキルは更にアリール、アリールオキシ、アルコキシ、それらのハロゲン化変種、またはハロゲノで更に置換されてよく、また前記二つの保護基は同じでも異なってもよく、好ましくは、それらはその側鎖において各々がS-tert-ブチル-スルフェニル基によって保護される工程、
b.前記ペプチドを、更にS-tert-ブチル-スルフェニル保護基除去試薬と反応させ、好ましくは前記ペプチドを三級ホスフィンと反応させる工程、
c.空気および/または酸素の存在下で、好ましくは不均一触媒の不存在下でのジスルフィド結合形成により、前記ペプチドを環化させる工程。
【0011】
本発明に従うペプチドは、例えばホモシステイン(好ましくは2〜15のメチレン基および一つのチオール基を側鎖に含む)、ホモアルギニン、D-シクロヘキシル-アラニン、ε-リジン、γ-リジン、ペニシリンアミド(Pen)もしくはオルニチン(Orn)、または天然のL-アミノ酸のD-アナログのような、天然または非天然のアミノ酸を含む如何なるペプチドであってもよい。好ましくは、該ペプチドは、天然のアミノ酸またはそのD-アナログ、ホモ-もしくはノル-アナログのみを含んでなるものである。本発明の文脈において、ペプチドの骨格または主鎖、側鎖、および接頭語の「ノル-」または「ホモ-」の用語は、それぞれのIUPAC-IUB定義(International Union of Pure and Applied Chemistry and International Union of Biochemistry/ Joint Commission on Biochemical Nomenclature, "Nomenclature and Symbolism for Amino Acids and Peptides", Pure Appl. Chem, 56, 595-624 (1984))に従って解釈される。
【0012】
特に、環化反応の際に、これに関与する以外の保護したまま残すことを意図したペプチド中に含まれる更なるシステイン、ホモ-もしくはノル-システイン残基に言及するときは、ペプチド配列を形成するアミノ酸の更なる側鎖保護に特別な注意が払われなければならない。好ましくは、このような更なるスルフヒドリル部分を含む残基は、トリアルキルホスフィンに対して非感受性の保護基、更に好ましくはトリ-n-ブチルホスフィンに対して非感受性の保護基によって保護され、更に好ましくは、このような非感受性のスルフヒドリル保護基は、トリチル保護基、tert-ブチル保護基、アセタミドメチル保護基、アルキル化アセタミドメチル保護基、アルキル化トリチル保護基からなる群から選択される。
【0013】
より一般的なレベルでは、そうしなければカップリングおよび脱保護のサイクルで修飾される可能性があるような影響され易い側鎖を保護するために、当該技術において一般に用いられる側鎖保護基を使用してよい(例えば、Bodansky, M. , Principles of Peptide Synthesis, 2nd ed. Springer Verlag Berlin/Heidelberg, 1993参照)。影響され易い側鎖をもったアミノ酸の例は、Cys、Asp、Glu、Ser、Arg、ホモ-Arg、Tyr、Thr、Lys、Orn、Pen、Trp、AsnおよびGlnである。或いは、固相合成後にペプチドアミドの化学修飾を行って、望ましい側鎖を得てもよい。例えば、様々な文献に充分に記載されているように(EP-301 850; Yajima et al., 1978, J. Chem. Cos. Chem. Commun., p.482; Nishimura et al., 1976, Chem. Pharm. Bull. 24:1568)、ホモアルギニン(Har)は、ペプチド鎖に含まれるリジン残基のグアニド化(guanidation)によって調製することができ、或いは、アルギニンはペプチド鎖に含まれるオルニチン残基のグアニド化によって調製することができる。しかし、これは追加の反応工程を必要とすることを考慮すれば、実行可能性が低いかもしれない。特に、例えばHarのカップリングは、長期に亘るカップリング時間およびカップリング試薬の補充を必要とする。本発明によれば、ArgまたはHarをカップリングさせることは、好ましくは側鎖保護基を使用せずにそれぞれFMOC-ArgおよびFMOC-Harとして使用されるときには、一つの好ましい実施形態である。これは、個々のArgまたはHar残基のカップリングの後で且つ何等かの更なるカップリング反応の前に、グアニジノ部分が定量的にプロトン付加されて、有機溶媒中でプロトンドナーとの安定なイオン対を形成することを保証することによって達成されてよい。これは、後述の実験セクションで更に詳細に説明するように、好ましくは、樹脂に結合したペプチドアミドを、過剰な酸性カップリング助剤であるBtOH等で処理することによって達成される。グアニジニウム基の電荷をスカベンジする
もう一つの例は、米国特許第4,954,616号に記載されたように、合成のためにFmoc-保護されたHARのテトラフェニルホウ素塩を使用することである。
【0014】
固相支持体または樹脂は、当該技術において既知の、固相合成における使用に適した如何なる支持体であってもよい。固相のこの定義は、当該ペプチドが、官能性リンカー基またはハンドル基を介して、固相もしくは樹脂に結合されることを含んでいる。好ましくは、固相支持体は、当該技術において慣用的であるように、ポリスチレンまたはポリジメチルアクリルアミドポリマーに基づくものである。本発明によれば、該ペプチドは、適切なアミノ酸側鎖(例えば環化反応に関与しないことを意図した、ペプチドの更なるシステイン残基のチオール部分を含む)を介して、またはC末端のα-カルボキシ基を介して、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、またはアミド結合により樹脂に結合されてよい。その例は、ハンドル基を含んでなる固相支持体であり、該ハンドル基は、例えばトリチル、2-クロロ-トリチル-、4-メトキシトリチル-、「Rinkアミド」、4-(2’,4’-ジメトキシベンジル-アミノメチル)-フェノキシ-、Sieber樹脂(9-アミノ-6-フェニルメトキシ-キサンテン-)、4-ヒドロキシメチルフェノキシアセチル-、4-ヒドロキシメチル安息香酸である[後者は、感受性アミノ酸(例えばTrp、特にシステイン)のラセミ化を生じ得るp-ジメチルアミノピリジン触媒によるエステル化プロトコールを必要とする;Atherton, E. et al., 1981, J. Chem. Soc. Chem. Commun. , p.336 ff参照]。樹脂へのチオエステル結合を与える方法は、WO 04/050686において詳細に開示されており、更に参照文献が記載されている。該参照文献はまた、チオエステル結合が、例えばFmoc合成において使用される標準の脱保護条件に対して極めて弱いことを記載しており、また置換塩基の使用が如何にしてこの問題を克服するかを記載している。しかし、本発明の好ましい実施形態では、固相へのペプチド部分の結合のためのチオエステル結合は、C末端または側鎖での結合であれば、少なくとも僅かに塩基性のpH下においてチオエステル交換の副反応を受けるので、特別に特許請求の範囲から除外される。チオエステル結合は、S-tert-ブチル-スルフェニル保護基除去剤、特に化学量論的量の近傍またはそれ以上の、β-メルカプト-エタノールのようなチオール還元型のものでの処理に対して弱い。しかし、これは三級ホスフィンを用いた場合にも起こり、遊離のシステイニル、ホモ-システイニル、または遊離のチオール基をもった残基を生じ、これは更に固相に固定されたチオエステル結合との分子間チオエステル交換反応を可能にする。しかし、この分子間反応は、空間的距離および配列に依存したコンホメーション制限の側面によって強く調節され、従って上記の特許請求の範囲からの除外は、S-tert-ブチル-スルフェニル保護基除去剤の種類および与えられたペプチドの特定の配列の両方に依存する。好ましくは、ペプチド部分を固相に結合するために任意にチオエステル結合が用いられる場合は、S-tert-ブチル-スルフェニル保護基除去剤はホスフィン、より好ましくはtris-(C1-C8)アルキル-ホスフィンであり、ここでのアルキルは独立に、ハロゲノまたは(C1-4)アルコキシまたは(C1-C4)エステルで更に置換されてよい。更に好ましくは、当該除去剤はtris-(C2-C5)アルキル-ホスフィンであり、ここでのアルキルは独立に、(C1-C2)アルコキシで更に置換されてよい。
【0015】
特に、本発明に従えば、Brugidou, J. et al., Peptide Research (1994) 7:40-7 and Mery, J. et al., Int. J. Peptide、およびProtein Research (1993), 42: 44-52に記載されたHPDI二官能性ヒドロキシハンドルおよびジスルフィドハンドルのような、S-S結合を含む樹脂ハンドルは樹脂上での環化を可能にしないので、当然ながら本発明の範囲からは排除される。本発明による樹脂上での環化は、分子間副反応および希釈技術、または濃いの理由で通常用いられる触媒表面吸収技術から生じる問題を回避することを可能にする。
【0016】
リンクアミド(Rink amide)、Sieber樹脂(Tetrahedron Lett. 1987, 28, 2107-2110)または同様の9-アミノ-キサンテニル型の樹脂、PAL樹脂(Albericio et al., 1987, Int. J. Pept. Protein Research 30, 206-216)または特異的に置換されたトリチル-アミン誘導体(Meisenbach et al., 1997, Chem. Letters , p. 1265 f.に従う)は、固相の連結基の例であり、樹脂からのペプチドの開裂の際にCα-カルボキサミドが該基から発生または放出される。この意味で、樹脂からの開裂に際してカルボキサミドを生じる固相は、それが以前はペプチドの酸性側鎖またはC末端のカルボキサミドであれば、本発明の文脈においてはアミド生成固相と称される。
【0017】
好ましくは、当該ペプチドはC末端を介して、アミド結合またはエステル結合によって固相に固定される。より好ましくは、該固相は酸感受性または酸に不安定な固相であり、更に好ましくは、それはアミドを発生させる酸に不安定な固相である。このような酸に不安定な固相は、樹脂からの開裂のために、極性非プロトン溶媒中の少なくとも0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)、より好ましくは少なくとも0.5%のTFAを必要とする。最も好ましくは、該固相は、弱酸性条件下で開裂される酸に対して不安定な固相であり、即ち、前記溶媒中の0.1〜10%のTFAは、室温において5時間以下のインキュベーションにより少なくとも90%の開裂効率で実行するのに充分である。このような酸に対して高度に不安定な固相は、例えば2-クロロトリチル樹脂、4,4’-ジメトキシトリチル樹脂、関連のトリチル系フェニルアルコール樹脂、例えば、Bayerの4-カルボキシトリチルリンカー、または該リンカーの4-メトキシフェニル、4,4'-ジメトキシフェニル、もしくは4-メチル誘導体を用いたアシル化により従来のアミノエチル樹脂から誘導されたNovasynTM TGT、更にはSieber樹脂、Rinkアミド樹脂、または4-(4-ヒドロキシメチル-3-メトキシフェニル)-酪酸(HMPB)樹脂、(4-メトキシベンズヒドリル-)もしくは(4-メチルベンズヒドリル)-フェニル樹脂であり、前者の前記SieberおよびRink樹脂は特異的に、酸分解に際してC末端でアミド化されたペプチドを生じる。このような酸に不安定な固相は、側鎖保護基のための樹脂上での脱保護化学に対して特に弱く、従ってこれらの場合は特に注意を払わなければならない。
【0018】
C末端システイン残基を介した固相ハンドル基への側鎖固定の場合、この連結する結合はチオエーテル結合またはチオエステル結合でなければならない。側鎖固定のための更に適切な残基は、酸性側鎖のカルボキシ基、ヒドロキシ基、および特にリジンのε-アミノ基である。側鎖固定の場合、側鎖アミノ官能基の固相への結合反応のためにFMOC-Lys-カルボキサミドを使用することによって前記第一のカップリング反応を行う前に、C末端の遊離カルボキシ基が、一般にはエステル化またはアミド化によって保護されるべきことは言うまでもない。
【0019】
好ましい実施形態においては、一つのS-アルキル-スルフェニル-保護されたシステイン、好ましくは一つのS-tert-ブチル-スルフェニル保護されたシステインがペプチドのC末端残基であり、カルボキシ末端を介してエステル結合またはアミド結合により固相に結合される。但し、前記リンク結合はベンジルエステル部分ではないが、好ましくは、上記で定義した通り弱酸性の反応条件下で開裂される、酸に対して不安定な残基である。C末端システインは、酸性条件において、例えば強酸性条件下での開裂および/または脱保護に際して、特にラセミ化を受け易い。
【0020】
最終的に特許請求の範囲から除外された、飛散し易い酸化的環化のための不均一触媒は活性炭であり、これは固相上での使用に適合しない。それは効率的に除去されないであろう。好ましくは、それは触媒的に有効なまたは実質的な量のこのような不均一触媒の不存在に関連する。しかし、本発明の目的のために必要でないときに、不適切な触媒を使用しないことは当業者には自明の措置である。
【0021】
ペプチド合成のためのカップリング試薬は、当該技術において周知である[Bodansky, M. , Principles of Peptide Synthesis, 2nd ed. Springer Verlag Berlin/Heidelberg, 1993; 並びにその中でのカップリング添加剤または助剤の役割の議論を参照されたい]。カップリング試薬は、混合無水物(例えば、T3P:プロパンホスホン酸無水物)、または他のアシル化試薬、例えば活性化されたエステルもしくは酸ハロゲン化物(例えばICBF、イソブチル-クロロホルメート)であってよく、或いは、それらはカルボジイミド(例えば、1-エチル-3-(3-diメチルアミノプロピル)-カルボジイミド)、活性化されたベンゾトリアジン-誘導体(DEPBT: 3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン)、またはベンゾトリアゾールのウロニウムもしくはホスホニウム塩誘導体であってよい。
【0022】
最良の収率、短い反応時間および鎖伸長の際のラセミ化に対する保護の観点からは、当該反応が塩基の存在下で行われることと共に、カップリング試薬が、遊離カルボン酸官能基を活性化できるベンゾトリアゾールのウロニウム塩およびホスホニウム塩からなる群から選択されるのが好ましい。このようなウロニウムまたはホスホニウムカップリング塩の適切かつ同様に好ましい例は、例えば、HBTU(O-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、BOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-tris-(ジメチルアミノ)-ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリピロリジノホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、PyAOP、HCTU(O-(1H-6-クロロ-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、TCTU(O-1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート)、HATU(O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、TATU(O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート)、TOTU(O-[シアノ(エトキシカルボニル)メチレンアミノ]-N,N,N’,N’’-テトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート)、HAPyU(O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)オキシビス-(ピロリジノ)-ウロニウム・ヘキサフルオロホスフェート)である。
【0023】
好ましくは、DEPBTなどを使用するときは、カップリング工程を実施するために、ウロニウムもしくはホスホニウム塩試薬、更なるまたは第二の弱塩基試薬が必要とされる。これは、ペプチドまたはアミノ酸もしくはアミノ酸誘導体のα-アミノ官能基を除き、その共役酸がpKa 7.5〜15、より好ましくはpKa 7.5〜10のpKa値を有する塩基によって満たされ、また該塩基は、好ましくは三級の立体障害アミンである。このような更に好ましい例は、Hunig塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、N,N’-ジアルキルアニリン、2,4,6-トリアルキルピリジン、2,6-トリアルキルピリジン、またはN-アルキル-モルホリン(ここでのアルキルは直鎖もしくは分岐鎖のC1-C4 アルキルである)であり、より好ましくは、それはN-メチルモルホリンまたはコリジン(2,4,6-トリメチルピリジン)であり、最も好ましくはコリジンである。
【0024】
また、カップリング添加剤、特にベンゾトリアゾール型カップリング添加剤の使用も知られている(Bodansky, supra参照)。それらの使用は、高度に活性型のウロニウムまたはホスホニウム塩カップリング試薬を用いるときに特に好ましいものである。従って、カップリング試薬添加剤は、活性化されたエステルを形成できる求核性ヒドロキシ化合物、より好ましくは、酸性の求核性N-ヒドロキシ官能基を有するものであることが更に好ましく(ここでのNはイミドであるか、またはN-アシルもしくはN-アリール置換されたトリアゼノである)、最も好ましくは、該カップリング添加剤はN-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール誘導体(もしくは1-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール誘導体)であるか、またはN-ヒドロキシ-ベンゾトリアジン誘導体である。このようなカップリング添加剤のN-ヒドロキシ化合物は、WO 94/07910およびEP-410 182に記載されており、それぞれの開示を本明細書の一部として援用する。その例は、例えばN-ヒドロキシ-スクシンイミド、N-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、およびN-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール(HOBt)である。N-ヒドロキシ-ベンゾトリアジン誘導体が特に好ましく、最も好ましい実施形態においては、該カップリング試薬添加剤はヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジンである。カップリング添加剤のアンモニウム塩が知られており、カップリング化学におけるその使用が、例えばUS 4,806,641に記載されている。
【0025】
更なる特に好ましい実施形態において、前記ウロニウムもしくはホスホニウム塩カップリング試薬は、ウロニウム塩試薬であり、好ましくはHCTU、TCTUまたはHBTUであり、更に好ましくは、N-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジンまたはその塩と共に、当該反応において使用される。この実施形態は、主に、Nα-保護基の除去後のペプチド合成の鎖伸長工程において使用するために好ましいものであるが、側鎖環化の際のラクタム化反応のためにも使用されてよい。
【0026】
本発明の内容において、HCTUおよびTCTUは、これらの化合物および可能な類似体が結晶構造解析によりウロニウム部分ではなくイソニトロソ部分を含み(O. Marder, Y. Shvo, and F. Albericio “HCTU and TCTU: New Coupling Reagents: Development and Industrial Applications”, Poster, Presentation Gordon Conference February 2002)、ヘテロ環コア上のN-アミジノ置換基が代わりにグアニジウム構造を生じることが示されているにもかかわらず、「ウロニウム塩試薬」の用語に包含されるように定義されていることに留意すべきである。本発明の内容において、このような分類の化合物は、本発明によるウロニウム塩試薬の「グアニジウム型副分類」と称される。
【0027】
更に、特に好ましい実施形態において、前記カップリング試薬は、例えばBOP、PyBOPまたはPyAOPのようなベンゾトリアゾールのホスホニウム塩である。
【0028】
塩基に不安定なNαの脱保護は、例えば標準のFmoc化学を使用するときに、N-メチルモルホリン中の20%ピペリジンを用いて当該技術でルーチンに行われているように実施されてよい。最も広範囲には、N末端のためのFmocまたはBoc化学が固相合成においてルーチンに適用されるが、更なる任意のNα保護化学が当該技術において知られており、本発明を妨げない場合に、即ち、樹脂結合ペプチドのジスルフィドに担持されたペプチド環化を工夫するために適用することができる。
【0029】
式IIに示すように、システインまたはホモシステイン残基のチオール基を保護するS-アルキル-スルフェニル保護基は、典型的には本発明に従ってS-tert-ブチル-スルフェニル-保護基をこのような残基から除去でき、好ましくは実質的に除去できる試薬によって除去される。三級ホスフィンを用いた反応により達成される、例えばシステインからのS-tert-ブチル-スルフェニル-保護基の除去が、例えばトリブチルホスフィン(Atherton et al., 1985, J. Chem. Soc., Perkin I. 2057)およびトリエチルホスフィン(Huang et al, 1997, Int. J. Pept. Protein Res. 48, 290)を使用することによって報告された。tert-ブチル-スルフェニル基はまた、三級ホスフィンを使用することに対するオプションとして、例えばβ-メルカプト-エタノールまたはジチオ-スレイトール(DTT)のようなチオール試薬によって直交形式で開裂される(Huang et al.,1997 Int. J. Pept. Protein Res. 48, 290; Rietmann et al., 1985, Recl. Trav. Chim. Pays-Bas, 1141)。好ましくは、三級ホスフィンはトリフェニルホスフィン、または(C1-C4)アルキル化もしくは(C1-C4)アルコキシ化トリフェニルホスフィン、例えばトリ-(p-メトキシフェニル)-ホスフィン、更に好ましくはトリアルキルホスフィンであり、ここでのアルキルは同じでも異なってもよく、またここでの各アルキルはC1〜C7アルキル、好ましくはC1〜C4アルキルであり、分岐鎖または直鎖のアルキルであってよい。好ましくは、該アルキルは直鎖である。その例は、メチル、エチル、プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチルである。トリ-n-ブチル-ホスフィンおよびトリ-エチルホスフィンが特に好ましい。このアルキルは、任意に、ハロゲノ、(C1-C4)アルコキシ、好ましくはメトキシまたはエトキシで更に置換されてよく、或いは、溶媒系に適用できる場合には更にカルボキシで置換されてよく、または好ましくは非置換である。驚くべきことに、本発明に従う一つの好ましい実施形態においては、予想に反して、ホスフィンに
よるジスルフィドの開裂は、弱酸性の反応条件において開裂可能な酸に不安定な樹脂、例えばSieber樹脂または2-クロロ-トリチル(CTC)樹脂と共に使用され得ることが分かった。また、チオール試薬はジスルフィドを還元し、従って、それ自身がジスルフィド生成物自身を形成することによってジスルフィドを開裂させることが、屡々見落とされる。好ましくは、このようなチオール試薬は、エリスロ-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ブタンジオール(またはメソ-1,4-ジチオエリスリトールまたは略してDTEと称される)、DL-スレオ-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ブタンジチオール(またはrac-1,4-ジチオスレイトールまたは略してDTTと称される)、L-スレオ-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ブタンジオール、D-スレオ-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ブタンジチオール、およびこれらの混合物からなる群から選択される。混合物は、DTEおよびDTTをそのラセミ形で、またはDTTの光学的に活性な製剤として含有してよい。更に好ましくは、チオール試薬はDTTであり、これはD-、L-、または何れかのラセミ混合物もしくは非ラセミ混合物を意味する。DTTおよびDTEはまた、それぞれClelandの試薬およびClelandの他の試薬としても知られている(Cleland, W., Biochemistry 3,480-482,1964)。DTTの場合は分子内閉環が極めて有利であり、それを更に強いジスルフィド還元剤にし、DTTとの安定な分子間ジスルフィド付加物の形成を防止するのに対して、β-メルカプトエタノールの場合は、ジスルフィド交換反応によって、如何なる分子間反応生成物も容易である。更に、新たに形成されたジスルフィドは更なる交換反応を受けてもよい。チオール試薬、最も頻繁には2-メルカプトエタノールのような単純なチオール試薬の使用は、明らかに、例えば強い求核性の三級ホスフィン試薬を使用するときの樹脂からの漏出のような副反応の恐れによるものである。DTT等を使用することによって、モノ-チオール試薬の固有の欠点が回避され得る。
【0030】
環化は、本発明に従って、極性の非プロトン性有機溶媒中の第一の弱塩基の存在下で、空気および/または酸素の存在下で、且つ特に不均一な加速触媒の不存在下で行われる。次いで、更に、先例なく、環化工程は本発明の方法によって顕著に効率的であり、約0.5〜2時間の反応時間を必要とするに過ぎず、非常に温和な反応条件下(典型的には周囲温度、勿論、溶媒の還流温度を考慮しなければならないが、好適な温度範囲は10℃〜80℃)で、遊離体の望ましい生成物への文字通り定量的で完全な変換を可能にする。変換は完全である。これは、顕著な成功例であり、ジスルフィド結合に駆動されたペプチドの環化においては今まで達成されたことがなく、またこのような簡易、温和、且つ迅速な環化反応条件は以前に考案されたことがなかった。不均一触媒のための煩雑な混合および分離の問題はもはや生じない。更に、反応速度は、先行技術の触媒に支持された反応の場合に完全に匹敵する。反応の単純明快な経路に起因して、副生成物の形成は殆ど完全に回避される。
【0031】
適切な極性非プロトン溶媒は、例えば、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジころ路メタン、N-メチル-ピロリドン、テトラヒドロフランである。水とは対照的に、このような溶媒は、水性触媒システムについて以前に記載されたように、通常はジスルフィド結合の酸化的形成を支持するための相当量の酸素を物理的に溶解しない。
【0032】
従って、空気、空気/酸素、または純粋な酸素の供給に注意を払わなければならない。空気/酸素は、充分な撹拌、渦撹拌、撹拌のために使用される特別な設計の噴射剤、液体中へのガス散布によって供給されてよい。ガスは、反応液中に通気または散布される空気、純粋な酸素、または酸素を富化した空気であってよい。特に好ましい一つの実施形態においては、反応容器の表面積の大きい底および/または壁に穿孔を施して、充分な撹拌の下での液体中へのガスの散布を可能にする。より好ましくは、反応容器は焼結された底、または底の全表面積の少なくとも50%の焼結部分を含んでおり、撹拌と同時に、底を通して反応液の中に発散される激増するバブリングによる換気を可能にする。
【0033】
第一の弱塩基性試薬は、その共役酸がpKa7.5〜15、より好ましくはpKa8〜10のpKa値を有する弱塩基であり、好ましくは、それは三級の立体障害を受けたアミンである。このような更に好ましい例は、好ましくは三級の立体障害アミンである。このような更に好ましい例は、Hunig塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、N,N’-ジアルキルアニリン、2,4,6-トリアルキルピリジン、またはN-アルキル-モルホリン(ここでのアルキルは直鎖もしくは分岐鎖のC1-C4 アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチルである)であり、最も好ましくは、それはN-メチルモルホリンまたはコリジン(2,4,6-トリメチルピリジン)、またはHunig塩基である。
【0034】
好ましくは、本発明に従うジスルフィド結合された保護基の先の除去、特に、S-tert-ブチル-スルフェニル基の除去は、僅かな酸分解による樹脂からの漏出のリスクを回避するために、第一の弱塩基試薬の存在下で、即ち、7.5〜12、より好ましくは8〜11のpHで行われる。任意に、水と自由に混和するTHFまたはアセトニトリルのような極性の非プロトン性溶媒を使用することによって、この目的のために、例えば水溶液中の酢酸ナトリウムのような塩基性塩を使用することができる。この実施形態は、前記ジスルフィド基の開裂もしくは除去工程のために三級ホスフィンを使用するときに、特に好ましいものである。このようなジスルフィド保護基の除去と同時に、適切な酸素供給を組み合わせることによって、本発明のもう一つの実施形態、例えば、三級アミンの存在下での酸素供給と共に極性の非プロトン性有機溶媒を使用するとき、および脱保護のために酸素に対して不活性な三級ホスフィンを使用するときには、ジスルフィド脱保護および環化を、1ポット反応だけでなく単一反応工程で実施することが可能であろう。
【0035】
本発明が樹脂上での環化を可能にするとの事実に起因して、先行技術に記載された殆どの方法において以前に必要とされたような、分子間環化に対して分子内環化を有利にするための、煩雑で且つ収率を低下させる強度のペプチド希釈を必要としない。本発明の樹脂上での動作モードは、迅速かつ効率的な分子内環化のみを可能にし、二量体化の機会を全く与えない。
【0036】
更に好ましい実施形態において、当該ペプチドは、式IまたはIIのペプチドである。所定の側鎖官能基、または標準のtert-ブチルオキシカルボニル(Boc)または9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)固相ペプチド合成に使用するのに適合した特定の側鎖のための保護基であると解釈されるべきである。このような保護基、または特定の側鎖官能基のための特定の保護基の使用は、当該技術において周知である(Chan et al., ed., supra; Bodansky et al. supra)。
【0037】
例えば側鎖基R1(o)は、任意に保護されたアミノ酸側鎖の一つのタイプを意味すると解釈されるべきではない;各残基R1(1)、R1(2)…は、独特のものであってもよく、または少なくとも一つの他の残基と同じであってもよい。勿論、R2(x)、R3(q)基にも同じことが適用される。
【0038】
複数の可能な副構造が与えられれば、式IおよびIIのペプチドはまた、ペプチド合成に通常用いられる周知のペプチド骨格修飾を含んでいてもよい:即ち、D-またはL-Proのような環状アミノ酸、二つのペプチジル切片を連結する例えばヘパリンもしくはβターン構造擬似物である中間の非ペプチド部分、特に、例えばアスパルチミド形成を回避するアミド保護されたAsp-Gly(Hmb)切片を導入するために合成に使用される骨格修飾されたジペプチジル切片(Packman et al. 1995, Tetrahedron Lett. 36, 7523)、またはペプチド擬似物、ペプチド結合の代わりに-CO-CH2-またはCH2-NH2-のような骨格切片を有するアミノ酸類似体の非アミド結合した二量体切片(a review of useful peptidomimetic segments can be found e.g. in Morley, J., Trends Pharm. Sci. (1980), pp.463-468)である。
【0039】
好ましくは、環化においてジスルフィド結合されるに至る二つのシステインは、少なくとも二つのアミノ酸残基等によって離間されている。i+3の離間は、αへリックスペプチドコンホメーションには典型的であり、ジスルフィド結合のための最適な空間的近接配置を可能にする。この方法においては、環化が促進される。以下、可能でより安定なコンホメーションの観点から、骨格によって働く束縛は、環化をより困難にする。しかし、ペプチド部分のスペーサ切片における、基R2(x)を包含するアミノ酸の一つとして、へリックス破壊因子としてのシュードプロリンまたはベータターンコンホメーション誘導因子としてのD-アミノ酸の組み込みは、この単純な規則を強く調節するものであり、従ってこれは高度に構造依存性である。
【0040】
一つの更なる実施形態においては、長年に亘ってタンパク質精製に用いられているHisタグ技術と同様に、固相へのペプチド部分の永久的な共有結合によってではなく、安定な金属キレート錯体による固相への非共有結合による可逆的結合によって、固相上でペプチドを合成することが可能である(Lonza AG, Basel, SwitzerlおよびAplaGen GmbH, Baesweiler, Germanyの共同による新聞発表、2004年10月/11月、2004年10月)。このような非共有結合による固相への結合、または同様の更なる実施形態は、本発明にも包含されるものであり、また上記で述べた発明を実施する好ましい形態および特許請求の範囲は、前記実施形態の非共有結合の特徴を用いた上記樹脂もしくはハンドルへの結合の代わりに、この実施形態に適用される。
【0041】
本発明の更なる目的は、それぞれ、固相に担持されたペプチドまたは固相-ペプチド接合体である。上記および以下に与えられる関連の定義は、単独または組合せにおいてこのような目的にも同様に適用される。
【0042】
従って、本発明の前記更なる目的は、次式IまたはIIのペプチドである:
【化2】

【0043】
ここで、m,n=1〜15、好ましくはm,n=1または2であり、Y=Hであるか、またはYは第一の保護基であり、好ましくはYは塩基に不安定でない保護基であり、o,x,qは各々別々に0〜200であり、R1(o),R2(x),R3(q)は各々独立に、環式アミノ酸を含む天然のアミノ酸、環式アミノ酸を含む非天然のアミノ酸、または非アミド結合したジペプチジル切片、天然のアミノ酸の非天然の誘導体またはその類似体からなる群から選択されるアミノ酸の側鎖であり、前記アミノ酸鎖は各々が更に濃いこの側鎖について同じかもしくは異なってよい第二の保護基を含んでよく、またAは樹脂または樹脂ハンドルであり、或いは任意に、個々のR2(x),R3(q)基は樹脂または樹脂ハンドルに結合される:但し、そのときに、AはOH、NH2、NR’1HまたはNR’1R’2からなる群から選択され、R’1およびR’2はC1-C4アルキルであり、R10およびR11の各々は、アリール、アリールオキシ、アルコキシ、それらのハロゲン化変種またはハロゲノであり、同じでも異なってもよい。
【0044】
好ましくは、x=2〜200である。より好ましくは、o,x,qは別々に1〜100、好ましくは2〜50であり、またはxは2〜100であり、好ましくは、xは3〜50である。再度、好ましくはq=0、この点で更に好ましくは、oは0〜50であり、xは2〜100、好ましくはxは2〜50である。
【実施例】
【0045】
全体的な合成ストラテジーが、下記の表Iに記載されている。
【0046】
表I
【表1】

【0047】
1.1 直鎖上ペプチドFmoc-Gly-Asp(tBu)-Trp(Boc)-Pro-Cys(S-tBu)-SieberのFMOC固相合成
FMOC-Cys(S-tBu)-OHの合成は以前に記載されている(Rietman et al., 1994, Synth. Commun. 24, p. 1323 f)。Sieber樹脂は、Novabiochem(登録商標)製品の100-200メッシュ(米国規格基準局によるメッシュサイズ規格)のものであり、マトリックス材料はジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンであり、Calbiochem-Novabiochem(EMD Biosciences,カリフォルニア州/アメリカ合衆国に属する)から購入された。全てのFMOCアミノ酸はFMOC-Cys(S-tBu)-OH(cat. No. B-1530)を有しており、Bachem AG(ブーベンドルフ,スイス)から購入された。
【0048】
樹脂の負荷は0.52mmol/gで行われ、総量は10g Sieber樹脂であった。負荷のためのカップリング時間は標準的なカップリング時間の2倍、すなわち全部で60分であった。カップリングは、ジクロロメタン中において6-クロロ-HOBt、TCTU、ヒューニッヒ塩基(ジソプロピルエチルアミン)が各1等量ずつ存在する中に、各アミノ酸を2等量ずつ用いて行われた。洗浄をN-メチル-ピロリドン(NMP)で行った。
【0049】
FMOC 脱保護は15分の3サイクルで行われた。N-メチル-ピロリドン中の10%ピペリジン;開裂の効率および合成の完全性を、ニンヒドリン反応および逆相HPLCによりそれぞれ分析した。
【0050】
1.2 1.1からBoc-Gly-Cys(S-tBu)-Har-Gly-Asp(tBu)-Trp(Boc)-Pro-Cys(S-tBu)- Sieberへのペプチドの伸張
FMOC-Har (Bachem, Burgendforf, スイス)残渣のカップリングを、1等量のアミノ酸につき1等量のHOBtの存在中で行った(グアニジノ基をプロトン付加状態に維持するため);FMOC酸をHOBt、およびNMP中のジイソプロピルカルボジイミドでプレインキュベートし、前記樹脂と混合した。Harカップリングに180分かかり(他のaa:30分)、続いて補充された試薬で第2のサイクルを約60分行った。これにより、他方の残渣について標準的な99.8% カップリング効率が一致し得た。
【0051】
FMOC 開裂を前記のとおりに行った。とりわけFMOC 開裂とこれに続くNMP洗浄の後に、樹脂のさらなる膨張を防ぐために、HOBtで繰り返し洗浄した。
【0052】
1.3 保護化(S-tBu)-システインのBu3Pの脱保護
工程 1.2の樹脂生成物をテトラヒドロフラン(THF)中に懸濁させ、テトラヒドロフラン(THF)で3回洗浄した。反応は、19%(v/v) PBu3/77%(v/v) THF/4%(v/v)酢酸ナトリウム飽和水溶液として作製された50当量のトリブチルホスフィンを用いて、室温で1h行った;沈殿した塩を使用前に濾過除去した。反応は均一に進行し、1つの際立った生成物ピークが得られた。収量は逆相HPLCにより測定され、98.9%が正しい生成物であることがわかった。
【0053】
1.4 Boc-Gly-cyclo(Cys-Har-Gly-Asp(tBu)-Trp(Boc)-Pro-Cys)-Sieberを得る環化
実験1.3からの膨潤したペプチド-樹脂接合体をNMP中で3回洗浄した。樹脂を1h室温で、NMP中の6% DIEA(ヒューニッヒ塩基)と共にインキュベートすることにより、結晶化を行った;反応を垂直ガラス容器内で行い、この容器は水平に二等分され、その下方部分はG3(16-40μm)ガラスフリットにより密閉された。ガラス焼結プレート(フリット)を下方より通気し、空気バブリングを、フリット上方部分における溶媒に覆われた試薬の領域の断面全体にゆきわたらせ、バブリング空気により樹脂を底面から浮き上がらせた。この工程後にきわめて純粋で均質な生成物を得、明瞭なまたは粉状(shattered)の副生成物は見られない。逆相HPLCおよびLC-MSの双方により個別に測定したところ、生成物への変換は100%であった。RP-HPLCはHypersil-Keystone(登録商標)Betabasic(Thermo Electron Corp., ウォルサム マサチューセッツ州/アメリカ合衆国) C18 150x4.6mmカラム上で行い、注入体積は15μLであり、カラム温度35℃での検出を262nmで行った。勾配実施は、
時間 アセトニトリル(0.1%TFA)/水(0.1%TFA)
0 60 40心
5 97 3
16 97 3
17 60 40
である。
【0054】
1.6 全体的な脱保護
全体的な脱保護は、樹脂をジクロロメタン(DCM)中で3回膨潤させることにより準備される。以下よりなる開裂反応相混合物を調製する:
86.5% TFA(785等量)
4.5% チオアニソール(36.5等量)
3% フェノール(32.4等量)
3% DCM (38等量)
3% H2O (178等量)。
【0055】
反応を、ゆっくり回転する環状の振盪装置において15℃で2h行う。反応が終了し、樹脂を濾過除去した後、tert.ブチル酸メチルエステルを滴下添加することにより生成物が沈殿する。生成物は均一なピークであり;より際立った副生成物は検出できない。全体的な脱保護の上記条件が、対象について試験され、ペプチド中の予め形成されたジスルフィド架橋への影響は見られなかった。
【0056】
2.保護された(S-tBu)システインの、DTTを用いた脱保護
上記1.3項における脱保護工程の選択肢として、ホスフィンのかわりにDTTを用いて行い、原則として記載のとおりに脱保護を行う。DTTは、Biosynth AG/スイスから入手可能なrac-又はL-DTTである。上記工程1.2の樹脂生成物をジメチルホルムアミド(DMF)中で懸濁させ、3回洗浄した。DMF/DTT(1:1)として作製された50当量のDTTを用い、また反応時間を室温で3〜5時間に延長した。続いて、ペプチド-樹脂を、上記1.4〜1.6項と全く同様に処理した。得られた収量は、前記1.6項と完全に一致し、純度も同様であった。
【0057】
3.Boc-D-Phe-Cys(S-tBu)-Tyr(tBu)-D-Trp(Pbf)-Lys(Boc)-Val-Cys(S-tBu)-Trp(Pbf)- Sieberの環化
バプレオチド、ソマトスタチンペプチドアゴニストは、原則的に上記1.1に記載のとおりに合成される。さらなる手順を、原則的に上記1.2〜1.6に従って行うことにより、脱保護されたバプレオチドカルボキシアミドを優れた収率および純度で提供する。任意によりセクション2に従う脱保護を行うと、同様に非常に良好な結果を得る。
【0058】
4.Boc-Lys(Boc)-Cys(S-tBu)-Asn-Thr(Trt)-Ala-Thr(Trt)-Cys(S-tBu)-Ala-Thr(Trt)- Gln-Arg(Pbf)-Leu-Ala-Asn-Phe-Leu-Val-His-Ser(Trt)-Ser(Trt)-Asn-Asn-Phe-Gly-Pro-Ile-Leu-Pro-Pro-Thr(Trt)-Asn-Val-Gly-Ser(Trt)-Asn-Thr(Trt)-Tyr-Sieberの環化
プラムリンチドペプチド,37-merが、原則的に上記1.1〜1.6に記載のとおりに合成され環化される。直線状ペプチドの収量と比べ、環化それ自体は定量的である。しかし、個々のカップリング工程がときとして困難であるため、C〜N末端の全長の直鎖合成では平凡な収量でしか得られない。
【0059】
5.Fmoc-Cys(S-tBu)-Asn-Thr(Trt)-Ala-Thr(Trt)-Cys(S-tBu)-Ala-Thr(Trt)-Gln-Arg (Pbf)-Leu-Ala-Asn-Phe-Leu-Val-His-Ser(Trt)-Ser(Trt)-Asn-Asn-Phe-Gly-Pro-Ile-Leu-Pro-Pro-Thr(Trt)-Asn-Val-Gly-Ser(Trt)-Asn-Thr(Trt)-Tyr-Rinkの環化
合成を、原則的に上記4項に記載のとおりに行うが、最後のLys 残基は、追加のカップリングサイクルにおける環化反応の後に添加され、合成はRink アミド樹脂上で行われ、全体的な脱保護に先立ち、弱い又はマイルドな酸性条件下で開裂が行われる:樹脂からの開裂は、15分の3サイクルで達成され、各サイクルは15℃、ジクロロメタン中の2%(w/w) TFA, 1%(w/w)トリエチルシラン(TES)を用いて行われた。反応物を窒素バブリングにより撹拌する。各サイクルの後、反応溶液全体を希釈したピリジン(ピリジン/エタノール1:9(v/v))に注ぐことにより、開裂反応物を直接クエンチングする。ついで、フリットを用いた濾過により樹脂を除去する。濾液をプールし、真空下で濃縮し(RotaVap)、DCMで洗浄する。
【0060】
6.Boc-Lys(Boc)-Cys(S-tBu)-Asn-Thr(Trt)-Ala-Thr(Trt)-Cys(S-tBu)-Ala-(4ψMe,Me pro)Thr-2-CTCの環化
合成および環化を、原則的に上記の1.1〜1.5項に記載のとおりに行うが、2-クロロトリチル-ポリスチレン樹脂(CBL Patras, ギリシャ)を固相として用い、2項に記載のDTT方法を、1.3項/ホスフィン方法のかわりに用いる。さらに、緩やかな酸性条件のもとでの開裂は側鎖の脱保護せずに、原則的に5項に記載のとおりに行う。良好な収率が得られる。断片合成は、プラムリンチド合成(Pramlintide synthesis)へのオプションの経路として働く:ついで、環化された架橋-システインを含むが保護されたペプチドを、TCTUを用いる標準的なペプチドカップリング化学反応を用いて、C-末端との従来の断片カップリング技術に供する。ここでC-末端,保護化された断片は、固相または好ましくは液相のいずれかに含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド合成の方法であって:
a.固相に結合されたペプチドを合成する工程であって、該ペプチドはシステインまたはホモシステインの少なくとも二つの残基を含み、前記システインはそれらの側鎖において各々がS-アルキル-スルフェニル保護基によって保護され、ここでのアルキルは更にアリール、アリールオキシ、アルコキシ、それらのハロゲン化変種、またはハロゲノで更に置換されてよく、また前記二つの保護基は同じでも異なってもよく、好ましくは、それらはその側鎖において各々がS-tert-ブチル-スルフェニル基によって保護される工程と、
b.前記ペプチドを、更にS-tert-ブチル-スルフェニル保護基除去試薬と反応させ、好ましくは前記ペプチドを三級ホスフィンと反応させる工程と、
c.空気および/または酸素の存在下で、好ましくは不均一触媒の不存在下でのジスルフィド結合形成により、前記ペプチドを環化させる工程と
を具備する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記システインが少なくとも3残基離間されていることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記固相樹脂は酸に不安定な樹脂、好ましくは、2-クロロ-トリチル-、HMPB、SieberまたはRinkアミド樹脂からなる群から選択されるものであり、これらは極性の非プロトン溶媒中の0.1%(v/v)〜10%(v/v)のトリフルオロ酢酸の弱酸性条件下で不安定な樹脂であり、好ましくはC末端残基がシステインまたはホモシステインであり、該C末端が前記樹脂に結合され、該樹脂は、更に好ましくはSieberまたはRinkアミド樹脂であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記ペプチドは少なくとも一つの更なる側鎖保護基を有し、該保護基は、別々に保護された更なるシステインまたはホモシステイン残基を含むS-アルキル-スルフェニル保護基でないことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1または3に記載の方法であって、前記ホモシステインが、その側鎖に2〜15のメチレン基および一つのチオール基を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1または6に記載の方法であって、S-アルキル-スルフェニル基の除去は、前記ペプチドをトリアルキルホスフィンと反応させることによって達成されることを特徴とする方法
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記ペプチドは、極性の非プロトン溶媒中において弱塩基の存在下で環化されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1または7の何れか1項に記載の方法であって、前記ペプチドの固相への結合は酸に不安定であり、好ましくは、ジクロロメタン中の60%TFAにおいて室温で不安定であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項5に記載の方法であって、前記樹脂がSieber樹脂であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、その後の工程において、好ましくは全体的な脱保護の条件下において、前記ペプチドが前記樹脂から開裂されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1または3に記載の方法であって、前記ペプチド部分の前記固相への結合が、チオエステル結合またはジスルフィド結合でないことを特徴とする方法。
【請求項12】
次式IまたはIIのペプチド:
【化1】

ここで、m,n=1〜15、好ましくはm,n=1または2であり、Y=Hであるか、またはYは第一の保護基であり、好ましくは、Yは塩基に不安定でない保護基であり、o,x,qは各々別々に0〜200であり、R1(o),R2(x),R3(q)は各々独立に、環式アミノ酸を含む天然のアミノ酸、環式アミノ酸を含む非天然のアミノ酸、または非アミド結合したジペプチジル切片、天然のアミノ酸の非天然の誘導体またはその類似体からなる群から選択されるアミノ酸の側鎖であり、前記アミノ酸鎖は各々が更に個々の側鎖について同じかもしくは異なってよい第二の保護基を含んでよく、またAは樹脂または樹脂ハンドルであり、或いは任意に、個々のR2(x),R3(q)基は樹脂または樹脂ハンドルに結合される:但し、そのときに、AはOH、NH2、NR’1HまたはNR’1R’2からなる群から選択され、R’1およびR’2はC1-C4アルキルであり、R10およびR11の各々は、アリール、アリールオキシ、アルコキシ、それらのハロゲン化変種またはハロゲノでさらに置換されてもよいアルキルであり、同じでも異なってもよい。
【請求項13】
請求項12に記載のペプチドであって、x=2〜200であることを特徴とするペプチド。
【請求項14】
請求項12または13に記載のペプチドであって、o,x,qは別々に1〜100、好ましくは2〜50であり、またはxは2〜100であり、好ましくは、xは3〜50であるであるペプチド。
【請求項15】
請求項12〜14の何れか1項に記載のペプチドであって、q=0であることを特徴とするペプチド。
【請求項16】
請求項15に記載のペプチドであって、oは0〜50であり、xは2〜100、好ましくはxは2〜50であることを特徴とするペプチド。

【公表番号】特表2008−529969(P2008−529969A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538330(P2007−538330)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011476
【国際公開番号】WO2006/045603
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(398075600)ロンザ ア−ゲ− (58)
【Fターム(参考)】