説明

土壌汚染浄化方法

【課題】従前の土壌昇温を利用した汚染浄化技術において、その発生が懸念される各種副次リスク(昇温障害、臭気発生、有害微生物の増加、爆発的反応、強アルカリ化、重金属溶出等)を伴わない昇温技術による汚染物質の揮発を促す温和で安全な土壌汚染処理方法を提供すること。
【解決手段】土壌昇温時のpH安定機作を一連のプロセスに導入すること、好ましくは有機性昇温資材と共にpH緩衝能を有する資材を併せて汚染土壌に添加し、迅速なる土壌昇温を達成することで各種副次リスクの発生を低減した温和で安全かつ迅速な物理学的な土壌汚染処理を達成する。加えて一連のプロセスで生じる廃熱を供気に移行して系に返送することで、昇温に関する一層の効率化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌に含まれる汚染物質の除去を主たる目的とした物理学的な汚染浄化を本旨とし、特に安全かつ迅速な土壌昇温条件を設定して安価かつ効率的な浄化を達成する土壌汚染浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、昇温資材を汚染土壌に混合し、一定の土壌昇温を図り汚染浄化を図る方法が提案されている。堆肥化昇温により分解微生物を活性化する生物学的浄化方法や、生石灰等の水和反応熱を用いた土壌昇温により揮発性汚染物質を揮発させて土壌の汚染浄化を図る物理学的浄化方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2879808号
【特許文献2】特開2002−1303号
【特許文献3】再表2006−92950号
【特許文献4】特開2009−254992号
【特許文献5】特開2004−254508号
【特許文献6】特許第2589002号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「現代農業」2001年、第6巻、p154〜157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従前の土壌昇温を伴う土壌汚染浄化技術には次のような課題があった。
先ず、特許文献1から3に示される土壌に有機性資材を添加し土壌昇温を図り土着の汚染分解微生物を活性化する技術は、バイオスティミュレーション技術に区分される浄化手法である。特許文献3の請求項に規定されるがごとく、土壌を摂氏10〜50度程度の中温域に昇温して土着の分解微生物の活性化を図ることを技術上の本旨とする。
【0006】
しかしながら、有機性資材を用いる堆肥化昇温は、良好な条件下では自ずと摂氏60〜80度程度迄の高温に達するのが一般的である。従って、土壌温度を常に中温域に保つには、資材量の調整を頻繁に実施する、また通気量を調整して冷却を主とした温度調整を実施する等、随時の長期に亘る施工管理に多くの人員を要し、加えて冷却による多大な熱損失を生ずる課題を有していた。
【0007】
また、堆肥化昇温を併用するバイオスティミュレーション技術では、汚染分解微生物が活性化される中温域に達すると、酸敗臭やアンモニア臭に代表される腐敗臭たる悪臭を生成する傾向がある。特許文献1から3に示される技術は、この悪臭生成が著しい中温域の温度を保つことを本旨とするために、その悪臭対策として特段の排気処理や拡散防止対策を要する課題を有していた。
【0008】
また、汚染分解微生物が活性化される中温域は、同時に病原微生物等の増殖を促す。中温域を保つバイオスティミュレーションにおいては、特に殺菌プロセスを施さないので、同時に病原微生物等を増やす操作にもなっていた。
【0009】
ところで、特許文献3の技術は、非特許文献1や特許文献5に記載の「糟糠類を土壌に添加し昇温を図る技術」と、特許文献1や2に記載の「汚染分解微生物の活性化利用技術」の両公知技術を基本原理とする技術である。この内、非特許文献1や特許文献5の土壌昇温技術は、そもそも土壌殺菌を目的として開発された技術であるが、特許文献3では、その殺菌技術の導入が図られておらず、施工中/後の処理土壌に対する病原リスク増大の懸念や、その懸念に対する考慮から施工場所が限定されるなどの制約要件を生じ、その安全性及び汎用性に課題を有していた。
【0010】
また、特許文献4の技術は、汚染土壌に堆肥化昇温を施し、特に高温環境下で汚染分解能を発揮する汚染分解微生物を用いて汚染土壌の浄化を図るバイオオーグメンテーション技術である。本技術は、この高温環境を設定することで、図らずも病原微生物の殺菌を達成しており、一部の病原リスクを低減しながら汚染の微生物分解を図る技術となっている。
【0011】
しかしながら、昇温方法が従前のバイオスティミュレーション技術と同等の操作であるため、昇温過程で発生・増加する悪臭や病原微生物等の副次リスクの生成は従前技術と変わらず、この点における課題克服までには到っていなかった。
また、その昇温過程では、土着の汚染分解微生物による不用意な汚染物質の二次代謝が進行するなど、汚染物質に絡む物質挙動を必ずしも制御下に置くことができない技術精度であった。
更に、高温域で活性化される外来の好熱性分解微生物を土壌に添加することを前提とするため、対象土壌が多量となると自ずと添加する分解微生物の前培養も大量となり、その培養方法やコスト面での課題を有していた。
【0012】
このように、汚染土壌を堆肥化昇温し汚染分解微生物を活性化する従前の生物学的汚染浄化方法は、いずれの技術もなんらかの技術的課題を有していた。即ち、中温域にて土着の汚染分解微生物の利用を図れば、自ずと悪臭発生や病原リスク等を付帯し、高温域で外来の好熱性汚染分解微生物の利用を図れば、培養やコスト面での課題が、またその昇温過程では悪臭と有害微生物による副次リスク増大の課題を有していた。
加えて、これら従前の生物学的汚染浄化方法は、一般には緩慢な微生物分解反応を本旨とすることで、浄化工期の長期化を誘引する本質的な課題を有していた。
【0013】
一方、特許文献6に代表される物理学的浄化方法は、反応速度の早い生石灰の水和反応を用いるので、特許文献1から4の生物学的浄化技術と比較し短期間での土壌浄化が可能である。しかしながら、土壌と生石灰の不適切な混合による資材分布の偏りから、急激な反応に伴い局所的に高温となり水蒸気爆発がごとくの危険を伴う爆発反応に至る場合や、水和反応にて生成する水酸化カルシウムにより土壌pHが11を超える強アルカリ条件となり、鉛等の有害重金属等を溶出し新たな汚染問題を生ずるなどの課題を有していた。
化学物質を用いた昇温方法による物理学的な揮発処理もまた、爆発や重金属の溶出等の副次リスクを発生する課題を有していた。
【0014】
尚、上記に掲げる物理学的浄化方法に近縁な技術には、キルン等を用いた土壌の焼成技術を利用した浄化技術があるが、本発明の属する技術分野は主としてオンサイト処理たる汚染現場にて浄化を実施することを前提とした廉価な処理を目指す技術分野であり、主としてサイト外の常設プラント施設にて実施される高コストなキルン処理を別な技術体系と考え、上記従前技術の検討から除外した。
【0015】
総じて、この様な背景から本発明の目的を、副次リスク発生が集中する中温域での滞留を最少とする高温域へ至る迅速な土壌昇温と、その高温域での有効な汚染処理方法の開発と設定した。
特に堆肥化昇温過程の中温域の短縮方法及び良好な昇温について、土壌pH制御とプロセスでの熱効率の向上に着目して鋭意検討を進めた結果、中温域での滞留と副次リスクの生成を最少とする迅速な昇温を達成する種々操作とその操作下で実施する揮発を促す物理学的浄化処理を特徴とする本発明に至った。
【0016】
尚、本発明は、汚染浄化機構として昇温作用を利用した揮発作用による物理学的土壌浄化法を採用した点、また、汚染分解微生物を浄化処理におけるリスク要因と考えこのリスク回避を図る点など、従前の堆肥化昇温を用いた生物学的処理とは全く異なる浄化概念及び技術体系上に存することはいうまでもない。
【0017】
加えて、その昇温方法を、従前の物理学的処理での課題、即ち爆発反応、強アルカリ、重金属溶出等の激甚な反応による副次リスク発生を回避するために、従前の生物学的処理にて好んで用いられた堆肥化昇温法を更に改良し、従前の堆肥化昇温法での課題(昇温障害、悪臭生成、病原微生物や汚染分解微生物の増加等に起因する副次リスク)を克服した安全かつ効率的たる高付加価値を有する新規堆肥化昇温技術の開発を本発明の基軸とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
先ず、請求項1に係る本発明は、有機性資材と汚染土壌の混合土壌に対して土壌間隙を好気条件に保つ吸気操作を実施し、摂氏60度以上に至る堆肥化昇温の保持により前記汚染土壌中の揮発性汚染物質の揮発を促す一連のプロセスから成る物理学的な土壌浄化方法において、少なくとも前記堆肥化昇温に関与する微生物の代謝低下による昇温遅延の防止、及び有害微生物の増加抑制を目的として、前記混合土壌のpH値の変化を抑えるpH安定機作を前記プロセスに導入したことを特徴とする土壌汚染処理方法である。
【0019】
また、請求項2に係る本発明は、前記pH安定機作が、前記混合土壌の調整時におけるpH緩衝能を有する資材の添加であることを特徴とする請求項1に記載の土壌汚染処理方法である。
【0020】
更に、請求項3に係る本発明は、少なくとも前記汚染土壌より揮発した揮発性汚染物質を含む汚染ガスを吸気する吸引手段と、該吸気した汚染ガスを無害な排気に処理する排気除害手段と、を含むシステムにより前記プロセスが実施され、前記吸引手段から前記排気除害手段に至る前記汚染ガスより前記堆肥化昇温に由来する廃熱を回収して、該回収した熱を前記堆肥化昇温の補助熱源として利用することを特徴とする請求項1または2に記載の土壌汚染処理方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のうち請求項1に係る土壌汚染処理方法によれば、混合土壌のpH値の変化を抑えるpH安定機作を一連のプロセスに導入したことにより、従前の堆肥化昇温技術での昇温過程で発生する昇温遅滞、悪臭生成、有害微生物の増加等の副次リスクの生成を抑制できる。その結果、これら副次リスクの生成を些少としながら汚染土壌を所定の摂氏60度以上の汚染物質の揮発に適する高温状態へ迅速かつ安全に導くことができる。
【0022】
即ち、昇温遅滞は、土壌pHの急激なシフトによる環境変化によって堆肥化昇温に関与する微生物の呼吸活性等の急激な代謝低下と関連があるので、かかるpH安定機作にて土壌pH変化を些少とすることにより、この堆肥化昇温微生物の代謝抑制を些少とした昇温遅滞が無き迅速かつ効率的な土壌汚染処理を達成できる。
【0023】
また、土壌pHシフトを些少として昇温遅滞が解消された条件では、その迅速かつ効率的な昇温が達成され、腐敗臭たる悪臭生成の原因微生物が活発となる中温域に留まる経過を短縮し、加えてアルカリ域で発生するアンモニアガスの発生を、そのpH調整により十分に抑制できるので、これらの悪臭成分の生成が十分に抑制された安全な土壌汚染処理を達成できる。
【0024】
また同様に、迅速かつ効率的な昇温条件下では、病原微生物や汚染分解微生物等の有害微生物の生育が盛んとなる摂氏40度近傍の中温域での経過を短縮できるので、これら有害微生物の増殖を抑制し、続く以後の摂氏60度程度以上の中温菌殺菌温度に迅速に移行できる。かかる迅速な昇温により、一連のプロセスにおける有害微生物による副次リスクを最少とする安全かつ清潔な土壌汚染処理を達成できる。
【0025】
ここで、水道、排水、水系等の環境法及び食品関連法並びに労働関連法等では、しばしば大腸菌或いは大腸菌群が病原微生物の存在指標として定められており、病原微生物が広く市民に摂取或いは接触する機会を減ずる運用が図られている。但し、現行の土壌汚染関係法令には大腸菌等の項目は存在せず、浄化評価項目または技術達成目標としてこれまで省みられることは無かった。
【0026】
しかしながら、近年、農林水産省は適正農業規範(GAP)を提唱し、農業作業に付帯・由来する、例えば堆肥や地下水における大腸菌等の病原微生物等の各種リスク管理に対する取組みが進められる他、国土交通省や地方自治体主導で、雨水、下水処理水、地下水等を雑用水としてその有効利用の推進が図られており、係る基準には大腸菌群等が指定項目として挙げられる等、環境・生産作業・市民生活を通じて土壌や地下水から人に移行する大腸菌に代表される病原微生物に対する取組や関心が社会で高まりつつある。
【0027】
汚染土壌修復事業は、上記同様に土壌、大気、地下水等を通じて市民生活と密接に関わりを有し、本来であれば、かかる病原リスクについて十分かつ早急な配慮が求められるべき対象である。本発明によって、社会機運を先取した病原微生物リスクを管理し最少とする安全かつ清潔な土壌汚染処理技術を市場に提案できるに至った。
【0028】
また、ここで病原微生物のみならず汚染分解微生物の増殖を抑制し、更に殺菌を図る意義は、汚染分解微生物の代謝作用により、既存の汚染物質より危険性の高い二次代謝物の生成や、揮発性を有していた対象汚染物質が汚染分解微生物の代謝作用により、その揮発性が損なわれ浄化処理が非効率になる等、揮発処理を実施する上での係る弊害を防止することにある。
【0029】
例えば、通気がままならぬシルト質等の汚染土壌において、テトラクロロエチレンやトリクロロエチレンの嫌気的微生物代謝が部分的に促された場合、この二次代謝物たる低塩素化合物はより毒性が高いので処理対象土壌の実質的な汚染リスクが高まる場合がある。
【0030】
また、トリクロロエチレンの好気的微生物分解が促された場合は、トリクロロ酢酸等の二次代謝物を生じるが、トリクロロ酢酸の毒性はトリクロロエチレンと比較してやや劣るものの、その揮発性が極端に低下することにより、一連の揮発による土壌汚染処理を極めて困難なものとする。
【0031】
このように、揮発による汚染土壌浄化を実施する場合、汚染分解微生物の存在は、対象汚染物質を変性させ、浄化品質や周囲環境に悪影響を及ぼす新たな不用意なリスク発生要因となる。本発明による迅速なる摂氏60度以上に至る昇温を実施して、汚染分解微生物の増殖抑制と殺菌を積極的に図ることにより、かかる副次リスクを一層に低減した安全かつ確実な土壌汚染処理を達成することができる。
【0032】
また、請求項2に係る土壌汚染処理方法によれば、有機資材と汚染土壌を混合する調整時にpH緩衝能を有する資材を併せて添加混合することで、以後の土壌pH変動時の調整作業を省略できる。
【0033】
このpH調整作業は、一般に切り返しと同時に土壌pHを測定しながら酸或いはアルカリ性を呈する資材を土壌に添加し中和を図る操作が代表的であるが、特に昇温過程における切返し作業は昇温が図られつつある土壌を冷却してしまう恐れがある。また、昇温過程での切返しは、病原微生物等の副次リスクの周囲環境への飛散を招きかねない。
【0034】
よって、混合土壌の調整時にあらかじめpH緩衝能を有する資材を汚染土壌等に添加混合することにより、昇温過程での切返しを省略し、昇温の断続無き効率的かつ上記副次リスク生成及び拡大を些少とする堆肥化昇温を遂行することができる。
【0035】
また、請求項3に係る土壌汚染処理方法によれば、汚染土壌に対し吸引手段を用いた吸気を実施することにより、土壌中に空気を適切に通気することができる。その結果、好気微生物による呼吸熱の発生を最適とした良好な昇温を得ることができる。また、吸引手段によって回収した揮発性汚染物質を含む汚染ガスを、排気除害手段にて無害な排気に適切に処理することで、周囲への汚染物質等の散逸無き安全性の高い汚染土壌浄化を実施することができる。
【0036】
更に、吸引手段から排気除害手段に至る汚染ガスより堆肥化昇温に由来する廃熱を回収して、該回収した熱を堆肥化昇温の補助熱源として利用することにより、処理系全体の熱損失を減じた効率的な堆肥化昇温を図れるので、省エネルギー的な汚染土壌浄化を実施することができる。
【0037】
なお、本発明にて堆肥化昇温で利用する有機性資材の多くは、大気中の二酸化炭素循環を通じたカーボンニュートラルな資材であり、従来の昇温原料が、化石燃料エネルギーを利用し炭酸カルシウムを焼成して生産する生石灰等であるのに対し、より環境への配慮が図られた昇温技術であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】異なる土壌pH調整方法による昇温性能の比較を示すグラフである。
【図2】pH調整の有無による堆肥化昇温時の土壌pHの変化を示すグラフである。
【図3】pH調整の有無による堆肥化昇温時の土壌微生物の酸素消費活性の変化を示すグラフである。
【図4】pH調整の有無による堆肥化昇温時の土壌中大腸菌濃度(左)と臭気強度(右)の変化を示すグラフである。
【図5】スタティックパイル処理とタンク処理での昇温の変化を示すグラフである。
【図6】本発明に係る土壌汚染処理方法を実施するシステムを概念的に示す説明図である。
【図7】本発明に係る土壌汚染処理方法による各汚染化学物質の除去性能を示す図表である。
【図8】スタティックパイル処理とタンク処理における土壌中の経時的な汚染濃度の変化を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を代表する実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る土壌汚染処理方法は、有機性資材と汚染土壌の混合土壌に対して土壌間隙を好気条件に保つ吸気操作を実施し、摂氏60度以上に至る堆肥化昇温の保持により前記汚染土壌中の揮発性汚染物質の揮発を促す一連のプロセスから成る物理学的な土壌浄化方法において、少なくとも前記堆肥化昇温に関与する微生物の代謝低下による昇温遅延の防止、及び有害微生物の増加抑制を目的として、前記混合土壌のpH値の変化を抑えるpH安定機作を前記プロセスに導入するものである。
ここでpH安定機作は、具体的には例えば、前記混合土壌の調整時におけるpH緩衝能を有する資材の添加である。
【0040】
かかる土壌汚染処理方法は、石油系燃料等の炭化水素成分や有機ハロゲン化合物等の揮発性汚染物質で汚染された土壌の浄化に適している。
ここで浄化対象となる油分汚染土壌としては、例えば、原油、重油、軽油、灯油、ガソリン相当の組成を有した油類、金属加工や装置メンテナンス等に用いられた廃切削油や廃潤滑油やグリース等で汚染された土壌を挙げることができる。本発明の土壌汚染処理方法は、これらの各種汚染物質中の低分子油分に起因する油膜や油臭はもとより、その油分含有量の一部を低減する効果を有する。
【0041】
また、揮発性有機化合物としては、例えば、パラフィン系やオレフィン系の脂肪族炭化水素化合物類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の単環式芳香族炭化水素類の他、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン置換型炭化水素化合物他、後述の図7に示される有機化合物等の汚染化合物が挙げられる。
【0042】
尚、揮発が促される揮発性汚染物質であれば、前記の汚染化合物に限定されるものでない。例えば、化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)及びその関連法等で規定される化学物質群の内、揮発性を有する物質による土壌汚染であれば同様に本法の適用が有効であることはいうまでもない。
【0043】
また、これらの揮発性有機化合物系汚染は、タール、アスファルト、原油、重油、軽油、灯油、ガソリン相当の組成を有した油類、機械加工や装置類等に用いられた廃切削油や廃潤滑油やグリース等による汚染土壌に複合汚染としてしばしば検出される。
【0044】
本発明は、前出の汚染物質が単独で存在する場合のみならず、複数が混在する複合汚染が形成された汚染土壌に対しても有効な汎用性ある土壌汚染処理方法と位置づけられる。
【0045】
ここで実施の形態に係る有機性資材としては、具体的には例えば、糟糠類(フスマ、米ヌカ、コーンスティープリカー等)等の家畜用飼料類全般、食品製造由来の植物性油粕(油粕、大豆油粕、コーン油粕、胡麻油粕、豆類油粕、米ヌカ油粕等)、砂糖製造業残渣(ビートトップ、廃糖蜜、各種バガス等)、厨芥やその発酵加工物等を挙げることができる。
尚、藁・牧草等の草本類等は、単独では十分な昇温を図れない低昇温性資材であるので、他の有機性資材と混合して使用するなどの工夫が必要である。他、発酵残渣(醤油粕、酒粕、ビール粕、焼酎粕等)、木本材(バーク、間伐チップ、籾殻、大鋸屑等)、有機性地質(泥炭、亜炭、褐炭、ピート等)等もこの低温性資材と位置づけられる。
【0046】
特に、実施の形態に係る主として構成される資材が糟糠類であれば、昇温熱量も高く容易に効率的な堆肥化昇温を図ることができる。これら糟糠類は世界的にも賦存量も多く、日本国内全域においては一般飼料として安定的な調達と一定の品質が図れ、その汎用性を生かした汚染土壌浄化を廉価で安定的に遂行することができる。
【0047】
尚、これら有機性資材は、堆肥化プロセスでの微生物の代謝により発熱反応を呈する有機資材であれば、その形状や種類を問うものではない。例えば、上記に掲げる資材でなくても、砂糖等の炭水化物、グルテン等の蛋白質、動物性油脂等の脂質、アルコールや有機酸等の有機化合物、乾燥酵母や乾燥菌体等の微生物系資材やその抽出物製品等も、そのコストが適正であれば本法にて利用可能であることはいうまでもない。
【0048】
ここで実施の形態に係る混合土壌のpH安定機作を導入する方法としては、混合土壌の切返し操作にて酸ないしアルカリを土壌に添加し中和を図る方法、混合土壌に酸性気体やアルカリ性気体を通気して土壌pHの中和を図る方法、混合土壌にあらかじめpH緩衝能を有する資材を混合しておく方法等がある。尚、土壌pHの安定化が図れる方法であれば、ここに記載の方法に限定されるものではない。
【0049】
また、上記pH緩衝能を有する資材としては、腐植質含有土壌(泥炭、亜炭、褐炭、ピート、畑土、黒土、他有機物含有土壌)や各種堆肥類、腐植酸含有資材、牡蠣ガラ、廃菌床、炭酸カルシウム、ゼオライト、ローム土等の火山灰土等が利用できる。また、確実な薬効や処理後土壌への資材の残存性を特に考慮する場合は、一般にはpH緩衝剤として知られる水溶性のリン酸系緩衝剤、炭酸系緩衝剤他、グッド緩衝剤等が利用できる。
【0050】
尚、これらpH緩衝能を有する資材は、堆肥化昇温プロセスでの微生物の代謝による土壌pH変化を緩衝する資材であれば、その種類や濃度を問うものではない。またこれらを複数混合して、その複合機能としてpH緩衝能を有する資材を作成することもできる。
更に、pH緩衝能を有する資材が、リンやカリウム等の肥効成分、ビタミン類、キレート成分、必須ミネラル等の堆肥化昇温に関与する微生物群の増殖を促進する一般的には培養液成分として知られる物質を合わせて含有する資材であればより好ましく利用できる。
【0051】
また、堆肥化昇温に関与する微生物は、堆肥化の初期昇温過程では、バシルス科の細菌種の出現頻度が高く、バシルス属(Bacillus)では、バシルス・ズブチルス(B.subtilis)、バシルス・コアギュランス(B.coagulans)、バシルス・ステアロサーモフィラス(B.stearothermophilus)、バシルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)、バシルス・サーモコロアーセ(B.thermocloacae)等が挙げられ、他、セラシバシルス属(Cerasibacillus_quisquiliarum等)やグラシリバシルス属(Gracilibacillus_halotolerans等)の細菌種等が挙げられる。これらは、チオバチルス属細菌やアルカリジェネス属細菌等と同様に有機物分解を担い、堆肥化昇温初期に重要な役割を担っていると考えられている。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
本実験では、昇温時の土壌pH調整による昇温性能の向上効果と、その操作に付帯する各種副次リスク要因に関する評価を実施した。
【0054】
試験手順を以下に示す。
(a)昇温用有機資材(米ヌカ)の重量比1に対し、砂質土を9重量比で加えて供試土壌を作成した。続いてこの供試土壌に軽油および各揮発性有機汚染物質を添加(図7の理論添加濃度参照)し、また施肥として資材の重量比100に対し、窒素を5、リンを1の割合で添加(窒素肥料として尿素、リン肥料として過リン酸石灰を使用)した。
【0055】
(b)続いて、上記供試土壌に対し水分を含水率15%に調整後、堆肥化試験装置(商品名かぐやひめ:富士平工業社製)にそれぞれを装填し、通気速度として毎分1.7リットル、常温条件にて各試験区での土壌昇温効果を検証した。尚、上記水分調整では、病原微生物の堆肥化昇温過程での挙動を明瞭とするために、牛糞の重量比3に対し純水を7重量比で調整した混合液の上澄水を用いた。
【0056】
(c)尚、試験区は、pH調整を行わない「無調整区」の他に、土壌pHの調整を行う実験区として2区(土壌pH調整に緩衝剤を用いる「緩衝剤区」では、上記過リン酸石灰の代わりにカリウム化合物を包含するリン酸緩衝剤(pH7)を用いた。また切返しを実施しその際にpHを調整する「切返し調整区」では、酸性化した土壌に対し消石灰を添加・混合し中和を図った。)を作成した。
【0057】
(d)また、試験開始後、経時的に土壌試料等を採取し以下の分析を行った。大腸菌濃度を、クロモカルト培地寒天平板法にて、また土壌pHを、水溶出法を用いた測定法により実施した(いずれも「堆肥等有機物分析法(日本土壌協会編)」に記載の方法に準拠)。
また揮発性有機汚染物質の溶出濃度を平成3年環境庁告示第46号に記載の方法にて、また油分含有量及び油膜/油臭を環境省油汚染対策ガイドラインに示される定法により測定した。
更に排気の臭気を、ポータブル型ニオイセンサXP-329IIIR(新コスモス製)を用いて測定した。
【0058】
上記の実験結果を図1に示す。
図1より明らかなように、摂氏60度に至る期間の比較では、無調整区が96時間を要したのに対し、切返し調整区で60時間、緩衝剤区は24時間であった。本試験における昇温時間は、無調整区と比較し、切返し調整区で3分の2に、緩衝剤区で4分の1程度に短縮された。結果、切返し時調整や緩衝剤添加等の土壌pH調整機作を堆肥化昇温系に組み込むことで堆肥化昇温の初期昇温期間の短縮が可能であり、特にpH緩衝剤をあらかじめ土壌に混合する方法が有効であることが分かった。
【0059】
また、図2に各試験区での土壌pH変化を示す。無調整区では、昇温初期にpH5近傍までのpH降下が観察されて以後、アルカリ側へのpHシフトが観察された。図1から明らかな様に、このpH降下時には昇温が停滞し、またアルカリにシフトした際は緩慢な昇温が観察された。一方、緩衝剤区は、当初に設定したpH7近傍で推移した。図1からも明らかな様に、緩衝剤区では遅滞無き迅速な昇温が図られており、pHの安定化、中でも緩衝剤を用いたpH調整が昇温性能の向上に特に有効であることが明らかとなった。
【0060】
続いて、土壌微生物の酸素消費活性の測定結果を図3に示す。
図3から明らかな様に、図2に示す無調整区のpH降下時には呼吸活性が低調であり、以後、緩慢にアルカリ側に移行するに従い呼吸活性の増加が確認された。一方、緩衝剤区は、図1の昇温状況からも明らかな様に、呼吸活性の急激な上昇と以後の緩やかな減少が観察された。これら呼吸活性の挙動は、図2に示す土壌pHに依存する傾向が見られ、特に酸性側へのシフトが呼吸活性やそれに伴う昇温に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
【0061】
続いて、昇温時に発生する副次リスクたる土壌中の病原微生物と臭気を測定した。大腸菌濃度の結果と臭気強度の結果を図4に示す。
図4より明らかな様に、pH調整実施の有無により土壌中の大腸菌濃度に大きな差異を生じることが分かった。緩衝剤区が初期濃度から10倍程度の増殖に留まったのに対し、無調整区ではそれより更に1000倍超の高濃度までに至った。
【0062】
中温菌たる大腸菌の高温側での生育温度は一般に摂氏40度程度であり、生育温度⇒生育限界温度⇒殺菌温度に至る各試験区での昇温状況の推移に応じた大腸菌の個体数変動があったと推察される。即ち、緩衝剤区の昇温推移は極めて迅速であり、生育温度から一気に生育限界温度、殺菌温度に移行し、大腸菌の生育温度範囲に留まる時間が短期間であったのに対し、無調整区はその緩慢な昇温によって生育温度範囲に留まる時間が長期間にわたり、その間に大腸菌の増殖が盛んに図られたと推察される。
【0063】
今回、大腸菌を病原微生物指標として採用したが、前述の生育温度⇒生育限界温度⇒殺菌温度という概念は、大腸菌をはじめ多くの病原微生物、ひいては中温域に増殖至適を有する微生物群にほぼ共通する概念である。
【0064】
従って、堆肥化昇温を図る土壌汚染処理において、土壌pH調整機作を系に導入すると、その昇温は遅滞無く迅速に進行するので、中温域に増殖至適を有する病原微生物や土着の汚染分解微生物等の有害微生物群の増殖を最少とする、より低リスクである土壌汚染処理系プロセスの構築が可能であることが強く示唆された。
【0065】
更に、臭気に関しても図4より明らかな様に、pH調整実施の有無により両者の臭気強度に大きな差異を生じ、緩衝剤区がより臭気発生の少ないことが示された。この臭気に関しては臭気の官能的評価も実施し、更に明瞭な差異が観察されたので以下に記す。
【0066】
無調整区では、昇温開始後、酸臭と硫化水素様の臭気を発生し、以後、炊飯臭とアンモニア臭が混じった刺激性を有する不快臭が継続した。一方、緩衝剤区は、昇温初期に多少の酸臭と資材の特有臭を生じたが、昇温以後は、カラメル臭混の炊飯臭を主とし僅かに麹臭を呈する臭気であった。但し後者の臭気は不快臭では無く、言わば調理等に付帯する芳しい臭気に近いものであった。
【0067】
従って、堆肥化昇温を図る土壌汚染処理において、土壌pH調整機作を系に導入すると、総じて、発生臭気を低減し、また無調整区で観察された腐敗臭的な種々の悪臭発生を抑制できることが分かった。
【0068】
続いて、油汚染及び揮発性有機汚染物質汚染の修復性能の検証を併せて実施した。結果を図7に示す。図7の結果は、緩衝剤区における昇温試験前後の土壌に対して各種揮発性汚染化合物の土壌溶出濃度を測定したものである。
【0069】
この図7により明らかなように、本発明による堆肥化昇温によって各種揮発性の汚染物質を効果的に浄化できることが確認された。また同時に添加した軽油分は、初期濃度3950mg/kgから860mg/kgまでの減少が見られ、加えて油膜/油臭が消失した。更に本発明により、油分含有に関しては一定の低減が、また油膜・油臭は完全な浄化が図れることが確認された。
【0070】
高温にまで至った堆肥化昇温作用による汚染物質の揮発作用が、この除染の主たる浄化機作であると推察され、本発明による堆肥化昇温を用いた脱着や揮発による物理学的処理により効率的に土壌の除染を図れることが明らかとなった。
【0071】
総じて、本発明たるpH安定機作を一連の堆肥化昇温プロセスに導入し、堆肥化昇温時の土壌pH変化を些少とすることにより、以下を特徴とする汚染土壌の浄化が図れることが分かった。
(1)従前技術に無い極めて迅速なる堆肥化昇温を達成し、揮発作用による効率的な土壌汚染の浄化を達成し、代表的な揮発性汚染物質及び油汚染での含有量の低減、油膜/油臭の浄化が可能であること。
(2)従前技術での堆肥化昇温技術にて課題であった副次リスクの生成、即ち、昇温遅滞、腐敗臭やアンモニア様の悪臭生成、有害微生物(病原微生物や汚染分解微生物等の中温菌)等の生成を些少とする副次リスク低減を十分に図れること。
(3)従前技術たる生石灰処理での課題、即ち、強アルカリ条件(とそれに伴う重金属溶出)への移行や水蒸気爆発等の極端な環境変化を引き起こすことなく、摂氏60度を超える温和かつ長期に亘る昇温を達成できること。
(4)加えて、賦存量が多く汎用性がある安価な糟糠類を昇温資材として本発明にて利用できること。
【実施例2】
【0072】
続いて、実施工規模での実汚染土を用いた本方法の有効性を、スタティックパイルを用いた方法と鋼鉄製の水タンクンク(20立米容)を用いた方法にて検証した。
【0073】
試験手順を以下に示す。
(a)汚染土壌99重量に対し昇温資材として米ヌカを重量比1で加えて供試土壌を作成した。尚、汚染土壌はトリクロロエチレンを含み油膜・油臭を呈する砂質土である。続いて上記土壌に対する施肥として昇温資材の重量比100に対し、窒素を5、リンを1の割合で添加し、それぞれ窒素肥料として尿素を、またリン肥料としてカリウム化合物を包含するリン酸緩衝剤(pH7)を用いた。総じて50立米の試験土を作成した。
【0074】
(b)上記試験土壌を35立米と15立米に2分し、35立米を用いてスタティックパイルを作成し、また15立米を鋼鉄製の水タンクンク(20立米容)に充填した。尚、それぞれに設置した土壌底面との接触部はあらかじめ砕石敷とし、内包する通気管を通じて、土壌下部の砕石敷全面から吸気が可能な構造とした。通気強度は対象土壌量に対し0.04vvmとし、以後、各試験区での土壌昇温効果と汚染浄化性状等を検証した。
【0075】
上記の実験結果を図5及び図8に示す。
図5より明らかな様に、スタティックパイル処理、タンク処理共に摂氏60度を越える昇温が図られたが、初期昇温はパイル工区がタンク工区に先行した。これは処理土壌表面たるタンク側壁等よりの放熱による熱損失がスタティックパイルよりもタンクで上回ることに拠るものと判断した。
【0076】
この損失の改善を図る目的から開始後60時間経過時で実施した切返し時に、タンク内を2槽とする中仕切りを設置し、熱損失程度の異なる2試験区を作成した。即ち、1槽は従来と同様の通気を、もう1槽は上部を塞いで供気ラインを設置し、加えて吸気ブロアのサクション側に熱交換器を設置し、堆肥化昇温によって暖められブロア吸気により系外に排出される廃熱で、熱交換器を通じて供気に付される空気を温め、この熱交換された暖気を土壌中に供気することにより、堆肥化昇温によって生じた廃熱の再利用を図る系を設定した。
【0077】
図5の60時間経過以後の結果により明らかな様に、タンク工区における熱交換有試験区は切返し後50時間程度を経て摂氏78度を超える昇温を達成した。一方、熱交換無試験区では昇温温度は摂氏65度程度に留まった。またパイル工区での最高温度は摂氏72度程度であり、今回の試験の中ではタンク工区における熱交換有試験区にて最も良い堆肥化昇温が観察された。
【0078】
土壌の汚染処理は、いずれの系も汚染浄化を達成したが、図8から明らかな様に上記昇温状態に応じてその浄化程度が異なる結果となった。それぞれの工区での摂氏50度程度の昇温時での汚染濃度は初期濃度と大差は無く、この摂氏50度以下での浄化効率は極めて低調であることが伺われた。
【0079】
一方、後の摂氏60度を越える昇温によって急激な汚染濃度減少とそれぞれの試験区で観察された昇温程度に応じた浄化が図られた(図8参照)。汚染浄化速度は、タンク工区(熱交換有)>パイル工区>タンク工区(熱交換無)の順であった。結果、この摂氏60度を超える温度での揮発による物理的浄化処理が一様に有効であること、また単に通気操作のみで昇温を実施するよりも、その廃熱の有効利用を図った昇温系を構築することにより、より熱効率の良き物理的浄化システムの構築が可能であることが分かった。
【0080】
総じて、有機性資材を堆肥化昇温材として汚染土壌に混合して昇温を図り、汚染物質の揮発により土壌の汚染処理を実施する土壌汚染処理方法において、図6に示す概念を踏襲するものであれば、有効な汚染浄化が図れることが実証された。即ち、少なくとも前記汚染土壌より揮発した揮発性汚染物質を吸気する吸気手段と、該吸気した汚染ガスを無害な排気に処理する排気除害手段と、を含むシステムにより前記一連のプロセスが実施される。
なお、本発明での吸引手段とは、吸引管や砕石層等からなる吸引部材2と吸引装置5(吸気ブロワ等)とから構成される一連のシステムを指す。また、排気除害手段とは、排気除害設備6に代表されるシステムを指す。
【0081】
詳しくは図6において、処理対象である混合土壌中の汚染土壌間隙1に存在する揮発性汚染物質を含む汚染ガスに対し、吸気部材2を通じた吸引装置5の吸引操作によりこの汚染ガスを回収すると共に、大気4を汚染土壌間隙1に取り込む。また回収した汚染ガスを熱交換装置3に通じて、前記汚染土壌間隙1に取り込む大気4を事前に昇温する。
【0082】
このように、汚染土壌間隙1に由来し吸気部材2から排気除害設備6に至る汚染ガスより堆肥化昇温に由来する廃熱を回収して、該回収した熱を堆肥化昇温の補助熱源として利用することで処理系全体の熱損失を減じた効率的な堆肥化昇温を図れるので、省エネルギー的な汚染土壌浄化を実施することができる。なお、熱交換装置3の設置は、前記吸気部材2から排気除害設備6に至る区間、あるいは吸気部材2や排気除害設備6自体であれば、その位置や形状を問うものではない。
【0083】
更に、熱交換装置3や吸引装置5を経た汚染ガスは、排気除害設備6にて清浄排気7とされ、大気開放される。本発明によるこの一連のシステム構成によって良好な浄化が達成される。なお、熱交換装置3や吸引装置5及び排気除害設備6の構成は、それぞれ一般的であるので詳細な説明は省略する。
【0084】
以上、本発明の実施例を説明してきたが、具体的な構成は前述した実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、前記施工の実施形態は、図6に示す概念にて包括される総合的な処理系を構築するものであれば、その形状、機種、種類を問うものではなく、実施例に示したスタティックパイル処理やタンク処理に限られるものではない。例えば、原位置にて複数軸混合機等の汎用地盤改良機材を用いて地中に垂直円柱状の反応域を複数形成し、この反応域内にて本発明原理を用いた浄化を実施する等の方法も、本発明の範疇であることはいうまでもない。
【0085】
また、熱交換を施した試験区のタンク周囲や配管に、熱損失の予防措置として断熱を施し熱損失の更なる低減を図る等、熱交換に付随する断熱施工等を一連で実施することは本発明の要旨を逸脱しない範囲であり、本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
汚染土壌に有機性の昇温資材を混合し、概して摂氏60度以上を保つ昇温を図って汚染物質の揮発を促す物理学的浄化処理において、特に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…汚染土壌間隙
2…吸気部材
3…熱交換装置
4…大気
5…吸気装置
6…排気除害設備
7…清浄排気
8…ガス流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性資材と汚染土壌の混合土壌に対して土壌間隙を好気条件に保つ吸気操作を実施し、摂氏60度以上に至る堆肥化昇温の保持により前記汚染土壌中の揮発性汚染物質の揮発を促す一連のプロセスから成る物理学的な土壌浄化方法において、
少なくとも前記堆肥化昇温に関与する微生物の代謝低下による昇温遅延の防止、及び有害微生物の増加抑制を目的として、前記混合土壌のpH値の変化を抑えるpH安定機作を前記プロセスに導入したことを特徴とする土壌汚染処理方法。
【請求項2】
前記pH安定機作が、前記混合土壌の調整時におけるpH緩衝能を有する資材の添加であることを特徴とする請求項1に記載の土壌汚染処理方法。
【請求項3】
少なくとも前記汚染土壌より揮発した揮発性汚染物質を含む汚染ガスを吸気する吸引手段と、該吸気した汚染ガスを無害な排気に処理する排気除害手段と、を含むシステムにより前記プロセスが実施され、
前記吸引手段から前記排気除害手段に至る前記汚染ガスより前記堆肥化昇温に由来する廃熱を回収して、該回収した熱を前記堆肥化昇温の補助熱源として利用することを特徴とする請求項1または2に記載の土壌汚染処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−212669(P2011−212669A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−281957(P2010−281957)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(508120400)有限会社エコルネサンス・エンテック (4)
【Fターム(参考)】