説明

土壌試料の取り出し装置および取り出し方法

【課題】 土壌試料に対して圧縮力やせん断力による影響を与えることなく、土壌試料を取り出すことができる装置および方法を提供する。
【解決手段】 土壌試料の取り出し装置は、チューブ10内に収容された土壌試料を取り出す装置である。この装置は、底面が一定曲率を有しチューブ10の外周面と隣接するチューブ溝11を備えた、チューブ10を収容し固定するためのベース部材12と、チューブ10を切削するための切削部材13と、切削部材13をチューブ10の長手方向へ滑動させるためのスライダ14とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング採取した土壌試料をコアチューブから取り出す際、土壌試料に圧縮力やせん断力等を発生させないように取り出すことができる装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を建築する前には、地盤調査および地盤改良が行われる。この地盤調査において、また、地盤改良後の事後調査において、ボーリング調査が行われる。このボーリング調査では、原位置においてコアボーリングが行われ、室内試験において観察の上、土壌試料を取り出し、物性試験や力学試験として一軸圧縮強度試験や三軸圧縮試験が、また、液状化対策の改良効果確認として繰り返し三軸試験等が行われる。一般に、原位置から採取したコアチューブから土壌試料を取り出す場合、その土壌試料の押し出し装置として、油圧式のチューブ抜き取り装置や水平試料抜き取り装置が使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの2つの装置を用いて軟弱な試料を押し出す場合には、いずれもチューブ内の土壌試料に対して圧縮力を作用させることになり、その後で行われる透水試験等の物性試験や強度試験の結果に影響を与える可能性があり、この影響を無視することはできない。ここで、軟弱な試料とは、粘着力が小さい、あるいは比較的圧縮性の高い砂地盤や粘性土等の低強度の地盤、低強度に改良された地盤から採取した試料をいう。
【0004】
例えば、試料円筒を土壌中に挿入し、試料円筒内に土壌試料を収容して採土し、試料押出円板を試料円筒の一端から押し込み、他端から土壌試料を押し出す方法および装置が提案されている(特許文献1参照)。この装置は、所定厚さの試料押出円板を複数用意し、試料押出円板を押し込んだ枚数により深度別に分別採取することができることを特徴としている。
【特許文献1】特開2001−124672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、一方から押し出して土壌試料を取り出す手段および方法しか提案されておらず、押し出しする際の圧縮や試料採取時における乱れの影響があるので、両端部を切り取って中央部のみが試験体として採用されている。
【0006】
しかしながら、図1に示すように、押し出し板1を矢線Aに示す方向へ移動させて押し出しする際、その中央部の土壌試料も圧縮力を受けるとともに、土壌試料2とチューブ3とが接触する面では摩擦を生じ、矢線Aとは反対方向の矢線Bに示す方向にせん断力も作用する。このため、土壌試料2の押し出しがうまくいき、その形が崩れていないにしても、少なからず圧縮力やせん断力を受けており、取り出した土壌試料2の透水性や強度等を過小あるいは過大評価する可能性がある。
【0007】
例えば、水分が多い軟弱な試料や柔らかい土壌試料は、圧縮により密になって強度が増加したり、また、強度をもつ試料であっても押し出しの際、チューブとの摩擦によってせん断力を受けると、土壌試料をうまく取り出すことができたとしても、その後の土壌試料の物性試験や強度試験を実施できない場合や強度が低くなってしまう場合がある。
【0008】
押し出しする際には、土壌試料全体に対して圧縮力が作用しているのはもちろん、どの程度影響が土壌試料に残留しているか不明である。また、定量的に土壌試料に与えている影響も明らかにされていない。このように、従来の方法や装置は、土壌試料に対して圧縮力やせん断力による影響を与えるものであり、有効な取り出し方法や装置が普及していないのが現状である。
【0009】
そこで、土壌試料に対して圧縮力やせん断力による影響を与えることなく、土壌試料を取り出すことができる装置および方法の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、チューブ内に採取した土壌試料を無理に押し出しせず、チューブを2箇所同時に、かつチューブのみを切削することにより、土壌試料には一切の影響を与えることなく、取り出すことができることを見出した。
【0011】
土壌試料にまでカッター等の切削部材が到達しないように、切削部材の突出量を調整することで、短時間に切削することができる。また、チューブを載せて固定するための専用溝、スペーサおよび固定治具によってチューブを固定した状態で、切削部材により切削することができるため、安定して切削することができる。
【0012】
すなわち、本発明によれば、チューブ内に収容された土壌試料を取り出す装置であって、底面が一定曲率を有しチューブの外周面と隣接するチューブ溝を備えた、チューブを収容し固定するためのベース部材と、チューブを切削するための切削部材と、切削部材をチューブの長手方向へ滑動させるためのスライダとを含む、土壌試料の取り出し装置が提供される。
【0013】
さらに、長手方向へのチューブの移動を抑止するためにチューブの両端に配置される押さえ部材をさらに備えることができる。また、チューブとその押さえ部材との間にチューブスペーサを用いて固定することもできる。
【0014】
スライダは、レール溝を備える外側レールと、前記レール溝に嵌合して滑動する内側レールとを含むスライドレールであり、外側レールまたは内側レールの一方がチューブ溝に沿ってベース部材に取り付けられる。このスライドレールは、ベース部材の表面に対して垂直に延び、側面からチューブに向けて突出するように切削部材を配設する切削部材取り付け部を含み、切削部材取り付け部の底面に外側レールまたは内側レールの他方が取り付けられる。
【0015】
スライダおよび切削部材はチューブを介して対向するように2つずつ設けられ、2つの切削部材取り付け部は互いに連結用テーブルにより連結されており、連結用テーブルに接合されたナットと、ナットの穴に挿通して延びるねじ軸と、ねじ軸のねじ溝とナットのねじ溝との間に配設される複数のボールと、ねじ軸の一端に取り付けられ、ねじ軸を一定方向に回転させるためのハンドルとを備えるボールねじをさらに含む。このボールねじを使用することで、2箇所同時に切削することができる。
【0016】
本発明では、土壌試料の取り出し装置のほか、土壌試料の取り出し方法も提供することができる。この方法は、土壌試料が収容されたチューブを、ベース部材に設けられた底面が一定曲率を有しチューブの外周面と隣接するチューブ溝に収容し固定する段階と、チューブの一端においてチューブのみを切削するように切削部材の先端部の位置を調整する段階と、スライダにより切削部材をチューブの長手方向へ滑動させつつチューブを切削する段階とを含む。
【0017】
この方法では、さらに、長手方向へのチューブの移動を抑止するためにチューブの両端に押さえ部材を配置する段階を含む。このとき、チューブとその押さえ部材との間にチューブスペーサを挿入して固定することができる。
【0018】
切削部材の先端部の位置を調整する段階は、切削部材取り付け部の側面からの切削部材の突出量を調整する段階を含む。
【0019】
チューブを切削する段階では、ハンドルを一定方向に回転させることにより、ナットをねじ軸の長手方向へ移動させ、2つの切削部材をチューブの長手方向へ滑動させつつチューブを2箇所同時に切削することができる。また、2箇所同時に切削した後、チューブを90°回転させ、上記調整する段階と切削する段階を繰り返す段階を含むことができ、合計4箇所を切削することができる。これは、2箇所のみの切削では、チューブ内に収容された土壌試料がうまく取り出せない場合があるからである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の土壌試料の取り出し装置は、コアボーリングにより採取されたチューブ内の土壌試料に、一切の衝撃、振動、損傷および破損を与えることなく、その土壌試料をコア試験体として取り出すことができる。
【0021】
一般の油圧式のチューブ抜き取り装置や水平試料抜き取り装置では土壌試料に直接、圧縮力が作用するが、本発明の装置および方法では、土壌試料に直接、圧縮力、せん断力、曲げ等が作用することはなく、容易かつ安全に試料を取り出すことができる。
【0022】
また、スライダを備えることで、手作業でチューブを切削するのに比較して、チューブを安定かつ水平に切削することができ、短時間で、かつ正確に切削することができる。チューブの両端に押さえ部材を配置することで、長手方向へのチューブの移動を抑止し固定することができる。また、ボールねじを使用し、切削部材およびスライダを2つずつ設けることで、チューブを2箇所同時に切削することができ、効率的に土壌試料を取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の土壌試料の取り出し装置および方法を、図面を参照して詳細に説明する。上述したように、建物を建築する場合、地盤調査を行い、土壌が汚染されている場合には土壌浄化が、また、地盤強度が不足する場合にはセメント等の固化材を注入して地盤改良が行われる。その後、その土壌が浄化されたか、あるいは所定の強度となったかを確認するために、事後調査が行われる。
【0024】
この調査は、ボーリング装置を使用し、中空の円管であるコアチューブを回転させつつ土壌に挿入することにより、そのチューブ内に土壌を採取し、採取した土壌を試験用の試料として使用し、物性試験や力学試験を実施することにより行われる。その際、チューブから土壌試料を取り出さなければならないが、取り出し中に圧縮等されると、正確な物性や力学的特性を得ることができないため、なるべく圧縮力やせん断力を加えることなく、チューブから取り出さなければならない。本発明の土壌試料の取り出し装置は、こういった力を加えることなく、また、土壌試料を損傷することなく、チューブ内から容易に取り出すことができるため、正確な物性や力学的特性を得ることができる。
【0025】
図2〜図4は、本発明の土壌試料の取り出し装置の構成例を示した図である。図2は、その平面図を、図3はその側面図を、図4はその正面図をそれぞれ示す。この装置は、チューブ10内に収容された土壌試料に対し圧縮力やせん断力を加えることなく、土壌試料を損傷することなく、チューブ内から取り出す装置であり、底面が一定曲率を有しチューブ10の外周面と隣接するチューブ溝11を備えた、チューブ10を収容し固定するためのベース部材12と、チューブ10を切削するための切削部材13と、切削部材13をチューブ10の長手方向へ滑動させるためのスライダ14とを含む。
【0026】
図2〜図4では、長手方向へのチューブ10の移動を抑止するために、チューブ10の両端に配置される押さえ部材15をさらに備えており、チューブ10と押さえ部材15との間にはチューブスペーサ16を挟み込んでチューブ10がその長手方向へ移動しないように固定している。ただし、図3に示す側面図では、チューブ溝11の形状、切削部材13の位置、押さえ部材15の位置等を理解しやすくするために、チューブスペーサ16が省略されている。
【0027】
この装置では、切削部材13によりチューブ10を切削するため、チューブ10は、切削部材13によって容易に切削することができる材質でなければならない。このため、チューブ10の材質はプラスチック樹脂が好ましい。なお、プラスチック樹脂であっても、土壌内に回転させつつ挿入し、その内部に土壌試料を採取することができなければならないことから、所定の強度を有していなければならない。したがって、硬質プラスチックが好ましく、その例としては、硬質ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート等を挙げることができる。
【0028】
図2〜図4では、ベース部材12は、板状のものとされ、木、セラミックス、プラスチック樹脂、鋼、ゴム等いかなる材質のものであってもよいが、プラスチック樹脂からなるチューブ10が切削部材13によって切削される際、チューブ10が移動しないようにチューブ10との間に摩擦抵抗を有する材質が好ましく、ゴム製のものが好ましい。ゴム製でなくても、上記木やセラミックスにゴムシートを貼り付けて作製したものをベース部材12として用いることもできる。
【0029】
切削部材13は、先端部に向けてテーパが形成され先鋭とされたカッターとすることができる。カッターは、一方向にのみ切削可能なように片側のみに刃を有するものであっても、両方向に切削可能なように両側に刃を有するものであってもよい。また、スライダ14は、レール溝を備える外側レールと、レール溝に嵌合して滑動する内側レールとを含むスライドレール17とすることができる。この場合、外側レールまたは内側レールの一方が、チューブ溝11から所定距離ほど離間し、チューブ溝11と平行に、そのチューブ溝11に沿ってベース部材12に取り付けられる。
【0030】
このスライドレール17は、ベース部材12の表面に対して垂直に延び、側面からチューブ10に向けて突出するように切削部材13を配設する切削部材取り付け部18を備えている。この切削部材取り付け部18の底面に、外側レールまたは内側レールの他方が取り付けられる。すなわち、ベース部材12に取り付けられるレールが外側レールであれば、内側レールが、ベース部材12に取り付けられるレールが内側レールであれば、外側レールが取り付けられる。これらの取り付けは、ねじ、接着剤等により行うことができる。
【0031】
スライダ14および切削部材13は、チューブ10を介して対向するように2つずつ設けられ、2つの切削部材取り付け部18は互いに、鋼製の平板からなる連結用テーブル19により連結されている。なお、これら2つの切削部材取り付け部18は、その上面が連結用テーブル19の一方の面の両端に取り付けられている。切削部材取り付け部18は、切削部材13であるカッターを、チューブ10に向けて突出させたり、その反対に切削部材取り付け部18内に収容したりして、その突出量を調整することができ、調整後のカッターを固定するための調整ねじ20を備えている。この調整ねじ20は、切削部材取り付け部18に設けられたねじ切りされた穴に続いて、カッターに設けられた後述するピッチねじ穴へと螺合され、カッターを固定する。
【0032】
また、この取り出し装置は、この連結用テーブル19の他方の面の中央部に接合された鋼製のナット21と、ナット21の穴に挿通して延びる鋼製のねじ軸22と、ねじ軸22のねじ溝とナット21のねじ溝との間に配設される鋼製の複数のボールと、ねじ軸22の一端に取り付けられ、ねじ軸22を一定方向に回転させるためのハンドル23とを備えるボールねじ24をさらに含む。これにより、ボールねじ24を使用して、チューブ10を2箇所同時に切削することができるようにされている。
【0033】
スライダ14は、上記のスライドレール17を備える構成に限られるものではなく、チューブ10に沿ってベース部材12に設けられた長細い溝と切削部材取り付け部18の底面に設けられた突出部とからなる構成や、チューブ10に沿ってベース部材12に設けられたレールと切削部材取り付け部18の底面に設けられたそのレールを嵌合させる溝が形成されたローラとからなる構成等とすることもできる。
【0034】
ボールねじ24は、上記ナット21、ねじ軸22、ボールに加え、ボールを無限循環させるための循環部品が必要とされる。循環部品は、その循環方式によって分けられ、その方式には、チューブを設けてボールを循環させるチューブ方式、ナット21の両端に取り付けるエンドキャップにボールをすくい上げ戻すための孔を設け、一方の孔からすくい上げたボールがナット21の貫通孔を通して他方の孔へと導かれ、その他方の孔から戻されることによりボールを循環させるエンドキャップ方式、ナット21内にボールが隣のねじ溝へ移動可能な空間、すなわちデフレクタ(こま)を設けてボールを循環させるコマ方式等を挙げることができる。
【0035】
図2〜図4に例示した取り出し装置を使用して、チューブ10内に採取した土壌試料を取り出す方法について詳細に説明する。まず、チューブ10をチューブ溝11に収容してベース部材12に固定する。このベース部材12は、底面が一定曲率を有しチューブ10の外周面と隣接するチューブ溝11を備えているため、チューブ10をチューブ溝11に嵌合した状態で収容し、チューブ10の転がりを抑制して、ベース部材12にチューブ10を固定することができる。次に、チューブ10の両端にチューブスペーサ16を隣接させて配置し、その外側から押さえ部材15で押さえて固定する。これにより、チューブ10の長手方向への移動が抑止される。
【0036】
その次に、チューブ10の一方の端部において切削部材13の突出量を調整する。一方の端部から他方の端部へ向けてチューブ10を切削するためである。チューブ10の肉厚は、約3〜4mmであり、この肉厚に合わせて突出量を調整し、調整ねじ20により固定することができる。このように調整することで、チューブ10を一度で切削することができる。チューブ10の肉厚が大きい場合や、チューブ内の土壌試料に損傷を与えないようにするために、一度に切削するのではなく、切削部材13を少しずつ突出させ、数度に分けて切削することもできる。例えば、約1mmずつ切削するように調整することができる。このように数度に分けて切削することで、土壌試料への損傷の危険性を回避することができ、土壌試料の表面に傷を付けることなくチューブ10を切削することができる。
【0037】
ベース部材12の表面から切削部材13までの高さは、チューブ溝11にチューブ10を収容したときの、ベース部材12の平坦な表面から円形のチューブ10の中心までの高さと同じになるように予め調整されている。切削部材取り付け部18において切削部材13を取り付ける位置の高さ調整を行えるようにし、この段階で、そのチューブ10の中心と同じ高さになるように高さ調整を行うようにすることもできる。この場合も、調整ねじを使用し、高さ調整後の高さに切削部材13を固定することができる。
【0038】
この取り出し装置では、所定径で、所定長さのチューブ10を使用することを想定している。例えば、チューブの直径は、約86〜125mm(3〜5インチ管)で、その長さは、約1mである。多少の長さの相違は、チューブスペーサ16により調整可能であるが、それ以上の長さのチューブや径の異なるチューブに対しては、ベース部材12をチューブ10のサイズに適合したものを使用することにより対応可能である。
【0039】
切削部材13の突出量を調整し、切削部材13を固定した後、切削部材13が取り付けられたスライダ14を滑動させるために、ハンドル23を一定方向へ回転させる。ハンドル23には、ねじ軸22が連続しており、ねじ軸22の回転に伴ってそのねじ溝に収容されたボールが移動し、それに伴ってナット21の位置をチューブ10の長手方向へ移動させる。ナット21は、連結用テーブル19に溶接する等して接合されており、この連結用テーブル19も移動し、それに伴ってスライダ14も移動する。このようにして、スライダ14の切削部材取り付け部18に取り付けられた切削部材13が移動し、チューブ10を切削する。なお、チューブ10は、チューブ10の一方の端部から他方の端部へと切削される。図2〜図4に示す装置でチューブ10の切削を行った場合、2つの切削部材13がチューブ10を介して対向するように配置されているため、チューブ10を2箇所同時に切削することとなる。
【0040】
ねじ軸22のねじピッチは、切削に適切なピッチ量として決定される。チューブスペーサ16は、チューブ10の径よりも小さい幅を有するものである。したがって、チューブスペーサ16が切削されることはなく、チューブ10の一端から他端まで適切な速度で、かつ一度で切削することが可能である。
【0041】
この取り出し装置では、ボールねじ24を、ハンドル23を手動で回転させることにより切削部材13を移動させて切削したが、手動でなくても、駆動モータ等をねじ軸22に連結し、駆動モータの回転数を制御することにより一定速度で切削部材13を移動させ、チューブ10を切削することもできる。また、駆動モータ等を、トルクカップリングを介してねじ軸22に連結することで、過剰なトルクが発生した場合に、トルクカップリングにより装置の故障等のトラブルを回避することができる。
【0042】
次に、一度で切削するのではなく、数回に分けて切削する場合について説明する。切削部材13の突出量は、調整ねじ20を螺合する切削部材13に設けられたピッチねじ穴の位置により調整される。図5に示すように、切削部材13には、複数のピッチねじ穴25が設けられており、いずれか1つのピッチねじ穴25に調整ねじ20を螺合することにより、切削部材13の突出量を調整するとともに切削部材13を固定することができる。このピッチねじ穴25は、例えば1mm間隔で設けることができる。切削部材13を固定することができれば、調整ねじ20でなくても、略円錐形のピン等であってもよい。
【0043】
切削部材13の突出量の調整の際、チューブ10の肉厚が約3mmである場合、まず、図5(a)に示すように、チューブ10の中心へ向けて切削部材13を突出させていき、切削部材13の先端部とチューブ10とが1mm程度重なり合う位置で止め、ピッチねじ穴25に調整ねじ20を螺合して切削部材13を固定する。そして、ハンドル23を手動で一定方向に回転させ、チューブ10の長手方向の一端から他端へ向けて切削する。切削部材13が他端まで切削した後、切削部材13を取り外し、ハンドル23を先の回転とは逆の方向へ回転させ、切削部材13を、再びチューブ10の一端にまで戻す。
【0044】
その次に、図5(b)に示すように、1つ外側のピッチねじ穴25に調整ねじ20を螺合して、切削部材13の先端部とチューブ10とが2mm程度重なり合う位置で止め、ピッチ穴25に調整ねじ20を螺合して切削部材13を固定する。そして、ハンドル23を手動で一定方向に回転させ、チューブ10の長手方向の一端から他端へ向けて切削する。切削部材13が他端まで切削した後、切削部材13を取り外し、ハンドル23を先の回転とは逆の方向へ回転させ、切削部材13を、再びチューブ10の一端にまで戻す。
【0045】
さらに次に、図5(c)に示すように、さらに1つ外側のピッチねじ穴25に調整ねじ20を螺合して、切削部材13の先端部とチューブ10とが3mm程度重なり合う位置で止め、ピッチ穴25に調整ねじ20を螺合して切削部材13を固定する。そして、ハンドル23を手動で一定方向に回転させ、チューブ10の長手方向の一端から他端へ向けて切削する。
【0046】
このように数回に分けて切削することで、内部の試験体となる土壌試料を損傷させることなく確実に取り出すことができる。切削部材13は、対向して2つ設けられているため、このようにして切削することでチューブ10を2つに切断することができる。切断されたチューブ10の上側チューブを取り外し、チューブ10を約180°回転させて下側チューブを取り外すことで、土壌試料を取り出すことができる。
【0047】
この場合、上側チューブを取り外す際、土壌試料とその上側チューブとの間に空気を入れながら行われるが、上側チューブを少しずらしながら行わなければならない。しかしながら、これでは時間を要する。
【0048】
チューブ10内に収容された土壌試料の強度が充分にある場合は、上側チューブを取り外す際に多少の力が作用しても、その土壌試料への影響はほとんどないが、図6に示すように、その上側チューブ10aを取り外す際に矢線Cの方向へスライド等させると、その力がわずかであっても、矢線Dに示す方向にせん断力が土壌試料27に作用するため、土壌試料27の正確な物性や強度が得られなくなる可能性があるため、極力回避するほうが好ましい。
【0049】
そこでまず、2箇所切削した後、チューブ10を約90°回転させ、さらに2箇所同時に切削し、合計4箇所切削する。このように細かく切削することで、土壌試料とチューブ10との間に空気が入り込み易くなり、チューブ10が土壌試料から外し易くなる。その結果、土壌試料に影響を与えることなく、その土壌試料を取り出すことができる。しかしながら、切削する数が多くなると、チューブ10を切削するのが難しくなることから、3〜8箇所程度切削するのが好ましい。
【0050】
まず、図7(a)に示すように、チューブ10を介して対向する2つの切削部材13で2箇所同時にチューブ10の長手方向へと切断する。次に、チューブ10を約90°回転させて固定し、図7(b)に示すように、チューブ10を介して対向する2つの切削部材13で2箇所同時にチューブ10の長手方向へと切断する。このようにして、図7(c)に示すように、約1/4のサイズのチューブ断片26aを、それほど力を入れることなく容易に取り外すことができる。同様にして、約1/4のサイズのチューブ断片26bを取り外すことができる。その後、静かに土壌試料を約90°回転させ、チューブ断片26cを取り外し、さらに、静かに土壌試料を約90°回転させ、チューブ断片26dを取り外し、土壌試料が損傷することなく、圧縮力やせん断力を受けることなく取り出すことができる。
【0051】
これまで図面に示した実施形態を参照して、本発明の土壌試料の取り出し装置および方法について詳細に説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施の形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。この装置および方法は、低強度の土壌試料に限らず、任意の強度の土壌試料に対しても適用することができ、チューブ10は、2つあるいは4つといった偶数に限られるものではなく、3つ等の奇数に切削することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】従来のチューブ内に押し出し板を入れ、押し出し板を押し込んで土壌試料を取り出しているところを示した図。
【図2】本発明の土壌試料の取り出し装置の構成例を示した平面図。
【図3】本発明の土壌試料の取り出し装置の構成例を示した側面図。
【図4】本発明の土壌試料の取り出し装置の構成例を示した正面図。
【図5】切削部材の突出量を調整しているところを示した図。
【図6】上側チューブを取り外す際、土壌試料にせん断力が作用するところを示した図。
【図7】チューブを4箇所切削しているところを示した図。
【符号の説明】
【0053】
1…押し出し板、2…土壌試料、3…チューブ、10…チューブ、11…チューブ溝、12…ベース部材、13…切削部材、14…スライダ、15…押さえ部材、16…チューブスペーサ、17…スライドレール、18…切削部材取り付け部、19…連結用テーブル、20…調整ねじ、21…ナット、22…ねじ軸、23…ハンドル、24…ボールねじ、25…ピッチねじ穴、26a〜26d…チューブ断片、27…土壌試料














【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ内に収容された土壌試料を取り出すための装置であって、
底面が一定曲率を有し前記チューブの外周面と隣接するチューブ溝を備えた、前記チューブを収容し固定するためのベース部材と、
前記チューブを切削するための切削部材と、
前記切削部材を前記チューブの長手方向へ滑動させるためのスライダとを含む、土壌試料の取り出し装置。
【請求項2】
前記長手方向への前記チューブの移動を抑止するために、前記チューブの両端に配置される押さえ部材をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記スライダは、レール溝を備える外側レールと、前記レール溝に嵌合して滑動する内側レールとを含むスライドレールであり、前記外側レールまたは前記内側レールの一方が前記チューブ溝に沿って前記ベース部材に取り付けられる、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記スライドレールは、前記ベース部材の表面に対して垂直に延び、側面から前記チューブに向けて突出するように前記切削部材を配設する切削部材取り付け部を含み、前記切削部材取り付け部の底面に前記外側レールまたは前記内側レールの他方が取り付けられる、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記スライダおよび前記切削部材は、前記チューブを介して対向するように2つずつ設けられ、2つの前記切削部材取り付け部は互いに連結用テーブルにより連結されており、
前記土壌試料の取り出し装置は、前記連結用テーブルに接合されたナットと、前記ナットの穴に挿通して延びるねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝との間に配設される複数のボールと、前記ねじ軸の一端に取り付けられ、前記ねじ軸を一定方向に回転させるためのハンドルとを備えるボールねじをさらに含み、
前記ボールねじを使用して、前記チューブを2箇所同時に切削する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
チューブ内に収容された土壌試料を取り出すための方法であって、
前記土壌試料が収容された前記チューブを、ベース部材に設けられた底面が一定曲率を有し前記チューブの外周面と隣接するチューブ溝に収容し固定する段階と、
前記チューブの一端において該チューブのみを切削するように切削部材の先端部の位置を調整する段階と、
スライダにより前記切削部材を前記チューブの長手方向へ滑動させつつ該チューブを切削する段階とを含む、方法。
【請求項7】
さらに、前記長手方向への前記チューブの移動を抑止するために該チューブの両端に押さえ部材を配置する段階を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記スライダは、レール溝を備える外側レールと、前記レール溝に嵌合して滑動する内側レールとを含むスライドレールであり、前記スライドレールは、前記ベース部材の表面に対して垂直に延び、側面から前記チューブに向けて突出するように前記切削部材を配設する切削部材取り付け部を含み、
前記切削部材の先端部の位置を調整する段階は、前記切削部材取り付け部の側面からの前記切削部材の突出量を調整する段階を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記スライダおよび前記切削部材は、前記チューブを介して対向するように2つずつ設けられ、2つの前記切削部材取り付け部は互いに連結用テーブルにより連結されており、前記連結用テーブルにはナットが接合され、前記ナットの穴にはねじ軸が挿通され、前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝との間には複数のボールが配設され、前記ねじ軸の一端には該ねじ軸を一定方向に回転させるためのハンドルが設けられており、
前記チューブを切削する段階では、前記ハンドルを一定方向に回転させることにより、前記ナットを前記長手方向へ移動させ、それに伴って前記2つの切削部材を前記長手方向へ滑動させつつ前記チューブを2箇所同時に切削する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記2箇所同時に切削した後、前記チューブを90°回転させ、前記調整する段階と前記切削する段階を繰り返す段階を含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−228386(P2009−228386A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78462(P2008−78462)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】