説明

圧延機及びそれを備えたタンデム圧延機

【課題】硬質材及び薄板材圧延のため、より小径の作業ロールを使用可能とし、高い生産性や高い製品品質の帯板を得ることができる圧延機及びそれを備えたタンデム圧延機を提供する。
【解決手段】帯板1を圧延する上下1対の作業ロール2と、この上下1対の作業ロール2を支持する各々上下1対の中間ロール3と、この上下1対の中間ロール3を支持する各々上下1対の補強ロール4から成り、前記作業ロールの圧延可能な板幅内,外に支持ロールを有しない6段式の圧延機において、前記作業ロールは小径で超硬やセラミックス等の高い縦弾性係数の材質を使用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業ロールの小径化が図れる圧延機及びそれを備えたタンデム圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の所謂中間ロール駆動の6段式の圧延機(以下6段ミルと称す)において、作業ロール径の最小値は、当該作業ロールの圧延可能な板幅内,外にサポート(支持)ロールが無い場合、中間ロール駆動の接線力に耐える作業ロールたわみ剛性値により決まる。例えば、非特許文献1によると、4幅材(4feet)、中間ロール駆動でφ180〜φ380となっている。
【0003】
また、6段ミルとしては、従来、作業ロールの圧延可能な板幅内にサポートロールを有するものもあり、さらには、作業ロールの圧延可能な板幅外に支持ベアリングを設け、この支持ベアリングを介して作業ロールに水平曲げを加えるものが特許文献2で開示されている。
【0004】
【非特許文献1】「産業機械」1991年5月号(56〜60頁)
【特許文献1】特開平5−50109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近のニーズに対応するため、より硬いステンレス鋼等の特殊鋼を、作業ロールの圧延可能な板幅内にサポートロールを有しない6段ミルで圧延しようとすると、前述した作業ロール径では、大き過ぎ、荷重が高く、必要な圧下量がとれないという問題や光沢不良等の問題があった。
【0006】
一方、作業ロールの圧延可能な板幅内にサポートロールを有する6段ミルは、サポートロール部のスペースが少なく、十分な強度及び剛性確保が難しく、また、作業ロールの圧延可能な板幅内にサポートロールを支持するサポートベアリングが有るため、材料によってはそのサポートベアリングのマークがサポートロール及び作業ロールを介して板に転写・発生するという問題があった。
【0007】
また、作業ロールの圧延可能な板幅外に支持ベアリングを設けた圧延機は、いずれも上下同位相の支持ベアリングのため、サイズの大きなベアリングが使用できず、大きな水平力が生じる高荷重、高トルクの硬質材の圧延には採用することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み提案されたもので、その目的は、硬質材圧延のためより小径の作業ロールを使用可能とし、高い生産性や高い製品品質の帯板を得ることができる圧延機及びそれを備えたタンデム圧延機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明に係る圧延機は、
金属帯板を圧延する上下1対の作業ロールとその作業ロールを支持する上下1対の中間ロールと更にこの上下1対の中間ロールを支持する上下1対の補強ロールから成り、前記作業ロールの圧延可能な板幅内,外に支持ロールを有しない6段式の圧延機において、
前記作業ロールは高い縦弾性係数の材質を使用し、その作業ロールの最小ロール径は、最小径上限Dmax1と最小径下限Dmin1間にあり、これらは下記式で表されることを特徴とする。
最小径上限Dmax1= D4max × B/K(1/4)
ここで、D4max ; 従来板幅1,300mmの作業ロール最小径上限:φ380
B ; 板幅(mm)/1,300mm
K ; 高縦弾性材の従来材との比
(高縦弾性材の縦弾性係数/従来材の縦弾性係数(21,000kg/mm2))
最小径下限Dmin1= D4min × B/K(1/4)
ここで、D4min ; 従来板幅1,300mmの作業ロール最小径下限:φ180
【0010】
また、前記高縦弾性材の従来材との比(縦弾性係数比K)がK=1.2〜3.0であることを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するための本発明に係るタンデム圧延機は、
複数の圧延機スタンドを並べたタンデム圧延機において、前記何れか一つの圧延機を少なくとも1スタンド設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、作業ロールに高い縦弾性係数の材質を使用したことにより、作業ロールのたわみ剛性を確保してその高剛性分だけ、作業ロール径を小径にすることができ、エッジドロップ低減,表面光沢向上や最小圧延可能板厚みの低減が可能となると共に硬質材用の高荷重、高トルクの圧延機にも適用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る圧延機及びそれを備えたタンデム圧延機を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1を示す6段ミルの正断面図、図2は図1のII-II線断面図である。
【0015】
図示のように、被圧延材である帯板1は、上下1対の作業ロール2にて圧延される。この上下1対の作業ロール2は、各々上下1対の中間ロール3に接触支持され、この上下1対の中間ロール3は、各々上下1対の補強ロール4に接触支持される。
【0016】
上記上方の補強ロール4は、図示されていないベアリングを介して軸受箱17a,17cに支持され、この軸受箱17a,17cは、ウォームジャッキ又はテーパウエッジ及び段付ロッカープレート等のパスライン調整装置5a,5bを介してハウジング7a,7bに支持されている。ここで、このパスライン調整装置5a,5bの内部にロードセルを内蔵させ圧延荷重を計測させても良い。
【0017】
上記下方の補強ロール4は、図示されていないベアリングを介して軸受箱17b,17dに支持され、この軸受箱17b,17dは、油圧シリンダー6a,6bを介してハウジング7a,7bに支持されている。
【0018】
ここで、上下1対の作業ロール2は、高い縦弾性係数の材質を使用する。この高い縦弾性係数の材質としては、タングステンカーバイド(縦弾性係数;53,000kg/mm2)等の超硬やセラミックス(縦弾性係数;31,000kg/mm2)等がある。尚、従来材としては特殊鍛鋼(縦弾性係数;21,000kg/mm2)等が使用されていた。
【0019】
そして、前記高縦弾性材の従来材との比(縦弾性係数比K)がK=1.2〜3.0に設定されると好適である。
【0020】
更に、この上下1対の作業ロール2のロールネック部には、図示されていないベアリングを介して軸受箱13a〜13dが取り付けられている。これらの軸受箱13a〜13dには、ロールベンディングを付与するベンディングシリンダー14a〜14dが備え付けられている。これにて作業ロール2にロールベンディングを付与する。
【0021】
尚、本実施例では、軸受箱13a〜13dがある場合を示したが、この軸受箱13a〜13dが無くても良い。この軸受箱13a〜13dが無い作業ロール2の場合、構造がシンプルで作業性が良いというメリットがある。但し、この場合、ロール端部にスラスト荷重を受けるスラスト軸受が必要となる。
【0022】
ここで、圧延荷重は、油圧シリンダー16a,16bにて付与され、圧延トルクは図示されていないスピンドルより中間ロール3にて伝達される。上下1対の中間ロール3は、前記帯板1の板幅中心に対して上下点対称のロール胴端部位置にロール径が減少するロール肩3aをそれぞれ有している。
【0023】
又、上下1対の中間ロール3は、図示されていないベアリングを介して軸受箱15a〜15dに支持されている。上下1対の中間ロール3は、駆動側軸受箱15c,15dを介して図示されていないシフト装置にて、軸方向に移動可能となっている。更に、これらの軸受箱15a〜15dには、ロールベンディングを付与するベンディングシリンダー16a〜16dが備え付けられている。これにて中間ロール3にロールベンディングを付与する。
【0024】
ここで、図3及び図4を用いて駆動接線力による作業ロールのたわみについて述べる。
【0025】
まず、図3に示されるように、中間ロール3から駆動トルクを作業ロール2に伝達させる場合、作業ロール2には駆動接線力Fが加わる。この作業ロールの軸受けは、操作側と駆動側各1個であるため図4に示す単純支持の支持条件となる。この場合の作業ロールの水平たわみδsは、次の(1)式で表される。ここで、単位長さ当たりの駆動接線力をF、支持間隔をL、従来の作業ロール2の直径をDc、従来の作業ロール径の断面2次モーメントをIc、従来の作業ロールの材質(特殊鍛鋼)の縦弾性係数(21,000kg/mm2)をEcとする。
δs=5×F×L4/(384×Ec×Ic) (1)式
ここで、Ic=π×Dc4/64
【0026】
ここで、上下1対の作業ロール2に、高い縦弾性係数の材質を使用する。この場合の作業ロール2の水平方向のたわみδrは、次の(2)式で表される。実施例の作業ロール2の直径をDr、実施例の作業ロール径の断面2次モーメントをIr、実施例の作業ロールの材質の縦弾性係数をErとする。
δr=5×F×L4/(384×Er×Ir) (2)式
ここで,Ir=π×Dr4/64
ここで,δr=δsとすると、Drは下記の(3)式で表される。
Dr=Dc/K(1/4) (3)式
【0027】
一方、作業ロールの最小ロール径は、同様に最小径上限Dmax1と最小径下限Dmin1間にあり、これらは下記の(4)式で表される。
最小径上限Dmax1= D4max × B/K(1/4) (4)式
ここで、D4max ; 従来板幅1,300mmの作業ロール最小径上限:φ380
B ; 板幅(mm)/1,300mm
K ; 高縦弾性材の従来材との比
(高縦弾性材の縦弾性係数/従来材の縦弾性係数(21,000kg/mm2))
実施例の板幅毎の最小径上限Dmax1を図5に示す。ただし、作業ロール材質は、超硬の場合としてK=2.5とした。
最小径下限Dmin1= D4min × B/K(1/4) (5)式
ここで、D4min ; 従来板幅1,300mmの作業ロール最小径下限:φ180
実施例の板幅毎の最小径下限Dmin1を図6に示す。ただし、作業ロール材質は、超硬の場合としてK=2.5とした。
【0028】
このようにして、本実施例では、作業ロール2の圧延可能な板幅内,外に支持ロールを有しない6段ミルにおいて、高縦弾性材の超硬やセラミックス材質の作業ロール2を使用するので、作業ロールのたわみ剛性を確保してその高剛性分だけ、作業ロール径を小径にでき、硬質材圧延において高い生産性や高い製品品質の帯板1を得ることができる。
【0029】
また、図7A,図7Bに示されるように、高縦弾性材の作業ロール2を水平方向の圧延方向出側に、駆動トルクに応じ可変にオフセットさせても良い。これにより、駆動接線力Fは圧延荷重Qのオフセット水平方向分力Faにより減ぜられ、作業ロール2にかかる水平方向のトータルの力は減ぜられる。図7B中Fbはオフセット垂直方向分力を示す。
【0030】
その結果、作業ロール2のたわみをより小さくできるメリットがある。
作業ロール2にかかる水平方向のトータルの力;Fwは、次の(6)式で示される。
Fw=F−Q×α/((Dw+DI)/2) (6)式
ここで、作業ロール径はDw、中間ロール径はDIとする。
【0031】
また、図8A,図8Bに示されるように、中間ロール3を水平方向の圧延方向入側に、駆動トルクに応じ可変にオフセットさせても良い。これにより、駆動接線力Fは圧延荷重Qのオフセット水平方向分力Faにより減ぜられ、高縦弾性材の作業ロール2にかかる水平方向のトータルの力は減ぜられる。図8B中Fbはオフセット垂直方向分力を示す。
【0032】
その結果、作業ロール2のたわみをより小さくできるメリットがある。
作業ロール2にかかる水平方向のトータルの力;Fwは、次の(7)式で示される。
Fw=F−Q×β/((Dw+DI)/2) (7)式
ここで、作業ロール径はDw、中間ロール径はDIとする。
【0033】
また、本発明の小径作業ロール圧延機をタンデム圧延機に適用する場合、図9に示されるように、NO.1スタンドに適用すると、高縦弾性材の小径作業ロールにより、強圧下が可能となる。また、最終スタンド、図ではNO.4スタンドに適用すると、高縦弾性材の小径作業ロールにより、より薄い板が圧延可能となる。無論全スタンドについて本発明の小径作業ロール圧延機を適用しても良い。これにより、より薄くて硬い材料が圧延可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例を示す6段ミルの正断面図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】駆動接線力の説明図である。
【図4】作業ロールのたわみ説明図である。
【図5】本発明の実施例の作業ロール最小径上限Dmaxを示すグラフである。
【図6】本発明の実施例の作業ロール最小径下限Dminを示すグラフである。
【図7】本発明のその他の実施例を示す作業ロールオフセットの説明図である。
【図8】本発明のその他の実施例を示す中間ロールオフセットの説明図である。
【図9】本発明のタンデム圧延機への適用説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 帯板
2 作業ロール
3 中間ロール
4 補強ロール
5a,5b パスライン調整装置
6a,6b 油圧シリンダー
7a,7b ハウジング
13a〜13d 作業ロール軸受箱
15a〜15d 中間ロール軸受箱
17a〜17d,19a〜19d 補強ロール軸受箱
14a〜14d 作業ロールベンディングシリンダー
16a〜16d 中間ロールベンディングシリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯板を圧延する上下1対の作業ロールとその作業ロールを支持する上下1対の中間ロールと更にこの上下1対の中間ロールを支持する上下1対の補強ロールから成り、前記作業ロールの圧延可能な板幅内,外に支持ロールを有しない6段式の圧延機において、
前記作業ロールは高い縦弾性係数の材質を使用し、その作業ロールの最小ロール径は、最小径上限Dmax1と最小径下限Dmin1間にあり、これらは下記式で表されることを特徴とする圧延機。
最小径上限Dmax1= D4max × B/K(1/4)
ここで、D4max ; 従来板幅1,300mmの作業ロール最小径上限:φ380
B ; 板幅(mm)/1,300mm
K ; 高縦弾性材の従来材との比
(高縦弾性材の縦弾性係数/従来材の縦弾性係数(21,000kg/mm2))
最小径下限Dmin1= D4min × B/K(1/4)
ここで、D4min ; 従来板幅1,300mmの作業ロール最小径下限:φ180
【請求項2】
前記高縦弾性材の従来材との比(縦弾性係数比K)がK=1.2〜3.0であることを特徴とする請求項1に記載の圧延機。
【請求項3】
複数の圧延機スタンドを並べたタンデム圧延機において、前記請求項1又は2に記載の圧延機を少なくとも1スタンド設けたことを特徴とするタンデム圧延機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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