説明

圧入装置

【課題】簡単な構成により下冶具に設置された被圧入部品と、上冶具に装着された圧入部品との中心軸を一致させて、圧入することができ、その結果、部品同士の干渉による破損原因を軽減できる自己センタリング機構を備えた圧入装置を提供する。
【解決手段】下部に鍔7bを有し、装置架台上に設置された円柱形状のベース部7と、上部に鍔6fを有し、この鍔6fの上面6cの中央部に被圧入部品を設置するための受け皿6bとを備え、受け部6は、鍔6fと鍔7bとの間に配設したコイルスプリング8により、上下左右方向に動作自在なフローティング状態にベース部7と連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自己センタリング機構を備えた圧入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6(a)に示すように、従来の圧入装置1は、真空ポンプ(図示せず)に接続された真空管2cと、真空管2cと連通してバルブシート等の圧入部品4を真空吸着する装着口2bを有する上冶具2と、上冶具2の突起部2aと連結したジョイント1cと、ジョイント1cの先端に取り付けた駆動軸1dを油圧やモータ等を動力として圧入方向に駆動するプレス機構1bと、ハウジング等の被圧入部品5を設置するための受け皿3aを有し、装置架台1aに設置固定された下冶具3とを備え、作業員や搬送機器等により、装着口2bに圧入部品4を装着し、受け皿3aに被圧入部品5を設置し、プレス機構1bにより圧入部品4を被圧入部品5へ圧入していた。しかしながら、このような圧入装置では、装置自体の寸法精度が低いと図6(b)に示すように、圧入部品4の中心軸Aと被圧入部品5中心軸Bとが一致せず、圧入時に、圧入部品4と被圧入部品5とが干渉してしまう。このため、下冶具3の受け皿3aに設置された被圧入部品5の中心軸Aと、上冶具2に装着された圧入部品4の中心軸Bとを高精度に一致させるため、圧入装置自体の寸法精度を高くしなければならず、圧入装置の製造コストが高くなるという問題があった。このため、ばねとピンから構成され、受け皿の中心方向に向かって被圧入部品を押圧するプッシャピンを受け皿の側面に120度毎に設け、被圧入部品が受け皿の中央に設置されるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−96425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の圧入装置は、プッシャピンの押圧により、被圧入部品が受け皿の中央に設置されるようにしているため、各プッシャピンが被圧入部品を均等に押圧するように、プッシャピンの寸法精度を非常に高くしなければならないという課題があった。また、使用によりプッシャピンが磨耗したり、ばねが弱ったりすると、各プッシャピンが被圧入部品を均等に押圧することができず、被圧入部品が受け皿の中央に設置されなくなるという課題があった。この場合、圧入部品と被圧入部品とが干渉した状態で圧入されるため圧入部品等が破損してしまうという課題があった。また、プッシャピンの先端が受け皿内部に突出した状態で、被加工物を設置しなければならないため作業性が悪化するという課題があった。また、この作業性の悪化を改善するためには、プッシャピンの作動機構を別途設ける必要があり、生産コストが増大するという課題があった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、簡単な構成により下冶具に設置された被圧入部品と、上冶具に装着された圧入部品との中心軸を一致させて、圧入することができ、その結果、部品同士の干渉による破損原因を軽減できる自己センタリング機構を備えた圧入装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る圧入装置は、下冶具が装置架台上に設置されたベース部と、前記受け皿を有し、弾性体により前記ベース部へフローティング状態に連結された受け部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、簡単な構成により、下冶具に設置された被圧入部品と上冶具に装着された圧入部品との中心軸を一致させる自己センタリング機構を実現することができるので、圧入装置の製造コストを削減できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明における、実施の形態の一例について、添付の図面に従って説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による圧入装置の特徴となる部分の構成の一例を示した部分断面図である。この実施の形態1の圧入装置は、下部に鍔7bを有し、装置架台(図示せず)上に設置された円柱形状のベース部7と、上部に鍔6fを有し、この鍔6fの上面6cの中央部分にバルブシート等の被圧入部品を設置するための受け皿6bが設けられた円柱形状の受け部6とを備え、受け部6は、鍔6fと鍔7bとの間に配設したコイルスプリング8により、上下左右方向に動作自在な状態(以下、フローティング状態)にベース部7と連結されている。また、コイルスプリング8との引っ掛かりを防止するために、受け部6の下面6d及びベース部7の上面7cの端部には、それぞれR部6a、7aが設けられている。さらにコイルスプリング8の挟み込みを防止するため、ベース部7の上面7cの外径7dは、受け部6の下面6dの外径6eよりも小さく構成されている。その他の構成については、従来の圧入装置と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0009】
次に動作について説明する。
図2は、この実施の形態1による圧入装置の動作を示した図である。(a)は、圧入部品4を上冶具2の装着口2bへ装着し、被圧入部品5を受け皿6bへ設置した状態を示した図である。圧入部品4及び被圧入部品5には、それぞれの中心軸A及びBを一致させるためのテーパー部4a、5aが設けられている。この状態では、圧入部品4の中心軸Aと、被圧入部品5の中心軸Bとは一致していない。(b)は、プレス機構(図示せず)により上冶具2が下降し、圧入部品4と被圧入部品5とが当接した状態を示している。(c)は、上冶具2がさらに下降し、圧入部品4のテーパー部4aと被圧入部品5のテーパー部5aとにより、コイルスプリング8によりフローティング状態にベース部7に連結された受け部6が、圧入方向に垂直な面内で移動して、圧入部品4の中心軸Aと、被圧入部品5の中心軸Bとが一致した状態を示している。(d)は、上冶具2が下降することにより、受け部6の下面6dと、ベース部7の上面7cとが当接し、さらに上冶具2が下降して、圧入部品4が被圧入部品5へ圧入された状態を示している。(e)は、装着口2bの真空吸着を解除して、上冶具2を上昇させた状態を示している。
【0010】
以上のように、本実施の形態1による圧入装置は、受け部6をコイルスプリング8によりフローティング状態にベース部7へ連結するように構成したので、簡単な構成により圧入部品4の中心軸Aと被圧入部品5の中心軸Bとを一致させて自己センタリングを行うことができるため圧入装置の製造コストを削減できるとともに、部品同士の干渉による破損原因を軽減できる効果がある。また、圧入部品4及び被圧入部品5に設けられたテーパー4a及び5aにより自己センタリングされる範囲内で圧入装置自体の寸法精度が確保されていればよく、従来の圧入装置ほどの精度を必要としない。このため、さらに製造コストを削減できる効果がある。また、受け皿6bにプッシャピンのようなものを設ける必要がなく、生産性が悪化することも無い。
【0011】
実施の形態2.
図3は、圧入装置の他の実施の形態を示した図である。(a)は受け部9の上面図、(b)は、(a)のA−A線での断面を示した図である。実施の形態1では、1本のコイルスプリング8で受け部6をフローティング状態にベース部7へ連結するようにしたが、適正な内径、ばね定数及び自然長を満たすコイルスプリングが市販されていない場合には、図3に示すように、受け部9及びベース部10に、対向して突起部9a及び10aを設け、この突起部9a及び10aに端部を嵌合させて、コイルスプリング8を90度毎に4本設けるようにして、受け部9とベース部10を連結するようにしてもよい。また、コイルスプリング8の本数は、4本に限られず、120度毎に3本設けるようにしてもよい。コイルスプリング8は、圧入部品4と被圧入部品5との中心軸A、Bを一致させた状態で受け部9の下面とベース部10の上面とが接触しないばね係数を持つものを選択する必要があるが、上記のように構成すれば、前記条件を満たすコイルスプリングを作成しなくとも、安価な市販品のコイルスプリングを使用して、自己センタリング機構を構成できるという効果がある。
【0012】
実施の形態3.
図4は、実施の形態3による圧入装置の特徴となる部分の構成の一例を示した部分断面図である。実施の形態1では、下冶具に自己センタリング機構を設けたが、この実施の形態3は、上冶具11に自己センタリング機構を設けたものであり、プレス機構(図示せず)の摺動軸先端に取り付けられたジョイント(図示せず)に連結された突起部12aを有するベース部12と、外部の真空ポンプに接続された真空管13aと、真空管13aに連通した装着口13bとを有し、コイルスプリング8によりベース部12にフローティング状態に連結された圧入部品保持部13とを備えている。また、圧入部品保持部13の周りを囲み、下部を内向きに水平に折曲げ、この水平折曲げ部14aで圧入部品保持部13の底面を支え、圧入部品保持部13が必要以上に動作しないように規制するガイド部14を備える。なお、従来技術及び実施の形態1で説明したものと同様の構成については、同じ符号を付し説明を省略する。
【0013】
次に動作について説明する。
図5は、実施の形態3による圧入装置の動作を示した図である。(a)は、バルブシート等の圧入部品4を上冶具11へ装着し、ハウジング等の被圧入部品5を下冶具3の受け皿3aへ設置した状態を示した図である。この状態では、圧入部品4の中心軸Aと、被圧入部品5の中心軸Bとは一致していない。(b)は、プレス機構(図示せず)により上冶具11が下降し、圧入部品4と被圧入部品5とが当接した状態を示している。(c)は、上冶具11がさらに下降し、圧入部品4のテーパー部4aと被圧入部品5のテーパー部5aとにより、コイルスプリング8によりフローティング状態にベース部12と連結された圧入部品保持部13が、圧入方向と垂直な平面内で移動して、圧入部品4の中心軸Aと被圧入部品5の中心軸Bとが一致した状態を示している。(d)は、上冶具11が下降することによりベース部12の下面12bと圧入部品保持部13の上面13cと当接し、さらに上冶具11が下降して、圧入部品4が被圧入部品5へ圧入された状態を示している。(e)は、装着口13bの真空吸着を解除して、上冶具11を所定の位置まで上昇させた状態を示している。
【0014】
以上のように、本実施の形態1による圧入装置は、圧入部品保持部13をコイルスプリング8によりベース部12とフローティング状態に連結するようにしたので、下冶具3が圧入装置の装置架台と一体化している等、下冶具3を改造等できない場合にも、自己センタリング機構を圧入装置に組み込むことができるという効果がある。その他の効果については実施の形態1と同様である。なお、実施の形態1と実施の形態2とを同時に実施することも可能である。この場合、一方のコイルスプリング8のばね定数を、他方のコイルスプリング8のばね定数より高くしておく等により、自己センタリングをより安定して行うことができる。なお、実施の形態2と同様に、複数のコイルスプリング8を使用するようにしてもよい。
【0015】
また、上記の各実施の形態1から3では、圧入部品の装着を真空吸着することで説明したが、電磁吸着力による吸着保持、その他の保持手段で行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1による圧入装置の特徴となる部分の構成の一例を示した部分断面図である。
【図2】実施の形態1による圧入装置の動作を示した図である。
【図3】実施の形態2による圧入装置の特徴となる部分の構成の一例を示した部分断面図である。
【図4】実施の形態3による圧入装置の特徴となる部分の構成の一例を示した部分断面図である。
【図5】実施の形態3による圧入装置の動作を示した図である。
【図6】従来の圧入装置を示した部分断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 圧入装置、1a 装置架台、1b プレス機構、1c ジョイント、1d 駆動軸、2,11 上冶具、2a,9a,10a,12a 突起部、2b,13b 装着口、2c,13a 真空管、3 下冶具、4 圧入部品、4a,5a テーパー部、5 被圧入部品、6,9 受け部、6a,7a R部、6b 受け皿、6c,7c,13c 上面、6d,12b 下面、6e,7d 外径、6f,7b 鍔、7,10,12 ベース部、8 コイルスプリング、13 圧入部品保持部、14 ガイド部、14a 水平折曲げ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧入部品を装着する装着口を有し、圧入方向に駆動するプレス機構の駆動軸に設けられた上冶具と、被圧入部品を設置する受け皿を有し、装置架台に設置された下冶具とを備え、前記圧入部品を前記被圧入部品へ圧入する圧入装置において、
前記下冶具は、装置架台上に設置されたベース部と、前記受け皿を有し、弾性体により前記ベース部へフローティング状態に連結された受け部とを備えたことを特徴とする圧入装置。
【請求項2】
圧入部品を装着する装着口を有し、圧入方向に駆動するプレス機構の駆動軸に設けられた上冶具と、被圧入部品を設置する受け皿を有し、装置架台に設置された下冶具とを備え、前記圧入部品を前記被圧入部品へ圧入する圧入装置において、
前記上冶具は、前記プレス機構の駆動軸に設けられたベース部と、前記装着口を有し、弾性体により前記ベース部へフローティング状態に連結された圧入部品保持部とを備えたことを特徴とする圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−137116(P2008−137116A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325876(P2006−325876)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】