説明

土壌中の全石油系炭化水素の存在量を正確かつ迅速に定量分析する方法およびそれに用いる石油汚染疑惑土壌採取用容器ならびに土壌試料採取装置

【課題】採取した汚染疑惑土壌からそこに含まれている比較的低沸点の炭化水素が分析する前の段階で揮発、消失するのをできるだけ回避できる土壌中の全石油系炭化水素を正確かつ迅速に抽出、定量する定量分析方法およびそれに用いる石油汚染疑惑土壌採取用容器ならびに土壌試料採取装置の提供。
【解決手段】所定量の水溶性有機溶媒を収納した容器の重量をあらかじめ測定、記録した後、これを、土壌試料採取現場に送り、試料採取現場で所定量の土壌を採取して、これを前記容器に充填、密封し、直ちに冷却して検査機関に輸送し、実験室にとどいた容器を室温に戻し、容器表面の水分を除去した後、前記容器の重量を測定し、採取した土壌の重量を求め、ついで前記容器に抽出溶媒を加え、土壌中の炭化水素を抽出、定量することを特徴とする土壌中の炭化水素を定量分析する方法およびそれに用いる石油汚染疑惑土壌採取用容器ならびに土壌試料採取装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の全石油系炭化水素の存在量を正確かつ迅速に定量分析する方法およびそれに用いる石油汚染疑惑土壌採取用容器ならびに土壌試料採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、土壌中の全石油系炭化水素量(TPH)の抽出方法は、中央環境審議会の油汚染対策ガイドラインに示されたGC−FID法によるTPH試験法、すなわち汚染の疑いのある土壌を容器に採取して実験室に輸送し、該実験室で土壌の一定量を量り採り、無水硫酸ナトリウムを添加、混合して水分を吸着除去した後、二硫化炭素で抽出し、抽出液中の全石油系炭化水素を定量する方法が用いられる。
具体的に言えばTPH分析用に土壌試料を採取する際には、試料採取現場において100mL程度の瓶に薬さじなどを用いて土壌試料を充填し、4℃程度に冷却した状態で実験室に発送される。実験室に試料が到着した後、これを室温に戻してから瓶の蓋を開け(このとき瓶内に充満していた揮発性炭化水素は放散してしまう)、土壌試料の一定量を薬さじを用いて取り出し、天秤を用いて秤量後、抽出用の容器に移される。
このような従来の方法を用いると、土壌を4℃から室温まで加熱しているため運ばれてきた容器を開封したとき、揮発して容器中に充満していた炭化水素は直ちに揮散するし、土壌を秤量している間や秤量後抽出用の容器に移るまでの作業中にも土壌中の炭化水素における比較的低沸点の成分が揮発、消失することは避けられない。その上、分析用土壌中の水分を除去するために用いられている無水硫酸ナトリウムなどの脱水反応は、土壌と混合すると発熱するため、さらに揮発が促進されてしまうというのが実状である。
【0003】
油汚染土壌は、その臭気が人に不快感を与えるために生活環境リスクがあるといわれる。臭気とは油汚染土壌中の油分が蒸発して人の鼻を通じて嗅覚として感じるものである。そのためTPHの分析において、臭気の原因となる比較的低沸点の揮発性成分を正確に分析することは重要なことである。
そのためにも、前述の炭化水素中の比較的低沸点の成分の揮発、消失をできるだけ防止し、TPHの分析を正確かつ迅速に行う方法が強く求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、採取した汚染疑惑土壌からそこに含まれている比較的低沸点の炭化水素が分析する前の段階で揮発、消失するのをできるだけ回避できる土壌中の全石油系炭化水素を正確かつ迅速に抽出、定量する定量分析方法およびそれに用いる石油汚染疑惑土壌採取用容器ならびに土壌試料採取装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、所定量の水溶性有機溶媒を収納した容器の重量をあらかじめ測定、記録した後、これを、土壌試料採取現場に送り、試料採取現場で所定量の土壌を採取して、これを前記容器に充填、密封し、直ちに冷却して検査機関に輸送し、実験室にとどいた容器を室温に戻し、容器表面の水分を除去した後、前記容器の重量を測定し、採取した土壌の重量を求め、ついで前記容器に抽出溶媒を加え、土壌中の炭化水素を抽出、定量することを特徴とする土壌中の炭化水素を定量分析する方法に関する。
本発明の第2は、所定量の水溶性有機溶媒が収納されている石油汚染疑惑土壌採取用容器に関する。
本発明の第3は、試料とすべき土壌に突きさして該土壌をその中に収納できる筒状体および該筒状体内の採取土壌を押し出すための押し出し手段とを有することを特徴とする土壌試料採取装置に関する。
【0006】
前記水溶性有機溶媒は、(1)水に容易に、且つ大量に溶解できる液体であること、(2)後の操作で使用する抽出溶媒への溶解度が水に比べて低く、分離が容易であること、の2条件が必要であり、その具体例としては、炭素数5以下の脂肪族アルコールが好ましい。
炭素数5以下とした理由は、常温で液体であるうえ、水との親和性が極めて高いが、炭素数5以上になると水に対する溶解性が著しく低下するからである。前記炭素数5以下のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコールなどを挙げることができる。
前記アルコールは、無水のアルコールは勿論のこと、含水アルコールであってもよい。ただし含水率がある程度以上高くなると水の回収率が低下するので、アルコールの含水率は50vol%以下とすることが好ましい。なお、例えば無水メタノールの製法においてはベンゼンを用いることがあり、これが無水メタノール中に含まれていると、定量分析法としてIR法などを用いた場合には、ベンゼンも油分として定量してしまう場合があるので、分析法によってはアルコール中のベンゼンについて考慮しておくことが好ましい。
【0007】
前記容器としては、開閉しやすく密封できるものであればとくに制限はないが、通常、開口部と容器内部の寸法がほぼ同じ程度の形状のものが採取土壌を入れやすいので好ましい。容器の材質は石油に侵されることがないものであればよい。代表的な容器としてはガラスびんである。容器の蓋は、その一部が注射針を押し通すことができるような材料、例えばゴムで構成されていることが好ましい。このゴムの部分はポリ四弗化エチレンのような有機溶媒に溶解しない樹脂層をもつシリコーンゴムなどの弾性材料である。これにより容器の蓋を開閉することなく、注射針を通して抽出溶媒を容器内に注入できるので、容器内の炭化水素の漏れを防ぐことができる。
土壌試料10gに対して水溶性有機溶媒10mL、抽出用有機溶媒10mL、蒸留水10mLで抽出する場合には、試料採取容器の体積は40mL以上が必要である。試料、溶媒、水の量は任意に変更可能であるが、試料採取容器の体積は、土壌、溶媒、水の体積の合計以上が必要である。
【0008】
現場で採取する汚染疑惑のある土壌の量は目的とする分析が充分できる量であればよく、通常、5〜20g、好ましくは8〜12gである。
前記容器にあらかじめ封入しておく水溶性有機溶媒の量は、採取した土壌中に含まれている炭化水素を完全に抽出できるに充分な量であればよく、その量は通常採取する土壌の量とほぼ同程度ないし、やや多目とすればよく、厳密なものではない。採取土壌が8〜12g(容積で6mL)の場合には、水溶性有機溶媒としてメチルアルコールを使用する場合のメチルアルコールの量は10mL前後を用いればよい。前記容器に水溶性有機溶媒を封入したら、前記容器の側面に油性ペンなどで水溶性有機溶媒の液面の高さに印をつけてから重量を測定することが好ましい。これにより土壌採取現場に届くまでの間、水溶性有機溶媒が損失していないかを確認することができる。もしも損失していた場合には、その容器は使用できない。また水溶性有機溶媒の損失を防ぐためと容器の汚染を防ぐために、容器の蓋に封印をすることが好ましい。
前記容器の容量は、前記アルコールと前記採取土壌を収納する容積が必要である。
【0009】
前述のような事情をふまえて選択した容器には、前述のような量の水溶性有機溶媒を入れて密封し、容器に張り付けるラベルと共にその全体の重量を計測し、ラベルに容器の識別記号、例えば番号と共にその重量を記載し、ラベルを容器に貼り付ける。なお、ラベルへの記載とラベルの貼着の順序は当然任意である。ただし、ラベルが剥離紙付の場合は剥離紙をはがしてラベルを容器に張り付けその重量を測定することになる。
このようにして得られたものが請求項2で規定する石油汚染疑惑土壌採取用容器に相当している。
【0010】
土壌採取現場では、いろいろの場所からサンプルを採取して、測定対象地域全体としての汚染状態を把握する必要があるため、前述のようにして準備された石油汚染疑惑土壌採取用容器は多数小箱詰めし、現場に輸送する。容器がガラスびんの場合には、当然ガラスびんが割れることがないような箱詰めを行う。土壌採取現場では、前記石油汚染疑惑土壌採取用容器と共に、土壌試料採取装置が必要となる。したがって、前記容器の数と土壌試料採取装置の数は同じとすることが好ましい。
【0011】
土壌採取現場では、地表より地下に向けて垂直にボーリングを行う。これにより得られた土壌コアを地上に水平に置き、必要な深さの試料を土壌試料採取装置を用いて採取する。
【0012】
土壌試料採取装置としては、すくい取る形でも土壌試料の一定体積が測り採れ、採取容器に土壌を挿入できる構造であれば、とくに制限はないが、請求項3のように試料とすべき土壌に突きさして該土壌をその中に収納できる筒状体および該筒状体内の採取土壌を押し出すための押し出し手段とを有するものであることが好ましい。
土壌試料採取装置の1例を図1および図2に示す。図1は斜視図であり、図2は図1の中心から縦割りにしたときの断面図である。土壌試料採取装置の側面には土壌の採取体積を把握するための目盛りが刻まれている。この装置で土壌試料を採取する時には、採取土壌に対してしっかりと押し当てて、装置の中に密に土壌を押し込む。土壌採取現場にて電池式の天秤により、現場の土壌の代表的な密度の概算値を把握することが好ましい。これにより土壌を採取する担当者は、目標とする試料重量を採取するために必要な試料体積を把握することが可能となる。この操作を行う場合、行わない場合ともに検査機関では正確な試料重量の測定は必要である。
この土壌試料採取装置は使い捨てタイプとすることができる。このような土壌採取装置を構成する材料としては、プラスチックス、金属、ガラスなど、ガソリンなどの石油製品に溶けないものを用いる。
なお、土壌採取装置により採取された土壌の形状は丁度前記石油汚染疑惑土壌採取用容器の内径よりも、土壌採取装置の外形が小さい必要がある。これにより、土壌採取用容器の中に土壌採取装置の先端を差込み、円筒形に形成された土壌試料を容易に、かつ試料採取容器のネジ口部分を汚すことなく、土壌採取容器に注入することが可能となる。
土壌採取用容器のネジ口部分に土壌粒子が付着したまま、蓋をしてしまうと、容器の密閉性を保つことが出来なくなり、揮発性成分や水溶性有機溶媒の損失につながる。そのため土壌採取装置で土壌採取後は、土壌採取装置の外側をティッシュペーパーなどでぬぐってから挿入する。もしも容器のネジ口部分に土壌粒子が付着した場合は、それを取り除いてから蓋をする。
また、採取土壌を前記容器に収納したら、ただちに容器ラベルに土壌を採取した採取地点名を記入する。
【0013】
これを用いて、目的とする土壌を採取したら、前記水溶性有機溶媒を収納している石油汚染疑惑土壌採取用容器のフタを開け、その中に採取土壌を入れ、直ちにフタをしめて密封し、石油汚染疑惑土壌採取用容器が収納されている箱体にもどす。この箱体は少なくともこの段階から0℃を越え、かつ4℃以下の状態に保つ。例えばクーラーボックス内に箱体を収納する。
【0014】
前記箱体は冷却状態(例えば0℃を越え、かつ4℃以下)を保った状態で、たとえばクール宅急便(登録商標)などで所定の検査機関に移送する。クール宅急便(登録商標)などを使用すると、採取試料を容器に入れた時点から通常1日は経過して検査機関に到着することになる。この経過時間の間に採取土壌は容器内において水溶性有機溶媒と充分接触するので、土壌が粘土質などの団子状に固まりやすい土壌であっても、充分水溶性有機溶媒中に分散することができ、土壌中の炭化水素は充分水溶性有機溶媒に溶解することになる。また輸送中の振動も土壌の分散と炭化水素の抽出に有効に寄与する。
従来のサンプリング方法では、ただ単に採取土壌を容器に充填しているだけであるため、輸送中に土壌中の揮発性炭化水素が土壌中から揮発し、容器を開封したとたんに揮散してしまうという輸送に伴うデメリットがあったが、本発明では開封時に炭化水素が揮散しないし、輸送中に抽出操作が進行するというメリットが伴う。
【0015】
検査機関に到着したら、該箱体から該容器をとり出し、容器を室温に戻し、容器表面に付着した水滴を取り除いた後、内容物がはいっている容器の重量を測定し、その重量を記録する。この重量から該容器に記録されている「容器に水溶性有機溶媒のみが入ったときの重量」を差し引くことにより、採取した土壌の重量を求める。
【0016】
ついで、前記容器に抽出溶媒を加える。前記容器に蓋が一部注射針を挿入できる構成になっている場合は、ここから注射針を介して抽出溶媒を前記容器内に注入する。抽出溶媒を注入後、容器ごとバイアルミキサーにかけて振動させ、内容物を撹拌し、抽出を促す。
振動後、さらに注射針を介して蒸留水を前記容器内に注入し、バイアルミキサーまたは手で振り混ぜて、抽出溶媒に溶存する水溶性有機溶媒を水層に移行させる。その後、容器を静置あるいは遠心分離機にかけると、抽出溶媒の比重が水より小さい場合には、一番下が土壌層、その上に水と水溶性有機溶媒との混合層、一番上に抽出された炭化水素を含む抽出溶媒層という順で、3つの層に分離する。抽出溶媒の比重が水よりも大きい場合には、一番下が土壌層、その上に抽出された炭化水素を含む抽出溶媒層、一番上に水と水溶性有機溶媒との混合層という順で、3つの層に分離する。
【0017】
前記抽出溶媒としては、前述のように3つの層を形成することが出来るものであって、本発明の「水を溶解しないが油分を溶解する有機溶媒」としては、二硫化炭素(水に対する溶解性0.1185g/100mL)、n−ペンタン(水に対する溶解性0.04g/100mL)、塩化メチレン(水に対する溶解性1.32g/100mL)(以上のものはガスクロマトグラフィー分析に好適)、テトラクロロエチレン(水に対する溶解性0.015g/100mL)、四塩化炭素(水に対する溶解性0.08g/100mL)(以上のものは赤外線吸収スペクトルによる分析に好適)、n−ヘキサン(水に対する溶解性0.00947g/100mL)(重量法による分析に好適)などを挙げることができる。とくに抽出用溶媒としては水に比べて比重の小さいもの、例えばペンタンやヘキサンなどが作業性の面で望ましい。なぜなら抽出終了後抽出液が容器の上層に存在するために、ピペットなどで容易に採取可能だからである。なお、「水には溶解しない」という程度は、水100mL当り10g程度まで溶解するものは一応使用可能である。アルコールの添加量は土壌試料に対して、5〜500%、好ましくは30〜200%、有機溶媒の量は、土壌試料に対して、5〜600%、好ましくは30〜300%、添加すべき水の量は土壌試料に対して、2%以上、好ましくは30〜200%である。
【0018】
そこで、該炭化水素を含む抽出溶媒を採取し、分析器にかけて内容物を分析する。通常はガスクロマトグラフにかけて分析する。
前記定量分析の方法としては任意の方法を使用することができる。たとえば、赤外分光光度計(IR)による定量分析方法、ガスクロマトグラフィー法(例えば水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィー法:GC−FID法)、液体クロマトグラフ法、重量法(有機溶媒を蒸発させ、残った油分の重量を測定する方法)、紫外・可視分光法などを使用することができる。
具体的定量分析手段として、ガスクロマトグラフィーを使用する場合には、エタノールより分子量の大きいアルコールは油分中の低沸点炭化水素の定量に影響を与えることがあるので、このような定量分析法を使用することが予定されている場合には、メタノールやエタノールを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
(1)従来、検査機関から送付されてきた土壌採取容器に土壌を採取、充填するためには、薬さじやビニール手袋を用いて作業していたが、これによれば、1個の容器に充填、密封処理するのに少なくとも5分ぐらいが必要であった。
一方、本請求項3記載の土壌試料採取装置を使用すれば、サンプル1つ毎に1つの土壌試料採取装置1つを使用できるので、その試料採取、充填、密封に要する時間はほぼ2分程度である。
試料を100本とか200本とか採取する場合が多いので、この差は極めて大きな効果となる。
(2)従来は、現場から送られてきた採取土壌が入った容器から、薬さじを使い、天秤上に所定量を秤り採り、これを抽出容器に充填するという操作が必要であったが、本発明ではこの操作が不要である。本発明では検査機関で行う操作は、(イ)容器に水溶性有機溶媒を入れて密封した後の計量と、(ロ)現場から採取土壌を充填、密封して送られてきた容器を計量するだけですむ。
したがって、従来15分位かかっていた操作時間をほぼ2分位に短縮できる。
この時間差も、容器の数が多いから、極めて大きな効果となる。
また、本発明ではこのような操作が不必要であるから、現場から送られてきた容器を開封することがない。したがって、開封に伴う揮発分の放散が零となるので、測定データが一層正確となる。
(3)従来は、容器内の採取土壌に水溶性有機溶媒を加え、土壌を分散させて土壌から炭化水素を完全に抽出するため、10分程度の撹拌を行っていた。しかし、粘土質土壌の場合は10分程度の撹拌では充分土壌が分散せず、撹拌時間を延長しなければならなかった。
しかし、本発明では容器中に土壌と水溶性有機溶媒が混在した状態で12時間以上かけて搬送されてくるので、撹拌、抽出の時間が充分あり、土壌を水溶性有機溶媒中に完全に分散させることができる。
しかも、本発明では、分散、撹拌の時間は輸送時間に含まれているため、この点でも容器1つ当り、10分間程度の時間節約となる。
(4)従来の方法では、検査機関が必要とする量を下廻ることがないように、現場では多めに試料を採取していたため、1試料あたりに発生する廃棄物の量がどうしても多かったが、本発明では検査機関が必要とする量のみを現場で採取してくることになるため、廃棄物の量が著しく少なくなる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1
A.ガソリン汚染模擬土壌の作成
1)ビーカーに砂を入れてペンタンを加えて、超音波洗浄器により洗浄した。洗浄後、大気中で自然乾燥させ、120℃の乾燥機により1時間乾燥し、デシケーター中で室温まで冷却した。
2)100mLねじ口ガラス瓶に1)の砂を100g量り採った。
3)30mLねじ口ガラス瓶に15mLの蒸留水を量り採り、ガソリン400μLをマイクロシリンジで添加した後、蓋をして30秒間緩やかに撹拌した。
4)2)に3)の水溶液を加えて、薬さじで40秒間かき混ぜ、模擬土壌を得た。この模擬土壌は100mLねじ口ガラス瓶に入れ、その蓋を閉めて保管した。
実験に使用したガソリンの密度は0.7254mg/μLのため、模擬土壌のガソリン濃度は
(0.7254mg/μL×400μLガソリン)/0.1kg土壌
=2,900mg/kg
となる。
B.試料採取と抽出
1)従来法
(1)セプタム付き40mLガラス瓶(土壌採取用容器)に前記A.(4)の模擬土壌10gを薬さじを用いて量り採った(この作業に約2分を要した)。
(2)(1)にメタノールまたはエタノールを駒込ピペットで10mL添加した。
(3)蓋を閉めてバイアルミキサーにより5分間撹拌した。
(4)ペンタン10mLをシリンジを用いセプタムを通して添加し、バイアルミキサーで5分間撹拌した。
(5)蒸留水10mLをシリンジによりセプタムを通して添加しバイアルミキサーで5分間撹拌した。
(6)1,800rpmで10分間、遠心分離を行った。
(7)ペンタン抽出液を採取し、ガスクロマトグラフィーによる分析を行った。
2)本発明法
(1)セプタム付き40mLガラス瓶にメタノールまたはエタノールを駒込ピペットで10mL加え、蓋をして重量を測定した。
(2)土壌試料採取装置により、前記A.(4)の模擬土壌を6mL採り、(1)の容器に入れて蓋をした(この作業に約30秒を要した)。
(3)試料とメタノールまたはエタノールを入れたセプタム付き40mLガラス瓶の重量を測定し、Aの2)の測定結果との差を土壌試料重量とした。
(4)試料容器を手で軽くふり、4℃の冷蔵庫に24時間保管した(輸送中の状況の再現実験とした)。
(5)これ以降の操作手順は上記従来法のBの(4)からBの(7)と同一とした。
実験は、水溶性有機溶媒としてメタノールとエタノールの2種類で、土壌採取方法として従来法と発明法の2種類で、合計4通りの方法により3回ずつ行った。1通りの方法毎に模擬土壌1瓶を作成し、続けて3回の実験を行った。
C.ガスクロマトグラフィーの分析条件
ガスクロマトグラフィーの分析は次の条件で行った。
カラム DB5 長さ30m 口径0.25mm 膜厚0.25μm
オーブン温度 :30℃(3分)15℃/分 300℃(5分)15℃/分
325℃
注入量 :1μL
注入方式 :スプリットレス
注入口温度 :285℃
検出器 :水素炎イオン化検出器
検出器温度 :325℃
キャリアガス :ヘリウム
キャリアガス流量:3mL/分(26分)−6mL/分
標準液には軽油を使用した。
本実験では、抽出溶媒にペンタンを使用した。ガスクロマトグラフィーでガソリンを分析するとペンタンよりも前に検出される成分が含まれるが、これらの成分はペンタンとピークが重なるため検出することができない。よって、本実験条件ではガソリンに含まれる成分のうちヘキサンよりも後に検出される成分を分析の対象とした。
D.結果(従来法と発明法の比較)
【表1】

表にはヘキサン以降に検出される成分(ガソリン全量に対して47%)に対する回収率を示した。
いずれの水溶性有機溶媒でも発明法で回収率の向上が見られた。
【0022】
実施例2
(A)あらかじめ、検査機関で、図3に示すようなセプタム付き〔注射針を突き通すことができるゴム部分をもった栓付き〕ガラスびん(内径24mm、高さ92mm、容積42mL)に、メタノール(特級試薬)10mLを入れて密栓し、ラベルを貼り、重量を測定し、ラベルに番号とその測定重量を記入する。このような容器を36本作成し、1つの箱に収納した。この箱には、容器と同じ数の土壌試料採取装置も封入し、この箱を土壌調査現場宛てに発送した。
(B)土壌採取現場では、現場で土壌試料採取装置(土壌採取用シリンジ:外径18mm、内径15mm、容積10mL)を根元まで土壌に突きさして所定量の土壌を採取し、前記セプタム付きガラスびんに封入する。採取した土壌は約6mLで、重量にすると9〜11gに当る(炭化水素量、水分などで変化する)。前記セプタム付きガラスびんのラベルには土壌採取場所を記入する。この操作を指定の土壌採取場所毎に繰り返す。前記土壌採取用シリンジは使い捨てであるため、洗浄などの必要はない。このようにして採取したセプタム付ガラスびんは所定本数づつクッション材付きの箱に入れ、この箱をさらに4℃以下に冷却保持できるクーラーボックスに入れて検査機関に送った。
(C)検査機関には、翌日到着した。この間にガラスびん内の粘土質など団子状に固まりやすい土壌もメタノール中に均一に分散していた。ガラスびんを室温に戻し、ガラスびん表面に付いた水滴を取り除き、ガラスびんの重量を測定し、これを記録する。この重量から、あらかじめ測定してガラスびんに記録しておいた「びんにメタノールのみを入れたときの重量」を差し引き、採取した土壌の重量を求めた。
この操作は、すべての土壌試料を封入したガラスびんに対して同様に行った。
(D)つぎに、抽出溶媒としてペンタンを選択し、n−ペンタンをシリンジによりガラスびんのセプタムを介してガラスびん内に注入した。ペンタンの注入量は10mLである。
この操作は、すべての土壌試料を封入したガラスびんに対して同様に行った。
(E)このように処理したガラスびんを再びクッション材付きの箱に戻し、この箱ごと10分間バイアルミキサーにかけて撹拌、抽出を行った。つぎに蒸留水10mLを加えて撹拌した。その後、各ガラスびんを遠心分離にかけると、それぞれのガラスびんは、一番下が土壌層、その上に水とメタノールの混合層、一番上に抽出された炭化水素を含むペンタン層という順で3層に層分離した。
そこで、ペンタン層をガスクロマトグラフィーにかけて土壌中の炭化水素を分析測定した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の土壌試料採取装置(土壌採取用シリンジ)の斜視図である。
【図2】図1のX−X′断面図である。
【図3】本発明の実施例で用いたセプタム付ガラスびんの斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の水溶性有機溶媒を収納した容器の重量をあらかじめ測定、記録した後、これを、土壌試料採取現場に送り、試料採取現場で所定量の土壌を採取して、これを前記容器に充填、密封し、直ちに冷却して検査機関に輸送し、実験室にとどいた容器を室温に戻し、容器表面の水分を除去した後、前記容器の重量を測定し、採取した土壌の重量を求め、ついで前記容器に抽出溶媒を加え、土壌中の炭化水素を抽出、定量することを特徴とする土壌中の炭化水素を定量分析する方法。
【請求項2】
所定量の水溶性有機溶媒が収納されている石油汚染疑惑土壌採取用容器。
【請求項3】
試料とすべき土壌に突きさして該土壌をその中に収納できる筒状体および該筒状体内の採取土壌を押し出すための押し出し手段とを有することを特徴とする土壌試料採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−70289(P2008−70289A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250532(P2006−250532)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】