圧延ロール
【課題】 簡単な構成で、種々の板幅の鋼板にも対応して、良好な形状に圧延することができる圧延ロールを提供する。
【解決手段】 少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールである。圧延ロールのうち、たとえば第1中間ロール21は、ロールの軸線方向の一端部27側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部22が形成され、テーパ部22以外のロールの真直部23に、ロールの半径方向に突出し、真直部23の径Dsよりも径Dcが大きくなる(Dc>Ds)ように形成される伸径部26を有する。
【解決手段】 少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールである。圧延ロールのうち、たとえば第1中間ロール21は、ロールの軸線方向の一端部27側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部22が形成され、テーパ部22以外のロールの真直部23に、ロールの半径方向に突出し、真直部23の径Dsよりも径Dcが大きくなる(Dc>Ds)ように形成される伸径部26を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段式圧延機に用いられる圧延ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は強度、加工性等に優れるので広範な用途の材料として用いられている。たとえば自動車、家電製品等の材料として用いられる金属材料の1種である鋼板は、熱間圧延または冷間圧延等の圧延加工によって製造される。圧延加工は、圧延機に備わり圧延荷重が負荷された圧延ロール間にスラブまたは素鋼板を通板させて所望の厚さの鋼板に加工するものである。
【0003】
図8は、ワークロールとバックアップロールとによる圧延加工の概要を示す図である。図8では、一対のワークロール1a,1bと、各ワークロールの外側に配される一対のバックアップロール2a,2bにより、鋼板3を圧延加工する状態を示す。通常、圧延荷重は、バックアップロール2a,2bのロール軸方向の両端部において負荷されるので、ロールは、軸線方向に曲率を有し、一対のロールが互いに臨む方向に凹形状に撓みを生じる。したがって、ワークロール1a,1b間で圧延荷重を負荷されて圧延される鋼板3は、圧延方向に直交する幅方向の両端部付近が最も強く圧下されて良く伸びるので、幅方向の中央部付近とで伸び率に差が生じて、いわゆる耳波が発生する。
【0004】
近年、鋼板の用途も多様化し、各種の基板、電子機器素材としても用いられ、またフォトリソグラフィ加工なども行われるに及んで鋼板形状、特に平坦度の要求が厳しくなっている。このような状況下において、圧延加工された鋼板に耳波が存在すると、鋼板の幅方向中央部付近のみの素材利用に限定され、幅方向全体もしくは幅方向の端部付近までの効率的利用が妨げられる。圧延ロールには、軸方向中央部付近の径が、軸方向の両端部付近の径よりも大きくなるような、クラウンと呼ばれる形状が付与され、耳波の発生が抑制されるような構成が採られているけれども、厳しい平坦度の要求に対して充分に応えることができるものではない。
【0005】
したがって、鋼板の圧延に際し、その形状制御について種々の検討が行われている。圧延鋼板の形状制御についてたとえば多段式圧延機の場合について例示する。図9は、典型的な多段式圧延機5のロール構成を示す図である。図9の多段式圧延機5は、加工硬化が大きいたとえばステンレス鋼板などの圧延に用いられているセンジミアミルを示す。
【0006】
図9に示す多段式圧延機5は、20段の多段ロール構成を有する。すなわち、多段式圧延機5は、対向して配される一対のワークロール6a,6bと、各ワークロールの外側に配される2本ずつの第1中間ロール7a1,7a2(7b1,7b2)と、第1中間ロールの外側に配される3本ずつの第2中間ロール8a1,8a2,8a3(8b1,8b2,8b3)と、第2中間ロールのさらに外側に配される4本ずつのバックアップロール9A〜9Hとを含んで構成される、いわゆるセンジミアミルであり、ワークロール6a,6b間を通板される鋼板10を圧延する。
【0007】
図10は、多段式圧延機5に備わるワークロール6a,6bと第1中間ロール7a2,7b2を示す正面図である。多段式圧延機5における耳波を防止する1つの形状制御として、第1中間ロール7に片テーパ部11a,11bを形成することが提案される。第1中間ロール7の片テーパ部11a,11bは、ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるように形成される。ここで、各ロールおよびテーパ部を総称する場合には添字を省いて表記する。
【0008】
第1中間ロール7aと、もう一方側の第1中間ロール7bとは、形成される片テーパ部11a,11b同士が幅方向の互いに反対側に位置するように多段式圧延機5に装着される。多段式圧延機5において、バックアップロール9に圧延荷重を負荷するとき、第1中間ロール7に片テーパ部11を形成しておくことによって、ワークロール6の撓みが、特に幅方向端部付近の撓みが軽減され、鋼板10の幅方向端部の耳波が抑制される。
【0009】
しかしながら、第1中間ロール7にテーパ部11を形成することによって、圧延された鋼板10のテーパが形成されている部分に対応する領域では、耳波が軽減されるけれども、幅方向端部に代わって、第1中間ロール7の真直部分が終了しテーパがまさに形成され始める部位12a,12bにおいて、幅方向中央部分との圧延荷重分布の差により、周辺領域よりも伸びが大きくなる現象が発生する。ここでは、ロールの真直部分が終了しテーパがまさに形成され始める部位をテーパ肩部と呼ぶ。また、テーパ肩部に対応する部分の圧延鋼板に発生する大きな伸びを、鋼板の幅方向端部からおおよそ鋼板幅の1/4(クオータ)程度の位置に発生することから、クオータバックルと呼ぶことがある。
【0010】
図11はクオータバックルを急峻度にて例示する図であり、図12はクオータバックルの形状を示す模式図である。図11、図12は、第1中間ロールにテーパ部を形成した多段式圧延機を用い、幅:1255mmのオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304を、厚さ0.60mmから0.50mmに冷間圧延した場合の急峻度を例示する。SUS304鋼板の幅方向端部からほぼ150mm付近に、伸びの大きいクオータバックル13が形成されることが判る。
【0011】
クオータバックルは、鋼板形状に関する品質上の問題にとどまらず、冷間圧延工程以降の鋼板製造工程における焼鈍酸洗、光輝焼鈍などにおいて、装置内を通板する際、通板性を悪化させ、また装置内部材との摺擦によってかき疵が発生するなどの問題があり、改善が望まれている。
【0012】
このようなクオータバックルの発生を防止する形状制御技術が種々提案されている。その1つに、多段式圧延機のバックアップロールのシャフトにスリットを形成し、バックアップロールによる圧延荷重を軸線方向で分割して負荷することを可能にし、軸線(幅)方向におけるクラウンの制御量を調整できるようにするFlexible Shaft Backing Assemblies(FSBA)がある(非特許文献1参照)。しかしながら、FSBAは、圧延機の構成が極めて複雑になり、圧延荷重の負荷制御も複雑になるので、実操業に対する使用を考慮すると好適なものとは言い難い。
【0013】
そこで、クオータバックルの形状制御に係るもう一つの従来技術では、たとえばテーパ部が形成される第1中間ロールにおいて、ロール軸線方向におけるテーパ部の反対側に、ロールの真直部分の径よりも径が小さくなる部分(軸線を含む断面形状では、凹所が形成されるように見えるので、この部分を以後コンケーブと呼ぶ)を形成したコンケーブロールとすることが提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。すなわち、コンケーブロールは、たとえば対を成す第1中間ロール同士では、一方の第1中間ロールのテーパ肩部と、他方の中間ロールのコンケーブとが互いに対応する位置になるように形成される。
【0014】
図13は、多段式圧延機の第1中間ロールにコンケーブを形成しコンケーブロールとした構成を示す図である。図13に示す多段式圧延機のロール構成では、対を成す第1中間ロール15a,15bに、それぞれテーパ部11a,11bとコンケーブ16a,16bとが形成される。多段式圧延機に第1中間ロール15a,15bが装着された状態では、一方の第1中間ロール15aのテーパ肩部12aと、他方の第1中間ロール15bのコンケーブ16bとが、軸線方向においてほぼ対応する位置に配置され、他方の第1中間ロール15bのテーパ肩部12bと、一方の第1中間ロール15aのコンケーブ16aとが、軸線方向においてほぼ対応する位置に配置される。対を成す第1中間ロール15a,15bにおいて、互いにテーパ肩部12a,12bと、コンケーブ16b,16aとを対応させるように配置して、鋼板10を圧延することによって、テーパ肩部12a,12bにおける圧延荷重の集中を緩和し、クオータバックルを軽減することができる。
【0015】
しかしながら、圧延される鋼板10は、板幅が常に一定ではなく、種々の板幅のものがあるので、圧延される板幅に応じて、耳波を軽減するために第1中間ロール15a,15bは、軸線方向の配置が変えられる。その結果、対を成す第1中間ロール15a,15bにおける互いのテーパ肩部12a,12bとコンケーブ16b,16aとの軸線方向の位置が対応しなくなり、クオータバックルの抑制効果を発揮できなくなるという問題がある。多種多様の板幅の鋼板に対応するようにテーパ部とコンケーブとが形成された第1中間ロールを予め準備しておくことはできるけれども、ロールコストの増大、また鋼板の板幅が変わるごとに、第1中間ロールを所定の組合わせのものに交換すると作業効率を極めて悪化させるという問題がある。
【0016】
【非特許文献1】ジョン・ダブル・ターレイ(John W.Turley)、エーアイエスイースティールテクノロジィ(AISE Steel Technology)、米国(USA)、ジアソシエイションフォーアイアンアンドスティールテクノロジィ(The Association for Iron & Steel technology)、1999年3月、第76巻第3号、p35
【特許文献1】特公平7−63737号公報
【特許文献2】特公平7−96123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、簡単な構成で、種々の板幅の鋼板にも対応して、良好な形状に圧延することができる圧延ロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成され、テーパ部以外のロールの真直部に、ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きくなるように形成される伸径部を有することを特徴とする圧延ロールである。
【0019】
また本発明は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、中間ロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成されるワークロールであることを特徴とする圧延ロールである。
【0020】
また本発明は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、ワークロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成される中間ロールであることを特徴とする圧延ロールである。
【0021】
また本発明は、真直部の径よりも径が大きい伸径部がロール軸線方向に形成される長さである伸径幅WLは、
ロール長さをLrとし、
テーパ部が多段式圧延機の最も中央寄りに位置するように配置するときの多段式圧延機の中央からテーパ部が形成される一端部の反対側である他端部までの長さをL0とし、
テーパ部の長さをLtとするとき、
以下の式を満足することを特徴とする。
100mm≦WL≦(Lr−L0−Lt)×2mm
【0022】
また本発明は、ロールの伸径部の径と、ロールの真直部の径との差が、5μm〜40μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧延ロールは、ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成され、テーパ部以外のロールの真直部に、ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きくなるように形成される伸径部を有する。このことによって、伸径部が形成される部分の圧延荷重が増大し、伸径部が形成される部分とテーパ肩部との圧延荷重差が軽減されるので、伸径部が形成される部分とテーパ肩部とにおける圧延鋼板の伸びが均一化され、クオータ部のみが突出して伸びることがなくなり圧延形状が改善される。また、圧延される鋼板の幅が変化することに伴い、圧延ロールが軸線方向にシフトされて配置が変化する場合であっても、伸径部が形成される部分とテーパ肩部とにおける圧延荷重差が軽減された状態が維持されるので、圧延形状の改善を同じように発揮することができる。
【0024】
また本発明によれば、中間ロールにテーパ部が形成されるときには、ワークロールに伸径部が形成され、ワークロールにテーパ部が形成されるときには、中間ロールに伸径部が形成されるので、上記の本発明による効果と同様の効果を奏することができる。
【0025】
また本発明によれば、テーパ部と伸径部とを有する圧延ロールにおける伸径部の形成位置が、好適範囲に定められるので、テーパ肩部による伸びと伸径部による伸びとが、幅方向においてバランスの良い位置に形成され、幅方向全体として良好な形状の圧延鋼板を得ることができる。
【0026】
また本発明によれば、ロールの伸径部の径とロールの真直部の径との差が好適範囲に設定されるので、テーパ肩部による伸びと伸径部による伸びとが拮抗し、良好な形状の圧延鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の実施の第1形態である圧延ロール21の構成を示す正面図である。圧延ロール21は、少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成されるたとえば前述の図9に示すような多段式圧延機に用いられる。
【0028】
本実施の形態の圧延ロール21は、多段式圧延機に備わる第1中間ロールが当該圧延ロール21である場合についての事例である。なお、図9に示すように第1中間ロール21は、圧延される鋼板25に関して線対称の位置に2対が設けられるけれども、図1では図を簡略化して1対のみを図示する。また対で設けられるロールについては、鋼板25に関して一方の側を表すとき参照符の後にアルファベットaを付し、他方の側を表すとき参照符の後にアルファベットbを付して表し、総称する場合には参照符のみで表す。
【0029】
本発明の圧延ロールである第1中間ロール21a,21bは、第1中間ロール21a,21bの軸線方向のそれぞれ一端部27a,27b側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部22a,22bが形成され、テーパ部22a,22b以外のロールの真直部23a,23bに、ロールの半径方向に突出し、真直部23a,23bの径Dsよりも径Dcが大きくなる(Dc>Ds)ように形成される伸径部24a,24bを有する。
【0030】
ここでは、伸径部が、ロール軸線を含む断面形状では凸状部を形成するので、凸状の伸径部をコンベックスと呼び、伸径部が形成されたロールをコンベックスロールと呼ぶことがある。
【0031】
第1中間ロール21a,21bの内側には、1対のワークロール26a,26bが設けられ、1対のワークロール26a,26b間に鋼板25が通板され、バックアップロールを介して負荷される圧延荷重によって、鋼板25が所定の厚さの鋼板に圧延される。
【0032】
図2は、第1中間ロール21の構成を示す正面図である。なお、図2では、2つの第1中間ロール21a,21bの上下位置が、図1に示す位置と反対に図示される。図2を参照し、コンベックスロールである第1中間ロール21の伸径部24の寸法について説明する。
【0033】
伸径部24が第1中間ロール21の軸線方向に形成される長さである伸径幅WLは、第1中間ロール21の長さをLrとし、テーパ部22が多段式圧延機の最も中央寄りに位置するように配置するときの多段式圧延機の中央31からテーパ部22が形成される一端部27の反対側である他端部28までの長さをL0とし、テーパ部22の長さをLtとするとき、式(1)を満足するように形成される。
100mm≦WL≦(Lr−L0−Lt)×2mm …(1)
【0034】
伸径部の長さWLが、100mm未満では、鋼板25の幅方向において、伸径部24による鋼板25の中央部分の伸びと、テーパ肩部29による鋼板25のクオータバックルとの間に伸びの小さい領域の形成されるおそれがあり、形状制御の効果を充分に発揮することができない。
【0035】
一方、伸径部の長さWLが、(Lr−L0−Lt)×2mmを超えると、伸径部24がテーパ部22の形成領域まで及ぶようになり、テーパ部22を形成することによる耳波の抑制効果を阻害する。図2では、伸径部24の長さWLの最大値である(Lr−L0−Lt)×2mmとなるように形成された状態を示す。
【0036】
また、第1中間ロール21の伸径部24の径Dcは、その径Dcと、第1中間ロール21の真直部23の径Dsとの差である伸径量ΔD(=Dc−Ds)が、5μm〜40μmになるように形成されることが好ましく、20〜30μmになるように形成されることがより好ましい。
【0037】
図3は、伸径量ΔDが鋼板幅方向の伸び率差に及ぼす影響を示す図である。図3は、伸径部が形成されない第1中間ロールと、伸径部が形成され、該伸径量ΔDが5〜50μmの範囲にそれぞれ形成された第1中間ロールとを用い、厚さ:0.60mm、幅:1255mmのオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304を、圧延荷重:440トンで冷間圧延した場合の結果を示す。
【0038】
ここで伸び率差(I−unit)は、以下のように定義される。図4は、伸び率差(I−unit)を説明する図である。圧延される鋼板を任意の位置で幅方向に複数条に分割し、各条ごとの伸びを測定したとき、最も伸びの小さい条の長さを基準長さl0とし、最も伸びの大きい条と基準長さl0との伸びの差をΔlとすると、伸び率εは、Δl/l0で表され、伸び率差(I−unit)は、ε×105で表される。単位伸び率差である1I−unitは、基準長さl0=1m(=1000mm)に対して伸びの差Δlが10μ(0.01mm)である式(2)で与えられる。
1I−unit=0.01mm/1000mm …(2)
【0039】
図3に戻って、テーパ部のみが形成され伸径部が形成されていない第1中間ロールを用いた場合、鋼板の幅方向中央部と、クオータ部(テーパ肩部に該当)との伸び率差が、24I−unit存在する。第1中間ロールに伸径量ΔDが5μm以上の伸径部を形成することによって、鋼板の幅方向中央部とクオータ部との伸び率差が減少し、特に伸径量ΔDが20〜30μmの場合、顕著に伸び率差が小さくなる。しかしながら、伸径量ΔDを40μmを超える50μmとするとき、鋼板の幅方向中央部とクオータ部との伸び率差が、伸径部を形成しないときよりも拡大する傾向を示す。以上のことから、好ましい伸径量ΔDを、5〜40μmとした。
【0040】
上記のように構成されるコンベックスロールである第1中間ロール21を用いて鋼板25を圧延することによって、伸径部24が形成される部分の圧延荷重が増大し、伸径部24が形成される部分とテーパ肩部29との圧延荷重差が軽減されるので、伸径部24が形成される部分とテーパ肩部29とにおける圧延鋼板の伸びが均一化され、クオータ部のみが突出して伸びることがなくなり圧延形状が改善される。また、圧延される鋼板25の幅が変化することに伴い、第1中間ロール21が軸線方向にシフトされて配置が変化する場合であっても、伸径部24が形成される部分とテーパ肩部29とにおける圧延荷重差が軽減された状態が維持されるので、圧延形状の改善を同じように発揮することができる。
【0041】
図5は、本発明の実施の第2形態である圧延ロール35の構成を示す正面図である。本実施形態の圧延ロール35は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、中間ロールのうち第1中間ロール36には軸線方向の一端部37側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部38が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられ、ロールの半径方向に突出し、真直部39の径Dsよりも径Dcが大きい(Dc/Ds)伸径部40が形成されるワークロール35である。
【0042】
テーパ部38が一端部37側に形成される片テーパの第1中間ロール36に、本発明の伸径部40が形成されるワークロール35を組合せたロール構成とし、多段式圧延機にて鋼板25を圧延することによって、実施の第1形態の圧延ロール21による効果と同様の効果を奏することができる。
【0043】
図6は、本発明の実施の第3形態である圧延ロール41の構成を示す正面図である。本実施形態の圧延ロール41は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、ワークロール42には軸線方向の一端部43側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部44が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられ、ロールの半径方向に突出し、真直部45の径Dsよりも径Dcが大きい(Dc/Ds)伸径部46が形成される第1中間ロール46である。
【0044】
テーパ部44が一端部43側に形成される片テーパのワークロール42に、本発明の伸径部46が形成される第1中間ロール41を組合せたロール構成とし、多段式圧延機にて鋼板25を圧延することによって、実施の第1形態の圧延ロール21による効果と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0045】
図9に示す20段のセンジミアミルの第1中間ロールとして、本発明の実施例である伸径部(コンベックス)と一端部側にテーパ部が形成された図1に示すコンベックスロール21と、比較例1のテーパ部が一端部側にのみ形成されているだけの前述の図10に示す片テーパロール7と、比較例2のテーパ部が一端部側に形成されるとともにコンケーブも形成された図13に示すコンケーブロール15とをそれぞれ用いて、鋼板を圧延する際の鋼板幅方向の位置と伸び率差(I−unit)との関係を、ロールの変形モデル式に基づくシミュレーションにて求めた。
【0046】
センジミアミルの基本シミュレーション条件を表1に示す。実施例のコンベックスロールのプロフィールを表2に、比較例1の片テーパロールのプロフィールを表3に、比較例2のコンケーブロールのプロフィールを表4に示す。また シミュレーションにおける圧延対象鋼板を表5に示す。
【0047】
なお、ロールの変形シミュレーションには、相沢らにより提案されている(第52回&第53回塑性加工連合講演回会講演論文集、日本塑性加工学会、2001年、p307−310&2002年、p125−126)モデル式を用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
図7は、鋼板幅方向の位置と伸び率差(I−unit)との関係のシミュレーション結果を示す図である。図7中、ライン51で実施例のコンベックスロール使用時の結果を示し、ライン52で比較例1の片テーパロール使用時の結果を示し、ライン53で比較例2のコンケーブロール使用時の結果を示す。
【0054】
比較例1の片テーパロールでは、鋼板幅方向中央部とクオータ部との伸び率差が、ほぼ30I−unitに及び、顕著なクオータバックルが生じている。比較例2のコンケーブロールでは、片テーパロールに比べて鋼板幅方向における伸び率差の変動が抑制されているけれども、10I−unitを超える伸び率差が存在する。一方実施例のコンベックスロールでは、鋼板の幅方向全体にわたって伸び率差が、10I−unit以内であり、鋼板幅方向にわたって、局部伸びが抑制されてほぼ均一な伸びになることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の第1形態である圧延ロール21の構成を示す正面図である。
【図2】第1中間ロール21の構成を示す正面図である。
【図3】伸径量ΔDが鋼板幅方向の伸び率差に及ぼす影響を示す図である。
【図4】伸び率差(I−unit)を説明する図である。
【図5】本発明の実施の第2形態である圧延ロール35の構成を示す正面図である。
【図6】本発明の実施の第3形態である圧延ロール41の構成を示す正面図である。
【図7】鋼板幅方向の位置と伸び率差(I−unit)との関係のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】ワークロールとバックアップロールとによる圧延加工の概要を示す図である。
【図9】典型的な多段式圧延機5のロール構成を示す図である。
【図10】多段式圧延機5に備わるワークロール6a,6bと第1中間ロール7a2,7b2を示す正面図である。
【図11】クオータバックルをデータにて例示する図である。
【図12】クオータバックルの形状を示す模式図である。
【図13】多段式圧延機の第1中間ロールにコンケーブを形成しコンケーブロールとした構成を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
21,36,41 第1中間ロール
22,38,44 テーパ部
23,39,45 真直部
24,40,46 伸径部
25 鋼板
26,35,42 ワークロール
27,37,43 一端部
28 他端部
29 テーパ肩部
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段式圧延機に用いられる圧延ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は強度、加工性等に優れるので広範な用途の材料として用いられている。たとえば自動車、家電製品等の材料として用いられる金属材料の1種である鋼板は、熱間圧延または冷間圧延等の圧延加工によって製造される。圧延加工は、圧延機に備わり圧延荷重が負荷された圧延ロール間にスラブまたは素鋼板を通板させて所望の厚さの鋼板に加工するものである。
【0003】
図8は、ワークロールとバックアップロールとによる圧延加工の概要を示す図である。図8では、一対のワークロール1a,1bと、各ワークロールの外側に配される一対のバックアップロール2a,2bにより、鋼板3を圧延加工する状態を示す。通常、圧延荷重は、バックアップロール2a,2bのロール軸方向の両端部において負荷されるので、ロールは、軸線方向に曲率を有し、一対のロールが互いに臨む方向に凹形状に撓みを生じる。したがって、ワークロール1a,1b間で圧延荷重を負荷されて圧延される鋼板3は、圧延方向に直交する幅方向の両端部付近が最も強く圧下されて良く伸びるので、幅方向の中央部付近とで伸び率に差が生じて、いわゆる耳波が発生する。
【0004】
近年、鋼板の用途も多様化し、各種の基板、電子機器素材としても用いられ、またフォトリソグラフィ加工なども行われるに及んで鋼板形状、特に平坦度の要求が厳しくなっている。このような状況下において、圧延加工された鋼板に耳波が存在すると、鋼板の幅方向中央部付近のみの素材利用に限定され、幅方向全体もしくは幅方向の端部付近までの効率的利用が妨げられる。圧延ロールには、軸方向中央部付近の径が、軸方向の両端部付近の径よりも大きくなるような、クラウンと呼ばれる形状が付与され、耳波の発生が抑制されるような構成が採られているけれども、厳しい平坦度の要求に対して充分に応えることができるものではない。
【0005】
したがって、鋼板の圧延に際し、その形状制御について種々の検討が行われている。圧延鋼板の形状制御についてたとえば多段式圧延機の場合について例示する。図9は、典型的な多段式圧延機5のロール構成を示す図である。図9の多段式圧延機5は、加工硬化が大きいたとえばステンレス鋼板などの圧延に用いられているセンジミアミルを示す。
【0006】
図9に示す多段式圧延機5は、20段の多段ロール構成を有する。すなわち、多段式圧延機5は、対向して配される一対のワークロール6a,6bと、各ワークロールの外側に配される2本ずつの第1中間ロール7a1,7a2(7b1,7b2)と、第1中間ロールの外側に配される3本ずつの第2中間ロール8a1,8a2,8a3(8b1,8b2,8b3)と、第2中間ロールのさらに外側に配される4本ずつのバックアップロール9A〜9Hとを含んで構成される、いわゆるセンジミアミルであり、ワークロール6a,6b間を通板される鋼板10を圧延する。
【0007】
図10は、多段式圧延機5に備わるワークロール6a,6bと第1中間ロール7a2,7b2を示す正面図である。多段式圧延機5における耳波を防止する1つの形状制御として、第1中間ロール7に片テーパ部11a,11bを形成することが提案される。第1中間ロール7の片テーパ部11a,11bは、ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるように形成される。ここで、各ロールおよびテーパ部を総称する場合には添字を省いて表記する。
【0008】
第1中間ロール7aと、もう一方側の第1中間ロール7bとは、形成される片テーパ部11a,11b同士が幅方向の互いに反対側に位置するように多段式圧延機5に装着される。多段式圧延機5において、バックアップロール9に圧延荷重を負荷するとき、第1中間ロール7に片テーパ部11を形成しておくことによって、ワークロール6の撓みが、特に幅方向端部付近の撓みが軽減され、鋼板10の幅方向端部の耳波が抑制される。
【0009】
しかしながら、第1中間ロール7にテーパ部11を形成することによって、圧延された鋼板10のテーパが形成されている部分に対応する領域では、耳波が軽減されるけれども、幅方向端部に代わって、第1中間ロール7の真直部分が終了しテーパがまさに形成され始める部位12a,12bにおいて、幅方向中央部分との圧延荷重分布の差により、周辺領域よりも伸びが大きくなる現象が発生する。ここでは、ロールの真直部分が終了しテーパがまさに形成され始める部位をテーパ肩部と呼ぶ。また、テーパ肩部に対応する部分の圧延鋼板に発生する大きな伸びを、鋼板の幅方向端部からおおよそ鋼板幅の1/4(クオータ)程度の位置に発生することから、クオータバックルと呼ぶことがある。
【0010】
図11はクオータバックルを急峻度にて例示する図であり、図12はクオータバックルの形状を示す模式図である。図11、図12は、第1中間ロールにテーパ部を形成した多段式圧延機を用い、幅:1255mmのオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304を、厚さ0.60mmから0.50mmに冷間圧延した場合の急峻度を例示する。SUS304鋼板の幅方向端部からほぼ150mm付近に、伸びの大きいクオータバックル13が形成されることが判る。
【0011】
クオータバックルは、鋼板形状に関する品質上の問題にとどまらず、冷間圧延工程以降の鋼板製造工程における焼鈍酸洗、光輝焼鈍などにおいて、装置内を通板する際、通板性を悪化させ、また装置内部材との摺擦によってかき疵が発生するなどの問題があり、改善が望まれている。
【0012】
このようなクオータバックルの発生を防止する形状制御技術が種々提案されている。その1つに、多段式圧延機のバックアップロールのシャフトにスリットを形成し、バックアップロールによる圧延荷重を軸線方向で分割して負荷することを可能にし、軸線(幅)方向におけるクラウンの制御量を調整できるようにするFlexible Shaft Backing Assemblies(FSBA)がある(非特許文献1参照)。しかしながら、FSBAは、圧延機の構成が極めて複雑になり、圧延荷重の負荷制御も複雑になるので、実操業に対する使用を考慮すると好適なものとは言い難い。
【0013】
そこで、クオータバックルの形状制御に係るもう一つの従来技術では、たとえばテーパ部が形成される第1中間ロールにおいて、ロール軸線方向におけるテーパ部の反対側に、ロールの真直部分の径よりも径が小さくなる部分(軸線を含む断面形状では、凹所が形成されるように見えるので、この部分を以後コンケーブと呼ぶ)を形成したコンケーブロールとすることが提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。すなわち、コンケーブロールは、たとえば対を成す第1中間ロール同士では、一方の第1中間ロールのテーパ肩部と、他方の中間ロールのコンケーブとが互いに対応する位置になるように形成される。
【0014】
図13は、多段式圧延機の第1中間ロールにコンケーブを形成しコンケーブロールとした構成を示す図である。図13に示す多段式圧延機のロール構成では、対を成す第1中間ロール15a,15bに、それぞれテーパ部11a,11bとコンケーブ16a,16bとが形成される。多段式圧延機に第1中間ロール15a,15bが装着された状態では、一方の第1中間ロール15aのテーパ肩部12aと、他方の第1中間ロール15bのコンケーブ16bとが、軸線方向においてほぼ対応する位置に配置され、他方の第1中間ロール15bのテーパ肩部12bと、一方の第1中間ロール15aのコンケーブ16aとが、軸線方向においてほぼ対応する位置に配置される。対を成す第1中間ロール15a,15bにおいて、互いにテーパ肩部12a,12bと、コンケーブ16b,16aとを対応させるように配置して、鋼板10を圧延することによって、テーパ肩部12a,12bにおける圧延荷重の集中を緩和し、クオータバックルを軽減することができる。
【0015】
しかしながら、圧延される鋼板10は、板幅が常に一定ではなく、種々の板幅のものがあるので、圧延される板幅に応じて、耳波を軽減するために第1中間ロール15a,15bは、軸線方向の配置が変えられる。その結果、対を成す第1中間ロール15a,15bにおける互いのテーパ肩部12a,12bとコンケーブ16b,16aとの軸線方向の位置が対応しなくなり、クオータバックルの抑制効果を発揮できなくなるという問題がある。多種多様の板幅の鋼板に対応するようにテーパ部とコンケーブとが形成された第1中間ロールを予め準備しておくことはできるけれども、ロールコストの増大、また鋼板の板幅が変わるごとに、第1中間ロールを所定の組合わせのものに交換すると作業効率を極めて悪化させるという問題がある。
【0016】
【非特許文献1】ジョン・ダブル・ターレイ(John W.Turley)、エーアイエスイースティールテクノロジィ(AISE Steel Technology)、米国(USA)、ジアソシエイションフォーアイアンアンドスティールテクノロジィ(The Association for Iron & Steel technology)、1999年3月、第76巻第3号、p35
【特許文献1】特公平7−63737号公報
【特許文献2】特公平7−96123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、簡単な構成で、種々の板幅の鋼板にも対応して、良好な形状に圧延することができる圧延ロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成され、テーパ部以外のロールの真直部に、ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きくなるように形成される伸径部を有することを特徴とする圧延ロールである。
【0019】
また本発明は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、中間ロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成されるワークロールであることを特徴とする圧延ロールである。
【0020】
また本発明は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、ワークロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成される中間ロールであることを特徴とする圧延ロールである。
【0021】
また本発明は、真直部の径よりも径が大きい伸径部がロール軸線方向に形成される長さである伸径幅WLは、
ロール長さをLrとし、
テーパ部が多段式圧延機の最も中央寄りに位置するように配置するときの多段式圧延機の中央からテーパ部が形成される一端部の反対側である他端部までの長さをL0とし、
テーパ部の長さをLtとするとき、
以下の式を満足することを特徴とする。
100mm≦WL≦(Lr−L0−Lt)×2mm
【0022】
また本発明は、ロールの伸径部の径と、ロールの真直部の径との差が、5μm〜40μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧延ロールは、ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成され、テーパ部以外のロールの真直部に、ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きくなるように形成される伸径部を有する。このことによって、伸径部が形成される部分の圧延荷重が増大し、伸径部が形成される部分とテーパ肩部との圧延荷重差が軽減されるので、伸径部が形成される部分とテーパ肩部とにおける圧延鋼板の伸びが均一化され、クオータ部のみが突出して伸びることがなくなり圧延形状が改善される。また、圧延される鋼板の幅が変化することに伴い、圧延ロールが軸線方向にシフトされて配置が変化する場合であっても、伸径部が形成される部分とテーパ肩部とにおける圧延荷重差が軽減された状態が維持されるので、圧延形状の改善を同じように発揮することができる。
【0024】
また本発明によれば、中間ロールにテーパ部が形成されるときには、ワークロールに伸径部が形成され、ワークロールにテーパ部が形成されるときには、中間ロールに伸径部が形成されるので、上記の本発明による効果と同様の効果を奏することができる。
【0025】
また本発明によれば、テーパ部と伸径部とを有する圧延ロールにおける伸径部の形成位置が、好適範囲に定められるので、テーパ肩部による伸びと伸径部による伸びとが、幅方向においてバランスの良い位置に形成され、幅方向全体として良好な形状の圧延鋼板を得ることができる。
【0026】
また本発明によれば、ロールの伸径部の径とロールの真直部の径との差が好適範囲に設定されるので、テーパ肩部による伸びと伸径部による伸びとが拮抗し、良好な形状の圧延鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の実施の第1形態である圧延ロール21の構成を示す正面図である。圧延ロール21は、少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成されるたとえば前述の図9に示すような多段式圧延機に用いられる。
【0028】
本実施の形態の圧延ロール21は、多段式圧延機に備わる第1中間ロールが当該圧延ロール21である場合についての事例である。なお、図9に示すように第1中間ロール21は、圧延される鋼板25に関して線対称の位置に2対が設けられるけれども、図1では図を簡略化して1対のみを図示する。また対で設けられるロールについては、鋼板25に関して一方の側を表すとき参照符の後にアルファベットaを付し、他方の側を表すとき参照符の後にアルファベットbを付して表し、総称する場合には参照符のみで表す。
【0029】
本発明の圧延ロールである第1中間ロール21a,21bは、第1中間ロール21a,21bの軸線方向のそれぞれ一端部27a,27b側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部22a,22bが形成され、テーパ部22a,22b以外のロールの真直部23a,23bに、ロールの半径方向に突出し、真直部23a,23bの径Dsよりも径Dcが大きくなる(Dc>Ds)ように形成される伸径部24a,24bを有する。
【0030】
ここでは、伸径部が、ロール軸線を含む断面形状では凸状部を形成するので、凸状の伸径部をコンベックスと呼び、伸径部が形成されたロールをコンベックスロールと呼ぶことがある。
【0031】
第1中間ロール21a,21bの内側には、1対のワークロール26a,26bが設けられ、1対のワークロール26a,26b間に鋼板25が通板され、バックアップロールを介して負荷される圧延荷重によって、鋼板25が所定の厚さの鋼板に圧延される。
【0032】
図2は、第1中間ロール21の構成を示す正面図である。なお、図2では、2つの第1中間ロール21a,21bの上下位置が、図1に示す位置と反対に図示される。図2を参照し、コンベックスロールである第1中間ロール21の伸径部24の寸法について説明する。
【0033】
伸径部24が第1中間ロール21の軸線方向に形成される長さである伸径幅WLは、第1中間ロール21の長さをLrとし、テーパ部22が多段式圧延機の最も中央寄りに位置するように配置するときの多段式圧延機の中央31からテーパ部22が形成される一端部27の反対側である他端部28までの長さをL0とし、テーパ部22の長さをLtとするとき、式(1)を満足するように形成される。
100mm≦WL≦(Lr−L0−Lt)×2mm …(1)
【0034】
伸径部の長さWLが、100mm未満では、鋼板25の幅方向において、伸径部24による鋼板25の中央部分の伸びと、テーパ肩部29による鋼板25のクオータバックルとの間に伸びの小さい領域の形成されるおそれがあり、形状制御の効果を充分に発揮することができない。
【0035】
一方、伸径部の長さWLが、(Lr−L0−Lt)×2mmを超えると、伸径部24がテーパ部22の形成領域まで及ぶようになり、テーパ部22を形成することによる耳波の抑制効果を阻害する。図2では、伸径部24の長さWLの最大値である(Lr−L0−Lt)×2mmとなるように形成された状態を示す。
【0036】
また、第1中間ロール21の伸径部24の径Dcは、その径Dcと、第1中間ロール21の真直部23の径Dsとの差である伸径量ΔD(=Dc−Ds)が、5μm〜40μmになるように形成されることが好ましく、20〜30μmになるように形成されることがより好ましい。
【0037】
図3は、伸径量ΔDが鋼板幅方向の伸び率差に及ぼす影響を示す図である。図3は、伸径部が形成されない第1中間ロールと、伸径部が形成され、該伸径量ΔDが5〜50μmの範囲にそれぞれ形成された第1中間ロールとを用い、厚さ:0.60mm、幅:1255mmのオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304を、圧延荷重:440トンで冷間圧延した場合の結果を示す。
【0038】
ここで伸び率差(I−unit)は、以下のように定義される。図4は、伸び率差(I−unit)を説明する図である。圧延される鋼板を任意の位置で幅方向に複数条に分割し、各条ごとの伸びを測定したとき、最も伸びの小さい条の長さを基準長さl0とし、最も伸びの大きい条と基準長さl0との伸びの差をΔlとすると、伸び率εは、Δl/l0で表され、伸び率差(I−unit)は、ε×105で表される。単位伸び率差である1I−unitは、基準長さl0=1m(=1000mm)に対して伸びの差Δlが10μ(0.01mm)である式(2)で与えられる。
1I−unit=0.01mm/1000mm …(2)
【0039】
図3に戻って、テーパ部のみが形成され伸径部が形成されていない第1中間ロールを用いた場合、鋼板の幅方向中央部と、クオータ部(テーパ肩部に該当)との伸び率差が、24I−unit存在する。第1中間ロールに伸径量ΔDが5μm以上の伸径部を形成することによって、鋼板の幅方向中央部とクオータ部との伸び率差が減少し、特に伸径量ΔDが20〜30μmの場合、顕著に伸び率差が小さくなる。しかしながら、伸径量ΔDを40μmを超える50μmとするとき、鋼板の幅方向中央部とクオータ部との伸び率差が、伸径部を形成しないときよりも拡大する傾向を示す。以上のことから、好ましい伸径量ΔDを、5〜40μmとした。
【0040】
上記のように構成されるコンベックスロールである第1中間ロール21を用いて鋼板25を圧延することによって、伸径部24が形成される部分の圧延荷重が増大し、伸径部24が形成される部分とテーパ肩部29との圧延荷重差が軽減されるので、伸径部24が形成される部分とテーパ肩部29とにおける圧延鋼板の伸びが均一化され、クオータ部のみが突出して伸びることがなくなり圧延形状が改善される。また、圧延される鋼板25の幅が変化することに伴い、第1中間ロール21が軸線方向にシフトされて配置が変化する場合であっても、伸径部24が形成される部分とテーパ肩部29とにおける圧延荷重差が軽減された状態が維持されるので、圧延形状の改善を同じように発揮することができる。
【0041】
図5は、本発明の実施の第2形態である圧延ロール35の構成を示す正面図である。本実施形態の圧延ロール35は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、中間ロールのうち第1中間ロール36には軸線方向の一端部37側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部38が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられ、ロールの半径方向に突出し、真直部39の径Dsよりも径Dcが大きい(Dc/Ds)伸径部40が形成されるワークロール35である。
【0042】
テーパ部38が一端部37側に形成される片テーパの第1中間ロール36に、本発明の伸径部40が形成されるワークロール35を組合せたロール構成とし、多段式圧延機にて鋼板25を圧延することによって、実施の第1形態の圧延ロール21による効果と同様の効果を奏することができる。
【0043】
図6は、本発明の実施の第3形態である圧延ロール41の構成を示す正面図である。本実施形態の圧延ロール41は、少なくともワークロールと中間ロールとを備え、ワークロール42には軸線方向の一端部43側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部44が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられ、ロールの半径方向に突出し、真直部45の径Dsよりも径Dcが大きい(Dc/Ds)伸径部46が形成される第1中間ロール46である。
【0044】
テーパ部44が一端部43側に形成される片テーパのワークロール42に、本発明の伸径部46が形成される第1中間ロール41を組合せたロール構成とし、多段式圧延機にて鋼板25を圧延することによって、実施の第1形態の圧延ロール21による効果と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0045】
図9に示す20段のセンジミアミルの第1中間ロールとして、本発明の実施例である伸径部(コンベックス)と一端部側にテーパ部が形成された図1に示すコンベックスロール21と、比較例1のテーパ部が一端部側にのみ形成されているだけの前述の図10に示す片テーパロール7と、比較例2のテーパ部が一端部側に形成されるとともにコンケーブも形成された図13に示すコンケーブロール15とをそれぞれ用いて、鋼板を圧延する際の鋼板幅方向の位置と伸び率差(I−unit)との関係を、ロールの変形モデル式に基づくシミュレーションにて求めた。
【0046】
センジミアミルの基本シミュレーション条件を表1に示す。実施例のコンベックスロールのプロフィールを表2に、比較例1の片テーパロールのプロフィールを表3に、比較例2のコンケーブロールのプロフィールを表4に示す。また シミュレーションにおける圧延対象鋼板を表5に示す。
【0047】
なお、ロールの変形シミュレーションには、相沢らにより提案されている(第52回&第53回塑性加工連合講演回会講演論文集、日本塑性加工学会、2001年、p307−310&2002年、p125−126)モデル式を用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
図7は、鋼板幅方向の位置と伸び率差(I−unit)との関係のシミュレーション結果を示す図である。図7中、ライン51で実施例のコンベックスロール使用時の結果を示し、ライン52で比較例1の片テーパロール使用時の結果を示し、ライン53で比較例2のコンケーブロール使用時の結果を示す。
【0054】
比較例1の片テーパロールでは、鋼板幅方向中央部とクオータ部との伸び率差が、ほぼ30I−unitに及び、顕著なクオータバックルが生じている。比較例2のコンケーブロールでは、片テーパロールに比べて鋼板幅方向における伸び率差の変動が抑制されているけれども、10I−unitを超える伸び率差が存在する。一方実施例のコンベックスロールでは、鋼板の幅方向全体にわたって伸び率差が、10I−unit以内であり、鋼板幅方向にわたって、局部伸びが抑制されてほぼ均一な伸びになることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の第1形態である圧延ロール21の構成を示す正面図である。
【図2】第1中間ロール21の構成を示す正面図である。
【図3】伸径量ΔDが鋼板幅方向の伸び率差に及ぼす影響を示す図である。
【図4】伸び率差(I−unit)を説明する図である。
【図5】本発明の実施の第2形態である圧延ロール35の構成を示す正面図である。
【図6】本発明の実施の第3形態である圧延ロール41の構成を示す正面図である。
【図7】鋼板幅方向の位置と伸び率差(I−unit)との関係のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】ワークロールとバックアップロールとによる圧延加工の概要を示す図である。
【図9】典型的な多段式圧延機5のロール構成を示す図である。
【図10】多段式圧延機5に備わるワークロール6a,6bと第1中間ロール7a2,7b2を示す正面図である。
【図11】クオータバックルをデータにて例示する図である。
【図12】クオータバックルの形状を示す模式図である。
【図13】多段式圧延機の第1中間ロールにコンケーブを形成しコンケーブロールとした構成を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
21,36,41 第1中間ロール
22,38,44 テーパ部
23,39,45 真直部
24,40,46 伸径部
25 鋼板
26,35,42 ワークロール
27,37,43 一端部
28 他端部
29 テーパ肩部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成され、テーパ部以外のロールの真直部に、ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きくなるように形成される伸径部を有することを特徴とする圧延ロール。
【請求項2】
少なくともワークロールと中間ロールとを備え、中間ロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成されるワークロールであることを特徴とする圧延ロール。
【請求項3】
少なくともワークロールと中間ロールとを備え、ワークロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成される中間ロールであることを特徴とする圧延ロール。
【請求項4】
真直部の径よりも径が大きい伸径部がロール軸線方向に形成される長さである伸径幅WLは、
ロール長さをLrとし、
テーパ部が多段式圧延機の最も中央寄りに位置するように配置するときの多段式圧延機の中央からテーパ部が形成される一端部の反対側である他端部までの長さをL0とし、
テーパ部の長さをLtとするとき、
以下の式を満足することを特徴とする請求項1記載の圧延ロール。
100mm≦WL≦(Lr−L0−Lt)×2mm
【請求項5】
ロールの伸径部の径と、ロールの真直部の径との差が、5μm〜40μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の圧延ロール。
【請求項1】
少なくともワークロールと中間ロールとを含んで構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの軸線方向の一端部側に、端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成され、テーパ部以外のロールの真直部に、ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きくなるように形成される伸径部を有することを特徴とする圧延ロール。
【請求項2】
少なくともワークロールと中間ロールとを備え、中間ロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成されるワークロールであることを特徴とする圧延ロール。
【請求項3】
少なくともワークロールと中間ロールとを備え、ワークロールには軸線方向の一端部側に端部へ向うのに伴ってロール径が小さくなるテーパ部が形成されるように構成される多段式圧延機に用いられる圧延ロールであって、
ロールの半径方向に突出し、真直部の径よりも径が大きい伸径部が形成される中間ロールであることを特徴とする圧延ロール。
【請求項4】
真直部の径よりも径が大きい伸径部がロール軸線方向に形成される長さである伸径幅WLは、
ロール長さをLrとし、
テーパ部が多段式圧延機の最も中央寄りに位置するように配置するときの多段式圧延機の中央からテーパ部が形成される一端部の反対側である他端部までの長さをL0とし、
テーパ部の長さをLtとするとき、
以下の式を満足することを特徴とする請求項1記載の圧延ロール。
100mm≦WL≦(Lr−L0−Lt)×2mm
【請求項5】
ロールの伸径部の径と、ロールの真直部の径との差が、5μm〜40μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の圧延ロール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−272367(P2006−272367A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92018(P2005−92018)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
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