説明

土圧管理装置

【課題】カッターヘッド背面の攪拌翼の影響を排除可能な土圧管理装置を提供すること。
【解決手段】チャンバ内の土圧を計測するための複数の土圧センサ1,1,…、攪拌翼12の位置を検出するための位置センサ2、総ての土圧センサ1,1,…で同時刻に取得された土圧データの相加平均Atを算出する第一平均演算手段3、攪拌翼12の近傍に位置する土圧センサ1以外の土圧センサ1で取得された土圧データの相加平均Btを算出する第二平均演算手段5、相加平均Atが管理下限値以上、管理上限値以下であるか否かを判定する第一土圧範囲判定手段6、表示用土圧データを作成する表示用土圧データ作成手段8を備え、表示用土圧データ作成手段8は、第一土圧範囲判定手段6で肯定判定がなされた場合には相加平均Atに基づいて表示用土圧データを作成し、第一土圧範囲判定手段6で否定判定がなされた場合には相加平均Btに基づいて表示用土圧データを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドマシン用の土圧管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型土圧式(泥土圧式を含む)のシールドマシンを掘進させる際には、チャンバ内の土圧(泥土圧を含む)を計測し、得られた土圧データに基づいて掘削管理を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−255117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切羽の安定状態を的確に判断するためには、土圧変動を的確に把握する必要がある。切羽の安定状態に影響を及ぼすような土圧変動を的確に把握することができれば、トンネル掘削作業の安全性が高まることになる。
【0005】
本発明は、チャンバ内の土圧を管理するための土圧管理装置であって、切羽の安定状態に影響を及ぼすような土圧変動を的確に把握することが可能な土圧管理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
チャンバ内の土圧変動の原因を本願発明者が追求したところ、カッターヘッド背面の攪拌翼(練混ぜ翼)がチャンバ内の掘削土(加泥材が混練された掘削土を含む)を押し退けながら進行(旋回)することに伴い、攪拌翼の進行方向前側の領域では土圧が上昇し、攪拌翼の進行方向後側の領域では土圧が下降する傾向にあることが判明した。本発明は、かかる知見に基づいて創案されたものである。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、カッターヘッドの背面に攪拌翼を備えたシールドマシンに適用される土圧管理装置であって、チャンバ内の土圧を計測するための複数の土圧センサと、前記攪拌翼の位置を検出するための位置センサと、総ての前記土圧センサで同時刻に取得された土圧データの相加平均を算出する第一平均演算手段と、前記攪拌翼の近傍に位置する前記土圧センサ以外の前記土圧センサで同時刻に取得された土圧データの相加平均を算出する第二平均演算手段と、前記第一平均演算手段で算出された相加平均が管理下限値以上、管理上限値以下であるか否かを判定する第一土圧範囲判定手段と、表示手段に表示すべき表示用土圧データを作成する表示用土圧データ作成手段とを備え、前記表示用土圧データ作成手段は、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果が肯定判定となった場合には、前記第一平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成し、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果が否定判定となった場合には、前記第二平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成する、ことを特徴とする。
【0008】
要するに、本発明は、総ての土圧センサで同時刻に取得された土圧データの相加平均(以下「全データの相加平均」という。)が、(管理下限値)≦(全データの相加平均)≦(管理上限値)、という関係を満たしている場合には、全データの相加平均に基づいて表示用土圧データを作成し、(全データの相加平均)<(管理下限値)、あるいは、(管理上限値)<(全データの相加平均)である場合には、攪拌翼の近傍に位置する土圧センサ以外の土圧センサで同時刻に取得された土圧データの相加平均(以下「近傍データ除外後の相加平均」という。)に基づいて表示用土圧データを作成する、というものである。
【0009】
「全データの相加平均」を使用すれば、特定の土圧センサが攪拌翼の影響を受けていたとしても、その影響が緩和されるようになるので、特定の土圧センサから出力される一時的な異常値や誤差に惑わされることなく、掘削管理を行うことが可能となる。また、全データの相加平均が管理基準を外れた場合には、「近傍データ除外後の相加平均」が使用されるところ、「近傍データ除外後の相加平均」には、攪拌翼の近傍に位置する土圧センサ(=攪拌翼の影響を受ける可能性のある土圧センサ)で取得された土圧データが含まれていないので、攪拌翼の影響に惑わされることなく掘削管理を行うことが可能となる。
【0010】
このように、本発明によれば、切羽の安定状態に影響を及ぼすような土圧変動などを容易に把握することが可能となり、ひいては、精度の高い掘削管理を行うことが可能となる。なお、攪拌翼の旋回に起因した土圧変動は、攪拌翼の旋回に伴って周期的かつ一時的に発生するものであり、切羽の安定状態とは関連していないから、攪拌翼の影響を受けた土圧データを排除しても、特段の問題は生じない。
【0011】
土圧データを取得する度に第一土圧範囲判定手段での判定処理を実行してもよいが、攪拌翼の影響による土圧変動は「周期的」かつ「一時的」となる筈であるから、「データ除外時間」を予め設定しておいてもよい。
すなわち、前記表示用土圧データ作成手段は、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果が否定判定となった場合には、否定判定となった時刻から予め設定したデータ除外時間が経過するまで、「近傍データ除外後の相加平均」に基づいて前記表示用土圧データを作成し、前記データ除外時間が経過した後は、「全データの相加平均」に基づいて前記表示用土圧データを作成する、というものであってもよい。
【0012】
なお、「近傍データ除外後の相加平均」が依然として管理基準から外れているケースは、攪拌翼以外の要因による土圧変動が想定されるケースであるので、かかる土圧変動が排除されないよう、全データの相加平均に基づいて表示用土圧データを作成することが好ましい。すなわち、「近傍データ除外後の相加平均」が前記管理下限値以上、前記管理上限値以下であるか否かを判定する第二土圧範囲判定手段を設けるとともに、前記第二土圧範囲判定手段の判定結果が否定判定となった場合には、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果に関わらず、「全データの相加平均」に基づいて前記表示用土圧データを作成する、という機能を前記表示用土圧データ作成手段に付加するとよい。
【0013】
前記表示用土圧データ作成手段に、一つの前記土圧センサで取得された土圧データを使用して前記表示用土圧データを作成する機能を付加してもよい。攪拌翼の旋回に起因した異常値は、「周期的」かつ「一時的」に出力されるのに対し、攪拌翼以外の原因による異常値は、継続的に出力されるケースが多いところ、一つの土圧センサから取得された土圧データを単独で表示すれば、異常値が継続しているか否かを把握することが可能となるので、攪拌翼以外の原因による異常値を的確に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チャンバ内の土圧を管理するにあたり、カッターヘッド背面の攪拌翼の影響を緩和あるいは排除することが可能となるので、切羽の安定状態に影響を及ぼすような土圧変動を的確に把握することができ、ひいては、トンネル掘削作業の安全性が高まるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る土圧管理装置のブロック図、(b)は土圧センサおよび位置センサの設置場所を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る土圧管理装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】(a)は相加平均の時刻歴(表示用土圧データ)を示すグラフ、(b)は一つの土圧センサで取得された土圧データの時刻歴(表示用土圧データ)を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態に係る土圧管理装置が適用されるシールドマシンの概略断面図、(b)は攪拌翼の影響範囲を説明するための拡大断面図である。
【図5】(a)および(b)は、攪拌翼と土圧センサとの位置関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るシールド用土圧管理装置は、密閉型泥土圧式のシールドマシン10(図4参照)の掘削管理に使用されるものである。
【0017】
シールドマシン10は、図4の(a)に示すように、カッターヘッド11、攪拌翼12,12,…、隔壁13、排土手段14、加泥材注入系統15などを備えている。カッターヘッド11で切削された掘削土は、加泥材注入口系統15から注入された加泥材とともにチャンバ(カッターヘッド11と隔壁13との間の空間)内に取り込まれ、攪拌翼12,12,…によって攪拌されつつ、排土手段14によってチャンバ内から排出される。攪拌翼12,12,…は、チャンバ内に取り込まれた掘削土の塑性流動化を促すとともに、掘削土の付着や堆積を防止する目的で配置されるものであり、カッターヘッド11の背面に取り付けられている。攪拌翼12の形状に制限はないが、本実施形態のものは円柱状である。
【0018】
図1の(b)に示すように、カッターヘッド11は、その回転軸から放射状に延出する複数本(本実施形態では四本)のカッタースポーク11a〜11dを具備している。カッタースポーク11a〜11dは、90度ピッチで十字状に配置されている。
【0019】
攪拌翼12,12,…は、カッターヘッド11の回転に伴って、カッターヘッド11の回転軸を中心にして旋回する。本実施形態では、1本のカッタースポークにつき内外二つの攪拌翼12,12が取り付けられている。
【0020】
内周側の攪拌翼12,12,…は、第一の移動ルートPに沿って旋回し、外周側の攪拌翼12,12,…は、第二の移動ルートQに沿って旋回する。移動ルートP,Qは、攪拌翼12の中心軸線の移動軌跡を隔壁13に投影したものであり、カッターヘッド11の回転軸を中心とした同心円となる。
【0021】
本実施形態の土圧管理装置は、シールドマシン10に装備される土圧センサ1,1,…および位置センサ2、コンピュータによって構成される第一平均演算手段3、位置判定手段4、第二平均演算手段5、第一土圧範囲判定手段6、第二土圧範囲判定手段7および表示用土圧データ作成手段8、ディスプレイによって構成される表示手段9を備えている。
【0022】
土圧センサ1は、チャンバ内の土圧を測定するためのセンサであり、図4の(a)に示すように、隔壁13に装着されている。土圧センサ1の受圧部は、隔壁13と面一となるように設けられていて、チャンバ内に露出している。本実施形態の土圧センサ1は、ひずみゲージ式の土圧センサであり、受圧部に作用した土圧に相関する電圧値を出力する。土圧センサ1から出力された電圧値(生データ)は、図示せぬ測定手段(図示略)において土圧値(土圧データ)に変換された後、図1の(a)に示すように、第一平均演算手段3、第二平均演算手段5および表示用土圧データ作成手段8において使用される。なお、測定手段は、土圧センサ1から出力された電圧値のアナログデータを所定のサンプリング時間Δtごとにサンプリングするとともに、サンプリングされた電圧値(デジタル化された電圧値)に校正係数を乗じることで、電圧値を土圧データに変換し、得られた土圧データを第一平均演算手段3、第二平均演算手段4および表示用土圧データ作成手段8に出力する。
【0023】
土圧センサ1の数に制限はないが、図1の(b)に示すように、本実施形態では八つである。土圧センサ1の設置位置にも制限はないが、本実施形態では、八つの土圧センサ1,1,…のうちの五つを移動ルートP,Qによって挟まれた円帯領域に設置し、残り三つを移動ルートPの外側に設置している。
【0024】
なお、以下の説明において、複数の土圧センサ1,1,…を区別する場合には、内周側の土圧センサ1,1,…に符号1a〜1eを付し、外周側の土圧センサ1,1,…に符号1f〜1hを付す。
【0025】
図1の(b)において、土圧センサ1a〜1eの近傍の移動ルートP上に描かれた実線の太線部分は、データ除外区間Ra〜Reを示す仮想線であり、土圧センサ1f〜1hの近傍の移動ルートQ上に描かれた実線の太線部分は、データ除外区間Rf〜Rhを示す仮想線である。
【0026】
データ除外区間Ra〜Rhは、いずれも、土圧センサ1の近傍に設定された仮想的な領域である。データ除外区間Ra〜Rhは、攪拌翼12の旋回に伴う土圧変動が及ぶ範囲(以下「影響範囲」という。)を考慮して設定する。すなわち、攪拌翼12は、チャンバ内の掘削土を押し退けながら旋回(進行)するので、攪拌翼12の進行方向前側の領域では土圧が上昇し、攪拌翼12の進行方向後側の領域では土圧が下降する傾向にあるが、このような土圧変動は、攪拌翼12の近傍で顕著に現れ、攪拌翼12から離れるに従って小さくなる。攪拌翼12の影響範囲は、攪拌翼12の形状や寸法によって変化するが、図4の(b)に示すように、攪拌翼12の最大外径部の先端から45度の角度で広がる円錐台状の範囲に及ぶと仮定とし、攪拌翼12の最大外径をD、最大外径部の先端と隔壁13との離隔距離をxとすると、隔壁13の位置においては、直径(D+2x)の円の内側が攪拌翼12の影響範囲となる。例えば、D=200mm、x=80mmである場合、隔壁13の位置においては、直径360mm(=1.8D)の円の内側が攪拌翼12の影響範囲となり、D=150mm、x=100mmである場合、隔壁13の位置においては、直径350mm(≒2.3D)の円の内側が攪拌翼12の影響範囲となる。
【0027】
上記の影響範囲を考慮し、本実施形態では、移動ルートPから土圧センサ1a〜1eの受圧部までの距離が(D/2+x)となる区間をデータ除外区間Ra〜Reとし、移動ルートQから土圧センサ1f〜1hの受圧部までの距離が(D/2+x)となる区間をデータ除外区間Rf〜Rhとしている。
【0028】
位置センサ2は、攪拌翼12の位置を検出するためのものである。位置センサ2で取得された位置データは、図1の(a)に示すように、位置判定手段4で使用される。位置センサ2の種類に制限はないが、本実施形態の位置センサ2は、アブソリュート型のロータリーエンコーダからなり、図1の(b)に示すように、カッタースポーク11a(以下「基準カッタースポーク11a」という。)の基準線Sからの回転角度θaを検出することができる。なお、本実施形態では、カッターヘッド11の回転軸とトンネル天端とを結ぶ線分を基準線Sとしている。
【0029】
図1の(a)に示す第一平均演算手段3、位置判定手段4、第二平均演算手段5、第一土圧範囲判定手段6、第二土圧範囲判定手段7および表示用土圧データ作成手段8は、コンピュータによって実現される。このコンピュータは、CPU(中央演算処理装置)や記憶装置(RAM、ROM、ハードディスクなど)のほか、土圧センサ1、位置センサ2および表示手段9との間でデータのやり取りを行うためのインターフェースなどを備えている。記憶装置には、コンピュータを第一平均演算手段3、位置判定手段4、第二平均演算手段5、第一土圧範囲判定手段6、第二土圧範囲判定手段7および表示用土圧データ作成手段8として機能させるためのプログラムが格納されており、記憶装置から読み出したプログラムをCPUで実行すると、コンピュータが第一平均演算手段3、位置判定手段4、第二平均演算手段5、第一土圧範囲判定手段6、第二土圧範囲判定手段7および表示用土圧データ作成手段8として機能するようになる。
【0030】
表示手段9は、表示用土圧データ作成手段8から出力された表示用土圧データを表示するディスプレイである。
【0031】
第一平均演算手段3、位置判定手段4、第二平均演算手段5、第一土圧範囲判定手段6、第二土圧範囲判定手段7および表示用土圧データ作成手段8の構成をより詳細に説明する。
【0032】
第一平均演算手段3は、総ての土圧センサ1,1,…で同時刻に取得された土圧データの相加平均(全データの相加平均)Atを算出する。すなわち、n個(本実施形態では、n=8)の土圧センサ1a〜1hで時刻tに取得された土圧データをda,t,db,t,…dh,tとすると、第一平均演算手段3は、式(A)により相加平均Atを算出する。相加平均Atは、第一土圧範囲判定手段6および表示用土圧データ作成手段8で使用される。
(A) At=(da,t+db,t+…+dh,t)/n
【0033】
位置判定手段4は、位置センサ2から出力された位置データに基づいて、土圧センサ1の近傍に攪拌翼12が位置しているか否かを判定する。
【0034】
なお、以下では、基準カッタースポーク11aに固定された攪拌翼12に符号12aを付す場合があり、また、他のカッタースポーク11b,11c,11dに固定された攪拌翼12に、それぞれ、符号12b,12c,12dを付す場合がある。
【0035】
位置判定手段4は、まず、位置センサ2から出力された位置データ(基準線Sに対する基準カッタースポーク11aの回転角度θa)を読み込むとともに、読み込んだ位置データに基づいて攪拌翼12aの位置(回転角度)を算出する。攪拌翼12aの回転角度は、本実施形態では基準カッタースポーク11aの回転角度θaと同じである。なお、他の攪拌翼12b,12c,12dの回転角度θb,θc,θdは、(ア)〜(ウ)により算出すればよい。
(ア) θb=θa+90度 (0≦θa<270度の場合)
θb=θa−270度 (270度≦θa<360度の場合)
(イ) θc=θa+180度 (0≦θa<180度の場合)
θc=θa−180度 (180度≦θa<360度の場合)
(ウ) θd=θa+270度 (0≦θa<90度の場合)
θd=θa−90度 (90度≦θa<360度の場合)
【0036】
基準カッタースポーク11aの回転角度θaが得られると、位置判定手段4は、土圧センサ1の近傍に攪拌翼12が位置しているか否かを判定する処理を行う。位置判定手段4は、判定結果が肯定判定となった場合には、肯定判定がなされたことを示す「肯定判定情報」を生成する(例えば、判別フラグを「1」に設定する)とともに、肯定判定がなされたときに土圧センサ1で取得された土圧データに対して肯定判定情報を付与する処理を実行する。また、位置判定手段4は、判定結果が否定判定となった場合には、否定判定がなされたことを示す否定判定情報を生成する(例えば、判別フラグを「0」に設定する)とともに、否定判定がなされたときに土圧センサ1で取得された土圧データに対して否定判定情報を付与する処理を実行する。
【0037】
例えば、データ除外区間Raの始点が基準線Sに対して角度αaだけ回転した位置に設定されており、データ除外区間Raの終点が基準線Sに対して角度βa(>αa)だけ回転した位置に設定されている場合であれば、位置判定手段4は、(1)〜(4)に示す条件のいずれか一つが成立したときに、土圧センサ1aの近傍に攪拌翼12が位置していることを示す肯定判定情報を生成し、土圧センサ1aで取得された土圧データに対して肯定判定情報を付与する(例えば、土圧センサ1aで取得された土圧データに判別フラグ「1」を関連付ける)。
(1) αa<θa<βa
(2) αa+90度<θa<βa+90度
(3) αa+180度<θa<βa+180度
(4) αa+270度<θa<βa+270度
【0038】
また、位置判定手段4は、(1)〜(4)に示す条件がいずれも成立しないときには、土圧センサ1aの近傍に攪拌翼12が位置していないことを示す否定判定情報を生成し、土圧センサ1aで取得された土圧データに対して否定判定情報を付与する(例えば、土圧センサ1aで取得された土圧データに判別フラグ「0」を関連付ける)。
【0039】
なお、(1)の条件が成立したときには、基準カッタースポーク11aが第一のデータ除外区間Raに位置することになるが、(2)〜(4)の条件が成立したときには、カッタースポーク11b〜11dが第一のデータ除外区間Raに位置することになる。
【0040】
位置判定手段4は、土圧センサ1b〜1h(データ除外区間Rb〜Rh)に対しても、上記と同様の手法により、土圧センサ1b〜1hの近傍に攪拌翼12が位置しているか否かを判定する処理を実行する。
【0041】
第二平均演算手段5は、攪拌翼12の近傍に位置する土圧センサ1以外の土圧センサ1で同時刻(時刻t)に取得された土圧データの相加平均(近傍データ除外後の相加平均)Btを算出する。
【0042】
本実施形態の第二平均演算手段5は、土圧センサ1a〜1hによって取得された土圧データ群のうち、位置判定手段4の判定結果が肯定判定であるときに取得された土圧データ(すなわち、判別フラグが「1」となっている土圧データ)を除外し、位置判定手段4の判定結果が否定判定であるときに取得された土圧データ(すなわち、判別フラグが「0」となっている土圧データ)を使用して、近傍データ除外後の相加平均Btを算出する。より具体的に説明すると、例えば、図5の(a)に示す状態においては、土圧センサ1b,1dで取得された土圧データdb,t、dd,tに肯定判定情報(判別フラグ「1」)が付与されるので、第二平均演算手段5は、土圧センサ1b,1d以外の土圧センサ1a,1c,1e〜1hで取得された土圧データda,t,dc,t,de,t〜dh,tの相加平均Btを算出する。また、例えば、図5の(b)に示す状態においては、土圧センサ1b,1d,1e,1fで取得された土圧データdb,t,dd,t,de,t,df,tに肯定判定情報(判別フラグ「1」)が付与されるので、第二平均演算手段5は、土圧センサ1b,1d,1e,1f以外の土圧センサ1a,1c,1g,1hで取得された土圧データda,t,dc,t,dg,t,dh,tの相加平均Btを算出する。
【0043】
図1の(a)に示す第一土圧範囲判定手段6は、全データの相加平均Atが管理下限値Dmin以上、管理上限値Dmax以下であるか否かを判定する。
【0044】
第一土圧範囲判定手段6は、まず、全データの相加平均Atを読み込むとともに、事前に設定した管理下限値Dminおよび管理上限値Dmaxを記憶手段(図示略)から読み込み、Dmin≦At≦Dmaxを満足するか否かを判定する処理を行う。第一土圧範囲判定手段6は、判定結果が否定判定となった場合(すなわち、相加平均At<管理下限値Dmin、あるいは、管理上限値Dmax<相加平均Atである場合)には、管理フラグFを「1」に設定する。
【0045】
第二土圧範囲判定手段7は、近傍データ除外後の相加平均Btが管理下限値Dmin以上、管理上限値Dmax以下であるか否かを判定する。
【0046】
第二土圧範囲判定手段7は、まず、近傍データ除外後の相加平均Btを読み込むとともに、管理下限値Dminおよび管理上限値Dmaxを記憶手段(図示略)から読み込み、Dmin≦Bt≦Dmaxを満足するか否かを判定する処理を行う。本実施形態の第二土圧範囲判定手段7は、管理フラグFが「1」である場合に前記処理を行い、判定結果が否定判定となった場合(すなわち、相加平均Bt<管理下限値Dmin、あるいは、管理上限値Dmax<相加平均Btである場合)には、管理フラグFを「0」に戻す処理を行う。
【0047】
表示用土圧データ作成手段8は、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が肯定判定であった場合には、全データの相加平均Atに基づいて表示用土圧データを作成し、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定であった場合には、原則として、近傍データ除外後の相加平均Btに基づいて表示用土圧データを作成する。
【0048】
表示用土圧データ作成手段8は、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定となった場合(管理フラグFが「1」の場合)には、否定判定となった時刻から予め設定したデータ除外時間T(>サンプリング時間Δt)が経過するまで、近傍データ除外後の相加平均Btに基づいて表示用土圧データを作成し、データ除外時間Tが経過した後は、全データの相加平均Atに基づいて表示用土圧データを作成する。
【0049】
また、表示用土圧データ作成手段8は、データ除外時間Tが経過するまでに第二土圧範囲判定手段7の判定結果が否定判定となった場合には、第一土圧範囲判定手段6の判定結果に関わらず、全データの相加平均Atに基づいて表示用土圧データを作成し、管理フラグFを「0」に戻す処理を行う。
【0050】
なお、データ除外時間Tは、カッターヘッド11の回転速度、カッターヘッド11の回転軸から攪拌翼12までの距離、攪拌翼12の影響範囲の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。例えば、カッターヘッド11の回転速度が「0.7〜1回転/分」である場合には、カッターヘッド11は1秒間に約4〜6度回転し、カッターヘッド11の回転軸から1.5m離れた攪拌翼12の移動距離は、1秒間に約100〜160mmとなり、5.0m離れた攪拌翼12の移動距離は、1秒間に約350〜520mmとなるので、データ除外時間Tは、1〜2秒程度に設定すればよい。
【0051】
本実施形態の表示用土圧データ作成手段8は、前記した機能に加えて、一つの土圧センサ1(本実施形態では土圧センサ1a)で取得された土圧データを使用して表示用土圧データを作成する機能を具備している。
【0052】
ここで、チャンバ内の平均土圧の時刻歴データを表示手段9に表示させる場合を例にして、土圧管理装置の動作を説明する。なお、図2のフローチャートは、土圧データをサンプリングする度に繰り返し実行する。また、管理フラグFは「0」に設定されているものとする。
【0053】
図2に示すように、土圧管理装置は、まず、ステップ101〜ステップ103を順次実行する。
【0054】
ステップ101では、土圧センサ1a〜1hを使用して時刻tにおける土圧データda,t,db,t,…dh,tを取得するとともに、位置センサ2を使用して時刻tにおける攪拌翼12(カッタースポーク11a)の位置データを取得する。
【0055】
ステップ102では、第一平均演算手段3において、時刻tに取得した全土圧データの相加平均Atを算出するとともに、第二平均演算手段5において、近傍データ除外後の相加平均Btを算出する。
【0056】
ステップ103では、管理フラグFが「0」であるか否かを判定する。管理フラグFが「0」である場合にはステップ104に進み、管理フラグFが「1」である場合にはステップ108に進む。
【0057】
ステップ104に進んだ場合には、第一土圧範囲判定手段6において、相加平均Atが管理下限値Dmin以上、管理上限値Dmax以下であるか否かを判定する。肯定判定(Dmin≦At≦Dmax)である場合には、管理フラグFを「0」に設定した後(ステップ105)、ステップ106に進み、否定判定(At<Dmin、Dmax<At)である場合には、管理フラグFを「1」に設定した後(ステップ107)、ステップ108に進む。
【0058】
ステップ106に進んだ場合には、表示用土圧データ作成手段8において、相加平均Atを表示用土圧データCtに設定する。
【0059】
ステップ108に進んだ場合には、第二土圧範囲判定手段7において、相加平均Btが管理下限値Dmin以上、管理上限値Dmax以下であるか否かを判定する。肯定判定(Dmin≦Bt≦Dmax)である場合にはステップ109に進み、否定判定(Bt<Dmin、Dmax<Bt)である場合には、管理フラグFを「0」に戻した後(ステップ111)、ステップ106に進む。
【0060】
ステップ109に進んだ場合には、表示用土圧データ作成手段8において、ステップ104で否定判定となった時刻(図3の(a)においては時刻t2)からの時間がデータ除外時間T内であるか否かを判定する。肯定判定である場合にはステップ110に進み、否定判定である場合には、管理フラグFを「0」に戻した後(ステップ112)、ステップ106に進む。
【0061】
ステップ110に進んだ場合には、表示用土圧データ作成手段8において、相加平均Btを表示用土圧データCtに設定する。
【0062】
図2のフローをサンプリング時間Δtごとに繰り返し、時刻を横軸として表示用土圧データC0,CΔt,…,Ct-Δt,Ct,Ct+Δt,…を連ねると、図3の(a)に示すような時刻歴データが表示手段9に表示されるようになる。
【0063】
すなわち、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が肯定判定となった時間帯(図3の(a)において時刻0〜t1,t4〜t5)においては、全データの相加平均Atが表示されるようになり、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定となり且つ第二土圧範囲判定手段7の判定結果が肯定判定となった時間帯(時刻t2からデータ除外時間Tが経過するまで(図3の(a)において時刻t2〜t3))は、近傍データ除外後の相加平均Btが表示されるようになる。なお、図3の(a)においては、データの切り替え部分が分かるよう、折れ線グラフの一部(時刻t1〜t2、t3〜t4、t5〜t6、t7〜t8)を不連続としているが、連続するように加工しても勿論差し支えない。
【0064】
「全データの相加平均At」を表示すれば、特定の土圧センサ1が攪拌翼12の影響を受けていたとしても、その影響が緩和されるようになるので、特定の土圧センサ1から出力される一時的な異常値に惑わされることなく、掘削管理を行うことが可能となる。また、「近傍データ除外後の相加平均Bt」には、攪拌翼12の近傍に位置する土圧センサ1で取得された土圧データが含まれていないので、攪拌翼12の影響に惑わされることなく掘削管理を行うことが可能となる。
【0065】
なお、時刻t6において、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定(ステップ104においてNo)となり、相加平均Btが表示されるようになるが、時刻t7以降は、第二土圧範囲判定手段7の判定結果が否定判定(ステップ108においてNo)となる結果、時刻t6からデータ除外時間Tが経過する前であっても、相加平均Atが表示されるようになる。
【0066】
図2のフローチャートには示していないが、表示用土圧データ作成手段8は、土圧センサ1aで取得された土圧データda,tを使用して表示用土圧データを作成する。すなわち、図3の(b)に示すように、表示手段9には、土圧センサ1aで取得された土圧データda,tの時刻歴が表示されるようになる。
【0067】
以上説明した本実施形態に係る土圧管理装置によれば、切羽の安定状態に影響を及ぼすような土圧変動などを容易に把握することが可能となり、ひいては、精度の高い掘削管理を行うことが可能となる。
【0068】
なお、「全データの相加平均At」に加えて「近傍データ除外後の相加平均Bt」が管理基準から外れているケース(図3の(a)においては時刻t7以降)は、攪拌翼12以外の要因による土圧変動が想定されるケースであるところ、本実施形態に係る土圧管理装置によれば、攪拌翼12以外の要因による土圧変動が想定されるケースとなったときに「全データの相加平均At」が表示されるようになるので、攪拌翼12以外の要因による土圧変動を的確に把握することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態に係る土圧管理装置によれば、相加平均の時刻歴に加えて、一つの土圧センサ1aから取得された土圧データの時刻歴が表示されるので、相加平均の時刻歴と対比しながら監視をすることが可能となり、ひいては、異常値が継続しているか否かを把握することが可能となる。
【0070】
なお、本実施形態では、第二土圧範囲判定手段7を設け、第二土圧範囲判定手段7の判定結果が否定判定となった場合には、全データの相加平均Atに基づいて表示用土圧データを作成したが、第二土圧範囲判定手段7を省略してもよい。この場合には、図2のフローチャートにおいて、ステップ108とステップ111が省略され、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定となった後は、データ除外時間Tが経過するまで、近傍データ除外後の相加平均Btに基づいて表示用土圧データが作成されることになる。
【0071】
また、本実施形態では、データ除外時間Tが経過したか否かを判定し(図2のステップ109参照)、データ除外時間Tが経過するまでの間は、近傍データ除外後の相加平均Btに基づいて表示用土圧データを作成したが、ステップ109を省略してもよい。この場合には、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定となったとき(ステップ108が存在するときには、第一土圧範囲判定手段6の判定結果が否定判定となり、且つ、第二土圧範囲判定手段7の判定結果が肯定判定となったとき)に、近傍データ除外後の相加平均Btに基づいて表示用土圧データが作成されることになる。
【0072】
本実施形態では、攪拌翼12がデータ除外区間Ra〜Rhに入っている場合に、対応する土圧センサ1を除外する場合を例示したが、近傍データ除外後の相加平均Btを算出する際に除外する土圧データを、攪拌翼12との離隔距離が最も小さい土圧センサ1で取得された土圧データとしてもよい。このようにすると、近傍データ除外後の相加平均Btを算出する際に除外される土圧データを必要最小限に止めることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 土圧センサ
2 位置センサ
3 第一平均演算手段
4 位置判定手段
5 第二平均演算手段
6 第一土圧範囲判定手段
7 第二土圧範囲判定手段
8 表示用土圧データ作成手段
9 表示手段
10 シールドマシン
11 カッターヘッド
12 攪拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッターヘッドの背面に攪拌翼を備えたシールドマシンに適用される土圧管理装置であって、
チャンバ内の土圧を計測するための複数の土圧センサと、
前記攪拌翼の位置を検出するための位置センサと、
総ての前記土圧センサで同時刻に取得された土圧データの相加平均を算出する第一平均演算手段と、
前記攪拌翼の近傍に位置する前記土圧センサ以外の前記土圧センサで同時刻に取得された土圧データの相加平均を算出する第二平均演算手段と、
前記第一平均演算手段で算出された相加平均が管理下限値以上、管理上限値以下であるか否かを判定する第一土圧範囲判定手段と、
表示手段に表示すべき表示用土圧データを作成する表示用土圧データ作成手段と、を備え、
前記表示用土圧データ作成手段は、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果が肯定判定となった場合には、前記第一平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成し、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果が否定判定となった場合には、前記第二平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成する、ことを特徴とする、土圧管理装置。
【請求項2】
前記表示用土圧データ作成手段は、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果が否定判定となった場合には、否定判定となった時刻から予め設定したデータ除外時間が経過するまで、前記第二平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成し、前記データ除外時間が経過した後は、前記第一平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成する、ことを特徴とする請求項1に記載の土圧管理装置。
【請求項3】
前記第二平均演算手段で算出された相加平均が前記管理下限値以上、前記管理上限値以下であるか否かを判定する第二土圧範囲判定手段をさらに備え、
前記表示用土圧データ作成手段は、前記第二土圧範囲判定手段の判定結果が否定判定となった場合には、前記第一土圧範囲判定手段の判定結果に関わらず、前記第一平均演算手段で算出された相加平均に基づいて前記表示用土圧データを作成する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の土圧管理装置。
【請求項4】
前記表示用土圧データ作成手段は、一つの前記土圧センサで取得された土圧データを使用して前記表示用土圧データを作成する機能を有する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の土圧管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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