説明

圧入方法および圧入装置

【課題】圧接係合面が周方向の一部で非圧接部に隣接する場合に、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を防止できる圧入方法および圧入装置を提供する。
【解決手段】圧入部品31に圧入方向に向かう推力および縦方向振動の加振力を加えるとともに、被圧入部品32に圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向振動の加振力を加える圧入方法であって、圧入部品31および被圧入部品32に、圧入時に互いに圧接する圧接係合面f1,f2と、その圧接係合面f1,f2の周方向の一部に隣接し圧入時に互いに圧接しない非圧接部f3,f4とを形成しておき、圧入部品31を被圧入部品32に圧入する際に、被圧入部品32に対し、圧接係合面f1,f2の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入方法および圧入装置に関し、特に圧入嵌合部位に振動を加えつつ圧入を行うようにした圧入方法および圧入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部品のような高剛性の部品同士を圧入嵌合(圧力ばめ)させる場合に、その圧入嵌合部位に振動を加えることで、圧入荷重(推力)の低減やバリの防止を図るようにした圧入方法および圧入装置が知られている。
【0003】
例えば、圧入部品に圧入推力を加える圧入ポンチに対して超音波振動を付与する超音波振動子を設けるとともに、その圧入ポンチを圧入方向に往復直線運動可能に案内するスライドガイド機構を設けることで、圧入ポンチから圧入部品に加えられる圧入推力に超音波振動の加振力を重ねるとともに、圧入部品に対する圧入ポンチの作用点の位置ずれを防止するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、被圧入物側に対して圧入方向と直交する半径方法に超音波振を加える加振機構を設けることで、大物部品の圧入する場合でも圧入ヘッドの推力を比較的小さく抑えるようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−296615号公報
【特許文献2】特開2007−021626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような圧入方法および圧入装置にあっては、圧入部品および被圧入部品のいずれかが穴部や凹部等を有する場合に、圧入部品および被圧入部品の圧入中に両圧入嵌合部品が圧接する圧接係合面の周方向の一部に、圧接係合面と穴部や凹部等に対応する非圧接部とが隣接するエッジが形成されるため、圧入時にこのエッジによってバリやかじりが発生し易くなってしまうという問題があった。
【0007】
勿論、エッジを無くすような面取り加工や圧入嵌合代(締め代)の低減を図ることはできるが、加工数の増加や高加工精度が要求されるため、加工コスト高を招いてしまう。
【0008】
また、組付け時の締め代を減らす焼きばめ等の技術もあるが、部品精度が低下したり圧入嵌合部に酸化物等が残留したりするため、精密部品に不向きであるばかりか、高温に加熱するために設備コストが高くなり、やはりコスト高を招いてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部が非圧接部に隣接するエッジを有する場合に、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を防止することができる圧入方法および圧入装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る圧入方法は、上記課題解決のため、(1)一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、前記一方の圧入嵌合部品に圧入方向に向かう推力および縦方向振動の加振力を加えるとともに、前記他方の圧入嵌合部品に前記圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向振動の加振力を加える圧入方法であって、前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品に、前記圧入時に互いに圧接する圧接係合面と、該圧接係合面の周方向の一部に隣接し前記圧入時に互いに圧接しない非圧接部とを形成しておき、前記一方の圧入嵌合部品を前記他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、前記他方の圧入嵌合部品に対し、前記圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて前記横方向振動の加振力を加えることを特徴とするものである。
【0011】
この圧入方法では、一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、他方の圧入嵌合部品に対し、非圧接部に隣接する圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力を加える。したがって、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部が非圧接部に隣接するエッジを有する場合でも、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を抑えることができる。
【0012】
本発明の圧入方法においては、(2)前記一方の圧入嵌合部品を前記他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、前記一方の圧入嵌合部品が前記縦方向振動の加振力によって前記圧入方向に加振されるタイミングと、前記特定の半径方向における前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を設定することが好ましい。
【0013】
この場合、一方の圧入嵌合部品が縦方向振動の加振力によって圧入方向に加振されるときに、特定の半径方向における一方および他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少するので、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部がエッジを有する場合でも、そのエッジの通過領域では圧入嵌合代が減少することになり、バリやかじりの発生を有効に抑制できる。
【0014】
本発明の圧入方法においては、(3)前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の嵌合部位で前記一方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に収縮するタイミングと、前記他方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を設定することが好ましい。
【0015】
この場合、特定の半径方向における一方および他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が間欠的に十分に減少するので、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部がエッジを有する場合でも、そのエッジの通過領域でのバリやかじりの発生を有効に抑制できる。
【0016】
本発明に係る圧入装置は、上記課題を解決するため、(4)一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入するよう前記一方の圧入嵌合部品に圧入方向に向かう推力および縦方向振動の加振力を加える圧入ヘッドと、前記他方の圧入嵌合部品に前記圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向振動の加振力を加える加振機構と、前記圧入方向の軸線回りにおける前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の回転角度位置を特定範囲内に制限する回転角度制限機構と、を備えた圧入装置であって、前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品が、前記圧入時に互いに圧接する圧接係合面と、該圧接係合面の周方向の一部に隣接し前記圧入時に互いに圧接しない非圧接部とを有していることを条件に、前記他方の圧入嵌合部品に対し、前記圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて前記横方向振動の加振力を加えることを特徴とする。
【0017】
この圧入装置では、一方の圧入嵌合部品が他方の圧入嵌合部品に圧入されるとき、他方の圧入嵌合部品に対し、非圧接部に隣接する圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力が加えられる。したがって、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部が非圧接部に隣接するエッジを有する場合でも、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を抑えることができる。
【0018】
本発明の圧入装置においては、(5)前記一方の圧入嵌合部品が前記縦方向振動の加振力によって前記圧入方向に加振されるタイミングと、前記特定の半径方向における前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構を備えているのがよい。
【0019】
これにより、一方の圧入嵌合部品が縦方向振動の加振力によって圧入方向に加振されるときに、特定の半径方向における一方および他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少することになる。したがって、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部がエッジを有する場合でも、そのエッジの通過領域では圧入嵌合代が減少することになり、バリやかじりの発生を有効に抑制できる。
【0020】
本発明の圧入装置においては、(6)前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の嵌合部位で前記一方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に収縮するタイミングと、前記他方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構を備えているのが好ましい。
【0021】
この場合、特定の半径方向における一方および他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が間欠的に十分に減少するので、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部がエッジを有する場合でも、そのエッジの通過領域でのバリやかじりの発生を有効に抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、他方の圧入嵌合部品に対し、非圧接部に隣接する圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力を加えるので、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部が非圧接部に隣接するエッジを有する場合でも、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を抑えることができる圧入方法および圧入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧入方法を実施する圧入装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る圧入装置で圧入加工される部品の断面図であり、図2(a)は圧入部品の非圧接部付近における横断面を示し、図2(b)は被圧入部品の非圧接部付近における横断面を示している。
【図3】本発明の第1実施形態に係る圧入装置で圧入加工される被圧入部品の圧入穴の横方向振動時の変形状態の説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る圧入装置で圧入加工される圧入部品および被圧入部品の加工中の状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る圧入方法で圧入加工される部品の断面図であり、図5(a)は圧入部品の非圧接部付近における横断面を示し、図5(b)は被圧入部品の非圧接部付近における横断面を示している。
【図6】本発明の第2実施形態に係る圧入方法で圧入加工される被圧入部品の圧入穴の横方向振動時の変形状態の説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る圧入装置で圧入加工される圧入部品および被圧入部品の加工中の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1ないし図4は、本発明を、超音波振動を用いる圧入方法および圧入装置に適用した第1実施形態を示している。なお、本実施形態では、超音波振動を用いるが、超音波振動以外(可聴周波数域内)の振動を用いるものであってもよい。
【0026】
図1および図2に示すように、本実施形態の圧入装置10は、圧入用推力発生機構11と、超音波振動ユニット12および図示しないワーク把持用のアタッチメントが装着された圧入ヘッド13と、その圧入ヘッド13の下方にワーク配置部17を有する架台18と、を備えている。
【0027】
また、圧入装置10は、金属製の有底円筒状の圧入部品31(一方の圧入嵌合部品)をこれと略同等な線膨張係数を有する金属製の環状の被圧入部品32(他方の圧入嵌合部品)の圧入穴32hの内部に圧入嵌合させるものであり、圧入部品31を圧入ヘッド13側で保持し、被圧入部品32を架台18のワーク配置部17上に配置した状態で、圧入用推力発生機構11によって圧入ヘッド13を下降させて、その圧入作業を行うようになっている。
【0028】
圧入用推力発生機構11は、詳細を図示しないが、直動出力が可能な公知のアクチュエータ類、例えば流体圧(液圧または空気圧)作動シリンダよって構成される。ただし、圧入用推力発生機構11は、圧入ヘッド13に圧入方向への押圧力である圧入推力を発生させるとともに圧入ヘッド13の位置を制御できる機構であればよく、例えばボールねじ等の運動変換機構(回転運動と直線運動の変換が可能な機構)と電動モータその他のモータとの組合せで構成されてもよいし、ロボットによって構成されてもよい。
【0029】
超音波振動ユニット12は、詳細を図示しないが、例えば圧電素子を用いて超音波振動を励起する振動子12aを圧入ヘッド13の上端部に固着したもので、圧入ヘッド13と共に圧入用推力発生機構11により支持されている。この超音波振動ユニット12は、圧入ヘッド13を圧入方向に超音波振動させることができる。ここでの超音波振動は、圧入部品31や被圧入部品32の材質、嵌合部位の大きさや形状等に応じて適宜設定され、例えば振動周波数が20kHz以上で、その振動振幅が数10μm程度になるように調整される。
【0030】
超音波振動ユニット12による発振の周波数や振幅、発振の有無等は、超音波発振制御回路21により制御されるようになっている。この超音波発振制御回路21は、例えば超音波振動ユニット12の超音波振動子を所定の周波数および振幅で振動させるよう、印加電圧の変動周波数制御や電力増幅、昇圧等を実行することができる。また、超音波発振制御回路21には、超音波振動ユニット12の超音波振動振幅を設定値に保つよう、圧入負荷に応じて供給電力を増大させる定振幅化回路等が設けられている。
【0031】
さらに、超音波発振制御回路21は、圧入作業全体を制御する圧入制御回路22から、超音波振動ユニット12の駆動または停止の指令、駆動周波数、振幅等の指令値をそれぞれ入力し、それらの指令値に従って超音波振動ユニット12の超音波発振制御を実行するようになっている。
【0032】
なお、超音波振動ユニット12は、圧電素子でなく、超磁歪素子と駆動コイルを用いて超音波振動を励起するものであってもよい。その場合、超音波発振制御回路21でなく、駆動コイルに対する電流制御によって超磁歪素子に対する磁界を変化させ、超磁歪素子を軸方向に伸縮変形させることで圧入ヘッド13を圧入方向に超音波振動させる駆動回路が用いられることになる。
【0033】
超音波振動ユニット12が装着された圧入ヘッド13は、圧入用推力発生機構11の先端部に着脱可能に保持されている。この圧入ヘッド13は、圧入部品31および被圧入部品32のうちいずれか一方、例えば圧入部品31に対して圧入用推力発生機構11からの圧入方向の推力(圧入推力)を加えるようになっており、圧入部品31を他方の圧入嵌合部品である被圧入部品32の圧入穴32hの内部に圧入嵌合させることができる。
【0034】
また、圧入ヘッド13は、圧入部品31を被圧入部品32に圧入させるための押圧力である圧入推力に加えて、圧入部品31を圧入方向に振動させる超音波の振動推力を加えることができるようになっている。そのため、圧入ヘッド13は、例えばその主要部(ヘッド部分)が、圧入方向において超音波の波長の整数倍の長さを有しており、超音波振動ユニット12の発振周波数で共振振動できるようになっている。
【0035】
さらに、圧入ヘッド13は、圧入部品31が被圧入部品32に圧入される間、圧入部品31の軸方向一端面31dに対し図1中で下向きの圧入推力を加え続ける一方で、超音波振動ユニット12からの超音波振動の振動推力によって、圧入部品31に対して間欠的な振動推力(ハンマリング効果を生じる衝撃荷重)を加えることができるようになっている。
【0036】
なお、圧入ヘッド13の先端面13dの直径は、圧入部品31の軸方向一端面31dの直径に応じて、所要の加振や加圧が可能な接触面積が得られるように設定されている。また、圧入部品31に対する圧入ヘッド13の押圧範囲は、圧入部品31が軸方向一端面31d側に段付き形状や面取り形状等を有する場合には、軸方向一端面31dの周囲のそのような段差面やチャンファ面等に及んでもよい。この圧入ヘッド13は、前記把持用アタッチメントに代えて、またはその把持用アタッチメントと共に、圧入部品31の軸方向一端面31dの近傍で圧入部品31の外周面にゴム弾性体等を介して係合し、圧入部品31を圧入姿勢に保持するものであってもよい。
【0037】
一方、圧入ヘッド13の下方に配置された架台18のワーク配置部17には、圧入部品31が圧入される被圧入部品32(他方側の圧入嵌合部品)の圧入穴32hより大径の逃げ穴17aと、被圧入部品32を支持する受け面17bとが形成されている。
【0038】
また、架台18のワーク配置部17の近傍には、被圧入部品32に対して圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向振動の加振力を加える加振機構15が設けられている。
【0039】
この加振機構15は、圧入方向に延びる圧入ヘッド13の軸線C1の回りに等角度間隔に位置する複数、例えば一対の加振ユニット16によって構成されている。
【0040】
これら一対の加振ユニット16は、それぞれ被圧入部品32に当接および離隔可能で互いに協働して被圧入部品32を保持および挟圧することができる一対のクランプ部材16aと、これらクランプ部材16aを圧入ヘッド13の軸線C1上の被圧入部品32に向けて支持する一対の支持台16bと、によって構成されている。
【0041】
一対のクランプ部材16aを有する加振ユニット16は、圧入ヘッド13と共に、圧入方向の軸線C1の回りにおける圧入部品31および被圧入部品32の回転角度位置を特定範囲内に制限する回転角度制限機構19を構成している。
【0042】
一対の支持台16bは、一対のクランプ部材16aを介して被圧入部品32を軸線C1上に位置決めするよう互いに接近する接近位置と、一対のクランプ部材16aを被圧入部品32から離脱させるよう互いに離隔する離隔位置とに移動できるよう、架台18上に移動可能に支持されている。
【0043】
また、一対の支持台16bは、それぞれ圧電素子を用いて圧入ヘッド13の軸線C1と直交する被圧入部品32の半径方向(図1中の左右方向;以下、横方向ともいう)に超音波振動を励起することができる振動励起部16cを内蔵している。そして、これら一対の支持台16bは、一対のクランプ部材16aが被圧入部品32を挟圧・保持している状態下で、これら一対のクランプ部材16aを横方向に超音波振動させるよう、一対のクランプ部材16aに対して超音波振動の加振力を加えることができるようになっている。
【0044】
振動励起部16cで励起される超音波振動は、圧入部品31や被圧入部品32の材質、嵌合部位の大きさや形状等に応じて適宜設定され、例えば振動周波数が20kHz以上で、その振動振幅が数10μm程度になるように調整される。また、振動励起部16cでの発振の周波数や振幅、発振の有無等は、圧入作業全体を制御する圧入制御回路22からの指令信号に従って、超音波発振制御回路25より制御されるようになっている。この超音波発振制御回路25は、例えば振動励起部16cの超音波振動子を所定の周波数および振幅で振動させるよう、印加電圧の変動周波数制御や電力増幅、昇圧等を実行することができる。また、超音波発振制御回路25には、振動励起部16cの超音波振動振幅や位相を設定条件に適合させるよう、圧入負荷に応じて供給電力を増大させる定振幅化回路等が設けられている。
【0045】
ところで、圧入部品31および被圧入部品32は、圧入時に互いに圧接する円筒状の圧接係合面f1,f2と、圧入時に互いに圧接しない非圧接部f3,f4とを有している。
【0046】
ここで、圧接係合面f1は、圧入部品31の円筒状の外周面であり、圧接係合面f2は、被圧入部品32の圧入穴32hの内周壁面である。また、非圧接部f3は、圧入部品31の外周壁の一部を互いに平行なカット面31a(図2参照)を有するように対称に切り欠いた一対の平行カット部(切欠き部)であり、非接触部f4は、被圧入部品32に軸線と直交する方向に穿設された一対の径方向の通路孔32aが被圧入部品32の圧入穴32hに開口する部分である。
【0047】
圧入部品31は、一対の平行カット部からなる非圧接部f3の中央部に半径方向の連通孔31bを有するとともに、軸線方向に延びる有底の中心孔31cを有している。また、被圧入部品32の一対の通路孔32aは、圧入穴32hから外周面32fまで半径方向に貫通している。そして、圧入部品31が被圧入部品32の圧入穴32hに所定深さまで圧入されると、圧入部品31の中心孔31cと被圧入部品32の一対の通路孔32aとが一対の連通孔31bを介して連通するようになっている。
【0048】
一方、回転角度制限機構19により軸線C1回りにおける圧入部品31および被圧入部品32の回転角度位置が圧入開始可能な特定範囲内に制限されたとき、一対の加振ユニット16から被圧入部品32への超音波振動の加振方向と、圧入部品31および被圧入部品32の特定の半径方向とが略一致するようになっている。
【0049】
すなわち、一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加えられる横方向の超音波振動の加振力は、圧入部品31および被圧入部品32の特定の半径方向に向けて加えられるようになっている。
【0050】
ここにいう特定の半径方向とは、圧接係合面f1,f2の周方向の一部に非圧接部f3,f4に隣接して形成されるエッジ31e,32e(図1、図4参照)を通る半径方向であり、より好ましくは、図1に示すように、圧入部品31の一対の連通孔31bの中心軸線および被圧入部品32の一対の通路孔32aの中心軸線に対し平行になる半径方向である。
【0051】
一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加えられる横方向の超音波振動の加振力をこのように方向付けるのは、圧接係合面f1,f2がその周方向の一部で非圧接部f3,f4に隣接する部分にエッジ31e,32eを形成し、圧入部品31および被圧入部品32の圧入時にエッジ31e,32eによってバリやかじりを生じる可能性がある角度範囲について、一対の加振ユニット16から横方向の超音波振動の加振力によって、圧入部品31および被圧入部品32の間の圧入嵌合代を短周期で間欠的に十分に減少させるためである。
【0052】
圧入制御回路22は、圧入ヘッド13から圧入部品31に加わる圧入推力を、例えば圧入用推力発生機構11と圧入ヘッド13の間に介在する推力センサ23によって検出し、その圧入推力(振動推力の変動成分を含まない推力)を一定範囲内に、例えば一定値に維持するように、圧入用推力発生機構11の推力および先端位置を制御する推力制御回路24に検出推力をフィードバックするようになっている。あるいは、圧入制御回路22は、予め圧入ストローク毎に設定された設定圧入荷重となるように、圧入用推力発生機構11の推力および先端位置を特定する指令信号を出力するようになっている。そのような推力や位置の制御自体は公知であり、ここでは詳述しない。
【0053】
また、圧入制御回路22は、超音波発振制御回路25と協働して、圧入加工中に加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加える横方向の振動推力の大きさ、周期および位相等を、圧入ヘッド13からの縦方向の振動推力による圧入部品31の振動(軸方向に伸縮およびその伸縮に伴うポアソン効果による径方向の寸法変化)の周期や位相に応じて制御する機能を有している。
【0054】
具体的には、圧入制御回路22には、圧入部品31および被圧入部品32についての予めの圧入試験の結果に基づいて設定された圧入加工条件が記憶格納されている。
【0055】
ここでの圧入加工条件とは、特に、圧入ヘッド13から圧入部品31に加える圧入推力および縦方向の振動推力と、加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加える横方向の振動推力とについて、その圧入推力の大きさ、それに対応する縦方向および横方向の振動推力の大きさ、振動の振幅および周期、圧入ヘッド13から圧入部品31に加える縦方向の振動推力に対する加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加える横方向の振動推力の位相差等である。ここでの縦方向の振動推力および横方向の振動推力の振動周期は、例えば互いに同一であるが、場合によっては、圧入ヘッド13から圧入部品31に加える縦方向の振動推力の周波数を、加振ユニット16から被圧入部品32に加える横方向の振動推力の振動周波数の整数倍にすることもできる。
【0056】
また、圧入ヘッド13から圧入部品31に加える縦方向の振動推力に対する一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加える横方向の振動推力の位相差については、前記圧入試験の結果に基づいて、圧入部品31が縦方向振動の加振力によって圧入方向一方側(圧入深さの増加側)に加振されるタイミングと、特定の半径方向における圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるように設定されている。この条件は、好ましくは、圧入部品31が縦方向振動の加振力によって圧入側に加振されるタイミングと、特定の半径方向における圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代がその変動範囲の中心値(平均値)より減少することで締め代が十分に小さくなるタイミングとが略一致する条件として設定されている。
【0057】
さらに、縦方向の振動推力に対する横方向の振動推力の大きさ、振動の振幅および周期、並びに、位相差は、圧入部品31および被圧入部品32の嵌合部位33において圧入部品31が特定の半径方向に収縮するタイミングと、被圧入部品32が特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるように設定されている。そして、このような縦方向の振動推力および横方向の振動推力の大きさ、振動の振幅および周期、並びに、位相差は、圧入加工対象である圧入部品31および被圧入部品32等のワークの物性、形状、超音波振動特性等に基づいて、ワーク毎にあるいは、同一のワークであっても環境温度や部品のばらつき情報に応じて、可変設定されるようになっている。
【0058】
すなわち、圧入制御回路22は、圧入ヘッド13から圧入部品31に加える縦方向振動および加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品32に加える横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構となっている。
【0059】
次に、上述の圧入装置10を用いて実行される本発明の第1実施形態の圧入方法について説明する。
【0060】
本実施形態の圧入方法では、準備段階で、まず、圧入時に互いに圧接する圧接係合面f1,f2と、該圧接係合面f1,f2の周方向の一部に隣接し圧入時に互いに圧接しない非圧接部f3,f4とを形成した、圧入部品31および被圧入部品32を、それぞれ準備する。
【0061】
そして、圧入加工段階では、例えば圧入部品31および被圧入部品32に対応するワーク種別を選択することで、そのワークに対応する加工条件を予め記憶格納された複数種の加工条件のうちから選択して設定する。
【0062】
すなわち、圧入部品31を被圧入部品32に圧入するに際し、まず、圧入ヘッド13から圧入部品31に加える一定範囲内の圧入推力の値を設定する。
【0063】
また、圧入部品31が圧入ヘッド13からの縦方向の超音波振動の加振力によって圧入側に加振されるタイミングと、前記特定の半径方向における圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるように、圧入制御回路22における縦方向振動および横方向振動の条件を設定する。
【0064】
さらに、圧入部品31および被圧入部品32の嵌合部位33で圧入部品31が特定の半径方向に収縮するタイミングと、被圧入部品32が特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるよう、すなわち、前記特定の半径方向における圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代の間欠的な減少の減少度合いを最大にするように、縦方向振動および横方向振動の条件を設定する。
【0065】
このような加工条件の設定を完了した後、回転角度制限機構19により軸線C1回りにおける圧入部品31および被圧入部品32の回転角度位置を圧入開始可能な特定範囲内に制限して、一対の加振ユニット16から被圧入部品32への超音波振動の加振方向と、圧入部品31および被圧入部品32の特定の半径方向を略一致させる。
【0066】
次いで、圧入部品31を被圧入部品32に圧入するが、その際、圧入ヘッド13から圧入部品31に圧入方向に向かう圧入推力および縦方向の超音波振動の加振力を加えるとともに、加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品32に圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向の超音波振動の加振力を加える。
【0067】
すなわち、圧入部品31を被圧入部品32に圧入する段階で、加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品32に横方向の超音波振動の加振力を加えるときには、その加振力は、圧入部品31および被圧入部品32の前記特定の半径方向に向けられる。
【0068】
次に、作用について説明する。
【0069】
上述のように構成された本実施形態の圧入方法においては、圧入時に、圧入ヘッド13から圧入部品31に予め設定された一定範囲内の圧入推力が加わるように、圧入用推力発生機構11の作動を制御する。
【0070】
そして、超音波振動ユニット12と共に縦方向に超音波振動する圧入ヘッド13によって、圧入部品31の軸方向一端面31dに対して、圧入推力と間欠的な振動推力の合成力を加える。
【0071】
このとき、圧入部品31は、その弾性範囲内で、圧入方向に圧縮されるとともにポアソン効果によって径寸法に膨張する状態と、圧入方向に伸長するよう弾性回復するとともにポアソン効果によって径寸法に収縮する状態とを、交互に繰り返すことになる。
【0072】
一方、このような状態において、被圧入部品32には、加振機構15の一対の加振ユニット16から横方向の超音波振動の加振力を加える。
【0073】
このとき、被圧入部品32は、図3に示すように、非圧接部f3,f4が位置する円筒状の圧接係合面f1,f2の周方向の一部を通る半径方向、すなわち、特定の半径方向に拡径してその方向に圧入穴32hを拡径させる状態Aと、特定の半径方向に縮径してその方向に圧入穴32hを縮径させる状態Bとを、交互に繰り返すことになる。
【0074】
したがって、圧入部品31の圧接係合面f1,f2の一部が非圧接部f3,f4に隣接するエッジ31e,32eを有する場合であっても、圧入時のエッジ31e,32eの通過領域では圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代が間欠的に十分に減少することになり、面取りや高精度加工、あるいは焼きばめ等のために加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を有効に抑制できることになる。
【0075】
特に、本実施形態においては、圧入部品31が縦方向振動の加振力によって圧入方向に加振されるタイミングと、特定の半径方向における圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させる。さらに、圧入部品31および被圧入部品32の嵌合部位で圧入部品31が特定の半径方向に収縮するタイミングと、被圧入部品32が特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させる。したがって、圧入部品31が縦方向振動の加振力によって圧入方向に加振されるときに、特定の半径方向における圧入部品31および被圧入部品32の圧入嵌合代が十分に減少する。
【0076】
よって、圧入部品31および被圧入部品32の圧接係合面f1,f2の一部がエッジ31e,32eを有する場合でも、そのエッジ31e,32eの通過領域では、圧入部品31および被圧入部品32の間の摩擦が大幅に軽減され、バリやかじりの発生が非常に有効に抑制される。
【0077】
このように、本実施形態の圧入方法においては、圧入部品31を被圧入部品32に圧入する際に、被圧入部品32に対して特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力を加えるので、圧入部品31および被圧入部品32が圧接係合面f1,f2の一部に非圧接部f3,f4に隣接するエッジ31e,32eを有する場合でも、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を抑えることができる圧入方法および圧入装置を提供することができる。
【0078】
また、本実施形態の圧入装置10では、圧入制御回路22が縦方向振動および横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構として機能し、圧入部品31および被圧入部品32以外の多品種のワークが圧接係合面と非圧接部を有する場合においても、一方の圧入嵌合部品が他方の圧入嵌合部品に圧入される方向に加振されるとき、両圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少する。したがって、圧接係合面と非圧接部を有する多品種のワークに対して、バリやかじりの発生を有効に抑制できる。
【0079】
(第2実施形態)
図5ないし図7は、本発明の第2実施形態を示している。
【0080】
図5ないし図7に示すように、この第2実施形態は、圧入加工対象のワーク形状が上述の第1実施形態とは異なり、ワークに対し加振機構により加える横方向の超音波振動の加振力の向きと加振箇所の数が、第1実施形態とは相違する。ただし、装置構成自体は、第1実施形態における180度間隔の複数の加振ユニット16に代えて、これらの加振ユニット16と同様な3つの加振ユニット16を架台18上に120度間隔で配置し、これら3つの加振ユニット16に対して圧入制御回路22および超音波発振制御回路25による制御が実行される以外は、第1実施形態と略同様である。
【0081】
したがって、ここでは、第1実施形態と同一またはそれに相当する構成については図1ないし図4に示した対応する構成要素の符号を用い、特に、第1実施形態と相違するワークとその圧入を実施するため圧入制御回路22の制御内容について詳述する。
【0082】
まず、装置構成について説明すると、本実施形態の圧入装置10は、図5(a)および図5(b)と図7とに示すように、軸方向の一部に3面カット部を有する丸棒の圧入部品41(一方の圧入嵌合部品)をこれと略同等な線膨張係数を有する環状の被圧入部品42(他方の圧入嵌合部品)の圧入穴42hの内部に圧入嵌合させるようになっており、圧入部品41を圧入ヘッド13側で保持し、被圧入部品42を架台18のワーク配置部17上に配置した状態で、圧入用推力発生機構11によって圧入ヘッド13を下降させて、その圧入作業を行うようになっている。
【0083】
圧入部品41および被圧入部品42は、圧入時に互いに圧接する円筒状の圧接係合面f1,f2と、圧入時に互いに圧接しない非圧接部f3,f4とを有している。ここで、圧接係合面f1は、圧入部品41の円筒状の外周面であり、圧接係合面f2は、被圧入部品42の圧入穴42hの内周壁面である。また、非圧接部f3は、圧入部品41の外周壁の一部を互いに等角度間隔(ここでは60度間隔)に3面カットしたカット面41a(図5(a)および図7参照)を有するように対称に切り欠いた3つの切欠き部であり、非接触部f4は、被圧入部品42に軸線と直交する方向に穿設された3つの孔42aが被圧入部品42の圧入穴42hに開口する部分である。なお、孔42aは、ボルト穴、圧入ピンの圧入孔、加工用の作業孔、ガイド穴等のいずれであってもよいし、凹部でもよい。また、孔42aを有する非接触部f4は、無くてもよい。
【0084】
3つの加振ユニット16から被圧入部品42に加えられる横方向の超音波振動の加振力は、圧入部品41および被圧入部品42の特定の半径方向に向けて加えられるようになっている。すなわち、回転角度制限機構19により軸線C1回りにおける圧入部品41および被圧入部品42の回転角度位置が圧入開始可能な特定範囲内に制限されたとき、3つの加振ユニット16から被圧入部品42への超音波振動の加振方向と、圧入部品41および被圧入部品42の特定の半径方向とが略一致するようになっている。
【0085】
ここでの特定の半径方向とは、圧接係合面f1,f2の周方向の一部に非圧接部f3,f4に隣接して形成されるエッジ41e,42eを通る半径方向であり、より好ましくは、圧入部品41の3つのカット面41aの法線方向であって被圧入部品42の3つの孔42aの中心軸線に対し平行になる3つの半径方向である。
【0086】
一方、圧入制御回路22は、圧入ヘッド13から圧入部品41に加える縦方向振動および加振機構15の3つの加振ユニット16から被圧入部品42に加える横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構となっており、この圧入制御回路22には、圧入部品41および被圧入部品42についての予めの圧入試験の結果に基づいて設定された圧入加工条件が記憶格納されている。
【0087】
この圧入加工条件は、圧入ヘッド13から圧入部品41に加える圧入推力および縦方向の振動推力と、加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品42に加える横方向の振動推力とについて、第1実施形態の場合と同様に設定される。すなわち、圧入推力の大きさ、それに対応する縦方向および横方向の振動推力の大きさ、振動の振幅および周期、圧入ヘッド13から圧入部品41に加える縦方向の振動推力に対する加振機構15の3つの加振ユニット16から被圧入部品42に加える横方向の振動推力の位相差等が設定される。ここでの縦方向の振動推力および横方向の振動推力の振動周期は、例えば互いに同一である。
【0088】
圧入ヘッド13から圧入部品41に加える縦方向の振動推力と、3つの加振ユニット16から被圧入部品42に加える横方向の振動推力との位相差に関しても、前記圧入試験の結果に基づいて、第1実施形態の場合と同様な観点で条件設定がなされている。
【0089】
すなわち、圧入制御回路22は、圧入部品41が縦方向振動の加振力によって圧入方向一方側(圧入深さの増加側)に加振されるタイミングと、特定の半径方向における圧入部品41および被圧入部品42の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるように設定されている。この条件は、好ましくは、圧入部品41が縦方向振動の加振力によって圧入側に加振されるタイミングと、特定の半径方向における圧入部品41および被圧入部品42の圧入嵌合代がその変動範囲の中心値(平均値)より減少することで締め代が十分に小さくなるタイミング(図6(a)の状態Aのとき)とが略一致する条件である。
【0090】
さらに、縦方向の振動推力に対する横方向の振動推力の大きさ、振動の振幅および周期、並びに、位相差は、圧入部品41および被圧入部品42の嵌合部位43において圧入部品41が特定の半径方向に収縮するタイミングと、被圧入部品42が特定の半径方向に拡径するタイミング(図6(a)の状態Aのとき)とを同期させるように設定されている。
【0091】
次に、本実施形態の圧入方法について説明すると、準備段階では、まず、圧入時に互いに圧接する圧接係合面f1,f2と、該圧接係合面f1,f2の周方向の一部に隣接し圧入時に互いに圧接しない非圧接部f3,f4とを形成した、圧入部品41および被圧入部品42を、それぞれ準備する。
【0092】
そして、圧入加工段階では、例えば圧入部品41および被圧入部品42に対応するワーク種別を選択することで、そのワークに対応する加工条件を予め記憶格納された複数種の加工条件のうちから選択して設定する。
【0093】
すなわち、圧入部品41を被圧入部品42に圧入するに際し、まず、圧入ヘッド13から圧入部品41に加える一定範囲内の圧入推力の値を設定する。
【0094】
また、圧入部品41が圧入ヘッド13からの縦方向の超音波振動の加振力によって圧入側に加振されるタイミングと、前記特定の半径方向における圧入部品41および被圧入部品42の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるように、圧入制御回路22における縦方向振動および横方向振動の条件を設定する。
【0095】
さらに、圧入部品41および被圧入部品42の嵌合部位33で圧入部品41が特定の半径方向に収縮するタイミングと、被圧入部品42が特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるよう、すなわち、前記特定の半径方向における圧入部品41および被圧入部品42の圧入嵌合代の間欠的な減少の減少度合いを最大にするように、縦方向振動および横方向振動の条件を設定する。
【0096】
このような加工条件の設定を完了した後、回転角度制限機構19により軸線C1回りにおける圧入部品41および被圧入部品42の回転角度位置を圧入開始可能な特定範囲内に制限して、一対の加振ユニット16から被圧入部品42への超音波振動の加振方向と、圧入部品41および被圧入部品42の特定の半径方向を略一致させる。
【0097】
次いで、圧入部品41を被圧入部品42に圧入するが、その際、圧入ヘッド13から圧入部品41に圧入方向に向かう圧入推力および縦方向の超音波振動の加振力を加えるとともに、加振機構15の一対の加振ユニット16から被圧入部品42に圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向の超音波振動の加振力を加える。
【0098】
すなわち、圧入部品41を被圧入部品42に圧入する段階で、加振機構15の3つの加振ユニット16から被圧入部品42に横方向の超音波振動の加振力を加えるときには、その加振力は、圧入部品41および被圧入部品42の前記特定の半径方向に向けられる。
【0099】
このように、本実施形態においても、圧入部品41を被圧入部品42に圧入する際に、被圧入部品42に対して特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力を加えるので、図6(a)および図6(b)の状態A,Bのように、被圧入部品42を特定の半径方向に間欠的に拡径させ、圧入部品41および被圧入部品42が圧接係合面f1,f2の周方向の一部で非圧接部f3,f4に隣接する場合でも、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を抑えることができる圧入方法および圧入装置を提供することができる。
【0100】
なお、上述の各実施形態においては、圧入ヘッド13が、超音波振動ユニット12からの超音波振動の振動推力によって、圧入部品31,41を圧入方向に超音波振動させる構成となっていたが、被圧入部品32,42を圧入方向に超音波振動させる構成を採用し得ることはいうまでもない。
【0101】
また、圧入ヘッド13は、架台18側に支持され、推力センサ23のような圧入荷重センサの検知情報に基づいて高さ位置制御される昇降台等に支持されてもよく、被圧入部品32,42を圧入方向に移動させるとともに加圧するものとして構成されてもよい。その場合、被圧入部品32,42が本発明にいう一方の圧入嵌合部品となり、圧入部品31,41が他方の圧入嵌合部品となる。
【0102】
圧入部品31,41および被圧入部品32,42の形状や材質が特に限定されないことはいうまでもなく、本発明にいう一方および他方の圧入嵌合部品は、必ずしも円柱状の部品と丸穴を有する部品に限定されない。すなわち、圧入部材および被圧入部材が、非円形の圧接係合面を形成するように圧入嵌合する場合であってもよいし、周方向に分断された複数の圧接係合面が係合されてもよく、その場合、非圧接部は溝状その他の任意の形態で圧接係合面の周方向の一部に隣接することになる。
【0103】
また、上述の各実施形態では、圧入部品31,41にエッジ31e,32eが形成されるとともに、被圧入部品32,42にエッジ41e,42eが形成されるものとしたが、片側だけに形成される場合であってもよい。
【0104】
勿論、圧接係合面と非圧接部が隣接する部位における明確なエッジをなくす程度に、ワークに対してバレル研磨等が施されたり面取りがなされる場合であっても、本発明は、圧接係合面の周方向の一部で他の部分よりバリやかじりその他の圧接係合面における不具合が生じ易いワークの圧入加工において、そのような不具合を解消し得るものであり、エッジは必ずしも必要ではない。
【0105】
以上説明したように、本発明は、一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、他方の圧入嵌合部品に対し、非圧接部に隣接する圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて横方向振動の加振力を加えるので、圧入嵌合部品の圧接係合面の一部が非圧接部に隣接するエッジを有する場合でも、加工コスト高を招くことなく、バリやかじりの発生を抑えることができる圧入方法および圧入装置を提供することができる。このような本発明は、圧入嵌合部位に振動を加えつつ圧入を行うようにした圧入方法および圧入装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0106】
10 圧入装置
11 圧入用推力発生機構
12 超音波振動ユニット
12a 振動子
13 圧入ヘッド
13d 先端面
15 加振機構
16 加振ユニット
16a クランプ部材
16b 支持台
16c 振動励起部
17 ワーク配置部
18 架台
19 回転角度制限機構
21,25 超音波発振制御回路
22 圧入制御回路
23 推力センサ
24 推力制御回路
31;41 圧入部品
31a;41a カット面
31b 連通孔
31c 中心孔
31d 軸方向一端面
31e,32e;41e,42e エッジ
32;42 被圧入部品
32a 通路孔
32f 外周面
32h;42h 圧入穴
33;43 嵌合部位
42a 孔
C1 軸線
f1,f2 圧接係合面
f3,f4 非圧接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、前記一方の圧入嵌合部品に圧入方向に向かう推力および縦方向振動の加振力を加えるとともに、前記他方の圧入嵌合部品に前記圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向振動の加振力を加える圧入方法であって、
前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品に、前記圧入時に互いに圧接する圧接係合面と、該圧接係合面の周方向の一部に隣接し前記圧入時に互いに圧接しない非圧接部とを形成しておき、
前記一方の圧入嵌合部品を前記他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、前記他方の圧入嵌合部品に対し、前記圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて前記横方向振動の加振力を加えることを特徴とする圧入方法。
【請求項2】
前記一方の圧入嵌合部品を前記他方の圧入嵌合部品に圧入する際に、前記一方の圧入嵌合部品が前記縦方向振動の加振力によって前記圧入方向に加振されるタイミングと、前記特定の半径方向における前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を設定することを特徴とする請求項1に記載の圧入方法。
【請求項3】
前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の嵌合部位で前記一方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に収縮するタイミングと、前記他方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧入方法。
【請求項4】
一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入するよう前記一方の圧入嵌合部品に圧入方向に向かう推力および縦方向振動の加振力を加える圧入ヘッドと、
前記他方の圧入嵌合部品に前記圧入方向と直交する半径方向に向かう横方向振動の加振力を加える加振機構と、
前記圧入方向の軸線回りにおける前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の回転角度位置を特定範囲内に制限する回転角度制限機構と、を備えた圧入装置であって、
前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品が、前記圧入時に互いに圧接する圧接係合面と、該圧接係合面の周方向の一部に隣接し前記圧入時に互いに圧接しない非圧接部とを有していることを条件に、
前記他方の圧入嵌合部品に対し、前記圧接係合面の周方向の一部を通る特定の半径方向に向けて前記横方向振動の加振力を加えることを特徴とする圧入装置。
【請求項5】
前記一方の圧入嵌合部品が前記縦方向振動の加振力によって前記圧入方向に加振されるタイミングと、前記特定の半径方向における前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の圧入嵌合代が減少するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構を備えたことを特徴とする請求項4に記載の圧入装置。
【請求項6】
前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の嵌合部位で前記一方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に収縮するタイミングと、前記他方の圧入嵌合部品が前記特定の半径方向に拡径するタイミングとを同期させるよう、前記縦方向振動および前記横方向振動の条件を可変設定する振動条件設定機構を備えたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111676(P2013−111676A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257914(P2011−257914)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】