圧力容器とその製造方法ならびに圧力容器の損傷検出方法と損傷検出装置
【課題】簡単な方法により、内殻、外殻を問わず、その損傷を検出できるようにした圧力容器とその製造方法ならびに圧力容器の損傷検出方法と損傷検出装置を提供すること。
【解決手段】気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻11と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻12とを備える圧力容器10であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサ13を具備する。
【解決手段】気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻11と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻12とを備える圧力容器10であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサ13を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器状の内殻を繊維強化プラスチックで被覆した圧力容器とその製造方法ならびに圧力容器の損傷検出方法と損傷検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液化ガスや高圧ガスなどを充填するために、比較的肉厚の薄いプラスチックや金属の内殻(ライナー)に対して、繊維強化プラスチックで形成した外殻を備えた比較的軽量の圧力容器(所謂「FRP圧力容器」)が使用されている。
【0003】
この種の圧力容器は、種々のガスを充填されて様々な用途に用いられるものであるが、軽量で耐圧性能に優れるため、例えば、消防士が業務中に使用する空気を充填して携帯する空気ボンベなどにも使用されている。
ところで、このような圧力容器が外部からの衝撃や、外部環境の変化、例えば急激な温度上昇などにより損傷した場合には、きわめて深刻な事態を引き起こすことから、その損傷を防止するための技術も開発されて来ている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−30797号公報
【特許文献2】特開平11−230347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの技術は、いずれも信号線(電線)や導電繊維をFRP層に含ませることを内容とするもので、該FRP層が損傷したことを信号線の断線により知ろうとするものである。
このような構成においては、信号線の存在する部位に限り、その断線によって損傷を検知するものであるから、信号線が存在しない箇所に生じたFRP層の損傷は検出できないという欠点を有する。
しかも、信号線を含ませながら、内殻に強化繊維を巻き付ける工程も必要とされ、工程が複雑になるという問題もある。
【0006】
さらに、上記した損傷はFRP層だけでなく、内部(内殻、すなわちライナー)にも生じるものであり、従来の手法は、そのような損傷を見つけようとする場合には不十分である。
特に、内殻に生じた損傷は、外部からの目視では検出できないことから、X線や超音波を用いた大がかりな深傷検査をするしかなく、検査頻度も限られてしまう。例えば消防士用の圧力容器では、法律により3年に一度の検査が義務付けられているが、その間の使用を考慮すると、検査期間の間隔が長い場合には、事故の頻度も増し、不安も増大するという種々の問題があった。
【0007】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、簡単な方法により、内殻、外殻を問わず、その損傷を検出できるようにした圧力容器とその製造方法ならびに圧力容器の損傷検出方法と損傷検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、第1の発明によれば、気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを具備する圧力容器により、達成される。
第1の発明の構成によれば、容器には、センサが配置されるが、特に配置個所の周囲の応力状態が作用するように固定されたセンサを備えるようにされている。したがって、なんらかの損傷により、センサ配置個所周囲の応力が変化した場合には、その応力変化を該センサが検出することで、損傷を知ることができる。したがって、損傷を受けやすい外殻において、微細で見過ごしかねない損傷なども検出することができる。さらには、内殻が損傷した場合においても、外部から視認できない損傷を検出することができるようにした圧力容器を提供することができる。
ここで、センサについて「配置個所周辺の応力状態が作用する」とは、例えば内殻に固定した場合には、当該内殻と応力的に一体とされ、外殻に固定した場合には、当該外殻と応力的に一体となり、その応力変化を検出できる状態をいう。また、センサ感度やセンサの種類などにより検出される応力変化の範囲は異なり、必要な検出範囲をカバーするために複数のセンサを設けてもよい。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記内殻と前記外殻との境界、もしくは前記外殻を構成する繊維強化プラスチックの内部、もしくは前記繊維強化プラスチック表面に、周囲の応力状態を検出するための前記センサを配置したことを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、センサについて配置個所周辺の応力状態が作用するように固定する態様として、該センサを外殻の中に配置する場合、すなわち、内殻に強化繊維を巻き付け、センサを配置後、さらに強化繊維を巻き付けるようにして形成すれば、特に外殻の応力変化を検出しやすい。さらにまた、外殻の表面にセンサを固定することで、特に外殻表面に近い損傷を検出するのに有利である。また、該センサを内殻と外殻の境界に固定して配置すると、特に深部である内殻の応力状態がセンサに伝わりやすく、また、外殻を形成する強化繊維により押しつけるように内殻表面に固定することで、内殻だけでなく、外殻の下層の応力状態もセンサに伝えられやすい。
【0010】
第3の発明は、第1または2の発明のいずれかの構成において、前記センサが圧電材料を利用したピエゾセンサであることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、センサとして、ピエゾセンサを用いることにより、センサに作用する応力の変化を電気信号に変換して出力することができる。この場合、ピエゾセンサは、好ましい温度特性などに応じた種類のものを選択することにより、安定的に、かつ簡便に損傷の検出を行うことができる。
【0011】
第4の発明は、第1ないし3のいずれかの発明の構成において、前記センサを複数個互いに離間して配置したことを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、前記センサに作用する応力の範囲を想定して、該範囲に対応して複数のセンサを配置することにより、信号線などを配置して電流を検出する従来技術ではなし得なかった容器のほぼ全ての範囲にわたる損傷検出を行うことができ、また、外殻の内部や、外殻と内殻の間など、異なる位置にそれぞれセンサを配置することで、外殻と内殻の損傷を個別に、しかも両方確実に検出することができる。
【0012】
また、上記目的は、第5の発明にあっては、気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器の損傷を検出する検出方法であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを用いるものであり、前記容器に気体を充填中に前記センサからの出力信号を検出し、該出力信号の変動パターンに基づいて、容器の損傷を検出するようにした圧力容器の損傷検出方法により、達成される。
第5の発明の構成によれば、前記気体を充填する過程で容器に作用する応力のパターンは、損傷をうけていない場合と、損傷を受けている場合とで、異なることから、そのような過程で出力される出力信号の変動パターンを検討することにより、容易に容器の損傷を知ることができる。
【0013】
第6の発明は、第5の発明の構成において、前記センサとして、圧電材料を利用したピエゾセンサを使用し、検出信号として、前記ピエゾセンサの共振周波数または反共振周波数のシフトを検出することを特徴とする。
第6の発明の構成によれば、ピエゾセンサを利用した前記センサを用いると、気体充填中に見られる該ピエゾセンサの共振周波数または反共振周波数が、損傷による応力変化によりシフトすることから、損傷の有無を容易かつ確実に検出することができる。なお、ピエゾセンサの出力する出力信号と前記検出信号は同じである。
【0014】
第7の発明は、第5または6のいずれかの発明の構成において、前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存し、前記気体の充填中に検出した前記検出信号を、該当する容器の前記管理データと対比し、該対比結果に基づいて、当該容器の損傷を判断することを特徴とする。
第7の発明の構成によれば、検査対象となる圧力容器毎に例えば管理コードのようなものを付与し、損傷のない状態における検出信号の変動パターンを対応させた管理データを予め保存することで、検査時に得られる出力信号の変動パターンを該管理データにおける過去の変動パターンと比較することにより、圧力容器毎に精密な検査結果を得ることができ、これらを保管することで、さらに有用な管理データを作成することができる。
【0015】
さらにまた、上記目的は、第8の発明にあっては、圧力容器の損傷を検出する検出装置であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサから、前記容器に対する気体の充填中に、送出される出力信号を受け取る制御手段と、前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存するデータ保存手段とを備えており、前記制御手段が、前記気体の充填中に受け取る前記検出信号と、前記データ保存手段から読み出される当該容器に対応した前記管理データとを比較して、該比較結果に基づいて当該容器の損傷を検出する構成とした圧力容器の損傷検出装置により、達成される。
第8の発明の構成によれば、容器への気体を充填する作業を行いながら、前記制御手段が前記センサから、その時の容器の状態における応力に対応した検出信号を受け取る。制御手段はさらに、前記データ保存手段から前記管理データを読み出して、当該容器の過去の検出信号における変動パターンを受け取り、これらを比較して、一定以上の変化があった際には、これを容器に発生した損傷によるものと判断することができる。
したがって、容器への気体充填に際して、当該容器の損傷を容易に判断することができる容器の損傷検出装置を得ることができる。
【0016】
また、上記目的は、第9の発明にあっては、気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻に対して、該内殻を被覆して外殻を形成するために、該内殻の周囲に強化繊維を巻き付ける繊維巻き付け工程と、前記強化繊維の巻き付け後に、樹脂を硬化させる樹脂硬化工程とを備えており、少なくとも、前記樹脂硬化工程より前段において、周囲の応力変化を検出するためのセンサを配置し、該センサを強化繊維および/または前記硬化樹脂により固定するようにした圧力容器の製造方法により、達成される。
第9の発明の構成によれば、圧力容器の製造工程において、少なくとも樹脂の硬化工程よりも前に該容器を構成する内殻や、外殻の中、あるいは外殻表面に前記センサを配置することで、該センサが、強化繊維により容器の内殻表面に押しつけられ、あるいは外殻を構成する強化繊維自体に押しつけられ、もしくは、外殻表面に硬化樹脂により押しつけられることで、周囲の応力変化が作用するように固定される。
これにより、容器に生じた損傷をセンサにより検出することができるようにした圧力容器を容易に製造することができる。
第10の発明は、第9の発明の構成において、前記樹脂硬化工程の後で、前記外殻表面に前記センサを固定することを特徴とする。
第10の発明によれば、樹脂硬化の後で外殻と一体となるように前記センサを外殻表面に接着などで固定することにより、該センサは周囲の応力変化が作用するように固定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の好適な実施の形態を添付図面等を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0018】
図1は本発明の圧力容器の好適な実施形態の概略構成図であり、一部を破断して、その内部構造を示すものである。
図において、圧力容器10は、例えば天然ガスや水素、窒素、酸素、アルゴンガス、ヘリウムガス、アセチレンガスなどの気体を大気圧(1気圧)から、数百気圧の高圧で収容するものである。これにより、天然ガスボンベや水素ボンベなどとして使用することもできるが、以下の説明では、空気を充填した消防用の空気ボンベについて主として説明する。
【0019】
圧力容器10の内殻11は、上記各種気体などを収容するのに好適な容器形状の内殻11と、この内殻11の外側を被覆する外殻12を有している。圧力容器10の一端もしくは両端には、ホースなどと接続する口金となる接続部14,14が設けられている。
内殻11は、ライナーであり、アルミニウム、チタン、鋼鉄などの金属や高密度ポリエチレンなどの合成樹脂により形成されている。具体的には、収容するガスの種類に対応して、その透過性などを考慮するとともに、使用環境温度などの条件より選択された材料を用いて、さらに内殻11の厚みは、充填する空気の内圧に対応して数ミリ程度の厚みが設定される。この実施形態では、内殻11は、消防士が背負って携帯するのに適した大きさとされている。
【0020】
外殻12は、耐圧殻であり、繊維強化プラスチック(FRP)により形成されている。使用される合成樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂など種々のものが単体で、あるいは複合して使用でき、後述する製造工程では、熱硬化性のものが使用されている。また、合成樹脂と一体になって外殻12を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが使用される。
【0021】
図1の部分拡大図に示すように、圧力容器10には、センサ13が固定されている。センサ13は、特に圧力容器10への配置個所の周辺もしくは全体にかかる応力が作用するように固定され、この応力を検出することができるものが使用される。センサ13としては、例えば、圧電材料を用いたピエゾセンサ、圧力センサ、歪みゲージなどを用いることができ、この実施形態ではピエゾセンサを使用している。
【0022】
図2は、圧力容器10にセンサとしてのピエゾセンサ13を固定する様子を示すものである。
後述する製造工程で詳しく説明するように、内殻11の少なくとも胴部周囲には、強化繊維15が巻き付けられる。
図2の例では、ピエゾセンサ13は、後述するピエゾ素子を露出させるようにして、内殻11の表面に載置、ないしは接着剤などを用いて固定された後で、この上から強化繊維15が巻回されるようになっている。ピエゾセンサ13のコード16a,16bは容器外部に引き出されている。
これにより、ピエゾセンサ13は、内殻11と外殻12の境界に配置され、かつ強化繊維15により内殻11の表面に押しつけられている。このことにより、内殻11と応力的に一体とされ、内殻11が損傷することで、内殻11の特定箇所もしくは全体に関して応力変化が生じた際に、その変化した応力がピエゾセンサ13に作用するようになっている。ピエゾセンサ13の構造は、後で詳しく説明する。
【0023】
ここで、ピエゾセンサ13は、図2のように、内殻11と外殻12との境界に配置してもよく、そうでない場合には、外殻12を構成する繊維強化プラスチックの内部に配置してもよく、あるいは、ピエゾセンサ13を繊維強化プラスチック表面に配置してもよい。あるいはまた、センサ感度やセンサの種類などにより検出される応力変化の範囲が異なる場合には、必要な検出範囲をカバーするために複数のセンサないしはピエゾセンサ13を設けてもよい。
さらには、これらの各位置から選択した複数の箇所にそれぞれピエゾセンサ13を固定してもよい。
【0024】
本実施形態の圧力容器10は以上のように構成されており、この圧力容器10には、配置個所の周囲の応力状態が作用するように固定されたピエゾセンサ13を備えるようにされている。したがって、外殻12がなんらかの損傷を受け、ピエゾセンサ13の配置個所周囲の応力が変化した場合には、その応力変化をピエゾセンサ13が検出することで、損傷を知ることができる。したがって、外殻12の損傷であっても、微細で見過ごしかねない損傷なども検出することができ、あるいは、ピエゾセンサ13の配置態様によっては、内殻11が損傷した場合においても、外部から視認できない損傷を検出することができる圧力容器10を提供することができる。
【0025】
さらに、図2のように、ピエゾセンサ13について配置個所周辺の応力状態が作用するように固定する態様として、該ピエゾセンサ13を外殻12の中に配置する場合、すなわち、内殻11に強化繊維15を巻き付け、ピエゾセンサ13を配置後、さらに強化繊維15を巻き付けるようにして形成すれば、特に外殻12の応力変化を検出しやすい。さらにまた、外殻12の表面にピエゾセンサ13を固定することで、特に外殻12表面に近い損傷を検出するのに有利である。また、該ピエゾセンサ13を内殻11と外殻12の境界に固定して配置すると、特に深部である内殻11の応力状態がセンサに伝わりやすく、また、外殻12を形成する強化繊維15により押しつけるように内殻11表面に固定することで、内殻11だけでなく、外殻12の下層の応力状態もセンサに伝えられやすい。
【0026】
(圧力容器の製造方法の実施形態)
次に図1の圧力容器の製造方法の一例を説明する。
(ライナーの形成工程)
図3は、合成樹脂により内殻11を形成する一例を示している。既に説明した合成樹脂材料を用いて、円筒状の胴部11−1を形成し、その両端に位置するドーム状の部分11−2,11−2をそれぞれ形成する。次いで、円筒状の部分11−1の両側にドーム状の部分11−2,11−2をそれぞれ融接することにより、合成樹脂製のライナーを形成して内殻11を得る。
なお、これに限らず、合成樹脂製のライナーは、溶融した合成樹脂材料の内部に空気を吹き込んでブロー成形する方法や、回転成形などにより形成する方法もある。
【0027】
あるいは、既に説明した種類の金属を用いて形成する方法もある。
金属ライナーは、円盤状の金属ビレットを押しだし成形し、スピニングかスエージングすることにより形成することができる。その他、金属の円形の板材を用いたり、シームレス管を用いて形成することができるが、これらは全て公知の手法である。
【0028】
図4は、金属ライナーによる内殻11の周囲に外殻12を形成した断面を示している(外殻12の形成法は後述)。該形状を形成後に、自緊処理のため、内殻11の内側から周方向の外方に向かって、過大な内圧をかけると、外殻12は引っ張り弾性変形し、内殻12は圧縮の塑性変形を起こす。その内圧を除荷すると、内殻11には圧縮残留応力、外殻12には引張残留応力を生じる。これにより強靱な構造を得ることができるが、この応力は圧力容器10の形成時に固定したピエゾセンサ13に基本的な応力場として作用することになる。したがって、内殻11を金属で形成する場合に、このような手法を付加してもよい。
【0029】
(外殻形成工程)
(繊維巻き付け工程)
次に、外殻12を形成するために内殻11の周囲に、強化繊維15を巻回する。
図5は、強化繊維15の巻回法の代表例を示している。
図5(a)は、内殻11の円筒部の円周方向を強化するために行われるフープ巻きであり、円筒部の短手に沿って外周を周回するように巻き上げるものである。
図5(b)はヘリカル巻きであり、内殻11の円筒部および鏡部を強化するために、内殻11の長手方向に沿って、斜めに傾斜した向きで周回させることにより巻き上げる方法である。
【0030】
図6は、この強化繊維15の巻回と同時に溶融樹脂の塗布を行うための製造装置(フィラメントワインディング成形機)20の一例を示している。
図6において、製造装置20の繰り出しロール22には、炭素繊維などでなる強化繊維15が収容されており、樹脂含浸漕23に向かって繰り出すことができるようになっている。樹脂含浸層23内には、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が溶融状態で収容されており、強化繊維15は、この樹脂含浸層23内にて熱硬化性樹脂を塗布されて、繰り出しヘッド24に送られるようになっている。
【0031】
繰り出しヘッド24には、制御手段21が接続されており、さらに、この制御手段21は、内殻11の回転駆動手段25と接続されている。
制御手段21は、例えば、コンピュータ(パソコン)と、NCコントローラを含み、NC制御により繰り出しヘッド24を矢印Xと、Yの方向にそれぞれ駆動する駆動手段を制御するとともに、回転駆動手段25を制御して、内殻11をその長軸に沿った中心軸周りの矢印方向に回転駆動させるようになっている。
【0032】
かくして、内殻11の周囲には、溶融状態の熱硬化性樹脂が塗布された強化繊維15が、図5で説明したヘリカル巻きおよび/またはフープ巻きにより巻回される。
この工程において、例えば、図2で説明したピエゾセンサ13が内殻11の表面に配置され、その上から、強化繊維15が巻回される。あるいは、例えば、内殻11の周囲に強化繊維15がヘリカル巻きされた後で、その上にピエゾセンサ13が載置され、その上からさらに、強化繊維15がフープ巻きされる。あるいはまた、強化繊維15の巻回が終了した後で、その上にピエゾセンサ13が載置固定される。
【0033】
(樹脂硬化工程)
続いて、内殻11の周囲に強化繊維15が巻回され、ピエゾセンサ13が上記したいずれかの態様で配置された状態で、加熱されると、熱硬化性樹脂が硬化される。この過程で、溶融樹脂は強化繊維15と一体になって、外殻12を形成する。
加えて、この過程で、上記したいずれかの態様で配置されたピエゾセンサ13も固定される。
以上により、図1の圧力容器10を完成することができる。
そして、この製造方法の実施形態によれば、少なくとも樹脂の硬化工程よりも前に内殻11や、外殻12の内部、あるいは外殻12表面にピエゾセンサ13を配置することで、該センサが、強化繊維15により内殻11表面に押しつけられ、あるいは外殻12を構成する強化繊維15自体に押しつけられ、もしくは、外殻12表面に硬化した樹脂により押しつけられるようにして、周囲の応力場が作用するように固定される。
これにより、容器に生じた損傷をピエゾセンサ13により検出することができるようにした圧力容器10を、従来の製造工程を大きく変更することなく、製造装置もほぼ従来のままで、容易に製造することができる。
【0034】
さらに、他の有効な製造方法としては、樹脂硬化工程の後で、すなわち、圧力容器10(センサを含まない状態)を完成した後で、その外角12の表面にピエゾセンサ13を接着などにより固定してもよい。
この場合、あまり深い位置の損傷を検出しにくい不都合がある反面、製造がきわめて容易となる利点がある。
【0035】
次に、図1の圧力容器10の損傷を検出する方法の実施形態と、損傷検出装置の実施形態について、図7ないし図11を参照しながら説明する。
最初に、図7を参照して、ピエゾセンサ13により圧力容器10の損傷を検出するための検出回路の構成例について説明する。
図7において、検出回路40の発振器46と周波数カウンタ45とは抵抗43,43に並列に接続されており、さらに抵抗43,43を介して、電圧計41が接続されている。抵抗43,43の間には、スイッチング手段42が設けられ、ピエゾセンサ13であるピエゾ素子44と、衡正用の可変抵抗47とを切り替えるようになっている。
発振器46は、ピエゾ素子44を駆動するための交流電圧を生成する。周波数カウンタ45は、ピエゾ素子44が励振されて生成される周波数を検出する。抵抗43,43はピエゾ素子44へ印加される駆動電圧を一定にするためのものである。ピエゾ素子44のインピーダンスに比べて、抵抗43の抵抗値が十分に大きければ、電圧計41で計測される電圧Vの値は、ピエゾ素子44のインピーダンスに比例する。
【0036】
ここで、ピエゾ素子44は、印加される駆動電圧の周波数が、素子の弾性固有振動数に一致すると強く励振される共振周波数をもつ。図8の符号Frの位置はこの共振周波数であり、符号Faの位置は反共振周波数である。
ピエゾ素子44は、圧電材料により形成される素子を用いることができ、たとえば、チタン酸バリウムや、チタン酸ジルコン酸鉛などで形成される。
すなわち、図2で説明したピエゾセンサ13はこの回路のピエゾ素子44と同じもので、この部分が露出されて、圧力容器10の内殻11や外殻12に触れるように固定されることは言うまでもない。
圧力容器10が損傷を受けると、これにより応力場が変化し、その応力変化がピエゾセンサ13(ピエゾ素子44)に作用すると、図8の共振周波数の位置Frおよび反共振周波数の位置Faが横軸方向にシフトする。
【0037】
具体的には、この実施形態で使用されるピエゾセンサ13を構成するためのピエゾ素子として、長さ32mm、幅22mm、厚み0.3mmのチタン酸ジルコン酸鉛によるピエゾ素子を使用して、内殻11の周囲に、図5で説明したように、強化繊維15をフープ巻きとヘリカル巻きを交互に繰り返して、複数、もしくは多数層巻き付け、該最外層の直下となる箇所に、該ピエゾ素子をその長手方向が容器長手方向と一致するように配置し、その上から最外層をフープ巻きとして、外殻12を構成する強化繊維15の層を形成した。その後、樹脂硬化工程を行った。
該ピエゾ素子の電気機械結合係数は43パーセント、圧電歪係数は135、電圧出力定数は19×10−3V・m/N、ヤング率は11×1010N/m2、比誘電率は800、周波数定数2130Hz・mとしたものである。
【0038】
図9は、上記ピエゾ素子44を利用して、図8の周波数シフトが生じることを確認したものである。
上記ピエゾ素子44(ピエゾセンサ13)について図7の検出回路40を用いて、その厚み方向の振動の共振周波数を測定した。
ピエゾセンサ13を備える圧力容器10の容器内に水を満たし、内部の水圧を2MPa(メガパスカル)から、上限を20MPaまで高める水圧サイクル試験を1サイクルから501サイクルまで実施した。この昇圧中に検出された共振周波数を図9に記録したものである。
【0039】
このサイクル試験においては、100回目の昇圧後と、500回目の昇圧後に、プロパンガスバーナーを用いて、圧力容器10の表面を各30秒間局所加熱した。この時、圧力容器10の表面は、熱電対にて測定したところ、摂氏700度以上に達し、確実に熱による損傷を与えている。
図示されているように、100サイクル目と101サイクル目において、さらに500サイクル目と501サイクル目の各サイクル間において、顕著な共振周波数のシフトが見られ、ピエゾセンサ13による損傷の検出が可能であることが確認された。
【0040】
図10は、ピエゾセンサ13を用いて圧力容器10の損傷検出を行うための損傷検出装置の一例であり、図11は、損傷検出方法の実施形態の概略を示すフローチャートである。
この実施形態の前提として、応力変化により損傷を検出する場合には、以下の点が前提となる。
すなわち、圧力容器10の残留応力は、個々の容器の製造時において、各圧力容器ごとに固有の値となることから、損傷の検出に応力変化を利用する場合には、個々の圧力容器に関して、現在の応力状態と過去の応力状態とを比較して、その間に損傷があったか否かを判断する。
また、圧力容器10の応力状態は、同一の内圧条件で比較することになるので、この実施形態では、製造後に最初に空気を充填した際における特定の内圧の時点で、応力状態を検出し、以後、再充填する際に、その特定の内圧まで充填した時点での応力状態を測定して、変化の有無を検出するものである。
【0041】
図10において、圧力容器の損傷検出装置30は、演算装置でなる制御手段32と、メモリなどでなるデータ保存手段33とを有している。
圧力容器10のピエゾセンサ13は、制御手段32と接続されている。データ保存手段33も制御手段32と接続され、さらに好ましくは、モニタなどの出力手段34も制御手段32と接続されている。
さらに、図10の構成においては、コンプレッサー31が圧力容器10に接続されており、このコンプレッサー31から圧力容器10へ空気が充填される過程で、圧力容器10の応力場の変化がピエゾセンサ13により検出されるようになっている。
【0042】
制御手段32は、所定の検査手順を行うためのソフトウエアを格納して、これを実行する演算機能およびその機能実行のための作業領域としての一時保存用メモリなどを有し、さらに、図7で説明した検出回路40を含んでいる。
制御手段32は、例えば、圧力容器10に最初に空気を充填した際に、当該圧力容器10宛に管理コードを付与する。管理コードは、当該容器に必ず存在する製造番号を利用することができる。そして、圧力容器10に空気を充填中に、ピエゾセンサ13から受け取る検出信号に関するデータを上記管理コードと関連付けて記録し、管理データとしてデータ保存手段33に格納する。
【0043】
後述するように、以後の検査時においては、制御手段32は、コンプレッサー31による空気充填作業を開始すると、この管理データに基づいて、その管理コードに対応した当該圧力容器10の過去の検出信号の記憶をデータ保存手段33から読み出して、作業中にピエゾセンサ13から受け取る検出信号と比較する機能を有する。
出力手段としてのたとえばモニタ34は、検査作業結果を画像化し、検査者が確認しやすいようにする。
【0044】
損傷検出装置30は以上のように構成されており、次に、図11を参照しながら、損傷検出方法の実施形態について説明する。
この検査は、例えば、圧力容器10が、消防用の空気容器である場合には、その業務に関して出動があり、当該空気容器に空気を再充填して次回の出動に備える際に行うと便利である。
図11において、図10で説明したコンプレッサー31により空気の充填が開始されると(ST11)、その充填中の圧力容器10の応力場の変化に対応した検出信号がピエゾセンサ13から送られるので、制御手段32は、当該検出信号に関するデータを取得する(ST12)。
【0045】
次に、制御手段32は、データ保存手段33から、管理コードに対応した過去の検出データを読み出し、今回の検出データと比較する(ST13)。
比較結果が、予め定めた閾値を超えて変化していなければ、検査結果に問題がないとして合格判定し(ST14)、空気の充填を終えたら、再使用に備える。
ST13において、今回の検出データが上記閾値を超えて変化していた場合には、損傷の疑いがあるとの判断をし、精密検査に送る決定をする。
【0046】
精密検査においては、X線や超音波による深傷検査を含み、当該精密検査において、異常がないことが判明したら(ST15)、ST14と同様に再使用に備える。ST15で再度損傷の疑いがある場合には、例えば、廃棄決定を行う(ST16)。
この検査方法においては、ST13における比較について、制御手段32は、常に検出されたデータ毎にデータ保存手段に検出データを保存させておき、空気充填に際しては、必ず前回の空気充填時の検出データと比較するようにしてもよい。
【0047】
あるいは、データ保存は前回検出分だけでなく、空気充填作業の一定回数ごとに1回の検出データを蓄積しており、ST13の比較においては、直近の検出データだけでなく、このように蓄積された過去のデータとも比較するようにしてもよいし、製造後最初に記録されたデータを長期間もしくは永久に保持しておいて、これを基本データとして比較するようにしてもよい。
すなわち、圧力容器10は、通常の使用においてもきわめて微少な欠陥の蓄積により経時劣化するので、このような経時劣化がST13の判断に与える影響をできるだけ回避するために、直近の検出データだけでなく、古いデータを用いると好ましい。
【0048】
本発明は、上述の実施の形態に限定されない。さらに、上述の実施の形態の各構成はその一部を省略してもよいし、図示しない他の構成と組み合わせて構成するようにしてもよい。
また、図7の検出回路は、損傷検出装置側ではなく、ピエゾセンサ13側に組み込むようにしてもよい。
またその場合、ピエゾ素子の駆動電圧は、外部からの磁界の作用により、電磁誘導の原理で生成されるようにし、ピエゾ素子の検出信号は電磁波により外部に発信されるようにすることで、非接触で圧力容器の損傷検出を行うようにしてもよい。
上述の実施形態は、消防用の空気容器について説明したが、これに限らず、窒素やアルゴンガス、さらには水素など、種々の気体を充填した圧力容器に応用してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る圧力容器の構造を示す図。
【図2】図1の圧力容器にピエゾセンサを配置する様子を示す説明図。
【図3】図1の圧力容器の内殻を形成する一例を示す説明図。
【図4】図1の圧力容器に残留応力を作用させた例を示す説明図。
【図5】図1の圧力容器の内殻に対して、強化繊維を巻回する手法を示す説明図。
【図6】図1の圧力容器の製造装置の実施形態を示す構成図。
【図7】図1の圧力容器に備えるピエゾ素子の検出回路の構成例を示す回路図。
【図8】図1の圧力容器において、ピエゾセンサが検出する共振周波数を説明するための図。
【図9】図1の圧力容器の損傷をピエゾ素子で検出できることを示す図。
【図10】図1の圧力容器の損傷検出装置の実施形態の構成を示す図。
【図11】図1の圧力容器の損傷検出方法の実施形態を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0050】
10・・・圧力容器、11・・・内殻、12・・・外殻、13・・・ピエゾセンサ、15・・・強化繊維、20・・・製造装置、30・・・損傷検出装置、40・・・検出回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器状の内殻を繊維強化プラスチックで被覆した圧力容器とその製造方法ならびに圧力容器の損傷検出方法と損傷検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液化ガスや高圧ガスなどを充填するために、比較的肉厚の薄いプラスチックや金属の内殻(ライナー)に対して、繊維強化プラスチックで形成した外殻を備えた比較的軽量の圧力容器(所謂「FRP圧力容器」)が使用されている。
【0003】
この種の圧力容器は、種々のガスを充填されて様々な用途に用いられるものであるが、軽量で耐圧性能に優れるため、例えば、消防士が業務中に使用する空気を充填して携帯する空気ボンベなどにも使用されている。
ところで、このような圧力容器が外部からの衝撃や、外部環境の変化、例えば急激な温度上昇などにより損傷した場合には、きわめて深刻な事態を引き起こすことから、その損傷を防止するための技術も開発されて来ている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−30797号公報
【特許文献2】特開平11−230347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの技術は、いずれも信号線(電線)や導電繊維をFRP層に含ませることを内容とするもので、該FRP層が損傷したことを信号線の断線により知ろうとするものである。
このような構成においては、信号線の存在する部位に限り、その断線によって損傷を検知するものであるから、信号線が存在しない箇所に生じたFRP層の損傷は検出できないという欠点を有する。
しかも、信号線を含ませながら、内殻に強化繊維を巻き付ける工程も必要とされ、工程が複雑になるという問題もある。
【0006】
さらに、上記した損傷はFRP層だけでなく、内部(内殻、すなわちライナー)にも生じるものであり、従来の手法は、そのような損傷を見つけようとする場合には不十分である。
特に、内殻に生じた損傷は、外部からの目視では検出できないことから、X線や超音波を用いた大がかりな深傷検査をするしかなく、検査頻度も限られてしまう。例えば消防士用の圧力容器では、法律により3年に一度の検査が義務付けられているが、その間の使用を考慮すると、検査期間の間隔が長い場合には、事故の頻度も増し、不安も増大するという種々の問題があった。
【0007】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、簡単な方法により、内殻、外殻を問わず、その損傷を検出できるようにした圧力容器とその製造方法ならびに圧力容器の損傷検出方法と損傷検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、第1の発明によれば、気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを具備する圧力容器により、達成される。
第1の発明の構成によれば、容器には、センサが配置されるが、特に配置個所の周囲の応力状態が作用するように固定されたセンサを備えるようにされている。したがって、なんらかの損傷により、センサ配置個所周囲の応力が変化した場合には、その応力変化を該センサが検出することで、損傷を知ることができる。したがって、損傷を受けやすい外殻において、微細で見過ごしかねない損傷なども検出することができる。さらには、内殻が損傷した場合においても、外部から視認できない損傷を検出することができるようにした圧力容器を提供することができる。
ここで、センサについて「配置個所周辺の応力状態が作用する」とは、例えば内殻に固定した場合には、当該内殻と応力的に一体とされ、外殻に固定した場合には、当該外殻と応力的に一体となり、その応力変化を検出できる状態をいう。また、センサ感度やセンサの種類などにより検出される応力変化の範囲は異なり、必要な検出範囲をカバーするために複数のセンサを設けてもよい。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記内殻と前記外殻との境界、もしくは前記外殻を構成する繊維強化プラスチックの内部、もしくは前記繊維強化プラスチック表面に、周囲の応力状態を検出するための前記センサを配置したことを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、センサについて配置個所周辺の応力状態が作用するように固定する態様として、該センサを外殻の中に配置する場合、すなわち、内殻に強化繊維を巻き付け、センサを配置後、さらに強化繊維を巻き付けるようにして形成すれば、特に外殻の応力変化を検出しやすい。さらにまた、外殻の表面にセンサを固定することで、特に外殻表面に近い損傷を検出するのに有利である。また、該センサを内殻と外殻の境界に固定して配置すると、特に深部である内殻の応力状態がセンサに伝わりやすく、また、外殻を形成する強化繊維により押しつけるように内殻表面に固定することで、内殻だけでなく、外殻の下層の応力状態もセンサに伝えられやすい。
【0010】
第3の発明は、第1または2の発明のいずれかの構成において、前記センサが圧電材料を利用したピエゾセンサであることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、センサとして、ピエゾセンサを用いることにより、センサに作用する応力の変化を電気信号に変換して出力することができる。この場合、ピエゾセンサは、好ましい温度特性などに応じた種類のものを選択することにより、安定的に、かつ簡便に損傷の検出を行うことができる。
【0011】
第4の発明は、第1ないし3のいずれかの発明の構成において、前記センサを複数個互いに離間して配置したことを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、前記センサに作用する応力の範囲を想定して、該範囲に対応して複数のセンサを配置することにより、信号線などを配置して電流を検出する従来技術ではなし得なかった容器のほぼ全ての範囲にわたる損傷検出を行うことができ、また、外殻の内部や、外殻と内殻の間など、異なる位置にそれぞれセンサを配置することで、外殻と内殻の損傷を個別に、しかも両方確実に検出することができる。
【0012】
また、上記目的は、第5の発明にあっては、気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器の損傷を検出する検出方法であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを用いるものであり、前記容器に気体を充填中に前記センサからの出力信号を検出し、該出力信号の変動パターンに基づいて、容器の損傷を検出するようにした圧力容器の損傷検出方法により、達成される。
第5の発明の構成によれば、前記気体を充填する過程で容器に作用する応力のパターンは、損傷をうけていない場合と、損傷を受けている場合とで、異なることから、そのような過程で出力される出力信号の変動パターンを検討することにより、容易に容器の損傷を知ることができる。
【0013】
第6の発明は、第5の発明の構成において、前記センサとして、圧電材料を利用したピエゾセンサを使用し、検出信号として、前記ピエゾセンサの共振周波数または反共振周波数のシフトを検出することを特徴とする。
第6の発明の構成によれば、ピエゾセンサを利用した前記センサを用いると、気体充填中に見られる該ピエゾセンサの共振周波数または反共振周波数が、損傷による応力変化によりシフトすることから、損傷の有無を容易かつ確実に検出することができる。なお、ピエゾセンサの出力する出力信号と前記検出信号は同じである。
【0014】
第7の発明は、第5または6のいずれかの発明の構成において、前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存し、前記気体の充填中に検出した前記検出信号を、該当する容器の前記管理データと対比し、該対比結果に基づいて、当該容器の損傷を判断することを特徴とする。
第7の発明の構成によれば、検査対象となる圧力容器毎に例えば管理コードのようなものを付与し、損傷のない状態における検出信号の変動パターンを対応させた管理データを予め保存することで、検査時に得られる出力信号の変動パターンを該管理データにおける過去の変動パターンと比較することにより、圧力容器毎に精密な検査結果を得ることができ、これらを保管することで、さらに有用な管理データを作成することができる。
【0015】
さらにまた、上記目的は、第8の発明にあっては、圧力容器の損傷を検出する検出装置であって、配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサから、前記容器に対する気体の充填中に、送出される出力信号を受け取る制御手段と、前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存するデータ保存手段とを備えており、前記制御手段が、前記気体の充填中に受け取る前記検出信号と、前記データ保存手段から読み出される当該容器に対応した前記管理データとを比較して、該比較結果に基づいて当該容器の損傷を検出する構成とした圧力容器の損傷検出装置により、達成される。
第8の発明の構成によれば、容器への気体を充填する作業を行いながら、前記制御手段が前記センサから、その時の容器の状態における応力に対応した検出信号を受け取る。制御手段はさらに、前記データ保存手段から前記管理データを読み出して、当該容器の過去の検出信号における変動パターンを受け取り、これらを比較して、一定以上の変化があった際には、これを容器に発生した損傷によるものと判断することができる。
したがって、容器への気体充填に際して、当該容器の損傷を容易に判断することができる容器の損傷検出装置を得ることができる。
【0016】
また、上記目的は、第9の発明にあっては、気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻に対して、該内殻を被覆して外殻を形成するために、該内殻の周囲に強化繊維を巻き付ける繊維巻き付け工程と、前記強化繊維の巻き付け後に、樹脂を硬化させる樹脂硬化工程とを備えており、少なくとも、前記樹脂硬化工程より前段において、周囲の応力変化を検出するためのセンサを配置し、該センサを強化繊維および/または前記硬化樹脂により固定するようにした圧力容器の製造方法により、達成される。
第9の発明の構成によれば、圧力容器の製造工程において、少なくとも樹脂の硬化工程よりも前に該容器を構成する内殻や、外殻の中、あるいは外殻表面に前記センサを配置することで、該センサが、強化繊維により容器の内殻表面に押しつけられ、あるいは外殻を構成する強化繊維自体に押しつけられ、もしくは、外殻表面に硬化樹脂により押しつけられることで、周囲の応力変化が作用するように固定される。
これにより、容器に生じた損傷をセンサにより検出することができるようにした圧力容器を容易に製造することができる。
第10の発明は、第9の発明の構成において、前記樹脂硬化工程の後で、前記外殻表面に前記センサを固定することを特徴とする。
第10の発明によれば、樹脂硬化の後で外殻と一体となるように前記センサを外殻表面に接着などで固定することにより、該センサは周囲の応力変化が作用するように固定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の好適な実施の形態を添付図面等を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0018】
図1は本発明の圧力容器の好適な実施形態の概略構成図であり、一部を破断して、その内部構造を示すものである。
図において、圧力容器10は、例えば天然ガスや水素、窒素、酸素、アルゴンガス、ヘリウムガス、アセチレンガスなどの気体を大気圧(1気圧)から、数百気圧の高圧で収容するものである。これにより、天然ガスボンベや水素ボンベなどとして使用することもできるが、以下の説明では、空気を充填した消防用の空気ボンベについて主として説明する。
【0019】
圧力容器10の内殻11は、上記各種気体などを収容するのに好適な容器形状の内殻11と、この内殻11の外側を被覆する外殻12を有している。圧力容器10の一端もしくは両端には、ホースなどと接続する口金となる接続部14,14が設けられている。
内殻11は、ライナーであり、アルミニウム、チタン、鋼鉄などの金属や高密度ポリエチレンなどの合成樹脂により形成されている。具体的には、収容するガスの種類に対応して、その透過性などを考慮するとともに、使用環境温度などの条件より選択された材料を用いて、さらに内殻11の厚みは、充填する空気の内圧に対応して数ミリ程度の厚みが設定される。この実施形態では、内殻11は、消防士が背負って携帯するのに適した大きさとされている。
【0020】
外殻12は、耐圧殻であり、繊維強化プラスチック(FRP)により形成されている。使用される合成樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂など種々のものが単体で、あるいは複合して使用でき、後述する製造工程では、熱硬化性のものが使用されている。また、合成樹脂と一体になって外殻12を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが使用される。
【0021】
図1の部分拡大図に示すように、圧力容器10には、センサ13が固定されている。センサ13は、特に圧力容器10への配置個所の周辺もしくは全体にかかる応力が作用するように固定され、この応力を検出することができるものが使用される。センサ13としては、例えば、圧電材料を用いたピエゾセンサ、圧力センサ、歪みゲージなどを用いることができ、この実施形態ではピエゾセンサを使用している。
【0022】
図2は、圧力容器10にセンサとしてのピエゾセンサ13を固定する様子を示すものである。
後述する製造工程で詳しく説明するように、内殻11の少なくとも胴部周囲には、強化繊維15が巻き付けられる。
図2の例では、ピエゾセンサ13は、後述するピエゾ素子を露出させるようにして、内殻11の表面に載置、ないしは接着剤などを用いて固定された後で、この上から強化繊維15が巻回されるようになっている。ピエゾセンサ13のコード16a,16bは容器外部に引き出されている。
これにより、ピエゾセンサ13は、内殻11と外殻12の境界に配置され、かつ強化繊維15により内殻11の表面に押しつけられている。このことにより、内殻11と応力的に一体とされ、内殻11が損傷することで、内殻11の特定箇所もしくは全体に関して応力変化が生じた際に、その変化した応力がピエゾセンサ13に作用するようになっている。ピエゾセンサ13の構造は、後で詳しく説明する。
【0023】
ここで、ピエゾセンサ13は、図2のように、内殻11と外殻12との境界に配置してもよく、そうでない場合には、外殻12を構成する繊維強化プラスチックの内部に配置してもよく、あるいは、ピエゾセンサ13を繊維強化プラスチック表面に配置してもよい。あるいはまた、センサ感度やセンサの種類などにより検出される応力変化の範囲が異なる場合には、必要な検出範囲をカバーするために複数のセンサないしはピエゾセンサ13を設けてもよい。
さらには、これらの各位置から選択した複数の箇所にそれぞれピエゾセンサ13を固定してもよい。
【0024】
本実施形態の圧力容器10は以上のように構成されており、この圧力容器10には、配置個所の周囲の応力状態が作用するように固定されたピエゾセンサ13を備えるようにされている。したがって、外殻12がなんらかの損傷を受け、ピエゾセンサ13の配置個所周囲の応力が変化した場合には、その応力変化をピエゾセンサ13が検出することで、損傷を知ることができる。したがって、外殻12の損傷であっても、微細で見過ごしかねない損傷なども検出することができ、あるいは、ピエゾセンサ13の配置態様によっては、内殻11が損傷した場合においても、外部から視認できない損傷を検出することができる圧力容器10を提供することができる。
【0025】
さらに、図2のように、ピエゾセンサ13について配置個所周辺の応力状態が作用するように固定する態様として、該ピエゾセンサ13を外殻12の中に配置する場合、すなわち、内殻11に強化繊維15を巻き付け、ピエゾセンサ13を配置後、さらに強化繊維15を巻き付けるようにして形成すれば、特に外殻12の応力変化を検出しやすい。さらにまた、外殻12の表面にピエゾセンサ13を固定することで、特に外殻12表面に近い損傷を検出するのに有利である。また、該ピエゾセンサ13を内殻11と外殻12の境界に固定して配置すると、特に深部である内殻11の応力状態がセンサに伝わりやすく、また、外殻12を形成する強化繊維15により押しつけるように内殻11表面に固定することで、内殻11だけでなく、外殻12の下層の応力状態もセンサに伝えられやすい。
【0026】
(圧力容器の製造方法の実施形態)
次に図1の圧力容器の製造方法の一例を説明する。
(ライナーの形成工程)
図3は、合成樹脂により内殻11を形成する一例を示している。既に説明した合成樹脂材料を用いて、円筒状の胴部11−1を形成し、その両端に位置するドーム状の部分11−2,11−2をそれぞれ形成する。次いで、円筒状の部分11−1の両側にドーム状の部分11−2,11−2をそれぞれ融接することにより、合成樹脂製のライナーを形成して内殻11を得る。
なお、これに限らず、合成樹脂製のライナーは、溶融した合成樹脂材料の内部に空気を吹き込んでブロー成形する方法や、回転成形などにより形成する方法もある。
【0027】
あるいは、既に説明した種類の金属を用いて形成する方法もある。
金属ライナーは、円盤状の金属ビレットを押しだし成形し、スピニングかスエージングすることにより形成することができる。その他、金属の円形の板材を用いたり、シームレス管を用いて形成することができるが、これらは全て公知の手法である。
【0028】
図4は、金属ライナーによる内殻11の周囲に外殻12を形成した断面を示している(外殻12の形成法は後述)。該形状を形成後に、自緊処理のため、内殻11の内側から周方向の外方に向かって、過大な内圧をかけると、外殻12は引っ張り弾性変形し、内殻12は圧縮の塑性変形を起こす。その内圧を除荷すると、内殻11には圧縮残留応力、外殻12には引張残留応力を生じる。これにより強靱な構造を得ることができるが、この応力は圧力容器10の形成時に固定したピエゾセンサ13に基本的な応力場として作用することになる。したがって、内殻11を金属で形成する場合に、このような手法を付加してもよい。
【0029】
(外殻形成工程)
(繊維巻き付け工程)
次に、外殻12を形成するために内殻11の周囲に、強化繊維15を巻回する。
図5は、強化繊維15の巻回法の代表例を示している。
図5(a)は、内殻11の円筒部の円周方向を強化するために行われるフープ巻きであり、円筒部の短手に沿って外周を周回するように巻き上げるものである。
図5(b)はヘリカル巻きであり、内殻11の円筒部および鏡部を強化するために、内殻11の長手方向に沿って、斜めに傾斜した向きで周回させることにより巻き上げる方法である。
【0030】
図6は、この強化繊維15の巻回と同時に溶融樹脂の塗布を行うための製造装置(フィラメントワインディング成形機)20の一例を示している。
図6において、製造装置20の繰り出しロール22には、炭素繊維などでなる強化繊維15が収容されており、樹脂含浸漕23に向かって繰り出すことができるようになっている。樹脂含浸層23内には、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が溶融状態で収容されており、強化繊維15は、この樹脂含浸層23内にて熱硬化性樹脂を塗布されて、繰り出しヘッド24に送られるようになっている。
【0031】
繰り出しヘッド24には、制御手段21が接続されており、さらに、この制御手段21は、内殻11の回転駆動手段25と接続されている。
制御手段21は、例えば、コンピュータ(パソコン)と、NCコントローラを含み、NC制御により繰り出しヘッド24を矢印Xと、Yの方向にそれぞれ駆動する駆動手段を制御するとともに、回転駆動手段25を制御して、内殻11をその長軸に沿った中心軸周りの矢印方向に回転駆動させるようになっている。
【0032】
かくして、内殻11の周囲には、溶融状態の熱硬化性樹脂が塗布された強化繊維15が、図5で説明したヘリカル巻きおよび/またはフープ巻きにより巻回される。
この工程において、例えば、図2で説明したピエゾセンサ13が内殻11の表面に配置され、その上から、強化繊維15が巻回される。あるいは、例えば、内殻11の周囲に強化繊維15がヘリカル巻きされた後で、その上にピエゾセンサ13が載置され、その上からさらに、強化繊維15がフープ巻きされる。あるいはまた、強化繊維15の巻回が終了した後で、その上にピエゾセンサ13が載置固定される。
【0033】
(樹脂硬化工程)
続いて、内殻11の周囲に強化繊維15が巻回され、ピエゾセンサ13が上記したいずれかの態様で配置された状態で、加熱されると、熱硬化性樹脂が硬化される。この過程で、溶融樹脂は強化繊維15と一体になって、外殻12を形成する。
加えて、この過程で、上記したいずれかの態様で配置されたピエゾセンサ13も固定される。
以上により、図1の圧力容器10を完成することができる。
そして、この製造方法の実施形態によれば、少なくとも樹脂の硬化工程よりも前に内殻11や、外殻12の内部、あるいは外殻12表面にピエゾセンサ13を配置することで、該センサが、強化繊維15により内殻11表面に押しつけられ、あるいは外殻12を構成する強化繊維15自体に押しつけられ、もしくは、外殻12表面に硬化した樹脂により押しつけられるようにして、周囲の応力場が作用するように固定される。
これにより、容器に生じた損傷をピエゾセンサ13により検出することができるようにした圧力容器10を、従来の製造工程を大きく変更することなく、製造装置もほぼ従来のままで、容易に製造することができる。
【0034】
さらに、他の有効な製造方法としては、樹脂硬化工程の後で、すなわち、圧力容器10(センサを含まない状態)を完成した後で、その外角12の表面にピエゾセンサ13を接着などにより固定してもよい。
この場合、あまり深い位置の損傷を検出しにくい不都合がある反面、製造がきわめて容易となる利点がある。
【0035】
次に、図1の圧力容器10の損傷を検出する方法の実施形態と、損傷検出装置の実施形態について、図7ないし図11を参照しながら説明する。
最初に、図7を参照して、ピエゾセンサ13により圧力容器10の損傷を検出するための検出回路の構成例について説明する。
図7において、検出回路40の発振器46と周波数カウンタ45とは抵抗43,43に並列に接続されており、さらに抵抗43,43を介して、電圧計41が接続されている。抵抗43,43の間には、スイッチング手段42が設けられ、ピエゾセンサ13であるピエゾ素子44と、衡正用の可変抵抗47とを切り替えるようになっている。
発振器46は、ピエゾ素子44を駆動するための交流電圧を生成する。周波数カウンタ45は、ピエゾ素子44が励振されて生成される周波数を検出する。抵抗43,43はピエゾ素子44へ印加される駆動電圧を一定にするためのものである。ピエゾ素子44のインピーダンスに比べて、抵抗43の抵抗値が十分に大きければ、電圧計41で計測される電圧Vの値は、ピエゾ素子44のインピーダンスに比例する。
【0036】
ここで、ピエゾ素子44は、印加される駆動電圧の周波数が、素子の弾性固有振動数に一致すると強く励振される共振周波数をもつ。図8の符号Frの位置はこの共振周波数であり、符号Faの位置は反共振周波数である。
ピエゾ素子44は、圧電材料により形成される素子を用いることができ、たとえば、チタン酸バリウムや、チタン酸ジルコン酸鉛などで形成される。
すなわち、図2で説明したピエゾセンサ13はこの回路のピエゾ素子44と同じもので、この部分が露出されて、圧力容器10の内殻11や外殻12に触れるように固定されることは言うまでもない。
圧力容器10が損傷を受けると、これにより応力場が変化し、その応力変化がピエゾセンサ13(ピエゾ素子44)に作用すると、図8の共振周波数の位置Frおよび反共振周波数の位置Faが横軸方向にシフトする。
【0037】
具体的には、この実施形態で使用されるピエゾセンサ13を構成するためのピエゾ素子として、長さ32mm、幅22mm、厚み0.3mmのチタン酸ジルコン酸鉛によるピエゾ素子を使用して、内殻11の周囲に、図5で説明したように、強化繊維15をフープ巻きとヘリカル巻きを交互に繰り返して、複数、もしくは多数層巻き付け、該最外層の直下となる箇所に、該ピエゾ素子をその長手方向が容器長手方向と一致するように配置し、その上から最外層をフープ巻きとして、外殻12を構成する強化繊維15の層を形成した。その後、樹脂硬化工程を行った。
該ピエゾ素子の電気機械結合係数は43パーセント、圧電歪係数は135、電圧出力定数は19×10−3V・m/N、ヤング率は11×1010N/m2、比誘電率は800、周波数定数2130Hz・mとしたものである。
【0038】
図9は、上記ピエゾ素子44を利用して、図8の周波数シフトが生じることを確認したものである。
上記ピエゾ素子44(ピエゾセンサ13)について図7の検出回路40を用いて、その厚み方向の振動の共振周波数を測定した。
ピエゾセンサ13を備える圧力容器10の容器内に水を満たし、内部の水圧を2MPa(メガパスカル)から、上限を20MPaまで高める水圧サイクル試験を1サイクルから501サイクルまで実施した。この昇圧中に検出された共振周波数を図9に記録したものである。
【0039】
このサイクル試験においては、100回目の昇圧後と、500回目の昇圧後に、プロパンガスバーナーを用いて、圧力容器10の表面を各30秒間局所加熱した。この時、圧力容器10の表面は、熱電対にて測定したところ、摂氏700度以上に達し、確実に熱による損傷を与えている。
図示されているように、100サイクル目と101サイクル目において、さらに500サイクル目と501サイクル目の各サイクル間において、顕著な共振周波数のシフトが見られ、ピエゾセンサ13による損傷の検出が可能であることが確認された。
【0040】
図10は、ピエゾセンサ13を用いて圧力容器10の損傷検出を行うための損傷検出装置の一例であり、図11は、損傷検出方法の実施形態の概略を示すフローチャートである。
この実施形態の前提として、応力変化により損傷を検出する場合には、以下の点が前提となる。
すなわち、圧力容器10の残留応力は、個々の容器の製造時において、各圧力容器ごとに固有の値となることから、損傷の検出に応力変化を利用する場合には、個々の圧力容器に関して、現在の応力状態と過去の応力状態とを比較して、その間に損傷があったか否かを判断する。
また、圧力容器10の応力状態は、同一の内圧条件で比較することになるので、この実施形態では、製造後に最初に空気を充填した際における特定の内圧の時点で、応力状態を検出し、以後、再充填する際に、その特定の内圧まで充填した時点での応力状態を測定して、変化の有無を検出するものである。
【0041】
図10において、圧力容器の損傷検出装置30は、演算装置でなる制御手段32と、メモリなどでなるデータ保存手段33とを有している。
圧力容器10のピエゾセンサ13は、制御手段32と接続されている。データ保存手段33も制御手段32と接続され、さらに好ましくは、モニタなどの出力手段34も制御手段32と接続されている。
さらに、図10の構成においては、コンプレッサー31が圧力容器10に接続されており、このコンプレッサー31から圧力容器10へ空気が充填される過程で、圧力容器10の応力場の変化がピエゾセンサ13により検出されるようになっている。
【0042】
制御手段32は、所定の検査手順を行うためのソフトウエアを格納して、これを実行する演算機能およびその機能実行のための作業領域としての一時保存用メモリなどを有し、さらに、図7で説明した検出回路40を含んでいる。
制御手段32は、例えば、圧力容器10に最初に空気を充填した際に、当該圧力容器10宛に管理コードを付与する。管理コードは、当該容器に必ず存在する製造番号を利用することができる。そして、圧力容器10に空気を充填中に、ピエゾセンサ13から受け取る検出信号に関するデータを上記管理コードと関連付けて記録し、管理データとしてデータ保存手段33に格納する。
【0043】
後述するように、以後の検査時においては、制御手段32は、コンプレッサー31による空気充填作業を開始すると、この管理データに基づいて、その管理コードに対応した当該圧力容器10の過去の検出信号の記憶をデータ保存手段33から読み出して、作業中にピエゾセンサ13から受け取る検出信号と比較する機能を有する。
出力手段としてのたとえばモニタ34は、検査作業結果を画像化し、検査者が確認しやすいようにする。
【0044】
損傷検出装置30は以上のように構成されており、次に、図11を参照しながら、損傷検出方法の実施形態について説明する。
この検査は、例えば、圧力容器10が、消防用の空気容器である場合には、その業務に関して出動があり、当該空気容器に空気を再充填して次回の出動に備える際に行うと便利である。
図11において、図10で説明したコンプレッサー31により空気の充填が開始されると(ST11)、その充填中の圧力容器10の応力場の変化に対応した検出信号がピエゾセンサ13から送られるので、制御手段32は、当該検出信号に関するデータを取得する(ST12)。
【0045】
次に、制御手段32は、データ保存手段33から、管理コードに対応した過去の検出データを読み出し、今回の検出データと比較する(ST13)。
比較結果が、予め定めた閾値を超えて変化していなければ、検査結果に問題がないとして合格判定し(ST14)、空気の充填を終えたら、再使用に備える。
ST13において、今回の検出データが上記閾値を超えて変化していた場合には、損傷の疑いがあるとの判断をし、精密検査に送る決定をする。
【0046】
精密検査においては、X線や超音波による深傷検査を含み、当該精密検査において、異常がないことが判明したら(ST15)、ST14と同様に再使用に備える。ST15で再度損傷の疑いがある場合には、例えば、廃棄決定を行う(ST16)。
この検査方法においては、ST13における比較について、制御手段32は、常に検出されたデータ毎にデータ保存手段に検出データを保存させておき、空気充填に際しては、必ず前回の空気充填時の検出データと比較するようにしてもよい。
【0047】
あるいは、データ保存は前回検出分だけでなく、空気充填作業の一定回数ごとに1回の検出データを蓄積しており、ST13の比較においては、直近の検出データだけでなく、このように蓄積された過去のデータとも比較するようにしてもよいし、製造後最初に記録されたデータを長期間もしくは永久に保持しておいて、これを基本データとして比較するようにしてもよい。
すなわち、圧力容器10は、通常の使用においてもきわめて微少な欠陥の蓄積により経時劣化するので、このような経時劣化がST13の判断に与える影響をできるだけ回避するために、直近の検出データだけでなく、古いデータを用いると好ましい。
【0048】
本発明は、上述の実施の形態に限定されない。さらに、上述の実施の形態の各構成はその一部を省略してもよいし、図示しない他の構成と組み合わせて構成するようにしてもよい。
また、図7の検出回路は、損傷検出装置側ではなく、ピエゾセンサ13側に組み込むようにしてもよい。
またその場合、ピエゾ素子の駆動電圧は、外部からの磁界の作用により、電磁誘導の原理で生成されるようにし、ピエゾ素子の検出信号は電磁波により外部に発信されるようにすることで、非接触で圧力容器の損傷検出を行うようにしてもよい。
上述の実施形態は、消防用の空気容器について説明したが、これに限らず、窒素やアルゴンガス、さらには水素など、種々の気体を充填した圧力容器に応用してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る圧力容器の構造を示す図。
【図2】図1の圧力容器にピエゾセンサを配置する様子を示す説明図。
【図3】図1の圧力容器の内殻を形成する一例を示す説明図。
【図4】図1の圧力容器に残留応力を作用させた例を示す説明図。
【図5】図1の圧力容器の内殻に対して、強化繊維を巻回する手法を示す説明図。
【図6】図1の圧力容器の製造装置の実施形態を示す構成図。
【図7】図1の圧力容器に備えるピエゾ素子の検出回路の構成例を示す回路図。
【図8】図1の圧力容器において、ピエゾセンサが検出する共振周波数を説明するための図。
【図9】図1の圧力容器の損傷をピエゾ素子で検出できることを示す図。
【図10】図1の圧力容器の損傷検出装置の実施形態の構成を示す図。
【図11】図1の圧力容器の損傷検出方法の実施形態を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0050】
10・・・圧力容器、11・・・内殻、12・・・外殻、13・・・ピエゾセンサ、15・・・強化繊維、20・・・製造装置、30・・・損傷検出装置、40・・・検出回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器であって、
配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを具備する
ことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記内殻と前記外殻との境界、もしくは前記外殻を構成する繊維強化プラスチックの内部、もしくは前記繊維強化プラスチック表面に、周囲の応力状態を検出するための前記センサを配置したことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記センサが圧電材料を利用したピエゾセンサであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の圧力容器。
【請求項4】
前記センサを複数個互いに離間して配置したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の圧力容器。
【請求項5】
気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器の損傷を検出する検出方法であって、
配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを用いるものであり、
前記容器に気体を充填中に前記センサからの出力信号を検出し、
該出力信号の変動パターンに基づいて、容器の損傷を検出するようにした
ことを特徴とする圧力容器の損傷検出方法。
【請求項6】
前記センサとして、圧電材料を利用したピエゾセンサを使用し、
検出信号として、前記ピエゾセンサの共振周波数または反共振周波数のシフトを検出することを特徴とする請求項5に記載の圧力容器の損傷検出方法。
【請求項7】
前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存し、
前記気体の充填中に検出した前記検出信号を、該当する容器の前記管理データと対比し、
該対比結果に基づいて、当該容器の損傷を判断する
ことを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の圧力容器の損傷検出方法。
【請求項8】
圧力容器の損傷を検出する検出装置であって、
配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサから、前記容器に対する気体の充填中に、送出される出力信号を受け取る制御手段と、
前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存するデータ保存手段と
を備えており、
前記制御手段が、前記気体の充填中に受け取る前記検出信号と、前記データ保存手段から読み出される当該容器に対応した前記管理データとを比較して、
該比較結果に基づいて当該容器の損傷を検出する構成とした
ことを特徴とする圧力容器の損傷検出装置。
【請求項9】
気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻に対して、該内殻を被覆して外殻を形成するために、該内殻の周囲に強化繊維を巻き付ける繊維巻き付け工程と、
前記強化繊維の巻き付け後に、樹脂を硬化させる樹脂硬化工程と
を備えており、
少なくとも、前記樹脂硬化工程より前段において、周囲の応力変化を検出するためのセンサを配置し、
該センサを強化繊維および/または前記硬化樹脂により固定するようにした
ことを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂硬化工程の後で、前記外殻表面に前記センサを固定することを特徴とする請求項9に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項1】
気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器であって、
配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを具備する
ことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記内殻と前記外殻との境界、もしくは前記外殻を構成する繊維強化プラスチックの内部、もしくは前記繊維強化プラスチック表面に、周囲の応力状態を検出するための前記センサを配置したことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記センサが圧電材料を利用したピエゾセンサであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の圧力容器。
【請求項4】
前記センサを複数個互いに離間して配置したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の圧力容器。
【請求項5】
気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻と、該内殻を被覆する繊維強化プラスチックでなる外殻とを備える圧力容器の損傷を検出する検出方法であって、
配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサを用いるものであり、
前記容器に気体を充填中に前記センサからの出力信号を検出し、
該出力信号の変動パターンに基づいて、容器の損傷を検出するようにした
ことを特徴とする圧力容器の損傷検出方法。
【請求項6】
前記センサとして、圧電材料を利用したピエゾセンサを使用し、
検出信号として、前記ピエゾセンサの共振周波数または反共振周波数のシフトを検出することを特徴とする請求項5に記載の圧力容器の損傷検出方法。
【請求項7】
前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存し、
前記気体の充填中に検出した前記検出信号を、該当する容器の前記管理データと対比し、
該対比結果に基づいて、当該容器の損傷を判断する
ことを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の圧力容器の損傷検出方法。
【請求項8】
圧力容器の損傷を検出する検出装置であって、
配置箇所周辺の応力状態が作用するように固定されることにより、周囲の応力変化を検出するようにしたセンサから、前記容器に対する気体の充填中に、送出される出力信号を受け取る制御手段と、
前記圧力容器ごとに、それぞれ前記気体充填中の検出信号の変動パターンを取得して、各変動パターンに対応した容器毎の管理データを保存するデータ保存手段と
を備えており、
前記制御手段が、前記気体の充填中に受け取る前記検出信号と、前記データ保存手段から読み出される当該容器に対応した前記管理データとを比較して、
該比較結果に基づいて当該容器の損傷を検出する構成とした
ことを特徴とする圧力容器の損傷検出装置。
【請求項9】
気体を収容するための金属またはプラスチック製の内殻に対して、該内殻を被覆して外殻を形成するために、該内殻の周囲に強化繊維を巻き付ける繊維巻き付け工程と、
前記強化繊維の巻き付け後に、樹脂を硬化させる樹脂硬化工程と
を備えており、
少なくとも、前記樹脂硬化工程より前段において、周囲の応力変化を検出するためのセンサを配置し、
該センサを強化繊維および/または前記硬化樹脂により固定するようにした
ことを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂硬化工程の後で、前記外殻表面に前記センサを固定することを特徴とする請求項9に記載の圧力容器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−275223(P2006−275223A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98038(P2005−98038)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(391018019)JFEコンテイナー株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(391018019)JFEコンテイナー株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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