説明

土壌浸透式水質浄化装置

【課題】 土壌浸透浄化法において、土壌層内の空隙を確保し、土壌の透水性を維持することで、長期使用に耐える実用的な処理排水処理装置を提供する。
【解決手段】 土壌浸透式水質浄化装置1内に収容された土壌層2に、その上部から処理排水を散水させて浄化する。土壌層2は火山灰土壌等の土壌4を含有する。土壌層2の圧密を防止するため、複数の通路を有する中空骨格形状の成形ろ材5を土壌層中に混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌浸透式水質浄化装置の土壌浸透浄化槽内に、水浄化機能を有する土壌、例えば、灰色土、黒色土、赤色土、黒ボク土、褐色森林土、鹿沼土、赤玉土、まさ土、軽石、シラス土等の火山灰系土壌層、粘土質土壌層、浄水汚泥の土壌層等を設け、畜産排水、工場排水、下水の二次処理排水や汚濁した河川水及び水路水等に含有するBODやリンを除去するための土壌浸透式水質浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から処理排水を黒ボク土、赤玉土、鹿沼土など火山灰土壌に接触させて処理する土壌浸透浄化法において、土壌に生息する微生物によるBODの分解や土壌のリン吸着などによって浄化処理する方法が知られている。
【0003】
これは、浸孔を設けたパイプなどを散水管としこの周りを礫層で囲んだもので、処理排水を浄化処理した処理水は地下に浸透させたり、槽内に土壌を充填したものにあっては槽の下部から排出するものである。この土壌浸透浄化法は、自然の機構をほぼそのまま利用できるので資源やエネルギーの節約を図れる、装置構造が簡単で済む、悪臭や害虫の発生がない、維持管理の手間が少なくそのコストも低くて済む等々の他の浄化方法にない多くの利点を持っている。
【0004】
しかしながら、この従来技術では、2つの点で問題があった。1つ目は、過大な負荷がかけられず、通常の通水負荷が50〜100L/m2・日であって、処理能力が低いことである。2つ目は、土壌層の目詰まりが起こり易いことである。そのため、大量の処理排水を処理するには広大な敷地面積を要し、さらに目詰まりを起こさせない様に処理排水を河川水等で希釈するなど、運転管理が難しいことである。
【0005】
上記土壌浸透法の問題点を改善させた方法として、土壌湿潤処理方法や多段土壌式土壌浸透浄化方法がある。
【0006】
土壌湿潤処理方法としては、例えば、下部土壌層の上に処理排水拡散層が敷設され、この処理排水拡散層の中央上部に通水装置が配設され、この通水装置の周囲に上部土壌層が設置された構成のものが知られている(特許文献1)。単なる散水管で土壌層に湿潤するだけでは、処理排水を土壌全体に均一に拡散湿潤させることが困難であり、その湿潤が集中した部位の土壌に偏って目詰まりが発生するため、この特許文献1に示すものでは、処理排水が、処理排水拡散層から下部土壌層の上面全体に均一に拡散湿潤して浄化処理されることを狙っている。しかし、目詰まりを防止する点において、不十分であった。
【0007】
また、多段土壌式土壌浸透浄化方法としては、砂利、ゼオライト、軽石、活性炭等の通水性粒体層と黒ボク土、赤土、まさ土、鹿沼土などの自然土壌からなる土壌含有層とが交互に積層したレンガ状の土壌層(多段土壌)とし、この土壌層の上部に処理すべき処理排水を散水させるようにしたものである(特許文献2、3)。
【0008】
大部分の処理排水は水が浸透しやすい通水性粒体中を蛇行しながら流下し、一部は透水し難い土壌層を流下することで、処理排水と各層との接触時間は長くなり、微生物による浄化が良好となり、目詰まりの原因となる有機物は微生物分解を受け、土壌含有層の目詰まりが防止されることを狙ったものである。
【0009】
この多段土壌法は、好気的な通水性粒体層と嫌気的な土壌含有層の分化を促進して、有機物、窒素、リンの除去能を向上させる特長を有するものであって、この多段式土壌浄化技術により、土壌浄化装置は、下水やし尿の一次、二次処理排水、生活雑排水などの処理排水、更には汚濁河川水などの用水を効率的かつ比較的高速に浄化できる装置として実用化されている。
【特許文献1】特開平8−57488号公報
【特許文献2】特開2002−239572号公報
【特許文献3】特開2004−154696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この上記土壌湿潤処理方法や多段式土壌浄化方法においても、従来の土壌浸透浄化法に比べれば影響は少ないが、やはり土壌層での目詰まりの問題が発生する結果となっており、この目詰まり対策が強く望まれている。
【0011】
以下、土壌浄化における目詰まりのメカニズムについて説明する。土壌層内で浄化が行われる場所は、大小さまざまな土粒子間の空隙内である。処理排水がこの空隙を浸透・通過して行く際に、土壌粒子表面にさまざまな無機物、有機物が保持され、ろ過・吸着・凝固等の物理化学的反応が行われる。主としてこの空隙内が微生物群の生活圏となって生物分解が行われ、処理排水を浄化処理することとなる。このことは、土壌層に一定の空隙が確保されないと浄化機能が維持できなくことを意味する。
【0012】
また、土壌層は経時的に土壌の圧密化が進み、土壌の透水係数は著しく低くなってしまい、目詰まりを招く。
【0013】
本発明の課題は、現在その土壌層構造が問題になっている土壌浸透浄化法において、土壌層内の空隙を確保し、土壌の透水性を維持することで、長期使用に耐える実用的な水質浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記に鑑み開発されたもので、即ち、水質浄化機能を有する土壌層が設けられた土壌浸透式水質浄化装置において、土壌層の閉塞、圧密防止及び空隙確保を図る成形ろ材を土壌層内に混合させることで、土壌層自体の透水性が維持でき、水質浄化機能を十分に発揮できることが判明して本発明に至った。
【0015】
具体的には、請求項1に記載の発明は、土壌浸透式水質浄化装置内に収容された土壌層に、その上部から処理排水を散水させて浄化するようにした土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌層は、粒径が50mm以下の土壌を含有し、さらに、複数の通路を有する中空骨格形状であって、上記土壌層の圧密を防止する成形ろ材を土壌層中に混合させたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌は火山灰系土壌であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記成形ろ材は、中空球状または中空骨格塊状の形状からなり、外径が5〜20cmの範囲で、該成形ろ材の充填量が土壌層の容積比で10〜80%の範囲で、さらに土壌の充填量が土壌層の容積比で40〜90%の範囲であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌層の透水係数が1×10-2cm/s〜1cm/s であることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記成形ろ材は、プラスチック成形体からなり、該成形ろ材には、複数の貫通孔が同一方向に開口して形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記複数の貫通孔は補強リブで連結され、少なくとも一部の貫通孔は、その貫通孔を形成する壁部に開口部が形成され隣接する貫通孔に連通され、また一部の貫通孔は、貫通方向で途中まで同一径でその後開放されている形状となっていることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌浸透式水質浄化装置の上部位置に処理排水流入口が設けられ、その下部位置には、上記処理排水が浄化された処理水が排出される処理水排出口が設けられ、上記処理排水流入口と処理水排出口との間に土壌層を支持する支持体を備え、該支持体の下部に空気を供給する送気管を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記送気管には、外気温が低い時に空気の供給を停止させる制御手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、成形ろ材が土壌層の閉塞、圧密化を防止でき、土壌層全体に均一な空隙が確保され、処理排水が土壌層全体に均一に浸透することによって、処理排水と浄化能力を有する土壌との接触効率が高くなり、リン、BOD等の除去を効率よく行うことができる。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば、黒ボク土等の土壌層に対して混合した成形ろ材が土壌層の閉塞、圧密化を防止でき、土壌層全体に均一な空隙が確保され、処理排水が土壌層全体に均一に浸透することによって、処理排水と土壌との接触効率が高くなり、BOD、COD、色度及びリン等の除去を効率よく行うことができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、土壌層に所定量の成形ろ材と土壌を混成することによって、土壌層の透水性を維持できる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば、処理排水を安定的に土壌層に流下させることができる。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば、成形ろ材が潰されることを防止し、且つ土壌が圧密化することが防止できるので、透水性を長期間に亘って維持できる。
【0028】
請求項6に記載の発明によれば、成形ろ材が潰されることを効果的に防止でき、且つ土壌が圧密化することが効果的に防止できるので、透水性をより長期間に亘って維持できる。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば、土壌層下部から土壌層全体に空気を供給することによって、土壌層を好気的条件にすることができる。
【0030】
請求項8によれば、外気温度の低い冬場においても、外気による土壌層の温度の低下を防止し、土壌層での処理を四季を通じて年中、効果的に機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態1)
実施形態1に係る土壌浸透式水質浄化装置1は、図1に示すように、土壌浸透式水質浄化装置1内に土壌層2が設けられ、この土壌層2を支持する通水性を有する支持体3が設けられている。土壌層2は土壌4を含有し、この土壌層2中にプラスチック製の成形ろ材5が混合して配設されている。土壌層2の上部に処理排水供給用の散水ノズル6が配設されている。支持体3の下部には、土壌層2を浸透した処理水を排出する排出管7が配設され、微生物に活性を与えるための空気を供給する送気管8が配設されている。9は送気用ポンプである。
【0032】
なお、本実施形態1では、支持体3の下部は空間としたが、例えばφ5〜20cm程度の礫等、通気性が損なわれないものであれば、充填してもよい。
【0033】
土壌4は、灰色土、黒色土、赤色土、黒ボク土、褐色森林土、鹿沼土、赤玉土、軽石、シラス土等の土壌の1種又は2種以上を混合した火山灰系の自然土壌に限らず、有機物除去能力等の水浄化機能を有する土壌であれば、花崗岩等の風化に伴って形成された砂やまさ土、さらにゼオライト等の天然物などでも使用可である。自然土壌としては、浄水処理場で発生する汚泥等も水浄化機能を有する土壌であり、この浄化汚泥からなる土壌も使用可能である。また、人工的に製造した土壌などでも使用可である。但し、人工的に製造した土壌は、製造コストがかかるが、火山灰土壌は自然の土壌であり、製造コストが安く、入手も容易であるメリットを有するので、火山灰土壌が好ましい。
【0034】
また、成形ろ材5は、土壌4と一緒に土壌浸透式水質浄化装置1内の支持体3の上に投入する。成形ろ材5の土壌4に対する割合は、土壌量に比べて少なければ圧密防止効果が発揮されず、逆に多いと土壌4の量が少なくなり、土壌層2内で土壌によって保持できるリン等の吸着量や生息する微生物の量が少なくなるため、成形ろ材5の量は土壌4の形状、種類や通水負荷を考慮して適切に定める必要があるが、成形ろ材5の充填量は土壌層の容積比で10〜80%の範囲が適当である。好ましくは、30〜60%が良い。
【0035】
なお、土壌層2中の全体に成形ろ材を混合して配設したが、圧密化が起き易い土壌層2の下層のみに成形ろ材を混合することもできる。
【0036】
また、土壌層に充填する土壌の充填量は土壌層の容積比で40〜90%の範囲とすることが好ましい。土壌が少な過ぎると、土壌層2内で土壌によって保持できるリン等の吸着量や生息する微生物の量が少なくなり、逆に土壌が多すぎると、空隙が少なくなり、透水性が低下するので、上記範囲とする。特に、成形ろ材5の空隙内部には、部分的に土壌が流れ込んでいても良いが、この成形ろ材5の内部は全て土壌で埋められるのではなく、空隙を確保することが必要であり、土壌2と成形ろ材5とは、空隙を確保して混合される。
【0037】
上記空隙を確保するために、土壌2と成形ろ材5を混合して土壌層2を形成した際に、土壌層2の透水係数は1×10-2cm/s〜1cm/sの範囲とすることが好ましい。透水係数が小さいと空隙が少なく土壌の圧密化か起こり、透水係数が大きいと空隙が多くて、浄化機能が不足するので、上記範囲とする。
【0038】
また、成形ろ材5には、土壌層2に混入した際に、土壌や水によって長期的に安定して潰れない強度を有すること、また、その内部を土壌や水が通流でき、受入れた土壌が圧密にならないことが必要であり、その形状、大きさ、強度、素材等は以下の通りである。
【0039】
成形ろ材の形状は、極端な棒状や板状は不適であって、中空球状または中空骨格塊状が好ましい。成形ろ材の大きさは、土壌粒径よりも小さければ圧密防止の効果は少なくなるが、本発明で用いる土壌粒径は、50mm以下であることから、土壌粒径より大きい5〜20cmの球状であることが好ましい。強度は、土壌層2に混合しても変形せず、水に対して脆くなく、砕けたりしない程度であれば十分である。素材は、ポリプロピレン、ナイロン、塩化ビニル、アクリル等の化学製プラスチックが好ましいが、微生物によって分解されにくいものであれば、特に限定しない。
【0040】
実施形態1で使用したプラスチック成形ろ材5は、図3に示すような構造であり、市販(関西化工株式会社:商品名「MSフィラ」)されているポリプロピレン製で直径約5cmの骨格球状成形ろ材である。
【0041】
図3(a)、図3(b)、図3(c)は成形ろ材5の具体的な構造を示す。図3(a)、(b)は側面図、図3(c)は斜視図を示す。具体的な構造は、4つの貫通孔51a、51b、51c、51dが貫通孔を形成する壁部51によって90°間隔で形成され、上記4つの貫通孔51a、51b、51c、51dは同一方向に開口されており、対向する2個の貫通孔51a及び51cは貫通孔の一端から長手方向略半分まで同じ径で形成され、残り半分は開放されている。一方、貫通孔51b及び51dも、貫通孔の他端から長手方向略半分まで同じ径で形成され、残り半分は開放されている。これら4つの貫通孔51a〜51dを形成する壁部51は長手方向中間位置に設けられた鞍型の連結プレート52で連結され一体化されている。さらに、対向する2つの貫通孔51aと51cを形成する壁部51同士は補強リブ53で連結されている。同じく2つの貫通孔51bと51dとを形成する壁部51同士も補強リブ53で連結されている。また、貫通孔51a〜51dを形成する壁部51と連結プレート52とは補強リブ54で連結されている。これらの連結構造により、強度を確保され、土壌の圧密化を防止している。4つの貫通孔51a〜51d、連結プレート52及び補強リブ54には、開口部55が形成され、水の通流路が確保される。
【0042】
この成形ろ材5では、貫通孔51a〜51dは基本的に同じ方向に向けて設けられており、通流抵抗を少なくしている。その上で、連結プレート52及び補強リブ53、54を設けて成形ろ材5の潰れを防止するとともに、貫通孔を形成する壁部51、連結プレート52、補強リブ54に開口部55が形成されることで、部分的に連通可能となっており、土壌と処理排水との接触効率を向上するようになっている。
【0043】
図2に、上記成形ろ材5を土壌4に混合した土壌層2の模式図を示す。この鞍形を組合わせた表面積が広く、空隙率の高い形状である成形ろ材5を土壌層2に混合することによって、土壌の一部が成形ろ材5内に混入されても、成形ろ材5が形状を維持でき、成形ろ材5内の土壌の圧密化が防止できるので、成形ろ材5内の空隙内も通り易くなっている。そのために、処理排水は、成形ろ材5間も、成形ろ材5内の空隙も通流し易く、均等に土壌層2に浸透することができる。土壌層の空隙確保によって、処理排水と土壌の接触効率は向上し、多量の微生物を土壌に保持でき、また、リン等の土壌への吸着など、土壌浸透式水質浄化法の水質浄化機能を高めることができる。
【0044】
(実施形態2)
実施形態2の係る土壌浸透式水質浄化装置11を図4により説明する。本実施形態2では、幅0.85m×長さ1.3m×高さ2.5mの規模の土壌浸透式水質浄化装置11を用いた。土壌浸透式水質浄化装置11内に支持体13を設置し、この支持体13上に土壌層12を設けた。土壌層12は、嵩容積で800Lの黒ボク土の土壌14に、図5に示す骨格球状成形ろ材15を土壌層12の容積比で40%混合し、層高さ1m(有効容積1.1m3)の土壌層2を構成した。土壌層12の上部に処理排水供給用の散水ノズル16が配設されている。支持体13の下部位置には、土壌層12を流下した処理水を排出する排出管17が配設され、微生物に活性を与えるための空気を供給する送気管18が配設されている。送気用ポンプは省略した。20は、外気温が低い時に送気管18からの送気を止める制御装置を示す。
【0045】
この実施形態2で使用した成形ろ材15は、図5に示されるように、市販(関西化工:商品名「MSボール」)されているポリプロピレン製で直径15cmの骨格球状成形ろ材15である。図5(a)は成形ろ材の正面図、図5(b)は側面図、図5(c)は斜視図を示す。球体の中央に貫通孔251aが貫通孔を形成する壁部251によって形成され、貫通孔251aの周囲には、貫通孔251aと間隔を空けて、貫通孔251aと同方向に一方側から4つの貫通孔252a、252b、252c、252dが貫通孔を形成する壁部252によって90°間隔で形成されている。他方側からは4つの貫通孔252e、252f、252g、252hが貫通孔252e〜252hを形成する壁部252によって90°間隔で、一方の貫通孔252a〜252dの間に位置して形成されている。一方側の4つの貫通孔252a〜252dは貫通方向の略半分の位置まで同一径で形成され、その後は開放され、他方側の4つの貫通孔252e〜252hは、反対側から略半分の位置まで同一径で形成され、その後は開放されている。8個の貫通孔252a〜252hを形成する壁部252は隣接する貫通孔を形成する壁部252と補強リブ253で連結され、中央の貫通孔251aを形成する壁部251とも補強リブ254で連結されている。補強リブ253、254と貫通孔251a、252a〜252hで形成される空間に上記貫通孔252a〜252hが通流可能に連通している。貫通孔252a〜252hを形成する壁部252には開口部255が形成され、水の通流路が確保される。貫通孔252a〜252hを形成する壁部252の内壁には、補強用のブリッジ256が一体で形成されている。
【0046】
この成形ろ材15では、貫通孔251a及び252a〜252hは基本的に同じ方向に向けて設けられており、通流抵抗を少なくしている。その上で、補強リブ253、254を設けて成形ろ材15の潰れを防止するとともに、隣接する貫通孔とも部分的に連通可能となっており、土壌と処理排水との接触効率を向上するようになっている。
【0047】
本実施形態2では、土壌浸透式水質浄化装置1を、処理排水を上部の散水ノズル16から流して長期間使用しても、土壌層12が圧密化することが無く、透水性は良好に維持できた。その結果、処理排水中のBODも大幅に低減でき、処理排水を浄化できた。本実施形態2では、土壌層に適正容量の成形ろ材15を混入することで、成形ろ材15の強度が十分であって潰れることが無く、その上、土壌の圧密化を防止できて、通流性を維持できることを示している。
【0048】
なお、実施形態2では、土壌浸透式水質浄化装置11が大きい容積であり、成形ろ材15も大きなものを使用した。しかし、成形ろ材は実施形態1のものを使用しても良く、両成形ろ材を混合して使用しても良い。
【0049】
本実施形態2の土壌浸透式水質浄化装置11では、ブロワ(図示せず)から送気管18を経由して土壌層12内に空気を供給する構成となっており、この空気の供給を、外気温によって停止させる制御手段20を備えている。これによって、外気温が下がる冬季において、外気からの空気の供給を停止して、土壌層12内の温度ないしは水温の低下を防止できる。このことによって、表1に示すように、土壌層12内に生息する微生物群の活性を維持させることができる。表1に「空気の供給なし」と「空気供給あり」の水温、溶存酸素(DO)の比較を示す。表1から分かるように、外気温が下がる冬季において、空気の供給を停止した土壌層12内の水温は、空気を供給した土壌層12と比べて高くすることができた。なお、本実施形態2では、空気の供給を完全に停止しても、溶存酸素は著しく低下しなかったが、溶存酸素が十分に確保できない場合や土壌層12内の温度や水温が著しく低下しない場合は、空気の供給は特に停止しなくてもよい。
【0050】
この制御手段20は、外気温を検出して、自動で空気の供給を停止するように制御しても良く、また、手動で例えば送気管18に設けた開閉バルブ等を開閉するようにしても良い。外気温度は直接感知することもできるし、外気温に代わって、四季(冬期)の寒い時期を検出して、制御装置20を制御するようにしても良い。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、実施形態1及び実施形態2について、比較例1及び比較例2とともに、透水性能や浄化性能を実験した結果について説明する。
【0053】
(実施例1)
図1に示す土壌浸透式水質浄化装置1として、直径15cm、高さ50cmの規模の土壌浸透式水質浄化装置1を使用した。この土壌浸透式水質浄化装置1において、土壌層2の支持体3上に、黒ボク土の土壌4に、図3に示すポリプロピレン製で直径約5cmの骨格球状成形ろ材を土壌層2の容積比で40%混合し、層高さ30cm(有効容積5.3L)の土壌層2を構成した(骨格球状成形ろ材を32個、黒ボク土を3.5L充填)。また、土壌4の充填量は土壌層の容積比で66%であった。
【0054】
土壌層2には、まず支持体3の上に成形ろ材5を自然落下により投入して、次に黒ボク土を成形ろ材5が隠れるまで塗す(まぶす)ように投入した。これらの操作を繰り返しながら、土壌層2は、土壌4と成形ろ材5を混成した土壌層2を形成した。
【0055】
なお、ろ材の容積比及び土壌の容積比は、それぞれ次式で算定した。
【数1】

ここで、rはろ材の半径、nはろ材の充填個数、Vは土壌層の容積である。本実施例1では、r=0.025m、nは32個、Vは5.3×10-33である。
【0056】
【数2】

ここで、vは充填土壌の嵩容積、Vは土壌層の容積である。本実施例1では、v=3.5×10-33、Vは5.3×10-33である。
【0057】
(比較例1)
なお、比較例1として、図1と同じ大きさ・形状の土壌浸透式水質浄化装置1の支持体3上に、同じ黒ボク土のみで層高さ30cm(有効容積5.3L)の土壌層2を構成した(図6参照)。この図6では、図1と同様なものについては同じ符号を付して説明を省略する。
【0058】
上記実施例1と比較例1とで、水の透水状態を実験して、比較した。なお、この実験では処理排水を畜産排水の二次処理排水とし、表2に処理排水性状を示すものを使用した。
【0059】
【表2】

【0060】
実験では、処理排水を、通水負荷1.5m3/m2・日として、実施例1と比較例1の土壌浸透式水質浄化装置1の土壌層2の上部より供給しながら土壌層2に浸透させ、土壌層2の下部より排出した。また、土壌層2内の微生物を活性させるため、各々浄化槽の下部の送気管8から空気を送気した。試験期間中、水温は20〜25℃の範囲内であった。
【0061】
なお、本発明での通水負荷とは、通水量又は処理水量を土壌槽の開口面積で除したものである。
【0062】
両例とも、処理排水を10日間、連続通水し、各通水開始時、終了時に各土壌浸透式水質浄化装置1の土壌層2の閉塞や圧密状況を知るため、変水位透水試験法に基づいて室内試験を行って各土壌層2の透水係数を求めた。この結果を表3に示す。
【0063】
表3の結果から土壌4に骨格球状成形ろ材5を混合した本実施例1の土壌層2の透水係数は、通水開始時の透水係数で0.14と高く、黒ボク土のみの土壌4からなる比較例1の土壌層2の透水係数よりもかなり大きい。また、通水から10日間後の透水係数も0.10と高いことから、土壌の圧密化を防止しつつ、目詰まりし難い土壌構造であることが明らかになった。
【0064】
一方、黒ボク土のみを充填した土壌層2からなる比較例1では、通水開始時の透水係数は、2.2×10-3 cm/sであったが、10日後の通水終了後の透水係数は、さらに低下した。これは、処理排水の流入によって土壌粒間にSS分や汚泥が蓄積され、さらに土壌自身の圧密化が進み、黒ボク土の土壌層は土壌浸透し難くなり、透水係数をさらに低下させたことによるものである。
【0065】
【表3】

【0066】
(実施例2)
実施例2は、実施形態2に示される土壌浸透式水質浄化装置1を使用して実験した。図4は、幅0.85m×長さ1.3m×高さ2.5mの規模の土壌浸透式水質浄化装置11において、土壌層12の支持体13上に、嵩容積で800Lの黒ボク土の土壌14に、直径15cmの骨格球状成形ろ材15を土壌層12の容積比で40%混合し、層高さ1m(有効容積1.1m3)の土壌層12を構成した(骨格球状成形ろ材を250個、黒ボク土を800L充填)。また、土壌4の充填量は土壌層の容積比で73%であった。
【0067】
なお、本実施例2では、実施例1の[数1]、[数2]と同様にして、ろ材の容積比及び土壌の容積比を算定した。
【0068】
本実施例2では、土壌浸透式水質浄化装置11の槽底部から土壌層12内に空気を供給する送気管18を設置し、120L/minで送気した。土壌層12の底部より送気することで、土壌層12全体に空気を供給でき、高度な好気的条件を維持できる。土壌層12内の微生物を活性させるため、各々土壌浸透式水質浄化装置11内に送気管18から空気を送気した。
【0069】
本実施例2では、処理排水をポンプ(図示せず)で圧送し散水ノズル16又は複数の散水孔を有する散水管を経由して散水したが、処理排水を上方から均一に散水または滴下し得る散水方法であれば、上記散水ノズルに特に限定しない。
【0070】
(比較例2)
比較例2として、図7に示す土壌浸透式水質浄化装置31を使用した。図3と同じ大きさ・形状の土壌浸透式水質浄化装置31の支持体33上に、通水性粒体層35と土壌含有層34とが交互に積層したレンガ状の土壌層(多段土壌)で層高さ1m(有効容積1.1m3)の土壌層32を構成した。比較例2では、通水性粒体層35には粒径1〜3mmのゼオライト又は軽石を充填し、土壌含有層34には、黒ボク土を主体に粉末状木炭、おがくず及び金属鉄粒子を混合した。散水ノズル36を土壌層32の上部に設置し、支持体33の下部に排出管37を設置した。土壌層32内の微生物を活性させるため、空気を積層土壌層中に供給する送気管38を通水性粒体層35中に挿入し、土壌浸透式水質浄化装置31に送気管38から空気を送気した。
【0071】
実験では、処理排水を実施例1と同様に表1に示す処理排水を使用した。
【0072】
処理排水は、通水負荷2m3/m2・日として、実施例2では土壌浸透式水質浄化装置11の土壌層12の上部の散水ノズル16から供給しながら土壌層12に浸透させ、土壌層12の下部の排出管17より排出させた。同様に、比較例2では土壌浸透式水質浄化装置31の土壌層32の上部の散水ノズル36より、同じ処理排水を供給しながら土壌層32に浸透させ、土壌層32の下部より排出させた。
【0073】
試験期間中、気温は3〜25℃、水温は4〜20℃の範囲内であった。
【0074】
両例とも、処理排水を約6ヶ月間、連続通水して水質浄化試験した結果を表4に示す。
本実施例2においては、表4から分かるように、主な測定項目をあげると、通水開始から6ヶ月後の処理水におけるリンの平均除去率は、実施例2で81%、比較例2で28.6%、BODの平均除去率は実施例2で79.7%、比較例2で47.5%、色度の平均除去率は、実施例2で40.7%、比較例2で22.2%であった。
【0075】
【表4】

【0076】
実施例2の成形ろ材15を混合した土壌層12全体の透水係数は、通水開始時では0.2cm/sであった。また、通水開始時から6ヶ月経過しても、透水係数は0.18cm/sであり、ほとんど低下せず、土壌層12の閉塞、圧密化は生じず、土壌14と処理排水との接触効率は確保され、その結果、リン、BOD、色度等の除去率は高くなった。
【0077】
それに対して、比較例2では、土壌層32の全体の透水係数は、通水開始時では4×10-2 cm/sを確保できるが、通水から6ヶ月経過した場合の通水性粒体層35の透水係数は、0.8cm/sと高いものの、土壌含有層34の透水係数は、1.2×10-3 cm/sであった。通水性粒体層35と土壌含有層34の透水係数が大きく異なるので、図8に示すように、同一平面状の積層土壌層においては、通水性粒体層35と土壌含有層34の透水係数に差があったため、処理排水は土壌含有層34にはほとんど浸透せず、通水性粒体層35にその大部分が流下した。
【0078】
この結果、表4に示すように、処理排水中の汚濁物質除去に最も寄与する土壌含有層34に処理排水が接触浸透しなかったため、比較例2のBOD、リン、色度等の除去率は低くなった。
【0079】
本実施例2で用いた処理排水は、畜産排水に由来する処理排水であるため、処理排水中に色度成分、DOC等、難分解性有機物を含有しており、COD等の除去率は低かったが、場合によれば、土壌浸透浄化装置11の後段に難分解性有機物を除去する活性炭等を充填した多孔質吸着処理槽を設置してもよい。
【0080】
また、実施形態1、2では、散水ノズル6、16の散水によって、土壌層2、12の上部の土壌4、14が土壌層2、12の下部に流出することはなかったが、土壌の流出防止のために散水ノズル等を用いて、土壌層2、12の上部全体に散水した方が好ましい。
【0081】
また、実施形態1では、通水負荷1.5m3/m2・日とし、実施形態2では、通水負荷1.2m3/m2・日としたが、土壌と処理排水の接触時間を十分確保するためには、通水負荷を10m3/m2・日以下にすることが好ましい。
【0082】
さらに、実施形態1、2では土壌層2、12を支持する支持体3、13の下部は、充填物のない空間としたが、φ5〜20cm程度の礫等を充填してもよい。
【0083】
以上で明らかなように、本発明によれば、土壌層に成形ろ材を混合して構成し、土壌の閉塞、圧密防止が可能であり、土壌層の空隙確保によって、処理排水と土壌の接触効率は向上し、多量の微生物を土壌に保持でき、リン等の土壌への吸着など、土壌浸透浄化法の水質浄化機能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施形態1に係る土壌浸透式水質浄化装置の概略図である。
【図2】実施形態1に係る土壌浸透式水質浄化装置の模式を示す概略図である。
【図3】実施形態1で使用した成形ろ材の図である。図3(a)、(b)は成形ろ材の側面図、図3(c)は斜視図を示す。
【図4】実施形態2に係る土壌浸透式水質浄化装置の概略図である。
【図5】実施形態2で使用した成形ろ材の図である。図5(a)は成形ろ材の正面図、図5(b)は側面図、図5(c)は斜視図を示す。
【図6】従来の土壌浸透式水質浄化装置について、比較例1を示す概略図である。
【図7】従来の土壌浸透式水質浄化装置について、比較例2を示す概略図である。
【図8】従来の土壌浸透式水質浄化装置の模式を示す比較例2の概略図である。
【符号の説明】
【0085】
1 土壌浸透式水質浄化装置
2 土壌層
3 支持体
4 土壌
5 成形ろ材
6 散水ノズル
7 排出管
8 送気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌浸透式水質浄化装置内に収容された土壌層に、その上部から処理排水を散水させて浄化するようにした土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌層は、粒径が50mm以下の土壌を含有し、さらに、複数の通路を有する中空骨格形状であって、上記土壌層の圧密を防止する成形ろ材を土壌層中に混合させたことを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌は火山灰系土壌であることを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記成形ろ材は、中空球状または中空骨格塊状の形状からなり、外径が5〜20cmの範囲で、該成形ろ材の充填量が土壌層の容積比で10〜80%の範囲で、さらに土壌の充填量が土壌層の容積比で40〜90%の範囲であることを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌層の透水係数が1×10-2cm/s〜1cm/s であることを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記成形ろ材は、プラスチック成形体からなり、該成形ろ材には、複数の貫通孔が同一方向に開口して形成されていることを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項6】
請求項5に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記複数の貫通孔は補強リブで連結され、少なくとも一部の貫通孔は、その貫通孔を形成する壁部に開口部が形成され隣接する貫通孔に連通され、また一部の貫通孔は、貫通方向で途中まで同一径でその後開放されている形状となっていることを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記土壌浸透式水質浄化装置の上部位置に処理排水流入口が設けられ、その下部位置には、上記処理排水が浄化された処理水が排出される処理水排出口が設けられ、上記処理排水流入口と処理水排出口との間に土壌層を支持する支持体を備え、該支持体の下部に空気を供給する送気管を備えることを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。
【請求項8】
請求項7に記載の土壌浸透式水質浄化装置において、上記送気管には、外気温が低い時に空気の供給を停止させる制御手段を有することを特徴とする土壌浸透式水質浄化装置。

【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−14896(P2007−14896A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200042(P2005−200042)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【特許番号】特許第3792248号(P3792248)
【特許公報発行日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(397032389)エヌエス環境株式会社 (2)
【Fターム(参考)】