説明

圧縮システム

患者の肢体(一般には大腿)に巻きつける膨張可能なスリーブ6を備える装置である。上記スリーブ6は3つの膨張可能なチャンバー3,4,5を含む。まず遠位のチャンバー3を低圧に膨張させて圧迫帯として機能させた後、流体の流れを胴体方向へ押し上げるような圧力に中央のチャンバー4を膨張させ、そして、近位のチャンバー5を低圧に膨張させて圧迫帯として機能させ、さらに、肢体の下流において負圧勾配を生じさせ、流体を肢体に沿って胴体方向へ汲み上げるように遠位のチャンバー3と中央のチャンバー4を収縮させるように、ポンプ1により膨張を制御する。上記循環を2分間に複数回繰り返した後、肢体を2分間休憩させるようにして、増大した平均動脈血流を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の肢体に圧縮をかけるための圧縮装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の健康を保つためには、血液の流れとリンパの流れを最適にすることが必要である。健康な生体においては、多くの恒常性システムの相互作用によって、これらの流体の流れが最適に制御される。流体輸送用脈管のいずれかの最適な流れが長期間中断されると、組織の悪化が生じる。組織の健康という点から見れば、流体の排出と供給は同等の重要性を持っている。血管疾患においては、影響された組織に対して往復する血流を適当に拡大させると、組織の健康状況が改善されるとともに、組織の創傷部位で急速に治癒が促進される。
【0003】
従来、この分野においては、患者の肢体に圧縮性圧力をかけることにより血液の流れを改善する各種の圧縮装置が知られている。一例として、手術の前後に下肢にかけられる深部静脈血栓症(DVT)予防用の間欠的空気圧迫(IPC)システムが挙げられる。これらのシステムにより、下肢静脈における連続的な流れが促進され、鬱血及びその後の血栓症が防止される。肢体全体を被覆するマルチチャンバーを有する膨張可能なガーメントを利用したより複雑な圧縮システムは、リンパ水腫の治療に適用できる。過剰な間質液を押し上げるように、上記チャンバーを連続的に膨張、収縮させる。また、間欠的な圧縮は治癒しにくい静脈創傷にも適用できる。これらの技術はいずれも、種々の圧縮循環期間と圧力をもって適用される。しかし、上記技術のそれぞれは、特定の脈管のみに適用され、その他の脈管への影響については考慮が十分ではない。例えば、DVT予防は、動脈流への影響を考慮せずに深部静脈のみに対応するものであり、リンパ水腫治療法は、リンパの流れを促進するためのもので、動脈流と動脈流への影響を考慮せず、特に、無効な弁膜を有する静脈については何も考慮していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも遠位のチャンバー、中央のチャンバー及び近位のチャンバーの3つの膨張可能なチャンバーを含み、肢体の周りに巻きつけられるスリーブと、個別に前記チャンバーを膨張させる手段と、まず、前記肢体中の静脈を閉塞するが動脈を閉塞しないような圧力に前記遠位のチャンバーを膨張させ、次に、前記肢体における流体を胴体方向へ押し上げるような圧力に前記中央のチャンバーを膨張させ、最後に、前記肢体における前記静脈を閉塞するが前記動脈を閉塞しないような圧力に前記近位のチャンバーを膨張させ、また、前記肢体の下流において負圧勾配を生じさせ、流体を前記肢体に沿って胴体方向へ汲み上げるように、前記遠位のチャンバーと前記中央のチャンバーを収縮させる制御手段と、を備える患者の肢体に圧縮をかける装置を提供する。チャンバーの膨張と収縮の特別なシーケンスにより、逆流防止弁を備えるポンプのように装置を動作させることができる。このように、上記装置は有効な静脈弁膜の欠如を補うための外部静脈弁膜としての機能を備える。上記装置は、創傷の治癒への適用において、肢体の創傷部位から離れた近位部に利用される点で好ましく、これにより、創傷の手当て用品に接近することを許容し、創床の肉芽組織の成長に影響を与えることなく、無痛治療を提供する。
【0006】
遠位の創傷から離れた圧縮装置と特別なタイミングシーケンス及び低圧ポンピングとの組み合わせを利用することにより、患者に不快感を与えることなく、遠位の栄養毛細管床において、ほぼ通常の圧力勾配を形成することができる。
【0007】
好適な実施の形態では、チャンバーの膨張と収縮のシーケンスを2分間に複数回繰り返した後、2分間にわたって何の圧縮もしない。チャンバーの膨張と収縮のシーケンスは、2分間に少なくとも6回繰り返すことが好ましい。
【0008】
本発明の他の態様によれば、
a.肢体に遠位のチャンバー、中央のチャンバーと近位のチャンバーとを含む膨張可能なスリーブを設置する工程と、
b.まず、前記スリーブの遠位のチャンバーを、圧迫帯として機能するような低圧に膨張させる工程と、
c.次に、前記スリーブの前記中央のチャンバーを、流体を肢体に沿って胴体方向へ押し上げるような圧力に膨張させる工程と、
d.最後に、前記スリーブの前記近位のチャンバーを、圧迫帯として機能するような低圧に膨張させる工程と、
e.前記中央のチャンバーと前記遠位のチャンバーを、前記肢体の下流において負圧勾配を生じさせ、流体を肢体に沿って胴体方向へ汲み上げるように、収縮させる工程と、
を有する、患者の肢体に圧縮をかける方法を提供する。
【0009】
好ましくは2分間に上記工程を数回、より好ましくは6回繰り返してから、2分間休憩させる。
【0010】
本発明は、以下の図面を参照しながら単なる例として、ここで詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による圧縮装置を示す模式図である。
【図2a】本発明による図1に示すガーメントにおけるチャンバーの圧縮シーケンスを示す図である。
【図2b】本発明による図1に示すガーメントにおけるチャンバーの圧縮シーケンスを示す図である。
【図2c】本発明による図1に示すガーメントにおけるチャンバーの圧縮シーケンスを示す図である。
【図2d】本発明による図1に示すガーメントにおけるチャンバーの圧縮シーケンスを示す図である。
【図2e】本発明による図1に示すガーメントにおけるチャンバーの圧縮シーケンスを示す図である。
【図3】図2a〜2eに示すチャンバーの膨張/収縮のシーケンスを示すフローチャートである。
【図4】本発明による好適な実施の形態に係るガーメントにおけるチャンバーの圧力時間プロファイルである。
【図5】本発明による好適な実施の形態に係る膨張/収縮の循環に対する動脈血液の流れの充血反応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記図面を参照しながら、実施の形態のみにより本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明による圧縮システムは一般に下肢の大腿に適用されているが、下肢のほかの領域やほかの肢体に適用されてもよい。ポンプ1は、ガーメント6、及び上記チャンバー(遠位のチャンバー3、中央のチャンバー4と近位のチャンバー5)のそれぞれに接続される。ガーメント6は、例えば、巻きつける(wrap around)構成と、留め金とパイル留め具又はその類似物により固定される構成とを含む様々な手段により構成されてもよい。コンプレッサー6と、バルブブロック7と、バルブタイミング・圧力調節制御手段2とからなるポンプ1は、所定のシーケンスと所定の圧力で順次にチャンバー3,4,5を膨張/収縮させるように制御され、静脈とリンパにポンプ式動作を与えると同時に動脈に充血の刺激をかける。無効な弁膜を有する静脈に対しては、3つのチャンバーの配置により、外部静脈弁膜としての機能を備える。ほぼ拡張期血圧に近くなるようにかけられた圧力を利用して、3つの流体導管、すなわち、静脈、動脈及びリンパにおいて、連続的な生理的流体の流れを同時に促進する。
【0014】
使用される場合、大腿に適用されると、遠位のチャンバー3と近位のチャンバー5が低圧的圧迫帯として機能するような圧力に膨張され、これにより、静脈は閉塞するが動脈は閉塞しない。中央のチャンバー4は静脈の実質的部分を圧縮し、これにより、遠位のチャンバー3を圧縮すると同時に血液を骨盤に向かって胴体方向へ押し上げる。図2a〜図2e及び図3に示すようなシーケンスは、
i.膨張時に中央のチャンバー4からの背圧を防止するために(特に、無効な静脈弁膜がある場合)遠位のチャンバー3を膨張させる工程と、
ii.静脈中の血液を骨盤に向かって押し上げるように中央のチャンバー4を膨張させる工程と、
iii.近位の血柱を支持するために近位のチャンバー5を膨張させる工程と、
iv.足からの負圧勾配を生じさせ、血液を下肢に沿って胴体方向へ汲み上げるように、遠位のチャンバー3と中央のチャンバー4を収縮させる工程と、
v.上記の循環を繰り返す工程と、を含む。
【0015】
圧力と循環期間は特定の要求と条件に従って調整されてもよい。
【0016】
図4は本発明による好適な実施の形態の圧縮シーケンスを示す図である。図には、圧縮装置が4分間の全体循環を含む膨張・収縮管理体制を有し、その最初の2分間は6つの20秒の静脈ポンプ循環からなり、その後の2分間は圧縮しないようにし、これにより、刺激されて充血反応が生じたために高められた動脈血液の流入が完全に実現し、最初の2分間に、大腿における低い静脈圧力が、また、遠位の組織からの静脈とリンパの流出を拡大させることが示されている。図5は、圧縮循環の2分間の停止期間内において増加された時間平均の平均動脈血液の流れによって、図4に示す本発明の好適な実施の形態による圧縮ガーメントを応用することにより生じた充血反応を示す。
【0017】
これらの作用の組み合わせにより組織潅流をほぼ正常に回復させる。これは、本発明の圧縮システムを使用することにより、特に浅静脈において、遠位の血液量が低減され、また静脈血流速度が向上することを示すテストによって支持される。上記圧縮装置は静脈弁膜の動作を模擬できることが確認され、これは静脈機能不全に対して特に重要なことである。
【符号の説明】
【0018】
1 ポンプ、2 圧力調節制御手段、3 遠位のチャンバー、4 中央のチャンバー、5 近位のチャンバー、6 ガーメント、7 バルブブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の肢体に圧縮をかける装置であって、
少なくとも遠位のチャンバー、中央のチャンバー及び近位のチャンバーの3つの膨張可能なチャンバーを含み、肢体の周りに巻きつけられるスリーブと、
前記チャンバーを膨張させる手段と、
まず、前記肢体中の静脈を閉塞するが動脈を閉塞しないような圧力に前記遠位のチャンバーを膨張させ、次に、前記肢体における流体を胴体方向へ押し上げるような圧力に前記中央のチャンバーを膨張させ、最後に、前記肢体における前記静脈を閉塞するが前記動脈を閉塞しないような圧力に前記近位のチャンバーを膨張させるように、所定のシーケンスで前記チャンバーを膨張させ、それぞれのチャンバーを所定の圧力にし、また、前記肢体の下流において負圧勾配を生じさせ、流体を前記肢体に沿って胴体方向へ汲み上げるように、前記遠位のチャンバーと前記中央のチャンバーを収縮させる制御手段と、
を備える装置。
【請求項2】
前記制御手段が、前記チャンバーにおける前記膨張と収縮のシーケンスを2分間に複数回繰り返し、その後2分間休憩するように設定される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記2分間に前記チャンバーにおける前記膨張と収縮のシーケンスを少なくとも6回繰り返すように設定される請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記スリーブが、患者の下肢の大腿に巻きつけられるように構成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
患者の肢体に圧縮をかける方法であって、
a.肢体に遠位のチャンバー、中央のチャンバーと近位のチャンバーを含むスリーブを設置する工程と、
b.まず、前記スリーブの遠位のチャンバーを、圧迫帯として機能するような低圧に膨張させる工程と、
c.次に、前記スリーブの前記中央のチャンバーを、流体を肢体に沿って胴体方向へ押し上げるような圧力に膨張させる工程と、
d.最後に、前記スリーブの前記近位のチャンバーを、圧迫帯として機能するような低圧に膨張させる工程と、
e.前記中央のチャンバーと前記遠位のチャンバーを、前記肢体の下流において負圧勾配を生じさせ、流体を肢体に沿って胴体方向へ汲み上げるように、収縮させる工程と、
を有する方法。
【請求項6】
前記工程a〜eにより1つの循環を構成し、この循環は2分間に複数回繰り返した後、2分間の休憩期間がある請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記2分間に前記循環が6回繰り返される請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−508931(P2010−508931A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535782(P2009−535782)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004168
【国際公開番号】WO2008/056108
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(503003337)ハントリー テクノロジー リミテッド (18)
【Fターム(参考)】