説明

圧電アクチュエータのメンテナンス方法、液体吐出ヘッドのメンテナンス方法、液体吐出装置、及び画像形成装置

【課題】コストアップを招くことなく、圧電アクチュエータの変位劣化を回復させ、耐久性を向上させる。
【解決手段】 振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備え、前記振動板が圧力室の一壁面を構成する圧電アクチュエータのメンテナンス方法であって、
前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める加圧工程を含むことを特徴とする圧電アクチュエータのメンテナンス方法を提供することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備えた圧電アクチュエータのメンテナンス方法、液体吐出ヘッドのメンテナンス方法、液体吐出装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置は、記録ヘッド(インクジェットヘッド)のノズルからインク液滴を記録媒体に向かって吐出することにより記録を行うものであり、記録動作時の騒音が低く、ランニングコストが安く、高解像、高品質な画像記録が可能であり、様々な分野で幅広く利用されている。インク吐出方式として、例えば、圧電素子の変位を利用して圧力室の壁面を変化させ、圧力室内のインクを加圧することで圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する方式が好ましく用いられている。
【0003】
ところで、圧電素子を長時間駆動させていると、その変位性能が低下することが知られている。この使用による圧電素子の変位性能の低下を回復する方法として、例えば、特許文献1では、圧電素子に、駆動時に印加した電場方向と反対の方向に抗電界以上の電界を印加する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平6−342946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、圧電素子を長時間駆動させた後に駆動方向と逆方向の電界を印加することによって、変位量が初期の値とほぼ同様になるものの、これは使用中に駆動方向と逆方向の電界を印加するしかないため、プラスとマイナスの両方の電界をスルーさせるスイッチングICをインクジェットヘッドに用いる必要があり、コストが高くなるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、コストアップを招くことなく、圧電アクチュエータの変位劣化を回復させることができ、耐久性を向上させることができる圧電アクチュエータのメンテナンス方法、液体吐出ヘッドのメンテナンス方法、液体吐出装置、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る圧電アクチュエータのメンテナンス方法(請求項1に記載の発明)は、振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備え、前記振動板が圧力室の一壁面を構成する圧電アクチュエータのメンテナンス方法であって、前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める加圧工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、圧電素子の非駆動状態のときに、振動板が圧力室とは反対側に凸状となるように圧力室の内圧を高めて振動板を機械的に変形させることにより、コストアップを招くことなく、圧電体に電界を印加していないときの振動板の反り量を小さくすることができる。これにより、圧電体に電界を印加したときの振動板の変位量は大きくなり、圧電アクチュエータの変位劣化を回復させることができる。その結果、圧電アクチュエータの耐久性を向上させることができる。
【0008】
また、前記目的を達成するために、本発明に係る液体吐出ヘッドのメンテナンス方法(請求項2に記載の発明)は、振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備えた圧電アクチュエータと、前記振動板によって一壁面が構成され、液体を収容する圧力室と、前記圧力室に連通し、前記液体を吐出するノズルとを備えた液体吐出ヘッドのメンテナンス方法であって、前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記ノズルの開口部を封止部材で封止し、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める加圧工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、圧電素子の非駆動状態のときに、ノズルの開口部を封止部材で封止し、振動板が圧力室とは反対側に凸状となるように圧力室の内圧を高めて振動板を機械的に変形させることにより、コストアップを招くことなく、圧電体に電界を印加していないときの振動板の反り量を小さくすることができる。これにより、圧電体に電界を印加したときの振動板の変位量は大きくなり、圧電アクチュエータの変位劣化を回復させることができる。その結果、圧電アクチュエータの耐久性を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス方法の一態様に係り、前記加圧工程は、前記圧力室内に前記液体が充填されている状態で行われることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス方法の一態様に係り、前記圧力室から前記液体を回収して気体を充填する工程を含み、前記加圧工程は、前記圧力室内に前記気体が充填されている状態で行われることを特徴とする。
【0012】
また、前記目的を達成するために、本発明に係る液体吐出装置(請求項5に記載の発明)は、振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備えた圧電アクチュエータと、前記振動板によって一壁面が構成され、液体を収容する圧力室と、前記圧力室に連通し、前記液体を吐出するノズルと、前記ノズルの開口部を封止する封止部材と、前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記ノズルの開口部を封止部材で封止し、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、前記目的を達成するために、本発明に係る画像形成装置(請求項6に記載の発明)は、請求項5に記載の液体吐出装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧電素子の非駆動状態のときに、振動板が圧力室とは反対側に凸状となるように圧力室の内圧を高めて振動板を機械的に変形させることにより、コストアップを招くことなく、圧電体に電界を印加していないときの振動板の反り量を小さくすることができる。これにより、圧電体に電界を印加したときの振動板の変位量は大きくなり、圧電アクチュエータの変位劣化を回復させることができる。その結果、圧電アクチュエータの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0016】
〔記録ヘッドの構成〕
まず、本発明で用いられる液体吐出ヘッドの一実施形態として、記録ヘッド(インクジェットヘッド)の構成例について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る記録ヘッドの要部構成を示した断面図である。同図に示すように、この記録ヘッド10は、インクの吐出口となるノズル12と、ノズル12に連通する圧力室14と、圧力室14内の容積を変化させる圧電アクチュエータ16とから主に構成される。
【0018】
図示は省略するが、記録ヘッド10の吐出面(ノズル面)には複数のノズル12が2次元状(マトリクス状)に設けられている。記録ヘッド10内部には、各ノズル12にそれぞれ対応する圧力室14が設けられており、各ノズル12はそれぞれ対応する圧力室14に連通している。各圧力室14の一端(図1においてノズル12が連通する側とは反対側の端部)にはそれぞれインク供給口18が形成されている。各圧力室14はそれぞれインク供給口18を介して共通流路20と連通しており、共通流路20内のインクが各圧力室14にそれぞれ分配供給される。なお、共通流路20には、図5に示すインク貯蔵/装填部214に配置されるインクタンク(不図示)からインク供給が行われる。
【0019】
図1に示す圧電アクチュエータ16は、圧力室14の壁面(図1の上面)を構成する振動板22上の各圧力室14にそれぞれ対応する位置に下部電極30、圧電体32、及び上部電極34が順次積層された構造となっている。各圧力室14に対応する下部電極30、圧電体32、及び上部電極34は圧電素子36を構成し、圧力室14内のインクを加圧する圧力発生手段として機能する。
【0020】
下部電極30及び上部電極34は、Ir、Pt、Ti等の電極材料で構成され、上述したように各圧力室14に対応する位置にそれぞれ設けられている。
【0021】
本実施形態では、下部電極30が共通電極であり、上部電極34が個別電極である構造(上部アドレス構造)が採用されており、上部電極(個別電極)34には外部配線(例えばフレキシブルケーブルなど)38が接続される。一方、各圧力室14に対応する下部電極(共通電極)30は、不図示の位置において互いに電気的に接続されて接地されている。下部電極30が共通電極となる態様の場合、振動板22上の全面に下部電極30が形成されていてもよい。
【0022】
ヘッドドライバ(図1中不図示、図8に符号284で記載)から外部配線38を介して所定の駆動信号が圧電素子36の上部電極(個別電極)34に供給され、下部電極30及び上部電極34の間に配置された圧電体32に電界が印加されると、圧電体32の伸縮によって振動板22が圧力室14側に凸状となるように変形し、これにより、圧力室14内のインクが加圧され、圧力室14に連通するノズル12からインク滴が吐出される。インク吐出後、振動板22が元の状態に復帰する際、共通流路20からインク供給口18を介して圧力室14に新しいインクが供給され、次のインク吐出動作に備えられる。
【0023】
〔記録ヘッドの製造方法〕
次に、図1に示した記録ヘッド10の製造方法について説明する。図2〜図4は、本発明の実施形態に係る記録ヘッド10の製造方法の一例を示した工程図である。
【0024】
まず、表面に絶縁層108が形成されたSOI基板100を用意する(図2(a))。SOI基板100は、シリコン基板(Si基板)で構成される支持体102と、シリコン酸化膜(SiO膜)で構成されるBox層104と、シリコン基板(Si基板)で構成される活性層106とから構成される多層基板である。本例の絶縁層108はシリコン酸化膜(SiO膜)で構成され、熱酸化法、スパッタ法、CVD法などの方法で形成することができる。絶縁層108は、ZrO、Alなどの酸化物、SiCN、TiAlN、Si、TiAlCrNなどの窒化物、SiONなどの酸窒化物、樹脂などで構成されていてもよい。
【0025】
次に、絶縁層108の表面全体に下部電極110を成膜する(図2(b))。下部電極110の材料としては、Ir、Pt、Ti等の電極材料が挙げられる。下部電極110の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、CVD法などの方法がある。下部電極110の厚さは、例えば100〜300nmである。続いて、エッチングにより下部電極110のパターニングを行う(図2(c))。具体的には、ドライエッチング(RIE)により下部電極110を圧力室14(図4参照)毎に個別化する。絶縁層108上に下部電極110をベタ成膜してエッチングする工程に代えて、レジストを用いたリフトオフ成膜によって下部電極110を各圧力室14にそれぞれ対応する位置に形成してもよい。
【0026】
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb、(Zr,Ti)O)等で構成されるバルクの圧電体112の一方の面に犠牲層113が形成されたものを用意し、圧電体112が所望の厚さ(例えば、25μm)となるまで圧電体112の表面を研磨する(図2(d))。
【0027】
次に、図2(c)に示すSOI基板100の下部電極110が形成される面側に、上記犠牲層113が形成された圧電体112を貼り付け(図2(e))、その後、犠牲層113を除去する(図3(a))。
【0028】
次に、圧電体112の表面全体に上部電極114を成膜する(図3(b))。上部電極114の材料は、Ir、Pt、Ti、Au等の電極材料が挙げられる。上部電極114の形成方法は、スパッタ法、蒸着法、CVD法などがある。上部電極114の厚みは、例えば100〜300nmである。
【0029】
次に、圧電体112をキュリー点以上の温度でアニール処理を施し、再分極を行う。分極条件としては、例えば、圧電体112に対して4kV/mm程度の電界を約1分間印加する。
【0030】
圧電体112を研磨すると、研磨時に生じる応力、熱によって、圧電体112の減極や圧電体表面付近のドメイン方向のばらつきが起こり、圧電素子36(図1参照)を長時間にわたって駆動したときの変位性能の低下が著しくなるが、本製造方法によれば、圧電体112がキュリー点以上の温度に加熱され、再分極が行われるので、長時間にわたって変位性能の劣化が生じることなく圧電素子36を駆動することができる。
【0031】
また、前工程(例えば、圧電体112を研磨する工程や上部電極114を成膜する工程など)において、圧電体112が100℃以上キュリー点以下の温度に加熱されると、圧電体112の加熱が行われない場合に比べて変位性能が低下する影響を受けるが、本製造方法によれば、圧電体112がキュリー点以上の温度に加熱され、再分極が行われるので、その影響を効果的にキャンセルすることができる。
【0032】
次に、エッチングにより上部電極114のパターニングを行う(図3(c))。具体的には、フッ素系ガス又は塩素系ガスを用いたドライエッチング(RIE)によって上部電極114をパターニングする。圧電体112上に上部電極114をベタ成膜してエッチングする工程に代えて、レジストを用いたリフトオフ成膜によって上部電極114を圧電体112上に形成してもよい。
【0033】
次に、エッチングにより圧電体112のパターニングを行う(図3(d))。具体的には、上部電極114と同様、フッ素系ガス又は塩素系ガスを用いたドライエッチング(RIE)によって上部電極114をパターニングする。このとき、絶縁層108上に圧電体112が残らないようにエッチングにより除去することが好ましく、圧電体112の剥離を防止することができる。また、図示は省略するが、上部電極114及び圧電体112を同時にエッチングする態様もある。
【0034】
次に、SOI基板100の下面側を構成する支持体(シリコン基板)102に対して、エッチング等により圧力室14となる開口部116を形成する(図4(a))。続いて、ノズル12や共通流路20などが形成された流路形成基板118をSOI基板100の下面側に接合する(図4(b))。
【0035】
最後に、導電性接着剤を用いて上部電極114に外部配線38の一端を接着することにより、本実施形態の記録ヘッド10を得ることができる(図4(c))。
【0036】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
次に、本発明に係る画像形成装置としての一実施形態であるインクジェット記録装置について説明する。
【0037】
図5は、インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。図5に示すように、このインクジェット記録装置200は、インクの色毎に設けられた複数の記録ヘッド212K、212C、212M、212Yを有する印字部212と、各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部214と、記録紙216を供給する給紙部218と、記録紙216のカールを除去するデカール処理部220と、前記印字部212のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙216の平面性を保持しながら記録紙216を搬送する吸着ベルト搬送部222と、印字部212による印字結果を読み取る印字検出部224と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部226と、を備えている。各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yはそれぞれ図1に示した記録ヘッド10に相当するものである。
【0038】
図5では、給紙部218の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0039】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図5のように、裁断用のカッター228が設けられており、該カッター228によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター228は、記録紙216の搬送路幅以上の長さを有する固定刃228Aと、該固定刃228Aに沿って移動する丸刃228Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃228Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃228Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター228は不要である。
【0040】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0041】
給紙部218から送り出される記録紙216はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部220においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム230で記録紙216に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0042】
デカール処理後、カットされた記録紙216は、吸着ベルト搬送部222へと送られる。吸着ベルト搬送部222は、ローラー231、232間に無端状のベルト233が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部212のノズル面及び印字検出部224のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
【0043】
ベルト233は、記録紙216の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図5に示したとおり、ローラー231、232間に掛け渡されたベルト233の内側において印字部212のノズル面及び印字検出部224のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー234が設けられており、この吸着チャンバー234をファン235で吸引して負圧にすることによってベルト233上の記録紙216が吸着保持される。
【0044】
ベルト233が巻かれているローラー231、232の少なくとも一方にモータ(不図示)の動力が伝達されることにより、ベルト233は図5において、時計回り方向に駆動され、ベルト233上に保持された記録紙216は、図5の左から右へと搬送される。
【0045】
縁無しプリント等を印字するとベルト233上にもインクが付着するので、ベルト233の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部236が設けられている。ベルト清掃部236の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0046】
なお、吸着ベルト搬送部222に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。従って、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0047】
吸着ベルト搬送部222により形成される用紙搬送路上において印字部212の上流側には、加熱ファン240が設けられている。加熱ファン240は、印字前の記録紙216に加熱空気を吹きつけ、記録紙216を加熱する。印字直前に記録紙216を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0048】
印字部212は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている。印字部212を構成する各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yは、本インクジェット記録装置200が対象とする最大サイズの記録紙216の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている(図6参照)。
【0049】
記録紙216の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図5の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した記録ヘッド212K、212C、212M、212Yが配置されている。記録紙216を搬送しつつ各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙216上にカラー画像を形成し得る。
【0050】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部212によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙216と印字部212を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙216の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0051】
なお本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する記録ヘッドを追加する構成も可能である。
【0052】
図5に示したように、インク貯蔵/装填部214は、各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部214は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0053】
印字検出部224は、印字部212の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0054】
本例の印字検出部224は、少なくとも各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0055】
印字検出部224は、各色の記録ヘッド212K、212C、212M、212Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0056】
印字検出部224の後段には、後乾燥部242が設けられている。後乾燥部242は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0057】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0058】
後乾燥部242の後段には、加熱・加圧部244が設けられている。加熱・加圧部244は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー245で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0059】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部226から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置200では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部226A、226Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)248によってテスト印字の部分を切り離す。カッター248は、排紙部226の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター248の構造は前述した第1のカッター228と同様であり、固定刃248Aと丸刃248Bとから構成されている。また、図示を省略したが、本画像の排出部226Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0060】
〔インク供給系の構成〕
図7は、インクジェット記録装置200におけるインク供給系の構成を示した概要図である。なお、上述したように、図6に示した各記録ヘッド212K、212C、212M、212Yはそれぞれ記録ヘッド10に相当するものであり、各色の記録ヘッド毎に同一のインク供給構成が適用される。
【0061】
インクタンク260は記録ヘッド10にインクを供給する基タンクであり、図5で説明したインク貯蔵/装填部214に設置される。インクタンク260の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図7のインクタンク260は、先に記載した図5のインク貯蔵/装填部214と等価のものである。
【0062】
図7に示したように、インクタンク260と記録ヘッド10の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ262と供給ポンプ263が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。図7には示さないが、記録ヘッド10の近傍又は記録ヘッド10と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
【0063】
供給ポンプ263は、インクタンク260と記録ヘッド10との間でインクを移動させる液体移動手段として機能するものであり、後述するシステムコントローラ272(図8参照)による供給ポンプ263の駆動制御によって、インクタンク260から記録ヘッド10に対するインク供給量が調整され、記録ヘッド10における圧力室14内のインクが所定の圧力に制御される。
【0064】
また、インクジェット記録装置200には、ノズル12の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ264と、ノズル面10Aの清掃手段としてのクリーニングブレード266とが設けられている。これらキャップ264及びクリーニングブレード266を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって記録ヘッド10に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から記録ヘッド10下方のメンテナンス位置に移動される。
【0065】
キャップ264は、図示せぬ昇降機構によって記録ヘッド10に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ264を所定の上昇位置まで上昇させ、記録ヘッド10に密着させることにより、ノズル面10Aをキャップ264で覆う。
【0066】
クリーニングブレード266は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構により記録ヘッド10のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード266をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。
【0067】
印字中又は待機中において、特定のノズルの使用頻度が低くなり、ノズル近傍のインク粘度が上昇した場合、その劣化インクを排出すべくキャップ264に向かって予備吐出が行われる。
【0068】
また、記録ヘッド10内のインク(圧力室14内)に気泡が混入した場合、記録ヘッド10にキャップ264を当て、吸引ポンプ267で圧力室14内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク268へ送液する。この吸引動作は、初期のインクの記録ヘッド10への装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。
【0069】
記録ヘッド10は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用の圧電素子36が動作してもノズル12からインクが吐出しなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(圧電素子36の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かって圧電素子36を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面10Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード266等のワイパーによってノズル板表面の汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル12内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
【0070】
また、ノズル12や圧力室14に気泡が混入したり、ノズル12内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなるため、以下に述べる吸引動作を行う。
【0071】
すなわち、ノズル12や圧力室14のインク内に気泡が混入した場合、或いはノズル12内のインク粘度があるレベル以上に上昇した場合には、圧電素子36を動作させてもノズル12からインクを吐出できなくなる。このような場合、記録ヘッド10のノズル面10Aに、圧力室14内のインクをポンプ等で吸い込む吸引手段を当接させて、気泡が混入したインク又は増粘インクを吸引する動作が行われる。
【0072】
ただし、上記の吸引動作は、圧力室14内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。したがって、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。
【0073】
〔制御系の構成〕
図8は、インクジェット記録装置200の制御系を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置200は、通信インターフェース270、システムコントローラ272、画像メモリ274、モータドライバ276、ヒータドライバ278、プリント制御部280、画像バッファメモリ282、ヘッドドライバ284等を備えている。
【0074】
通信インターフェース270は、ホストコンピュータ286から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース270にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ286から送出された画像データは通信インターフェース270を介してインクジェット記録装置200に取り込まれ、一旦画像メモリ274に記憶される。
【0075】
画像メモリ274は、通信インターフェース270を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ272を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ274は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0076】
システムコントローラ272は、通信インターフェース270、画像メモリ274、モータドライバ276、ヒータドライバ278、ポンプドライバ279等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ272は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ286との間の通信制御、画像メモリ274の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ288やヒータ289、ポンプ290を制御する制御信号を生成する。
【0077】
モータドライバ276は、システムコントローラ272からの指示に従ってモータ288を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ278は、システムコントローラ272からの指示に従って後乾燥部242その他各部のヒータ289を駆動するドライバである。
【0078】
また、ポンプドライバ279は、システムコントローラ272からの指示に従ってポンプ290を駆動するドライバ(駆動回路)である。図8には、装置内の各部に配置されるポンプを代表して符号290で図示されている。例えば、図8に示すポンプ290には、図7の供給ポンプ263や吸引ポンプ267が含まれている。
【0079】
プリント制御部280は、システムコントローラ272の制御に従い、画像メモリ274内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(ドットデータ)をヘッドドライバ284に供給する制御部である。プリント制御部280において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ284を介して記録ヘッド10(212K、212C、212M、212Y)のインク滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0080】
プリント制御部280には画像バッファメモリ282が備えられており、プリント制御部280における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ282に一時的に格納される。なお、図8において画像バッファメモリ282はプリント制御部280に付随する態様で示されているが、画像メモリ274と兼用することも可能である。また、プリント制御部280とシステムコントローラ272とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0081】
ヘッドドライバ284は、プリント制御部280から与えられるドットデータに基づいて各色の記録ヘッド10の圧電素子36(図1参照)を駆動するための駆動信号を生成し、圧電素子36に生成した駆動信号を供給する。ヘッドドライバ284には記録ヘッド10の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0082】
印字検出部224は、図5で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙216に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部280に提供する。
【0083】
プリント制御部280は、必要に応じて印字検出部224から得られる情報に基づいて記録ヘッド10に対する各種補正を行う。
【0084】
〔記録ヘッドのメンテナンス方法〕
次に、本発明に係る圧電アクチュエータ及び液体吐出ヘッドのメンテナンス方法の一例として、図1に示した記録ヘッド10のメンテナンス方法について説明する。
【0085】
本発明者は、鋭意検討した結果、図1に示した記録ヘッド10において、圧電アクチュエータ16の変位量(即ち、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量)は、圧電体32に電界を印加していないときの反り量と相関関係があることを見出した。
【0086】
図9は、圧電体32に電界を印加していないときの振動板22の反り量と圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量の関係について測定した結果を示した図である。同図において、横軸は、圧電体32に電界を印加していないときの反り量Xを表し、縦軸は、圧電体32に電界を印加したときの変位量Yを表している(図1参照)。
【0087】
なお、圧電体32に電界を印加していないときの反り量Xとは、電界を印加していない状態において、振動板22に反りがないと仮定したときの振動板下面22aから、振動板22に反りが生じているときの振動板下面22bまでの最大距離をいう。また、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量Yとは、上述した振動板下面22bから、圧電体32に電界を印加して振動板22が変位したときの振動板下面22cまでの最大距離をいう。
【0088】
図9に示した結果から理解されるように、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量Yは、圧電体32に電界を印加していないときの振動板22の反り量Xと相関関係がある。具体的には、圧電体32に電界を印加していないときの反り量Xが大きくなるほど、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量Yは小さくなる傾向にある。即ち、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量Yは、圧電体32に電界を印加していないときの反り量Xに対して略反比例の関係にある。これは、長時間にわたって圧電体32に電界が印加されると、圧電体32内に空間電荷が蓄積されるためと考えられる。
【0089】
したがって、圧電アクチュエータ16の変位劣化を回復させるためには、圧電体32に電界を印加していないときの反り量Xを小さくすればよいと言える。
【0090】
そこで本実施形態においては、以下に示すメンテナンス動作を実行することにより、圧電体32に電界を印加していないときの振動板22の反り量Xを小さくして、圧電アクチュエータ16の変位劣化を回復させる。
【0091】
このメンテナンス動作では、圧電体32に電界が印加されていない状態(即ち、圧電素子36の非駆動状態)のときに、記録ヘッド10のノズル面10Aをキャップ264で覆った状態にして、供給ポンプ263の駆動制御によって圧力室14の内圧を一定時間高める。このとき、振動板22が圧力室14とは反対側(図1において上方向)に凸状となるようにする。換言すれば、図1に示すように、振動板22の下面が符号22dで示すような状態となるように、圧力室14に供給されるインク量を増やして圧力室14の内圧を高めればよい。例えば、圧力室14の平面形状が一辺300μmの正方形状であり、振動板22の厚みが10μm、圧電体32の厚みが10μmの場合、圧力室14の内圧を2MPa程度にすればよい。
【0092】
このように圧力室14の内圧を一定時間高めて振動板22を機械的に変形させることにより、コストアップを招くことなく、圧電体32に電界を印加していないときの振動板22の反り量Xを小さくすることができ、圧電アクチュエータ16の変位劣化を回復させ、その耐久性を向上させることができる。
【0093】
このようなメンテナンス動作は、インクジェット記録装置200の起動時や停止時、或いは、装置の起動中に定期的に行われる。また、ユーザにより指示された場合にメンテナンス動作が行われるようにしてもよい。
【0094】
圧力室14の内圧を高めることによって振動板22を圧力室14と反対側に凸状となるように機械的に変形させる動作を継続する時間(加圧時間)は、特に限定されるものではなく、記録ヘッド10の構成部材(例えば振動板22など)の材質、形状に応じて適宜最適な時間を設定すればよい。本例では、30分以上の加圧時間が設定される。
【0095】
ここで、圧力室14を加圧したときの圧電素子36の駆動回数と変位比率の関係を図10に示す。また、その比較例として、圧力室14を加圧しないときの圧電素子36の駆動回数と変位比率の関係を図11に示す。これらの図において、横軸は圧電素子36の駆動回数を表し、横軸は初期状態を1としたときの変位比率を表しており、それぞれ同一条件で複数回繰り返して測定したデータを示している。また、振動板22の厚さは7μm、圧電体32の厚さは20μmであるものを用いた。また、図10では、圧力印加条件(実験条件)として、圧力室14の内圧を2MPaにして30分間加圧するようにした。
【0096】
図10に示すように、圧電素子36の非駆動状態のときに、記録ヘッド10のノズル面10Aをキャップ264で覆った状態にして、圧力室14の内圧を一定時間(本例では30分間)高めて、振動板22を圧力室14と反対側に凸状となるように機械的に変形させるメンテナンス動作を行った場合には、圧電素子36を1000億回以上駆動しても、初期状態に対する変位比率は、0.95(95%)以上であり、圧電アクチュエータ16の変位劣化はほとんど発生していない。
【0097】
これに対して、図11に示すように、上記のメンテナンス動作を行わなかった場合には、圧電素子36を600億回以上駆動させた時点において、初期状態に対する変位比率は、約0.80(80%)前後となり、図10に示した場合に比べて圧電アクチュエータ16の変位劣化が大きい。
【0098】
このように、圧電素子36の非駆動状態において、圧力室14の内圧を一定時間高めるメンテナンス動作を実行することにより、振動板22を圧力室14とは反対側に凸状となるように機械的に変形させることで、圧電体32内に空間電荷が蓄積されるのを抑制することができ、圧電体32に電界を印加していないときの振動板22の反り量Xを小さくすることができる。これにより、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量Yを大きくすることができ、圧電アクチュエータ16の変位劣化を回復させることができる。この結果、圧電アクチュエータ16の耐久性を向上させることができる。
【0099】
次に、圧電アクチュエータ16に対するメンテナンス制御について、図12を参照しながら説明する。図12は、圧電アクチュエータ16に対するメンテナンス制御の一例を示したフローチャート図である。このメンテナンス制御は、主として、図8に示したシステムコントローラ272で実行される。
【0100】
まず、装置に電源が投入されると、図7に示した供給ポンプ263の駆動制御により、圧力室14の内圧がP1となるように制御が行われる(ステップS10)。なお、圧力室14の内圧P1は、大気圧P0より小さく(即ち、P1>P0)、ノズル12におけるインクメニスカスが維持されるような値に設定される。
【0101】
次に、印刷処理として、入力された画像データに応じて、記録ヘッド10の各ノズル12からインク液滴が吐出され、記録紙216上に画像が記録される(ステップS12)。
【0102】
次に、印刷処理が終了したか否か判断が行われる(ステップS14)。印刷処理が終了するまで、ステップS14はNo判定となり、ステップS12に戻って、印刷処理が継続して実施される。
【0103】
一方、ステップS14において印刷処理が終了した判断された場合(即ち、Yes判定時)、記録ヘッド10のノズル面10Aがキャップ264で覆われ(ステップS16)、供給ポンプ263の駆動制御により、圧力室14の内圧がP2となるように制御が行われる(ステップS18)。なお、圧力室14の内圧P2は、上記内圧P1よりも高く(即ち、P2>P1)、且つ、振動板22が圧力室14とは反対側に凸状となるような値に設定される。
【0104】
次に、圧力室14の内圧をP2にした状態で所定の時間(加圧時間)が経過したか否か判断される(ステップS20)。加圧時間が経過するまで、ステップS20はNo判定となり、ステップS18に戻って、圧力室14の内圧はP2に維持される。加圧時間は、例えば30分以上であり、あらかじめ実験などで最適な時間を求めておくとよい。
【0105】
一方、ステップS20において加圧時間が経過したと判断された場合(即ち、Yes判定時)、圧力室14の内圧はP1に戻され(ステップS22)、全ての処理が終了する。
【0106】
図12に示した例では、印刷動作が終了した後に圧力室14の内圧を高めることによってメンテナンス動作が実行されているが、このメンテナンス動作が実行されるタイミングは本例に限らず、印刷動作が開始される前でもよいし、印刷動作中に定期的に実行されてもよい。また、ユーザから指示された場合にメンテナンス動作が実行されるようにしてもよい。
【0107】
以上説明したように、本実施形態によれば、記録ヘッド10のノズル面10Aをキャップ264で覆うことによってノズル51の開口部を封止した状態で、振動板22が圧力室14とは反対側に凸状となるように圧力室14の内圧を一定時間高めて振動板22を機械的に変形させることにより、コストアップを招くことなく、圧電体32に電界を印加していないときの振動板22の反り量を小さくすることができる。これにより、圧電体32に電界を印加したときの振動板22の変位量は大きくなり、圧電アクチュエータ16の変位劣化を回復させることができる。その結果、圧電アクチュエータ16の耐久性を向上させることができる。
【0108】
本実施形態では、圧力室14の内圧を高める工程は、圧力室14にインクが充填されている状態で行われているが、これに限らず、インク以外の他の液体や、空気などの気体が圧力室14に充填されている状態で行ってもよい。例えば、記録ヘッド10内からインクを全部回収して圧力室14内に空気を充填した状態にして、圧力室14内の空気に所定の圧力を加えるようにしてもよい。
【0109】
以上、本発明の圧電アクチュエータのメンテナンス方法、液体吐出ヘッドのメンテナンス方法、液体吐出装置、及び画像形成装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本実施形態に係る記録ヘッドの要部構成を示した断面図
【図2】図1に示した記録ヘッドの製造方法の一例を示した工程図
【図3】図1に示した記録ヘッドの製造方法の一例を示した工程図
【図4】図1に示した記録ヘッドの製造方法の一例を示した工程図
【図5】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図
【図6】インクジェット記録装置の印字部周辺を示した要部平面図
【図7】インクジェット記録装置のインク供給系の構成を示した概要図
【図8】インクジェット記録装置の制御系を示す要部ブロック図
【図9】圧電体に電界を印加していないときの振動板の反り量と圧電体に電界を印加したときの振動板の変位量の関係について測定した結果を示した図
【図10】圧力室を加圧したときの圧電素子の駆動回数と変位比率の関係を示した図
【図11】圧力室を加圧しないときの圧電素子の駆動回数と変位比率の関係を示した図
【図12】圧電アクチュエータに対するメンテナンス制御の一例を示したフローチャート図
【符号の説明】
【0111】
10…記録ヘッド、10A…ノズル面、12…ノズル、14…圧力室、16…圧電アクチュエータ、20…共通流路、22…振動板、30…下部電極、32…圧電体、34…上部電極、36…圧電素子、38…外部配線、100…SOI基板、108…絶縁層、110…下部電極、112…圧電体、114…上部電極、200…インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備え、前記振動板が圧力室の一壁面を構成する圧電アクチュエータのメンテナンス方法であって、
前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める加圧工程を含むことを特徴とする圧電アクチュエータのメンテナンス方法。
【請求項2】
振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備えた圧電アクチュエータと、前記振動板によって一壁面が構成され、液体を収容する圧力室と、前記圧力室に連通し、前記液体を吐出するノズルとを備えた液体吐出ヘッドのメンテナンス方法であって、
前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記ノズルの開口部を封止部材で封止し、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める加圧工程を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス方法において、
前記加圧工程は、前記圧力室内に前記液体が充填されている状態で行われることを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項4】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス方法において、
前記圧力室から前記液体を回収して気体を充填する工程を含み、
前記加圧工程は、前記圧力室内に前記気体が充填されている状態で行われることを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項5】
振動板上に下部電極、圧電体、及び上部電極からなる圧電素子を備えた圧電アクチュエータと、
前記振動板によって一壁面が構成され、液体を収容する圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記液体を吐出するノズルと、
前記ノズルの開口部を封止する封止部材と、
前記圧電素子の非駆動状態のときに、前記ノズルの開口部を封止部材で封止し、前記振動板が前記圧力室とは反対側に凸状となるように前記圧力室の内圧を高める制御手段と、 を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−76370(P2010−76370A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250194(P2008−250194)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】