説明

圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法及び圧延機

【課題】圧延機のレベリング操作でワークロールにダメージを与えない圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法及び圧延機を提供する。
【解決手段】上下ワークロール2、3と上下バックアップロール4、5とを備え、上下ワークロール2、3で連続する材料を圧延する圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法において、圧延開始時のロールギャップのゼロ点調整時の上下ワークロール2、3を締め込む前に、上下ワークロール2、3の両端部のロール縮径部21、31にスペーサー10を挿入してゼロ点を調整するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法に係り、特に、ワークロール同士の接触、もしくはワークロールと材料の接触でワークロールにダメージを与えることなくロールギャップゼロ点を設定する圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法及び圧延機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延材を所定の板厚に圧延する圧延機は、上下ワークロールとその上下ワークロールの反力を受けるバックアップロールで構成され、上下ワークロール間に圧延材を通板して圧延する。
【0003】
この圧延材を1コイル毎単独で圧延するバッチ式圧延機では、圧延ロール替え後の作業側(オペレータ側)と駆動側(ドライブ側)のワークロールのギャップゼロの調整(以下レベリングと称する)は、以下の要領で実施していた。
(1)ロール替え後、実圧延で使用する荷重まで上下ワークロールを締め込む。
(2)作業側と駆動側の荷重をほぼ同一に合わせる。
(3)このときの両側の圧下位置をそれぞれ基準値とする。
【0004】
この一連の操作の中で、(1)は圧延機の軸受内のクリアランス、軸受とロール軸間のクリアランス、圧延機全体の撓み等を実圧延状態とすることでレベリングの精度向上を図る重要な操作である。
【0005】
これらの操作後、圧延材を通板し、所定の板厚が確保できる圧下位置に調整して圧延を開始していた。また0.05mm以下程度の箔材の場合は、箔材を通板した後に、上記(1)〜(3)のレベリングを実施し、箔材の圧延を開始する方法も取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−94411号公報
【特許文献2】特開平4−327307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ワークロール同士が直接接触するロールキスの場合は、ワークロールの幅方向にダメージを受ける。寸法変化を伴うダメージの場合もあるが、多くはワークロール表面の光沢が変化し、ワークロールの幅方向に筋状の模様として確認される。また、上下ワークロール間に箔材を介してレベリングを実施する場合には、箔材の材質、質別によって、ワークロール幅方向に箔材が付着し、やはり筋状の模様として確認できる。このような筋模様がついたワークロールを使用した圧延材には、同様な筋模様が圧延材に転写される。圧延を数回繰り返して順次板厚を減少させていく途中の圧延では、このような筋模様も次の圧延で目立たなくなり大きな問題ではないが、最終圧延での筋模様が製品価値を損なうことになる。
【0008】
最終圧延での筋模様を避けるためには、ロールギャップゼロ点設定時に実施するワークロールの締め込み荷重を実際に使用する荷重の半分程度にする必要があるが、ゼロ点設定精度が悪く、所定荷重調整までの時間が必要なことと、製品化できない圧延材が発生した。所謂歩留まりの悪化原因となった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、圧延機のレベリング操作でワークロールにダメージを与えない圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法及び圧延機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、上下ワークロールと上下バックアップロールとを備え、上下ワークロールで連続する材料を圧延する圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法において、圧延開始時のロールギャップのゼロ点調整時の上下ワークロールを締め込む前に、上下ワークロールの両端部にスペーサーを挿入してゼロ点を調整することを特徴とする圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法である。
【0011】
請求項2の発明は、上下ワークロールの両端部に、ワークロールの外径より縮径したロール縮径部を形成し、そのロール縮径部にスペーサーを挿入してゼロ点を調整する請求項1記載の圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法である。
【0012】
請求項3の発明は、スペーサーの厚さは、上下ワークロールに対するロール縮径部の段差の2倍より厚く形成される請求項2記載の圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法である。
【0013】
請求項4の発明は、上下ワークロールと上下バックアップロールとを備え、上下ワークロールで連続する材料を圧延すべく、圧延開始時に上下ワークロールを締め込んでそのロールギャップのゼロ点を設定するための圧延機において、ゼロ点設定のスペーサーを挿入すべく、上下ワークロールの両端部に、ワークロールの外径より縮径したロール縮径部を形成したことを特徴とする圧延機である。
【0014】
請求項5の発明は、上下ワークロールに対するロール縮径部の段差の2倍は、前記スペーサーの厚さより小さく形成される請求項4記載の圧延機である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、圧延機のロールギャップのゼロ点設定において、上下ワークロールの両端部で材料の圧延に寄与しない部分の外径を縮径し、その部分にスペーサーを挿入することで上下ワークロールを締め込んだ場合でも材料を圧延する部分のワークロールがキスしないことで、ワークロールにダメージを与えないでゼロ点設定が行えるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の圧延機のロールギャップゼロ点設定方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1は本発明の圧延機のロールギャップゼロ点設定方法を示したものである。
【0019】
図1において、圧延機は、圧延材1を挟んで圧延する上ワークロール2および下ワークロール3と、上ワークロール2の反力を受ける上バックアップロール4と、下ワークロール3の反力を受ける下バックアップロール5とからなる。上下ワークロール2、3の両端の軸22、32は、それぞれ軸受箱23o、23d、33o、33dで支持され、上下バックアップロール4、5の両端の軸42、52は、それぞれ軸受箱43o、43d、53o、53dで支持される。
【0020】
これら軸受箱23o、23d、33o、33d、43o、43d、53o、53dは、ハウジング11に上下移動可能に支持される。下バックアップロール5のオペレータ側(操作側)の軸受箱53oは、オペレータ側油圧シリンダー6で上下動され、下バックアップロール5のドライブ側(駆動側)の軸受箱53dは、ドライブ側油圧シリンダー7で上下動され、オペレータ側油圧シリンダー6とドライブ側油圧シリンダー7の伸長駆動で、各ロール2、3、4、5間を締め込むようにされる。また、上バックアップロール4のオペレータ側の軸受箱43oは、オペレータ側ロードセル8を介してハウジング11に支持され、上バックアップロール4のドライブ側の軸受箱43dは、ドライブ側ロードセル9を介してハウジング11に支持され、オペレータ側油圧シリンダー6とドライブ側油圧シリンダー7の締め込み力が、オペレータ側ロードセル8とドライブ側ロードセル9で検出されるようになっている。
【0021】
次に、図1の圧延機でのロールギャップゼロ点設定方法を説明する。
【0022】
上ワークロール2と下ワークロール3の両側には、ロール縮径部21,31が形成される。ロール縮径部21、31は圧延材1が通過するワークロール2、3の外径より小さく加工されており、スペーサー10を挿入することで上下ワークロール2、3を締め込んでも圧延材1と上下ワークロールが接触しない空間を確保できる。
【0023】
ロールギャップゼロ点を設定する際に、両側のロール縮径部21,31間に、スペーサー10を挿入し、上下ワークロール2、3を、オペレータ側油圧シリンダー6とドライブ側油圧シリンダー7で、オペレータ側ロードセル8とドライブ側ロードセル9の検出値を基にゼロ点調整圧まで締め込んだときのワークロール2、3の位置を暫定のロールギャップゼロ点とする。
【0024】
次にオペレータ側油圧シリンダー6とドライブ側油圧シリンダー7を縮退して上下ワークロール2、3を開放し、スペーサー10を外す。これにより、真のロールギャップゼロ点は、スペーサー10とロール縮径部21、31の寸法から決まる。
【0025】
その後は、上下ワークロール2、3をゼロ点調整圧まで締め込んで、圧延材1の圧延を開始し、最終板厚となる荷重まで必要荷重を順次増加させて圧延を行う。
【0026】
このように本発明は、圧延機のロールギャップのゼロ点設定において、ワークロールの締め込みが実際に使用する圧延荷重まで付加できることによって、ロールギャップのゼロ点設定精度を向上することができる。これにより、ロール組み替え後における圧延初期の製品寸法、板形状の向上が図られ、歩留まり向上に寄与できる。
【実施例】
【0027】
次に本発明のロールギャップゼロ点設定の具体的な実施例を説明する。
【0028】
最終板厚0.03mmで板幅が610mmの銅箔を製造するために、投入材の厚さが0.05mmの時にレベリングを実施した。ワークロール2、3の有効幅は800mmである。
【0029】
ワークロール2、3の外径は120.00mmであり、ロール縮径部21、31の外径は119.60mm、幅は50mmである。また、バックアップロール4、5は、ロール幅方向中央部外径が両端部外径より0.1mm大きくなっており、所謂0.1mmのクラウンがついている。
【0030】
先ず、圧延材1としての0.05mm厚さの銅箔をワークロール2、3に通板する。その後、厚さ1.00mmで幅が50mmのスペーサー10をワークロール2、3の縮径部21、31へ設置する。この寸法の場合に上下ワークロール2、3を軽く締め込みスペーサー10同士が接触した場合の圧延材が通過する部分の上下ワークロール2、3の空間サイズは、1−{(120−119.6)÷2}×2=0.6mmとなる。
【0031】
空間サイズ0.6mmにはバックアップロール4、5のクラウン量0.1mmによるワークロール2、3の撓みは考慮されていないが、0.05mmの銅箔とワークロールが接触しない空間を確保できるサイズとなっている。銅箔を0.05mmから0.03mmまで圧延する時に付加する圧延荷重80kNでワークロール2、3同士を締め込み、作業側と駆動側の荷重差を概略ゼロとする。この時の両側の圧下位置を暫定ゼロ点とする。
【0032】
次に、上下ワークロール2、3を開きスペーサー10を外す。次にワークロール2、3を締め込む時の真のロールギャップゼロ点は、暫定ゼロ点から上記空間サイズ0.6mmを減じた位置となる。すでに0.05mmの銅箔が設置されているため銅箔の影響も考慮して必要荷重を順次増加させながら圧延を開始し、最終的には800kNまでかけ微調整で連続圧延とする。
【0033】
このように本発明は、ワークロール2、3の締め込みでワークロール表面に発生したキス模様が圧延材に転写しないことで製品の品質を向上することができる。
【0034】
しかし、実際にはワークロールの締め込み圧下荷重を実使用荷重の半分に下げることでワークロールのキス模様を低減することでも対処可能である。
【0035】
従って本発明の効果を確認するためには、ロールギャップゼロ点設定の精度向上により、圧延初期の板厚寸法、板形状の不具合を低減することによる製品歩留まりの向上を確認する必要がある。
【0036】
そこで、上述したように銅箔を0.05mmから0.03mmまで圧延する時の圧延初期に発生する板厚精度、板形状が目標交差内からはずれている部分の長さ(オフゲージ長さと称する)を調査し、表1の結果を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
表1は、ワークロール2、3を80kNで締め込んでロールギャップのゼロ点設定した本発明の方法と、ワークロール2、3の締め込み圧下荷重を実使用荷重(80kN)の半分の40kNに下げてロールギャップのゼロ点設定した従来の方法の調査結果を示したものである。
【0039】
表1より、本発明のゼロ点設定方法で圧延したときの圧延初期のオフケージ長さは、従来の半分以下、さらには1/3以下とすることが確認できた。
【0040】
次に、本発明のロール縮径部21、31とスペーサー10について説明する。
【0041】
ワークロールの材料圧延部は、圧延頻度によって、ロール表面が圧延中の異物等により損傷を受けるため、定期的なロール表面の研削が必要であり、必然的にワークロール外径は減少する。そのため、ワークロール2、3の材料圧延部とロール縮径部21、31との外径差を一定に保つためには、2工程のワークロール外径研削が必要となる。この煩雑さを避けるためには、先の実施例で示した外径120mmのワークロールに対して縮径部を119mmと外径差を大きく取り、スペーサー厚さ2.2mmを準備する。
【0042】
この時の上下ワークロール空間サイズは、2.2−{(120−119)÷2}×2=1.2mmとなり、真のロールギャップゼロ点は暫定ゼロ点から1.2mm減じることになる。
【0043】
次にワークロール外径を119.9mmに研削した時に縮径部119mmは研削しない。その場合の上下のワークロールの空間サイズは、2.2−{(119.9−119)÷2}×2=1.3mmとなり、真のロールギャップゼロ点は暫定ゼロ点から1.3mm減じればよいことになる。
【0044】
このように暫定ゼロ点からの減じる値を変更するだけで、ワークロールの研削は1工程ですむことになる。
【0045】
上記のスペーサーの厚さ2.2mm、ワークロール段差(120−119)÷2=0.5mmの寸法は、スペーサーの挿入を自動化するためにも好都合である。2.2mmの鋼材であれば上下ワークロール2、3間に挿入するスペーサー10として自動化を妨げるような撓みもない。さらにワークロール2、3の端部に設けた0.5mmの段差はスペーサーのトップ部としての機能を果たすにも十分な寸法である。自動化のために必要な寸法の自由度の大きいことも本発明の特徴である。
【0046】
ワークロール表面にミクロンオーダーの微細加工を施し、圧延材にその微細構造を転写する場合、従来の圧延機でのロールギャップのゼロ点設定方法ではワークロールの表面の微細構造がmmオーダーの幅で破損され、その破損部分がワークロールのピッチで圧延機に転写されることになると、製品化は難しくなる。本発明により、微細表面加工の圧延方式に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 圧延材
2 上ワークロール
3 下ワークロール
4 上バックアップロール
5 下バックアップロール
10 スペーサー
21、31 ロール縮径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下ワークロールと上下バックアップロールとを備え、上下ワークロールで連続する材料を圧延する圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法において、圧延開始時のロールギャップのゼロ点調整時の上下ワークロールを締め込む前に、上下ワークロールの両端部にスペーサーを挿入してゼロ点を調整することを特徴とする圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法。
【請求項2】
上下ワークロールの両端部に、ワークロールの外径より縮径したロール縮径部を形成し、そのロール縮径部にスペーサーを挿入してゼロ点を調整する請求項1記載の圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法。
【請求項3】
スペーサーの厚さは、上下ワークロールに対するロール縮径部の段差の2倍より厚く形成される請求項2記載の圧延機のロールギャップのゼロ点設定方法。
【請求項4】
上下ワークロールと上下バックアップロールとを備え、上下ワークロールで連続する材料を圧延すべく、圧延開始時に上下ワークロールを締め込んでそのロールギャップのゼロ点を設定するための圧延機において、ゼロ点設定のスペーサーを挿入すべく、上下ワークロールの両端部に、ワークロールの外径より縮径したロール縮径部を形成したことを特徴とする圧延機。
【請求項5】
上下ワークロールに対するロール縮径部の段差の2倍は、前記スペーサーの厚さより小さく形成される請求項4記載の圧延機。

【図1】
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