説明

圧電アクチュエータ及びヘッド・サスペンション

【課題】アクチュエータ・ベースと受け部材との重ね合わせ部分間への液状接着剤の侵入を抑制する。
【解決手段】ロード・ビーム3を支持すると共に圧電素子35,35を収容する開口部43,43を備えたアクチュエータ・ベース33と、アクチュエータ・ベース33に重ね合わされ開口部43,43に臨む圧電素子35,35の受け部45,45を形成する受け部材47と、圧電素子35,35と開口部43,43内周及び受け部45,45との間に充填された液状接着剤からなり硬化によって圧電素子35,35と開口部43,43内周及び受け部45,45との間を接着する接着部57,57と、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ部分に設けられ液状接着剤の毛管現象による侵入を規制する規制部65,65とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の電圧印加状態に応じた変形により被支持部材を変位させる圧電アクチュエータ及びこれを備えたヘッド・サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の小型化、精密化が急速に進展し、微小距離で位置決め制御が可能なマイクロ・アクチュエータの需要が高まっている。例えば、光学系の焦点補正や傾角制御、インクジェット・プリンタ装置、磁気ディスク装置のヘッド・アクチュエータ等の技術分野での要請がある。
【0003】
磁気ディスク装置では、単位長さあたりのトラック数 (TPI : Track Per inch)を増大して記憶容量を大きくしているため、トラックの幅が益々狭くなっている。
【0004】
このため、トラック幅方向の磁気ヘッド位置決め精度の向上が必要となり、微細領域で高精度の位置決めが可能なアクチュエータが望まれていた。
【0005】
こうした要請に応える技術としては、例えば特許文献1のように、いわゆるデュアル・アクチュエータ方式のヘッド・サスペンションがある。このヘッド・サスペンションは、キャリッジを駆動するボイス・コイル・モータの他に、ベース・プレートとロード・ビームとの間に圧電素子が設けられている。
【0006】
従って、デュアル・アクチュエータ方式のヘッド・サスペンションでは、ボイス・コイル・モータによる旋回駆動に加え、圧電素子の電圧印加状態に応じた変形によりロード・ビームを介して先端のヘッド部をベース・プレート側に対しスウェイ方向へ微少移動させることができる。この微小移動により、磁気ヘッドの位置決めを高精度に行うことができる。
【0007】
こうしたデュアル・アクチュエータ方式を用いたヘッド・サスペンションでは、圧電素子の取り付けにアクチュエータ・ベースが用いられている。
【0008】
アクチュエータ・ベースは、圧電素子を収容する開口部及び開口部に臨む圧電素子の受け部を備えるのが一般的である。アクチュエータ・ベースに対する圧電素子の取り付けでは、開口部内に圧電素子を収容し、圧電素子と開口部内周及び受け部との間を液状接着剤の充填・硬化によって結合する。
【0009】
この圧電素子の取り付けにおいては、アクチュエータ・ベースの開口部内で圧電素子を板厚方向中心線付近に位置させることが行われる。このため、開口部に臨む受け部は、アクチュエータ・ベースに別体の受け部材を重ね合わせることで形成され、開口部外に配置される構造となることが多い。
【0010】
しかしながら、この構造では、アクチュエータ・ベースと受け部材との重ね合わせ部分に微細な隙間が生じやすい。開口部周辺においては、この重ね合わせ部分に硬化前の液状接着剤が毛管現象によって侵入するおそれがあった。
【0011】
この場合、例えば粒状の硬化剤を液状の主剤に含有した液状接着剤では、主剤のみが重ね合わせ部分に侵入して硬化しないことがあり、硬化してもヘッド・サスペンションの共振特性やウィンテージ特性等の動特性に影響を及ぼす結果となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-184140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする問題点は、アクチュエータ・ベースと受け部材との重ね合わせ部分に液状接着剤が侵入する点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アクチュエータ・ベースと受け部材との重ね合わせ部分への液状接着剤の侵入を抑制するために、圧電素子の電圧印加状態に応じた変形により被支持部材を変位させる圧電アクチュエータであって、前記被支持部材を支持すると共に前記圧電素子を収容する開口部を備えたアクチュエータ・ベースと、該アクチュエータ・ベースに重ね合わされ前記開口部に臨む前記圧電素子の受け部を形成する受け部材と、前記圧電素子と前記開口部内周及び前記受け部との間に充填された液状接着剤からなり硬化によって前記圧電素子と前記開口部内周及び前記受け部との間を接着する接着部と、前記アクチュエータ・ベース及び前記受け部材の重ね合わせ部分に設けられ前記液状接着剤の毛管現象による侵入を規制する規制部とを備えたことを最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、アクチュエータ・ベース及び受け部材の重ね合わせ部分に対する液状接着剤の毛管現象による侵入を規制部により規制することができる。結果として、重ね合わせ部分への液状接着剤の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】圧電アクチュエータを備えたヘッド・サスペンションを示す斜視図である(実施例1)。
【図2】図1のヘッド・サスペンションの分解斜視図である(実施例1)。
【図3】図2のヘッド・サスペンションのベース・プレート及びロード・ビームを示す分解斜視図である(実施例1)。
【図4】図1の圧電アクチュエータの要部拡大平面図である(実施例1)。
【図5】図4の圧電アクチュエータに設けられる規制部の形成位置を示す要部拡大平面図である(実施例1)。
【図6】図4のVI−VI線矢視に係る断面図である(実施例1)。
【図7】図6の規制部を示す拡大概略断面図である(実施例1)。
【図8】規制部を示す拡大概略断面図である(実施例2)。
【図9】圧電アクチュエータの要部拡大断面図であり、(a)は規制部の凹部を受け部材側にのみ設けたもの、(b)は規制部の凹部をアクチュエータ・ベース側にのみ設けたものを示している(実施例3)。
【図10】圧電アクチュエータの要部拡大断面図である(実施例4)。
【図11】図10の圧電アクチュエータの規制部を示す要部拡大平面写真である(実施例4)。
【図12】図10の圧電アクチュエータのアクチュエータ・ベース及び受け部材に対する規制部の形成位置を示す要部拡大平面図である(実施例4)。
【図13】圧電アクチュエータの要部拡大断面図である(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
アクチュエータ・ベースと受け部材との重ね合わせ部分に対する液状接着剤の侵入を抑制するという目的を、重ね合わせ部分に設けられて液状接着剤の毛管現象による侵入を規制する規制部によって実現した。
【実施例1】
【0018】
[ヘッド・サスペンションの全体構成]
図1は、本発明実施例1の圧電アクチュエータを備えたヘッド・サスペンションの斜視図、図2は、図1のヘッド・サスペンションの分解斜視図である。
【0019】
図1及び図2のように、ヘッド・サスペンション1は、被支持部材としてのロード・ビーム3と、基部としてのベース・プレート5と、圧電アクチュエータ6と、フレキシャ7とを備えている。
【0020】
ロード・ビーム3は、ヘッド部8に負荷荷重を与えるもので、剛体部9とばね部11とを備えている。剛体部9は、例えばばね性を有するステンレス鋼等の金属製薄板からなり、その板厚は、30〜150μm程度に設定されている。
【0021】
剛体部9の幅方向両側には、延設方向の先端側から基端側にわたって曲げ縁13a,13bが立ち上げ形成されている。この曲げ縁縁13a,13bにより、剛体部9の剛性が向上している。剛体部9の基端側には、その表面に制振部材15が貼り付けられている。この剛体部9の基端側には、ばね部11が一体に設けられている。
【0022】
ばね部11は、幅方向中央部に窓部17を貫通形成することで設けられ、窓部17両側の一対の脚部19a,19bからなっている。なお、ばね部は、剛体部とは別体で形成すると共にレーザー溶接等によって剛体部に固着してもよい。
【0023】
ベース・プレート5は、ロード・ビーム3を介してヘッド部8を支持するものである。このベース・プレート5は、例えばステンレス鋼等の金属製薄板からなり、その板厚は、150〜200μm程度に設定されている。
【0024】
ベース・プレート5には、略円形状のボス部21が設けられている。このボス部21を介して、ベース・プレート5は、図示しないキャリッジ側に取り付けられボイス・コイル・モータによって旋回駆動されるようになっている。なお、ベース・プレート5には、例えば補強プレートを重ね合わせて固着してもよい。
【0025】
ベース・プレート5の先端側には、肉抜き部23が貫通形成されている。このベース・プレート5の先端側には、圧電アクチュエータ6を介してロード・ビーム3が支持されている。圧電アクチュエータ6の詳細については後述する。
【0026】
フレキシャ7は、ばね性を有する薄いステンレス鋼圧延板(SST)等の導電性薄板25に、電気絶縁層を介して配線パターン27が形成されている。導電性薄板25の板厚は、10〜25μm程度に設定されている。
【0027】
このフレキシャ7は、レーザー溶接等によってロード・ビーム3に固着されている。フレキシャ7の先端側にはタング部29が片持ち状に設けられ、タング部29にはヘッド部8のスライダ31が支持されている。ヘッド部8のスライダ31には、フレキシャ7の配線パターン27の一端が導通接続されている。
[圧電アクチュエータ]
図3は、図2のヘッド・サスペンションのベース・プレート及びロード・ビームを示す分解斜視図、図4は、図1の圧電アクチュエータの要部拡大平面図、図5は、図4の圧電アクチュエータに設けられる規制部の形成位置を示す要部拡大平面図、図6は、図4のVI−VI線矢視に係る断面図、図7は、図6の規制部を示す拡大概略断面図である。
【0028】
圧電アクチュエータ6は、図1のように、アクチュエータ・ベース33と、一対の圧電素子35,35とを備えている。この圧電アクチュエータ6は、ベース・プレート5とロード・ビーム3との間に設けられ、圧電素子35,35の電圧印加状態に応じた変形により被支持部としてのロード・ビーム3を変位させる。この結果、圧電アクチュエータ6は、ヘッド部8をベース・プレート5に対してスウェイ方向に微少移動させるようになっている。
【0029】
アクチュエータ・ベース33は、図3及び図4のように、ベース・プレート5の先端側に一体に設けられている。なお、アクチュエータ・ベースは、ベース・プレートに対して別体に形成すると共にレーザー溶接等によって固着してもよい。
【0030】
このアクチュエータ・ベース33は、ベース・プレート5に一体のベース基端部37から先端側に向けてベース延設部39が延設されている。ベース延設部39は幅方向の中間部に配置されて、その先端にはベース先端部41が一体に設けられている。ベース先端部41は、幅方向に沿って延設されてベース基端部37に対向している。
【0031】
このアクチュエータ・ベース33には、ベース延設部39に対する幅方向両側に一対の開口部43,43が形成されている。各開口部43は、平面視で略矩形形状に形成されている。この開口部43は、アクチュエータ・ベース33の板厚方向に貫通すると共に幅方向縁部で開口している。開口部43には、受け部45が設けられている。
【0032】
受け部45は、アクチュエータ・ベース33とは別体の受け部材47からなっている。具体的には、受け部材47は、ロード・ビーム3の基端側であるばね部11の基端側に一体に設けられている。なお、受け部材は、ばね部に対して別体に形成すると共にレーザー溶接等によって固着してもよい。
【0033】
受け部材47は、アクチュエータ・ベース33に重ね合わせられると共に所定箇所でレーザー溶接等によって結合されている。この結合により、ロード・ビーム3が圧電アクチュエータ6を介してベース・プレート5側に支持されることになる。
【0034】
受け部材47の形状は、アクチュエータ・ベース33に対応して設定されている。すなわち、受け部材47は、アクチュエータ・ベース33のベース基端部37、ベース延設部39、ベース先端部41、一対の開口部43,43に対応して部材基端部49、部材延設部51、部材先端部53、一対の連通孔55,55が設けられている。
【0035】
各連通孔55は、アクチュエータ・ベース33の開口部43よりも延設方向の寸法が小さく設定されている。これにより、受け部材47は、連通孔55に対する延設方向両側で、部材基端部49及び部材先端部53の一部が各開口部43に臨んで受け部45を形成している。
【0036】
従って、受け部材47は、アクチュエータ・ベース33に重ね合わされ開口部43に臨む圧電素子35の受け部45を形成する構成となっている。
【0037】
なお、部材延設部51は、アクチュエータ・ベース33のベース延設部39よりも幅狭に形成されているため、ベース延設部39に完全に重なる形状となっている。
【0038】
アクチュエータ・ベース33の開口部43,43には、図1及び図4のように、それぞれ接着部57,57を介して圧電素子35,35が収容状態で取り付けられている。
【0039】
各圧電素子35は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミックスからなり、電圧の印加状態に応じて変形する。この圧電素子35は、アクチュエータ・ベース33の開口部43よりも僅かに小さい略矩形形状に形成されている。
【0040】
圧電素子35の一側面59は、図6のように、アクチュエータ・ベース33の一側面61と略面一となっている。この圧電素子35の一側面59は、アクチュエータ・ベース33の一側面61に、例えば導電性樹脂を介して導電接続される。
【0041】
圧電素子35の他側面63は、その外周側が開口部43の受け部45に板厚方向で対向している。他側面63の内周側は、受け部45の連通孔55からアクチュエータ・ベース33の下面側外部に露出している。この露出部分には、例えばボンディグ・ワイヤ等を介してフレキシャ7の配線パターン27に接続されている。これにより、圧電素子35に電圧印加が可能となっている。
【0042】
接着部57,57は、図1、図4、及び図6のように、圧電素子35,35と開口部43,43内周を構成するベース先端部41及びベース基端部37との対向間から圧電素子35,35と受け部45,45との対向間にかけて充填された非導電性の液状接着剤からなる。各接着部57は、液状接着剤の硬化によって、圧電素子35と開口部43内周及び受け部45との間を接着すると共に絶縁している。
【0043】
液状接着剤としては、公知の非導電性接着剤を用いることができ、本実施例では液状の主剤に粒状の硬化剤を含有させたものとなっている。この液状接着剤は、例えば加熱によって硬化剤と主剤とが反応して硬化する。
【0044】
このような本実施例の圧電アクチュエータ6には、図5〜図7のように、アクチュエータ・ベース33と受け部材47との重ね合わせ部分に規制部65,65が設けられている。
【0045】
各規制部65は、少なくとも接着部57に接触する重ね合わせ部分の縁部に設けられる。本実施例では、重ね合わせ部分の縁部に跨り開口部43の受け部45に沿って設けられている。各規制部65は、凹部67,69からなっている。
【0046】
凹部67,69は、それぞれアクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ面71,73に対して、例えばパーシャル・エッチング等の部分的な除去により形成されている。従って、凹部67,69は、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ面71,73に対して板厚方向で凹状に形成されている。
【0047】
この凹部67,69は、その断面形状が圧電素子35に対して面内放射方向に伸びている。アクチュエータ・ベース33側の凹部67は、一側がアクチュエータ・ベース33の縁部に位置して開口部43に連通し、他側が放射方向の反開口部43側に位置している。
【0048】
凹部67の反開口部43側は、アクチュエータ・ベース33の重ね合わせ面71から漸次板厚方向の寸法である深さを大きくする弧状面67aとなっている。弧状面67aは、凹部67の平面からなる底面67bに連続している。
【0049】
受け部材47側の凹部69は、その一側が開口部43の受け部45上に位置し、圧電素子35の他側面63と板厚方向で対向する。凹部69の他側は、凹部67の他側に対応して位置している。
【0050】
この凹部69の両側は、凹部67の他側と同様の弧状面69a,69cとなっている。すなわち、一方の弧状面69aは、受け部材47の重ね合わせ面73から漸次深さを大きくし、他方の弧状面69cは、受け部45の表面から漸次深さを大きくするように設定されている。弧状面69a,69cは、それぞれ凹部69の平面からなる底面69bに連続している。
【0051】
凹部67,69の深さは、アクチュエータ・ベース33と受け部材47との重ね合わせ部分の隙間を、液状接着剤の毛管現象が生じない程度に大きくする範囲で設定されている。なお、凹部67,69の深さ設定は、液状接着剤の粘度や硬化時間等を考慮して行われる。また、凹部67,69の深さは、何れか一方又は双方の合計により、液状接着剤の毛管現象が生じない程度に隙間を拡大する。
【0052】
本実施例では、各凹部67,69の深さが、液状接着剤の硬化剤の粒径よりも大きく設定されている。これにより、凹部67,69間では、液状接着剤の毛管現象をなくすと共に凹部67,69間に主剤及び硬化剤の双方が侵入可能となっている。
【0053】
従って、規制部65,65は、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ部分に設けられ硬化前の液状接着剤の毛管現象による侵入を規制する構成となっている。
[圧電アクチュエータの組み付け]
圧電アクチュエータ6を組み付ける際には、予め凹部67,69を形成したアクチュエータ・ベース33と受け部材47とを重ね合わせて所定箇所で相互に固着しておく。
【0054】
この状態で、図2及び図6のように、各開口部43内においてベース先端部41及びベース基端部37及び受け部45,45に対して液状接着剤を塗布すると共に圧電素子35を所定の取付位置に収容配置させる。なお、液状接着剤には、圧電素子35を位置決めるための非導電性の小径フィラー等を混入しておくのが好ましい。
【0055】
このとき、アクチュエータ・ベース33と受け部材47との重ね合わせ部分は、液状接着剤と接触する部分において規制部65の凹部67,69により隙間が拡大されているため、液状接着剤の毛管現象による侵入を規制することができる。
【0056】
なお、規制部65の凹部67,69内には、余剰となった液状接着剤が放射方向で部分的に侵入する。このとき、凹部67,69は、その深さが液状接着剤の硬化剤の粒径よりも大きく設定されているため、液状接着剤の硬化剤を主剤と共に侵入させることができる。
【0057】
次いで、圧電アクチュエータ6を備えたヘッド・サスペンション1全体に対して加熱処理を行う。加熱処理は、例えば電気炉等を用いて所定時間・所定の温度下で行われる。これにより、液状接着剤の主剤と硬化剤とを反応させて接着部57を形成することができる。
【0058】
従って、接着部57を介して開口部43内周及び受け部45に対して圧電素子35が接着固定され、圧電アクチュエータ6の組付けが完了する。
【0059】
この加熱処理時には、規制部65の凹部67,69内に侵入した液状接着剤も硬化させることができ、接着部57に突出部75が形成される。突出部75は、規制部65の平面形状に応じて、圧電素子35に対する延設方向の両側で均等に形成することができる。
【0060】
このため、突出部75によるヘッド・サスペンション1の共振特性やウィンテージ特性等の動特性に影響を及ぼすことを抑制できる。
[実施例1の効果]
本実施例の圧電アクチュエータ6は、ロード・ビーム3を支持すると共に圧電素子35,35を収容する開口部43,43を備えたアクチュエータ・ベース33と、アクチュエータ・ベース33に重ね合わされ開口部43,43に臨む圧電素子35,35の受け部45,45を形成する受け部材47と、圧電素子35,35と開口部43,43内周及び受け部45,45との間に充填された液状接着剤からなり硬化によって圧電素子35,35と開口部43,43内周及び受け部45,45との間を接着する接着部57,57と、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ部分に設けられ液状接着剤の毛管現象による侵入を規制する規制部65,65とを備えた。
【0061】
従って、圧電アクチュエータ6では、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ部分に対する液状接着剤の毛管現象による侵入を規制部65により規制することができる。結果として、重ね合わせ部分への液状接着剤の侵入を抑制することができる。
【0062】
このため、本実施例では、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ部分に侵入した液状接着剤によるヘッド・サスペンション1の共振特性やウィンテージ特性等の動特性に対する影響を抑制できる。
【0063】
各規制部65は、少なくとも接着部57に接触する重ね合わせ部分の縁部に設けられるため、より確実に液状接着剤の毛管現象による侵入を規制することができる。
【0064】
規制部65は、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47に設けられた凹部67及び69であるため、アクチュエータ・ベース33及び受け部材47の重ね合わせ部分の隙間を拡大して容易且つ確実に液状接着剤の毛管現象による侵入を規制することができる。
【0065】
また、規制部65は、開口部43の延設方向両側に位置する受け部45に沿って形成され、凹部67,69の深さは、液状接着剤の硬化剤の粒径よりも大きく設定されている。このため、本実施例では、凹部67,69内に侵入した液状接着剤も硬化させることができると共に硬化した接着剤を延設方向の両側で均等に位置させることができる。
【0066】
このため、本実施例では、より確実に重ね合わせ部分に侵入した接着剤によるヘッド・サスペンション1の共振特性やウィンテージ特性等の動特性に影響を抑制できる。
【0067】
本実施例の圧電アクチュエータ6を備えたヘッド・サスペンション1では、重ね合わせ部分に侵入した液状接着剤によるヘッド・サスペンション1の共振特性やウィンテージ特性等の動特性に対する影響を抑制できるので、ヘッド部8の位置決め精度を向上することができる。
【実施例2】
【0068】
図8は、実施例2に係る規制部を示す拡大概略断面図である。なお、本実施例は、上記実施例1と基本構成が共通するため、対応する構成部分に同符号或いは同符号にAを付して詳細な説明を省略する。
【0069】
本実施例では、図8のように、実施例1に対して各規制部65Aの凹部67A,69Aの断面形状を変更したものである。すなわち、凹部67A,69Aは、凹凸面からなる底面67Ab,69Abを備えている。底面67Ab,69Abは、複数の凹弧状面77が連接されてなっている。凹弧状面77の各間には、凸状の尖端部79が形成されている。
【0070】
このような本実施例では、上記実施例1と同様の作用効果を奏することができるのに加え、各凹弧状面77及び尖端部79による底面67Ab,69Abの凹凸形状により、規制部65Aに対する液状接着剤の侵入を抑制することができる。
【0071】
なお、本実施例の凹凸形状の底面67Ab,69Abは、何れか一方の凹部にのみ設けてもよい。この場合、他方の凹部には、実施例1のように平面からなる底面67b,69bを設ければよい。
【実施例3】
【0072】
図9は、圧電アクチュエータの要部拡大断面図であり、(a)は規制部の凹部を受け部材側にのみ設けたもの、(b)は規制部の凹部をアクチュエータ・ベース側にのみ設けたものを示している。なお、本実施例は、上記実施例1と基本構成が共通するため、対応する構成部分に同符号或いは同符号にBを付して詳細な説明を省略する。
【0073】
本実施例では、図9(a)及び(b)のように、実施例1に対して各規制部65Bの凹部67B,69Bの何れか一方のみを設けたものである。凹部67B,69Bの形状は、実施例1の凹部67,69と同一となっている。ただし、凹部67B,69Bの底面67Bb,69Bbは、実施例1及び実施例2の何れの形状を採用してもよい。
【0074】
かかる実施例においても、上記実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例4】
【0075】
図10は、実施例4に係る圧電アクチュエータの要部拡大断面図、図11は、図10の圧電アクチュエータの規制部を示す要部拡大平面写真、図12は、図10の圧電アクチュエータのアクチュエータ・ベース及び受け部材に対する規制部の形成位置を示す要部拡大平面図である。なお、本実施例は、上記実施例1と基本構成が共通するため、対応する構成部分に同符号或いは同符号にCを付して詳細な説明を省略する。
【0076】
本実施例では、図10及び図11のように、各規制部65Cの凹部67C,69Cがレーザー加工によって形成されたものである。
【0077】
すなわち、凹部67C,69Cは、レーザー加工による複数の微小凹部80の集合によって形成されている。これにより、凹部67C,69Cでは、その表面の粗さがアクチュエータ・ベース33C及び受け部材47Cの重ね合わせ面71,73の粗さに対して粗く設定されている。
【0078】
なお、規制部65Cは、凹部67C,69Cの少なくとも何れか一方を備えていればよく、上記実施例3のように凹部67C,69Cの何れか一方のみを設ける構成とすることも可能である。
【0079】
各規制部65Cの形成位置は、図12のように、開口部43に沿ったアクチュエータ・ベース33C及び受け部材47Cの重ね合わせ部分の縁部から放射方向外側に向けて設定されている。従って、規制部65Cは、少なくとも接着部57に接触する重ね合わせ部分の縁部に設けられると共に、接着部57が形成される受け部45C上に位置しないようになっている。
【0080】
このような本実施例の圧電アクチュエータ6Cは、規制部65Cの凹部67C,69Cによりアクチュエータ・ベース33C及び受け部材47Cの重ね合わせ部分の濡れ性を低減することができる。
【0081】
結果として、アクチュエータ・ベース33C及び受け部材47Cの重ね合わせ部分への液状接着剤の毛管現象による侵入を防止することができ、上記実施例1と同様の効果を奏することができる。
【実施例5】
【0082】
図13は、実施例5に係る圧電アクチュエータの要部拡大断面図である。なお、本実施例は、上記実施例4と基本構成が共通するため、対応する構成部分に同符号を付し或いはCをDに代えて詳細な説明を省略する。
【0083】
本実施例では、図13のように、各規制部65Dをアクチュエータ・ベース33D及び受け部材47Dの重ね合わせ面71D,71D上に設けられた撥水処理部81,83によって構成したものである。
【0084】
撥水処理部81,83は、それぞれアクチュエータ・ベース33D及び受け部材47Dの重ね合わせ面71,73上にフッ素加工等の撥水処理を行うことで形成されている。なお、各規制部65Dの形成位置は、上記実施例4と同一となっている。また、規制部65Dは、撥水処理部81,83の少なくとも何れか一方を備えていればよく、実施例3と同様に撥水処理部81,83の何れか一方のみを設ける構成とすることも可能である。
【0085】
従って、本実施例においても、規制部65Dの撥水処理部81,83によりアクチュエータ・ベース33D及び受け部材47Dの重ね合わせ部分の濡れ性を低減することができ、上記実施例4と同様の作用効果を奏することができる。
[その他]
上記実施例の圧電アクチュエータでは一対の圧電素子35,35を備えていたが、例えば単一の圧電素子を備える構成とすることも可能である。
【0086】
また、上記実施例では、規制部がアクチュエータ・ベース及び受け部材の重ね合わせ部分の接着部に接触する縁部(際)周辺に設けられていたが、重ね合わせ部分の全域に設けることも可能である。
【0087】
また、規制部は、少なくとも重ね合わせ部分の開口部側の縁部に設けられていたが、縁部に対して開口部側から離反する方向へ位置ずれして設けてもよい。ただし、この位置ずれは、重ね合わせ部分に侵入する液状接着剤がヘッド・サスペンションの動特性に影響を与えない範囲で行う必要がある。
【符号の説明】
【0088】
1 ヘッド・サスペンション
3 ロード・ビーム(被支持部材)
5 ベース・プレート
6 圧電アクチュエータ
8 ヘッド部
33 アクチュエータ・ベース
35 圧電素子
43 開口部
45 受け部
47 受け部材
57 接着部
65,65A,65B,65C,65D 規制部
67,67A,67B,67C 凹部
69,69A,69B,69C 凹部
67B,67Ab,67Bb 底面
69B,69Ab,69Bb 底面
81,83 撥水処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子の電圧印加状態に応じた変形により被支持部材を変位させる圧電アクチュエータであって、
前記被支持部材を支持すると共に前記圧電素子を収容する開口部を備えたアクチュエータ・ベースと、
該アクチュエータ・ベースに重ね合わされ前記開口部に臨む前記圧電素子の受け部を形成する受け部材と、
前記圧電素子と前記開口部内周及び前記受け部との間に充填された液状接着剤からなり硬化によって前記圧電素子と前記開口部内周及び前記受け部との間を接着する接着部と、
前記アクチュエータ・ベース及び前記受け部材の重ね合わせ部分に設けられ前記液状接着剤の毛管現象による侵入を規制する規制部とを備えた、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載の圧電アクチュエータであって、
前記規制部は、前記アクチュエータ・ベース及び前記受け部材の少なくとも一方に設けられた凹部である、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2記載の圧電アクチュエータであって、
前記凹部の底面は、平面又は凹凸面からなる、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2又は3記載の圧電アクチュエータであって、
前記液状接着剤は、液状の主剤及び該主剤に混入された粒状の硬化剤を備え、
前記受け部は、前記開口部に対する前記ロード・ビームの延設方向両側に位置し、
前記規制部は、前記受け部に沿って形成されると共に前記凹部の深さが前記液状接着剤の硬化剤の粒径よりも大きく設定された、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の圧電アクチュエータであって、
前記凹部は、レーザー加工又はエッチングにより形成された、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1記載の圧電アクチュエータであって、
前記規制部は、前記アクチュエータ・ベース及び前記受け部材の少なくとも一方を撥水処理した撥水処理部である、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の圧電アクチュエータであって、
前記規制部は、少なくとも前記接着分に接触する前記重ね合わせ部分の縁部に設けられた、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の圧電アクチュエータを備えたヘッド・サスペンションであって、
基部にロード・ビームを介して読み書き用のヘッド部を支持し、
前記圧電アクチュエータは、前記基部と前記ロード・ビームとの間に設けられ、前記圧電素子の変形により前記ロード・ビームを介して前記ヘッド部を前記基部に対しスウェイ方向に微少移動させる、
ことを特徴とするヘッド・サスペンション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−84193(P2012−84193A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227352(P2010−227352)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】