説明

圧力測定部のキャリブレーション方法

【課題】圧力測定部の空気室と圧力測定手段との接続が外れ、その後再接続した場合でも、体外循環回路内の圧力を安定して測定し、且つ体外循環回路内の液体の漏出による感染等のリスクをなくす。
【解決手段】圧力測定手段37と空気室31との接続が外れた際に行われる圧力測定部Aのキャリブレーション方法において、第一の開閉手段10、12により体外循環回路2の圧力測定部Aの両側を閉塞する工程と、その後第二の開閉手段21により分岐管路20を開放し、液体貯留部22の液体の水位差による圧力を液体室34内にかけて液体室34内の圧力を調整する工程と、その後圧力測定手段37と空気室31を再接続する工程と、その後第一の開閉手段10、12により体外循環回路2の圧力測定部Aの両側を開放し、第二の開閉手段21により分岐管路20を閉塞する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体、特に体液或いは薬液を流通させる体外循環回路内の圧力を測定する圧力測定部のキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば患者の体内から血液を取り出し、その血液の体外処理を行い、処理された血液を体内に戻す体外循環システムには、通常、体外循環回路内の圧力を測定するための圧力センサが配置されている。
【0003】
体外循環回路内の圧力を、体液或いは薬液と空気との接触を回避した状態で測定する手段の一例として、特許文献1には、隔膜を介して体外循環回路内の圧力を測定する圧力センサが記載されている。
【0004】
図4にこの圧力センサの構成の概略を示す。圧力センサ100は、体外循環回路101の途中に配置されている。圧力センサ100は、空気出入口102を有する空気室103、体外循環回路101に接続される液体流入口104と液体流出口105を有する液体室106、空気室103と液体室106に挟まれて空気室103と液体室106を区画し、空気室103内と液体室106内の圧力差に応じて変形する可撓性隔膜107を有する容器108からなる圧力測定部Aと、空気室103の空気出入口102に連通部109を介して接続され、液体室106内の圧力を可撓性隔膜107を介して空気室103側で測定する圧力測定手段110とを有している。液体室106の圧力の変化により、可撓性隔膜107が変形して空気室103の圧力が液体室106内圧力と相関して変化するので、圧力測定手段110は、空気室103内の圧力を測定し、この値を変換することにより液体室106内の圧力を測定している。
【0005】
しかしながら、上述のような圧力測定部Aは、通常、使い捨てのディスポーザブル製品であるため、高価な圧力測定手段110は、圧力測定部Aの空気出入口102から分離可能に構成される。そのため、使用中に圧力測定手段110が空気出入口102から取り外される或いは外れることがある。この場合、空気室103が大気開放され、空気室103と液体室106の圧力バランスが変わるので、そのまま圧力測定手段110と空気出入口102を再接続しても、圧力測定再開時の可撓性隔膜107の位置がその度に変わり安定しない。この結果、目的とする圧力測定範囲において圧力が測定できないことがある。
【0006】
非特許文献1には、このような問題の改善を図る圧力測定部のキャリブレーション方法の一例が記載されている。図5はそのキャリブレーション方法を説明するための概略構成図である。この圧力測定部Aは、連通部109に設けられた接続手段111により圧力測定手段110と分離可能に構成されている。圧力測定部Aの従来のキャリブレーション実施システムは、体外循環回路101の途中に配置された圧力測定部Aと、液体流入口104の上流側及び液体流出口105の下流側に配置された体外循環回路101を閉塞する閉塞手段120、121と、2つの閉塞手段120、121の間に配置されたサンプルポート122と、サンプルポート122に接続可能なシリンジ123とから構成される。なお、図5において、図4の各構成部材と同じ機能を奏する構成部材には同じ符号を付している。
【0007】
上記した圧力測定部Aにおいて、連通部109の接続手段111が外された場合のキャリブレーション方法は、下記手順において実施される。
1.体外循環回路101の液体送液手段(図示せず)の停止
2.閉塞手段120、121を用いて、液体室106内を閉塞
3.シリンジ123をサンプルポート122に挿入し、1ccの体液または薬液を体外循環回路101内から抽出、または1ccの生理食塩液を体外循環回路101内に注入
4.連通部109の接続手段111を再度接続
5.閉塞手段120、121の開放
【0008】
しかしながら、上記したようなキャリブレーション方法においては、手順2において、液体送液手段が停止した時の体外循環回路2内の圧力状態で閉塞を行うため、例えば体外循環回路101内の圧力が陰圧の場合、可撓性隔膜107は液体室106側に変形した状態で、逆に陽圧であれば空気室103側に変形した状態で、液体室106が閉塞手段120、121により閉塞される。従って可撓性隔膜107の位置は、閉塞時の体外循環回路101内の圧力に依存して変動しており、一定でないから、そのような状態で手順3以降の操作を行っても、可撓性隔膜107の位置を例えば圧力測定開始時の適正な位置に常に戻すことはできない。例えば圧力測定再開時の可撓性隔膜107の位置が適正な位置から液体室106側に移動している場合には、可撓性隔膜107の液体室106側への変動可能範囲が低減するので、負圧側の測定限界が高くなる。逆に圧力測定再開時に可撓性隔膜107の位置が適正な位置から空気室103側に移動している場合には、可撓性隔膜107の空気室103側への変動可能範囲が低減するので、陽圧側の測定限界が低くなる。従って、手順3以降の操作を行っても、圧力測定部の正しく圧力を測定できる範囲が狭くなる可能性があった。さらには、シリンジ123をサンプルポート122に挿入または取外す際に、体外循環回路101内の体液あるいは薬液が体外循環回路101外に漏れる危険性、またはシリンジ123の先端に取り付けられた針(図示せず)をサンプルポート122に挿入する際に誤って人体に刺してしまうという危険性があり、ひいては感染のリスクを増大させてしまうという可能性があった。
【0009】
【特許文献1】特開平09−024026号公報
【非特許文献1】Gambro社Plismaflex Operator's manual p.193〜p.199
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記した従来技術の問題点に鑑み、空気と接触することなく体外循環回路内の圧力を測定する上記圧力測定部において、例えば体外循環処理中に圧力測定部の空気室と圧力測定手段との接続が外れ、その後再接続した場合でも、体外循環回路内の圧力を安定して測定し、且つ体外循環回路内の体液あるいは薬液の漏出による感染等のリスクのない圧力測定部のキャリブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、圧力測定部の空気室と圧力測定手段との接続が外れた場合、体外循環回路に接続された液体貯留部内の液体の水位差による圧力を利用して、空気室と圧力測定手段を接続する時の液体室内の圧力を調整すれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を含む。
【0012】
(1)体外循環回路と、空気出入口が形成された空気室と、前記体外循環回路に接続された液体流入口と液体流出口が形成された液体室と、前記空気室と前記液体室を区画し、前記空気室内と前記液体室内の圧力差に応じて変形する可撓性隔膜とを備えた容器からなる圧力測定部と、前記空気出入口を通じて前記空気室に対し脱着可能に接続される圧力測定手段と、を有する体外循環システムにおいて、前記圧力測定手段と前記空気室との接続が外れた際に行われる圧力測定部のキャリブレーション方法であって、前記体外循環システムは、前記体外循環回路の前記圧力測定部の両側を閉塞及び開放可能な第一の開閉手段と、前記第一の開閉手段により閉塞可能な区間内の前記体外循環回路から分岐し、液体貯留部が終端に接続された分岐管路と、前記分岐管路を閉塞及び開放可能な第二の開閉手段とを、さらに有するものであり、前記圧力測定手段と前記空気室との接続が外れた後に、前記第一の開閉手段により前記体外循環回路の前記圧力測定部の両側を閉塞する工程と、その後、前記第二の開閉手段により前記分岐管路を開放し、前記液体貯留部の液体の水位差による圧力を前記液体室内にかけて前記液体室内の圧力を調整する工程と、その後、前記圧力測定手段と前記空気室を再接続する工程と、その後、前記第一の開閉手段により前記体外循環回路の前記圧力測定部の両側を開放し、前記第二の開閉手段により前記分岐管路を閉塞する工程と、を有することを特徴とする、圧力測定部のキャリブレーション方法。
(2)前記液体貯留部には、前記体外循環回路内に供給される液体が貯留されていることを特徴とする、(1)に記載の圧力測定部のキャリブレーション方法。
(3)圧力測定開始前に行われる、前記圧力測定手段と前記空気室との初期接続の際に、前記第二の開閉手段により前記分岐管路を開放し、前記液体貯留部の液体の水位差による圧力を前記液体室内にかけて前記液体室内の圧力を調整し、その後前記圧力測定手段と前記空気室を接続していることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の圧力測定部のキャリブレーション方法。
(4)前記第一の開閉手段により閉塞可能な前記体外循環回路の区間には、複数の前記圧力測定部が接続されており、当該体外循環回路の前記複数の圧力測定部同士の間には、前記体外循環回路を閉塞及び開放可能な第三の開閉手段が設けられており、前記第三の開閉手段により前記体外循環回路の圧力測定部同士の間が開放された状態で、前記液体貯留部の液体の水位差による圧力を前記複数の圧力測定部の液体室内の液体にかけて各液体室内の圧力を調整することを特徴とする、(1)〜(3)に記載の圧力測定部のキャリブレーション方法。
なお、「前記圧力測定手段と前記空気室との接続が外れた際」には、圧力測定手段と空気室との接続が意図的に外された場合のみならず、意図せずに外れた場合も含まれる。また、前記圧力測定手段と前記空気室との接続には、直接接続されている場合のみならず、間接的に接続されている場合も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧力測定部の空気室と圧力測定手段との接続が外れ、その後再接続した場合に、体外循環回路内の圧力を安定して測定し、且つ体外循環回路内の体液あるいは薬液の漏出による感染等のリスクをなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る圧力測定部のキャリブレーション方法が実施される体外循環システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0015】
図1に示すように体外循環システム1は、例えば血液等の液体が流れる体外循環回路2を有している。体外循環回路2は、例えば患者から取り出された血液を血液浄化器3に送り患者に戻す回路を有している。体外循環回路2の血液浄化器3よりも採血部側には、例えば第一の開閉手段10、圧力センサ11、第一の開閉手段12、チューブポンプ13、圧力センサ14が採血部側からこの順で設けられている。また、体外循環回路2の血液浄化器3よりも返血部側には、血液の脱気等を行い且つ圧力の測定を行うドリップチャンバ15、開閉手段16が採血部側からこの順で設けられている。
【0016】
また、体外循環回路2の第一の開閉手段10、12により閉塞可能な区間には、分岐管路20が分岐している。分岐管路20には、第二の開閉手段21が接続されている。分岐管路20の終端には、液体が貯留された液体貯留部22が接続されている。この液体貯留部22は、例えば後述する圧力センサ11の圧力測定部Aの液体室より高い位置に設置されている。液体貯留部22には、例えば体外循環処理後に体外循環回路2内に供給される生理食塩水などの液体が貯留されている。
【0017】
第一の開閉手段10、12、開閉手段16及び第二の開閉手段21は、例えば管路を閉塞及び開放可能なものであり、例えば鉗子、手動クランプ、バルブなどが用いられている。
【0018】
圧力センサ11は、例えば図2に示すように空気出入口30が形成された空気室31と、体外循環回路2に接続された液体流入口32と液体流出口33が形成された液体室34と、空気室31と液体室34を区画し、空気室31内と液体室34内の圧力差に応じて変形する可撓性隔膜35とを備えた容器36からなる圧力測定部Aと、空気出入口30を通じて空気室31に対し脱着可能に接続される圧力測定手段37とを有している。空気室31の空気出入口30と圧力測定手段37は、連通部38により接続され、当該連通部38に設けられた接続手段39により着脱自在になっている。
【0019】
可撓性隔膜35は、例えば軟質であって生体適合性を有している材質で構成されている。例えば可撓性隔膜35の材質には、ポリ塩化ビニル、シリコン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド等が用いられている。
【0020】
圧力測定手段37には、例えば圧力トランスデューサやブルドン管などにより圧力を測定するものが用いられている。接続手段39には、例えばルアーコネクタによる方式、カプラーによる方式、スリーブ状の管を挿入する方式などのものが用いられている。
【0021】
次に、以上の体外循環システム1において、接続手段39による空気室31と圧力測定手段37との接続が外れた際に行われる圧力測定部Aのキャリブレーション方法について説明する。なお、この空気室31と圧力測定手段37との接続が外れた際には、意図的に取り外した場合と意図せずに外れた場合が含まれる。例えば、体外循環処理開始前の空気によるリークチェックや回路内を洗浄するプライミング処理後に意図的に取り外される場合もあるし、体外循環処理中に事故で外れることも考えられる。
【0022】
先ず、体外循環システム1において圧力センサ11による圧力測定が開始される前に、圧力測定部Aの空気室31と圧力測定手段37との初期接続が行われる。このときの液体室34内と空気室31内の初期圧力により、可撓性隔膜35の初期位置が決定される。空気室31内の初期圧力は、空気出入口50が大気に開放されているために大気圧である。
【0023】
液体室34の初期圧力は、大気圧であってもよいし、大気圧でなくてもよい。液体室34の初期圧力が大気圧でない場合、例えば初期圧力が陽圧の場合、可撓性隔膜35の初期位置は空気室31よりとなり、陰圧の測定範囲を大きくすることが可能となる。逆に初期圧力が陰圧の場合、可撓性隔膜35の初期位置は液体室34よりとなり、陽圧の測定範囲を大きくすることが可能となる。液体室34内の初期圧力は、圧力の測定範囲によって適宜選択しなければならないが、−200mmHg(−26kPa)から200mmHg(26kPa)であることが好ましく、さらに好ましくは−100mmHg(−13kPa)から100mmHg(13kPa)であり、最も好ましくは−50mmHg(−6kPa)〜50mmHg(6kPa)である。この液体室24の初期圧力は、例えばチューブポンプ13を用いて、液体室34に液体または空気を流すことにより調整してもよい。また、初期圧力が大気圧である場合には、液体室24の圧力調整を積極的に行うことなく圧力測定部Aと圧力測定手段37を接続してもよい。
【0024】
なお、可撓性隔膜35を予め空気室31側に撓ませておくことにより、さらに次のような効果がある。本実施の形態のようにチューブポンプ13の上流側の圧力センサ11で主に陰圧で使用される場合には、長時間の連続使用により、接続手段39から空気室31内に空気が徐々に入り込むので、可撓性隔膜35の位置が液体室34側に移動していく。これにより、最終的には、可撓性隔膜35が液体室34側に大きく撓み、その動きが抑制されるため、圧力測定の精度が落ちる。よって可撓性隔膜35を予め空気室31側に撓ませておくことにより、その分圧力測定部Aの長時間の連続使用が可能になる。
【0025】
また、上記可撓性隔膜35の位置設定は、液体貯留部22の設置高さや液体貯留部22の水位の設定により行われる。
【0026】
接続手段39により圧力測定手段37と空気室31が初期接続された後、体外循環システム1において、プライミング処理や患者に対する体外循環処理が開始され、体外循環回路2内で液体循環が行われ、それに応じて適宜圧力センサ11による圧力測定が行われる。このとき、第二の開閉手段21により分岐管路20は閉塞されており、第一の開閉手段10、12により体外循環回路2は開放されている。体外循環処理では、例えば患者から採血された血液は、体外循環回路2を通じて血液浄化器3に供給され、所定成分が分離または吸着された後、患者に戻される。
【0027】
そして、例えば体外循環処理中に、接続手段39による圧力測定手段37と空気室31との接続が外れた場合には、先ず第一の開閉手段10、12により体外循環回路2の圧力測定部Aの両側が閉塞される。次に、第二の開閉手段21により分岐管路20が開放され、液体貯留部22の液体の水位差による圧力P0が液体室34内にかけられ、液体室34内が圧力P0に調整される。その状態で接続手段39により圧力測定手段37と空気室31が再接続される。その後、第一の開閉手段10、12により体外循環回路2の圧力測定部Aの両側が開放され、第二の開閉手段21により分岐管路20が閉塞される。ここで圧力P0は、目的とする圧力測定範囲における圧力測定が可能な位置に可撓性隔膜35を移動させる圧力であればよい。圧力P0の許容範囲は、目的とする圧力測定範囲によって適宜設定されればよいが、好ましくは液体室34の初期圧力±50mHg(±6kPa)以内、さらに好ましくは初期圧力±20mmHg(±2.6kPa)以内、さらに好ましくは初期圧力±5mmHg(±0.6kPa)であり、最も好ましくは初期圧力である。なお、前述のように主に陰圧の測定を行う場合、初期圧力よりも圧力が高い状態を圧力P0と設定すると、さらに長時間の圧力測定を行うことが可能となる。過度に陽圧にすると可撓性隔膜35が空気室31に張り付き、陽圧側の測定が不可能となるが、主に陰圧の測定に用いる場合は特に問題ない。例えば初期圧力+300mmHg(40kPa)のような状態でも問題ない。
【0028】
以上の実施の形態によれば、接続手段39により圧力測定手段37と空気室31とが再接続される前に、液体貯留部22内の液体の水位差による圧力P0を液体室34内にかけて、液体室34内の圧力を調整するので、可撓性隔膜35を適正な位置に調整できる。この結果、再接続後にも、圧力測定部Aを用いた体外循環回路2内の圧力測定を安定して行うことができる。また、従来のようにシリンジを用いることがないので、体外循環回路2内の体液あるいは薬液の漏出による感染等のリスクをなくすことができる。
【0029】
また、液体貯留部22は、体外循環回路2内に供給される生理食塩水などの液体が貯留されているものであり、体外循環中の患者の血圧低下時の緊急輸液として必要な、また体外循環処理後の血液の回収や回路内の洗浄に必要な既存の液体貯留部であるので、液体室34内の圧力調整のために新たに装置を設ける必要がない。また、液体貯留部22は、体外循環処理中或いはその前に液体貯留部22内の水位が変動しないので、再接続時に液体室34にかかる圧力P0が一定になり、可撓性隔膜35の調整位置が一定になる。これにより、可撓性隔膜35をより正確に位置調整できる。なお、体外循環処理中に液体貯留部22の液体が使用される場合であっても、水位の大きな変動がなければ圧力P0の変動が少なく、可撓性隔膜35を適正な位置に調整できる。
【0030】
以上の実施の形態において、圧力測定部Aの空気室31と圧力測定手段37との初期接続が行われる際の、液体室34の初期圧力を設定する際に、第二の開閉手段21により分岐管路20を開放し、液体貯留部22の液体の水位差による圧力P0を液体室34内の液体にかけて液体室34内の圧力を調整し、その後圧力測定手段37と空気室31を接続するようにしてもよい。こうすることにより、圧力測定開始前の初期設定時の液体室34内の圧力調整も簡単に行うことができる。また、圧力測定の開始から終了まで、同じ液体貯留部22の液体の水位差による圧力P0を用いて液体室34の圧力が調整されるので、圧力測定の開始から終了まで液体室34の調整圧力を一定にできる。
【0031】
以上の実施の形態は、圧力センサ11で圧力測定手段37と空気室31の接続が外れた際の圧力測定部Aのキャリブレーションであったが、圧力測定部Aが同様の構成を有するものであれば、当該圧力センサ14の圧力測定部Aも同様のキャリブレーションを行ってもよい。かかる場合、例えば図3に示すようにチューブポンプ13が、体外循環回路2を閉塞状態と開放状態にできる可動式のハウジング40を有している。これにより、チューブポンプ13が第三の開閉手段となる。また、2つの圧力センサ11、14の下流側の開閉手段16を第一の開閉手段とする。そして、例えば圧力センサ11、14の圧力測定手段37と空気室31との接続が外れた際には、2つの第一の開閉手段10、16によって体外循環回路2が閉塞され、チューブポンプ13のハウジング40と第一の開閉手段12により圧力センサ11と圧力センサ14の間の体外循環回路2が開放される。その後、第二の開閉手段21により分岐管路20が開放され、液体貯留部22の液体の水位差による圧力P0が各圧力測定部Aの液体室34にかけられ、各液体室34の圧力が調整される。これにより、各容器36内の可撓性隔膜35が適正な位置に調整される。そして、その状態で、圧力センサ11、14の圧力調整手段37と空気室31が接続手段39により接続される。こうすることにより、液体貯留部22の液体の水位差による圧力P0を用いて、2つの圧力測定部Aのキャリブレーションを行うことができる。
【0032】
また、圧力センサ14の圧力測定部Aのキャリブレーションを行うにあたり、例えば体外循環回路2の圧力センサ14の圧力測定部Aの両側に第一の開閉手段を別途設け、当該第一の開閉手段によって閉塞可能な区間内に、液体貯留部22に通じる他の分岐管路を別途設けるようにしてもよい。この場合、圧力センサ11、14毎に所望の圧力に液体室34の圧力を調整できる。例えばチューブポンプ13の下流側に位置する圧力センサ14のように、主に陽圧で使用される場合には、長時間の連続使用により接続手段39により空気室31の空気が徐々に抜けていき可撓性隔膜35の位置が空気室31側に移動していくので、予め可撓性隔膜35が液体室34側に撓むように液体室34の圧力調整を行ってもよい。こうすることにより、圧力センサ14の圧力測定部Aをより長時間連続使用することができる。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0034】
例えば以上の実施の形態では、液体貯留部22内の水位が圧力測定部Aの液体室34内の水位(可撓性隔膜35の位置)より高くなるように液体貯留部22が設置されていたが、液体室34の調整圧に応じて、液体貯留部22内の水位が液体室34内の水位より低くなるように液体貯留部22を設置してもよい。なお、圧力測定手段37と圧力測定部Aとの接続が外れたときに、可撓性隔膜35が撓んで、液体室34内の水位が下がったり上がったりしている場合もあるため、液体貯留部22の水位が平坦時の可撓性隔膜35の位置と同じになるように、液体貯留部22を設定してもよい。また、例えば本発明は、上記以外の構成の体外循環システム、体外循環回路にも適用できる。また、圧力測定部のある体外循環回路に流される液体は、体液或いは薬液であれば何でもよく、体液の例として、血液、血漿、リンパ液、組織液、尿等が挙げられ、薬液の例としては、生理食塩液、抗血液凝固剤、新鮮凍結血漿、透析液、アルブミン溶液、ろ過型人工腎臓用補液等が挙げられる。また、体外循環処理には、例えば血液ろ過療法、血液透析療法、血液ろ過透析療法、持続的血液透析療法、持続的血液ろ過療法、持続的血液ろ過透析療法、血漿交換療法、血漿吸着療法、二重ろ過血漿交換療法、血液吸着療法、血球成分除去療法、腹水ろ過濃縮再静注療法、経皮的心肺補助療法等の体外循環療法を行う処理が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、圧力測定部の空気室と圧力測定手段との接続が外れ、その後再接続した場合に、体外循環回路内の圧力を安定して測定でき、且つ体外循環回路内の体液あるいは薬液の漏出による感染等のリスクのない圧力測定部のキャリブレーションを行う際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態における体外循環システムの構成の概略を示す説明図である。
【図2】本実施の形態における圧力センサの構成の概略を示す説明図である。
【図3】本実施の形態における体外循環回路の他の構成を示す説明図である。
【図4】従来の圧力測定部の構成を示す模式図である。
【図5】従来の圧力測定部のキャリブレーションを説明するための体外循環回路の模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 体外循環システム
2 体外循環回路
3 血液浄化器
10 第一の開閉手段
11 圧力センサ
12 第一の開閉手段
13 チューブポンプ
16 開閉手段(第一の開閉手段)
20 分岐管路
21 第二の開閉手段
22 液体貯留部
30 空気出入口
31 空気室
32 液体流入口
33 液体流出口
34 液体室
35 可撓性隔膜
36 容器
37 圧力測定手段
39 接続手段
A 圧力測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外循環回路と、
空気出入口が形成された空気室と、前記体外循環回路に接続された液体流入口と液体流出口が形成された液体室と、前記空気室と前記液体室を区画し、前記空気室内と前記液体室内の圧力差に応じて変形する可撓性隔膜とを備えた容器からなる圧力測定部と、
前記空気出入口を通じて前記空気室に対し脱着可能に接続される圧力測定手段と、
を有する体外循環システムにおいて、前記圧力測定手段と前記空気室との接続が外れた際に行われる圧力測定部のキャリブレーション方法であって、
前記体外循環システムは、前記体外循環回路の前記圧力測定部の両側を閉塞及び開放可能な第一の開閉手段と、前記第一の開閉手段により閉塞可能な区間内の体外循環回路から分岐し、液体貯留部が終端に接続された分岐管路と、前記分岐管路を閉塞及び開放可能な第二の開閉手段とを、さらに有するものであり、
前記圧力測定手段と前記空気室との接続が外れた後に、前記第一の開閉手段により前記体外循環回路の前記圧力測定部の両側を閉塞する工程と、
その後、前記第二の開閉手段により前記分岐管路を開放し、前記液体貯留部の液体の水位差による圧力を前記液体室内にかけて前記液体室内の圧力を調整する工程と、
その後、前記圧力測定手段と前記空気室を再接続する工程と、
その後、前記第一の開閉手段により前記体外循環回路の前記圧力測定部の両側を開放し、前記第二の開閉手段により前記分岐管路を閉塞する工程と、を有することを特徴とする、圧力測定部のキャリブレーション方法。
【請求項2】
前記液体貯留部には、前記体外循環回路内に供給される液体が貯留されていることを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定部のキャリブレーション方法。
【請求項3】
圧力測定開始前に行われる、前記圧力測定手段と前記空気室との初期接続の際には、前記第二の開閉手段により前記分岐管路を開放し、前記液体貯留部の液体の水位差による圧力を前記液体室内にかけて前記液体室内の圧力を調整し、その後前記圧力測定手段と前記空気室を接続していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧力測定部のキャリブレーション方法。
【請求項4】
前記第一の開閉手段により閉塞可能な前記体外循環回路の区間には、複数の前記圧力測定部が接続されており、当該体外循環回路の前記複数の圧力測定部同士の間には、前記体外循環回路を閉塞及び開放可能な第三の開閉手段が設けられており、
前記第三の開閉手段により前記体外循環回路の圧力測定部同士の間が開放された状態で、前記液体貯留部の液体の水位差による圧力を前記複数の圧力測定部の液体室内にかけて各液体室内の圧力を調整することを特徴とする、請求項1〜3に記載の圧力測定部のキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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