説明

土木用低収縮AEコンクリートの調製方法及び土木用低収縮AEコンクリート

【課題】一液の多機能混和剤を用いて土木用低収縮AEコンクリートを調製するに際し、1)まず前提として、一液で用いる多機能混和剤が安定性に優れていること、2)調製した土木用低収縮AEコンクリートの流動性及び空気量の経時的な低下を抑えて良好な施工性を確保すること、3)得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、4)得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、5)得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、6)得られる硬化体の圧縮強度が相応に優れていること、以上の1)〜6)を同時に充足する土木用低収縮AEコンクリートの調製方法及び土木用低収縮AEコンクリートを提供する。
【解決手段】セメント、水、細骨材、粗骨材、多機能混和剤及び空気量調節剤を用いて土木用低収縮AEコンクリートを調製するに際し、セメントを単位量280〜450kg/mの範囲で用い、またセメント100質量部当たり、特定のセメント分散剤、特定の乾燥収縮低減剤及び特定の分離低減剤をそれぞれ所定割合で含有して成る一液の多機能混和剤を0.3〜3.0質量部の割合で用いて、連行空気量を3〜8容量%に調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土木用低収縮AEコンクリートの調製方法及び土木用低収縮AEコンクリートに関する。機能の異なる複数の混和剤を用いて、なかでも使用上の便宜から、予めそれらを混合した一液の多機能混和剤を用いて、土木用低収縮AEコンクリートを調製することが行なわれている。そして近年では、かかる土木用低収縮AEコンクリートにも、高品質化及び高耐久化を図ることが要求され、具体的には、1)まず前提として、一液で用いる多機能混和剤の安定性が優れていること、2)調製した土木用低収縮AEコンクリートの流動性及び空気量の経時的な低下を抑えて良好な施工性を確保すること、3)得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、4)得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、5)得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、6)得られる硬化体の圧縮強度が優れていること、以上の1)〜6)を同時に充足することが要求されるようになっている。本発明は、かかる要求に応える土木用低収縮AEコンクリートの調製方法及び土木用低収縮AEコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに優れた流動性を付与し、得られる硬化体に優れた圧縮強度を発現させる混和剤として、ポリカルボン酸系化合物を主成分とする各種のセメント分散剤が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。また得られる硬化体の乾燥収縮率を低減する混和剤として各種の乾燥収縮低減剤も知られている(例えば特許文献3参照)。更に調製したコンクリートに流動性を付与すると共に得られる硬化体の乾燥収縮率を低くする混和剤も知られている(例えば特許文献4及び5参照)。
【0003】
しかし、かかる従来の混和剤を用いたのでは、またこれらを混合して用いても、前記した1)〜6)の要求を同時に充足することができないという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特公昭58−38380号公報
【特許文献2】特開平1−226757号公報
【特許文献3】特公昭59−3430号公報
【特許文献4】特開2004−262715号公報
【特許文献5】特開2007−153652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、使用上の便宜から、一液の多機能混和剤を用いて土木用低収縮AEコンクリートを調製するに際し、1)まず前提として、一液で用いる多機能混和剤が安定性に優れていること、2)調製した土木用低収縮AEコンクリートの流動性及び空気量の経時的な低下を抑えて良好な施工性を確保すること、3)得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、4)得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、5)得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、6)得られる硬化体の圧縮強度が相応に優れていること、以上の1)〜6)を同時に充足する土木用低収縮AEコンクリートの調製方法及び土木用低収縮AEコンクリートを提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、セメントを所定割合で用い、またかかるセメントに対し特定の3成分から成る特定の多機能混和剤を所定割合で用いて、所定の連行空気(AE)量の土木用低収縮AEコンクリートを調製することが正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、セメント、水、細骨材、粗骨材、多機能混和剤及び空気量調節剤を用いて土木用低収縮AEコンクリートを調製するに際し、セメントを単位量280〜450kg/mの範囲で用い、またセメント100質量部当たり下記の多機能混和剤を0.3〜3.0質量部の割合で用いて、連行空気量を3〜8容量%に調製することを特徴とする土木用低収縮AEコンクリートの調製方法に係る。また本発明は、かかる土木用低収縮AEコンクリートの調製方法によって調製された土木用低収縮AEコンクリートに係る。
【0008】
多機能混和剤:下記のセメント分散剤を8〜30質量%、また下記の乾燥収縮低減剤を68〜91質量%、更に下記の分離低減剤を0.01〜2質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る一液の多機能混和剤。
【0009】
セメント分散剤:いずれも分子中に5〜90個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン、α−アリル−ω−アセチル−ポリオキシエチレン及びα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから選ばれるアリルエーテル化合物とマレイン酸との共重合体に相当する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体及び該水溶性ビニル共重合体の水酸化アルカリ金属水溶液による中和率75%以下の部分中和物から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0010】
乾燥収縮低減剤:下記の化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルを0.3〜45質量%、また下記の化2で示される(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル又は化3で示される(ポリ)プロピレングリコールを55〜99.7質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るもの。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
化1、化2及び化3において、
,R:炭素数3〜5のアルキル基
,A:分子中に1〜4個のオキシエチレン単位で構成された(ポリ)オキシエチレン基を有する(ポリ)エチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
:分子中に1〜4個のオキシプロピレン単位で構成された(ポリ)オキシプロピレン基を有する(ポリ)プロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
:分子中に4〜10個のオキシプロピレン単位で構成されたポリオキシプロピレン基を有するポリプロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0015】
分離低減剤:ポリ酢酸ビニルから合成された鹸化度80〜95モル%のポリビニルアルコール
【0016】
本発明に係る土木用低収縮AEコンクリートの調製方法(以下、本発明の調製方法という)では、セメント、水、細骨材及び粗骨材の他に、多機能混和剤及び空気量調節剤を用いる。本発明の調製方法で用い多機能混和剤は、セメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び分離低減剤から成るものである。
【0017】
本発明の調製方法において多機能混和剤の一成分として用いるセメント分散剤は、α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン、α−アリル−ω−アセチル−ポリオキシエチレン及びα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから選ばれるアリルエーテル化合物とマレイン酸との共重合体に相当する質量平均分子量2000〜50000(GPC法、プルラン換算、以下同じ)、好ましくは5000〜40000の水溶性ビニル共重合体及び該水溶性ビニル共重合体の水酸化アルカリ金属水溶液による中和率75%以下、好ましくは10〜65%の範囲の部分中和物から選ばれる一つ又は二つ以上のものである。ここで水酸化アルカリ金属としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が使用できるが、水酸化ナトリウムが好ましい。また前記のアリルエーテル化合物は、いずれも分子中に5〜90個、好ましくは12〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するものである。
【0018】
本発明において、用いる多機能混和剤を安定性に優れるものとするためには、セメント分散剤として用いる前記の水溶性ビニル共重合体の中和率が75%越えないことが重要である。理由はセメント分散剤の中和率が75%を越えると、本発明で用いる乾燥収縮低減剤と混合した際に混合物が分離してしまい、安定性に優れた一液の多機能混和剤が得られないからであり、同様の意味で好ましくは、中和率は10〜65%の範囲とする。本発明において、中和率は、中和率(%)=100×{1−(水溶性ビニル共重合体の部分中和物の酸価/水溶性ビニル共重合体の酸価)}で求められる値である。
【0019】
以上説明したセメント分散剤は公知の方法で合成できる。例えば、特公昭58−38380号公報や特開2005−132955号公報に記載されているような方法が適用できる。
【0020】
本発明の調製方法において多機能混和剤の一成分として用いる乾燥収縮低減剤としては、1)前記の化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルを0.3〜45質量%、また前記の化2で示される(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテルを55〜99.7質量%(合計100質量%)の割合で含有するもの、又は2)前記の化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルを0.3〜45質量%、また前記の化3で示されるポリプロピレングリコールを55〜99.7質量%(合計100質量%)の割合で有するものが挙げられる。なかでも、一液の多機能混和剤の安定性等をより向上するためには、化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルを1〜35質量%、また化2で示される(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル又は化3で示されるポリプロピレングリコールを65〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有するものが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを1〜35質量%、またジエチレンジプロピレングリコールモノブチルエーテル又はポリプロピレングリコールを65〜99質量%(合計100質量%)含有するものが特に好ましい。
【0021】
化1〜化3において、化1中のR及び化2中のRは炭素数3〜5のアルキル基である。これには例えば、プロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基等が挙げられるが、なかでもノルマルブチル基が好ましい。また化1中のA及び化2中のAは、分子中に1〜4個のオキシエチレン単位で構成された(ポリ)オキシエチレン基を有する(ポリ)エチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基であり、化2中のAは分子中に1〜4個のオキシプロピレン単位で構成された(ポリ)オキシプロピレン基を有する(ポリ)プロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基であって、化3中のAは分子中に4〜10個のオキシプロピレン単位で構成されたポリオキシプロピレン基を有するポリプロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である。なかでも、化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルとしては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、また化2で示される(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテルとしては、ジエチレンジプロピレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。以上説明した乾燥収縮低減剤を構成する各ポリエーテル化合物はいずれも公知のアルキレンオキサイドを付加重合する反応によって合成できる。
【0022】
本発明の調製方法において多機能混和剤の一成分として用いる分離低減剤は、ポリ酢酸ビニルから合成された鹸化度80〜95モル%のポリビニルアルコールである。なかでも、その4質量%水溶液の20℃における粘度が1〜50mPa・sの範囲のものが好ましく、2〜45mPa・sの範囲のものがより好ましい。かかる分離低減剤は連行空気の気泡膜を強め、気泡の安定性を保つことによって、不安定な気泡が抜けることによる凍結融解抵抗性の低下を防ぐために用いる。
【0023】
本発明の調製方法における多機能混和剤は、以上説明したセメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び分離低減剤を所定割合で混合することにより、一液にしても各成分が分離しない均一液として用いることができる。多機能混和剤における各剤の割合は、セメント分散剤を8〜30質量%、乾燥収縮低減剤を68〜91質量%及び分離低減剤を0.01〜2質量%(合計100質量%)となるようにするが、セメント分散剤を10〜25質量%、乾燥収縮低減剤を74〜89質量%及び分離低減剤を0.05〜1.5質量%(合計100質量%)となるようにするのが好ましい。各剤の割合がかかる範囲から外れると、そのような多機能混和剤を用いて調製した土木用低収縮AEコンクリートは前記した複数の要求を同時に充足することができない。
【0024】
本発明の調製方法に用いる空気量調節剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルベンゼンスルホン酸塩、ロジン石けん、高級脂肪酸石けん、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルアルキルリン酸エステル塩等が挙げられるが、なかでもアルキルリン酸モノエステル塩が好ましく、オクチルリン酸モノエステルカリウム塩がより好ましい。空気量調節剤の使用量は通常、セメント100質量部当たり、0.001〜0.01質量部の割合とする。
【0025】
本発明の調製方法において、セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種のポルトランドセメント及び高炉セメント等が使用できるが、なかでも本発明の効果がより一層顕著に得られる点で、普通ポルトランドセメント又は高炉セメントを用いる場合が好ましい。高炉セメントは、高炉スラグ微粉末を普通ポルトランドセメントと混合して造られ、JIS R 5211の規格ではスラグの分量によって、A種(5超〜30%)、B種(30超〜60%)、C種(60超〜70%)の3種類に分けられているが、市場で最も多く使用されている高炉セメントB種を用いるのが好ましい。
【0026】
細骨材としては、いずれも公知の川砂、山砂、海砂、砕砂等を使用できる。また、粗骨材としては、いずれも公知の川砂利、砕石、軽量骨材等を使用できる。
【0027】
本発明の調製方法では、以上説明したセメント、細骨材、粗骨材、多機能混剤及び空気量調節剤を水と共に練り混ぜ、土木用低収縮AEコンクリートを調製するが、調製する低収縮AEコンクリートを土木用に好適なものとするため、セメントを単位量(調整する土木用低収縮AEコンクリート1m当たりのセメント量)280〜450kg/mの範囲、好ましくは290〜420kg/mの範囲で用い、水/セメント比は通常、35〜60%の範囲となるようにする。また多機能混和剤は、セメント100質量部当たり、0.3〜3.0質量部の割合で用い、好ましくは0.5〜2.5質量部の割合で用いる。本発明の調製方法において、セメント、水、細骨材、粗骨材、多機能混和剤及び空気量調節剤を練り混ぜる手順は特に制限されるものではなく、通常は先にセメント、細骨材及び粗骨材をミキサーに投入して空練りする一方で、別に多機能混和剤及び空気量調節剤を水で希釈して練り混ぜ、しかる後に双方を練り混ぜて土木用低収縮AEコンクリートを調製する。
【0028】
本発明の調製方法では、調製するAEコンクリートの連行空気量が3〜8容量%となるようにし、好ましくは4〜7容量%となるようにする。連行空気量がこれより少ないと、そのような土木用低収縮AEコンクリートから得られる硬化体の気泡間隔係数が大きくなり、凍結融解抵抗性が低下し、逆に連行空気量がこれより多いと、そのような土木用低収縮AEコンクリートから得られる硬化体の強度が低下する。また練り混ぜ直後の目標スランプは、通常6〜15cmとするが、好ましくは8〜13cmの範囲になるようにする。
【0029】
本発明の調製方法では、以上説明したように、セメント、水、細骨材、粗骨材、多機能混和剤及び空気量調節剤を練り混ぜ、土木用低収縮AEコンクリートを調製するが、この際に、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて凝結促進剤、凝結遅延剤、防水剤、防腐剤、防錆剤等の添加剤を併用することができる。
【0030】
本発明に係る土木用収縮低減性AEコンクリートは、以上説明した本発明の調製方法によって調製されるものである。かかる土木用低収縮AEコンクリートのなかでも、得られる硬化体の乾燥収縮率が400×10−6〜700×10−6の範囲となるものが好ましく、また得られる硬化体の気泡間隔係数が100〜300μmの範囲となるものが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、使用上の便宜から、一液の多機能混和剤を用いて土木用低収縮コンクリートを調製するに際し、1)まず前提として、用いる多機能混和剤が安定性に優れていること、2)調製した土木用低収縮AEコンクリートの流動性及び空気量の経時的な低下を抑えて良好な施工性を確保すること、3)得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、4)得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、5)得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、6)得られる硬化体の圧縮強度が相応に優れていること、以上の1)〜6)を同時に充足できるという効果がある。
【0032】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0033】
試験区分1(セメント分散剤としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成)
・セメント分散剤(A−1)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成
α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)1523g(1.0モル)及び無水マレイン酸98g(1.0モル)を反応容器に仕込み、撹拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて80℃に保ち、アゾビスイソブチロニトリル5gを分割投入し、ラジカル重合反応を開始した。更にアゾビスイソブチロニトリル5gを分割投入し、ラジカル重合反応を4時間継続して、反応を完結した。得られた共重合物に水を加えて加水分解し、α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)とマレイン酸との共重合体に相当する水溶性ビニル共重合体を得た後、48%水酸化ナトリウム水溶液67g(0.8モル)を加えて部分中和し、セメント分散剤(A−1)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の40%水溶液を得た。尚、水溶性ビニル共重合体は、α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)から形成された構成単位/マレイン酸から形成された構成単位=50/50(モル%)の割合で有する質量平均分子量23500の共重合体であり、その部分中和物の中和率は40%であった。
【0034】
・セメント分散剤(A−2)〜(A−5)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成
セメント分散剤(A−1)の場合と同様にして、セメント分散剤(A−2)〜(A−5)を得た。
【0035】
・セメント分散剤(A−6)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成
α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=68)3050g(1.0モル)、マレイン酸116g(1.0モル)及び水2000gを反応容器に仕込み、撹拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液30gを加えて、ラジカル重合反応を開始した。更に過硫酸ナトリウムの20%水溶液5gを投入し、ラジカル重合反応を5時間継続して反応を完結し、水溶性ビニル共重合体を得た後、48%水酸化ナトリウム水溶液100g(1.20モル)を加えて部分中和し、水を2650g加えて、セメント分散剤(A−6)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の40%水溶液を得た。尚、水溶性ビニル共重合体は、α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=68)から形成された構成単位/マレイン酸から形成された構成単位=50/50(モル%)の割合で有する質量平均分子量28200の共重合体であり、その部分中和物の中和率は60%であった。
【0036】
・セメント分散剤(A−7)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成
セメント分散剤(A−6)の場合と同様にして、セメント分散剤(A−7)を得た。
【0037】
・セメント分散剤(AR−1)〜(AR−5)及び(AR−7)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成
セメント分散剤(A−1)の場合と同様にして、セメント分散剤(AR−1)〜(AR−5)及び(AR−7)を得た。
【0038】
・セメント分散剤(AR−6)及び(AR−8)としての水溶性ビニル共重合体の部分中和物の合成
セメント分散剤(A−6)の場合と同様にして、セメント分散剤(AR−6)及び(AR−8)を得た。以上のセメント分散剤の内容を表1にまとめて示した。








【0039】
【表1】

【0040】
表1において、
e−1:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)から形成された構成単位
e−2:α−アリル−ω−アセチル−ポリオキシエチレン(n=55)から形成された構成単位
e−3:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=15)から形成された構成単位
e−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=68)から形成された構成単位
er−1:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=102)から形成
された構成単位
er−2:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=105)から形成された構成単位
【0041】
試験区分2(乾燥収縮低減剤の調製)
・乾燥収縮低減剤(B−1)〜(B−7)の調製
本発明で用いる乾燥収縮低減剤として、前記した化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル(いずれも室温で液状)と化2で示される(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル(いずれも室温で液状)とを所定割合になるように、また化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルと化3で示されるポリプロピレングリコール(いずれも室温で液状)とを所定割合になるように、ガラス容器を用いて室温で液−液混合し、いずれも室温で液状の乾燥収縮低減剤(B−1)〜(B−7)を調製した。
【0042】
・乾燥収縮低減剤(BR−1)〜(BR−10)の調製
乾燥収縮低減剤(B−1)〜(B−7)と同様にして、乾燥収縮低減剤(BR−1)〜(BR−10)を調製した。以上で調製した乾燥収縮低減剤の内容を表2にまとめて示した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2において、
b−1:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
b−2:ジエチレングリコールモノプロピルエーテル
b−3:トリエチレングリコールモノペンチルエーテル
b−4:ジエチレンジプロピレングリコールモノブチルエーテル
b−5:ジエチレンモノプロピレングリコールモノブチルエーテル
b−6:ポリ(n=7)プロピレングリコール
br−1:ポリ(n=7)エチレングリコールモノブチルエーテル
br−2:トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル
br−3:ジエチレントリプロピレングリコールモノエチルエーテル
br−4:ポリ(n=3)プロピレングリコール
br−5:ポリ(n=12)プロピレングリコール
【0045】
試験区分3(多機能混和剤の調製)
・多機能混和剤(G−1)の調製
ガラス容器に、表1記載のセメント分散剤(A−1)14部、表2に記載の乾燥収縮低減剤(B−1)85部、分離低減剤(C−1)としてポリビニルアルコール1部及び水100部を投入して混合し、多機能混和剤(G−1)の50%水溶液を調製した。
【0046】
・多機能混和剤(G−2)〜(G−14)及び(R−1)〜(R−29)の調製
多機能混和剤(G−1)の調製と同様にして、多機能混和剤(G−2)〜(G−14)及び(R−1)〜(R−29)を調製した。調製した各多機能混和剤の内容を表3にまとめて示した。
【0047】
・多機能混和剤の安定性の評価
調製した多機能混和剤(G−1)〜(G−14)及び(R−1)〜(R−29)の50%水溶液を100ml容量のメスシリンダーに入れ、室温で1週間放置した後の該水溶液の外観を観察し、下記の基準で評価した。
評価基準
〇:均一透明
×:分離又は濁りが認められる









































【0048】
【表3】

【0049】
表3において、
A−1〜A−7、AR−1〜AR−8:試験区分1で合成した水溶性ビニル共重合体
B−1〜B−7、BR−1〜BR−10:試験区分2で調製した乾燥収縮低減剤
C−1:ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名J−ポバールJP−05、鹸化度88モル%、20℃で4%水溶液の粘度が5mPa・sのもの)
C−2:ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名J−ポバールJP−18、鹸化度88モル%、20℃で4%水溶液の粘度が25mPa・sのもの)
CR−1:ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名J−ポバールJF−10、鹸化度99モル%、20℃で4%水溶液の粘度が10mPa・sのもの)
【0050】
試験区分4(土木用低収縮性AEコンクリートの調製及び評価)
実施例1〜14及び比較例1〜8
表4に記載した配合No.1の条件で、50リットルのパン型強制練りミキサーに高炉スラグセメントB種(密度=3.04g/cm、ブレーン値3500)、細骨材(岩瀬産砕砂、密度=2.61、F.M.=2.83)及び粗骨材(岩瀬産砕石、密度=2.63、F.M.=6.74)を順次投入して15秒間空練りした。次いで、目標スランプが10±1cm、目標空気量が4.5±0.5%の範囲となるよう、試験区分3で調製した表3記載の多機能混和剤及び空気量調節剤としてオクチルリン酸モノエステルカリウム塩をそれぞれ所定量練り混ぜ水で希釈した後に投入して練り混ぜ、各例の土木用低収縮AEコンクリートを調製した。調製した各土木用低収縮AEコンクリートの内容を表5にまとめて示した。
【0051】
実施例15〜28及び比較例9〜16
表4に記載した配合No.2の条件で、50リットルのパン型強制練りミキサーに普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm、ブレーン値3300)、細骨材(岩瀬産砕砂、密度=2.61、F.M.=2.83)及び粗骨材(岩瀬産砕石、密度=2.63、F.M.=6.74)を順次投入して15秒間空練りした。次いで、目標スランプが10±1cm、目標空気量が4.5±0.5%の範囲となるよう、試験区分3で調製した表3記載の多機能混和剤及び空気量調節剤としてオクチルリン酸モノエステルカリウム塩をそれぞれ所定量練り混ぜ水で希釈した後に投入して練り混ぜ、各例の土木用低収縮AEコンクリートを調製した。調製した各土木用低収縮AEコンクリートの内容を表6にまとめて示した。
【0052】
【表4】

【0053】
・土木用低収縮AEコンクリートの物性評価
調製した各例の土木用低収縮AEコンクリートについて、空気量、スランプ、スランプ残存率を下記のように求め、結果を表5及び表6にまとめて示した。また各例の土木用低収縮AEコンクリートから得られる硬化体について、乾燥収縮低減率、気泡間隔係数、凍結融解耐久性指数、促進中性化深さ及び圧縮強度を下記のように求め、結果を表7及び表8にまとめて示した。
【0054】
・空気量(容量%):練り混ぜ直後の土木用低収縮AEコンクリート及び60分間静置後の土木用低収縮AEコンクリートについて、JIS−A1128に準拠して測定した。
・スランプ(cm):空気量の測定と同時に、JIS−A1101に準拠して測定した。
・スランプ残存率(%):(60分間静置後のスランプ/練り混ぜ直後のスランプ)×100で求めた。
・乾燥収縮低減率:JIS−A1129に準拠して各例の土木用低収縮AEコンクリートを20℃×60%RHの条件下で材齢26週間保存し、得られた供試体についてコンパレータ法により乾燥収縮ひずみを測定して、乾燥収縮低減率を求めた。この数値は小さいほど、乾燥収縮が小さいことを示す。
・気泡間隔係数(μm):各例の土木用低収縮AEコンクリートを20℃×60%RHの条件下で26週間保存し、得られた硬化体の表面を研磨仕上げした供試体について、気泡組織をASTM−C457のリニアトラバース法に準拠して顕微鏡で測定をした。
・凍結融解耐久性指数(300サイクル):各例の土木用低収縮AEコンクリートについて、JIS−A1148に準拠して測定した値を用い、ASTM−C666−75の耐久性指数で計算した数値を求めた。この数値は、最大値が100で、100に近いほど、凍結融解に対する抵抗性が優れていることを示す。
・促進中性化深さ(mm):各例の土木用低収縮AEコンクリートについて、10×10×40cmの角型供試体の打ち込み面、底面及び両端面をエポキシ樹脂でシールし、20℃×60%RH、炭酸ガス濃度5%の条件下で促進試験を行なった。材齢26週に供試体の断面を切断し、1%フェノールフタレイン溶液を吹き付けて赤色化しない部分を中性化した部分とし、外側からの幅を促進中性化深さとした。この数値は小さいほど中性化が進まず、耐久性が優れていることを示す。
・圧縮強度(N/mm):各例の土木用低収縮AEコンクリートについて、JIS−A1108に準拠し、材齢7日と材齢28日と材齢91日で測定した。
【0055】
【表5】







【0056】
【表6】






















【0057】
【表7】
























【0058】
【表8】

【0059】
表5〜表8において、
*1:セメント100質量部当たりの質量部
*2:土木用低収縮AEコンクリートの調製時に目標とする流動性(スランプ値)が得られなかったので測定しなかった。
比較例の多機能混和剤:表3において、安定性の良かったもの(○印)だけを試験した。
G1〜G14、R2、R3、R22〜R24、R26、R27及びR29:試験区分3で調製した表3記載の多機能混和剤
s−1:オクチルリン酸モノエステルカリウム塩
s−2:ラウリルリン酸モノエステルカリウム塩
s−3:樹脂酸石けん系AE剤(竹本油脂社製の商品名チューポールAE−300)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、細骨材、粗骨材、多機能混和剤及び空気量調節剤を用いて土木用低収縮AEコンクリートを調製するに際し、セメントを単位量280〜450kg/mの範囲で用い、またセメント100質量部当たり下記の多機能混和剤を0.3〜3.0質量部の割合で用いて、連行空気量を3〜8容量%に調製することを特徴とする土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
多機能混和剤:下記のセメント分散剤を8〜30質量%、また下記の乾燥収縮低減剤を68〜91質量%、更に下記の分離低減剤を0.01〜2質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る一液の多機能混和剤。
セメント分散剤:いずれも分子中に5〜90個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン、α−アリル−ω−アセチル−ポリオキシエチレン及びα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから選ばれるアリルエーテル化合物とマレイン酸との共重合体に相当する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体及び該水溶性ビニル共重合体の水酸化アルカリ金属水溶液による中和率75%以下の部分中和物から選ばれる一つ又は二つ以上。
乾燥収縮低減剤:下記の化1で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルを0.3〜45質量%、また下記の化2で示される(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル又は化3で示されるポリプロピレングリコールを55〜99.7質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るもの
【化1】

【化2】

【化3】

(化1、化2及び化3において、
,R:炭素数3〜5のアルキル基
,A:分子中に1〜4個のオキシエチレン単位で構成された(ポリ)オキシエチレン基を有する(ポリ)エチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
:分子中に1〜4個のオキシプロピレン単位で構成された(ポリ)オキシプロピレン基を有する(ポリ)プロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
:分子中に4〜10個のオキシプロピレン単位で構成されたポリオキシプロピレン基を有するポリプロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基)
分離低減剤:ポリ酢酸ビニルから合成された鹸化度80〜95モル%のポリビニルアルコール
【請求項2】
セメント分散剤が、水溶性ビニル共重合体の水酸化アルカリ金属水溶液による中和率10〜65%の部分中和物である請求項1記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項3】
乾燥収縮低減剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを1〜35質量%、またジエチレンジプロピレングリコールモノブチルエーテルを65〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項1又は2記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項4】
乾燥収縮低減剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを1〜35質量%、またポリプロピレングリコールを65〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項1又は2記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項5】
分離低減剤が、4質量%水溶液の20℃における粘度が1〜50mPa・sの範囲のポリビニルアルコールである請求項1〜4のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項6】
空気量調節剤が、アルキルリン酸モノエステル塩である請求項1〜5のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項7】
セメントが、普通ポルトランドセメント又は高炉セメントB種である請求項1〜6のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項8】
練り混ぜ直後の目標スランプを6〜15cmの範囲内に調製する請求項1〜7のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項9】
連行空気量を4〜7容量%に調製する請求項1〜8のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項10】
セメント100質量部当たり多機能混和剤を0.5〜2.5質量部の割合で用いる請求項1〜9のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つの項記載の土木用低収縮AEコンクリートの調製方法によって得られる土木用低収縮AEコンクリート。
【請求項12】
得られる硬化体の乾燥収縮率が、400×10−6〜700×10−6の範囲となるものである請求項11記載の土木用低収縮AEコンクリート。
【請求項13】
得られる硬化体の気泡間隔係数が、100〜300μmの範囲となるものである請求項11又は12記載の土木用低収縮AEコンクリート。

【公開番号】特開2010−100478(P2010−100478A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273029(P2008−273029)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】