説明

圧延機でのキス圧延状態の判定方法

【課題】箔圧延を行っている圧延機でのキス圧延状態を確実に判定する方法を提供する。
【解決手段】本発明の圧延機でのキス圧延状態の判定方法は、圧延材Wを圧延するワークロール2を備えた圧延機1を用いて圧延を行っている際に、圧延材Wの圧延形状の差を圧延荷重の差で除した単位荷重変化当たりの形状変化Δεを算出すると共に、圧延材Wの板厚や材質による影響を考慮するための形状緩和係数αを求め、ワークロール2のたわみであるh・Δε/αを算出し、算出されたたわみh・Δε/αの分布曲線が、予め設定した曲線パターンとなる場合にキス圧延状態と判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箔圧延を行っている圧延機でのキス圧延状態の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、ステンレス、チタン、特殊鋼、銅などの圧延材を冷間圧延し箔材とする際には、ワークロールを支持するロール群が葡萄の房のように扇状に広がる「クラスタ型の多段圧延機(クラスタ圧延機)」が用いられることが一般的である。
クラスタ圧延機などを用いた箔材の圧延(箔圧延)などでは、圧延材とワークロールが接触する以外に、対向するワークロール間で接触が起こり高い圧延荷重が発生するという現象が起こる。この状態をキス圧延(ロールキス圧延)と呼ぶ。キス圧延状態では、板厚制御を行う場合の塑性定数や形状制御を行う場合の影響係数が変化することが知られている。このため、高精度な圧延制御を行うためには、キス圧延状態の有無により制御パラメータを変更する必要がある。ただし、キス圧延状態であるかどうかの判断は非常に難しい。
【0003】
そこで、圧延機がキス圧延状態にあるか否かを判定し、適切な制御を行う技術が開発されている。
例えば、特許文献1は、薄板材の圧延作業において、上下作業ロール間に作用する荷重の測定装置からの測定値、形状・クラウン制御装置の測定値、およびその他の圧延条件より、上下作業ロールが圧延材の存在する範囲の外側で接触しているかどうかを判定し、接触している場合は、その接触部に作用している荷重を演算し、上記荷重測定装置による測定値から、上下作業ロール間の接触荷重を分離し、圧延材と作業ロールの間に作用している荷重を演算算出する板圧延における圧延荷重分離演算装置を開示する。
【0004】
特許文献2は、圧下量を調整することにより圧延材の板厚を制御する制御手段を有する圧延機の自動板厚制御装置において、圧延機の出側板厚により検出された出側板厚偏差に基づいて圧延時ロールキス状態を検出するロールキス検出手段と、同ロールキス検出手段によりロールキス状態が検出されると自動的に張力設定値もしくは圧延速度設定値を変更して上記圧延材の板厚を制御する補助制御手段とが備えられた圧延機の自動板厚制御装置を開示する。
【0005】
特許文献3は、複数パスの冷間圧延により金属箔を製造するにあたり、軟質のワークロールを使用して第1パスからキスロール発生前パスまで圧延し、キスロール発生パスでは硬質のワークロールを用いて圧延し、最終パスあるいはさらに最終前パスでは軟質のワークロールを用いて圧延する方法において、硬質のワークロールを使用する場合は、キスロールする、しないの判定をし直し、その結果に応じて該パスの目標荷重を調整することを特徴とする金属箔の製造方法を開示する。
【0006】
特許文献4は、被加工材をワークロールを有するロール群で圧延する圧延機において、実測圧延荷重Pおよび実ロールキス荷重係数αと理論計算圧延荷重Pとの積を比較し、P≧α・Pとなったときロールキス状態と判断することを特徴とする圧延機のロールキス検出方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−273510号公報
【特許文献2】特開平11−333502号公報
【特許文献3】特開平2−192809号公報
【特許文献4】特開2003−25016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1には、理論計算によりキス圧延かどうかを判断するか、ワークロールベンディング力を変化させて圧延荷重を測定した結果からキス圧延かどうかを判断する方法が記されている。しかしながら、理論計算においては、圧延材の変形抵抗や摩擦係数の見積もりによって圧延荷重が変化するため、理論予測のみでは正確な判断は不可能であると思われる。また、ワークロールベンディング力を変化させた時の荷重変化を測定するのは有効な方法かもしれないが、全ての圧延機がワークロールベンディング機能を保有しているとは限らない。そのため、実際の現場で適用可能な技術とは言えず、ベンディング力を変化させると圧延形状も変化するため良好な平坦度を得るとの目的からは有効な手段となり得ない。
【0009】
特許文献2では、偏平変形の理論計算から圧延荷重によりキス圧延の判定を行うとされているが、理論計算のみでは高精度な圧延を行うことは困難であることは周知の通りである。理論計算で考察されている偏平変形からだけでは、ワークロールのたわみの影響が大きいため精度としては不十分である。
また、特許文献3では、板厚変化と荷重変化から求められる塑性定数は、キス圧延が始まると急変するので、この急変をもってキス圧延の判断を行うといった方法が用いられている。しかしながら、定常状態での荷重変化は少なく、微少な荷重変化に基づいて塑性定数を正確に求めることは困難である。また、加速・減速中に変化する荷重変化は摩擦係数の変化の影響があるため、キス圧延の影響と分離するのが難しい。すなわち、圧延荷重だけをもってキス圧延の判断を行うことは困難を伴うと思われる。
【0010】
特許文献4では、理論予測荷重と実績荷重の比がある値を超えると、キス圧延状態になったと判断する。この場合も、摩擦係数など理論予測値の精度が十分でないと、キス圧延状態を正確に判断することが出来ない。また、この文献では非圧延部分に金属箔や感圧紙などを挿入して判断することも述べられているが、連続操業である点を考えると実用的ではない。
【0011】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、箔圧延を行っている圧延機でのキス圧延状態を確実に判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため以下の技術的手段を講じた。
本発明の圧延機でのキス圧延状態の判定方法は、圧延材を圧延するワークロールを備えた圧延機を用いて箔材の圧延を行っている際に、前記圧延材の圧延形状の差を圧延荷重の差で除した単位荷重変化当たりの形状変化Δεを算出すると共に、次式で示される形状緩和係数αを求め、前記ワークロールのたわみ(∂F(x,P)/∂P)であるh・Δε/αを算出し、算出されたたわみh・Δε/αの分布曲線が、予め設定した曲線パターンとなる場合にキス圧延状態と判断することを特徴とする。
【0013】
【数1】

ただし、Dはワークロールの偏平変形量を表すバネ定数、Eは圧延材のヤング率、hは出側板厚である。
【0014】
また、本発明の圧延機でのキス圧延状態の判定方法は、圧延材を圧延するワークロールを備えた圧延機を用いて箔材の圧延を行っている際に、前記圧延材の圧延形状の差を圧延荷重の差で除した単位荷重変化当たりの形状変化Δεを算出すると共に、次式で示される形状緩和係数αを求め、前記ワークロールのたわみ(∂F(x,P)/∂P)であるh・Δε/αを算出し、算出されたたわみh・Δε/αが予め設定した閾値を基準とした所定の範囲にある場合に、キス圧延状態と判断することを特徴とする。
【0015】
【数2】

ただし、Dはワークロールの偏平変形量を表すバネ定数、Eは圧延材のヤング率、hは出側板厚である。
【0016】
ここで、圧延中の圧延荷重を計測すると共に圧延材の圧延形状を計測することで、前記圧延材の圧延形状の差及び圧延荷重の差を求めて、キス圧延状態と判断してもよい。
また、板厚制御系から算出される圧延荷重の制御量及び圧延形状を用い、キス圧延状態と判断してもよい。
【0017】
さらに、前記圧延荷重の計測及び圧延形状の計測を、圧延開始後の板加速中に行えばよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の圧延機でのキス圧延状態の判定方法によれば、箔圧延を行っている圧延機でのキス圧延状態を確実に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】箔材の圧延を行うクラスタ圧延機の概略図である。
【図2】キス圧延状態の判定を判断するためのワークロールのたわみ分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の圧延機でのキス圧延状態の判定方法が採用された圧延機の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る圧延機1は、上下一対のワークロール2、中間ロール3、バックアップロール4を複数本組み合わせることによって構成されたクラスタ圧延機1である。クラスタ圧延機1は、各ロールの配置が側面視で葡萄の房のようになっているものである。図例のクラスタ圧延機1は、上下一対のワークロール2の周りに4本の中間ロール3(上下に2本ずつ)が配置され、中間ロール3の周りに6本のバックアップロール4(上下に3本ずつ)が配置されている12段圧延機である。クラスタ圧延機1は、ステンレス、チタン、特殊鋼、銅などの圧延材Wを冷間圧延して箔材乃至は薄板材とするものであり、高精度の自動板厚制御(AGC)を行うことが要求される。なお、本発明が適用される圧延機1としては、12段以外のクラスタ圧延機(例えば20段圧延機)でもよいし、クラスタ圧延機1以外の圧延機であってもよい。
【0021】
クラスタ圧延機1には、ワークロール2間のロール隙間を変更する圧下装置5が設けられている。この圧下装置5は、図示は省略するが、バックアップロール4を支持する部材の背後に入り込むウエッジと、このウエッジを移動させる移動機構(例えば、油圧シリンダ)とから構成されている。ウェッジはくさび状に形成されていて、水平方向に移動させることによりバックアップロール4を押し上げ又は押し下げ方向に移動させる構成となっている。
【0022】
クラスタ圧延機1の入側(図1の左側)、出側(図1の右側)には、圧延材Wを巻き出す巻出リール6及び圧延された圧延材Wを巻き取る巻取リール7が備えられている。
さらに、クラスタ圧延機1の入側には、圧延材Wの板厚を計測する入側板厚計(図示せず)が設けられており、クラスタ圧延機1の出側にも、圧延材Wの板厚を計測する出側板厚計(図示せず)が設けられている。これらの入側板厚計及び出側板厚計は、非接触式の板厚計(例えば、X線板厚計など)で構成されている。なお、これらのリール6,7と板厚計は、逆方向に圧延する場合は、その機能が反対になる。
【0023】
クラスタ圧延機1の入側ないし出側には、圧延材Wの板形状(クラウン形状)を計測する形状計測装置8が備えられている。この形状計測装置8の計測結果から圧延材Wが耳波か中伸びかなどを知ることができる。形状計測装置8としては、「板形状検出装置(FI)/自動形状制御装置(AFC)、細川晴行,高橋俊充,上杉憲一,田中雅人、神戸製鋼技報/Vol. 59 No. 3(Dec. 2009),pp61-pp65」に開示された形状検出ローラを採用することが好ましい。
【0024】
さらに、クラスタ圧延機1には、上下のワークロール2のロール隙間を制御する板厚制御部9を有している。この板厚制御部9には、通常圧延時(非キス圧延時)に採用する板厚制御ロジックと、キス圧延時に採用する板厚制御ロジックの少なくとも2つが備えられている。キス圧延状態では、板厚制御を行う場合の塑性定数や形状制御を行う場合の影響係数が変化することが知られている。このため、高精度な圧延制御を行うためには、キス圧延状態の有無により制御パラメータの変更が必要である。それ故、通常圧延時の板厚制御ロジックと、キス圧延時の板厚制御ロジックを切り換えて用いる。どちらのロジックを採用して圧延材の板厚を制御するかについての選択は、キス判定部10の結果に基づく。
【0025】
キス判定部10は、圧延後の圧延材Wの形状を計測する形状計測装置8の結果と、圧延中に計測された圧延荷重の変動(荷重変動)とを基に、ワークロール2がキス状態にあるか否かを判定するものであり、後述する判定処理を行うものとなっている。
板厚制御部9やキス判定部10は、プロコンやシーケンサ、PLCなどで構成されている。
【0026】
以上の構成を有するクラスタ圧延機1は、圧延材Wをワークロール2間に通板することで圧延が行われている際に、キス判定部10でキス圧延状態か否かを判定し、その判定結果に基づいて、板厚制御部9が上下のワークロール2のロール隙間を制御することによって所望の厚みの圧延材Wを圧延できる構成とされている。
以降、キス判定部10において行われるキス圧延の判定方法について、詳しく説明する。
【0027】
従来のキス圧延を判断する技術は、圧延荷重として現われるキス圧延の効果を中心に考慮する理論予測が主であった。しかしながら、圧延荷重は摩擦係数や材料の変形抵抗などを始めとする圧延条件に依存するため、理論予測の精度を向上することは困難である。
この問題に対して、本願発明者らは種々の検討を行った。その結果、本願発明者らは、キス圧延が始まると、圧延材Wから作用する圧延力以外に非圧延部からキス圧延により働くキス荷重がワークロール2に加わってワークロール2のたわみ変形が変化し、圧延材Wの圧延形状が変化することを知見するに至った。
【0028】
圧延材Wの形状自身は、圧延機1に備えられた形状制御アクチュエータにより変化するため、ある瞬間での圧延形状を見ていてもキス圧延状態にあるか否かの判断はできない。しかしながら、圧延荷重の変化(荷重変化)に対する圧延材Wの形状変化に関しては、圧延荷重の増加によってワークロール2がたわむとともに、非圧延部からのキス荷重も増加するため、キス荷重の影響が顕著に表れる。
【0029】
圧延形状の形成メカニズムとして、板幅方向の板厚分布Δh(x)により、長手方向の伸び差率ε(x)は、ε(x)=Δh(x)/hで表される。なおここで、hは圧延機1の出側板厚である。Δh(x)は、ワークロール2の表面変位であるため、板幅方向の均一荷重Pと板幅方向の荷重分布ΔPにより、式(1)で表される。
【数3】

【0030】
なお、D(x,y)は、荷重分布ΔPによる偏平変形とロールたわみによるロール表面変位とへの影響係数であり、F(x,P)は、板幅方向の均一圧延荷重Pによって生じるワークロール2のたわみ変形である。D(x,y)について、このたわみ変形の影響が小さいとするとDは定数となり、鋼のワークロール2を用いると1/3226mm/kgfとなる。これにより、式(1)は式(2)で表される。
【数4】

【0031】
ここで、荷重偏差ΔP(x)は、式(3)に示すように板幅方向の板厚変化と張力分布から発生する。
【数5】

【0032】
このとき、張力分布Δσは、式(4)に示すように板幅方向の伸び差率εにより発生する。
【数6】

【0033】
従って、式(4)と式(3)から、荷重偏差ΔP(x)は式(5)で表される。
【数7】

【0034】
従って、Δhは、式(2)と式(5)から、式(6)のように表される。
【数8】

【0035】
また、ここで<Δh>は板幅方向の平均であるため、式(6)の両辺で板幅方向の平均をとると、式(7)となる。
【数9】

【0036】
従って、Δhは、式(8)で表される。
【数10】

【0037】
このとき、板厚偏差の基準点の取り方は任意であり、F(x,P)の原点の自由度も考えて、両者をワークロール2の幅方向の中央でゼロとすると、式(8)の分子の一項目をゼロとすることができる。このため、式(8)を式(9)として表すことができる。
【数11】

【0038】
なお、単位荷重当たりの形状変化は、式(10)で表現できる。
【数12】

【0039】
式(10)の(∂F(x,P)/∂P) は、単位荷重変化に対するワークロール2の長手方向のたわみ変化量である。このワークロール2のたわみ変化量を通常圧延状態(非キス圧延状態)とキス圧延状態で比較した結果を、図2に示す。
図2は、板厚が100μm、50μm、及び30μmであるそれぞれの場合での、ワークロール2の長手方向のたわみ変化量(∂F(x,P)/∂P)を表すグラフである。図2は、ワークロール2の中央から両端までの左右325mmにわたるたわみ変化量をグラフで表している。
【0040】
図2において、板厚100μmとして示される非キス圧延状態(通常圧延状態)では、ワークロール2の中央を頂点とした上に凸の放物線形状となっている。しかし、板厚50μmとして示されるように、ワークロール2が部分的に接触した部分キス圧延状態となると、上に凸の放物線形状ではあるが、板厚100μmの場合と比べると変化率の小さな放物線となる。
【0041】
次に、板厚30μmとして示されるキス圧延状態では、板幅中央を頂点とした下に凸の放物線形状(凹状の放物線)となっている。
このように、たわみ変化量の曲線パターン(分布曲線)は、非キス圧延状態及び部分キス圧延状態では上に凸の放物線パターンとなり、キス圧延状態では下に凸の放物線パターンとなる。このことに基づけば、上に凸の放物線パターンから下に凸の放物線パターンに変化したタイミングで、圧延がキス圧延状態で行われていると判断することができる。
【0042】
例えば、キス圧延状態での曲線パターンが下に凸の放物線パターンであるなど、キス圧延状態でのたわみ変化量の曲線パターンを圧延条件毎に予め把握しておけば、得られたたわみ変化量(∂F(x,P)/∂P)の曲線パターンが、予め把握しているキス圧延状態での曲線パターンとなったときに、圧延がキス圧延状態で行われていると判断することができる。この判断は、曲線パターンが単に上に凸であるか下に凸であるかで判断しても良いし、予め把握したキス圧延状態での曲線パターンとの一致度に基づいて判断してもよい。
【0043】
曲線パターンが上に凸及び下に凸となるように変化することを前提とすれば、以下に述べるようにキス圧延状態の判断を簡略に行うことができる。
まず、各放物線の幅方向325mmにおける値、又は幅方向−325mmにおける値を比較すると、非キス圧延状態からキス圧延状態にかけて、ワークロール2の端部におけるたわみ変化量の値が、−1.3程度から0.4程度にまで大幅に変化することが分かる。すなわち、ワークロール2の端部での値が、マイナス値であれば非キス圧延状態であり、プラス値であればキス圧延状態であると考えることもできる。
【0044】
なお、∂ε(x)/∂Pは実測の圧延形状と荷重変化から測定することが可能であり、 形状緩和係数αは理論計算により求めることも可能であるので、予め圧延条件に依存したテーブルとして保管しておき、必要に応じて呼び出すことも可能である。
これらの計算値と実測値から式(11)の右辺を計算することができるので、左辺の値(ワークロール2のたわみ量)を求めることが可能である。
【0045】
【数13】

【0046】
なお、式(11)に関して単位荷重変化当たりの形状変化をΔεで表すと、(∂F(x,P)/∂P)=h・Δε/αと書ける。
特に、キス圧延の影響が顕著に表れるワークロール2の端部に注目して、(∂F(x,P)/∂P)の値を式(11)から求めて、特に、キス圧延状態の開始時の数値を把握しておく。このキス圧延開始時の(∂F(x,P)/∂P)の値を管理値δとして用いれば、ワークロール2の端部の(∂F(x,P)/∂P)の値と管理値δとを比較することでキス圧延状態の開始を判断することができる。
【0047】
例えば、図2に示す曲線パターンにおいて、ワークロール2の端部の(∂F(x,P)/∂P)の値が管理値δ(例えば、管理値δ=0)を超えた範囲にあるとき、下に凸の曲線パターンとなるはずなのでキス圧延状態が開始したと判断することができる。いうまでもなく、ワークロール2の端部の(∂F(x,P)/∂P)の値が、管理値δ(例えば、0)を超えた範囲の値から管理値δ未満(例えば、−1.0)の範囲の値に変化したとき、上に凸の曲線パターンとなるはずなのでキス圧延状態が終了したと判断することができる。
【0048】
このように、予め設定した閾値としての管理値δを用いれば、ワークロール2の端部のたわみ変化量が管理値δを基準とした所定の範囲にある場合にキス圧延状態にあると判断することができるので、キス圧延状態の判断を簡素化することができる。
この方法は、結果的に圧延材Wの硬さや板厚などの圧延条件を考慮して、直接にロールたわみ量を推定する方法である。つまり、圧延荷重P及びロールたわみ量の変化の差をとる(微分する)ことによって圧延条件の違いによる外乱を差し引くことができるため、ロールたわみによる影響だけを抽出することができる。
【0049】
加えて、圧延材Wの板厚や材質による影響を考慮するための形状緩和係数αも導入しているので、例えば、板厚が薄い場合には形状変化が大きくなる、又は板厚が厚い場合には形状変化が小さくなるなどの圧延条件に依存することなくロールたわみ量を推定することができるため、管理値δも圧延条件に依存せず決定することが可能となる。
なお、本特許を適用するためには、圧延中に圧延荷重Pの変化が生じる必要がある。最も適用が簡単なのは、圧延速度が増加する加速中(板加速中)である。このとき、圧延速度の増加とともに摩擦係数が変化して圧延荷重Pが変化するため、このタイミングでの圧延荷重P及び形状変化を測定することにより、圧延開始直後にキス判定が可能となる。
【0050】
また、圧延初期は、自動板厚制御(AGC)などの板厚制御系(板厚制御モデル)によるロールギャップ制御あるいは張力制御などを用いて板厚制御がなされるが、このときも、圧延荷重Pの変動が生じるので、当該板厚制御系が算出した圧延荷重Pの制御量及び圧延形状を用いることで、本実施形態によるキス圧延状態の判定方法を採用することが可能である。
【0051】
以上述べた圧延機1でのキス圧延状態の判定方法を、実際に圧延機1で用いる際の手順を述べる。
まず、圧延開始前に、圧延荷重の理論モデルにより板厚変化に対する圧延荷重Pの変化および張力変化に対する圧延荷重Pの変化を計算する。この計算で得られた値から、圧延材Wの出側板厚hと材料のヤング率Eにより、上述した形状緩和係数αを求めておく。なお、この形状緩和係数αは、理論モデルを基にした計算で求めても良いが、実測値を基にした計算で求めた値をテーブルの形で保存して適宜呼び出すことも可能である。
【0052】
次に、圧延開始とともに圧延機1の出側の形状計測装置8により形状を計測すると同時に、このときの圧延荷重Pも計測する。このとき計測した圧延形状や採取した圧延荷重Pなどのデータを、一旦メモリー等の記憶装置に蓄える。次のサンプリングタイミングで、圧延形状の測定と圧延荷重Pの測定を行った後、前回のサンプルリングタイミングでのデータとの偏差を取り、ワークロール2のたわみ量(∂F(x,P)/∂P)を計算する。
【0053】
このときのワークロール2の端部における(∂F(x,P)/∂P)の値を、予め定めておいた管理値δと比較して、圧延状態がキス圧延状態となったか否かを判断する。
例えば図2において、管理値δを0とした場合、(∂F(x,P)/∂P)の値が管理値δ(=0)より小さい負の値の範囲であれば非キス圧延状態であり、管理値δ(=0)より大きい正の値の範囲であればキス圧延状態であると判断できる。なお、ワークロール2のたわみ(∂F(x,P)/∂P=h・Δε/α)の分布曲線が、予め設定した曲線パターンとなるか否かでキス圧延状態を判断してもよい。
【0054】
このとき測定した圧延形状と圧延荷重Pは、再度メモリー等の記憶装置に蓄えて、次のサンプリングタイムでの評価に反映させるとよい。
以上の処理により、箔圧延を行っている圧延機1でリアルタイムにキス圧延状態を判定することが可能となる。
上述の手順によって、キス判定部10が、現在の圧延をキス圧延状態にあると判定すれば、キス判定部10はその判断を板厚制御部9に通知する。その通知を受けた板厚制御部9は、板厚制御ロジックとしてキス圧延時のロジックを採用し、圧延材Wの板厚制御を実行する。
これとは反対に、キス判定部10が、現在の圧延を非キス圧延状態にあると判定すれば、キス判定部10はその判断を板厚制御部9に通知する。その通知を受けた板厚制御部9は、板厚制御ロジックとして非キス圧延時のロジックを採用し板厚制御を実行する。
【0055】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、圧延機の動作条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0056】
例えば、上記実施形態において、ワークロール2のたわみ変化量(∂F(x,P)/∂P)の曲線パターンは上に凸又は下に凸の放物線であったが、当該曲線パターンの形状は、図2に示すような2次関数で近似される単純な放物線形状とは限らない。3次以上の関数で近似される曲線パターンとなる場合も想定される。そのような場合であっても、少なくともキス圧延状態に対応する曲線パターンを、圧延条件ごとに予め用意しておく。その上で、得られた曲線パターンと予め用意した曲線パターンの一致度を求めることで、キス圧延状態であるか否かを判断することができる。また、非キス圧延状態に対応する曲線パターンも用意しておけば、非キス圧延状態であるか否かを判断することもできる。
【0057】
また、上述の実施形態では、板加速時におけるキス圧延の判定について説明したが、当該実施形態で説明した技術を板減速時にも採用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 クラスタ圧延機
2 ワークロール
3 中間ロール
4 バックアップロール
5 圧下装置
6 巻出リール
7 巻取リール
8 形状計測装置
9 板厚制御部
10 キス判定部
W 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を圧延するワークロールを備えた圧延機を用いて箔材の圧延を行っている際に、
前記圧延材の圧延形状の差を圧延荷重の差で除した単位荷重変化当たりの形状変化Δεを算出すると共に、次式で示される形状緩和係数αを求め、
前記ワークロールのたわみ(∂F(x,P)/∂P)であるh・Δε/αを算出し、
算出されたたわみh・Δε/αの分布曲線が、予め設定した曲線パターンとなる場合にキス圧延状態と判断することを特徴とする圧延機でのキス圧延状態の判定方法。
【数14】

ただし、Dはワークロールの偏平変形量を表すバネ定数、Eは圧延材のヤング率、hは出側板厚である。
【請求項2】
圧延材を圧延するワークロールを備えた圧延機を用いて箔材の圧延を行っている際に、
前記圧延材の圧延形状の差を圧延荷重の差で除した単位荷重変化当たりの形状変化Δεを算出すると共に、次式で示される形状緩和係数αを求め、
前記ワークロールのたわみ(∂F(x,P)/∂P)であるh・Δε/αを算出し、
算出されたたわみh・Δε/αが予め設定した閾値を基準とした所定の範囲にある場合に、キス圧延状態と判断することを特徴とする圧延機でのキス圧延状態の判定方法。
【数15】

ただし、Dはワークロールの偏平変形量を表すバネ定数、Eは圧延材のヤング率、hは出側板厚である。
【請求項3】
圧延中の圧延荷重を計測すると共に圧延材の圧延形状を計測することで、前記圧延材の圧延形状の差及び圧延荷重の差を求めて、キス圧延状態と判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧延機でのキス圧延状態の判定方法。
【請求項4】
板厚制御系から算出される圧延荷重の制御量及び圧延形状を用い、キス圧延状態と判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧延機でのキス圧延状態の判定方法。
【請求項5】
前記圧延荷重の計測及び圧延形状の計測を、圧延開始後の板加速中に行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の圧延機でのキス圧延状態の判定方法。

【図1】
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【図2】
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