説明

圧粉磁心

【課題】高電気抵抗率かつ高磁束密度である圧粉磁心を提供する。
【解決手段】少なくとも複合磁性粒子1を含有する圧粉磁心であって、前記複合磁性粒子1は、鉄を主成分とするコア粒子2と、前記コア粒子2上に形成された絶縁被膜層3と、を備え、前記絶縁被膜層3は、前記コア粒子2上に形成された内層3aと、前記内層3a上に形成された最外層3bと、を少なくとも有し、前記最外層3bが、酸化鉄を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ、ジェネレータ、リアクトル等の電磁気デバイスに備えられる磁心として、圧粉磁心が用いられている。この種の圧粉磁心は、一般に、絶縁性の向上及び高磁束密度化のために、リン酸処理などにより薄い絶縁膜が形成された鉄を主成分とする軟磁性材料(粉末)を成形することにより製造されている。また、成形後においては、成形時の圧縮歪を解放して鉄損(コアロス)を低減させるために、熱処理(アニール処理)が行われている。
【0003】
交流磁場で駆動する圧粉磁心は、一般的に、コアロスの小さいものが要求されている。コアロスの低減には、熱処理温度を上げることが効果的である。しかしながら、リン酸処理等の絶縁処理を行った鉄粉を用いて作製した圧粉磁心は、リン酸被膜の耐熱性が乏しいため、500℃以上の熱処理によりコア抵抗が低下し易く、渦電流損失が増加する等した結果、コアロスが十分に低減されたものではなかった。
【0004】
また、モータやジェネレータでは高磁束密度であることも同時に求められ、高磁束密度を実現するためには、同じ材料である限り圧粉磁心の密度が高いことが望まれている。しかしながら、コアの密度を上げるために成形圧を上げると、粉体や粉体界面にかかる力が増すため、絶縁被膜の破壊や剥離が起き、電気抵抗率が低下する。このように、高磁束密度と高電気抵抗率を両立させることは困難であった。
【0005】
かかる問題を解決すべく、例えば、特許文献1には、絶縁層において、粒子状のフッ化物と鉄酸化物からなる剥離体とが混在している圧粉磁心が開示されている。また、特許文献2には、リン酸鉄化合物とリン酸アルミニウム化合物からなる被膜が形成された圧粉磁心が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−123699号公報
【特許文献2】特開2006−128663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、成形圧力を上げることで成形体の密度は上昇するが、電気抵抗率は上がらないという欠点がある。また、特許文献2に記載の技術では、得られる圧粉磁心は、磁束密度が大きく低下してしまうので、高電気抵抗率と高磁束密度を両立することができないといった欠点がある。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高電気抵抗率かつ高磁束密度である圧粉磁心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、鉄を主成分とするコア粒子上に複数層の絶縁被膜層を備える複合磁性粒子を含有し、絶縁被膜層の最外層に酸化鉄が主成分として含まれることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の圧粉磁心は、少なくとも複合磁性粒子を含有する圧粉磁心であって、前記複合磁性粒子は、鉄を主成分とするコア粒子と、前記コア粒子上に形成された絶縁被膜層と、を備え、前記絶縁被膜層は、前記コア粒子上に形成された内層と、前記内層上に形成された最外層と、を少なくとも有し、前記最外層が酸化鉄を主成分として含むものである。
【0011】
本発明者らが、上記構成の圧粉磁心の特性を測定したところ、その圧粉磁心は、上記従来のものに比較して、高電気抵抗率かつ高磁束密度であることが判明した。かかる効果が奏される作用機構の詳細は、未だ明らかではないものの、例えば、以下のとおり推定される。
【0012】
上記の圧粉磁心においては、複数層の絶縁被膜層によりコア粒子を被覆し、かつその最外層に酸化鉄が主成分として含まれているため、従来技術に比して、絶縁被膜層の耐熱性・密着性・均一性が格段に高められている。言い換えれば、上記の圧粉磁心においては、耐熱性・密着性・均一性に優れる2層以上の絶縁被膜層によって、コア粒子の周囲が均一且つ十分に被覆されているので、その絶縁性及び耐熱性が格別に高められている。そして、最外層が酸化鉄を主成分として含んでいることにより、複合磁性粒子同士の密着性を良好なものにでき、これを温間成形して得られる成形体の高密度化が図られる。加えて、絶縁被膜層が鉄を含んでいることにより、膜厚の厚い被膜であっても透磁率等の磁気特性の劣化が抑制される。これらが相まった結果、上記の圧粉磁心では、高温処理による性能劣化が抑制され、高コア抵抗化(高電気抵抗率化)かつ高磁束密度化が実現可能になったものと考えられる。但し、作用はこれらに限定されない。
【0013】
なお、本発明では、絶縁被膜層は2層以上であればよく、内層が1層であるものに限定されない。例えば、内層は、2層以上の複数層から形成されていてもよい。
【0014】
ここで、コア粒子は、鉄を主成分とする軟磁性粒子、及び該軟磁性粒子の表面に形成された絶縁膜を有することが好ましい。絶縁膜により被覆された軟磁性粒子は絶縁性を有するコア粒子として有効に機能するので、高性能な圧粉磁心を実現することができる。
【0015】
上記において、コア粒子の絶縁膜は、リン酸鉄を含むことが好ましい。リン酸鉄を含む絶縁膜により軟磁性粒子を被覆することにより、より優れた耐熱性を付与することができる。
【0016】
内層は、酸化鉄と、少なくとも1種以上の非鉄金属の酸化物とを含むことが好ましい。最外層だけでなく、内層にも酸化鉄が含まれていることにより、透磁率等の磁気特性が一層向上する傾向にある。加えて、最外層と内層がいずれも鉄を含むことにより、層間の密着性が向上する傾向にあり、より均一に被覆することができる。さらに、非鉄金属の酸化物を含むことにより、絶縁被膜層の電気抵抗が一層高められる傾向にある。
【0017】
さらに、非鉄金属として、アルミニウム、ジルコニウム、シリコン、チタン、マグネシウム、クロム、マンガン、ナトリウム、リチウム、亜鉛、バリウム、及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ジルコニウム、シリコン、チタン、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。これらを用いることにより、コア粒子の絶縁性及び耐熱性がより一層高められる。
【0018】
そして、絶縁被膜層の膜厚の合計は、50nm以上1.5μm以下であることが好ましく、200nm以上1μm以下であることがより好ましい。絶縁被膜層の膜厚を上記範囲内とすることにより、絶縁性及び耐熱性がより一層高められる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高電気抵抗率かつ高磁束密度である圧粉磁心が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の圧粉磁心の複合磁性粒子1の一実施形態の模式断面図である。
【図2】実施形態の圧粉磁心を製造する手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】TEM測定における測定点の概略図である。
【図4】実施例1の圧粉磁心の成分組成を示すグラフである。
【図5】実施例3の圧粉磁心の成分組成を示すグラフである。
【図6】比較例2の圧粉磁心の成分組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
【0022】
本実施形態の圧粉磁心は、少なくとも複合磁性粒子1の集合体(圧粉体)であって、その複合磁性粒子1が鉄を主成分とするコア粒子2とこのコア粒子2上に形成された複数の絶縁被膜層3とを備え、その絶縁被膜層3の最外層に酸化鉄を含むことに特徴がある。
【0023】
図1は、本実施形態の複合磁性粒子の一実施形態の模式断面図である。
複合磁性粒子1は、鉄を主成分とするコア粒子2と、このコア粒子2の表面上に形成された絶縁被膜層3とを備え、絶縁被膜層3は、内層3aと、その外側に形成された最外層3bとを有し、最外層3bが、酸化鉄を含む。したがって、複合磁性粒子1は、コア粒子2が、少なくとも内層3aと最外層3bから構成される絶縁被膜層3とによって被覆された、多層コーティング粒子となっている。
【0024】
コア粒子2は、鉄(純鉄及び不可避的不純物を含む鉄が含まれる)を主成分とする鉄基粉(粒子、粉末)である。コア粒子2の具体例としては、例えば、鉄のみ、鉄に他の元素(例えば、Si、P、Co、Ni、Cr、Al、Mo、Mn、Cu、Sn、Zn、B、V、Snなど)を少量添加した組成物が挙げられる。また、コア粒子2は、金属単体や金属単体に他の元素を含むものの他、例えば、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、Fe−Cr系合金、Fe−Al−Si系合金等の合金であっても構わない。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0025】
好ましいコア粒子2としては、特に限定されないが、鉄を99質量%以上含むもの(純鉄)が挙げられる。鉄を99質量%以上含有する軟磁性粒子は、上記従来のFe−Al−Si系合金粉末や純度99質量%未満の鉄系の粒子に比して、粒子のビッカース硬さが低く、成形性に優れる傾向にあるので、これを用いることで、より一層の高密度化が図られ、磁気特性の向上が図られる。とりわけ、0.5質量%以下のP、0.1質量%以下のMn、0.03質量%以下のAl、V、Cu、As、Mo、残部が鉄の組成を有するものが、より好ましい。コア粒子2は、単一のものであっても、複数の部材(コア片)が凝集或いは結合したものであっても構わない。
【0026】
コア粒子2の粒径は、特に限定されず、所望の性能に応じて適宜設定すればよい。なお、コア粒子2の粒径は、形成される圧粉磁心の密度及び透磁率に影響を与え、粒径が大きいと温間成形時の圧力により軟磁性粒子が変形し、密度が上がりやすい傾向にある。そのため、コア粒子2の粒径は、例えば、平均粒径20〜300μm程度が好ましい。なお、ここでいう平均粒径とは、D50%粒子径を意味する。
【0027】
コア粒子2は、公知の方法により製造することができ、その製法は特に限定されない。例えば、鉱石還元法、メカニカルアロイ法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転アトマイズ法、鋳造粉砕法等の公知の製法を用いて、任意の組成及び任意の粒径の軟磁性粒子を得ることができる。
【0028】
コア粒子2は、鉄を主成分とする軟磁性粒子、及び該軟磁性粒子の表面に形成された絶縁膜を有することが好ましい。この場合、コア粒子2は、鉄を主成分とする軟磁性粒子の外周に形成された絶縁膜を有するコアシェル構造の粒子とすることができる。絶縁膜を有することにより、より優れた絶縁性をコア粒子2に付与することができる。
【0029】
コア粒子2の絶縁膜を構成する材料は、コア粒子2の表面に絶縁性を付与するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸鉄、ホウ酸鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、炭酸鉄、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、酸化クロム、酸化亜鉛等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。耐熱性の観点から、好ましい絶縁膜としては、リン酸鉄、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、酸化クロム、酸化亜鉛等が挙げられ、より好ましくはリン酸鉄である。
【0030】
コア粒子2の絶縁膜の厚みは、特に限定されないが、5〜500nm程度であることが好ましい。かかる範囲内とすることで、必要とされる絶縁性及び高透磁率を担保し易い傾向にある。
【0031】
コア粒子2の外周には、絶縁被膜層3として、内層3aと最外層3bとが形成されており、最外層3bは酸化鉄を主成分として含んでいる。ここでいう「酸化鉄」には、FeO、Fe23、Fe34が包含される。また、ここでいう「主成分として」とは、最外層の総重量に対し50質量%以上の含有量であることを意味する。
【0032】
内層3aは、単一の部材から構成されていても、複数の部材から構成されていてもよい。圧粉磁心の物性のばらつき抑制の観点から、内層3aは、コア粒子2の外周に均一に形成されていることが好ましい。
【0033】
内層3aを構成する成分としては、特に限定されず、例えば、各種公知の金属やその酸化物が挙げられるが、酸化鉄と、少なくとも1種以上の非鉄金属の酸化物とを含むことが好ましい。最外層3bだけでなく内層3aにも酸化鉄が含まれていることにより、透磁率等の磁気特性が一層向上する傾向にある。加えて、絶縁被膜層3において共通する金属として鉄を含有することにより、各層(内層3a及び最外層3b)間の密着性が向上する傾向にあり、より均一に被覆することができる。さらに、非鉄金属の酸化物を含むことにより、絶縁被膜層の電気抵抗が一層高められる。
【0034】
非鉄金属としては、Feを除く金属であれば特に限定されないが、耐熱性に優れる金属酸化物を形成可能な金属、例えば、Al、Zr、Si、Ti、Mg、Cr、Mn、Na、Li、Zn、Ba、及びCeからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、耐熱性を考慮すると、Al、Zr、Si、Ti、及びMgからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0035】
内層3aにおける非鉄金属の含有量は、特に限定されないが、C、Oを除くTEM−EDS分析による元素含有量分析において内層3aの非鉄金属の含有量は、5〜80at.%であることが好ましく、5〜60at.%であることがより好ましく、10〜40at.%であることが更に好ましい。5at.%以上とすることにより、耐熱性及び絶縁性が一層向上する傾向にあり、80at.%以下とすることにより、被膜の密着性や透磁率が一層向上する傾向にある。
【0036】
内層3aを構成する成分としては、上記したものの他に、炭素、窒素、フッ素、その他の残渣等を更に含んでいてもよい。但し、磁気特性の向上のため、炭素、窒素、フッ素、その他の残渣はより少ないことが好ましい。これは後述する軟磁性材料を熱処理することにより生成されるものであってもよく、酸化物等の形態で存在していてもよい。
【0037】
内層3aの厚みは、特に限定されないが、通常、50nm〜1.0μm程度であることが好ましい。内層3aの厚みを50nm以上とすることにより、圧粉磁心とした際の電気抵抗に優れる傾向にあり、内層3aの厚みを1.0μm以下とすることにより、磁束密度、透磁率などの磁気特性に優れる傾向にある。
【0038】
コア粒子2を被覆する絶縁被膜層3として、内層3aの外周には、最外層3bが更に形成されている。最外層3bは、内層3aの外周の少なくとも一部に形成されていればよい。したがって、最外層3bは、内層3aの外周のすべてを覆うように形成されていても、内層3aの外周に部分的に形成されていてもよい。
【0039】
最外層3bを構成する成分としては、C、Oを除くTEM−EDS分析による元素含有量分析において最外層3b中のFe元素含有量は、50at.%以上が好ましく、より好ましくは70at.%以上である。酸化鉄を主成分として多く含むことにより、絶縁被膜層3の各層の密着性、隙間埋め性が一層向上する傾向にあり、磁束密度をより高めることができる。従来技術では、シラン系カップリング剤やシリコーン樹脂を用いてコア粒子を被覆することが行われていたが、電気抵抗率をある程度高めることができたとしても、磁束密度が大きく低下するといった問題があった。しかしながら、本実施形態の複合磁性粒子1では、絶縁被膜層3の最外層3bが酸化鉄を主成分として含んでいるので、高電気抵抗率且つ高磁束密度な圧粉磁心を実現することができる。
【0040】
最外層3bを構成する成分としては、酸化鉄の他に、炭素、窒素、フッ素、その他の残渣等を更に含んでいてもよい。但し、磁気特性の向上のため炭素、窒素、フッ素、その他の残渣はより少ないことが好ましい。これは後述する軟磁性材料を熱処理することにより生成されるものであってもよく、酸化物等の形態で存在していてもよい。
【0041】
最外層3bの厚みは、特に限定されないが、通常、10nm〜500nm程度であることが好ましい。最外層3bの厚みを10nm以上とすることにより、圧粉磁心とした際の粒子同士の密着性に優れる傾向にあり、最外層3bの厚みを500nm以下とすることにより、磁束密度及び成形密度性に優れる傾向にある。
【0042】
本実施形態の複合磁性粒子1は、絶縁被膜層3として少なくとも2層以上の多層構造であればよく、例えば、内層3bが複数層から構成されていてもよい。内層3bが複数層である場合、その各層は、内層3bの成分として上述したものを各々採用することができる。
【0043】
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、原料粉(軟磁性材料)と潤滑剤とを含む混合物を温間成形して得られる成形体を熱処理することにより、上述した複合磁性粒子1を含む圧粉磁心を作製することができる。以下、圧粉磁心を製造する方法の好ましい一例について詳述する。
【0044】
原料粉(軟磁性材料)としては、例えば、鉄を主成分とするコア粒子と、コア粒子状に形成されたコーティング層と、を備え、コーティング層は、金属錯体、又は金属アルコキシドをコーティングしてその上にさらに鉄錯体をコーティングした原料粉(軟磁性材料)、あるいは鉄錯体、金属アルコキシドの混合物をコーティングした層の上にさらに鉄錯体をコーティングした原料粉(軟磁性材料)、2種類以上の非鉄金属錯体を重ねてコーティングしてその上にさらに鉄錯体をコーティングした原料粉(軟磁性材料)を用いることができる。このようなコーティング層を有する原料粉(軟磁性材料)を用いることにより、本実施形態の圧粉磁心を容易に製造することができる。
【0045】
原料粉(軟磁性材料)のコーティング層に含まれる金属錯体又は金属アルコキシドとしては、圧粉磁心の絶縁被膜層に含まれる金属に対応する金属種を用いることができ、所望する圧粉磁心の成分組成を考慮して適宜選択することができる。
【0046】
原料粉(軟磁性材料)のコーティング層に含まれる金属アルコキシド中のアルコキシド基としては炭素数が少ないことが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基を用いることができる。
【0047】
金属アルコキシドの具体例としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキシルトリメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0048】
原料粉(軟磁性材料)のコーティング層に含まれる金属錯体の有機配位子としては、例えば、C、H、O、及びF等から構成される配位子を用いることができる。コーティング層がこのような有機配位子を含むことにより、耐熱性及び被膜成形性に優れるコーティング層を形成することができる。さらに、後述する熱処理工程において、原料粉(軟磁性材料)に含まれる鉄等の金属の反応を各層間に亘って効果的に促進させることができる。その結果、密着性が高く、膜厚が厚く、均一性のよい被膜を効率よく形成することができる。
【0049】
金属錯体は、上記した中心金属の酸化数に応じて、通常、1〜24程度の配位数のものを選択できるが、好ましくは2〜12であり、より好ましくは2〜8である。なお、金属配位子が複数の有機配位子を有する場合、各々の有機配位子は同一であっても異なっていてもよい。好ましい有機配位子としては、例えば、アセチルアセトナート、エチルアセトアセテート、トリフルオロアセチルアセトネート、ヘキサフルオロアセチルアセトネート等の多座配位子が挙げられ、より好ましくはアセチルアセトナートが挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0050】
原料粉(軟磁性材料)のコーティング層に含まれる金属錯体としては、中心金属及び少なくとも1つのキレート配位子を有する金属キレート錯体であることが好ましい。キレート効果によって安定化した金属キレート錯体を用いることにより、耐熱性及び被膜成形性に優れるコーティング層が形成可能である。また、他の好ましい金属錯体としては、中心金属と複数のキレート配位子を有する金属キレート錯体が挙げられる。
【0051】
金属錯体の具体例としては、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトナート、アルミニウムアセチルアセトナート、マグネシウムアセチルアセトナート、マグネシウムビストリフルオロアセチルアセトナート、マグネシウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、マンガンアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、チタンオキシアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄(III)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0052】
原料粉(軟磁性材料)のコーティング層の構造は、得られる複合磁性粒子の絶縁被膜層の構造を考慮して選択することができる。例えば、複合磁性粒子の絶縁被膜層が内層(1層)と最外層とから構成される2層構造である場合、原料粉(軟磁性材料)のコーティング層が第一層と第二層から構成される2層構造のものを採用することができる。
【0053】
図2は、本実施形態の圧粉磁心を製造する手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、コア粒子を準備する工程(S1)、及び、コア粒子に金属錯体又は、金属アルコキシドを塗布して第一層を形成し、さらに鉄錯体を最外層に塗布することで2層以上のコーティング層を形成する工程(S2)から、上述した原料粉(軟磁性材料)が作製される。そして、かかる原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤を添加する工程(S3)と、かくして得られる混合物を温間成形する工程(S4)と、この温間成形後に得られる成形体を熱処理する工程(S5)とを経て、上述した複合磁性粒子1を含む圧粉磁心が作製される。
【0054】
コア粒子を準備する工程(S1)においては、必要に応じて軟磁性粒子すなわち鉄基粉の表面を絶縁処理して絶縁膜を形成する(S1a)ことにより、コア粒子を得る。軟磁性粒子の絶縁処理方法は、上記で例示した組成の絶縁膜を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、リン酸及び/又はリン酸塩を含有する水溶液(例えば、オルトリン酸(H3PO4)の80〜90%水溶液等)を用いて鉄基粉を処理した後に乾燥する等、公知の手法を適宜採用できる。なお、軟磁性粒子すなわち鉄基粉の表面に絶縁膜が形成されたコア粒子の市販品を予め入手することにより、上記S1a工程を省略することができる。
【0055】
コーティング層を形成する工程(S2)においては、コア粒子に金属錯体又は、金属アルコキシドを塗布して第一層を形成し、さらに鉄錯体を最外層に塗布することで2層以上のコーティング層を形成する場合、好ましくは鉄錯体と非鉄金属錯体又は非鉄金属アルコキシドを混合したものを塗布して第一層を形成することができ、より好ましくは鉄の原子が非鉄金属錯体又は非鉄金属アルコキシド中の非鉄中心金属の原子量よりも多い場合である。必要に応じて、内層にさらに金属アルコキシドを塗布することにより第三層、第四層といったさらなる層を形成、又は金属錯体を重ねて塗布することにより層内の膜厚方向に異なる濃度分布をもつ複数の非鉄金属を含む層を形成することも可能である。かくして、上述した原料粉(軟磁性材料)が得られる。金属錯体の塗布方法は、特に限定されず、例えば、金属錯体を溶媒に分散又は溶解させた塗布液をコア粒子に付与した後に乾燥する等、公知の手法を適宜採用できる。
【0056】
なお、金属錯体の塗布時に、必要に応じて混練機、混合機、攪拌機、造粒機或いは分散機等を用いて混合処理を行ってもよい。さらに、コーティング層の均一性及び密着性を高める観点から、スプレー法、すなわち金属錯体を溶媒に分散又は溶解させた塗布液をスプレーガン等により噴霧してコア粒子に塗布する方法が好ましい。スプレー法において、使用可能な溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンや、トルエン、アセトン、アルコールといった有機溶媒等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0057】
原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤を添加する工程(S3)では、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤を添加する。潤滑剤は、当業界で公知のものを適宜選択して用いることができ、特に限定されないが、金属石鹸であることが好ましい。潤滑剤は、温間成形時の際の原料粉(軟磁性材料)の流動性を向上させ、圧力印加の際の原料粉(軟磁性材料)の変形を促進するとともに、コア粒子間に介在する絶縁層、及び、コア粒子間に介在する保護膜としても機能し得る。かかる金属石鹸は、温間成形時に原料粉(軟磁性材料)の周囲に均一な被膜を形成し易く、また、絶縁性にも優れるので、上記の製造方法に使用する潤滑剤として、特に好適に用いられる。金属石鹸の具体例としては、例えば、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウムステアリン酸セシウム等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0058】
潤滑剤の添加量は、特に限定されないが、原料粉(軟磁性材料)及び潤滑剤の総質量に対して、好ましくは0.02〜0.5質量%であり、好ましくは0.05〜0.2質量%である。潤滑剤の添加量が0.02質量%以上とすることにより、潤滑剤が原料粉(軟磁性材料)の周囲に均一に行き渡り易くなる傾向にある。一方、潤滑剤の添加量を0.5質量%以下とすることにより、原料粉(軟磁性材料)に対する潤滑剤の量が適量となり、潤滑剤の添加効果が十分に得られる傾向にあるとともに、軟磁性材料の含有率も低下せず高密度化及び高透磁率化を図り易くなる傾向にある。
【0059】
原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤を添加する工程(S3)では、添加した潤滑剤を原料粉(軟磁性材料)に均一に行き渡らせるために、かかる混合物を混練することが好ましい。混練は、公知の方法により行えばよく、特に限定されないが、混合機(例えば、フラッシュブレンダー、ロッキングシェーカー、ドラムシェーカー、Vミキサー等)や造粒機(例えば、流動造粒機、転動造粒機等)等を用いて行うことが好ましい。
【0060】
温間成形する工程(S4)では、上記のようにして得られる混合物、すなわち原料粉(軟磁性材料)及び潤滑剤を少なくとも含有する混合物を、熱及び圧力を印加しながら任意の形状に成形する。かかる温間成形は、公知の方法により行えばよく、特に限定されないが、所望する形状のキャビティを有する成形金型を用い、そのキャビティ内に混合物を充填し、所定の成形温度及び所定の成形圧力でその混合物を圧縮成形することが好ましい。
【0061】
温間成形時の成形温度は、特に限定されないが、通常、80〜200℃であり、好ましくは100〜160℃である。なお、温間成形時の成形温度を上げるほど成形体の密度は上がる傾向にあるが、200℃以下とすることにより、コア粒子(軟磁性粒子)の酸化が適度に抑制されて、得られる圧粉磁心の性能の劣化を抑制できる傾向にあり、また、生産性及び経済性にも優れる。
【0062】
温間成形時の成形圧力は、特に限定されないが、通常、600〜1200MPaとされる。温間成形時の成形圧力を600MPa以上とすることにより、温間成形による高密度化及び高透磁率化を図り易くなる傾向にある。一方、温間成形時の成形圧力を1200MPa以下とすることにより、圧力印加効果の飽和を抑制できる傾向にあるとともに、生産性及び経済性に優れる傾向にあり、また、成形金型の劣化を抑制でき耐久性が向上する傾向にある。
【0063】
温間成形後に得られる成形体を熱処理する工程(S5)では、温間成形時において発生する圧縮歪を解放してコア抵抗を高めるとともにコアロス(特に、ヒステリシス損失)を低減させる。熱処理は、公知の方法により行えばよく、特に限定されないが、一般的には、温間成形により任意の形状に成形された成形体を、アニール炉を用いて所定の温度で熱処理することにより行うことが好ましい。
【0064】
熱処理時の処理温度は、特に限定されないが、通常、450〜600℃程度が好ましい。熱処理時の処理温度を450℃以上とすることにより、絶縁膜やコーティング層の反応が適度に進行し、コア抵抗が小さくなる傾向にあり、熱処理時の処理温度を600℃以下とすることにより、絶縁膜やコーティング層の反応が適度に抑制され、絶縁性を維持でき、コア抵抗が大きくなる傾向にある。
【0065】
熱処理工程は、酸素含有雰囲気下にて行うことが好ましい。ここで、酸素含有雰囲気とは、大気雰囲気(通常、20.95%の酸素を含む)、または、アルゴンや窒素等の不活性ガスとの混合雰囲気等が挙げられるが、これらに特に限定されない。酸素含有雰囲気下で熱処理することで、コーティング層中の金属アルコキシド又は錯体金属の分解や酸化等を促進して、酸化物を生成することでコア抵抗を格別に高めることができるとともに、コアロスを著しく低下させることができる。
【0066】
かくして得られる圧粉磁心は、意外にも、上述した複合磁性粒子1を含むものとなっており、その絶縁被膜層3の最外層3bに酸化鉄を含んだものとなる。そして、かくして得られる圧粉磁心は、かかる複合磁性粒子1を含むことにより、高密度化され、高透磁率、高強度、高コア抵抗、低コアロスといった各種性能において優れたものとなる。なお、上述した原料粉(軟磁性材料)の成分組成や層構造を適宜選択すること等により、所望の成分組成の圧粉磁心を得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
[作製方法]
【0069】
<実施例1>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムイソプロポキシドとジルコニウムテトラノルマルプロポキシドをトルエンに溶かした溶液、及び鉄(III)アセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液を作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Alアルコキシド溶液、Zrアルコキシド溶液をそれぞれ軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.0035mol%の割合で、Zr原子量で0.0035mol%の割合で塗布し、加熱乾燥した。続いて、前記Fe錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してFe原子量で0.01mol%の割合で更に塗布し、加熱乾燥し、原料粉(軟磁性材料)を作製した。
【0070】
そして、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaの温間成形を行って、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmであるトロイダルコア(成形体)を成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、圧粉磁心を得た。
【0071】
得られた圧粉磁心の構造はTEM観察によって確認した。TEM観察では、Dual−BeamFIB(Nova200)を用いたマイクロサンプリング法によって観察用試料を作製した。試料作製後、日立製HD2000を用いて加速電圧200kVでEDS(エネルギー分散型X線分光器)による組成分析を、ビーム径:1nm、対物絞り径:40μm、測定点:粒子間界面を約30から35点等間隔に測定した。図3は、TEM測定における測定点の概略図である。図3に示すように、圧粉磁心の任意の粒子A内から隣接する粒子B内わたって上記測定点を準じ測定し、その成分組成を分析した。図4は、実施例1の圧粉磁心の成分組成を示すグラフである。図4に示すとおり、実施例1の圧粉磁心は、鉄を主成分とするコア粒子と、絶縁被膜層とを備えており、その絶縁被膜層は酸化鉄と非鉄金属の酸化物を含む内層と酸化鉄を主成分とする最外層とから構成される2層構造であり、コア粒子はリン酸被膜により被覆されていることが確認された。
【0072】
<実施例2>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムイソプロポキシドをトルエンに溶かした溶液、及び鉄(III)アセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液を作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Alアルコキシド溶液、前記Fe錯体溶液をそれぞれ軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.0035mol%の割合で、Fe原子量で0.02mol%の割合で塗布し、加熱乾燥した。その後、前記Fe錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してFe原子量で0.01mol%の割合で更に塗布し、加熱乾燥し、原料粉(軟磁性材料)を作製した。
【0073】
そして、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaの温間成形を行って、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmであるトロイダルコア(成形体)を成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、圧粉磁心を得た。
【0074】
<実施例3>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムイソプロポキシドとジルコニウムテトラノルマルプロポキシドをトルエンに溶かした溶液及び鉄(III)アセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液を作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Alアルコキシド溶液、Zrアルコキシド溶液、Fe錯体溶液をそれぞれ軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.0035mol%の割合で、Zr原子量で0.0035mol%の割合で、Fe原子量で0.02mol%の割合で塗布し、加熱乾燥した。その後、前記Fe錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してFe原子量で0.01mol%さらに塗布し、加熱乾燥し、原料粉(軟磁性材料)を作製した。
【0075】
そして、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaで温間成形を行って、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmであるトロイダルコア(成形体)を成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、圧粉磁心を得た。
【0076】
得られた圧粉磁心の構造をTEM観察によって確認した。図5は、得られた圧粉磁心の成分組成を示すグラフである。図5に示すとおり、実施例3の圧粉磁心は、鉄を主成分とするコア粒子と、絶縁被膜層とを備えており、その絶縁被膜層は酸化鉄と非鉄金属の酸化物を含む内層と酸化鉄を主成分として多く含有する最外層とから構成される2層構造であり、コア粒子はリン酸被膜により被覆されていることが確認された。
【0077】
<実施例4>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムアセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液、ジルコニウムアセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液、及び鉄(III)アセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液を作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Al錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.01mol%の割合で塗布し、加熱乾燥した。そして、前記Zr錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してZr原子量で0.02mol%の割合で更に塗布し、加熱乾燥した。その後、前記Fe錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してFe原子量で0.01mol%の割合で更に塗布し、加熱乾燥し、原料粉(軟磁性材料)を作製した。
【0078】
そして、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaで温間成形し、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmであるトロイダルコア(成形体)を成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、圧粉磁心を得た。
【0079】
<実施例5>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムアセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液、ジルコニウムアセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液、及び鉄(III)アセチルアセトナートをトルエンに溶かした溶液を作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Al錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.01mol%の割合で塗布し、加熱乾燥した。そして、前記Zr錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してZr原子量で0.02mol%の割合で更に塗布し、加熱乾燥した。その後、前記Fe錯体溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してFe原子量で0.01mol%の割合で更に塗布し、加熱乾燥し、原料粉(軟磁性材料)を得た。
【0080】
そして、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸リチウムを0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaで温間成形し、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmであるトロイダルコアを成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、圧粉磁心を得た。
【0081】
<比較例1>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムイソプロポキシドをトルエンに溶かしたAlアルコキシド溶液を作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Alアルコキシド溶液を軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.1mol%の割合で塗布し、加熱乾燥し、一層のコーティング層を形成させて、原料粉(軟磁性材料)を作製した。
【0082】
その後、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaで温間成形を行って、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmのトロイダルコアを成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、1層の絶縁被膜層を有する圧粉磁心を得た。
【0083】
<比較例2>
まず、鉄を主成分とする軟磁性粒子及びその表面に形成された絶縁膜を有するコア粒子として、絶縁膜付き純鉄(ヘガネスAB社製、商品名:Somaloy700、平均粒径約200μm)を準備した。次に、アルミニウムイソプロポキシドをトルエンに溶かしたAlアルコキシド溶液と、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシドをトルエンに溶かしたZrアルコキシド溶液をそれぞれ作製した。続いて、絶縁膜付き純鉄に、前記Alアルコキシド溶液と前記Zrアルコキシド溶液をそれぞれ軟磁性粉に含まれるFe原子量に対してAl原子量で0.075mol%、Zr原子量で0.075mol%の割合で塗布し、加熱乾燥し、原料粉(軟磁性材料)を作製した。
【0084】
その後、原料粉(軟磁性材料)に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、その混合物を混合器(筒井理化学器械製、商品名:Vミキサー)に入れ、回転数12rpmで10分間混錬した。次いで、混練した混合物(混練物)を、130℃の温度下981MPaで温間成形を行って、外径17.5mm、内径10mm、厚さ4mmのトロイダルコア(成形体)を成形した。その後、窒素とAirの切替雰囲気による550℃熱処理を行い、圧粉磁心を得た。
【0085】
得られた圧粉磁心の構造をTEM観察によって確認した。図6は、得られた圧粉磁心の成分組成を示すグラフである。図6に示すとおり、比較例2の圧粉磁心は、その絶縁被膜層の最外層はFe元素含有量がZr、及びAlの元素含有量よりも少ないものであり、酸化鉄をほとんど含んでいないことが確認された。
【0086】
<評価方法>
磁気特性の評価としてBHアナライザー(IWASTU製SY−8258)を用いて1kHz、1Tでの鉄損及び透磁率を測定した。また、圧粉コアに巻線を巻きつけ(一次巻線:50ts、二次巻線:10ts)、直流磁化特性試験装置(メトロン技研社製SK110)により直流磁場中のヒステリシス曲線を測定し、磁場8000A/mでの磁束密度の値を求めた。圧環強度は抗折強度試験器(AIKOH ENGINEERING社製1311D)により、トロイダルコアの強度を測定した。電気抵抗率はトロイダルコアの両端側面を研磨してIn−Gaペーストを塗って端子電極を形成し、端子間の抵抗値をTSURUGA製(MODEL3569 or MODEL3568)で測定後、下記式に基づいて棒状試料の電気抵抗率に換算した。
電気抵抗率=(20.343×実測値)+418.92
【0087】
表1に、各実施例及び各比較例の測定結果を示す。
【表1】

【0088】
表1に示す通り、絶縁被膜層の最外層に酸化鉄を含む実施例1〜5の圧粉磁心は、絶縁被膜層の最外層に酸化鉄を含まない比較例1及び2の圧粉磁心に比して、低コアロスであり、コア抵抗(抵抗値及び電気抵抗率)及び磁束密度、透磁率がともに高いことが確認された。比較例1は、非鉄金属による酸化物が少ないため、透磁率や磁束密度は高いがコア抵抗(抵抗値及び電気抵抗率)が低く、そのためコアロスも高いことが確認された。
【0089】
比較例1より非鉄金属の種類及び混合量を増やした比較例2においては、非鉄金属による酸化物の増加により、コア抵抗(抵抗値及び電気抵抗率)は向上しているが絶縁被膜層内の非磁性層が厚くなるため透磁率及び磁束密度などの磁気特性が下がる傾向にある。しかし、実施例1〜5の圧粉磁心は非鉄金属による酸化物を増やしても最外層に酸化鉄を含む磁性層をもつため、磁気特性が向上され、低コアロス、コア抵抗(抵抗値及び電気抵抗率)及び磁束密度、透磁率がともに高いことが確認された。
【0090】
また、絶縁被膜層の内層にFeを含む実施例2〜5の圧粉磁心は、絶縁被膜内の密着性、均一性、磁気特性がFe原子によりさらに高められるため、より低コアロスで高いコア抵抗(抵抗値及び電気抵抗率)及び磁束密度を持つことが確認された。特にアルコキシドを含むコーティング層から作製される実施例1〜3は透磁率が高く、金属錯体を含むコーティング層から作製される実施例4〜5はコア抵抗(抵抗値及び電気抵抗率)が高い傾向にあることが確認された。
【0091】
実施例1〜5の圧粉磁心は、いずれも7.60(g/cm3)を超える程度まで高密度化であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の圧粉磁心は、高電気抵抗率かつ高磁束密度であるため、インダクタ、各種トランス等の電気・磁気デバイス、及びそれらを備える各種機器、設備、システム等に幅広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…複合磁性粒子、2…コア粒子、3…絶縁被膜層、3a…内層、3b…最外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも複合磁性粒子を含有する圧粉磁心であって、
前記複合磁性粒子は、鉄を主成分とするコア粒子と、前記コア粒子上に形成された絶縁被膜層と、を備え、
前記絶縁被膜層は、前記コア粒子上に形成された内層と、前記内層上に形成された最外層と、を少なくとも有し、
前記最外層が、酸化鉄を主成分として含む、
圧粉磁心。
【請求項2】
前記コア粒子は、鉄を主成分とする軟磁性粒子、及び前記軟磁性粒子の表面に形成された絶縁膜を有する、
請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記コア粒子の前記絶縁膜は、リン酸鉄を含む、
請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記内層は、酸化鉄と、少なくとも1種以上の非鉄金属の酸化物と、を含む、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記非鉄金属として、アルミニウム、ジルコニウム、シリコン、チタン、マグネシウム、クロム、マンガン、ナトリウム、リチウム、亜鉛、バリウム、及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項4に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記絶縁被膜層の膜厚の合計が、50nm以上1.5μm以下である、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の圧粉磁心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−94804(P2012−94804A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26134(P2011−26134)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】