説明

土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法及びチャンバ内の圧力管理方法

【課題】トンネルの土被り深さが1.0Dよりも小さい区間を補助工法を行うことなくシールド工法にて掘進可能な掘進方法を提供する。
【解決手段】土被り深さと地盤の単位体積重量との関係に基づいて切羽直上の鉛直土圧を算出し、この鉛直土圧Pよりもチャンバ5内が所定圧だけ大きい設定圧力P0となるように管理する。土圧計20a、20cにて測定した実際の鉛直土圧P1に基づいて排土スクリュー18の回転速度又はシールドジャッキ27の推進速度の少なくともいずれかを調整して、チャンバ5内の圧力を管理する。さらに、地盤沈下計14にて地盤の沈下又は隆起による変位量を測定し、この測定結果に基づいてチャンバ5内の圧力を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法及びチャンバ内の圧力管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部では地下構造物を構築する際に、交通混雑の激しい道路での工事をスムーズに行うとともに、周辺住民に与える工事の影響を軽減するために、シールド工法が採用されており、特に、トンネル建設時に多く採用されている。また、都市部の地上には十分な作業基地面積を確保することが難しいために、設備配置スペースの必要面積が大きい泥水式シールドに比べて設備配置スペースの必要面積が小さい土圧式シールドによる施工のニーズが高まっている。
【0003】
一般的に、シールド工法で掘削されるトンネルの最小土被り深さは、非特許文献1に示すように、1.0D〜1.5D(D:掘削外径)程度である。トンネルの土被り深さが1.0D〜1.5D以上の場合のトンネル前方の地山では、地盤の粘着性等の影響により、図8に示すように、切羽周辺のくさび状部分30の土塊がすべり面に沿ってトンネルに向かって動こうとしており(黒色矢印)、このとき切羽には土圧(白色矢印)が作用している。かかる場合には、土圧式シールド機のチャンバ内の圧力を土圧よりもやや大きくなるように管理して切羽を支持している。このチャンバ内の圧力は、隔壁の中心部付近に設置された土圧計の測定値を代表値として用い、この測定値に基づいて管理されている。
【0004】
また、トンネルの土被り深さが1.0Dより小さい場合においては、トンネルを掘削する前に薬注工法等の補助工法にて土被り部分を地盤改良し、トンネル掘削による地盤の変状を防止する方法が用いられている。
【非特許文献1】「トンネル標準示方書[シールド工法編]・同解説」1994年8月 18、183頁 土木学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
隔壁の中心部付近に設置した土圧計の測定値を代表値としてチャンバ内の圧力を管理する方法は、図9に示すように、切羽に作用する土圧の圧力分布とチャンバ内の圧力分布とを比較すると、切羽の上部及び切羽の下部で多少の圧力差が生じる場合がある。トンネルの土被り深さが1.0D〜1.5D以上の場合においては、切羽に作用する土圧とチャンバ内の圧力とに多少の差異を有していても土被り深さが大きくてくさび状部分30の土塊の量が多い。このため、土の粘着性によりこの差異を吸収することができ、地盤の沈下や隆起は生じない。
【0006】
これに対して、トンネルの土被り深さが1.0Dよりも小さい場合は、図10に示すように、切羽直上の地山部分21の土塊が下方に向かって移動しようとしている。このとき前述したように切羽の上部で圧力差が生じていると、土被り深さが小さく、地山部分21の土塊の量が少ないために、土の粘着性の効果も小さくなり、この差異を吸収することができずに地山部分21が沈下してしまう可能性があるという問題点があった。
【0007】
また、トンネルの土被りが1.0Dより小さい場合に薬注工法等の補助工法を用いると地上作業が必要となるために、地上部分に作業用スペースを確保しなければならず、都市部ではこの作業用スペースの確保が困難であるという問題点があった。さらに、地上での作業を無くすためにシールド工法を採用しているにも関わらず、補助工法で地上作業を行うことは当初の目的に反するという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、トンネルの土被り深さが1.0Dよりも小さい区間を補助工法を行うことなくシールド工法にて掘進可能な掘進方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法は、カッターヘッドと隔壁との間に形成され、掘削した土砂に所定の圧力を与えて切羽を保持するためのチャンバを備えた土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法において、前記チャンバ内の圧力を切羽直上の鉛直土圧に対して略同一に又は所定圧だけ大きくなるように管理しつつ地盤内を掘進することを特徴とする(第1の発明)。
本発明による土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法によれば、小土被り区間を補助工法を用いることなく、土圧式シールド機にて掘進することが可能となる。また、掘進時にチャンバ内の圧力を切羽直上の鉛直土圧に対して略同一又は所定圧だけ大きくなるように管理することにより、地盤の沈下又は隆起を確実に防止することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記地盤に変位計を設置して地表面の変位量を測定し、前記測定した結果に基づいて前記チャンバ内の圧力を調整することを特徴とする。
本発明による土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法によれば、変位計にて地表面の変位量を測定し、この測定結果に基づいてチャンバ内の圧力を変位量が小さくなるように調整するので地表面の沈下又は隆起を確実に防止することが可能となる。
【0011】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記チャンバ内の圧力を前記隔壁の最上部に設置された圧力計で測定した結果に基づいて管理することを特徴とする。
本発明による土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法によれば、隔壁の最上部に設置した圧力計で切羽直上の鉛直土圧を測定して、チャンバ内の圧力を鉛直土圧に対して略同一に又は所定圧だけ大きくなるように管理するために、切羽直上の地盤の沈下又は隆起を確実に防止することが可能となる。
【0012】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、前記チャンバ内の圧力を前記土圧式シールド機の排土速度又は推進速度の少なくともいずれかを制御することにより調整することを特徴とする。
本発明による土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法によれば、土圧式シールド機の排土速度又は推進速度の少なくともいずれかを制御することにより、容易にチャンバ内の圧力を調整することが可能となる。
【0013】
第5の発明は、第1の発明において、前記小土被り区間の土被り深さは、前記土圧式シールド機による掘削外径よりも小さいことを特徴とする。
本発明による土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法によれば、土被り深さが土圧式シールド機による掘削外径(以下、1.0D(D:掘削外径)とする)よりも小さい深度にトンネルを掘削することができるために、トンネル掘進作業時の作業効率の向上、アプローチ部の施工期間の短縮、構築後のトンネル維持管理の容易さ等の効果を得ることが可能となる。
【0014】
第6の発明の土圧式シールド機によるチャンバ内の圧力管理方法は、土圧式シールド機にてトンネルを掘削する際に、カッターヘッドと隔壁との間に形成されるチャンバ内の土砂に所定の圧力を与えて切羽を保持するためのチャンバ内の圧力管理方法において、圧力計にて切羽直上の鉛直土圧を測定し、前記土圧式シールド機の排土速度又は推進速度の少なくともいずれかを制御してチャンバ内の圧力を前記鉛直土圧に対して略同一に又は所定圧だけ大きくなるように管理することを特徴とする。
【0015】
第7の発明は、第6の発明において、前記地盤に変位計を設置して地表面の変位量を測定し、前記測定した結果に基づいて前記チャンバ内の圧力を調整することを特徴する。
【0016】
第8の発明は、第6又は7の発明において、前記チャンバ内の圧力は、隔壁の最上部に設置された圧力計で測定した結果に基づいて管理されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上、説明したように、本発明の土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法によれば、トンネルの土被り深さが1.0Dよりも小さい小土被り区間を土圧式シールド機にて補助工法なしで掘進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法は、小土被りのトンネルを構築する際に地表面の変状を防止するものであり、以下、本発明に係る小土被り区間の掘進方法の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る矩形断面形状を有する土圧式シールド機の正面図であり、図2は、土圧式シールド機の側断面図である。なお、本発明の説明に不要と思われる部分の図示は省略している。図1及び図2に示すように、土圧式シールド機1は、地中を掘削するためのカッターヘッド8を備えた機械本体部2と、機械本体部2を推進させるための動力部25と、機械本体部2と動力部25とを連結する連結手段4とから構成されている。
【0020】
機械本体部2は、矩形筒状の前胴体3と、前胴体3内の幅方向に並列して配列されるとともに、各々が独立して前胴体3から推進可能、かつ各々が独立して駆動可能な2台の矩形状の主シールド6と、幅方向の両端の主シールド6と前胴体3との間に設けられるとともに、各々が独立して前胴体3から推進可能、かつ各々が独立して駆動可能な、複数の主シールド6よりも小幅の矩形状の側部シールド15とを備えている。
【0021】
前胴体3の内部は、各主シールド6及び各側部シールド15が前後移動自在に設けられ、前胴体3からその前方に向かって推進可能に構成されている。各主シールド6及び各側部シールド15は、独立して前胴体3から推進可能に構成されている。
【0022】
各主シールド6は、前胴体3内に前後移動自在に設けられる矩形状のシールド本体7と、シールド本体7を進退させるスライドジャッキ10と、シールド本体7の前面側に主シールド6の矩形領域を掘削するカッターヘッド8と、シールド本体7内に設けられる駆動源11と、駆動源11の駆動力をカッターヘッド8に伝達する動力伝達機構12と、チャンバ5内の圧力を測定するための土圧計20とを備える。
【0023】
土圧計20を各主シールド6の隔壁13に5台(20a〜20e)ずつ設置し、そのうちの2台(20a、20c)を隔壁13の最上部に設置する。土被り深さが1.0Dより小さい場合のトンネル前方の地山では、前述したように(図10)、切羽直上の地山部分21の土塊が落下するように動こうとしており、切羽直上に鉛直土圧が作用しているために、この鉛直土圧をできるだけ正確に測定することを目的として土圧計20a、20cを隔壁13の最上部に設置した。そして、チャンバ5内の圧力を土圧計20a、20cにて測定した鉛直土圧の値より所定圧だけ大きくなるように管理する(管理方法は後述する)ことにより地山部分21の落下を防止する。なお、本実施形態においては、隔壁13に5台設置し、そのうちの2台を隔壁13の最上部に設置する方法について説明したが、台数、設置位置はこれに限定されるものではなく、設計等に基づいて適宜変更する。
【0024】
各側部シールド15は、前胴体3内にスライド自在に設けられる矩形状のシールド本体16と、シールド本体16を進退させるスライドジャッキ(図示せず)と、シールド本体16の前面側に回転可能に設けられるカッター17と、シールド本体16に設けられる駆動源(図示せず)と、駆動源の駆動力をカッター17に伝達する動力伝達機構(図示せず)とを備えており、各側部シールド15は、独立して駆動可能に構成されている。
【0025】
動力部25は、機械本体部2の前胴体3の後部に連結手段4を介して連結される矩形筒状の後胴体26と、後胴体26内に環状に設けられて土圧式シールド機1を推進させる複数のシールドジャッキ27とを備えている。
【0026】
後胴体26はセグメント28を組み立てるためのエレクタ29を備えており、後胴体26内でエレクタ29により順次セグメント28が組み立てられ、セグメント28による環状の内壁が構築される。セグメント28を構築した後に土圧式シールド機1が推進してトンネル19を構築する。
【0027】
上記のように構成された土圧式シールド機1にて小土被りのトンネル19を掘削する方法について以下に説明する。
【0028】
図3は、チャンバ5内の圧力を管理するためのフロー図である。図3のS10において、土圧式シールド機1にて地盤を掘削する際のチャンバ5内の圧力を設定する。チャンバ5内の圧力は、土被り深さと地盤の単位体積重量との関係に基づいて切羽直上の鉛直土圧Pを算出し、この鉛直土圧Pよりも所定圧だけ大きい所定の設定圧力P0となるように設定する。なお、上記所定圧は、土被り深さ、地質等により現場毎に異なるもので、設計等に基づいて適宜決定する。また、本実施形態においては、チャンバ5内の設定圧力P0を鉛直土圧Pよりも所定圧だけ大きくする設定としたが、これに限定されるものではなく、チャンバ5内の設定圧力P0を鉛直土圧Pと略同一となるように設定してもよい。
【0029】
図4は、トンネル19を掘削する際に主シールド6を推進させた状態を示す側断面図である。
【0030】
図4に示すように、トンネル19を掘削する際は、土圧式シールド機1の左側に配置された主シールド6aのカッターヘッド8を回転駆動させて地盤を掘削するとともに、スライドジャッキ10を伸張させて主シールド6aを前胴体3から推進させる。カッターヘッド8で掘削された土砂は、チャンバ5内で撹拌され、必要に応じて掘削土砂の塑性流動化を促進するための作泥剤が注入される。このようにして塑性流動化した土砂は、排土スクリュー18によりシールド本体7の後方へ送られる。
また、トンネル19を掘削する際は、変位計である地盤沈下計14を道路に複数台設置して道路表面の変位量を常時監視しつつ、主シールド6aを推進させる。
【0031】
そして、図3のS12において、主シールド6aで掘進するとともに、土圧計20a、20cにて実際の鉛直土圧P1を測定する。この測定結果に基づいて、以下に示す方法にてチャンバ5内の圧力を管理する。
【0032】
まず、図3のS14において、排土スクリュー18の回転速度を設定する。具体的には、土圧計20a、20cで測定した結果が設定圧力P0よりも高い場合には、排土スクリュー18の回転を高速にし、排土量を増加させてチャンバ5内の圧力を低下させる。一方、土圧計20a、20cで測定した結果が設定圧力P0よりも低い場合には、排土スクリュー18の回転を低速にし、排土量を低下させてチャンバ5内の圧力を増加させる。
【0033】
次に、図3のS16において、スライドジャッキ10の推進速度を設定する。S14で排土スクリュー18の回転速度を調整しても土圧計20a、20cで測定した結果が設定圧力P0にならない場合にスライドジャッキ10の推進速度を調整してチャンバ5内の圧力を調整する。具体的には、土圧計20a、20cで測定した結果が設定圧力P0よりも高い場合には、スライドジャッキ10の推進速度を低速にし、主シールド6aの推進速度を低下してチャンバ5内の圧力を低下させる。一方、土圧計20a、20cで測定した結果が設定圧力P0よりも低い場合には、スライドジャッキ10の推進速度を高速にし、主シールド6aの推進速度を増加してチャンバ5内の圧力を増加させる。
【0034】
次に、図3のS18において、地盤沈下計14にて地表面の沈下又は隆起による変位量を測定する。地盤沈下計14の測定結果が予め設計等で決められた所定の範囲内であれば、図3のS20において、設定圧力P0のままで土圧計20a、20cによる測定結果を常時監視しつつ、主シールド6aにて掘進する。一方、地盤沈下計14の測定結果が所定の範囲外であれば、図3のS30において、チャンバ5内の設定圧力P0を変更する。具体的には、地表面が沈下している場合には、設定圧力P0がやや大きくなるように、一方、地表面が隆起している場合には、設定圧力P0がやや小さくなるように変更する。
【0035】
そして、主シールド6aを推進するとともに、上述したように排土スクリュー18の回転速度及びスライドジャッキ10の推進速度を繰り返し調整してチャンバ5内の圧力を管理する。
【0036】
次に、上述した左側の主シールド6aの作動方法と同様に、土圧式シールド機1の右側に配置された主シールド6bのカッターヘッド8を回転駆動させ、スライドジャッキ10を伸張させることによりその主シールド6bを前胴体3から推進させ、その主シールド6bの前方に位置する地盤をカッターヘッド8を回転させて掘削する。右側の主シールド6bを推進させるとともに、地盤沈下計14及び土圧計20a、20cにて、上記と同様に、切羽直上の地山部分21が沈下又は隆起しないようにチャンバ5内の圧力を管理する。
【0037】
そして、両主シールド6a、6bを突出させた状態でシールドジャッキ27にて後方のセグメント28に反力を取り、シールドジャッキ27を伸張させることにより前胴体3と後胴体26とからなる土圧式シールド機1を推進させる。土圧式シールド機1本体が推進した後に、シールドジャッキ27を収縮し、胴体26内にて新たなセグメント28を組み立てる。
【0038】
上述したように、主シールド6a、6bを掘進させる際は、地盤沈下計14にて地表面の変位量を測定しつつ、排土スクリュー18の回転速度及びスライドジャッキ10の推進速度を繰り返し調整してチャンバ5内の圧力を管理する方法にてトンネル19を構築する。
【0039】
次に、本発明による小土被り区間の掘進方法にて実際の道路をアンダーパスするトンネル19を掘削した際の道路表面の変位量を測定した結果を示す。
【0040】
本測定は、まず、土圧式シールド機1を地上部から発進させて、所定の掘削深度(2.2m=1.0D)に達するまでの下り勾配を有する下りアプローチ区間を構築し、次に、下りアプローチ区間の終点部から、道路をアンダーパスするトンネル区間を構築し、そして、トンネル区間の終点部から地上部に達するまでの上り勾配を有する上りアプローチ区間を構築して、土圧式シールド機1を地上に到達させる掘進工法を用いて行った。
【0041】
図5は、土圧式シールド機1が推進したトンネル区間の土被り深さを示す図であり、横軸は土圧式シールド機1の発進地点から切羽までの距離を示す切羽位置(m)を、縦軸は土被り深さ(m)を示す。
【0042】
図5に示すように、トンネル区間はすべて土被り深さが1.0D以下である。なお、地上部及び下りアプローチ区間(切羽位置0m〜23m)、上りアプローチ区間(切羽位置72m〜102m)は土被りがないために、図示及び説明を省略する。
【0043】
図6は、土被り深さと地盤の単位体積重量により算出される鉛直土圧Pと、掘進時に土圧計20a、20bにて測定された鉛直土圧P1との関係を示す図であり、横軸は切羽位置(m)を、縦軸は土圧(KPa)を示す。なお、鉛直土圧P1は、測定対象区間である切羽位置30m〜70mまでの値のみを示している。また、本実施形態においては、設定圧力P0は鉛直土圧Pとほぼ同等になるように設定した。ただし、設定圧力P0は、地盤が隆起しない程度に鉛直土圧Pよりも所定圧だけ大きくなるように設定してもよい。かかる場合の所定圧は各現場の地質条件等により異なるので適宜設定する。
【0044】
図6に示すように、実際の掘進時の鉛直土圧P1は、土被り深さが深くなるとともに大きくなり、また、土被り深さが浅くなると小さくなり、概ね鉛直土圧Pの変化と同様の傾向を示した。また、実際の掘進時の鉛直土圧P1は、多少の増減の幅を有するものの鉛直土圧Pと同程度の圧力値を示した。
【0045】
図7は、土圧式シールド機1の推進にともなうトンネル区間の地表面の変位量を示す図であり、横軸は、切羽位置(m)を、縦軸は、変位量(mm)を示す。
【0046】
図7に示すように、土被りが1.0Dよりも小さい区間で地表面の変位量は、概ねマイナス5mmからプラス5mmの範囲内であり、道路上に沈下、隆起は生じなかった。また、38m及び56m地点では沈下量が10mm程度、50m及び65m地点では隆起量が10mm程度となったときもあったが、車、人等の走行に問題が生じるものではなかった。したがって、本発明の土圧式シールド機1における掘進方法は、小土被りのトンネル19を構築する際に地表面の地盤変状を防止するものであることが確認された。
【0047】
以上説明した本実施形態における土圧式シールド機1における小土被り区間の掘進方法によれば、トンネル19の土被り深さが1.0Dよりも小さい小土被り区間を補助工法を用いることなく、土圧式シールド機1にて掘進することが可能となる。そして、掘進時に鉛直土圧P1が設定圧力P0となるようにチャンバ5内の圧力を管理することにより、地盤の沈下又は隆起を確実に防止することができる。
【0048】
また、地盤沈下計14にて地表面の変位量を常時測定し、この測定結果に基づいて変位量が小さくなるようにチャンバ5内の圧力を調整するために、地盤の沈下又は隆起を確実に防止することが可能となる。
【0049】
さらに、土圧式シールド機1の排土速度又は推進速度の少なくともいずれかを制御してチャンバ5内の圧力を調整するために、チャンバ5内の圧力を確実に管理することが可能となる。
【0050】
また、土被り深さが1.0Dよりも小さい深度にトンネル19を掘削することができるために、トンネル掘進作業時の作業効率の向上、アプローチ部の施工期間の短縮、構築後のトンネル維持管理の容易さ等の効果を得ることが可能となる。
【0051】
また、隔壁13の最上部に設置した土圧計20a、20cで切羽直上の鉛直土圧P1を測定するために正確に切羽直上の鉛直土圧P1を測定することが可能となる。そして、この鉛直土圧P1を設定圧力P0となるようにチャンバ5内の圧力を管理するために、切羽直上の地盤の沈下又は隆起を確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る矩形断面形状を有する土圧式シールド機の正面図である。
【図2】土圧式シールド機の側断面図である。
【図3】チャンバ内の圧力を管理するためのフロー図である。
【図4】トンネルを掘削する際に主シールドを推進させた状態を示す側断面図である。
【図5】土圧式シールド機が推進したトンネル区間の土被り深さを示す図である。
【図6】土被り深さと地盤の単位体積重量により算出される鉛直土圧と、掘進時に土圧計にて測定された鉛直土圧との関係を示す図である。
【図7】土圧式シールド機の推進にともなうトンネル区間の地表面の変位量を示す図である。
【図8】トンネルの土被り深さが1.0D〜1.5D以上の場合において、切羽に作用する土圧を示す図である。
【図9】切羽に作用する土圧の圧力分布とチャンバ内の圧力分布とを示す図である。
【図10】トンネルの土被り深さが1.0Dよりも小さい場合において、切羽直上に作用する土圧を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 シールド機 2 機械本体部
3 前胴体 4 連結手段
5 チャンバ 6 主シールド
7 シールド本体 8 カッターヘッド
10 スライドジャッキ 11 駆動源
12 動力伝達機構 13 隔壁
14 地盤沈下計 15 側部シールド
16 シールド本体 17 カッター
18 排土スクリュー 19 トンネル
20 土圧計 21 地山部分
25 動力部 26 後胴体
27 シールドジャッキ 28 セグメント
29 エレクタ 30 三角形部分
P 鉛直圧力
P0 設定圧力
P1 実測された鉛直圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッターヘッドと隔壁との間に形成され、掘削した土砂に所定の圧力を与えて切羽を保持するためのチャンバを備えた土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法において、
前記チャンバ内の圧力を切羽直上の鉛直土圧に対して略同一に又は所定圧だけ大きくなるように管理しつつ地盤内を掘進することを特徴とする土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法。
【請求項2】
前記地盤に変位計を設置して地表面の変位量を測定し、
前記測定した結果に基づいて前記チャンバ内の圧力を調整することを特徴とする請求項1に記載の土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法。
【請求項3】
前記チャンバ内の圧力を前記隔壁の最上部に設置された圧力計で測定した結果に基づいて管理することを特徴とする請求項1又は2に記載の土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法。
【請求項4】
前記チャンバ内の圧力を前記土圧式シールド機の排土速度又は推進速度の少なくともいずれかを制御することにより調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法。
【請求項5】
前記小土被り区間の土被り深さは、前記土圧式シールド機による掘削外径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の土圧式シールド機による小土被り区間の掘進方法。
【請求項6】
土圧式シールド機にてトンネルを掘削する際に、カッターヘッドと隔壁との間に形成されるチャンバ内の土砂に所定の圧力を与えて切羽を保持するためのチャンバ内の圧力管理方法において、
圧力計にて切羽直上の鉛直土圧を測定し、
前記土圧式シールド機の排土速度又は推進速度の少なくともいずれかを制御してチャンバ内の圧力を前記鉛直土圧に対して略同一に又は所定圧だけ大きくなるように管理することを特徴とする土圧式シールド機によるチャンバ内の圧力管理方法。
【請求項7】
前記地盤に変位計を設置して地表面の変位量を測定し、
前記測定した結果に基づいて前記チャンバ内の圧力を調整することを特徴する請求項6に記載の土圧式シールド機によるチャンバ内の圧力管理方法。
【請求項8】
前記チャンバ内の圧力は、隔壁の最上部に設置された圧力計で測定した結果に基づいて管理されることを特徴とする請求項6又は7に記載の土圧式シールド機によるチャンバ内の圧力管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−31703(P2008−31703A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205174(P2006−205174)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】