説明

圧延ロールの超音波探傷方法およびその方法に用いられる圧延ロール

【課題】 圧延ロール表層部のクラックの発生、進展をオンラインで探傷できる圧延ロールの超音波探傷方法およびその方法に用いられる圧延ロールを提供する。
【解決手段】 圧延ロールのオンライン超音波探傷方法であって、ロール軸部にロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面から内方に向かって延びる超音波探触子を収容するための収容孔を有し、超音波探触子を配設した軸体の片側を収容孔の内部に収容し、該超音波探触子から超音波を収容孔の内面からロール外層の表面に向かって入射、伝播させ、ロール外層の表層部に存在するクラックからの反射波を受信することによりクラックを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延ロールやローラの表面や表面直下に存在するクラックや疵などの欠陥を超音波探触子により探傷する超音波探傷方法に関する。特に、圧延機で圧延ロールを回転させ被圧延材を圧延している間、すなわち圧延機内のオンラインで、圧延ロールの表面や表面直下に発生、進展したクラックを超音波探触子により探傷する超音波探傷方法およびその方法に用いられる圧延ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼圧延の分野では古くから、圧延ロールの表面または表面直下(以下まとめて「表層部」という)に存在するクラックや疵などの欠陥を超音波探傷や渦流探傷などを用いて検出することが行なわれている。圧延ロールの表層部に存在するクラックを超音波探触子で検出する超音波探傷方法として、例えば次の先行技術文献がある。
【0003】
特許文献1には、回転する圧延ロールの表面に、接触媒質の膜を介して表面波探触子を圧延ロールの回転軸方向に線状若しくはこれに近い帯状に接触させ、表面波探触子から圧延ロール回転方向の逆方向に向かって超音波を伝播させるとともに、表面波伝播領域における圧延ロール表面には接触媒質の膜が形成されないようにして、圧延ロール表層部に存在する欠陥を検出する圧延ロール表層部の超音波探傷方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、回転する圧延ロールの表面に、接触媒質を介して表面波を送受信する表面波プローブを接触させ、表面波プローブから圧延ロールに対して、その回転方向と逆方向に表面波を伝播させると共に、圧延ロール表面や表面直下に存在する欠陥からの反射波を受信することにより、欠陥を検出する圧延ロールの超音波探傷方法であって、表面波プローブとして、複数の超音波振動子を並べて構成されたリニアアレイ型プローブを用いる圧延ロールの超音波探傷方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、タイヤ型表面波探触子を圧延ロールの表面に転がり接触させ、圧延ロール表層部の傷を螺旋走査する超音波探傷法において、タイヤ型表面波探触子に接触媒質を噴霧状態で塗布する接触媒質噴霧装置を備える超音波探傷法による圧延ロール表面探傷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−288734号公報
【特許文献2】特開平11−326289号公報
【特許文献3】特開平5−142215号公報
【0007】
従来の圧延ロール表層部の超音波探傷方法は、圧延機内で回転駆動しているロールを探傷するオンライン探傷ではなく、圧延機の外でロールを探傷するオフライン探傷である。この技術は例えば圧延ロールをロール研削盤や回転台上に回転可能にセットし、超音波探触子を圧延ロールの表面に向けて近接して配置する。次いで、超音波探触子の先端と圧延ロールの表面との間の0.3〜0.5mmの隙間に、超音波の伝達媒体となる水や油などの媒体液を適宜供給しながら、圧延ロールを回転させることにより超音波探触子を螺旋走査してロール表層部のクラックを探傷する。
【0008】
図7は、従来の圧延ロール表層部の超音波探傷方法の一例を示す。図において、圧延ロール1は靭性に優れたロール軸部2(ロール内層ともいう)と圧延使用層である耐摩耗性に優れたロール胴部7(ロール外層ともいう)とから構成される。圧延ロール1をロール研削盤17に回転可能に固定する。超音波探触子11の先端をロール胴部7の表面に近接させる。圧延ロール1を回転数20〜50rpmの比較的低速で回転させるとともに、超音波探触子11を探傷ピッチ12〜20mm/回転で相対移動させ、ロール胴部7の表面上に螺旋形を描くように走査、探傷する。
【0009】
走査により超音波探触子11は探傷出力信号15を探傷装置(図示しない)に出力する。探傷装置は探傷出力信号15を信号処理する。探傷装置の出力は画像等で表示され、また圧延ロールの表面位置に対応するデータが記録される。クラック等が存在している場合、それに応じた反射エコーが観測される。圧延ロールの表面位置座標は、圧延ロールの回転数検出器からの出力と、超音波探触子の圧延ロール回転軸線方向の位置を検出する位置検出器からの出力に基づいて算出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鋼板の熱間圧延工程においては、連続鋳造等で製造した厚さ数百ミリのスラブを加熱炉で加熱し、粗圧延機、仕上げ圧延機で圧延して数〜数十ミリ厚さのストリップにする。仕上げ圧延機は、通常、四重式圧延機を5〜7スタンド直列に連続的に配置したものであり、7スタンドの仕上げ圧延機が広く用いられている。7スタンドの仕上げ圧延機の場合、第1〜4スタンドまでを前段スタンド、第5〜7スタンドまでを後段スタンドと称している。
【0011】
仕上げ圧延では、圧延スタンド間で被圧延材の板が様々な原因により二枚重ねになりそのまま圧延される、いわゆる絞りや絞込みといわれる圧延事故がしばしば発生する。スタンドが後段になるほど絞り事故に遭遇する確率が高まる。このため、仕上げ圧延機後段用のワークロールは前段用のロールに比べ耐事故性に優れることが要求される。
【0012】
絞り事故に遭遇すると、異常圧延により仕上げ圧延機のワークロールと被圧延材の板との摩擦による発熱が増大して、ロールの表面温度が局部的に上昇し、水冷時の熱衝撃によってロール表面にクラックが発生しやすい。クラックは割れや亀裂ともいわれ、発生初期段階のクラックを初期クラック、その後、進展したクラックを進展クラックと呼ぶことがある。
【0013】
絞りに遭ったロールは圧延機から取り外され、別に用意されたロールと交替する。絞りに遭ったロールはロールの表層部にクラックが発生しているか否かを検査するため超音波探傷装置などでオフライン探傷される。ロールの表層部にクラックの存在が確認できれば、ロールの表層部を研削加工して、クラックを発生初期段階で除去する。このことはロールの圧延使用有効径の一部が加工除去によって失われ、ロール原単位が悪化することを意味しており、クラックの除去には必要最小限度で経済的な研削を行うのが望ましい。
【0014】
ロールの表層部にクラックが残存した状態で、ロールを再び圧延に供すると、バックアップロールや被圧延材の板から接触圧力を受け、残存したクラックを起点としてクラックがロールの内部に進展する。また、ロールの表層部にクラックが残存した状態で、絞込みによって焼付きが生じると局部的に過大な接触応力が発生し、ロール内部へのクラックの進展を速める。また、圧延使用層であるロール外層の圧縮残留応力が高いとクラックの進展が助長される。
【0015】
クラックがロール内部に著しく進展した場合には、ロールがスポーリング破壊する。スポーリングが起きれば、圧延ラインの復旧作業のため長時間にわたって操業が中断するので、生産上ダメージを与える。
【0016】
また、クラックのロール軸方向の大きさ、ロールの残留応力、破壊靭性値などの諸条件によっては遅れ破壊がまれに起きる。遅れ破壊は、ハイス材のような高強度のロール外層が高い圧縮残留応力場にあり、かつスポーリング寸前の大きいクラックがロール内部に留まった状態で、時間の経過とともにその内部クラックが徐々に成長し、限界寸法に達した場合に発生する。
【0017】
絞込み事故においてロールの焼付きが発生した場合、遅れ破壊の条件を満たす可能性がある。このため、安全保護処置として、ロールを堅牢な鉄製の保管箱に収納し、48時間以上ロールを隔離する。隔離時間の経過後、ロール表層部のクラックの有無についてオフラインで超音波探傷を実施する。
【0018】
このようなロールのスポーリングや遅れ破壊を防ぐためには、ロール表層部のクラック発生、進展を早く確実に検知することが必要である。しかし、従来の技術は圧延機の外でロールを探傷するオフライン探傷であるため実圧延中のクラック発生を検知できない課題がある。
【0019】
また、熱間仕上げ圧延機のワークロールとして、圧延使用層であるロール外層が高合金グレン材からなるグレンロールや、バナジウム、モリブデン、タングステンなどを含有するハイス材からなるハイスロールなどが用いられている。また圧延ロールの構造としては、ロール外層とダクタイルや鍛鋼などからなるロール軸部が金属接合された複層構造の複合ロールや、ロール外層とロール軸部が同じ材質からなる単体ロールがある。
【0020】
グレンロールは耐焼付性に優れ、絞り事故などに遭遇した際に鋼板の焼付きが少なく、クラックの発生、進展が少ない。また、クラックが発生してもクラックの深さが比較的浅い。このようにグレンロールは耐事故性に優れているものである。
【0021】
ハイスロールは、MC系、M2C系等の硬質炭化物を晶出あるいは析出させたものであり耐摩耗性が優れている。しかし、特に被圧延材の板の温度が800℃以上の温度領域にある熱間仕上げ圧延機後段のワークロールに用いた場合には、絞込みなど異常圧延の事故時に鋼板が焼付きやすい。この焼付き部分にバックアップロールや被圧延材からの強圧により発生する応力が集中し、クラックが発生、進展しやすい。
【0022】
また、ハイスロールは基地組織を強化するため焼入れ処理が施される。例えばハイス材のロール外層と鍛鋼のロール内層が金属接合した複合ロールの場合、ロール外層とロール内層とは焼入れ時の変態挙動が異なり、ロール内層の方が外層より焼入れ時の熱収縮が大きいため、ロール外層に圧縮応力が発生して残留する。ロール外層の圧縮残留応力が大きいと、ロール表面の初期クラックの発生を抑制できるが、いったんロール表面にクラックが発生すると、円周方向の圧縮応力によりクラックがロール内部に斜め方向に進展しやすいという欠点がある。
【0023】
ハイスロールはグレンロールに比べて価格は高いが、数倍も耐摩耗性が優れるためロール原単位の向上に大きく寄与する。そこでハイスロールは様々な用途のロールに適用が拡大している。しかし、仕上げ圧延機前段用に比べ耐事故性に優れることが要求される仕上げ圧延機後段用のワークロールには、後段で絞り事故が起きやすいためハイスロールの適用拡大が十分でない。その支障要因の一つとして、圧延ロール表層部のクラックの発生、進展をオンラインで事前に検知できない環境であるため、スポーリングが起これば経済的損失の大きいハイスロールを適用し難いことがある。
【0024】
したがって、本発明は前述の課題を解消し、圧延ロール表層部のクラックの発生、進展をオンラインで探傷できる圧延ロールの超音波探傷方法およびその方法に用いられる圧延ロールを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、前述の課題に対応すべく鋭意検討した結果、圧延ロールの表層部をロールの内部から超音波探傷する技術的思想により本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明は、圧延ロールのオンライン超音波探傷方法であって、ロール軸部にロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面から内方に向かって延びる超音波探触子を収容するための収容孔を有し、超音波探触子を配設した軸体の片側を収容孔の内部に収容し、該超音波探触子から超音波を収容孔の内面からロール外層の表面に向かって入射、伝播させ、ロール外層の表層部に存在するクラックからの反射波を受信することによりクラックを検出することを特徴とする圧延ロールの超音波探傷方法である。
【0027】
本発明の圧延ロールの超音波探傷方法において、前記収容孔の内部に超音波の伝達媒体となる媒体液を封入したことを特徴とする。超音波探触子の先端が被検体と離間する場合には、超音波の伝達媒体が必要であり媒体液としては水、油が好ましい。タイヤ型超音波探触子は被検体表面に転がり接触させるので媒体液を必ずしも必要としない。
【0028】
本発明の圧延ロールの超音波探傷方法において、前記軸体が収容孔の内部で軸受に支持されていることを特徴とする。軸体が被検体である圧延ロールの回転に対して、相対的に回転しないように固定することにより、圧延ロールの一周面を走査できる。そのための手段として軸体を軸受で支持することが望ましい。
【0029】
本発明の圧延ロールの超音波探傷方法において、前記超音波探触子を配設した軸体が着脱自在であることを特徴とする。圧延ロールは耐用寿命などの到来により廃却されるが、これと合わせて本発明の超音波探傷装置を廃却するのは経済的にコストがかかる。また、圧延ロールの一本毎に本発明の超音波探傷装置を固定して設けるのもコストがかかる。このため、超音波探触子を配設した軸体は、本発明の収容孔を有する圧延ロールであれば、別の圧延ロールにも装着できるように着脱自在であるのが望ましい。
【0030】
また、本発明の圧延ロールは、圧延ロールのロール軸部にロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面から内方に向かって延びる超音波探触子を収容するための収容孔を有することを特徴とする。本発明の収容孔を有する圧延ロールであれば、本発明の超音波探傷装置をロール軸部内に内蔵できる。また本発明の超音波探傷装置をロール軸部から取り外して、本発明の収容孔を有する別の圧延ロールに装着できる。
【0031】
また、本発明の圧延ロールは、圧延ロールのロール軸部にロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面から内方に向かって延びる超音波探触子を収容するための収容孔を有し、前記収容孔の内部に、超音波を収容孔の内面からロール外層の表面に向かって入射、伝播させ、ロール外層の表層部に存在するクラックからの反射波を受信することによりクラックを検出する超音波探触子を配設した軸体を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
圧延ロール表層部のクラックの発生、進展をオンラインで検知できるため、ロールのスポーリング発生の可能性を予期できる。また絞込み事故でロールの焼付きが発生した場合、ロールを隔離して所定時間経った後、クラックの発生状態を探傷していたが、ロールを隔離する前にクラックの発生状態をオンラインで検知できるため、予めロールの隔離の必要度合いを判定できる。
【0033】
また、圧延ロール表層部のクラックの発生、進展をオンラインで検知できるため、グレンロールに比べ耐事故性が劣るハイスロールを仕上げ圧延機後段用のワークロールに適用しやすくなる。これはロール原単位の向上に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明実施例1の超音波探傷方法を示す概略横断面図。
【図2】本発明実施例1の超音波探傷方法を示す概略縦断面図。
【図3】本発明実施例1の探傷結果の例を示す図。
【図4】本発明実施例2の超音波探傷方法を示す概略横断面図。
【図5】本発明実施例2の超音波探傷方法を示す概略縦断面図。
【図6】本発明実施例2の探傷結果の例を示す図。
【図7】従来の圧延ロール表層部の超音波探傷方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識にも基づいて、以下の実施形態に適宜変更、改良が加えられたものも本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1の超音波探傷方法を示す概略横断面図である。図において、圧延ロール1は靭性に優れたロール軸部2と圧延使用層である耐摩耗性に優れたロール外層3が金属接合された複層構造の複合ロールである。4はロール軸部2とロール外層3の間のロール境界部である。ロール軸部2に、ロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面6からロールの中心内部に向かって延びる超音波探触子11を収容するための収容孔5を穿設する。収容孔5は断面円形の孔でその奥行側はロール軸部2で塞がれている。このようにして収容孔5を有する本発明の圧延ロール1を得た。
【0037】
前記収容孔5を有する圧延ロール1とは別に、長尺な丸棒状の金属からなる軸体12を用意した。軸体12の一端は超音波探触子を配設する側、他端は探傷出力信号を経由して探傷装置(図示しない)に接続される側である。軸体12の表面に超音波探触子11を配列して超音波探触子として作動できるように固定した。
【0038】
本発明の説明を判り易くするため超音波探触子11の数を少なくして図面を模式的に描いた。3個の超音波探触子11をそれぞれの探触子先端の向きを同じ方向にして、等間隔に配置した。また、軸体12の両端部を軸受13で回転自在に支持した。このようにして超音波探触子11を搭載するとともに、軸受13で支持したユニット型の本発明の軸体12を得た。ユニット型の軸体12は、本発明の収容孔5を有する圧延ロール1であれば、別の圧延ロール1にも装着できる。
【0039】
本発明の軸体12の超音波探触子11を配設した側を収容孔5の内部に収容し、本発明のロールを組立てた。本発明の軸体12の他端は、ロール軸部の端面6の開口部より外に露出され、探傷出力信号15を経由して探傷装置に接続される。ロール軸部の端面6の開口部を金属製の栓部材14で閉塞した。超音波探触子11の先端と収容孔5の内面との間には空間を形成する。この空間を埋めるように、収容孔5の内部に超音波の伝達媒体となる媒体液16の油を封入した。媒体液16の供給は媒体液の入出口を有する循環式が望ましい。
【0040】
以上のように構成した圧延ロール1を圧延機に組込み、圧延機により圧延ロール1を回転させて圧延する。軸体12が収容孔5の内部で軸受13に支持されているので、軸体12は被検体である圧延ロール1の回転に対して相対的に回転しない。圧延ロール1の回転中、超音波探触子11から超音波を収容孔5の内面からロール外層3の表面に向かって入射、伝播させる。ロール外層3の表層部にクラックが存在した場合、クラックからの反射波(エコー)を受信することによりクラックを検出する。超音波探触子11は探傷出力信号15を探傷装置に出力する。
【0041】
圧延ロール1が回転している間、超音波探触子11の入射向きは一定なので、ロール外層3の同一の円周を探傷できる。本実施例のように超音波探触子11を3個配置すれば、それに応じたロール外層3の3箇所の円周を探傷できる。またロールの内部から超音波探傷するので表層部を含めてロールの深さ方向の全域に存在するクラックなどの欠陥を探傷できる。
【0042】
すなわち、超音波探触子を複数個、ロール回転軸線方向に配置すれば、ロール外層のほぼ全ての円周を探傷できることはいうまでもない。また別な手段として、超音波探触子を配置した軸体をスライド機構によりロールの回転軸線方向に移動させて、超音波探触子自体のロールの回転軸線方向位置を相対移動させてもロール外層のほぼ全ての円周を走査できる。
【0043】
探傷により超音波探触子11は探傷出力信号15を探傷装置に出力する。探傷装置の出力は画像等で表示され、また圧延ロールの表面位置に対応するデータが記録される。クラック等が存在している場合、それに応じた反射エコーが観測される。圧延ロールの表面位置座標は、圧延ロールの回転数検出器からの出力と、超音波探触子の圧延ロール回転軸線方向の位置を検出する位置検出器からの出力に基づいて算出される。
【0044】
図2は、本発明の実施例1の超音波探傷方法を示す概略縦断面図である。図において、軸体12上に設けた超音波探触子11から超音波18を収容孔5の内面からロール外層3の表面に向かって入射、伝播させる。20はロール外層3の表面に発生した初期クラックを、21は初期クラック20からロール内部に進展した進展クラックを表わす。
【0045】
図3は、本発明実施例1の探傷結果の例を示す図である。縦軸は反射エコーの高さ、横軸はロールの中心からの距離である。図2の進展クラック21を検出した場合、左側から順に、収容孔の内面のエコー22、ロール境界部のエコー23、クラックのエコー25、ロール表面のエコー24が観測される。進展クラック21からの反射波がエコー25である。走査上にクラックがない場合、エコー25を除くエコー22、23、24が観測される。
【0046】
(実施例2)
図4は、本発明の実施例2の超音波探傷方法を示す概略横断面図である。図において、圧延ロール1はロール外層3とロール軸部2が同じ材質からなる単体ロールである。ロール軸部2に、ロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面6からロールの中心内部に向かって延びる超音波探触子11を収容するための収容孔5を穿設する。収容孔5は断面円形の孔でその奥行側はロール軸部2で塞がれている。このようにして収容孔5を有する本発明の圧延ロール1を得た。
【0047】
前記収容孔5を有する圧延ロール1とは別に、長尺な丸棒状の金属からなる軸体12を用意した。軸体12の一端は超音波探触子を配設する側、他端は探傷出力信号を経由して探傷装置(図示しない)に接続される側である。軸体12の表面にタイヤ型超音波探触子11を配置して超音波探触子として作動できるように固定した。
【0048】
本発明の説明を判り易くするため超音波探触子11の数を少なくして図面を模式的に描いた。5個のタイヤ型超音波探触子11を等間隔に配置し、3個は探触子先端の向きを同じ方向に、2個は探触子先端の向きをそれとは反対方向にした。また、軸体12の両端部を軸受13で回転自在に支持した。このようにして超音波探触子11を配設するとともに、軸受13で支持した本発明の軸体12を得た。
【0049】
本発明の軸体12の超音波探触子11を配設した側を収容孔5の内部に収容し、本発明のロールを組立てた。本発明の軸体12の他端は、ロール軸部の端面6の開口部より外に露出され、探傷出力信号15を経由して探傷装置に接続される。ロール軸部の端面6の開口部を金属製の栓部材14で閉塞した。タイヤ型超音波探触子11の先端と収容孔5の内面とは転がり接触可能に接触している。
【0050】
以上のように構成した圧延ロール1を圧延機に組込み、圧延機により圧延ロール1を回転させて圧延する。軸体12が収容孔5の内部で軸受13に支持されているので、軸体12は被検体である圧延ロール1の回転に対して相対的に回転しない。圧延ロール1の回転中、タイヤ型超音波探触子11の先端が収容孔5の内面に転がり接触して、超音波探触子11から超音波を収容孔5の内面からロール外層3の表面に向かって入射、伝播させる。ロール外層3の表層部にクラックが存在した場合、クラックからの反射波(エコー)を受信することによりクラックを検出する。超音波探触子11は探傷出力信号15を探傷装置に出力する。
【0051】
図5は、本発明の実施例2の超音波探傷方法を示す概略縦断面図である。図において、軸体12上に設けた超音波探触子11から超音波18を収容孔5の内面からロール外層3の表面に向かって入射、伝播させる。20はロール外層3の表面に発生した初期クラックを、21は初期クラック20からロール内部に進展した進展クラックを表わす。
【0052】
図6は、本発明実施例2の探傷結果の例を示す図である。縦軸は反射エコーの高さ、横軸はロールの中心からの距離である。図5の進展クラック21を検出した場合、左側から順に、収容孔の内面のエコー22、クラックのエコー25、ロール表面のエコー24が観測される。進展クラック21からの反射波がエコー25である。走査上にクラックがない場合、エコー25を除くエコー22、24が観測される。
【0053】
本発明に係る実施例は前述のものに限定されるものではない。圧延ロール表層部のクラックの発生、進展をオンラインで探傷中、クラックの発生、進展を検知した場合、ランプの点灯やブザーを鳴らして警告してもよい。
【0054】
本発明において、ロール軸部に設けた収容孔すなわちロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面からロールの中心内部に向かって延びる孔は、孔の径を変えることによりロールの残留応力を制御することができる。また、ロールの剛性制御に対しても利用可能である。圧延使用層であるロール外層の圧縮残留応力が高いとクラックの進展が助長されるため、本発明の収容孔は特にハイスロールの残留応力制御にも好ましい。
【0055】
本発明において、複合ロールを超音波探傷する場合、ロール軸部がダクタイルで形成されていると存在する黒鉛が超音波散乱の要因となりやすい。ロール軸部が鍛鋼で形成されていると超音波の伝播が安定しているので望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の圧延ロールの超音波探傷方法は、圧延ロールやローラの表面や表面直下に存在するクラックや疵などの欠陥を超音波探触子により探傷する超音波探傷方法として用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ロール、 2 ロール軸部、 3 ロール外層、 4 ロール境界部、
5 収容孔、 6 ロール軸部の端面、 7 ロール胴部、
11 超音波探触子、 12 軸体、 13 軸受、 14 栓部材、
15 探傷出力信号、 16 媒体液、 17 ロール研削盤、 18 超音波、
20 初期クラック、 21 進展クラック、 22 収容孔の内面のエコー、
23 ロール境界部のエコー、 24 ロール表面のエコー、 25 クラックのエコー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ロールのオンライン超音波探傷方法であって、ロール軸部にロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面から内方に向かって延びる超音波探触子を収容するための収容孔を有し、超音波探触子を配設した軸体の片側を収容孔の内部に収容し、該超音波探触子から超音波を収容孔の内面からロール外層の表面に向かって入射、伝播させ、ロール外層の表層部に存在するクラックからの反射波を受信することによりクラックを検出することを特徴とする圧延ロールの超音波探傷方法。
【請求項2】
前記収容孔の内部に超音波の伝達媒体となる媒体液を封入したことを特徴とする請求項1に記載の圧延ロールの超音波探傷方法。
【請求項3】
前記軸体が収容孔の内部で軸受に支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧延ロールの超音波探傷方法。
【請求項4】
前記超音波探触子を配設した軸体が着脱自在であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧延ロールの超音波探傷方法。
【請求項5】
圧延ロールのロール軸部にロールの回転軸線と同軸状にロール軸部の端面から内方に向かって延びる超音波探触子を収容するための収容孔を有することを特徴とする圧延ロール。
【請求項6】
前記収容孔の内部に、超音波を収容孔の内面からロール外層の表面に向かって入射、伝播させ、ロール外層の表層部に存在するクラックからの反射波を受信することによりクラックを検出する超音波探触子を配設した軸体を備えたことを特徴とする請求項5に記載の圧延ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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